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正体は

 さて四つの村に無事に全て配り終わって後は戻るだけである。

 食料を渡した事で感謝されて村人たちに纏わりつかれたりするのは厄介だったので、やる事やったらさっさと村から退散していたのが良かったのだろう。

 俺の想定していた時間よりも早く事は終わった。後の事は知らん。またやるかやらないかは俺の気まぐれ、気分次第と言った所だろう。


「・・・で、ドラゴン?何で中で寛いでんの?しかもソレをしげしげと眺めながらって、どう言う事よ?」


「うむ?お前が私を呼んだのではないか。そしてコレだろう?聞きたい事と言うのは。良くもまあこれがお前の手元に都合良くあるものだと感心していた所だ。」


「嫌味か?」


 家に戻ってみればドラゴンがいつの間にか中に居た。しかも「例のブツ」をどうやらドラゴンは良く知ってる様である。

 しかし俺はドラゴンが何でこのタイミングで来たのかを問う。


「話が早くて助かるんだけどな?何でこんな来るまでに時間掛かってんだよ?」


「ふむ?そんなモノは私の自由だろう?エンドウの要求に私が一々即座に対応せねばならんのか?そうでは無かろう?」


「分かったよ。じゃあドラゴン、今腹減ってるか?食事は用意したからソレの対価としてその「卵」の事をキッチリカッチリ教えてくれ。」


「まあ良だろう。さて、何から言えば良いかな?うむうむ、結論から言ってしまえば、コレは・・・お前の言う卵であって、卵で無い。」


「・・・何言ってんだか分かんねーよいきなり。分かり易く、かつ端的に言ってくれ。世界の事を知らない俺でも分かる様にさ。」


「はははは!先ずは食べるのが先だな。早く出せ。・・・おお?美味そうだ。」


 ドラゴンが先に対価を得る事を求めて来たので俺は素直にテーブルにドラゴン用にインベントリに入れてあった食事を取り出していく。

 ソレをまるで「椀子蕎麦」でも食べるみたいに次々に平らげていくドラゴン。


「ふはぁ~よく食べたな。それでは教えてやろう。コレは龍だ。」


「・・・分からねー!」


 いきなり答えを言われてもソレが想像できない俺では全く以て意味不明だ。龍?ドラゴンは今そう言ったのだったか?


「何を言うておる。コレは私と同等存在だぞ?世界が偶に生み出すのだ。良くコレがお前の手元に来たものだ。偶然を怖ろしく思ったわ。」


「おいおい、何だよ世界が生み出すって、聞けば聞く程オカシイダロ・・・」


 話が先に進まない。俺には何が何だかサッパリ解らない事に因って。と言うか、あまり理解したくないと心が言っている。

 しかもコレをドラゴンは自らと同等な存在と言った。要するにコレは将来ドラゴンみたいなのに成長するって事だろうか?


「さて、エンドウの面白おかしな挙動を観察するのもここら辺にしておいてやろう。さあ、ちゃんと説明してやるから座れ座れ。」


 いつの間にか俺はドラゴンにツッコミを入れるのに立ち上がっていた様だ。

 そこにドラゴンが落ち着けと言って来るのだが、まあ、普通はこんな事になって落ち着けるはずも無い。

 しかし取り敢えず今はドラゴンの説明を最後まで聞いてからぎゃあぎゃあと喚いても遅く無いだろう。

 そう思って俺は無理矢理ドラゴンの説明を聞く体勢を取る。


 そしてドラゴンの説明をざっくりと纏めると。


 どうやら魔力溜まりに偶々動物、或いは魔物、魔獣の卵などがあったりすると、ソレに奇跡とも言える確率で魔力が収束するらしい。

 ソレをドラゴンは「世界が生み出す」と表現したそうだ。


 そしてその元となった卵の中身は膨大な魔力を取り込んで変質し「竜」或いは「龍」になると言う。


 ソレでドラゴンがじっくりとこの卵を観察した所、コレは「龍」であると言う事らしい。


「で、どう違うんだ?」


「うん?生まれてからのお楽しみであろうソレは。」


 生まれて来る存在が目の前のドラゴンと何が違うのかと言った疑問だ。俺の知識だと東洋で言う所のが「龍」で、西洋ので言う所の「竜」と言う認識なのだが。

 この目の前のドラゴンは「竜」と俺は思っている。しかしどうにもこの卵から生まれて来る存在の姿はそれとは違う姿で生まれて来るらしく。


「お前の見た目みたいな感じ、じゃあないのか?」


「ふふふ、それだけは教えておいてやる。近い姿にはなる可能性もあるが、しかし全く同じ、にはならんな。」


 どうやら生まれて来る存在はドラゴンの例の「真の姿」とやらとは同じにはならないらしい。

 ドラゴンが自らと同等存在だとまで言ったのだからその特殊性は折紙付きと言って良いだろう。

 しかしその生まれて来る姿がこんな情報では思い浮かべられるはずも無い。取り敢えずコレが「卵」だと確定したと言う結果が得られたと言う事で良しとする。


「いや、良くねーよ。もうちょっと詳しく聞かせてくれよ。生まれて来ていきなり暴れたりしないか?世界ってモノにとって危ないとか無いか?」


「何を言うかと思えば。それは育て方によるとしか言えんぞ?さてはて、お前の魔力を吸って生まれて来る「龍」がどの様なモノになるか楽しみだのう。はっはっはっはっ!」


「おい、今もの凄く重要で重大な事を言ってるよな?え?何だって?俺の?魔力?だぁ?」


 ドラゴンはこうして大事な事を後になってブッ込んで来るので始末が悪い。

 この卵はどうやら俺の魔力を吸い上げて成長するのだと言う。


「・・・俺はこの卵から本当なら離れなかった方が良かったのか?」


「うん?以前にも言っただろうが。エンドウの魔力は世界に漏れ出て広がっていると。この家の中はそもそもお前の魔力でパンパンになっているぞ?一週間くらいは家を空けても問題は無かろう。」


「俺、インベントリにずっと卵入れっぱなしで長らく忘れてたんだけど。それは大丈夫なのか?」


「ふむ、五百年くらい魔力を吸わずともコレは死ぬ様な存在では無いぞ?安心しろ。寧ろ生まれてから安定期迄が大変だ?まあエンドウなら楽勝だろうがな。」


「何訳の分らん事を言ってるんだよ。余計に不安になるわ!つっても、結構放っておいても大丈夫なんだな、コレ。と言うか、これさっきから形も色もしょっちゅう変わってるけど、何なん?」


「形が確定しておらんのだ。まだまだ多くの魔力を吸い上げ続けてその内に落ち着くだろうさ。」


 どうやらこの卵の変化は別に心配する事では無かったらしい。しかしここでふと気になった事をドラゴンに聞いてみる。


「で、このままだと後どれ位で生まれて来そうなんだ?」


「うむ、明日だな。」


「は?」


「この調子でそのまま行けば明日の昼前、そうだな朝方には生まれるぞ?」


「・・・おい、何でソレを早く言わないんだよ!?」


 こうもハッキリ言われて俺の方の覚悟がまだ出来上がっていない事に気づかされる。


「で!何か用意しておかなきゃいけないモノとかは?餌か?もっと他に何かあるか?」


「エンドウの慌てっぷりは珍しいな。ははははは!何も用意せずとも良い。ちゃんと言っておいてあるだろう?コレは私と同等存在だと。魔力さえあれば勝手に育つ。ははははは!」


 ドラゴンは確か別に食事を摂らないでも存在し続けられるのだったか。それを俺は思い出した。


「・・・何か他に気を付ける事は?」


「うむ、エンドウの魔力をほぼほぼ吸って生まれて来るのだろうからな。お前を親と認識するだろう。そしてお前の魔力を食って育つ事になる。」


「・・・おい?なんだそりゃ?ソレは俺が危険じゃないのか?俺の魔力を食って育つ?どんな冗談だよ?」


「やはりお前はまだ自分自身の事を何も把握できとらんな?」


 ドラゴンのこの言葉で俺は黙ってしまった。確かに俺はまだまだ自分の事が分からない。特に魔力とからへんは特に。

 でも、人と言うのは自分の事が解っている様でいて、本当はまるで分かっていない生き物である。

 この世界の法則も理も分らぬ俺が、この世界の力「魔力・魔法」を理解しろと言われてもソレを直ぐに呑み込める訳が無い。

 俺はこれらを全く理解できずに「使えるから使う」「便利だから使っちゃう」と言った緩い基準で利用しているのだ。

 この魔力、魔法を自分の持つ「力」だとは何となく受け入れていたとしても、それの原理まで理解できているかと、その根底を理解できているかと言われても無理な話である。

 ぶっちゃけ、そんなの勉強して知ろうとする事に労力を掛けたく無い。小難しい話はパスである。俺は研究者でも無ければ追究者でも無いのだ。

 根っこの部分は「一般人」である。理論や理屈とやらは御遠慮願いたい、そんな人種なのだ。


「エンドウよ、それだけの力を持っておきながらそこまで無知と言うのは少々ヤバくは無いか?」


「もう何も言わんでくれ。俺は何も悪く無い!悪く無いったら無い!」


 俺がそう叫んだ事でドラゴンはこれ以上追及する事を諦めた様で呆れた視線をこちらに向けて来ていた。

 その日はそのままドラゴンは家で過ごした。どうやら生まれるその時に立ち会うと言う事らしい。

 残りの今日と言う時間はドラゴンにこの土地の事を色々と聞かれて俺がソレに答えると言う形で終わった。

 ドラゴンはこの説明を聞いて終始ゲラゲラと笑いながら「相変わらずだ」と俺の事を小馬鹿にしてきていた。


 そうして翌日。早朝に目が覚めた。今日は卵が孵ると言う事なので内心ソワソワしていて二度寝などをする気にならない。


「・・・おはようドラゴン。お前、寝て無かったのか?」


「うむ、コレの変化がコロコロと色形も大きさも定まらぬから見ていて飽きなかった。しかしエンドウが今先程起きた途端にピタッとソレが止んだ。もうそろそろ生まれるぞ?」


 そう言われて俺も卵の前に来てソレをまじまじと見る。

 色は緑色でどうにも固定されたらしい。そして大きさは手の平サイズと言った具合だ。

 さてどんな姿で生まれると言うのか?少し楽しみだな、そんな風に少し思った時にその変化は起きた。


 ソレは擬音にしたら「ムヌリ」だろうか?それとも「ニュムニ」だろうか?「ニュクム」とか「ムヌヌ」とか「モムヌ」とか。

 そう、卵の殻が割れない。俺の想像の斜めを飛んで行くその卵の変化。


 手のひらサイズの緑色の卵、それがそのまま形を変えてその姿を現していく。

 つぶらな瞳、びっしりと全身の鱗、ニョキニョキと生えて来た羽。


「・・・あー、驚き過ぎて言葉が無いけど。これってどうにも・・・」


 その生まれてきた姿は言うなれば「ツチノコ」。あの未確認生物ってヤツの。体型はズングリむっくり。胴体がポッコリと膨れているあの姿。

 ソレに二対の透明な羽、形は何と言うか、長細い楕円の羽?羽かコレ?が付いているのだ。


 ソレが今、ふよふよと浮かんで俺の方に近付ていくる。空をそうして飛んでいる原理は全く分らん。

 そしてそのクリクリとした目で俺を見つめて口を開けて。


「みゃー!」


 と鳴いた。


「おい、何で鳴き声がみゃー・・・いや、カワイイ・・・いや、カワイク無いか。うん、微妙だ。」


 その何と言うか、微妙なソレが俺の頬っぺたを執拗に甘噛みして来るでは無いか。

 鳴き声の響きだけならカワイイのだが、その見た目とアンマッチで何ともどうして良いか分からない。


「何だ・・・コレは・・・誰得な絵面なんだよ・・・」


 これがどう言った行動なのか俺にはサッパリ解らない。解らな過ぎてこの生まれて来た存在を触ってみようとか、撫でてみようとか言った気分にすらならない。なので分かる奴に視線を向けてみると。


「・・・ぷっ!ぷくくくっ!ぷふっ!ぷふぁ!ぷあっ!ぷああははははははは!なんだ!なんだ!何なんだそのソレは!ふくくくくく!私が思っていたのとはまた違った斜め上の!ソレ!ふははははは!」


 床を笑い転げていた。どうやらこの生まれて来た「龍」の見た目はどうにもドラゴンのツボに見事にハマったらしい。

 まだまだこの調子だと長く笑い転げていて説明を聞けなさそうだったので、俺はこのままこの「ツチノコ」?の為すがまま、為されるがままの状態でお茶を入れて飲んだ。


 そうして暫くの時が経つ。ソレで俺の精神は大分落ち着いたのだが、ドラゴンは未だに油断をすると「ぷふっ」と笑う。

 テーブルで俺の向かいに座ってそうしてドラゴンは笑うのだが、しっかりとこの「ツチノコ」の行動への質問には答えてくれた。


「卵の状態ではそのまま全身で魔力を吸収していたのだがな。形が確定して中身もしっかりと出来上がるとだな、そうして小さい間は暫くの間そうして魔力を経口摂取せねばならんのだ。どう言った理由かは知らんが。私も生まれたばかりはそうして濃度の高い魔力溜まりを飛んで探しまわって取り込んでいたものだ。」


 俺は自分の身を四六時中守っておく為に魔力を身体にずっと纏わせっぱなしだ。不意を突かれて痛い目を見ない様にする為だったのだが。

 どうやらこの生まれて来た「ツチノコ」はソレを食べているのだと言う。いまだに俺の頬っぺたあ甘噛みし続けられていてまだその行為は終わりそうに無い。

 コレと言って別に痛くは無いのだが、ずっとこのまま間抜けな状態で居続けなくてはならないのか?と思うとちょっと鬱陶しいと感じる。

 一定のリズムで頬っぺたを抓まれている感じである。良い加減にして欲しいと願うのはおかしく無いと思うのだ。

 そして何故頬っぺたなのか?いや、頭髪を噛み続けられても嫌だし、鼻などであれば呼吸し難い。唇などもっと嫌だ。耳を噛まれても同じである。

 腕や手、指などをずっと甘噛みされ続けても邪魔である。


 そうしてこの「ツチノコ」をどうしようかと考えていたらどうやら一旦は腹いっぱいになったのか、噛むのを止めてテーブルの上に着陸した。

 そして一つ「みゃー!」と元気良く鳴いたら目を閉じて眠ってしまった。


「・・・なあ?ずっとこれ、続くのか?」


「何時になったら、どれ位成長すればしなくなるのかは知らんぞ?私と比べても参考にならんだろ。環境も状況も生まれた条件もどれもコレも、私の時とは違うしな。」


 俺は生き物を捨てると言った行為をする気は無い。こうして孵化までさせてしまったからには生まれて来た命に対して最後まで責任を取らねばならないと考える。


「ドラゴン、これ、引き取ってくれない?」


「断らせてもらおう。」


 譲ったり引き渡したり押し付けたり預けたり、と言った事はオーケーだ。

 だけどもドラゴンにはこれを断られてしまった。


「私も暫くの間ここに居るとしようか。生まれて来たソレを観察するのは面白そうだ。」


「はぁ~。どんな理由だろうとドラゴンが居てくれると心強いよ、まったく。はぁ~・・・」


 こうしてこの「ツチノコ」との生活がスタートした。したのだが、別にコレと言って特別な事は施さなくともこの「ツチノコ」は成長するのだ。

 俺がこのまま甘噛みされ続ける事を我慢すれば良いだけの事である。勝手に魔力を食んですくすくと育つ事だろう。


「いや、我慢したくねーよ。どうすれば良いんだよ。っていうか、うん、俺が魔力の塊を出してやってソレを食べさせれば良い訳で。」


 直ぐに解決案は出て来た。まだ「ツチノコ」は眠っているので起きたら実験してみれば良いだろう。

 俺が出した魔力に食いついて来なければ他の方法を探すしかない。痛くないとは言え、ずっと頬っぺたを噛まれ続けるのは勘弁である。


 俺がそうして考えている間にドラゴンが「ツチノコ」を触っていた。それを俺は注意する。


「おい、触るのは止めとけよ。何がどうなってソレが体調崩すか分らんのだし。」


「ちょっと表皮に触れる程度ではどうともならんだろ。それにしても面白い形をしている。愛嬌と言うかなんというか、コレは、太っているのか?」


 どうやらドラゴンはこの「ツチノコ」の体型の事が気になるらしい。

 確かにちょっと見方を変えれば「ぽっちゃり」と言っても良いだろうか?

 この胴体が膨らんでいるのがもっとスマートなら羽が生えた蛇の様な見た目になるだろう。


「こいつ、豊富に魔力を吸収してこんな形に落ち着いたとか?いや、知らんけども・・・」


 俺はそんな事をぼやく。ドラゴンは未だに「ツチノコ」の腹をツンツンと優しく突いている。

 そうして突かれる度に「みゃ」と「ツチノコ」の口から洩れている。

 腹一杯な所を突かれて苦しさで声を上げているのか、それともくすぐったくて上げている声なのかは分からない。

 しかし一向に起きる気配が無い「ツチノコ」なのでソレを放っておいて俺は朝食を摂る事にした。


 食事をしながらドラゴンに俺は聞く。


「で、何時まで居るつもりだ?働かざる者食うべからずってこった。」


「ならば滞在している間はここで仕事をして行くとしようか。農作業とやらを体験しようでは無いか。」


 ドラゴンは何処までも呑気である。こいつは自分が面白いと思った事は何でもやる主義らしいのでこの村にいる間は飽きるまで様々な仕事に付いて働く事だろう。

 ドラゴンがそう宣言したので俺は朝食を出してやる。それをドラゴンはパパッと平らげて立ち上がる。


「よし!では誰から教わればいい?何でもやるぞ!」


「・・・あー、そうだな。うん、まあ、村長にまた丸投げするかぁ。」


 俺も食事を終えて先ずはドラゴンを村長に紹介するかと思って席を立ったが。


「こいつ、どうしようか?」


「心配なら連れて行けば良いだろう?別に放っておいてもコレは勝手に育つぞ?」


 生まれたばかりの赤ん坊と言えるモノをほったらかしにしていくのは俺の精神衛生上良くない。

 なのでサイズは手乗りと言う事で俺は「ツチノコ」を手にそーっと持って家を出た。

 そのままだと落としてしまうかもしれないので胸ポケットにでも入れておく。


 そして村長の家の前。そこではどうやら元奴隷だった時の住人が数名程並んでいた。それをちょっと僅かに困った感じで苦笑いをして見ている村長も居る。

 どうやらこの住民たちは未だに奴隷の時の癖がまだ抜けきれないらしく、自分で考えて動くと言った事が身体に染み込んでおらずに村長の指示を待っているらしい。


「おーい村長、この村に暫く滞在したいって奴が居るんだ。その居る間は働いて貰うからさ、村長、仕事教えてやってくれるか?何時まで滞在するかは分からなくて突然いなくなったりするかもしれないから、ちょっと困った奴なんだけどさ。俺の友人でね。宜しく頼むよ。」


 俺がそんな声を掛けたので村長も住民もこちらを向いたのだが、どうやらドラゴンの美貌に驚いて全員が一斉に固まってしまった。


「村長の指示に従って動けば一週間もあれば仕事は身に付くだろ。遠慮は要らないからビシバシ教えてやってくれ。何だか面倒を押し付けて悪いな。そんじゃ、頼んだ。」


「・・・はい、お任せください・・・」


 辛うじてそう返事をした村長。そこにドラゴンは元気良く。


「ふむ、宜しく頼むぞ!」


 と返すのだった。


 さて、その後の俺はと言うと、別にやる事が無い。この「ツチノコ」が目を覚ましたら餌?の為に俺の魔力を食わせてやれば良いだけだ。

 とは言っても上手く餌やりができるかどうかの自信はハッキリ言って無い。

 ドラゴンは「放っておいても育つ」と言ってはいたが、ある程度の世話はした方が良いと思うのだ。

 しかし育成と言ってもそんな経験など無いし、何もかもが手探りでのスタートはちょっと厳しい所がある。

 なる様にしかならず、しかし分からないながらも世話はせねばならない。難しいモノである。


 俺は村の様子を見て回る為にそのまま散歩をし始めた。別に見回りとかそう言った事をしている気は無い。

 家へと戻って引き篭もっているのもどうかと思える様な気持ちの良い晴天だったので軽く身体を動かしたかった気分なだけだ。

 しかし俺の事に気づいた住人たちは農作業を止めて俺の方に身体を向けて深く頭を下げて来るのだ。コチラとしてはそれに少々「うーん」となってしまう。

 大袈裟だ、と切り捨ててしまうのは少々酷だ。彼ら彼女らこの「魔改造村」の住人として俺に感謝を示したいだけなのだろうから。

 直ぐにでも滅んでしまいそうな村から、奴隷から、救ってくれた対象に対して頭を下げずにはいられないと言った所なのだろう。


 そうして歩いていれば昼時になる。ドラゴンはきっと村長から昼食は出されていると思う。

 さて俺は昼をどうしようかと思っていたら胸ポケットがもぞもぞ動き出す。そして。


「みゃー!」


 と元気良く「ツチノコ」が飛び出してきた。なので俺は指先から魔力を捻出する。

 小さく丸い形を取る様に意識を集中しながら魔力を抑えつつ出力させた。

 すると何の警戒も無く「ツチノコ」はカプリとソレを呑み込んだ。

 次の瞬間に「ツチノコ」がポム、と言った音を立てて一瞬で丸く太ってしまう。


「みゃ・・・みゃ~」


 どうやら食べ過ぎと言った具合なのだろう。プカプカと優雅に浮いていた「ツチノコ」はそのまま地面へとゆっくりと降下して行って最後にはポトリ、と地に落ちてしまった。

 コロコロと真ん丸になってしまった「ツチノコ」はどうやら上手く身体を浮かせられなくなったらしい。

 小さく「みゃみゃ・・・」と鳴いたらそのまま身動き一つしなくなってしまった。


「・・・ナニコレ?うーん?まあ、良いか。取り敢えず俺もここで昼にするかぁ。」


 俺はそう思ってピクニック気分で食事を作る。テーブルに椅子に調理台。この村で取れた素材を使っての昼食である。

 地に転がった「ツチノコ」を踏まない様にとまた俺の胸ポケットに入れておく。一応は落ちない程度に収まったので良しとする。まあ妙にポケットが膨らんでいるが、許容範囲内である。


 そうして作った食事を食べていればいつの間にか「ツチノコ」はまた眠ってしまっていた。

 良く食べて、寝る。生まれたてならこれが普通か。そう納得して自分の食事を終わらせる。


「・・・太ったりしないのかね?まあ、魔力を食って太るって、どう言う事?ってなるけどさ。」


 実際にこの「ツチノコ」は俺の出した魔力を飲み込んでポッコリと腹を膨らませたのである。

 もしかしたら食べ過ぎとか、栄養?過多などと言った事で肥満体型になると言った可能性も否定できない。

 とは言え、そんな事は俺が気にする事でも無い。すくすくとこの「ツチノコ」が育って早く俺から巣立って行ってくれればソレで良いだろう。


「・・・巣立つ?いや、これ何時まで育てれば「巣立ちの時」とかあるのか?」


 浮かび上がって来る疑問。この「ツチノコ」はそもそも魔力をこうして食べ続けて、さて、どれ位にまで成長すると言うのか?謎である。


「コレはまたドラゴンに聞かないとダメだ。・・・はぁ~。」


 こうして俺は食事休憩を充分取ってから家へと戻る。そこで何をするで無しにボーっとお茶を飲んでのんびりとドラゴンが戻って来るまでの時間を過ごした。

 そして夕方になる前にドラゴンが戻って来た。


「ふは~。やり過ぎてしまった。明日にやれば良い仕事の方にまで手を付けてしまってな。いやいや、キリの良い所でと思って夢中でいたらこんなに収穫してしまってな!こうして持ってきた!これで飯を振る舞ってくれ!」


「いや、まあ、うん。良いんだけどな?」


 どうにもドラゴンは畑仕事を随分と気に入った様子である。もしこのままこの村に居ついたらどうしようか?などと言った不安が脳裏に過ぎる。

 しかしそれはドラゴンの自由で、そして俺がとやかく言う案件では無かったのでソレを直ぐに頭の中から放り投げた。

 採れ立て野菜炒め、パンとチーズも添えて出してやるとドラゴンはソレを速攻で食べ終わって腹をさする。


「・・・おい、何で山盛りにした野菜炒めを食べきったんだよ。俺の分もそこに入っていたんだが?」


「良いでは無いか。そんな小さい事は気にするな。別にこの村の収穫物はそれ位で直ぐに無くなったりする量ではあるまい?」


「まあそうだけどさ。と言うか、俺がまた作る手間ってモノがな?はぁ~・・・」


 俺は自分の夕食分を作って食べながらドラゴンに質問をする。


「なぁ?こいつは何時になったら巣立ちって事になるんだ?俺はこいつの世話をどれくらいまでしてやらなきゃならない?」


「成体になれば直ぐに分かるぞ?その時には勝手に世界を見て回ろうとして飛び立っていくはずだ。今は魔力を与えてくれる存在が側に居るからな。安定して魔力供給してくれる相手の側から離れるなどしないだろうさ。」


「いや、だからソレの予測期間はって聞きたかったんだが?まあ、そうか、それはお楽しみ、とか言うんだろうなお前はさ。」


「みゃー!」


 いつの間にか起きていた「ツチノコ」が俺の胸ポケットから飛び出してくる。

 なのでまた俺は魔力を放出してソレを食べさせる。今度は昼の時よりも籠める魔力の密度は抑えたつもりだ。

 しかしそれでもまだ駄目だったのか「ツチノコ」の腹はまたポンポンになってテーブルの上にポトリと落ちた。

 コレを見て何処が面白かったのか?ドラゴンはコレにまたツボにでも嵌ったらしく爆笑し続けていた。

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