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働けば働く程に助けられるものがある

 そうして翌日、何と言ったらいいのか?あの卵が「レインボー」になっていてびっくり。

 しかも昨日よりも縮んでいるのだからこれがどう言った変化の表れなのかが分らない。

 順調に成長している証しか、それとも危険信号を訴えているのか。


「全く理解ができない・・・放置していて良いモノなのか?本当に?だけど何時になったらこれが孵るのか見当もつかない。」


 その時までずっと観察し続けるのは面倒だし億劫だし怠いし飽きるだろう。


 と思ってボーっとソレを眺めていれば「レインボー」が輝き出して今度は全体がオレンジ色になって行く。本当に何だか意味不明な物体だ。

 こうなればなる様になれ精神である。コレはもう放っておいて俺は村の様子を見に行く事にする。

 意味不明な変化に一喜一憂、振り回されるつもりは毛頭無いのである。


「働いてるなー朝から。まあこれが普通か。ご苦労さん。」


 村の住民となった者たちも奴隷たちも、各所の畑で水を撒いたり肥料をやったり、剪定していたり、収穫していたり。取り敢えず成長が早いモノは今もう収穫できていたりする。


 今収穫しているのは野菜の類だと思うのだが、俺の知らない形をしている物が多い。これまでに見た事の無いものもあったりして中々にその形を楽しませて貰っている。


「種類多く買い込み過ぎたんだよねぇ。この土地では何を植えるのが一番効率が良いかの実験と検証もあったんだけど。どれもコレも全部上手く行くとは思わないよな、普通は。」


 土との相性とかあったりするだろうと思っていた。成長せずに枯れてしまう種類の苗や種なども出るだろうと考えていた。

 だけどもやって見ればどうと言う事も無く全て順調に生育できているから何ともはやである。


「俺が何かやらかしたか?いや、別に特別な事は一切していないつもりなんだがなぁ。」


 もしかしたら俺が俺の知らない所で何かしらやっている部分もあるかもしれない。けれども今更ソレが何だったのかを検証して導き出す気は無い。

 こうして無事に収穫できているのだ。そこには何ら問題は無いのだし、良いだろう。


 さて、そうして目の前の広大な土地を眺めていれば、奴隷たちが何やら張り切っている様子の畑が。

 どうやら俺が昨日言った事を励みにしてテキパキと畑仕事に精を出している模様。

 余剰が出たらそれらを各地方村に配って行こう、などと俺が口にしたのでソレを励みにしているのかもしれない。

 別にこの件に関しては訴えがあるならその様にするつもりである。却下と言うつもりは無い。

 俺にしてみれば輸送に関しては何らの負担にもならないし、そもそもそうした飢えた人々をちょっとした気まぐれで救おうとしたのがこの「魔改造村」の始まりなのだ。

 ならばここ以外の別の村も救うのに何らの隔意も無い。しかしそう言った村に与えるのはこの「魔改造村」で取れた食料だけにするつもりだ。

 俺が何でもカンでもあちこちで食い物を買い込んで「はいどうぞ」なんて事をする気は無い。ソレをやったらキリが無いから。

 アレもコレもと救える力を俺は持っているし、それを行使するのに別段負担と言うモノも無いけれど。

 だからと言って俺は聖人じゃない。あっちの村も、こっちの村もと、そんな事までしてこれ以上人を救うなどと言う事をする気は無いのだ。

 今俺はゆっくりと休みたい。偽善者と指さされ言われても俺はソレを気にも止めるつもりは無い。言いたければ言え、である。


「本格的に安定し始めるのはもっと先になるかな?老若男女問わず全員が働いてる状況だからもっと馴染むのは早いかね?」


 俺はもうそんな他人事を吐く。それこそこの村はもう殆ど俺の手から離れたと言っても過言じゃ無い。

 何か俺が介入する様な所も別に無いし、後は奴隷の件が滞り無く済ませられればもう完璧だ。


「奴隷の首輪を外す、その前に面接だな。ダメだコイツ、みたいな奴が中には居ないとも限らないしな。」


 俺はそもそも奴隷全員の性格を把握できている訳では無い。ぶっちゃけ、一人も分らん。

 あの中にはもしかしたら驚く様なクソヤロウが混じっている可能性もあるのだ。

 そう言った奴が判明したら俺が責任を持って「処分」を考えねばならない。

 なので今も畑で仕事をしている奴隷たちの態度などもなるべくなら観察していた方が良いのだが。


「うーん、広がり過ぎてあっちに行って仕事、こっち行って仕事をと散らばり過ぎていて訳わからん。」


 余りにも超広大に土地を耕し過ぎた弊害だ。奴隷たちが分散して仕事に取り組んでいるので一人一人を見て回るのは困難である。

 魔力ソナーで確認するのでは無く、あくまでも自分の目で見てそういったのは判断しようと思っていた俺の見込みは甘過ぎた。


「時間は腐る程有り余ってるから、のんびりといくかぁ。」


 時は過ぎ、そうして早二週間。その間に奴隷たち全員の面接も終わっている。

 今日は奴隷解放日。一応は俺が直々に、とは言っても一回で複数人の奴隷たちと面接をしてみた感じで言えば「こいつは無理」と言った者は居なかったと判断している。


「えー、今から全員の首輪を外しますが、自由になったからと言って羽目を外さない様に。馬鹿をやらかしたらここから放り出すか、或いは俺の罰が待っているのでそのつもりで。」


 集まっている奴隷たちの首輪を一度で一斉に外す。魔力はもう既に全ての首輪に流して置いてあったので俺が意識すれば一瞬でパパッと自動で首輪が取れ落ちる。

 コレに元奴隷たちがギョッとした顔で驚いている。勝手に首輪が外れた事にビックリした様だ。そして次には何で外れたのか分からずに不思議そうな目で地面に落ちている首輪を見つつ首を手で摩っていた。


「はいこれで終了です。お疲れさまでした。貴方たちはたった今奴隷では無くこれでこの村の住人となりました。今後は一生懸命ここで生きて行ってください。はいはい、それじゃあ解散、解散。」


 俺は手をパンパンと二度叩いて住民たちに仕事に取り掛かる様に促す。

 それでも住民たちの動きが鈍いので俺は追加でこう脅す。


「うーん?俺の言った事に何だか納得していないのかな?だったらじゃあまた罰として走ってみるか?」


 これに反応してビクッと身体を震わせるのは身体を操作されて無理矢理に爆走させられた経験のある者たち。

 もう二度とその様な目は御免だとでも言わんばかりにさっそうとこの場を離れていく。

 ソレに合わせて他の者たちもぞろぞろと動き始める。


(解放された実感が無くてどうしたら良いのか受け止められて無いんだろうな。でもまあ、そんなのは後で良いんだ。今は無心になって働いて、飯食って、寝れば良い)


 時間が解決する案件だろう。コレばかりは俺がフォローできる所では無い。放っておいて良い。

 解散していく者たちの中には村長に指示を仰ごうとしている者も居たが、ソレに村長は「これまで通り」と口にしてそうした者たちをあしらっていた。

 そう言われてしまった者たちはしょうがない。首輪が付いていた時の毎日のルーティーンをするしかない。

 しかしいつかは自分で自分の一日の仕事を決めて、しっかりと自らの意志で生きていく事ができる様になっていくだろう。


 こうして解放の儀は終わったので俺は自宅に戻る。さて今日もダラダラのんびりと過ごそう、などと思って中に入ったらあの卵が何と。


「・・・デカイ。何でいきなり短い時間目を離していた隙にここまでデカくなってんだよ。」


 卵が床に転がっていた。しかしその大きさがヤバい。直径2mだ。鎮座させていた場所から途中でズレて落ちたらしい。

 しかし別段落下の衝撃で割れたりしたと言った様子も無く只々その存在感を見せつけて来る巨大卵。


「朝見た時には何も無かっただろうに。本当に訳が分からないな?何だかもう俺の手に負えないんじゃないだろうか?・・・最終的にドラゴンを呼んで聞くべきだな。うん、早めに教えて貰うべきだ。コレは流石にビビる。」


 コレはもっと大きくなるのか?それとも最大で今のコレなのか?放っておいてもまた縮んで手乗りサイズに縮小するのか?どうなのか?

 どんどんと不気味に見えて来てしまう卵に俺は不安に駆られて直ぐに魔力ソナーを広げてドラゴンを探す気になった。


 そうしてこう言う時に限って中々見つからない。


「ふざけんなよアイツ。何処をほっつき歩いてんだよ・・・早く見つかってくれ。俺の精神衛生上の為に。」


 普段は余り頼りたくないと思う相手、ドラゴン。しかし今だけはアイツにこの卵の事を押し付けたい。そう、押し付けたい。


 そんな思いでドラゴンを探している間にも卵にまた変化が訪れる。

 縮小し始めながらその色が深い青に変わって行く。その見事な美しい青に一瞬見とれてしまいそうになるのだが、グッとソレを堪えた。


「ぬおおおお・・・ドラゴンに魔石電話を持たせておくべきだな。緊急時用に作ったのに使わなけりゃ損だよな、うん。」


 そうして暫くした後にやっとドラゴン発見。俺は短く用件を伝えて俺の所に来てくれと要請する。


『ドラゴン、聞きたい件がある。卵だ。うん、卵・・・か?取り敢えず俺の所まで来てくれ。』


 恐らくはこれでドラゴンに伝わっていると思うのだが、そこで魔力ソナーを切った。


「はぁ~。これが何なのか分かったら分ったで問題になりそうだけど。しょうがないか。軽い気持ちで購入したんだけどなぁ。こうなるとは思っても見なかった。とは言っても、最近まで放っておいて忘れてたくらいだから何も言えんか。」


 気まぐれで買った様なモノだ。しかし買ったからには責任があるし、これが何なのか知りたいというのもある。

 正体不明の何が何だか分からない物体と言って捨ててしまうという選択肢は無い。


「ドラゴンが何時来てくれるかはアイツの気分次第だからなー。気楽に待つか。」


 俺はまたしても変化を起こしている物体を横目に入れつつお茶を飲みながら気長にドラゴンを待つ事にした。


 そうして三日経つ。村の住人たちは一生懸命に働いていて誰一人としてサボったり、狼藉をしようとする者は現れなかった。順調である。

 けれどもその内にこの生活に慣れてくれば誰かしら言い合いや喧嘩などを起こしたりし始める時が来るだろう。

 そうなったら俺が介入、何て事はしない。村の問題は村人たちが解決するのである。俺は出しゃばらない。その気は無い。

 何時までもこの村の支配者として俺はここに居るつもりが無いのだ。その内ここから出て行く。なので村の治安は村人たちがしかりと整えていく事になるだろう今後。


「とは言っても次は何処に行こうかなー?こっちの大陸?の他の地域を目指すって言うのもあるけど。あ、コッチでダンジョンを探して潰して回るのも良いな?お気楽一人旅~・・・つまらなさそうか?」


 そう言えばと思ってこちらの大陸ではダンジョンをまだ見つけていない事に気づく。

 ドラゴンを探す為に魔力ソナーを広げた際にはそこら辺のチェックをしていないのだ。

 すっかりとこの世界の事などを忘れていてダンジョンなんてモノが在ったなー、などと今更な事を思い浮かべる。


「しかし、来ない。ドラゴンが。まだ三日と言ったらそこまでなんだろうが。頼る報酬が美味い飯、って事だったからインベントリにはラーメンも焼き鳥もお好み焼きも焼き魚も入ってるんだけどな。」


 自分で作るのが面倒だったので買って来てある。インベントリ内に入れておけば作り立て熱々で保存が可能だ。便利を通り越してちょっと怖いくらいである。ありがたや、ありがたや。


 そうしてまた三日が過ぎる。待ちドラゴン来たらず、である。


「嘘だろおい・・・例のブツがこんな豆粒な大きさになってるやんけ。どう言うこっちゃ?」


 ドラゴンが来ないなら来ないでソレはしょうがない。奴は気まぐれだ。

 だからと言う訳では無いが、この卵を観察する日々になっていたのだが。

 デカくなったり小さくなったり色が変わったり形状が変化したりと忙しい。

 そして今目の前でいきなり俺の身長くらいの大きさだった卵が急激に縮んで大豆くらいの大きさになってしまったのだ。

 この落差にちょっとびっくりさせられた。目の前から卵が急に消えたかと思った程の縮小速度。

 相変わらず変化に富んで中々に飽きさせないのだが、何時までもコレを見ていると言った事もしない。

 村の状況、様子を見に行く事もしているのでその豆粒大になった卵を別の場所に移す。


「床に転がったままだと踏みそうだからなー。コワイコワい。っと。はぁ~まだドラゴン来ないんか。早く来てくれ・・・と言うか、忘れてるのか?無視されてる?寧ろ俺の声が届いていなかった?それは、無いよな?」


 もう一度ドラゴンを呼ぼうかと思って止めた。アレはちょっと疲れるのだ。主に俺の精神の方が、である。

 体力も使わないし、魔力も減った感じもしないのではあるが、アレをやるとゴリゴリと俺の心の中の何かがごっそりと削れて行くのだ。

 ソレは休息すれば回復するのだが、今はまだ完全に回復できていないと感じるし、回復完了した後も暫くの間は再びアレをヤル気にはならない。


 村の様子を見に行けば変わらず平和な時間が過ぎている。住民たちは毎日毎日、畑仕事と収穫作業だ。

 そう、収穫作業だ。毎日日替わりで、植えている種類の違う畑で熟れた作物を収穫しているのである。

 毎日だ、そう、毎日である。そんな事を連日していれば村の食糧庫は即座に満タンになる訳で。


「ソレを俺が日持ちする物以外はインベントリに回収している・・・いや、ホント、何でこんなに生育が滅茶苦茶早いんだよ?俺が・・・知らずに何かやってるな、絶対にこれは。」


 無自覚だから仕方が無かった。無知だったから致し方なかった。この世界の農作事情など全く分からないし、農学なども全く知らない俺である。大地への魔法、魔力の作用などの事なども全くそう言った研究などもしていないから無知も無知、究極のやらかしである。


「コレはどう考えても速いトコ収穫物を他の村に配りに行かんとならんかね?流石に、採れ過ぎでしょ・・・」


 元奴隷たち、今はこの村の住民である者たちはかなり必死に仕事を続けている。採れれば採れる程に自らの生まれた故郷に余剰を持っていく事が出来ると、それを励みに、目標にして畑仕事をしているのだ。

 これはもうそろそろ第一陣を出してやった方が良いかもしれない。と言うか。


「コレだけの量だから俺が当然にソレを運ぶ訳だよねー。はぁ~。まあ、俺が言い出した事だしなぁ。」


 インベントリにはヤバイと言って差し支え無い程の重量になっている収穫物の数が。


「良し、昼になったら全員に集まって貰うか。あー、そうなると出身地などで分かれて代表だけが来たら良いのか。そうするか。そこら辺は村長に言って知らせを広めておいて貰うか。別に今日中にしなきゃいけない事でも無いしな。」


 もう二日、三日はその纏めで時間を置いてからでも良いだろう。そう思っていたら昼に俺の家にその代表たちがやって来たのだ。

 村長、仕事早過ぎ問題。この事を村長に伝えたのは朝時間帯の事である。それがこれ程にまで仕事が早いと逆に俺の方の覚悟がまだ中途半端になる訳で。


「あー、コレはその、四つの村、って事でオケ?あ、そう?なら・・・あ、はい、直ぐにイクンデスネ・・・ワカリマシタ。」


 ここに集まった代表は四名。どうやら世界と言うのは狭いらしい。二百人超えの奴隷たちの出身地はそこまで多種多様では無かった様だ。

 代表たちのヤル気が漲っているその迫力に負けて俺は言葉の最後の方の言葉尻が小さくなる。


 こうして出発、なのだが。ワープゲートでは首都までしか移動できない。その後はそのまま各村に直接行かねばならない。

 そしてゆっくりと向かうと言った事は面倒だ。しかし地上を爆走させると言った事は目立つ。

 なので魔法光学迷彩で姿を消して首都からそれぞれ四人の故郷に空を飛んで向かう事になる。


 そしてその代表四名も一緒に空を飛んで一緒についてきて貰う訳で。道案内で。


(・・・四人とも気絶しちゃったよ・・・どうすんだよ、コレ?)


 最初の一つ目の村に行くのにその代表の一人に首都からの方角だけを教えて貰ってから出発をしたのだが。

 まあこの様な体験を想像などした事なんて無かったんだろう誰もが。

 急に空に浮かんで、そしてそのまま急発進、急加速で飛行などとキャパオーバーで失神してもおかしくない。そこを俺は気にしていなかった。

 他者への配慮をしていなかった俺には言い訳がある。ドラゴンが来ない現状で小さくイラついていて、ちょっとそこら辺の細かい気遣いにまで頭が回らなかったのだ。

 そして今こうして村から離れている間にドラゴンがやって来てハチャメチャしないかどうかも心配でそれ所では無いのだ。


(だったらじゃあドラゴンが来るまで今回の件は延期で良いじゃん、などとは言えない空気だったんだよ・・・)


 この代表四人が俺の家に来た時の圧力は尋常じゃ無かった。なのでソレに圧されての今である。この四人には諦めて貰うしかない。気を失った事を。


 そうして先ず回る予定の一つ目の村が見えて来た。少々の寂れ具合は上空からでも見えている。

 しかし村人たちは小さな面積の畑で必死に仕事をして少しでも収穫を上げようと頑張っているのが目に見えた。

 子供たちもソレに倣って仕事の手伝いをしているのが目に入って来る。


(うーん、ギリギリ保てている、って所か。間に合った、って言って良いモノなのかね?これは)


 村人たちはかなり痩せていて本当に只最低限度に生きているだけ、と言った様子。子供達もやせ細っていて痛々しい。


(コレはここの村人も「魔改造村」に吸収しちゃうか?・・・あ、いや、無制限にソレをやったらこの国が崩壊待った無しだな。さて、どうするべきか・・・あれ?)


 冷静に考えてみれば、そもそも俺がこの国の心配をするのがおかしい事だった。俺はこの国に何らの義理も無い。

 流石に「国崩し」なんてモノをする気は無かったが、それでもこうして死にそうな村を見てしまうと「助けてやりたいな」と言った気持ちがボンヤリと浮かんでくるくらいには偽善者だ俺は。


「おーい、最初の村に到着したぞー?おい、おい、大丈夫か?うん、起きないな?地に足着ければ気が付くか?」


 呼びかけても返事がない。それとこのまま空中に浮かんだ状態で気を取り戻して、まだ空を飛んでいる事に再び驚いて気絶されても困る。

 なので俺は一旦地上に着地してから四人の目を覚まさせる事にした。

 四人の顔にバシャッと水を掛けてやる。気を失った者を強制的に目覚めさせるのにこれほど酷い方法は無いと思う。

 髪も顔もびしょ濡れ。しかしどうやら効果は抜群だ。「ぶへらっ!?」とか「べほっ!?」と咽て四人は同時に目を覚ましたから。


「げほげほっ!こ・・・ここは?」


「目的地に到着したっぽいんだけど、確認してくれる?」


 俺はそう言ってこの村出身代表を見る。名前は知らん。ここへ向かう際に方向だけ教えて貰った者だ。

 一応は首都から一番近い所から寄って行くと言う事でこの村になったのだが。


「はい、ここが・・・私の故郷です。」


 この村の出身の青年が涙声で答える。合っているならさっさと仕事を終えて次の村に向かうのみだ。


「じゃあ行くよー。心の準備は良い?」


 俺は村に向かて歩き出す。魔法で光学迷彩したままソレを解除し忘れて。

 村に近付いても村民が誰も俺たちに反応しなかった事で俺たちが「見えていない」のに気付いたのは中央広場であろう場所にやって来てから。


(ここで突然俺たちが姿を現すのは不審に思われるよなぁ。でも、俺も暇じゃ無いんだよ)


 俺は魔法を解除して姿を見せる。すると数名の村人たちがいきなり何も無い所から出て来た俺たちに驚いている。目を擦ってはガン見して、それを数度繰り返していた。俺はソレをまるでコントでも見ている気分になった。

 そこで叫んだのはこの村出身代表の青年だ。この広場に来るまで一言も発さずにいたのは俺の事を怖がっての事だったのだろか?しかし我慢の限界だった様だ。


「皆!助けに来たんだ!食糧を持ってきた!村長を!村長を呼んでくれ!」


 話がスムーズに終わるのならばこんな展開でも良いだろう。この青年が村長と話を付けてくれるのであれば任せてしまって良い。

 と言うか、この場にインベントリからバンバンと入れてある物を取り出して放置して行けば良いだけでは無いのだろうか?

 出されたそれらは勝手に村人たちが持って行くだろうし、俺は別にここの村の人たちに感謝されたくて来た訳じゃ無い。

 自己満足を満たす為にやって来た様なモノだ。何故どうして、と言う村人たちから飛んでくるだろう疑問や質問に答えてやるのは面倒だし、説明をする時間も惜しい。

 まだここ以外で三つの村を回らねばならないのだ。もしかしたら「魔改造村」にドラゴンが今やって来ているかもしれないと思うとさっさとコレを終えて戻りたいのである。


 と言う訳で俺は仕事を早く終わらせて戻る為にこの場にじゃんじゃんと持って来た食料を出してしまう事にした。

 この青年の騒ぎに広場に集まって来ていた村民たちはコレを見て目と口を大きく開いて固まっている。何が起きているのか分かっていないんだろう。

 まあ何も知らない、分からないのだからしょうがない。何せいきなり目の前の何も無い空間からドンドンと野菜や果物、麦?みたいなモノやら芋やらなにやらとジャブジャブと湯水の様に出て来るんだから。俺だって村民たちみたいに何も知らなかったらコレを見て絶対に驚く自信がある。


 そうして広場には足の踏み場も無い程の量の食料が並んだ。


「さて、次の村は何処が近いんだ?あ、どっち?そっち?もう一度首都に戻った方が分かり易いか?なら戻ろう。」


 俺はそう指示して四人に付いて来る様に言う。既にこの村の用事は済ませたのだから長居はしない。する気は無い。

 青年だけがオロオロと広場と、この村を出て行こうとする俺とに視線を行ったり来たりさせているが。俺はソレを無視した。


 そうして首都にワープゲートで一旦戻って来たら次の村の方角を聞く。そして再び飛行のお時間だ。

 二回目ともなると気絶はしなかったが、その顔色は青い四人。


(食料だけ置いて行っても一時凌ぎにしかならないよなぁ。だからって同じ様にあの村も魔改造する?いやいや、面倒だなぁ、それは)


 何処まで行っても思い付きで行動して無責任と言われても言い返せない俺が居る。

 この様に救いの手を差し伸べるのならば最後の最後まで、あの村をこの先も豊かに暮らしていける様に助けるべきだ、などと言われても俺はきっと断固拒否するだろうが。


 よく「力を持つ者の責任」とか「力を持つ者の役割」などと口にする者が居たりするが、それはやりたい奴だけがやれば良いと今の俺は思うのだ。

 会社勤めであった頃はそんな言葉にうんうんと頷いてしまっていただろうが、今の俺は違う。

 言語化するのは面倒だし、ぼんやりとそう思っているだけでコレと言ってハッキリとは言えないのだが。


(いやいや、俺が頑張るんじゃ無くてそんなの国に求めろよ。俺が助けなきゃいけない道理なんて何処にあるんだよ。コレ只の気まぐれだぞ?それ以上の多くを求めるなって感じだしな)


 そんな事を思いながら俺は次の村までの飛行を続ける。俺がこうして村を回って食料を配っているのはそれこそ只の思い付きだ。

 そんな思い付きを続けるか、続けないかも俺の自由だし、誰に文句も言われる筋合いは無いのだ。

 そして俺にその文句を付けてくる者は今ここには居ない。


(さっきの村出身の青年は何か俺に言いたげな顔してるけどさ。まあ何か言ってきた所でその意見に従う理由も義理も責任も無いしな俺には)


 お願いとやらなら聞く耳を持ってやっても良いのだが、その対価を出さねばソレを叶えてやる気にはならないだろうきっと。

 ちゃんと願いとその対価が釣り合わねば話にもならない。只乞い願うと言う態度を見せてくれば俺はソイツを「勘違いしている」と断ずるだろう。

 俺の事を勝手に「イイ人」「優しい人」などと思っている者が居ればそれはソレ勝手にどうぞ、であるが。

 ソレを元にして俺を良い様に扱おうと考えるモノが居ればそれを俺は突っぱねる。

 あの「魔改造村」を作り上げたのは只の俺の思い付きと気まぐれでしかないのだ。住民たちにはそこに住まわせて貰っている分際と言うのがある。

 俺に願いを伝えて叶えてくれないからと言って勝手に文句を口にする者が出れば、そいつを俺は村から放り出す事だろう。

 不満があるなら出て行ってドウゾ、である。自らを尊いなどと勘違いをして自分優先にならない事に文句を付ける輩はあの「魔改造村」に必要無い。


 そんな事を思いながら飛行を続けていると見えて来た次の村。さっきの村と余り変わり無い。

 そこで俺はその村の広場に直接着陸する。魔法光学迷彩も同時に切る。


(さて、ここもさっさとやる事やってオサラバさらばしようっと)

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