たったかた~、たったかた~、行進だ~
俺を全く信じていない組を連れて壁までやって来た。
「はいここ、俺が作った防壁ね。これがあれば村には大規模な大軍はやって来れない。まあ暗殺とか少人数での侵入は可能かもしれないけど。・・・対策しとかないとダメかね?まあ今は良いや。ほら、行くよ。」
俺がそうやって説明をしている壁を呆気に取られた顔で奴隷たちが見ている。
これもまた彼らにとっては「信じられない」物なんだろう。良い加減に現実を、自分たちの状況を分かって貰いたいモノである。
俺は壁の一部を開けて通れる様にする。そしてそこを進む命令を出してさっさと奴隷たちを歩かせる。
全員が通ったら壁は元通り。この開閉を見てまた奴隷たちが目を真丸にして驚いているが、それを無視して俺はそのまま歩みを止めるなと命じて歩かせる。
そうしてずっと歩かせてお昼だ。休ませずに一心不乱に歩かせたものだから中には疲れと空腹でちょっと苦しそうな者も出てきている。
しかしもうちょっとだけ進ませる。人数が多いので全員が昼休憩を取り易い場所で昼食を摂らせるつもりだから。
「はい、じゃあここでお昼にします。椅子とテーブルは出すから休んでて。じゃあチャキチャキいくぞ~。」
俺は食事の用意をし始める。もちろんインベントリから食材も道具も出す所を隠してはいない。
奴隷たちには俺が何者かを問われたが、そんなモノは俺がとやかく言うモノじゃない。
コレを見た奴隷たち一人一人がどう思っても関係無い俺には。だから俺が「何者」かは勝手に奴隷たちが自分の中で結論を出せば良い。
そうしてスープと焼肉が出来上がっていくのでそれらを奴隷たちに取りに来させる。
何だかこの光景を俺は脳内で「小学校の給食の時間だな」と懐かしく思ってしまったが、人数が多い。多過ぎる。
集めた奴隷の半分と言う数字は百名近いと言う事。いや、もうちょっと見た感じ多い。
奴隷の買った数を途中で把握するのを面倒になって止めていたのでざっくりとした数しか俺は分からない。
さてそうして食事も終わってその後の食休みも大体30分は取った。また行進を再開である。
再び歩き始めれば奴隷の内の何人かが小声で周りの者と話し始める。その内容と言うと。
「なあ、俺たちはトンデモ無い男に買われてしまったんじゃないか?」
「そんなの今更だろ?店でお前も見たんじゃないか?大量の金貨。」
「あー、あれな。何処の店でも同じ様に大量の金貨を払って大量の奴隷を買ったってんだろ?全員が同じ様に買われたんだってな。」
「お前の所もか?うっわー・・・一体幾らだよ合計金額・・・」
「いや、話はそこじゃ無くないか?だって俺たち全員アレだろ?首都から一瞬であの村だぞ?」
「壁が気持ち悪く動いて開いたと思ったら閉じたとか、アレはどう言う原理なんだ?」
「目の前で何も無い所から物が出て来た事もおかしいだろ。いや、俺らが奴隷として買われた以降の体験全てが全部が全部おかしい。」
「で、一体あの人何なの?・・・あ、コワイコワイコワイコワイ・・・」
怖いと口にした奴隷がブルリと震えている。どうやら俺に逆らったら何をされるか分からないとでも妄想したんだろう。
俺は奴隷たちに喋るなとは命令していないので自由に会話が続いている。そんな中で一人が声を上げた。
あの髭モジャ無精髭のリーダー的なあのおっさんだ。
「一体何時まで歩かせる気なんだ!何処まで行こうって言うんだ!ちゃんと説明をしてくれ!」
俺の後を付いて来る様にと命令を出しているので奴隷たちはソレに従って体が勝手に動いているのだ。
なので終わりの見えないこの行進に不安が募っているのだろう。最悪のパターンなども想像してしまってきっとソレが爆発したのだろうと思われる。
「大丈夫だって。罰とは言ったけど、見捨てたり殺したりとかはしないから。ちゃんと付いてくれば良いよ。歩けなくなった者は俺が無理矢理動かすから大丈夫。」
「おい、無理やりって何だ!無理やりって!」
俺の答えはどうにも彼の不安を払拭できなかった様だ。でも俺はソレを無視して進む。
何せ俺の説明を「分からない、信じられない」と言う理由で突っぱねられて理解すら示そうともしなかった態度を見せられているのだ。
そんな彼の事を慮る気持ちは俺には一切無い。なのでこのまま不安を抱えてずっと俺の後ろに付いて来るしか彼らにできる事は無いのだ。
こうして次第に歩く距離が長くなってくれば来る程に奴隷たちの会話も少しずつ減っていく。
話題が無くなる、と言うか、共通の話せる内容が「こいつは何者なのか?」と言うモノだけなので、その推論や想像や妄想などを口にするしかないのだ。
ソレらが出し尽くされれば後は次第に疲れて来る身体に不安が募り、俺の後を付いて来るように命令されているので無理矢理に勝手に動く体の限界を気にして会話なんて続かなくなってくる。
俺はコレを「罰」だと言って奴隷たちを歩かせ続けている。これ位でへばって貰っては罰にはならない。
この行進には女子供、老人は居ない。ここでこうして歩かされている者たちは誰もが何となく気が強そうな顔つきの者ばかりだったりする。
まあだから油断でもしたのか、俺の事を舐めて掛かったのか。ちゃんと俺がした説明を「信じられない」と言うだけでこうした罰を受けているのである。
信じても、信じなくても、この豊かな土地でずっとこの先、生きていけるのなら。村に残った奴隷たちはきっとそんな気持ちで居るのではないかと思う。
もしくは逆らったらどうなるか分かったものでは無い、そんな風に感じた者も少なく無いと思う。そう考えた者たちは早々に自分たちの立場を理解しており、賢いと言える。
俺にこうして反発する様な事をして来た奴隷たちは自分たちの境遇を受け入れられていないと言えるだろう。そして自我が強い。
こうした者たちは大なり小なり、自分たちの中で勘違いを起こしているのではないかと俺は推測する。
奴隷を必要とする者は何かしらあるから購入をする。その要求に多少なりとも反抗して見せればもしかしたら待遇が上げられるのではないか?くらいには思っていそうだ。
コレに俺の態度と、そして連れて来られた村での畑仕事にどうにもその思い上がりを増長させてしまった感があるのだ。
取り敢えずコレをここでしっかりと粉砕しておかねば今後この奴隷たちは偉そうな態度を取ってあの村でふんぞり返って周囲に迷惑を掛けるだろうと予想が付く。
周囲に馴染めない者たちが徒党を組むとロクでも無い事をしでかすと言うのは分かり切った事だ。ここに居る奴隷たちの中からグループを作って村で無法をする者も出そうである。
今はまだ奴隷だから良いが、もしコレを解放してしまったらこいつらはソレを「自由だ」と勘違いして好き勝手しかねない。
ここに居る奴隷たちだけは解放せずに奴隷のままで扱った方が良いかもしれないとすら考え始めている俺が居る。
そうしてずっと休み無しで歩き続ければ進みが悪くなってくる者も出て来る。
そう言う奴には俺が「魔力固め」で操って無理矢理歩かせる。その時には喋らせたりしない。口も固める。
操作されて歩き続ける奴隷は一様に驚きの顔をするのだが、そんなモノは誰も気づかない。
だって遅れを出す奴隷は自然と後方に下がっていくのだから。背後を振り向く体力の余裕の無い奴隷たちは前、或いは下を向き続けて自分の事で精一杯でそれ所では無いのだ。
ゾロゾロと歩き続ける集団。遠目から見たらさぞかし怪しく映る事だろう。
だけども荒れた土地に俺たち以外は見当たらないのが現状だ。誰も俺たちの行進を止めに入る者は居ない。
俺は脱落者を出す気は無いが、しかしチンタラとこの行進を続ける気も無い。
だから速度を速める。歩く速度を競歩に近いくらいに。まあ相当な早歩きだ。体力が長距離の歩きで削られている奴隷たちには限界を超えた厳しさだろう、コレに付いて来ると言うのは。
だからどんどんと脱落者が出て来る。俺に付いて来い、と言う命令なので体力が突きて倒れかけるまでは身体が命令に動かされて俺の歩く速度に追いつこうと無理矢理動くのだ。
しかし置いて行かれる奴隷はゼロである。だってそう言った脱落者が出たら俺が「魔力固め」から操ってその身体を歩かせるから。
奴隷たちの中には少しづつ異様に気付き始める者も出る。けれども俺が走り出し始めた辺りからは振り向く余裕などありはしないだろう。
必死になって走り俺に置いて行かれない様にとその身体に鞭打つ様にまだ体力の残っている奴隷たちは走る。
こうなれば次第に脱落者が出るはずであるが、しかし誰も行進から置いて行かれる者が出ない。
その事をまだまだ粘って自力で走っている奴隷たちは気が付いている。
まだ体力を残して自力で走っている奴隷は自分の横を走っていた者が次第にその速度を落として後方に下がって行くのを横目で見ている事だろう。
だけども振り向かずとも分かる後方の「誰も脱落していない気配」に心の奥底では戦慄していると思われる。
そもそもこの速度で走り続けていればそうして遅れた者は後方にどんどんと置き去りにされていなくなるはずだ。
それでも全くその様に「減った」気配が後方に全く無い事を奴隷たちが感じればそのチグハグさに、噛み合わなさに頭の中が一杯になる事だろう。
そうしてずっと走っていれば隣村に到着だ。もちろん俺がこの村の住民も「魔改造村」に移住させているので空っぽの廃村と言う状態なのだが。
「はーい、ここで今日は君たちには一泊して貰います。この村の中では自由にしていて構いませんが、逃げ出したりした場合はもっとキツイ罰を与えるのでそのつもりで。ああ、逃げたら分かるし、捕まえる事も簡単だから馬鹿な真似は止した方が良いよ。それじゃあハイ、明日も同じ調子で首都を目指すからゆっくりと身体を休めてねー。」
俺はそう言って一人でワープゲートを通って「魔改造村」に戻った。食事は置いて行かない。コレは一応は罰なので。
奴隷が主人に逆らえばしっかりとその罰が待っている。それを理解させねばならない。
「魔改造村」に戻る際にチラッと確認したが、自力で何とか走ってここまで来れている者は十名とちょっとだった。
その中にはちゃんとあの無精髭のおっさんもいる。俺に意見を言ってくるだけあって根性はそこそこあるみたいだ。
さて、明日の奴隷たちの態度がどの様になっているか。そこが問題である。
到着した後は「魔力固め」で操っていた奴隷たちは解放している。閉じさせていた口もちゃんと開く様になっているのだ。
きっと操られて走らされていた事をゲロってそれを皆で共有しているに違いない。
「少しは素直になっていたら良いけどね。まあそれでも首都に行くまでは全員走らせるけど。」
問答無用。俺が奴隷たちの主人である。やらせると言ったらやらせる。
奴隷たちを統率するのに恐怖が必要ならそれ位はやって見せるし、それでも抗って来て反発して来る様な弁えない奴らは放り出せば良い。
俺はこうして一旦家に戻ってリラックスチェアに座って寛ぐ。廃村に残して来た奴隷たちは今頃はまだ疲れでへばっている事だろう。
そうして翌日がやって来る。俺は朝早めに起きて置いて来た奴隷たちの居る廃村にワープゲートで移動した。
「ハイハイハイ!全員集合!朝食だ!寝ぼけている奴が居たら側に居る者が起こして連れて来て!これ命令ねー!」
テーブルと椅子をサッと用意して昨日準備しておいた食事を奴隷たちに配給する。
ゾロゾロと家屋から出て来る奴隷たちの顔は眠そうでその歩きもノロノロと遅い。まるでゾンビみたいに見えた。
そしてその殆どの者が俺を見てサッと顔色を青くしている。
「おらおら!シャキッとせんかい!食事を配るから並べよー!」
逃げた者は居ないみたいで全員が広場に集合した。そして俺の配る朝食を腹に入れていく。
「今日は最初っから飛ばして行くから覚悟する様に。」
俺の言葉に食事を摂って落ち着いていた者たちがまたサッと顔を青くする。
そうして朝食を終えて食休みを取り終えたら命令だ。
「走るぞ。付いて来い。命令ね。それじゃあレッツゴー!」
俺は最初っからかなりの速度で飛ばして走る。コレに全員が驚いてギョッとして一瞬止まった後に一斉に猛ダッシュ。
こうして今、猛ダッシュで走る百名以上の集団が爆誕した。しかし誰もコレを目撃している者は居ない。
まだまだここから隣の町までは遠いので当たり前だ。こんな遠方の何も無い村にまで足を一々運んでくる者は居ないだろう。
徴税官も数年訪れていないと言う情報もあるのだからそんな土地で俺たちを目撃する者など出るはずも無い。
そんな爆走をしていれば早くも脱落する者が現れる。昨日今日で相当な距離を歩き走らせられているのだ。
ソレがたったの一晩で疲れが抜ける訳が無い、取れるはず無い。
だから最後尾のその奴隷は思いきり足を縺れさせて盛大にズッコケた。ズッコケたが、ズッコケない。俺が魔力固めからまた操るから。
俺はその奴隷を無理矢理に操って走らせる。それこそ人が出せる限界以上の動きをその身体にさせて爆走させる。
脚の回転力がおかしな事になっている。まるでそれこそギャグ漫画の演出の様に。
「ひぎゃああああああ!?」
その速度は人が出せる限界を超える。有り得ない速度にその奴隷は叫び声を上げながら集団の先頭にまで一気に踊り出る。
叫び声に驚いた他の者たちはギョッとした目で自らの隣を信じられない速度を出しておい抜かしていくその奴隷を見ている。
「このクソったれがぁ!」
そこに髭モジャおっさんの声がする。どうやら気合を入れた様だ。意地でも俺に「操られる」などと言うのは避けたいらしい。
どうやら一晩で奴隷たちは情報を共有したようである。
こうして命令で俺に付いて来なければならない奴隷たちはかなりの速度を出して走っている事で早々に体力の限界を迎えてどんどんと脱落していく。
しかし脱落した者から叫び声を上げて先頭まで爆走である。俺が操ってその身体を無理矢理に動かすから。誰一人として置いて行かれる者は出ない。
そこら辺は俺が約束をしている。置いて行ったりしない、殺したりもしないと。
そうして町が見えて来た所で俺は止まる。コレに奴隷たちもその走りを止めて俺の側で立ち止まる。俺が操っているのを解除したからだ。
しかし次の瞬間には奴隷たち全員がバタバタと倒れていく。どうやら体の方の限界では無く、精神の方の限界の様だった。
魔力固めから操って走らせた者たちには体の疲れと言ったモノはそこまで出ていないはずである。
俺の魔力が奴隷たちに身体強化を施しているので超長距離を爆走させてもそこまでの疲れでは無いはずなのだ。
しかし立っても居られない程に消耗して地に倒れたのであるならば、コレは体力では無く精神を疲弊させたからなのだろうと推測する。
因みに頑張っていた髭モジャおっさんも途中で限界を迎えて俺の魔力固めの餌食になっている。
「はいはーい。それじゃあ昼食ですよー?食べる気力も無い?じゃあ俺が無理矢理にでも食べさせようか?」
俺はパパッと食事の準備を終わらせてそんな言葉を奴隷たちに掛ける。
コレに全員がガバッと立ち上がってお行儀良く列を作りだした。どうやら俺に操られるのが相当に嫌であるらしい。
こうして問題無く?町の前までやって来たのだが、ここも通過点でしかない。観光などして行かないし、通り過ぎるだけの場所である。目指すは首都だ。ここじゃない。
こうして昼休憩を充分に取ってからまた俺は付いて来る様に奴隷たちに命令を出して走り出した。
町の中には入らない。大外を回って迂回する。すると当然コレを目撃する者も出てくる訳で。
武装も何もしていない、首輪をつけた奴隷たちが滅茶苦茶爆走している光景だ。それはそれは目撃者たちには理解のできないモノであっただろう。
これにどんな噂がこの町で流れるかは俺には知ったこっちゃ無い。勝手に憶測、推測を酒の肴にすると良いだろう。
町の守備兵たちも少数名が俺たちのこの行進をその目にしていた様だ。しかしどの様に判断して良いのか困惑していると言った表情になっていたのが俺には見えていた。
「さて、何時までもこんな事を続けていても何の利益も出さないし、かっ飛ばしていくぞー。」
既に奴隷たちは全員が俺の操り人形状態。なのでここからは俺が勝手に走る速度を決める訳だ。
この行進をずっとチンタラ続ける気はサラサラ無いのである。
さて、それこそ全力疾走をその後も続ける。ずっとだ。コレは奴隷たちに与えた俺なりの罰である。
逆らったらこんな罰を与えます、それが今回の事で骨髄に染み付いた事だろう。
先程の町からかなりの距離を全力爆走して夕方前まで走ったので次の町の到着ももう少しだ。
「も、もう、か、勘弁、して、してください・・・い、いっそ殺して・・・」
「あー?何か言った?聞こえなかった。もう一回言ってー?」
「すいませんでした・・・生意気いってゴメンナサイ・・・もう、もう、か、勘弁してくだ、ください・・・そうしてくれないのであれば・・・もういっそ・・・こ、殺してくれ・・・」
「別に身体的には疲れて無いでしょー?弱音を吐く位にはまだまだ余裕と言う事だよねー?じゃあまだまだブッ込んでいくんで宜しくぅ!」
もう止めてくれと懇願して来たのは髭モジャおっさんであった。
コレを俺は「口も開けない位に追い詰める宣言」をしてギアをもう一段階上げる。
そう、まだまだ俺は全力を以てして走らせていないのだ奴隷たちを。
とは言っても今でもその速さは常軌を逸している速度を出してはいるのだが。それでもまだまだ速度アップできる余裕がある俺には。使っても使っても魔力減らないし今の俺は。
と言う事でここいらで一度ギリギリ限界を見極めてみるのも良いだろう。
魔法で風の抵抗を無くし、奴隷たちの身体強化の度合いを上げて脚の回転力と踏み込み威力を増大させる。
進む先の地面を一切のデコボコが無い様に均して躓く事が無い様にし、奴隷たちを一気に加速させる。
声にならない悲鳴が上がる。しかし俺はその悲鳴に耳を貸さない。
奴隷たちはどうやら俺に対して何かを訴えたいらしいのだが、余りにも速度が出過ぎていて口を開いたりしている余裕が無い様子。
(奴隷たちの身体の調子は・・・誰も悪くなって無いな。ちゃんと俺の魔力が作用して身体強化がちゃんと発動しているし。呼吸の乱れは、多少あるけど別に心臓の負担になってはいないね、うん、大丈夫大丈夫)
奴隷たちの健康管理もしっかり確認を取る。これで誰か一人でも死人が出たら俺が約束を破った事になってしまうから。
なのでそこら辺には気を使ってしっかりと細かく様子見をしていたりする。
そうして一度昼休憩の為に広い場所で停止したのだが。
その時に奴隷たちはまるであらかじめ相談していたかの様に全員が土下座をしてきた。
「・・・貴方様の御力は充分過ぎる程に理解致しました。骨身に沁みました・・・ですのでどうか、どうか、もう勘弁願えませんでしょうか・・・」
沈痛な声音でそう訴えられてしまった。あれだけ俺に対して突っかかって来ていたあの髭モジャオッサンはとうとうポッキリ折れてしまったらしい。
「全員が同じ意見?・・・そっか。首都まであともうひと踏ん張り何だけど。お昼を摂って休憩を挟んだら今日中に到着する速度を出そうと思ってたんだけどなー。」
俺のこの言葉で奴隷たちが全員一斉にその背中をビクッとさせた。それが妙に面白かったので俺はここで勘弁してやろうと考えた。
「さて、じゃあここでもう一度聞こうか。何者なんだとか、信じられるかとか、そう言っていたけど。そこら辺はまた後で。さて、あの村の住人になってくれる者はそっちに寄って。自分には帰りたい場所があるって者は向こうね。正直に行動してね。これ命令。じゃあ動いて。」
この中には多少は帰郷を願う者が出てくるだろうと俺は思っていたのだが、誰一人としてそう言った者がいなかった。
この予想外に俺は気になって直接的に聞いてみた。
「何で誰も帰りたいってのが一人もいないんだ?気持ち全部が全部と言わないまでも故郷に帰りたいって普通思うだろ?」
この俺の疑問に答えたのはあの髭モジャおっさん。
「・・・何処も同じです。帰ればその分だけ食料の負担が増えます。痩せた土地で収穫できる量なんてたかが知れているので負担となると分かっていて帰れる奴は居ません。」
「ああ、なるほど。失念してた。そうだよね。ノトリー連国の国土って荒れた土地ばっかりだし、首都から離れれば離れる程その傾向が一層強くなってるよなー。」
すっかりとその事を忘れていた。俺が「魔改造村」を作ったのもソレが大本にあったのだった。
「じゃあ余剰食糧ができたら各自の故郷に送ってやろう。君たちの故郷の命運はこれからの君たちの頑張りに掛かっている。なーんてな。まあ冗談でも何でも無く、バンバンと収穫量が上がって村で抱えきれ無いって程の食料物資が出れば俺が君たちの故郷に配給して回っても良い。さて、ヤル気は出たかい?」
俺のこの言葉に奴隷たちが呆気に取られている。しかし直ぐに次にはザワザワひそひそと喋り始める。
その内容は誰もが「自分たちの故郷がもしかしたら救われる」と言う希望を込めたモノだった。
「本当に貴方は何を考えているのか分らない。どうしてそこまで?」
髭モジャおっさんは眉根を顰めてじっとこちらを見つめて来るのだが。俺は男に見つめられて喜ぶ趣味は無い。
「何度も同じ事を説明するのがどれだけ面倒なのか分かってる?ハイハイハイ、それじゃあ村に戻るよー。全員コレを通って通って。さっさと通る!」
髭モジャおっさんにそう吐き捨ててから俺はワープゲートを出す。そして奴隷たちをさっさと村に帰還させる。
「さてと、首都まで行くつもりだったけど。奴隷たちが最後まで持たなかったな。まあ良いか。」
全員が移動し終わって最後に俺がワープゲートを通る。
「さて、全員まだまだ首輪は外さないでおくぞ?村長の指示に従ってこれまで通りに仕事して、飯食って、寝る。はい、命令。各自行動!」
俺はまた奴隷たちを村長に丸投げして自分の家に戻った。
「はー、取り敢えずはまた一週間くらいしたらもう一度奴隷たちを面接するかー。日に十人くらいでいいか?うーん、一斉に全員の首輪を外すのはどうなるか分らんしなー。」
奴隷たち一人一人が何を考えているのかを俺は把握していない。やろうと思えば今すぐにでもできはするが、それをする気にならない。ぶっちゃけ、それをするのは怠い。
もしかしたら奴隷たちの中には首輪を外した途端に人が変わって「ヒャッハー!」する奴が居るかもしれない。
なので二百人近い奴隷を一斉に解放してもしソレが起きたら処理が面倒そうである。
「取り敢えず今日はもうゆっくりしよう。さーてと・・・おや?」
家に入ってふと視界の隅に入った卵。それが何だか気になった。近づいてジッと卵を観察する。
いったい何に気を引かれたのかを確認しようと顔を近付けたり、遠ざけたりして良く見てみると。
「・・・うん?大きくなってる?あれ?マジか。放置していたら正体不明の卵がいつの間にか勝手に大きくなっていた件について。」
どう言った条件でそんな事になっているのかがサッパリ解らない。
「どうなってるんだってばよ?普通、卵ってこう・・・なぁ?中が成長してソレが終わると殻を破って中の雛が出て来るんじゃないの?ソレでその目で初めて見た生物を親と思うって・・・ソレはアレだ。鳥類の刷り込みか。」
未だにコレが何の卵かも判明していないのだ。そしてここは俺の知ってる世界とは理の全く違う世界である。
卵が何故か放置していたら大きくなる位は普通の事なのかもしれない。
「と言うか、これが本当に「卵」なのかも判明して無いって言うね。丸いから何と無く適当に卵って受け止めてるだけで。本当はコレはもっと別の何かかもしれないって言うね。」
何だか気味が悪い。しかしだからと言ってコレを俺は買ったのだ。ならば最後の最後まで見届けなくてはいけないだろう。
コレを買った店の主人にも一体何が生まれたのかの情報を教える約束をしている。ならば孵化させなくてはならないだろう。
「うん、俺の手にも負えない何か分からないモノが生まれて来なけりゃ良いけども。SAN値チェック入る様な化物が生まれてくるような事がありません様に・・・」