派手にやり過ぎただろうか?
もう一人気絶していて倒れたままの男を掴み上げて放り投げる。当然そいつも顔面を地面に強打、首の骨が折れて即死。
意識が無い状態で即死したんだ。死に方としては楽な方だと思う。何せ俺はもっと残虐なやり方で以前に悪党を殺している。
「・・・た、たしゅけて・・・」
意識を保っている残りの二名は命乞いの言葉を吐き出した。まあコレは当然の事かもしれない。
俺の力をその目で、目の前で見たのだから。恐怖で戦意喪失の後は自分の命大事である。
「お前さ、俺の事を楽しんで殺そうとしてたじゃん。だったら反撃される事も想定してただろ?して無いの?殺す覚悟のある奴は自分が殺される覚悟も持たなけりゃ駄目だろう?そもそもこの決闘に署名したのは自分たちが死ぬ事も納得した上で名を書いたよな?そうじゃ無いのか?俺が全くやり返さないと思っていたの?馬鹿なの?一方的に無抵抗でお前らに殺されてやる義理が無いんだけど?お前ら地位も名誉も誇りも持ってるんだろ?ソレらに恥じない様にって俺からの決闘を受けたんだし、ここで死んどけ。」
「命だけは!命だけは!」
二名は必死になってそんな事を言って来た。だから俺は言ってやった。
「じゃあ命だけは助けてやらん事も無い。お前ら、今ここで全てを捨てる宣言をしろ。地位も名誉も爵位も誇りも金も、その他もろもろ何もかも一切を命以外を捨てると。もちろん国外追放も受け入れろよ?何せ命だけは、なんて言ったんだ。この国にも居させない。祖国に住まわせるなんて事はさせないぞ?今着てるその服も全部剥ぎ取らせて貰う。裸で出て行かせるからそのつもりで。それを受け入れられるのなら、生かしてやる。」
コレを聞いて目を見開いて口をポカンと開けたままになってしまった二人。
しかしたっぷり10秒以上経ってから言葉を吐きだしてきた。怒りを込めて。
「ふざけるなよ!何故我々がそんな事をせねばならん!」
「バカな!そんな事を受け入れる訳が無かろうが!」
自分の命が一番大事だから命乞いをしたのでは無かったのか。命が助かる代わりにその持てる全てを捨てるのは別にふざけてなどいないだろう。天秤は命のほうに傾くのではないのか。
等価交換と言えなくも無いのではないだろうか?寧ろお得?命ばかりは助けるのだからこれ位は受け入れて貰え無ければ。
いや、真っ裸でその身一つで放り出されたら余程の事が無い限りは普通の人であればその先には死が待ち受けているだろうからここで怒るのは当然だろうか?
この場で死なないだけマシだと思うのだが、それは俺の勝手な考え方だ。この二人はそうじゃ無いと言うだけで。
しかしこの言葉で俺は二人が本気で命乞いをしていないと判断する。
「メリアリネス、決めたか?どんな王様になるか。残るこいつらの命を助ける様に俺に願うか?それともこのまま決闘の決着をしっかりと見届けるか。決めろ。」
メリアリネスは青褪めた顔で何も言ってこない。その代わりにと言った感じで俺に斬り掛かって来る二人。
「クソがぁ!死んで堪るか!」
「死ぬのはお前だぁァぁ!」
でもその身体は俺の1m手前で宙に浮く。そしてそのままスーッと上空に吸い込まれる様に上昇していく。
もちろんソレをやっているのは俺。魔法である。彼らには死んで貰う。墜落死で。
大体200Mくらいまで上がっただろうか。そこで俺はパッと魔法を解いた。
「さて、他には空を飛びたい方は居ますかー?居たら遠慮無く言ってくださいね。その時には直ぐにでもこうして・・・」
俺はこの決闘を観戦していた者たちに向かってそう伝える。
その直後に地面に激突する落下して来た二名。もちろん即死。
「死んで頂きますので。」
脅し過ぎだとは思うが、これでメリアリネスに対しての態度を改める者も出て来るだろう多少は。
何せこの決闘の経緯は既に説明はされている。女王に対して無礼な態度を働いたから、と言った理由なのだと。
俺がメリアリネスの客人だと言った事はもう知れ渡っている。この観客の中には俺がこの国で「魔王」指定されていたのを知っている者も混じっているはずだ。
「メリアリネス、話があるからゆっくりできる部屋に案内してくれ。」
この場の後始末は誰かがやるだろう。あの進行役?のおっさんが責任者だろうか?
とにかくもう終わった事なので俺は今回の事をもう忘れるつもりでいる。
しかしメリアリネスは長く引き摺りそうだ。その顔色はすこぶる悪い。
「・・・エンドウ殿、こちらだ。案内する。」
そう言って足取り重くメリアリネスはこの場を離れていく。ソレに俺は付いて行った。
案内で入った部屋は客間だろうか?取り敢えずメイドさんがテーブルにお茶を用意してサッと下がる。
ふんぞり返ってソファーに座っていた俺はお茶を手に取り一口飲む。
「何の連絡も入れずにいて悪かったな。こっちもこっちで集中して作業してたから忘れてたんだ。」
「・・・何をしていたのか聞いても?」
メリアリネスは疲れた様子でそう質問をしてきた。しかしどうにもその中身は「聞きたい様な、聞きたく無い様な」と言った微妙な感情が乗っているのが丸わかりな声音だった。しかし俺はソレに遠慮をせずに説明をする。
その時間はザっと五分も無い。別に事細かい所まで詳しく教えたりしないでも良いだろう。
俺の苦労や労力なども別にここで一々詳しく話す事も無い。只々ノトリー連国に向かった際に最初にあった村を開拓してきたよ、と言うだけである。
「エンドウ殿、それはただ事では無いのですが?村を開拓?しかも、大農業地帯?は?何を一体・・・訳が分かりません。エンドウ殿は何を企んでおられるのです?」
「あれ?こんな事信じないと思ったんだけどいきなり言っても。受け入れるの早いね?って言うか、別に企んでるとかそんな大それた事を考えてやった訳じゃ無いんだけどね。あ、ついでにその見捨てられた村は、と言うか、その土地をノトリー連国から守る為に向こう側には壁を作っておいたから。攻め入る時には注意してね?いきなり向かっても壁が立ち塞がるし。ソレと村で略奪とか蹂躙とか虐殺はしたら駄目だよ?新選民教国側からその村に向かった時にはそう言った壁は作っておいて無いから。」
「一体何を考えてそんな事を・・・と言うか、その村の事を今後エンドウ殿はどうしようというのです?」
大きく溜息を吐いてガックリと肩を落とすメリアリネス。この問いに俺は。
「うーん?どうしようか?ぶっちゃけ先の事何も考えて無かったんだよね。そもそも最初ノトリー連国は何で戦争なんか仕掛けてるんだ?って疑問から始まってるんだけどさ。向こうの土地をザっとひとっ飛びで見て来たけど、何処も荒れてて農耕に問題があるし、食料が慢性的に不足してるよね。ソレで豊かな土地が欲しいのかな?って考えて。じゃあ戦争させない様にするには平和的解決?みたいな。でもさー、向こうの政府の対応って結構な酷いもんでね。最初に様子見した村なんて俺が助けなかったら後一年も持たず、と言うかもっと短い時間で消えてたと思う。国からの補助が全く無かったからね。ならじゃあ俺が勝手にここ貰っちゃっても良いよね?とかその時には思って行動したからさ。したら次の村に行って見たらそこも見捨てられてるじゃん?ちょっとソレは無いと思って。じゃあ俺が耕した畑をノトリー連国に徴収されるのは嫌だなーって思って。そう言う徴税官がやって来れない様に壁を作って断絶?みたいな。」
俺の説明を聞いていたメリアリネスはずっと百面相。表情が定まらずにずっと顔のパーツのあちこちを忙しなく歪めて変化させ続けていた。それこそ美人が台無し、と言える位に。
「メリアリネスに任せても良いかね?その村。一応は村民集めも終わって後はそれらが馴染めば、って感じだけなのよ。本格的な安定はまだ先になるけど。ソレで、出来て余った作物をノトリー連国に輸出して向こうの動きをソレで抑え込むとかどうかね?そうなるにはまだまだもう暫くの時間が必要になるかもしれないけど。国でその輜重隊?みたいなのを作ってノトリー連国に食料を運び込んでコレを交渉の材料にしたら良いと思うんだよね。これで向こうの頭を抑えつけて戦争なんてやらせない様にしたらどうかね?・・・あ、でも向こうがその土地を支配しようと兵を出してくるかぁそうしたら。戦争は、やっぱやるハメになるか?」
次の俺のこの言葉に今度のメリアリネスは「ぎょ」ッとした顔に変わって固まった。
どこら辺にギョッとしたのかまでは分からない。村をメリアリネスに任せると言った部分か、食料でノトリー連国をぶっ飛ばせと言った所か、はたまた戦争はやはりする事になるか?と言った部分か。寧ろその全部か。
俺は硬直してしまったメリアリネスが元に戻るまでゆっくりと茶を飲みながら待った。
そもそもあの「魔改造村」はノトリー連国に存在しているのでコレをメリアリネスに管理してくれと言うのは端から無理な話だっただろうか?
そんな事を考えていたらメリアリネスが復帰した。
「何をどう考えても、どう言った交渉をしようと、どんな管理をした所で、ノトリー連国との戦争になるに決まっていますよね?その村をこちらで受け入れるなどと。」
「向こうは役人を派遣ずっとして無いって言ってるから今の内に実行支配とかどう?あ、駄目?じゃあどうすっかなー?そうなると暫くは俺が駐在して見守るとか?うーん?バレたら絶対に向こうの国の高官たちがわんさか使者を寄こしてくるよねー。壁張ってるから入って来れないと思うけど。まあ数年もほったらかしって聞いているから後数年は発覚しないと思うけどね。そんな奴らが権利を主張してきても俺は突っぱねるね、うん。」
「・・・我が国はその村に対して何らの関知しません。干渉もしません。どう扱って良いか分かりません。そんな問題しか抱えていないモノをこちらに押し付けられても無理なものは無理です。最初にちゃんと断っておきます。手に余ります。」
きっぱりと言われてしまった。手に余ると言ってメリアリネスは断って来る。
「あー、ホントにダメ?もしかしなくてもダメ?はぁ~しょうがないなー。責任持つかぁ。何も考えて無かった俺が悪いか。じゃあ戦争は無しって事で俺の「魔王」の件はどうなるの?さっさと解消してくれるのかね?」
「その点はもう既に準備は終えてあります。終えてありますが・・・決闘の件でソレも微妙になりましたよ。何ですか、あの結末は。あんな残虐な終わりをあれだけの者たちに見せつけてしまって・・・これでは国から「魔王では無い」と言って聞かせようとしても誰も彼もソレを納得しませんよ?」
「え?何?俺のせいにするのソレ?まあ、うん、分かるけども。それを納得させても、させなくても魔王呼ばわりを撤廃してくれたらいいよソレで。さっさとやっておいてよ。まあもう俺としては気にし無くなってきてるし、どうでも良くなりかけてたんだけどさ。それでもやっておいて。」
俺の返答をメリアリネスは眉間を揉み解しながら聞いていた。小声で「頭が痛い」と言っているのを俺は聞き逃していない。
メリアリネスはきっとあの決闘を上手い具合に収めたかったんだろう。頼めば俺が決闘を止めてくれるとメリアリネスは考えたのかもしれない。
俺が女王の顔を立てて決闘を、殺し合いを思い止まってくれると。そう甘く考えていたのだろう。
そして決闘が中止になったら「懐の深い女王陛下」と言うのを演出して支持を増やす材料にでもしようとしたのかもしれない。
そんな目論見は俺の遠慮の無い行動でコッパミジンコと言う訳だ。まだまだ俺への認識がメリアリネスは足りないと言って良い。
メリアリネスは俺が温厚であると勘違いしていたのではないかと思う。そんなモノは時と場合と気分で変わるものだ。人なんてそんな風に簡単に心理が揺れ動く。俺だってそうだ。
「んじゃあ俺は村の方に戻るけど、何か言っておく事とか、伝える事が残ってるとかある?」
「エラルドの汚名返上、名誉挽回の機会が無くなってしまいましたよ。」
「ソレは俺の責任じゃ無いなー。そっちが考える事だよ。勇者の使い処?んなもん知らん。」
俺は最後にそう言い捨ててワープゲートで「魔改造村」に移動した。
「んーあー・・・この後どうすっかね?何も考えずにやっちまった反動が今ここに、ってか?」
後はこの村が安定して食糧生産できる様になるだけだ。それは俺が手も口も出さずとも時間で解決してしまう案件である。奴隷たちもその内直ぐにあの首輪を外す事になる。
そう、ここに来て俺はやる事が無くなったのだ。
(いや、何でそう考えるんだよ・・・別に俺は自由なんだからのんびりとここで過ごせば良いだけじゃ無いか。無いなら無いで良いだろうに。別にアレもコレもソレもと思い付いて働きづめになっていないといけない、何て事はないんだから)
別に俺は何かに勤めている訳じゃ無い。所属してもいないし、責任などを背負っていると言うのでも無い。
何もしない、と言う事をしていても誰にも文句を言われる筋合いも無いのだ。
一ヵ月この村の魔改造を休まずしていたのだ。それらもほぼ終わったのだからここでダラケるくらいは良いだろう。
そのゆっくりとしている間にインベントリに入っている荷物の整理整頓をするのも良い。
別に変なモノを入れていると言った事も無いのだが、雑多にアレもコレもと考え無しにインベントリにモノを突っ込んでいるのでここで一度中身を振り返ってみるのは悪い事では無い。
そしてそこで見つけてしまった。忘れていたずっと。卵だ。何の?と聞かれると、あの買った卵である。正体不明の。
以前にペットショップ?に行った時に購入したものだ。無意識にでもインベントリにポイと入れておいたのだったか?
俺はソレを取り出した。そして手の上に乗せてしげしげとソレを眺める。
「変わった様子も、無し。死んでいる様子も、無い。・・・何だか妙に脈動して無いか?気のせいか?」
別段買ったあの時と全く変わった様子も無い卵。いや、これは本当に卵なのだろうか?良く解らない。
取り合えず今度はこの村でのんびりとしながらこの卵を孵化させてみるのはどうだろうか?
そんな事を考えながら見渡す限りの農地の中にある道を行く。目的地も無くふらふら歩く。
「良し、空いてる土地がそこら中にあるし良いか。」
俺は適当な場所を見繕ってそこに家を建てて暫くこの村に住む事に決めた。
「おっと、そうしたらレストに一言伝えておくか。」
俺は今回の件がザっと一段落した事をレストに伝えておく事にした。
新選民教国の「魔王」の件が無かったらあのままずっと絶海の孤島でもう暫くのんびりとしていた筈だった。
「と言う訳で、俺ちょっとそっちの村の方で次はノンビリするつもりでいるからさ。気が向いたらまたここに遊びに来るよ。」
「相変わらず突拍子も無い事をするものだな、エンドウは。まあしかしそれが良い所か。私はそれで救われていると言っても過言じゃ無いのだからな。」
「こんな誰も来ない場所にずっと居るのは暇だろ?やらなきゃいけない仕事も無いんだからな。あ、そうだ。畑仕事でもするか?色々と村づくり用の畑に蒔く種が結構種類多く残ってるんだ。収穫できれば色んな食材が楽しめるぞ?」
「そうだな。ずっと引き篭もって以前の様にしているのは暇に殺されてしまうな、今の私では。ならば畑か。良さそうだ。ああ、あの盤上遊戯も、何だったか?チェスと言ったか。アレも欲しいな。後はトランプ?と言っていたな。アレも貰えると大分マシになる。」
「ホイホイ、分かった。コレとこれと後コレもソレも・・・っと。おし、それじゃあまた・・・と、待った。なあレスト、コレ見た事無いか?」
俺はあの主体不明の卵をレストに見せてみた。しかし結果は。
「分からんな。そもそも・・・ソレは卵なのか?いや、卵か。それにしても妙な胸騒ぎを感じる代物だ。そいつは本当に大丈夫な物なのか?」
「んー?それは俺にも分からん。孵化したら何が飛び出してくるのかも分らんからなー。それが悪いモノだったら俺が責任もって処分すれば良いだけだし?・・・あ、コレを売ってくれた店の主人に孵化したら何が生まれたのかを教えなくちゃいけないんだったか。さてさて、何が生まれるかねぇ?」
こうして俺は村に戻る。そうして即座に空いている場所にインベントリに入れてあったコンクリ製のコテージを取り出して設置する。
家の中のレイアウトを色々と変えてあーでも無い、コーデも無いなどと小一時間程いじくってから「置き場」を決めてそこに例の卵を置いた。
その瞬間、柔らかいクッションの上に鎮座する存在感抜群のその卵は一瞬だけ青白く光った。
「・・・これって何をどうしたら孵化するんだ?世話はどうすれば良いんだろうか?まあ、放置で良いか。」
部屋の温度は一定で冷えもせず、高温にもならない快適空間である。
卵を温めなくてはいけないのか、それともこのまま放置していても孵化するのか?
全くヒントも無いので俺はコレを放置する事に。
「取り敢えず一瞬だけ光ったのは驚いたけど。うーん?魔力関連で何かしらやると孵化が早まったりするのか?あの光かたは魔力が関係、して無いって可能性もあるか。お手上げだな。色々と試す気も今の所無いしな。」
買ったは良いが無責任、これまで忘れていただけの事はある。今まで存在を忘れてほったらかしにしていたのだ。今更である。
こうして取り合えず俺は先ずは最低でも一週間はこの村で過ごす事に。
何で一週間かと言えば、村長が奴隷たちに仕事を仕込むのに確かそう言っていたからである。
「のんびりと牧歌的風景を眺めて癒やされますかね。」
そうして何も考え無い一週間が早くも過ぎる。あっと言う間だ。
コンクリコテージの屋上でリラックスチェアを出して只のんびりとしていただけで時間はあっと言う間に過ぎた。
食っちゃ寝、食っちゃ寝と繰り返していただけなのだが、時が経つのは早いモノである。
「と言う事で、皆さんのその首輪に関しての件で集まって貰いました。さてさて、この村で生きていきたいですか?」
俺は村長に奴隷たちを集めさせてこの場で全員に質問をした。答えはイエスかノーの二択。簡単な答えだけを口にしてくれれば良いだけなのだが。
奴隷たちは誰も彼もが黙ったまま。別に俺は絶対に喋るなと言う命令を出してはいない。いないのに、この俺の問いに誰も口を開かない。
村長の言う事を聞いてしっかりと働いて、飯食って、寝ろ。そんな事は命令を出していたが、それ以外は自由なはずだ。喋れ無くしている訳じゃ無い。
そんな中でどうにもこの奴隷の中の代表だと言った感じのおっさんが質問をしてきた。
このおっさんは結構がっしりとした肉体をしている。顔つきも真面目そうだ。放置したままの無精髭がモジャモジャである。
「アンタは一体何者で、俺たちをどうしようって腹積もりなんだ?皆に話を聞いてみりゃいきなり店に来て殆どの奴隷を纏めて買ったって言う御大臣様らしいじゃねーか。コレだけの奴隷を買って集めた額は計りしれんだろうに。それだけの大金を出して、それがまさか、俺たちにやらせるのはこの村で働かせる為だけか?と言うか、そもそも俺たちが今居るここは一体何処なんだ?」
「あれ?村長そこら辺の事説明して無かったの?え?それフツー最初に説明するよね?え?話して説明しても信じて貰えなかった?・・・あー。」
どうやら一週間も経ったのに奴隷たちはまだ混乱、困惑の渦の中に居るらしい。
奴隷たちには村長の指示に従えと言っただけで引き渡したのでおそらくはこの一週間は畑仕事をみっちりとやらされていたに違いない。
村長もしっかりとここが「魔改造」されている事は説明したのだろうが、まあ、そんなのをいきなり話をされても信じられないのは無理も無い。
そしてしっかりと納得の上でこの奴隷たちは「解放」をされたいのだろう。
俺の考えではここで全員がこの村での生活を受け入れて「イエス」と言うだろうと思っていた。だって一週間もあれば自分の中で落とし所や呑み込むと言った事はするだろうと。
しかしどうにも俺の事を信用していないらしい奴隷の全員が。まあそれはしょうがないのかもしれない。何せ俺は正体不明で身分不明な誰だか分からない不審人物と言えるのである。
ついでにこうして買った奴隷に対してかなりの自由を与えている時点で「企んでいる」と思われても仕方が無い。
要するに俺は買った奴隷たちの不安を払拭できていないのである。まあずっと村長に丸投げしていたのだから無責任と言われても言い返せない。
「こういう時には何から話したら良いモノなのかね?んん~、何処から説明したものか?」
俺はこうして時間を掛けて奴隷たちに俺の計画を説明し始めた。
別に無理矢理にでもここに住まわせる事もできるだろう。けれども、もしかしたら自分の元々生きていた場所に、土地に、故郷に戻りたいと言い出す者も居るかもしれない。
帰りたいと言う者が出たらその奴隷たちは解放した上で求める所に送ってやるつもりだ。
しかしせっかくお金をじゃんじゃん使ってこの村の為に買って集めたのである。ここに定住して貰いたいのだ。
なのでそこら辺の説得も込めて俺はこの「魔改造村」の事を演説した。
ここはノトリー連国の一番端の村である事。広大な土地を開拓してこうして農地に変えた事。
村の住民を集め無いとせっかくの土地が余り過ぎるから奴隷を買って来た事。
希望があれば解放後に故郷に帰っても良い。だけどもせっかくこっちもお金を出して買ったからここに永住して貰いたいとも。
税の徴収は無い。思う存分働いてバンバン食料生産をして貰いたいとも付け加えておいた。
「で、どう?奴隷だった皆さんにはこれ以上無いってくらいに良い条件だと思うんだけどなー?」
「だから・・・怪し過ぎると最初に言っただろうが。ソレと、コレだけの土地が開拓?一番端の村?信じられない。聞こえていなかったか?」
「あのさー?人の言う事をそこまで信じないって、どうかと思うよ?俺はちゃんと真摯に説明してるんだけど?村長から聞いてないの?村の状況、と言うかこの国の余りにも酷い現状を哀れに思ってのおせっかいだよ。この村をこんなにしたのは。だって国からの支援が全く来てないって事だったんだぞ?そんな風に要らないとでも言わんばかりな対応は酷いじゃ無いか。だから俺がソレを拾ってもバチは当たらんだろ?」
「話が通じねぇ・・・」
奴隷代表の髭のおっさんに酷い評価を貰ってしまった。話は通じているはずだろう。村長からも説明をされてるし、こうして俺からも直接に説明をしたのだからソレを理解できていない向こうが悪いと俺は言いたい。
ひそひそと他の奴隷たちは何やら独自に今の俺の説明を理解しようとしてるっぽいが、ソレもどうにも信じていない者たちが多い。
俺の方を見て怪訝な表情をする者ばかりで何だか嫌になる。俺は奴隷たちの主人である。まだ首輪を付けさせたままなのだ。この様な態度を取られる謂れは無い。
「よーし分った!お前らが俺の言った事を信じられれば良いんだな?今のお前らの態度は奴隷としてどうなんだ?俺の事を変な奴を見る目で見て来てさ!もう良いよ!無理矢理にでも分からせてやるからな!コレは罰だと思え!と、その前に。」
俺はこいつらに有無を言わさずに無理矢理分からせる事に決めた。しかしその前にやらねばならない事がある。
「はい、命令です。この中でこの村に永住しても良いと思う人はそっちに集まって。その集まった中で奴隷解放後に自らの故郷に帰りたいと願う者はその隣にまた集まって。そうそう、俺の話を信じられない奴は向こうに集合。それ、動け。」
こうして命令を出したら半々になった。そして帰りたいと思っていた者は一人も居ない。上々である。
「えー、取り敢えずは何だか今日はゴタゴタしたので解放は明日以降にします。このまま信じてくれて無い奴らは俺と一緒に首都にこのまま行くぞー。永住組は今日も村長の指示に従ってくれ。はい、それじゃあ行動開始。」
俺は手をパンパンと二度叩いて合図とする。すると永住組はぞろぞろと移動を開始。信じてない組はその場に待機だ。
「よーし、疑い深い諸君。君たちは俺に付いて歩いて来て。さて、出発!」
こうして奴隷の集団がガヤガヤとしつつも命令に従って俺の歩く後ろを付いて来る。
「脱落者は出してやらんからそのつもりでな。コレは罰だと思え。」