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久しぶりに来てみれば

 そもそもノトリー連国は確か新選民教国に攻め入る準備をしていたはずである。

 俺が開拓をしていた間のこの一ヵ月、軍の動きなどは一切観測していない。なのでノトリー連国は戦争を開始するのを見送ったのだと受け止めている。

 そうで無ければ既にもう軍が派遣されて直ぐに俺にもソレが分かったはずだ。

 あちらは新選民教国での仕掛けが上手く行かなかった事を察知して警戒をしているんだろう。


「諜報員を駆使してメリアリネスの方も情報戦をしている最中なのかね?国は・・・静かなもんだ。」


 メリアリネスは確か軍備を整えていると言っていた様に思う。迎撃準備はしてあるのでは無かったか?

 とは言ってもソレは俺が居てこその、メリアリネスの頭の中だけで描かれたモノであっただろうから、俺が居ないでは動きたくても動けなかっただろう。


「うん、じゃあ城の中をソナーで調べて・・・執務室かな?アーシスとメリアリネスしか居ないみたいだから直接行くか。」


 俺はワープゲートを繋げようと思って失敗した。そう言えば確かこの城の王の執務室に俺は入った事が無かったはずだ。

 調子に乗っていた。一度行った場所で無いと繋げられなかったのを忘れていた。

 そこで一度玉座の間に移動してからそこから執務室に向かうと言う流れを取った。

 城の内部はもう全部把握できている。迷うと言った事は無い。きっちりと執務室前までやって来れたのだが、その前に衛兵?騎士?五名に止められてしまった。


「キサマ、見ない顔だ。所属と名を告げよ。」


 どうやら俺がデカイ顔して堂々と通路を歩いているのを城仕えの者たちが見ていて通報したらしい。

 確かに俺はこの城に居る者たち全てに顔を知られている訳では無い。なのでこの行動は別段おかしいと言った事も無い。お仕事ご苦労様、と言った感じだ。


「何処にも所属して無いよ。初めまして。俺は遠藤。メリアリネスに用があってやって来た。別に怪しい者じゃない。」


「・・・ふっ!女王陛下を呼び捨てか、無礼千万・・・しかも用だと?下らぬ嘘を吐くものだ。所属も無い者がこの城を自由に歩いている事自体がおかしいのだ。キサマを連行する。何の企みがあってこの様に堂々と城内を歩いていたのか、吐いて貰うぞ?痛い目をたっぷりと見させて自ら正直に真実を言いたくなる様にしてやる。ソレにしてもこれ程に間抜けな侵入者も居まい。囮か?そうだとしてもここまで阿呆な囮であれば何も知らされておらずにロクな情報も搾れんだろうな。」


 コレに鼻で笑われて勝手に思い込みで犯罪者扱いされた。まあ、しょうがないと俺も思うが。

 そしてどうやら俺を捕縛して拷問に掛けるつもりらしい。ついでに間抜け者呼ばわりだ。何だか悲しくなってきた。溜息の一つも吐き出してしまう。

 しかしコレがどうにも御気に障った様で五人が同時に一斉にその腰の剣を抜いて俺に向けて来た。


「今こいつは我々を侮辱した。この場で少々痛めつけて立場を分からせましょう。」

「そうですね。この不審者は我々の言葉を無視して抵抗して来て、やむなく、と言った所でしょうか?」

「どれ位切り刻みますか?ここでやるのはこの美しい廊下に血の汚れが付きます。別の場所に移動しましょう。」

「訓練場の裏が良いかと。最初は我々がこの男に格の違いと言うのを教えて差し上げるのが良いでしょうな。」


(いやー、クズどもだなぁ。ここ、王の執務室前だって事分かってるのかね?品性下劣、外道だなぁ)


 久しぶりにこう言った「勘違い野郎」と対面した事で俺はちょっと気分が逆に落ち着いて来た。

 こういった輩は何処にでも居るのだと、こうして何度も再認識させられる事で意識して精神を平常運転にして心を落ち着かせるのだ。


 剣を向けられても一切動じない俺に対してどうやら面白く無いと感じたのか、五人の内の一人が「ちっ」と舌打ちをして言う。


「ビビらないな。顔を青褪めさせて慌てる様が見たかったが。まあいい。これから待っている拷問でその澄ました顔もぐちゃぐちゃに壊してやるさ。ああ、楽しみだ。」


 アウト、俺は心の中でそう指摘する。この騎士?はサイコパスである。

 と言うか、このセリフに同意している他四名も同じだった。にやけた面をして俺を見て来ていた。

 これが俺を脅す為の演技だと言うのならまだ良いのだが、その様子が全く見て取れない。本気でその顔の筋肉を緩めている。


(相手を痛めつけて情報を抜き取る「仕事」なんだから、そこに愉悦や快感や快楽、悦楽を持っちゃ駄目だろうに・・・)


 残虐な行いを楽しむ者が俺を害そうとしている。コレを俺は見過ごしたり許したりはしない。


「おーい、メリアリネス、聞いていたか?厳罰処分をこいつらに与える事を俺は求めるけど、それをしないのであれば俺が直接に手を下すぞ?それでも良いか?つか、こんなクソどもがまだまだ残っているのか?この国には?」


 執務室の扉は厚い。この程度の声量の会話を通す筈が無いのだが、ここには俺が居る。

 魔法で室内まで今のやり取りを全部筒抜けさせる事が俺には可能だ。そしてソレは俺がこの五名に止められた瞬間から発動しておいた。

 なので中のメリアリネスとアーシスには全ての経緯がマルマルと伝わっているのだ。


「何をふざけた事を言っている?キサマが直接手を下すだと?・・・くっ、はっはっはっは!しかも自らの今の状況を弁えずに我らを愚弄までするとはな。こいつはとんだ阿呆だ。クソになるのはキサマの方だ。最後は粉微塵にして魔獣の餌として森に撒いてやろう。」


 剣の切っ先が俺の首に突き付けられる。コレに何だかなぁ、としか俺には思えない。

 メリアリネスからの返事は無い。しかし俺には分かる。確実にこの執務室の中にメリアリネスは居る。

 このまま何もリアクションが返ってこないなら俺はこの五名をこの場でキッチリと潰すつもりである。


 と思っていたら扉が開いた。そこにはメリアリネスが立っている。


「剣を収めよ。その者は私の客人だ。無礼は許さん。」


 既に今はメリアリネスは女王だ。なのでその姿は以前とは全く以てがらりと変わっている。

 もの凄く煌びやかなドレスを見に纏っているのだ。とは言ってもどうやらソレは「仕事用」で着るドレスである様で装飾の類はかなり抑えられているシンプルなデザインだった。宝石の類を付けていると言った事も無い。


「これはこれは女王陛下。ご機嫌麗しゅう。・・・はて、この不審な者が女王陛下の客人とは?この様な何処の誰とも分からぬ者がこの城内でウロウロされてはこちらもこうして警戒を高めねばならぬと言うもの。しかも客人が来ると言った事も通達されてはおりませんな?ならばこやつは城への不法侵入者で御座いますれば。警備の面でも、安全の確認の為にも、しっかりとこちらに連絡を入れて欲しいモノです。ああ、王の権限でその様な事は一々する必要は無いとお考えですか?ソレはなりませんねぇ。幾ら成り立てであろうとそう言った事は守って頂かねばその御身を私たちが守る事も難しくなってしまいます。まあ自殺を為されたいのならば別なのですが。」


 無礼、この五人の代表だと思わしき騎士が挨拶をするのだが、その喋り方も内容もメリアリネスをあからさまに舐めている。

 しかも残りの四名の顔もメリアリネスを下に見る様な目をしていた。コレは流石に酷い。


「なあメリアリネス、お前舐められてんじゃん。何?この国って女の王様ってのは受け入れられて無いの?と言うか、王は男じゃ無いとダメって法律があったりすんの?こんなあからさまに表面だけ取り繕って、しかし中身はしっかりと馬鹿にしてくる態度を許すのか?」


「待ってくれエンドウ殿。不快にさせてしまった事は詫びる。なのでこの場は抑えて貰えぬか?」


「さっきの俺の言った事は聞こえていたよな?なら、こいつらへの処罰は最大でどんなモノを与える?こいつらきっと放っておけばもっともっと、勝手な事をやらかして問題を大きくするぞ?絶対にそうなる。処置をするなら今だぞ?傷が最小限で済む。寧ろ今こうして俺が居た時にこいつらが絡んで来て発覚して運が良かったじゃ無いか。」


「・・・待ってくれ、待ってくれエンドウ殿。この時点で彼らに与えられる罰と言うモノは無い。別段彼らは罪を犯した訳では・・・」


「ちゃんと聞こえてたろ?最初から最後まで。聞いてないとは言わせないぞ?聞こえていなかったとも言わせない。」


 確かにこの五名は自分の職分?を真っ当しようとしただけかもしれない。怪しい人物を捕縛して、そして尋問する。そんな流れだろうか。

 しかしこいつらは最初っから俺を犯罪者と決めつけて拷問に掛ける気満々で、しかも捕縛する前に「抵抗された」と言った嘘をでっち上げて俺を痛めつけて楽しもうとまでしている。それをやってから追加で拷問までしようと考えていたのだ。コレはもう許容と言うものを超えている。

 こちらの人権を無視して、そもそも自分たちの暴力と言った欲望をそのまま俺にぶつけてこようとしたのだ。そんなものを俺は許す気は無い。

 こんなあからさまな地雷を放っておいて良いはずが無い。こんなの放っておけば余計に付け上がるのは分かり切った事だ。こんな増上慢みたいな奴はその内にこの国での「害」として育つのが目に見えている。俺はそんな判断を下している。


「キサマ、こちらが黙っていれば先程から女王陛下に無礼であるぞ?やはりここは一度痛い目を見させて自分の立場を分からせるべきかと存じまするが?女王陛下、許可を頂きたく。こやつに二度とふざけた態度を取らせない様に我々が教育しましょうぞ。幾ら女王陛下が客人として招き許しているとは言え、我々の前でこの様な態度、目に余りますな。」


 今は剣を鞘に収めている五名だが、やはりその態度は変わらず尊大。メリアリネスを侮りっぱなし。ヘラヘラニヤニヤ、鼻で笑うと言った様子である。

 そしてどうにも俺を痛めつけると言った事にしつこく食らい付いて来る。どうやらメリアリネスの前で俺を叩き潰すと言った事を見せつけたいんだろう。嫌がらせにも程度と言うのがあるだろうに。


「よし、なら決闘しようか。どちらかが命尽きるまで。名誉と誇りを掛けて殺し合おうか。そっちは五人で纏めて一辺に仕掛けて来て良いぞ?俺一人で相手してやる。なに、心配要らん。お前らみたいなのが何人居ようと俺に傷一つ付けられないから安心して掛かって来て良いぞ?」


 俺は盛大に言ってやった。コレにメリアリネスが諦めた様に「あ・・・ぁァー」と顔を手で覆って俯いてしまった。


「・・・おい、今の言葉を忘れるなよ?後悔しても遅い。土下座をしてきても許しはせん。」


 お安い挑発に乗って来るモノだと俺は呆れてしまった。この五名は相手を馬鹿にして偉そうな態度を取るのは好きでも、こうして逆に馬鹿にされておちょくられるのは我慢がならないらしい。器が小さ過ぎる。

 さっきまで散々俺を見下してきていたのに、こんな提案に簡単に食いついて来るのは何ともどうかと思う。頭に血が昇るのが早過ぎだろう。


 そんなこんなで城の訓練場でこの五名と俺は決闘する事になったのだった。


(前にも似た様な展開無かったか?あったな。何で貴族?騎士?ってのはこうもホイホイと決闘したがるのかね?)


 いや、前にも「決闘だ!」と言い出したのは俺だったか?相手側だったか?もう忘れた。


 さて、この決闘は正式な手続きに則って行われる。と言うか、メリアリネスがそうした。

 どうやら俺が「早めの処置をした方が傷口が小さくて済むよ?」と言った事を深く受け止めた結果である様だ。

 ならばもう俺も遠慮は要らないだろう。この決闘の書類の内容は「どちらかが命尽きるまで」と言う文言が入っていた。

 そしてこの決闘は多くのその他の貴族、騎士たちが見ている中で行われるので、後で誰かがこの事をとやかく文句を付けて来ると言った事もできない。この内容が観客たち全員に周知されているから。

 なのでこの五人がもしこの決闘で死亡したとしても、誰も何も言えないのだ。もう署名は既に全員終わっている。そして逃げられ無い。

 この決闘にはこいつら五名の誇りと名誉が掛かっているから。逃げれば臆病者と呼ばれ誇りも何も無く、命乞いをすれば名誉も無くす。

 俺を殺して生き残らねば彼らは全てを失うのだ。とは言っても、俺は殺されるつもりは無い。

 取り敢えず一人に一撃、先ずはゲンコツを打ち込んで死んでいなければもう一発と言った具合に行くつもりだ。逃げようが命乞いしてこようがぶん殴る。まあ気絶してたりしたら一旦そのまま放置だ。目を覚ましたらまあまた情け容赦なくぶん殴るが。


 だってこの決闘の決着は「どちらかの命が尽きるまで」なのである。負けを認めてもダメ、泣き叫んでもダメ、そんな条件で決闘は終わらない。他の決着方法は無い。


 しかし向こうの五名はそこら辺の事まで考えていない様子。どうせ簡単にこちらを殺せると思っているんだろう。

 寧ろどれだけ長く生かして痛めつけられるか?くらいの事を考えているのかもしれない。

 それだけ呑気な顔でヘラヘラニヤニヤとこちらに視線を向けてきているのだ。どれだけ嗜虐的なのだろうか?その目には優越感も浮かんでいる様に見える。

 この決闘は観衆が付くと言うのに見下げ果てた根性である。自分性格最悪です、などと周囲に見せつけるのが好きなのだろうか?


「位置につけ。これより決闘を行う。どちらも納得の上で署名は終えたな?ならば、始めるが良い。」


 どうにも審判役?なのか進行役なのか。もの凄く厳格そうな顔のおっさんがそう言ってこの決闘の開始の合図とした。


(魔力固めで終わらせると何時ものって感じだから、今回は俺が殴る「調整」に五人に協力して貰うとして)


 決闘に入る前にメリアリネスから「分かり易くお願いします」と言われていた。どうやらこの五人を見せしめに使うつもりらしい。

 なので魔力固めを使うと「分かり易い」と言った事にはいきなりはならないので最初は直接俺が殴る事にしたのだ。


 既に決闘は開始されている。しかし向こうは剣すら抜いていない。このままお見合いしていても時間が無駄になるだけだ。

 なので早速こちらから出向く事にする。近づかなければ殴れない。


「恨むなら恨むで良いけど、自分の事も顧みるんだぞちゃんと。そうで無いと何がいけなかったのか理解できずに死んじゃうから気を付けろよ?」


 そんな事を言いながら俺はスタスタと近づいて行ったのだが、五人の中から一人出て来て俺の前に立ちふさがって来た。


「はっ!こんな貧弱野郎に全員で剣で斬り掛かったら直ぐに終わっちまう。と言うか、殺し過ぎちまうぜ。こう言うのは楽しむ為にはなるべく徐々に痛めつけるのがコツだよなぁ。しかし武器も持たずに近寄って来て、コイツ、やるきあるのかねぇ?」


 随分と「ニヤァ・・・」と言ったべとつく笑い顔が似合う男である。俺の事を一息で殺す気はサラサラ無いと宣言して来た。

 でも悲しいかな。俺がその男の腹に向けて軽く「ぽん」と拳を打ち付けたらそのまま前のめりに倒れてしまった。


「おおう・・・たったこれだけの力しか込めて無いのに気絶したった・・・うん、かなり、と言うか、ほんのちょっとしか魔力を込めて無いつもりだったんだけど。」


 身体強化だ。それを本当に俺の中で今までに無いくらいに控えて、抑え込んでの一発だったのだが。ダメでした。

 しかし死んでいなかった事は進歩だろうか。恐らくはもっと以前の俺が同じ事をしようとしていたら、きっとこの男は生きてはいないと思える。


「まあ気絶しただけみたいだし、起きたらキッチリともう一発殴るけど。」


 地獄はこれからだ。この五名には命尽きるまで俺の「調整」に付き合って貰う。


 ====  ====  =====


 命尽きるまでと言ったけど、止められてしまった。誰にかって?

 ソレはこの決闘を始める際に開始の声を掛けて来た進行役?の厳格そうなおっさんにだ。


 俺が一人目を先ず撃沈した後の残り四人はその後一斉に掛かって、来なかった。

 どうやら何が起こったのか分からずに次にまた一人俺の前に出て来て「はっ!」と軽く笑って剣を抜き放つと同時に軽く斬り掛かって来たのだ。

 そう、まだ俺の事を舐めていた。そして一人目がボディブローを食らって倒れている事に何ら危機感も抱いていない様子である。

 俺はその迫って来る剣を手で「ぱし」と受け止める。その流れでまた腹に一発撃ち込んでその男を沈めた。今度は一人目よりももっと魔力を絞って、抑えての一撃だ。

 コレは成功したのだが、この二人目は口から泡を吹いて痙攣しながら倒れてしまった。

 コレに俺は苦笑い。全く調整が思った通りに行かない事に。どうも俺はそう言った制御がトコトン苦手な様であった。


 ここでようやっとおかしいと考えたのか、どうなのか。今度は残り三人の内の二人が斬り掛かって来る。

 コナクソ、とか、舐めるな、とか言って剣を抜いて即座に斬り掛かって来たのだが。

 その剣も俺は手で軽く掴んで抑える。次にそれをパッと払った。コレに力を込めたつもりは無かったのだが、しかしその二名はおおきく体勢を崩してしまう。

 俺の行動が予想外だったのか、もしくは向こうが非力なのか、それとも俺が力を込め過ぎたか。

 そこら辺の事は俺が「調整」をしているので知りたい所だったのだが、追及する暇は無いのだ。

 一撃ずつ双方にぽん、ぽん、とまたその腹目掛けて拳を添える。そう、添える。

 もしかしたら拳を打ち込む勢いを変えれば威力を減らせるか?と考えたのだが、コレは別にあまり変わらなかった。

 二名とも痙攣しながら地に伏してしまった。しかし片方だけは意識が残った。当たり具合が良かったのか、もしくは悪かったからなのか。

 それとも、もしかして俺が考えている以上に「使い方」を間違えているのだろうか?身体強化の効果の出方と言うのを間違えて把握していないだろうか?

 そこら辺の検証をしたい所だったが、まだ最後の一人が残っている。

 何だ貴様は、とか、近づくな、とか、来るな、とか。喚かれ騒がれたのだが、それを俺は一切無視して最後の一人に近付く。


 そしてまたも腹に目掛けて一撃。しかし今度は人差し指でチョンと触るだけにしておいた。

 しかしどうにもそれでももの凄い威力になっているのか、この程度の事でも身体強化の能力上昇率がそもそも高過ぎなのか。

 これで悶絶して最後の一人は地に蹲ってしまう。意識はしっかりと持っているので気絶をいきなりさせないと言う目論見は成功と言えば成功なのだが。

 しかしたったのこれだけ、「指ちょん」で相手がこんなにも大ダメージを受けるのは流石におかしいと俺は考え始めた。


 ここで止められてしまったのだ。「待て」と短くではある。コレに俺はしっかりと振り向いた。声の方に。


「既に決着は付いた。決闘はこれまでだ。」


「いえ、まだ終わりじゃ無いですよ。この決闘は同意の上での正式な書類にも署名しましたから。この事はこの場に居る誰もが周知してますよね。それには死ぬまでやり合うと言うのが明記されてますからね。まぁ決着は付いてるも同然ですけど、決闘は続けます。こいつら全員が死ぬまでやりますよ。ね?メリアリネス?」


 審判役でも仰せつかっているのであろうおっさんに決闘の決着を宣言されてしまったのだが、ソレに俺は言い返した。そしてその最後に俺はメリアリネスに視線を向けた。

 この五名は死ぬ、その事を「女王陛下」も納得の上、覚悟の上でこの決闘は行われているのだから。

 そしてその決闘の内容に関しては既に署名しているのだから互いに納得の上、もうこうなったらどちらかが死ぬまでやる事になるのだ。止められる権利は外野には無い。


「ソレにこいつら五人は最初に会った時から俺を甚振って殺す気満々だったんですよ?あ、その時の会話聞きます?その内容はメリアリネスも当然聞いていたし、その女王陛下がこの五人に控える様に言ってもその態度を変えなかったんですよ?この決闘でこの五人は俺を殺す事を「当たり前の事」って認識してたはずです。しかも自分たちが死ぬ事なんて有り得ないとも思っていたでしょう。ですけど、馬鹿なんですよこいつらは。俺の事なんて全く知ろうともしなかった。これまでに俺の情報を得ようと思えば何時だってできた時間はありました。小さな事でも敵の情報を得ようとする行動をしなかった。ソレも当然でしょう。こいつらは自分たちの事だけを尊び、その他の事など気にも留めない者たちなんだから。それは王と言う存在に対してもそうです。こいつらの態度と言動は傲岸不遜、慇懃無礼でその場で手打ちにされていてもおかしく無かった程ですよ?」


 その代わりにと言っては何だが俺がこうして決闘と言う形で彼らの処分を請け負っている様なモノだ。

 まあちゃんと俺が「腹が立った」からと言う事もあるが。

 そう、こう言った奴らは一度徹底的に、トコトン、それこそ絶望までさせてやらねば自らの事を省みないのである。

 そしてその反省も時間が経つと忘れてソレを怒りに変える者がいたりするのだ。もしくは恐怖で錯乱してその自らを脅かす大本を断とうと無理無茶な事をしでかそうとする者も居るだろう。

 悠長に言えば人を見極めるのにはそう言った時間が必要ではあるが、こいつら五人はそもそも「人殺し」ってものに慣れている。普段から裏で悪行を働いている可能性が高いと俺は踏んでいた。

 だからこの場でキッチリと処理をするつもりである俺は。どうせこいつらを生かしておいても俺とこうして対峙した恐怖を時間と共に忘れて怒りを持つタイプだろうと予想している。改心なんてしそうに無い。

 地位、名誉、誇りと言ったモノを完全に履き違えていて勘違いしている奴らだこいつらは。

 自尊心と言ったモノもきっと使い方を、心得方を間違えている。ここで生きて返せば自分の命が助かったと実感した次には恐らくは逆恨みして来るだろう。

 下手に許してナアナアでこの場を収めて後で粘着されるのは御免だ。ここでキッチリと元を断つ。


「エンドウ殿、私が責任を持ってこの者たちに処罰を与える。この度はここで許しては貰えぬだろうか?」


「・・・」


 俺はここでメリアリネスが沈黙すると思っていた。だけどどうやら「女王陛下」の事情はこいつらを生かしておく方針らしい。

 メリアリネスは馬鹿じゃ無い。こいつらを生かしておいても百害あって一利無い事は分かっていての発言だろう。

 それでも「王」としては言っておかねばならない言葉だったのかもしれない。その顔はもの凄く苦いものに変わっているから。


 だから俺はコレに行動で応える。一番最初に気絶させた男のその首を掴んで持ち上げて揺さぶって起こす。


「・・・げばっは!?ぎ、ぎざま・・・ごのでをばなぜ・・・」


 気絶から無理矢理覚醒させられたその男は首を掴まれて上手く喋れていない。


「メリアリネス、お前、自分をどんな王として歴史に刻むつもりだ?慈悲深い王様?それとも暴君?温和で大人しいとか?直ぐにカッとなって怒り出す?それとも優柔不断で頼り無い意志薄弱な王として笑われる?もの凄く恐れられる程に厳格な王?メリアリネスは自分が女王として君臨する時期を短く設定してるんだろうが、それでもしっかりとこの国の歴史書にはその名前が刻まれるんだろ?決めろよ、今ここで、それを。」


 俺が首を掴み上げているままなので男は窒息したのか、頸動脈が絞められて血が頭に行かなくなったのか、再び気絶してしまった。

 ソレを俺は放り投げる。遥か高く。それこそ20mくらいは上空に軽くポーンと。

 意識の無くなった者がそんな高さから落下して生きている確率は低いだろう。それこそ、生き残れたらソレは奇跡に近い。

 男に意識があったら着地時に工夫して命ばかりは助かる様にと受け身を取ろうとしただろうか。

 しかし哀れにも男には今意識が無い。頭から地上に落ちた。ぐしゃりとそいつは首の骨を折ったのだろう。行ってはいけない方向に首が曲がっている。


 コレをメリアリネス、だけでは無い。観客たちも全員絶句。俺はここで情け容赦を持ち出す気は無いと行動で見せつけた。

 俺は次に向かう。二人目に気絶させた男に近付く。そしてまたひょいとそいつを持ち上げてぶん投げる。

 今度はこの訓練場の壁に向けて。それこそ思いきり。

 人の重さってのはかなりのモノだ。だからソレを投げるって言ってもボールを投げたように水平には普通飛んで行かない。

 重さと重力に引かれて本来だったらすぐに地に落ちる。けれども魔法を使えばそんなのは問題無し。

 投げた勢いは衰えず、高速でそのまま真っすぐにその男は壁にまで飛行する。そして顔面から壁に「墜落」だ。首がひしゃげて頸椎が破壊されて即死である。


「あと三人。」

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― 新着の感想 ―
[一言] おそらくなんやかんやナメられてる理由はあるんだろうけど メリアリネス女王にはどうしてもこの一言だけ言ってほしい 「今のエンドウ殿は正に魔王のようですね」と。
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