大量購入で
「いらっしゃいませ~。どの様な奴隷をお求めでしょうか?うちの店では種類豊富にその点揃えられておりますれば。必ず貴方様のお求めの者が見つかると思います。」
「取り敢えず全部奴隷見せて。金ならあるから。」
「は?いえいえ、お求めの条件があればこちらで選別してこちらにお連れしますが・・・」
俺は袋から金貨を取り出す。コレはあらかじめ用意していた。インベントリから大量に一気に出すのはここでは控える為の偽装である。
テーブルに大量にばら撒かれた金貨で支配人らしいその対応して来た男は「直ちに!」と言って走り去って行ってしまった。
そして一分後。俺の目の前には確かにこの店に居た商品たちが一人残らず並べられた。
「い、如何でしょうか?老若男女問わず全てこちらにお連れいたしました。」
「この中に犯罪者奴隷は?その罪は?」
「は!ウチの店は犯罪者を扱うにしても詐欺や横領などのモノばかりです。その他は借金で身売りをしている者たちです。お客様の向かって左側三名が横領の罪で逮捕され、こちらで預かりになっている者たちです。それ以外は親が借金での返済の代わりにと売りに出した子供と、生活苦に因って自身の身を奴隷に墜とした者たちでして。」
「じゃあ犯罪者以外を全部買う。いくら?」
「・・・はい?」
「いや、幾ら?ここに出してる金貨の量でお釣りくる?あ、これまで維持してきた掛かった費用とかも上乗せして計算もするでしょ?大量に購入するし、割引とかもして欲しいんだけど。」
「只今計算して参ります!」
そう言って犯罪者奴隷三名は下げられてこの場にそれ以外が残る。
誰も彼もが俺のこの行動に未だに信じられないと言った顔になっている。
因みに簡素な服しか奴隷には着させられていないが、身はちゃんと清潔に保たれている様で極端に汚いと言った感じは無い。
衛生面にちゃんと配慮している店なのだろう。このまま直に「魔改造村」に連れて行っても良い感じだ。
「・・・はい、集計して参りました。こちらで如何でしょうか?因みに奴隷用の命令服従の首輪も付けてのお値段で御座います。」
「うん、じゃあソレで。よいしょっと。」
俺はテーブルにぶちまけた金貨を袋にザラザラと入れていく。
見せられた金額の分の枚数の金貨が多分入ったなと思った所で俺はその袋を支配人に渡す。
何となくでしかないが、俺の脳内で勝手に計算ができていたのでソレを信じて支払いを済ます。
魔法で思考計算能力を強化できると言うのは本当に不思議でならない。原理が分からないから。でも、できてしまうのでソレを利用しない手は無い。
「共通交易金貨での支払いだけど、構わないんだよね?あ、値段以上の金額が入っていたらソレはお釣り要らないから、懐に入れて良いよ。」
「はい!畏まりました!有難うございます!では少々お時間を頂きして・・・はい!お支払い結構です!して、こちら、どの様にして御連れするので?これ程に大勢だと連れて歩くには目立ちますが・・・」
天秤にかけてその重さで金貨の支払い枚数が足りているかを支配人は確認した。そして次には奴隷の人数の事で配慮される。
「宜しければ数日ならこちらである程度の人数を預かりますが?」
どうやらサービスしてくれるらしい。ほくほく顔なのでどうやらそのお釣りは相当な額になっている模様。
しかし俺はコレを断る。大丈夫だ、問題無い、と。
こうして首輪をつけた総勢三十人がぞろぞろと俺の後を付いて歩いて来る。
どうにもこの首輪、支配人の言った通りに俺の命令を受けるとソレに従う様になる魔法の道具らしい。
付いて来いと俺が言うと素直に誰もが遅れずに一糸乱れず付いて来るのだからちょっと気味が悪い。
(この首輪は後で外すか。さて、じゃあ先に向こうに送り出しちゃいますかね)
まだまだ金貨の枚数は超大量に残っている。先程の購入ではそこまで減った感じもしない、と言った位には。
(まあ無くなったらそこら辺で魔物でも狩ってこっちの国の何処か買い取りしてる店で売却しちまえば良いよな?)
足りなくなったら稼げば良いのだ。別に俺からしてみればコレに何らの苦労も無い。
俺は誰も人が寄り付かない建物の死角にあるちょっとした隙間広場に奴隷たちを待機させる。
そして何時もの通りにワープゲートで移動して「魔改造村」で村長に話を通してまた舞い戻る。
「それじゃあコレを通って行ってくれ。その先に居た人物の言う事を聞いてしっかりと生活する様に。」
短い時間でだったが、村長には奴隷が大量に来る事、その奴隷は首輪を付けていて命令に服従する事、その内にその首輪を全て外して正式にこの村の住人として後に受け入れをする事は説明してある。
その奴隷たちへの命令は暫く村長に任せて面倒を見て貰う事もお願いしておいた。
さて、奴隷たちは俺の命令を受けて勝手に体が動くんだろう。誰もがワープゲートに向かって歩くのだが、今にも悲鳴を上げそうな驚きの顔になっているのに誰も立ち止まらない。
未知の体験をさせられる事に抵抗があっても、首輪の効果で立ち止まれずに無理矢理ワープゲートを通らねばならないのだ。
「うーん、なんか、ゴメンね?」
俺は口先だけで謝罪の言葉を吐いておく。
「さてと、俺は次の店に行きますかね。そこでも丁寧な対応を取ってくれるといいなぁ。」
もしかしたら一見さんお断りだとか、紹介が無いと店にすら入れないとか、見ない顔だと言って俺の事を侮って対応態度悪いとか、あるかもしれないのだ。
一番最初に入ったあの店がもしかしたら一番良識的な店である可能性も無くは無い。
とは言っても他の店に入って見なければ実際そこら辺の事は分かりもしないのだ。
早速俺は次の店に向かう。そして店の中に入ってみた。すると。
「ああん?何だ、貴様は?お前の様な奴が来る所じゃねーぞ?それともまさか身を売りに来たか?ふーん?まあ、見た目は普通か。そこまで大した額にはなりそうも無いな。着ている服の方が売れば幾分か高くつくだろ。」
俺はいきなり店内に入って驚かされた。これ程までに極端な話があるだろうか?と。
いきなり初対面の店員だろう厳つい顔の大柄な男からその様に見られるとは思ってもいなかったし、この様なセリフまでブッ込んでこられるとは思いもよらなかった。
普通はそんな事を思っても口には出さないモノでは無いのか?俺は唖然とさせられて流石に直ぐにコレに言い返せなかった。
「あ?黙ってても分からねーだろうが。見た所服は上等物だし、どこぞの坊ちゃんか?自分の言いなりになる奴隷女をオモチャにして毎日楽しもうって考えのクズ野郎か?おい、どうなんだ?事と次第によっちゃぁ叩き出す時に少々過剰に痛い目を見て貰うんだがよ?」
男は黙っている俺に厳つい顔をさらに歪めて脅す様にしてこちらを睨んで来る。
「いや、普通に奴隷を大量購入しに来ただけだが?初めての客には対応しないとか、紹介状が無いと売らないとか、そんなか?」
「・・・けッ!テメーが幾ら持ってるのか知らねーけどな。大量購入だぁ?ウチは現金でこの場支払いで無けりゃ売らねーぞ?それだけの金、何処にテメーは持ってやがる?揶揄いに来ただけならさっさと出て行け。」
何だかどうにも喧嘩腰。向こうには何かと事情があるのかもしれないが、それは俺には関係無い。
「金があれば良いんだろ?持って来てるから話聞いてくれる?」
俺は近くにあった客の応対用のテーブルだろうソレの上に金貨を並べていく。
コレにこの店の店主?だろう男は「ちッ!」と嫌そうに舌打ちをしてきた。
ちゃんと金さえあれば売買の話をする、そんな風に店主は口にしていたのでこうして実際に金貨を出されて俺を客としてちゃんと対応せざるを得ない事になって機嫌が悪くなっている。
コレに俺は「何で?」としか思えない。店主の事情が分からないから。
「で、どんなのが好みなんだ。それに合致した女を連れて来てやる。言いな。」
「・・・ん?何で?ここ奴隷商でしょ?女限定?」
「あぁ?確かに奴隷を扱ってはいるが、何だ?お前、ウチが専門店だと知らねーで入ってきやがったのか?」
「いや、専門店って・・・もしかしてここって女性しか扱わない店?ああ、ソレで最初にあんな言い方したのか。」
俺を見ていきなりクズ野郎呼ばわりして来た理由が判明した。どうやらここではそう言う事らしい。
「ウチは高い。それこそ御貴族様くらいしか手を出せねー位にな。そん所そこらの女好きの一般クズには勿体ねえ位の上玉揃いだ。大商人と言える輩の子供が稀に買い付けに来る。そう言う奴は大抵下衆だ。俺のこの物言いで大体のクソガキは怒って帰るんだよ。そうで無い奴にだけ渋々俺は奴隷を売ってる。これでも人を見る目はある方だ。お前さんは、どうにも底が知れねえが。」
金貨の山をチラッと見てから店主は俺に向き直る。どうにもこの店主、自分のこの商いに一定の誇りは持っている様子。
明らかにクズと判る野郎に奴隷を売れば、その後どんな扱いをその女性が受けるか分かったものじゃない、そう言う風に考えているらしい。
「うーん?事情を説明した方が手っ取り早いかな?でもなー?」
もしかしたらこの店主の元に居た方がここで扱われている奴隷たちには環境が良いのかもしれないと考えてしまった。
乱暴な態度の店主ではあるが、その実、商品の奴隷に対しての扱いはどうにも丁寧で優しいのではないかと思えてしまった。
なので俺がソレを買って「魔改造村」に連れて行ったら寧ろ今の生活よりも基準が下、などと感じられたらソレはちょっとと思ってしまう。
でも「魔改造村」には女性比率がどうにも少ない。いや、居るには居るのだが、高齢者が多い。
村の未来を考えたら若い女性の数が少し多め、くらいには居て貰わないと人口問題的に少子高齢化が進む。
そう、子供だ。出生率。コレに目を向けないとならない。作った村が直ぐに寂れて無人になるのは勘弁だ。
なのでここで大量購入はしておきたい所だ。何せ上玉だと店主が言った。ならばその美しい女性に男どもはヤル気を出してくれるだろうから。
「取り敢えず全員買いたいんだけど、もろもろを計算して全てでソレが幾らになるか先に教えて貰って良いです?」
「おい、本気だったのか?大量購入とか言いやがるからせいぜいが十人くらいだと思ったが。お前、普通じゃ無いな・・・金は、あるのか?あるんだったら、売らない訳にはいかねえが。こっちも商売だからな。」
店主の判断としてテーブルに出された金貨の数をザっと見ての十人と言う数なんだろう。
金さえ見せれば納得して貰えるのであれば追加で出した方が話が早く先に進む。
ここで俺はテーブルにどんどんと金貨の山を作り上げる。作り上げ続ける。
コレを店主は茫然と眺め続けていたので途中で俺は問う。
「これ位で充分?まだ足りない?」
この店に居る人数を俺は既に把握している。なので大体これ位かなと言う量で金貨を出すのを一旦止めた。
しかし次には店主から鬼の形相でこんな事を問われる。
「キサマ・・・一体何者なんだ?何を一体考えてやがる?どこぞの回し者か?ウチの店を嵌めようッていうのか?と言うか、その量を何処から取り出した・・・?」
店主は凄んで来るが俺は別にそんなの怖くも無い。なので至って冷静にこう告げる。
「金貨が偽物じゃ無いかって疑ってます?あ、それなら全て本物であると確認が取れるまでこれら全てそちらで預かって頂いても良いですよ?」
俺は袋の中をテーブルの上にぶちまける様に逆さにして見せていた。当然インベントリから金貨は出てきている。袋から出てきたように見せかけているだけ。
だけども袋のふくらみ具合からして、そもそもそこまでの大量の金貨が入っている訳が無いと言った感じだったのである。なので店主に疑われた。
だけども俺はそんな事は関係無いとばかりに「偽物じゃ無いよ」と話を逸らしていく。
しかしコレに店主は一枚の金貨を手に取って指でソレを弾いた。それが金貨の山に返って金属のぶつかり合う音がする。たったそれだけで店主は納得の声を上げる。
「・・・全部本物かよ。マジでふざけてやがるなお前さんは。何だ?娼館でも開くつもりなのか?どこぞの世迷言だ?酔狂にも程があるだろ。初期投資にコレだけあったらそんなモノを作ろうとも思わないぞ、普通は。」
そう言ってから店主はカウンターの裏に行ってしまった。どうやら納得してくれたらしい。
金貨同士がぶつかり合った音だけで本物だと判断したその基準は一体何だったのか?ソレが店主の特技なのか?
何だか良く解らないがこの場ではそんな事は気にする必要は無いのだろう。俺はここに只買い物に来ただけなのだから。
そうしてやって来たのは34名の女性たち。身綺麗にされていて酷い扱いを受けていたと言った感じでは無い。
しかし誰もが沈鬱な表情をしているのが気になった。でも、ソレもどうしてなのか少し考えれば分かった。
そもそも彼女たちの買われた先での運命はその身を弄ばれるのが大抵なのだ。ここに揃った全員がその事を気にしているのである。
「何かやり辛いけど、勘違いさせたままで、まあ、良いか。」
俺は取り敢えずこの場に一人足りない事に気が付いた。俺の魔力ソナーで調べた数の35人に足りないのだ。
なのでもう一度調べてみたらどうにもこの店の地下に一人まだ残っている。ソレを店主に聞いてみた。
「なあ、何で一人だけこの場に連れて来なかったんだ?」
「・・・何でソレを知っていやがる?本当に気味が悪いな。何者なんだ一体本当によ・・・」
俺がもう一度その理由を強めに尋ねたら店主はこう答える。
「病気だ。延命してるだけの状態でな。俺としては一思いに死なせてやりてーんだが、苦しませずにな。だけどよ、最後の最後まで足掻いて死ぬって聞かねーのよ、そいつはな。まあ、ソレもあと五日って所か。」
「・・・その女性も連れて来て貰える?その人も買うから。あ、もう重篤状態で歩く事も困難?」
「・・・は?何を言ってるんだ?そんなのまで買ってどうする?もしかして買った後に苦しませずに殺してやるつもりか?同情か?」
「ん?そんなんじゃないよ。全部買うって言ったじゃん?客の求めに応じてくれないの?ちゃんとその分の代金も払うし?と言うか、このテーブルの上に出してる金額はその分も入ってるんだけど?」
店主はその病気の一人を最後まで面倒みるつもりだったんだろう。
そしてその女性はかなりの根性の持ち主である様だ。今日まで病と戦い続けて来ていたのだから。
店主は俺のこの求めに6秒か或いはもっと長かったか。沈黙した後に従業員を二名呼んで最後の一人をここまで運ばせる指示を出した。
そうして暫くすれば担架で運ばれてきたその女性がそのまま床に置かれる。
やつれていて髪も長くパッと見で死んでいるかの様に思えたが、浅い呼吸をしている事が確認できた。今はどうやら体調は安定しているらしい。眠っているのかずっと静かだ。
「・・・これで良いか?良いならこの書類に署名をくれ。ソレと代金の確認ができるまではそのまま待っていてもらう。・・・うん?見ない文字だな。こいつは何て読むんだ?つくづく分からん。まあ、良いだろう。よし、数え終わった。連れて行って良いぞ。店の外に出て行った時点で何か問題や文句があってもウチは責任を負わんからその点を注意しろよ?何か言いたい事があるなら今の内だ。」
連れて行く人数が人数だ。35人の内一人は担架に乗せられているのである。因みに病気の女性を乗せた担架はサービスでそのまま譲ってやると言われた。
こんな人数の行列を作って街中を歩けば目立たない訳が無い。
四名を指名して担架を運ぶ事を命じて俺たちは人の居ない通りに向かう。
しっかりと女性たちの首にはあの例の首輪が付いているのでこのままワープゲートを直ぐに通らせるのに楽ちんだった。
そのままぞろぞろと幽鬼の様な列は俺の命令に従って抵抗を見せずワープゲートを通って行く。
その表情は何かしらの諦観が浮かんでいたのだが、それを一々気にしていてもしょうがない。メンタルケアは後である。
俺はここで一緒に「魔改造村」にそのまま一旦戻った。村長に色々と相談する為である。
「おっと、その前に。もうこっちに来たし、人の目も別に無いからやっちゃうか。」
俺の突然のこの言葉に反応して女性たちが悲鳴でも上げそうな顔に変わった。何かを勘違いしたらしい。
まあいきなり俺の命令で人気の無い通りに向かって歩かせられて、そのままに黒紫の渦の中に入らされたのだから何かしらの勘違いを起こすのは当然だったかもしれない。
ソレにそのワープゲートを通った後は有り得ないと叫びたくなる場所に移動しているのだから、何も知らない、分からない者にとってコレは非常に心臓に悪い事である。
そんな勘違いを無視して俺は担架に乗せられている女性を診察、病巣を取り除く、回復させる、の流れ作業を一瞬で行った。
もちろん魔法で。本当に魔力とは、魔法とは怖ろしいモノである。何せ死の間際の人間を瞬時に健康にしてしまえるのだから。
さてこれで病に伏していた女性はもう大丈夫だろう。だけどもまだ目は覚めない様だ。どうやら深めの眠りに入っている模様。
俺はこのまま女性たちに命令を出して村長宅に向かう。その際に俺に向けられた女性たちの視線には極度の混乱が含まれていてキョロキョロと目が頻繁に左右に行ったり来たり。
それでも首輪の効果のせいで俺の出した命令に従って体は勝手に歩いて行く。絵面が非常にシュールである。
こうして村長宅前にまで来たら一足先に向かわせた奴隷たちが整列して立っていた。
何事かと思っていたら村長が俺の方に近付いて来てこう言う。
「お帰りなさいませ。只今この者たちにはここで暮らす際の注意事項とこれからの生活における禁止事項などを教育しておりました。して、そちらは新しい住民としてお連れになられた者たちですかな?」
「ああ、そうそう。そう言う事。何だけど、首輪を外すのを何時頃にしようかって考えてて。ここでの働き方とか、作業分担、役割分担とか、最初は村長に指示を飛ばして貰って慣れさせてからにした方が良いでしょ?その時期が来たら俺に教えて欲しいんだよね。この首輪の魔道具?どうにも外すのって俺にしかできなさそうなんだ。」
そう、この首輪どうにも「外せない仕様」になっているみたいなのだ。でもそれが俺になら簡単に外せる。
もうその構造は把握してある。と言うか、スマートに外さなくとも無理矢理引っぺがす事も俺には可能であったりする。
なのでそこら辺の所を村長ともう少し突っ込んで話しておこうと考えていた。
「ならば一週間ほどでそのあたりを終わらせてしまいましょう。みっちりと仕事を教え込めばその程度で何とかなりますわいこの人数なら。」
「いや、まだまだどんどん連れて来るから。一週間じゃ足りないと思われるよ?」
「・・・まだお連れになられるので?」
「まだまだお金残ってるし、この広さの土地だし、人が足りないよりも良いでしょ?農作業って重労働だしね。労力が分散させられるなら各人の負担も大きく減らせるでしょ?無理させる気は無いからねー。」
俺のこの言葉に村長はちょっと乾いた笑いをしつつ「そうですな」と同意をしてくれた。
その後はもう幾つか細かい所を村長と話し合って俺はもう一度奴隷を買いに戻る。
そうして店に入っては金を見せて奴隷の購入をして「魔改造村」に連れて行く。
俺が魔力ソナーで見つけた奴隷商は全て回り終えて購入した奴隷その全てを送り届け完了である。
「まさかの残った金貨が一枚とか。まあ、良いか。足りたから。さて、これで何かこの国の名物でもあれば食べてみたいんだけど。」
腹が減った。俺は食事処を探して暫く歩くのだが、どうにも酒場や屋台は見つけられたが、それらに惹かれる要素を感じられずに前を素通り。
因みに村長には連れて行った奴隷たちに先ず食事を与える様に指示してあったが、結構な人数を押し付けてしまったので炊き出しみたいな状態になっているかもしれない。200前後くらいだろうか?途中で数えるのを止めていた。
まあプロパンガスとガスコンロ台、ソレと調理器具などは纏めて大量に与えておいたので大丈夫だろう。食料の方もまだまだ余裕があったはずだ。
そもそも俺は一ヵ月をみっちりとあっちこっちに人脈を使ってあの村に何でもカンでもブチ込んでいる。
大地に魔力を浸透させて一気に固まっていた土をほぐす。そこに取り敢えず腐葉土やら灰やらを大量に混ぜ込んで、コレも一気に魔力を使って馴染ませていく。
それでも元々は乾いた土だったので水気が足りずに直ぐに乾かない様にと大量の水を撒いた。それが大変だった。
調子に乗って広大な範囲を耕してしまっていたので全体に満遍無く水撒きするのは時間が掛かっている。
他にはミネラル補給としての塩分が無いとマズいと思って海水をインベントリにガッポリと入れて塩分だけ取り出すと言う妙な方法を思いついて実行して大量の塩ゲットなど。
食糧問題にはワークマンの伝手で農業関係の研究者を紹介して貰って招き。
大規模農業の経験者をクスイやサンネルに紹介して貰って村に連れて来て村人たちに指導して貰ったり。
農具や調理器具、農産物の苗や種籾、初期の段階における食料購入などはマンスリの店で仕入れたし。その他には植林用の木々もあっちこっちから集めて来ては植林。果樹を取って来て植えて果樹園を作ってみたり。
畜産関係で言えばあの雪の町でのムゥフィーグを融通して貰ったりもしている。
ダンガイドリもこちらに連れて来ている。卵ゲット用に多めにこちらに連れて来て最初の内は俺が世話をして餌の分量やら種類、運動は一日にどれ位させれば良いかなどを研究調査もしたりしている。
それらのノウハウを資料に纏めて村人に見せて理解させさせて、と。かなりの急ピッチであの「魔改造村」が出来上がっている。
その為に方々を飛び回った。じゃんじゃん湯水の様に金を注ぎ込んであの荒れた大地を作り変えているのだ。
だってクスイに俺の口座の残高を聞いたら「宇宙」に意識が飛びかねない桁になっていたのだからしょうがない。
コレを社会に放出せねば貯まる一方になってしまう。コレを使わずにいれば市場が混乱に陥りかねない、そんな危機感を抱いたくらいだ。
使っても使っても減らない、金を天下にジャバジャバと回しても一向に桁が小さくならない数字に俺は途中で自棄を起こして孤児院経営に寄付、教会に寄付、冒険者ギルドに寄付、無利子無担保で商売を始めたい者たちに投資貸付などをしまくる、などをした。そうして金をばら撒いてもそれでも残高が怖いくらいに残ってしまっている状態である。普通じゃ無い。
そうやって必死に金を使う俺の姿はさぞ滑稽だった事だろう。そもそも俺はこの世界の金に興味が無かったのでそこら辺の執着も無い。
俺のこの金遣いの仕方にクスイは最後の方では最終的に表情が「無」になってしまっていたくらいである。
そんな事を思い出しながら手の中にある金貨を指で弾いてピンと鳴らす。
そこで突如思い出した。俺の「魔王」の件である。村の件が一段落したなと一息ついたらふと思い出してしまった。
「あー、メリアリネス、怒ってるかなぁ?暫く待ってて、なんて言っておいてあったけど。準備とか用意とかはとっくに終わってたり?」
自分が「魔王」と呼ばれていた事などすっかりと忘れていた俺は思わず苦笑いをしてしまった。
行かない訳にはいかない。何せ一度もメリアリネスに経過報告と言うか、情報と言うか、そう言ったモノを話しに行っていない。
「俺が再生させた村に攻め入られても面白くも何とも無いからなぁ。ちょっと戻って報連相か。取り合えず、攻めるのはまだまだ待って貰うか。」
俺は村に壁を作り出してある。しかもかなりの長大なモノを。ノトリー連国側にソレがある。新選民教国側には無い。なので軍が進んできたら俺の開拓した土地を見て驚きで進軍を止めると思うのだ。
占領などと言った真似をされても面白くない。なので取り敢えずノトリー連国に向けての軍が進んで来ていないかを確かめながら戻った方が良いだろう。
メリアリネスが俺を待たずに軍を出発させていたりするといけない。俺がワープゲートを通って城に直接行ってしまうと行き違いになる可能性も無くはない。
とは言っても今までに別段そう言った軍が進んで来ていると言った気配を村では感じなかった。これまでずっと軍は出動していないと思われる。
俺は串肉を売っている屋台で二本ソレを買い食いする。店の親父に金貨を放って「釣りは要らないから」と言って支払いを済ませて直ぐ串肉をハグハグと食べて腹を満たして一旦「魔改造村」にワープゲートで戻った。
戻ったら直ぐに空を飛んで新選民教国へと飛んで行く。メリアリネスに何と事情を説明しようかと悩みながら。
「いや、別に誰に憚る事無く、引け目も後悔も、後ろめたさも無いけどね。許可なんて誰が与える訳で無し。」
死に片足突っ込んでいた誰にも助けて貰えずに見捨てられた村である。
ソレを救うのに誰に許可など要るのだろうか?「捨てる神あれば拾う神あり」である。
手間を掛けて俺が救った村なのだ。そうなったら所有権は俺のモノだろう。それを横からちょっかい掛けてくる奴が居たらぶちのめすつもりだ。
そんな真似をしてくるような奴は盗っ人と変わらない。遠慮無く叩き潰すつもりである。
「ソレがノトリー連国であろうが、新選民教国だろうが、暴力で奪おうとしてきたら問答無用だ。」