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何処も同じで、やる事は変わらず

 移動完了、しかしまだまだ足りない。もっともっと人を集めないと「魔改造村」がスカスカである。

 大農耕地帯と化してしまった、と言うか、やり過ぎてそうなってしまった土地の恵みを余す所無く収穫するにはかなりの人の数が要る。


「と言う訳でやって来ました次の町。・・・先に魔力ソナーで調査してみたけど、変わらんぞ?」


 この町にもやはり路上生活者がワンサカ。しかもこちらの町は子供の数が多い。

 そう言ったストリートチルドレンがどうやら今日を生き延びるのに必死と言った感じである。


「あ、スリやってる・・・アカンやろソレは。まあでも、生きるには必要か。死ぬよりマシで、捕まれば死んだ方がマシな目に遭うかもしれないけど。しょうがないよな。他に手が無けりゃ。」


 金が無けりゃ飯は買えない。だけど働いて金を得られる手段が無い。こうした家なき子の路上生活者を雇ってくれる所なんて無いのだろう。

 あったらこんなケチな犯罪をせずとも、貧しくても生きていけるはずだから。

 俺はそのスリをやった男の子を追った。もちろん捕まえて役人に引き渡す、などと言った事をする為じゃ無い。

 この子の属するコミュニティがあると考えての事だ。と言うか、ある。

 既にもう今この町の隅々まで魔力ソナーで調べてあるので路地裏に人が多く集まっている場所はもう発見してあるのだ。


 今この子はそこに向かって走っている。しかしその場所に辿り着く前にその子供の前に成人した男二人が立ち塞がった。

 しかもその二人、別に浮浪者と言った身なりでは無い。腰には剣を佩いている。


「おう、ご苦労だったな。ほれ、いつもの様に死にたく無けりゃこっちにソレを渡しな。」


 どうやらこの子からいつも金を巻き上げている様だ。相手は大人、そして剣を持っている相手に対して子供は無力だ。

 子供は俯いて悔しそうに素直に男の言う事を聞いてその手に持つ小銭袋を差し出した。


「おうおう、良い子ちゃんだな。これからも俺たちの為にせいぜい稼いで来いよ?命が要らなきゃ今すぐに俺たちがぶっ殺してやんゼ?ぎゃははははは!」


 男たちは汚い笑い声を上げながら去って行った。残された子供は悔しさで「畜生」と唸っている。


「ねえ、君、今の生活から抜け出したくはないかい?君だけじゃない。君の仲間も一緒にだ。どうだい?」


 俺が空気を読まずに背後からそんな言葉を掛けてしまったせいでその子を驚かせてしまった。

 勢い良くこちらに振り向いたその子の顔はもの凄く険しい表情になってしまっている。


「ああ、すまない。別に君から金を巻き上げようなんて気はサラサラ無いんだ。俺は君たちを、そうだなー。雇いたい?働けば働く程にしっかりとお腹一杯にご飯が食べられる。そんな場所に連れて行ってあげようって感じ?」


 胡散臭いし、到底この言葉通りに信じられる様な要素が何処にも無い、そんな言葉足らずな説明を俺は口にしてしまう。

 と言うか、多分俺が詳細な説明をした所でソレもきっと受け入れて貰えない、ちゃんと理解しては貰えないだろう。それが解っているのでどうにも説明が雑になってしまう。


「・・・くそっ!」


 男の子はどうにも俺の事を何と勘違いしたのか?いきなり走り出して逃げてしまった。


「おぉ・・・マジかよ。鬼ごっこしないとならんのか?」


 別に負ける要素は一切無いのだが、しかしこの追いかけっこをやる必要が俺には一切無い。


「今の俺の説明で何処に逃げ出す要素があった?うーん?しょうがない。先回りしてそっちの説得から始めるか。」


 俺は空を自由に飛べてしまうのでその子の向かった場所に先回りしてしまう事にした。

 ぴゅーっと飛んで、パパッと着地。その広場にはやはりボロボロの服を着た痩せ細った子供たち。十五名。

 痩せていてどれ位の年齢なのかが察せられない。栄養が足りなくて成長がしっかりとできていないと見られるので平均年齢がどれ位なのかは分からない。


「あちゃー。やっぱりこうなってるんだな。さて、じゃあ子供の心をガシッと鷲掴みして手っ取り早く掌握してしまいますかねー。」


 突然現れた俺に驚く子供たちを無視して食事の用意である。いつもの俺特性スープだ。

 一応まだ子供達には気力は見えるのでそこにパンも付けて出す。テーブルと椅子を用意して席に着いた者から食べて良いと子供たちに言って聞かせる。

 するとゆっくりとだが一人、また一人と席に着いて行く。そして子供達は俺と目の前の食事とで視線を行ったり来たりさせる。


「ちゃんと食べる前の挨拶をしようか。そしたら遠慮無く食べて良いぞ。おかわりもある。どんどん食べな。」


 人は三大欲求の前には無力である。しかもソレが子供であればなおさら素直だ。

 コレを我慢して食事に手を付けないと言った事は相当な精神力を必要とするだろう。

 そんな心の強さを子供が持ち得るはずが無い。席に座った子供の誰かの「ゴクリ」と唾を飲み込む音が派手に静寂の中に響いたと思ったら子供達は一斉にがむしゃらに食事を開始した。


「いただきますの一言も無しかい。まあ、良いさ。お?一人だけ食べる前に両手を合わせて祈ってる子が居るな。ふむふむ?」


 どうやら他の子たちよりも教育が行き届いているらしいその子は。行儀良くスプーンでスープを掬って口元に持っていき上品に飲んでいる。女の子だ。

 他の子たちは俺が準備しておいたスプーンなんて使っていない誰一人として。器をワイルドに両手で持ち上げて口に持って行って皆ガブ飲みである。飲みやすい温度で提供しておいて良かった。そうで無ければ火傷させてしまう所であった。


 そんな食事の最中に跳び込んできて叫ぶ者が現れる。


「クソ!お前たち、今さっきここ等じゃ見かけない変な男が俺に突然声を掛けてきやがった。気を付けろ。って!何でここにそいつが居るんだ!?・・・はへッ?」


 先程の逃げた男の子だ。どうやら俺の事を注意喚起したかったらしいのだが。

 今のこの場は子供達の食事をしている喧騒の方が大きくて誰もその事を聞いちゃいない。

 そして男の子も俺がここに居る事を驚いた後には、幸せな顔で食事をして言る子供たちを視界に入れて間抜けな顔に変わる。


 おかわりの声がそこかしこで上がる中、この場で冷静なのは、あのお行儀の良い女の子だけだった。


「おかえり。ソレで、収穫は?・・・やっぱりあいつらに奪われた?」


「ってオイ!?何でお前はそんなに冷静なんだよ!シリー!こいつはきっと奴隷商人だぞ!俺たちを攫って売り払う気だ!」


 少年と少女がそんな会話をする。どうやら少女の方はシリーというらしい。と言うか噛み合っていない話の内容。ある意味シュールだった。


「うーん?やっぱりあいつらをどうにか犠牲を出してでも殺さないと何時まで経っても私たちは奪われ続けるだけね。今度しっかりと計画を立てないと。」


「何で食いながらそんな事を考えてんだよ!って言うか!これは一体どう言うこった!?」


 二人は未だにそんな会話を続けているが、俺はおかわりをしてくる子供たちの相手をしていてそこに参加できない。

 どうやらこの場の纏め役はこの二人なのだろう。話を付けるなら落ち着いてからでも遅く無いが。


「はいはいは、皆順番に。お行儀良く待てない子には上げないぞー?ほらほら、パンも無くなったりしないから慌てずゆっくり食べろよー?」


 俺がそんな対応をしている事をどうにも受け入れがたいのだろうか?少年が複雑な顔でこちらを睨んで来るのだが。


「あ、私もおかわり良いですか?有難うございます。」


 シリーの方はコレを全く気にしない。どうにも肝が据わっている。


「こんな怪しい奴の施しなんて受けてるんじゃねーよ!?おい!お前は何のつもりでこんな事を!」


 シリーがおかわりをする事にツッコミを入れる少年。そして俺にもツッコミを入れて来たのだが。コレに俺の返事はこうだ。


「ねえ、君、今の生活から抜け出したくはないかい?君だけじゃない。君の仲間も一緒にだ。どうだい?ああ、すまない。別に君から金を巻き上げようなんて気はサラサラ無いんだ。俺は君たちを、そうだなー。雇いたい?働けば働く程にしっかりとお腹一杯にご飯が食べられる。そんな場所に連れて行ってあげようって感じ?」


 俺は少年に最初に声を掛けた時の内容を一言一句変えずにもう一度そのまま口にした。

 コレに少年が「うげっ!?」と反応して来たのでどうやらその内容をキッチリと覚えていた模様。しかも全く文言も同じである事も分かっている様で俺の事をまるで「気持ち悪い奴」と言いたげな目で見てきている。

 しかしこの言葉に返事をしたのはシリーの方だった。


「あら?かなりの条件ですね。本当に信じられないくらい。私たちを助けようなんて人、今まで一人だって現れた事は無かった。貴方は一体何者なんですか?それに、働けば働く程って、どんな労働をさせられるの?」


「おい!こんな疑わしい奴とマトモに話すなよ!」


 少年は警戒心をまだまだ解く気は無い様でシリーを怒鳴る様にして言葉を吐くのだが。


「あら?毎度の事に奴らの言う事を何時も聞いているのは、言われた通りにしているのはジャリルじゃない。そんな奴らよりもこの人の方が信じられるってものよ。お金をいつも脅し取られて、それで命があるだけマシ、何て言い訳で逃げ生きるしか無い現状を続けていたって、このままじゃ近く全員衰弱して死ぬだけよ。今ここで動け無きゃ生きる道はやって来ない。ジャリル、反論があるならちゃんとハッキリと言って。だけどソレにしっかりとした根拠が無ければ何ら価値は無いわ。私は自分の将来をここで決める。それを止める権利はジャリルには無い。」


 冷たい視線でシリーが睨むとジャリルと呼ばれた少年は怯えた様な、苦しい様な、そんな表情になって黙ってしまった。


「済まないけど、この町にはこんな子供がもっと沢山いるよね?その子たちも纏めて連れて行きたいんだけど。ここにそう言った子たちを集めてくれないか?一応は希望者全員を連れて行くつもりなんだ。」


 この俺の言葉にシリーはニッコリと笑みを浮かべ、ジャリルはキッとこちらを睨んで来る。


「分かりました。なるべく集めてきます。夢も希望も無いこんな場所に居続けたって人生詰んでますから。言う通りにしますよ。食事を提供して貰ってますし、それ位の仕事はします。」


 ふふふと笑ってそんな返事をくれるシリー。余裕の態度である。

 ソレに俺は人生はまだまだ先が長いと言葉を返す。


「いやいや、これからだよ、君たちが将来に夢も希望も持てるようになる未来はね。さて、それじゃ今からお願いできる?この近場の範囲だけで良いよ。結構この町広いし、俺はもっと広範囲をやってくるからさ。ああそうだ。集めた子供達も腹を空かせてるだろうからコレを食べさせておいて。スープも鍋ごとここに置いて行くから対応宜しく。」


 こうしてこの町の浮浪児集めを始める。魔力ソナーで既に目ぼしを付けてある俺はさっさと空を飛んで移動だ。

 その際にはしっかりと目立たない様に魔法で光学迷彩を施して透明化をしておく。

 飛び立つ際にはこの場の子供たちに見られているけれど、まあ良いだろう。今回の件が済んだらもう二度と会う事も無いだろうし。

 ソレに一々気を使ってこちらが気苦労を背負うよりかは、こうして最初から俺の力をバラして「言う事聞かないと大変だぞ?」と暗に脅しに使ってしまえば良いのだ。


(さて、町の外縁から行って見ますかね。今にも死にそうな人は・・・と)


 別に連れて行くのは子供だけに絞らない。シリーには子供を集めてくれとは言ったが。

 取り敢えずこの町は路上生活している数に子供が多いと言うだけで大人も老人も居る。

 そう言った人たちも余さずチェックしながら俺はこの町の空を飛び回った。


 そうやって回収したのは五十人以上。結構多いのか?はたまた思ったよりも少ないのか?

 町の規模からしてコレだけ?と思ったのだが、まあ多少の選別はしていた。

 見た目がそもそもヤバイ奴は声を掛けなかった。この場合の「ヤバイ」はどう見ても犯罪者にしか見えない見た目の男たちだ。

 ジャリルから金を巻き上げていた様な奴らの見た目と共通している部分がある者たちと言うべきか。雰囲気が同じとか、纏う空気と言うか。そう言った者たちには声を掛けていない。


 それ以外の大人たちには声を掛けた後に食事を提供して話を聞いて貰い、そこで納得しない、話を信じないと言う者たちにはそれ以上の事はしなかった。

 ついて来てくれるまで説得する、何て事をする気は無い。そこまでしてやる義理も無いし、何処までもお人好し、何て性格でも無い。

 まあそう言った対応は単独でいた大人たちだけで、子供には違う。

 食事をさせて落ち着かせた後はざっくりと説明をしてワープゲートにポイッとな、である。もちろんジャリルやシリーが居た広場に移動させただけである。いきなり「魔改造村」に連れて行ったりはしない。

 一々俺が子供達を案内したりしていたら時間が幾ら掛かる事やら知れ無いのでワープゲートを使って一発だ。後の事何て気にしない。


 俺の説明を聞いて移住を受け入れた大人にはパパッと地図を持たせて集合場所の広場に向かわせた。

 中には赤子を抱えた母親もいて、食事だけじゃ無くてミルクも提供している。赤子は衰弱はしておらず手遅れと言った様子では無かったのでこれには流石に俺も安堵の溜息を吐いた。

 ここに来るのがもし、もっと遅くなって居たらこの赤ちゃんは死んでいたかもしれなかったと考えて、間に合って良かったとホッとした。


「はい、では皆さん全員集まった様子ですので移動を開始します。移住先で問題を起こしたら叩き出すので仲良く暮らして行ってくださいね。それじゃあ先に俺が行って担当者に説明して受け入れ準備をして貰って来るんで。ああ、移住先では子供たちもちゃんと働くんだぞ?じゃ無いとご飯は食べさせません。良いかい?働かない奴は食べる事ができなぞ?それじゃ行ってくるからちょっとの間ここで待っていて。」


 ワープゲートで毎度と同じく先に俺だけ「魔改造村」に行って村長に話をしに行く。

 ここで俺の話に村長は毎度の事反発もせずに受け入れ態勢を整えると言ってくれるのだが。


「あのー、別に何か異論や反論があれば言ってくれても良いんですよ?まあそうは言ってもこの土地の広さだとまだまだ人が足り無さ過ぎだし移住者連れて来ますけどね。」


「貴方様の為さる事に一切の不満はありません。どうぞどんどんとお連れになられてください。寧ろそうしないと貴方様の建てられた空き家の方が多いくらいです。コレだけの豊かな土地で御座います。より多くの者たちと分かち合いたく。」


 取り敢えずそう言う事らしいので俺は移住者をワープゲートで移動させる為に一度戻る。

 広場に戻って来た俺を見て大人たちはギョッとし、子供達はポケッとした顔で呆けて、ジャリルはドン引きした顔に、シリーはニコニコとしている。

 この中で一番肝が据わっているのはシリーだろう。女は度胸、と言う事なのだろうかコレが。


 そうして全員をワープゲートに通すのに少々の時間は掛かったが、無事に「魔改造村」に移動完了である。


 その少々の言うのは、最後の最後でチキンだったジャリルに掛かった時間である。他の誰もが素直にワープゲートを通っている。

 ジャリルはあんなに突っかかって来ていたあの威勢はどこへやらだった。ワープゲートの前までは行くのだが、入ろうとはせずにじっと立ち止まったまま。

 と言うか、ジャリルからは移住の件についての「イエス・ノー」の答えが聞けていないままだ未だに。

 だからジャリルだけ残してさっさとワープゲートを閉じてしまっても良かったのだが。

 そんなジャリルにワープゲートを潜らせたのがシリーだった。その時のセリフが。


「何処までも意気地無しだよねジャリルは昔から。ここまで来て入る度胸もできない、皆に続いてついて行く事もできないとか。呆れちゃうわ。はぁ~、それじゃあ私がその背中を押してあげる。」


 と言うや否や、シリーはジャリルから距離を即座に取ると直ぐに勢いを付けた華麗なる飛び蹴りをそのジャリルの背中にクリーンヒットさせたのである。

 ぶっ飛んで行きながらワープゲートを潜ったジャリルの直ぐ後にシリーが何事も無かった様にしてワープゲートを通った時には流石に俺も呆気に取られた。

 その後は気を直ぐに取り直して全員が移動し終わった事を確認してからワープゲートを閉じた。

 まだまだ俺は移住者集めをせねばならない身だ。次の町に移動である。


 そうしてまた飛行してそこから隣の町に到着したのだが、この町ではどうやら路上生活者と見られる者が発見できなかった。

 しかし町の様子は活気など皆無。そこに人々の暮らしの喧騒は聞こえてこない。

 誰もが誰も余計なエネルギーを使わない様にと生活をしている風に感じられた。

 上空からの観察と魔力ソナーで調べた結果だとこの町はどうやら辛うじて破綻していないと言った様子。


「この町はどうするか。うーむ?生活の苦しい家庭を一つずつ訪ねて「移住しないか?」って勧誘訪問?それは・・・ヤル気になれないな。」


 今回のこの町での移住者集めは断念する事にした。俺は次に向かう事にする。


「とは言ってもどうやら次は首都?らしいんだけど。どうするかなー。」


 町の規模的にどうにもその予想なのだが。俺はこのノトリー連国の地理も歴史も何も知らない。

 なので次に見込みが無かったらここで移住者集めは一旦止めるつもりでいる。


 そうして空を飛び続ければあっと言う間に目的地に到着だ。そしてすかさず俺は魔力ソナーで隅々まで調査を開始。


「うん、どうやらここも路上からの収集は無いな。けど、複数個所、人の異常に集まってる場所があるけど。建物の中やら?地下やら?」


 妙に嫌な予感がした。そしてどうにもコレが俺の予想通りになるとすれば。


「もしかして・・・奴隷かぁ。奴隷商?うーん?どうしようかぁ・・・」


 俺は別に善人では無い。なので「奴隷だから」と言った理由だけでコレを救い出す気にはならない。けれどもこれをほっといて無視するのは寝ざめが悪くなる。

 ソレに俺の今の目的にとってコレは悪く無い条件だった。人身売買には抵抗感を覚えるが。


「只、そうだな。金が必要か。そうなると・・・ん?そっか。傭兵組合。」


 ここで俺は一度、新選民教国に戻る事にした。既にここまで来たならば再びやって来るのにワープゲートを使えば一瞬だ。戻る事に何らの労力も無い。


 こうして俺は傭兵組合の裏手、人気の無い場所にワープゲートで移動してから正面に回る。そして玄関から入っての俺の第一声は。


「すみませーん。お金受け取りに決ましたー。」


 コレにギョッとしてこちらを見て来る職員たちと、何だ何だと言った感じな微妙な表情の傭兵たち。

 慌てた様子で一人の職員がこちらに走り寄って来て小声で「こちらに」と言って俺を職員専用通路に案内する。

 そしてどうにも組合金庫と見られる金属の大きな箱が設置された部屋に入らされる。


「担当を呼んで参りますのでこちらで暫くお待ちください。」


 どうやら俺の事は既に周知されていてこちらが事情説明などをせずとも用件は分かっている模様だった。

 俺は以前に渡されていた証書を取り出してテーブルに置いておいた。これが無いとお金を受け取れないのである。

 そうして待っていれば暫く所じゃ無く即座にこの部屋にその担当者だろう者がやって来た。そして先ず俺を見て。


「お前か!非常識な要求をしてきた奴って言うのは!全額現金だと!?ふざけるなよクソが!どれだけ俺たちが苦労して金を搔き集めたと思ってやがる!ああーもう!組合証を作る気は無いとか言いやがったらしいな?あぁ!?こっちの手間ばかり増やす様な事をするなってーの!」


 担当職員はもの凄く不機嫌だ。どうやら全額を耳を揃えてキッチリと支払う為に相当に苦労した様である。

 俺を目の前にしてこれ程に怒りを即座にぶつけてくるくらいだ。相当に気の強い人物なんだろう。

 まるで親の敵にでも会ったかの様に激しい愚痴がマシンガンの如く今も俺に向けて放たれている。

 ソレがようやっと終わってから担当者は締めにこう言った。


「はぁ~・・・全部言ってやったぞ!こん畜生!どうだ!首にするならするで受けて立つぞゴラァ!」


「あの、もう良いですかね?俺は受け取りが済んだらすぐに出て行くんで。急ぎって訳でも無いですけど、他に用事があるんで手短に終わらせたいんですけどね?」


「・・・はあ?お前どれだけの量の共通交易金貨だと思ってやがる?この金庫の中身全てがお前への支払い用の金貨で詰まってんだぞ?それをお前がそのまま持って行くんだろうが?そのやり取りと回収作業をお前一人でやるのにどれだけ時間が掛かると?重さがどれだけあると思ってやがる?・・・ああ?何処に金貨を入れて持って帰るつもりだったんだ?手ぶらじゃねーか。」


「あの、その金貨ってそのままノトリー連国で使用可能って事で認識で良いんですかね?」


「何だぁ?お前そんな事も知らなかったのか?まあいい、そうだ、使える。向こうで使った場合は釣りで返って来るのは向こうの貨幣だ。こちらで使って釣りが出る場合はこっちの貨幣でと言った具合だな。共通なのは金貨だけでソレ以外の貨幣に共通は無い。」


 ザックリと説明を受けて俺は納得した。その情報だけあれば今回の事に関して別に何ら問題は起きないだろう。

 こうして俺は担当が開けた金庫の中身を一気にインベントリに仕舞ってしまう。

 ソレを見られていたのだが、別に気にしない。取り敢えず目撃者はこの担当だけだし、この組合にお世話になる事は今後あるかどうかも分からない。

 唖然としているままで動かなくなった担当に俺は声を掛ける。


「これで取引は全部終わりで良いんですかね?署名を入れなきゃいけない書類とかは?無い?じゃあコレでお暇させて貰いますね。それじゃあお疲れさまでした。」


 俺はこうして部屋を出る。大きく目と口を開きっぱなしの担当者に見送られながら。

 そのまま組合を出てまた人気の無い通りに向かってそのままワープゲートでノトリー連国に戻る。


「さて、それじゃあ複数ある奴隷商って事で、何処から回った方が良いかな?うーん?お金、足りるかね?」


 多少の選別はするつもりだ。買うにしたって凶悪犯罪者とかまで購入したくはない。


「まあでも俺がその気になったら魔法で誰にもバレずに攫っていく事もできるんだけどね。」


 お金で解決できる問題ならば、ソレで済ませられるならば済ませば良い。俺は余計な騒動を起こす気なんてサラサラ無い。

 お金を惜しむ気持ちも無いし、お金を出し渋るつもりも無い。攫うと言うのは最終手段である。

 ここで相当数の奴隷を買い付けて「魔改造村」に送れば恐らくは適度な人口になって俺の仕事もそこで全て終わりと言った具合にできる見込みである。なので今回で一気に終わらせるつもりだ。


 しかしここで不安なのが物価、と言うか、相場だ。俺はこのノトリー連国の「奴隷相場」と言うのが全く分からない。

 この共通交易金貨一枚で幾ら分の価値で、奴隷がそこで幾らで買えるのか?と言ったリサーチをしていないのである。


「うーん?コレは幾つかの店で直接相場を聞いて回って計算するか?いや、別に金はどうだって良いか。さっさと仕事を済ませちまおう。」


 こうして俺は一番近場にあったその店に早速向かう。そして到着してその見た目に驚いた。

 勝手な妄想で「奴隷商」と言う商売に、暗くて、治安が悪くて、金の亡者がその主人で、人を人と思っちゃいない悪党が経営しているモノだと思っていたのだ。

 でもそこは違った。もの凄く整った外観の商館だった。俺はちょっとの間、店の前でそれに呆けてしまった。

 別段豪華で派手と言った様子でも無く、寂れていると言った感じでも無い。ごく普通に見える商館。


「マジか。イメージと全然違ったわ。・・・他の所はどうなってんだろ?先に何軒か見ておこうかな。」


 俺は別の場所に建つ奴隷商館に向かってみた。だけどもそこもやはり小奇麗な店構え。


「人気の無い場所にひっそりと隠れて商売しているとか言ったイメージだったんだけど。なに、コレ?」


 俺はどうやら勝手な勘違いをしていた様だが、しかし中がどうなっているのかはまだ分からない。

 人身売買と言った言葉の響きでどうやら俺は犯罪者集団と勝手に思い込んでいたような節がある。

 しかしどうにも店の小奇麗さからしてしっかりと後ろめたさの無い商売なのだと言うのが何となく伝わって来る。


「国が認可してしっかり管理はしてるのかな?うーん?そうじゃ無かったら無いでそれもソレだけど。今の俺にはそこら辺の所は関係無いか。気を取り直して入ってみるか。そうしないと何時まで経っても始まらん。」

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