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強迫はしない、脅迫はした

 説明会と言っても別に大した内容を語った訳じゃ無い。只々俺が開拓した土地に移り住んで欲しいと願っただけだ。

 そこは広大な畑が整備されていて管理に人手が足りないので、こうして終わりそうな村々から人手を搔き集める第一陣として向かって欲しいと伝えた。

 この村で死ぬ覚悟である者たちに無理強いはしないので、各人一人一人がしっかりと自分の意志で移住を決めて欲しい事。

 村全体の多数決などと言う決定が出ても、それに流される行動を取らない事をしっかりと村民全員に言って聞かせる。

 自分の生き死にを自らの後悔の無いよう決めて欲しいと言っておいた。


「さて、覚悟が決まった方からこの中に入って行ってください。通り抜けた後もその場に止まらずに離れていてくださいね。同じく覚悟を決めた人が出て来るので立ち止まっていると邪魔になります。では、安全と言うのを保障するのに一度自分が入って見せるので。」


 俺はワープゲートを出してそこに入って見せた。そして完全に一度通った後にまた再び戻って説明しておく。


「さて、コレは俺が開拓した土地に繋がっているので直ぐに移動ができます。移住の覚悟ができた方から自分の家から引っ越し荷物を持ってこちらを通って来てください。あ、俺は先に向こうに話を通して来ますので後でまた様子を見に来ます。コレはこのままにしておくのでご自由に自分の気持ちが固まった時に通ってくれればいいです。では後程また。」


 俺はワープゲートをそのままにして開拓村の方に歩き出す。するとそこには俺を見送ってくれた村長が。


「お帰りなさいませ。収穫は御座いましたか?」


「ああ、ソウデスネ。移住者がこれからあの、ほらあそこ。そこからやって来る手配になってますので、そこでその移住者たちを集めてこれからの話し合いをしてください。老齢の方しか居ませんでしたので、これからまた他の村や町に向かってみようかと思います。やっぱり若者が居ないと将来性が無いですからね、幾ら土地が豊かでも。と言う訳で、話し合いの際に性根の腐った奴が居たら俺に回してくれればソイツは捨てて来るので隔離しておいて貰えれば後程対処します。」


「畏まりました。貴方様の言う通りに致します。」


 こうして俺はまたワープゲートを通って勧誘している村に戻った。しかし今の所村人に動きが全く見られない。


「村長さん、コレはまだ時間が欲しいって事で?」


「直ぐに覚悟なんてできるはずが無いだろうに。アンタが得体の知れ無い力を持つ存在だと言うのは、嫌でも分からされたさ。しかしね、それとこれとは別なのさ。」


「ああ、生きる道があるなら目の前に見せて欲しいって言ったのは村長さんだけですもんね。他はそうじゃないと。でも俺はもう食事の提供はしませんよ?このまま衰退して死んでいくのがお好みならそれもソレです。俺は別の所にも訊ねて移住の件を提案するので。ここで人を確保できなかったとしても構わないんです。誰もが既にこの村の行く末を思って一度は死ぬ覚悟ってのを持った事があるって言うのなら、移住する事くらいなんて事無いでしょう?大切にしなければならないのは、「村に残りたい」と言う故郷を思うその気持ちですか?それとも「死にたくない」と言う本能ですか?まだこの村が復興できる見込みがあるのならここに残っても良いでしょう。ただし、その復興に向けて努力できる人ならね。その思いに賛同して協力し行動できる者ならね。でも、これまでにそんな村人、居ました?皆諦めてたんでしょ?でも行動をしなかった訳じゃ無い。その努力が実らずに居るから絶望して徐々に死んでいく選択肢を選んだ。実現が不可能な事ばかりが行く手を塞いで虚しい気持ちに沈んで諦めた。そうじゃ無いんですか?ソレを覆す機会を外からやって来た俺から与えられたんですよ?ここでそれに飛びつけ無いんじゃ俺からはもう助ける事なんてしません。そのまま自身の村への執着の思いに潰されて、現状から飛び出す勇気を持てなかった事の後悔を抱えて死ねば良い、俺はそう思いますよ。」


 俺のこの長々しい脅しはこの場の全員の耳に入った。だからだろう。誰もがその顔を青褪めさせる。

 上げて落とす、食事を与えて安堵させ、希望を見せて「その先は無い」と脅す。俺のこの移住の件に飛びつけないのであれば「死」しか訪れない事をハッキリと突きつける。

 ここで「破れかぶれ」になれない者はこの村に置いて行く。そこら辺はもう決定済みだ。

 擦り切れた、もう既になけなしの精神力をここで振り絞れない者は要らない。そう言う奴は何処に行っても、何と説得しても、何時までもグジグジといじけてばかりで時間の無駄だから。邪魔になるだけなのだ。


 村人の進退を極めさせる為に俺は脅し付けたのだ。ここで幾ら時間を掛けてもしょうがない。まだまだこれから回ろうと思っている村、町は残っている。

 一つの場所に何時までも掛けていられる時間は無い。俺自身には別に時間の余裕はあるが、限界を迎えている村、町にはソレがあるはず無い。

 こうして移住提案して回るのにも、そして説明をするにも時間が必要になるのだからここで余計な時間を掛けても居られない。


「時間制限でも掛けましょうか?死ぬ覚悟ができていたのに、正体不明、未知に飛び込むのはその死ぬ覚悟よりも強大なんですか?死ねば終わりです。全て、何もかも。それに抗う気概もありませんか?・・・それじゃあこの砂が全て落ち切るまでに決めてください。俺は他にもここと同じ様な「死ぬ未来」しかない村や町に行かなきゃならないんで。それらを回って定員限界まで集まったら移住募集は終了です。ソレと、集まらなかったとしても、ここに俺はもう二度と戻らないんで悪しからず。」


 ここと同じの場所なんて幾らでもあると追加で脅す。そして今しかチャンスは無いとも。

 ここまでの脅しは酷ではあるし、過剰だろう。だがこれでも動けない者はもう俺にはどうしようもない。

 無理矢理連れて行くと言った方法も俺には取れる。しかしそれを俺はヤル気にはならない。そこまでしてやる義理が無い。

 広大な土地を俺の突然の思い付きで「魔改造」しておいて、そしてこうしてその地の移住者集めをするのも俺の勝手で無責任な行動なのだし、義理も何も無いとは思うのだが。

 俺にここで無理矢理開拓地に連行した事でそれで逆恨みされても嫌だ。人がどんな事に「恨み」を持つかなんて分かりはしない。


 さて、こうして戦いの火蓋は切って落とされた。と言う表現は言い過ぎかもしれないが、村人たちは大慌てで動き出す。


(まあ俺が砂時計を操作するから多少の余裕を与える事もできますよ、っと)


 一応はかなり大きめの砂時計だ。俺の腰辺りまで高さがあるし、その内容の砂もそうとうな量だ。

 なのでかなりの時間の余裕はある。けれどもそれがどれだけあるのかなんてのは村人たちには予想もつかないはずだ。何せ多分砂時計なんて初めて見ただろうから。


「どうやら既に村人全員移住する事を決めてくれていたみたいですね。これ、要らなかったかな?」


 俺はそんな風に言って砂時計と村長の婆さんを見る。


「誰も彼もが臆病者でね。ここまでしてくれて感謝してるよ私は。こうでもしてくれなけりゃ一日二日は全員が全員動かなかっただろうからね。だけどまぁ、最初は私があの中に入って見せなけりゃまたソレで時間が掛かりそうだよ。さて、私も支度を済ませて来るよ。」


 村人の気質はどうやら相当に憶病で優柔不断であるようだ。俺のこの脅しは必要なモノだったと村長は語る。そして荷支度を自らも済ませる為に自宅に戻る様だ。さっさと俺に背を向けて行ってしまった。


「あと何回コレと同じ事繰り返す事になるかなぁ?自分でやり始めた事なのにちょっと面倒に感じて来ちゃったよ・・・」


 スムーズに事が運べばそれが一番俺にストレスが無いのだが、そうは問屋が卸さない、と言った所だろう。

 この後も回る町村の目処は立てているのだが、その数は結構多い。それでも計算してみてそれらの村人が全て移住してくれたとしてもまだ余るだろう「魔改造」した開拓地の広さに思いを馳せる。


「やり過ぎた・・・いつもの事だけど。」


 何度やってもこの手の事でやり過ぎたと後悔している。反省していたはずなのに。この世界に来てどれだけ良い加減になっているのだろうか俺の性格は。

 しかしやってしまったモノはもうしょうがないのである程度の所までは責任を持つ覚悟は決めている。


「移住者が集まって安定したら後は放置だな。そうなったら俺の存在が寧ろ邪魔になるだろ。」


 そう考えながら俺は砂時計の落ちる砂を眺めながら村人たちの準備を待った。


 そうしている内に村人たちは次々に集まって来たのだが、やはり誰もワープゲートを通らない。村長の言っていた通りだ。

 小さく俺は溜息を吐いたのだが、そこで丁度村長が戻って来る。そして何も言わずにワープゲートを通って行った。かなりの胆力の持ち主である。

 コレに続けとばかりにおずおずとではあるが次第に一人、また一人と村人はワープゲートを通った。

 こうして十分後、ようやっとこの村の住人全員が移動を終える。


「はぁ~、時間掛かったなぁ。さてと、次だ次。」


 俺はワープゲートを閉じて村にまだ人が残っていないかを魔力ソナーで確認する。


「よし、誰も居ないな。・・・うん、こうなるとここが野盗やら何やらの悪党どもの住処になるといけないし、平地にしておくか。」


 俺は村の家を全てインベントリの中にしまう。後々でこれらを再利用して「魔改造村」で家を増設しても良い。

 こうして俺はここから次に近い村にまた飛行して向かった。


 ===  ===  ===  ===


 その村での移住者募集もつつがなく終了した。ここでもどうやらかなりの限界だったらしく、事情背景が全く同じ。

 食料は乏しく、役人は来ず、援助も無しで、中心都市に向かえるだけの体力のある若者はさっさと村を出て消えて残りはジジババばかり。

 多少は三十台、四十台、それと子供も少々残っていた村だったので「消滅」まではかなり余裕を残した村ではあったが。

 それでも食糧問題が深刻で一日一日と死の覚悟を重ねる事を押し付けられている毎日を過ごすと言う過酷な生活をしていた村人たち。

 そんな日々に俺の様な胡散臭い男が登場して「移住、しませんか?」と勧誘するのだから怒りを覚えられても仕方が無い。

 俺との第一接触者は「お前は俺たちを馬鹿にしているのか!」と辛い毎日の怒りを俺に八つ当たりして来たくらいである。

 まあ俺もその時に咄嗟に「まだまだそれだけの声が出せるならそう簡単に死にはしないよ」と言い返してしまったのだが。

 その後はその大声で人が集まって来てその中に居た村長に俺は「O・HA・NA・SI」をした後に食事提供からの演説会である。

 その話の内容は大体同じモノである。俺は今回もまた時間掛かるかな?などと思っていたが、これが意外だった。

 演説の後に即座に村人たちは直ぐに引っ込し準備を開始、あっと言う間に俺の出したワープゲートを全員が臆さずに通って行くのだ。これに俺は驚かされた。

 これで「脅し」は一切出番が無く、スムーズに移動が終わってしまったのだ。

 ここで最後にワープゲートを通ったのは村長だった。前の村の時とは真逆である。その時に一言村長から。


「何とお礼を述べれば良いのでしょうか。絶望の未来しか無かったこの村に、命に、光を与えてくれた貴方様は神の御使い様なので御座いましょう?私たちは今後、貴方様を崇め奉り生きていきまする・・・」


「ソレは絶対に止めて?お願いだからソレは無しで。うん、絶対に無しで。そんな事したら追い出す、移住先から全員纏めて絶対追い出す。」


 俺のこの返しに村長は何でか絶望した顔でガクリと首をしょげさせてワープゲートを通って行っている。

 いや、本当に勘弁して欲しい所だ。何で「魔王」などと一方で言われている俺がここで神の御使いだのと言われて崇められなければならないのか?


 そうしてこの日は精神的にもの凄く疲れたので休む事に。移住者募集の続きは明日からにする。


 ===   ====  ====  ===


「うーん、ここの町はちょっと無理そうだーぞ?っと。」


 やって来たのは町である。どうやらノトリー連国首都に近くなればなるほどに、人口も増えて規模も大きくなる様だ。まあ当たり前か。

 ここはどうにもその大きさ的に確実に村では無い。防壁もそれなり、家の数は結構多めに見えた。その造りもしっかりとした下地があると分かる。

 しかしその全体の雰囲気にはどうにも町と言えるくらいの勢いが感じられない。


「活気が見られないなー。どうすっかなー。でも流石に村でやったみたいな派手なマネは此処ではできなさそうだ。」


 この町の現状がもう既に「死ぬ間近」と言うのであれば多少の強引な方法を使っても良かったが。

 ここはまだまだ生き永らえる事が出来そうな感じなのだ。限界はまだ遠いと俺には見えた。

 しかしそこら中に浮浪者、物乞い、ホームレスが散見されていて空気が淀んでいる。


「はみ出したのか、蹴落とされたのか、或いは踏み外したか、転落したか。ふむ、まだまだこの町で生きていける手段がある町人に移住を誘っても受けてはくれないよな。なら、向こうか。」


 俺は町の暗い道の方に足を進める。そもそも俺はこの町の門から正式に中に入った訳じゃ無い。

 どうにもこの町はキッチリカッチリと入町税を取っている様子だったので無断で入らせて貰った。

 もちろんバレていない。俺は魔法で光学迷彩を施しているのでコレが見破られると言った事は無いだろう。


「あー、思い出した。傭兵組合にお金取りに行かないとなぁ。もう用意してあるはずだよなぁ。」


 そんなボヤキを溢しつつも俺は貧民街に足を踏み入れる。

 そこにはやせ細った人たちが寄り集まって一軒の襤褸屋で暮らしていた。

 中には多くの子供が居る。それを世話する大人たちも着ている服はボロボロだし、骨と皮と言って良いくらいにやせ細っていた。

 誰も彼もが明日に希望が持てないと言った様子でジッとその場を動かずに俺を見つめてきているだけ。


「やあ、済まないけど、君たちに聞きたい。救われたいか?」


 いきなり妙な質問の仕方をしてしまった。幾ら何でもこの言い方では俺が何を言いたいのか、伝えたいのか、聞きたいのかの説明を端折り過ぎだ。

 しかしどうにもここの代表と見られる眼光鋭い青年が一歩前に出て来てこの質問に答えて来た。


「・・・俺たちを揶揄いに来たのか?憐れんで可哀想だと言って偽善に浸りに来たのか?救われたいかだと?お前の様な奴が死んでくれれば俺たちの心は多少なりとも救われるだろうさ。」


 この青年の目はまだ死んでいなかった。バッチバチに俺にガンを飛ばして睨んできている。

 しかしこの場の全員がそうでは無い。小さな子供達の中には目に生気が感じられない者もいた。


「この町で君たちみたいに貧困に苦しんで生活している者たちを集めてくれないかこの場に。性格悪いクソ野郎は要らないからそう言った奴には声を掛けないでね。そう言う奴を後で選別するの面倒だし。」


「ふざけるなよ?何でいきなり現れた何処の誰かも分からないテメーにそんな事を頼まれなきゃならねえ。それこそ何の為に集めるって言うんだ?ああ、そうか、テメー、俺たちを始末しに来たのかよ。なら、死ね。」


 いきなり青年はその手にナイフを取り出してこちらに向けて来た。勝手にこちらを敵認定して返り討ちにしようと。


「早とちりは止めてくれない?あー、でもこの場で何を言っても信じちゃ貰えないか。うん、じゃあちょっと先に振舞った方が良さそうだね。」


 俺は青年を魔力固めで動けなくさせておいてから食事の準備を始めた。お腹が空いていればソレにイライラして冷静な判断もできなくなっているだろう。

 どうにも栄養が彼らには足りていないので先に食事を与えておいた方が良い。今にも子供の中に倒れそうにフラフラしている子も居る。

 長く固形物を食べていない状態だといきなり食べさせても上手く消化できずに吐いてしまう可能性があるのでここは毎度おなじみ俺特性スープを作る。

 一応は具も入れるが、消化を良くする為に魔法を使ってグズグズに柔らかくしておく。


 こうして彼らの目の前でいきなり俺が料理を始めたモノだから全員が目をコレに釘付けだ。

 俺は全員が座れるだけの数の椅子、大きさのテーブルを配置して次々に配膳を終える。


「よし、皆、先ずは腹ごしらえな。食って良いぞ。」


 だが誰一人席に着こうとしない。多分警戒してるんだろう。なので俺はスープを一人の子供に差し出す。


「なあ、このままお腹を空かせて死ぬのと、このスープを飲んでお腹を満たして死ぬのと、どっちがいい?」


 ソレは生気の抜けた目をしていた子供だ。俺のこの質問に僅かに顔を上げて俺の目を覗いて来る。

 それにしてもちょっと言い方が酷過ぎたと言った後に反省した。幾ら何でも他人の口から自身の「死」を突き付けられるのはこんなに小さい子では相当に辛い衝撃を与えてしまっただろう。


 だけどもその衝撃が功を奏したのか、どうなのか?その子供は俺の差し出したスープの器をそっと手に取ってソレを少しづつだが口の中に入れ始めた。

 コレを見た他の子供達が一斉にスープに群がる。大人たちはまだ警戒して動けないでいる。


「全員分を用意してあるから慌てなくて良いぞー。ちゃんと行儀よく座って飲まないと取り上げるからなー。」


 わいわい、いーいー、ぎゃいぎゃい、がやがやと子供達は騒がしくしながらスープを飲み干していく。

 ここで俺は青年の魔力固めを解いた。そして一言。


「お前さんも飲むだろ?遠慮しないで良いぞ?あ、違うな。警戒しないで良いぞ?か。俺はお前たちを始末なんてしに来た訳じゃ無い。ゆっくりと俺の話を聞いて貰いたいね。」


「アンタ、一体何者なんだ・・・訳が分からねえ。意味が分からねぇ・・・」


「ソレは腹が落ち着いた後に説明するよ。ほら、飲みねぇ、飲みねぇ。」


 俺は並々とスープを入れた器をその青年に差し出す。するとソレを青年は俺を睨みつつも受け取って直ぐに飲み干した。


 こうしてこの場に居た全員が時間はそれなりに掛かったが食事を終えた。


(何だか俺ってば今ペテン師でもやってる気分になってるよ)


 人はその時その時、その場面その場面で合った「ペルソナ」を被るモノだと言うのを何かの本で読んだ覚えがある。

 今俺は自分でそんなペルソナを付けているなぁ、と感じてしまっていた。


「と言う訳で、ここで生きていても君たちに将来、未来は無いと思うんだ。そこで、移住ですよ。俺が開拓した土地に来てそこで生きてみない?それには人は多い方が良くてね。だからこの町のこうして生きるのが困難な人たちに集まって貰ってそちらに纏めて移り住んで欲しい訳だ俺は。若者、子供、大歓迎ってね。あ、性悪なクソ野郎は要らないから、そう言う奴は集めないで欲しい所なんだよね。そんなのが来たら問題行動しか起こさないだろうし。理解してくれた?」


 食事の後に俺は青年と、落ち着いたであろう大人たちに説明会を開いた。

 きっとここに集まっている場所以外にも路上生活者が居るはずだ。この町はそれなりに広い。

 そう言った者たちを彼らに集めて貰って一度で事を済ませてしまおうと言う魂胆である。

 ここに居た大人たちは誰もが子供たちの世話をしている者たちであるようだったので性格の悪質な奴はいないと俺は見込んでいる。


「・・・信じられねえ。アンタの話はどれを取っても一つも。だけど、俺たちがここでアンタの話を突っぱねた所で、確かに将来も未来も無くこのまま変わらない生活のままだって言うのは分かってるさ。こんな状態でずっと緩やかに死んでいくだけなんだろうな・・・アンタにソレを今言われて余計に強く意識したよ。」


 俺との交渉はどうやらこの青年がやる様だ。他にもっと年齢の高い大人がこの場には居るのだが。

 どうやらそう言った大人たちはこの青年の意志に従うつもりらしく、口を挟んでこずにこの話し合いを静かに見守っている。


「信じられねえ、って言ったけどよ、けど、アンタは俺たちにこうして飯を与えてくれた事は事実なんだ。まあコレも信じられねえけど。うん、一体あれだけの量を何処から出したんだよ・・・まあそれは横に置いといて、どうせ死ぬなら今この場でサッパリと死んじまった方が楽なんだろうさ。毎日死ぬその時まで苦しみぬいて生きるよりかは良いんだろうな。希望が持てる将来なんてここには無いんだから。だから、こんな俺たちに飯を食わせてくれたアンタの言った事に死んだつもりで全てを任せちまうのも一興なんだろう。賭け、何て御大層な事は言わねえ。何せ俺たちには掛け金なんてモノは無いどころか、負債を抱えてる様なもんだ。出せるモノなんてこの死にかけの命くらいなもんさ。・・・やるよ。移住?コレだけの数をどうやったらこの町から連れ出せるのかは分からねーし想像もできないけど。ここに集めるんだよな?うん、どれだけ集められるか分からねーけど声を掛けて回って来る。皆、良いか?」


 そう言って振り向いて青年は周りの大人たちを見る。すると全員がコレに納得したのか首を縦に振った。

 こうしてこの町の路上生活者、しかも若者と子供をほぼゲットしたも同然である。


(人攫い?いえいえ、人助け?それも、無いなぁ。しいて言えば、偽善?うん、言い方が何か嫌だ。そうなると・・・なんて表現が宜しいかね?)


 犯罪をしている気はサラサラ無い。助けると言った覚悟と善意でも無い。

 そなるともう偽善としか言えないのだが、人聞きが悪いのでソレも避けたい気分である。

 そうこうしている間に続々と、とまでは言わないが、ポツポツと新たな者たちが集まって来た。


「その身なりの良いアンちゃんが俺たちを「雇いたい」っていうのかい?」

「飯も食わせてくれるって?ワシらにどんな仕事をさせたいと言うんじゃ?」

「あの、身体を売る覚悟はできてます。どうぞ私の身は自由になさって結構です。だけど娘には手を出さないで・・・」

「飯炊きと洗濯の仕事があるって聞いてやって来たんだけど。なに?私、娼館に売られるの?じゃあアンタ、奴隷商人?」

「んー?何じゃい?奴隷?まあ今の環境とさほど変わらんのでないかの?寧ろ何処かの地下牢何かに繋がれても今よりかはマシじゃろ?」

「雨風凌げるだけで今より環境は良いかな?で、俺たち何処に売られるんだ?あー、もしかしたら売られ先で使い捨てにされる?過酷な重労働とか?まあ、どうせこのままでも野垂れ死にする運命だっただろうから、ソレもどうでも良いか。」

「苦しんで死ぬのは勘弁だけど、どうせ死ぬなら苦しい期間が短い方が良い。使い捨てでも、鉱山労働でも、好きにすりゃいい。」


 誰も彼もが自分の人生を早々に諦めている。そしてどうやら俺が「雇う」と言った話でここに誘われた者たちがソコソコ居た。

 しかし途中で話しの流れが「奴隷商」などと言う話に変わって行ってしまった。俺にそんな気は無いし、そんな職でも無い。妙な事になっている。

 寧ろ奴隷なんてモノに忌避感がある俺としてはその誤解を解いておきたいのだが。しかし今はその解釈の方が好都合かもしれない。

 俺が今やろうとしている事は理解を得られなければ「似た様なモノ」と認識されるのだろうから。

 だったらコレをそのまま利用してさっさと移動して貰った方が良い。

 俺は新しくこの場にやって来た人たちに例のスープを振る舞っていく。そして説明を再び。


「えー、この場にお集まりいただいた方たちにはこれからこの町を出て行って貰います。その向かう先は新たな土地です。そこで生活して貰います。そこには既に先に住んでいる方たちが居るのでその人たちと協力、連携して働いて貰います。その平和を乱す方には早々にそこから追い出させて頂きますので、皆さん暴力沙汰や横暴な態度はしないでくださいね?」


 俺のこの言葉に一番年齢の高い爺さんが一言。


「なんじゃい、ワシらをこの町から捨てる為の「言い訳」にしたってもう少し夢を持たせてもええじゃろが。まあこんな日が近々来ると思っておったがな、ワシは。」


 どうやら俺を役人か何かだとでも勘違いしたのだろうか?その爺さんはしかし「覚悟は決まっていた」と言った感じでコレに抵抗を見せる気も無い様子。

 このノトリー連国の国土は何処も痩せていて荒野の面積が大きい。中には緑のある土地も散見されていたのだが、それは多くの人を養うには余りにも小さい面積だ。

 そこに彼らは「捨てられる」と思ってしまった様だ。だがこの勘違いもそのままで良いだろう。と言うか、ぶっちゃけこの場で言葉で説明しても多分信じちゃくれない。面倒だ。


「では皆さん、少々この場で待機していてください。向こうの担当者に話を一旦してきてから戻りますので。」


 俺はその場でワープゲートを出して「魔改造村」に戻り、村長に新たな移住者に全ての説明を任せる話をしに行った。

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