何時頃に?
出来上がった証明書を受け取って俺は早速孤島に戻ろうとワープゲートを出す。
「今度来るときは執務室の方に来た方が良いか?」
「・・・まあその方が良いかもね。いきなり会う約束もせずに突然君は来るから、そっちが良いね。」
アポイントメントを取ろうとしたらきっと普通なら何日間も会えず仕舞いだろう。相手は皇帝、この帝国の一番上なのだ。
そんなお偉いさんと会うのに通常の手続きをしていたら何時まで経っても面会はできない。そんな待ちぼうけはかったるい。なのでこれからも俺が会いに行こうと思ったら毎度こうして突撃だ。
そんな言葉を皇帝と交わしてササッと別れ、次はレストに証明書を渡して直ぐにまた移動する。
今度は傭兵組合だ。素材の売却の金を受け取りに行くのである。
「ごめんくださーい。お金は用意してあります?そうで無ければまた出直しますけど?」
俺のこのセリフにどうにも前回に対応してくれた担当者がビクッと震える。
「え、えーっと。その・・・その件につきましては組合長との話し合いの場を設けておりまして。」
どうやら一番上の人物が俺と対面で話を付けたいらしい。これは非常に面倒だ。
俺は金を用意してくれと言っているだけなのだ。それを受け取れれば良いだけである。俺から話す事は無いのに組合長と話し合えとは舐められたモノである。
あれだけの大量の素材を持ち込んだ者に対しての対応としては別に間違っちゃいないんだろうが。
それでも俺が必要と思えない話し合いなどはする気が起きない。単純にこの場で金を払ってくれるだけで良いのだからコチラとしては。
「俺は別に脅している訳じゃ無いんですよ?そちらが付けた買い取り金額が全部キッチリ揃えられたら一括払いで引き渡してくれれば良いと言っているだけです。別に話し合う事はこちらには一切これ以上無いんですけど?」
もう組合は俺が引き渡した素材を捌いている事だろう。俺がソレを返せと言わないだけ有難いと思って欲しい。
とは言っても俺も今更放出したそれらをインベントリに戻す気は無い。それこそもっと面倒だ。
せっかくインベントリの中の物がスッキリできたのにソレをまた戻すのは無しである。
俺が取引用の目印の割符を片手で弄んでいると背後から声を掛けられる。
「そう言わずに来てくれんかね?こちらとしてはあれだけの大口取引になって金を用意するのにも制約と手続きが多くて君の要望に応えるにも時間が必要でな。一括以外の方法もあるのでそれを伝えなくてはならない責任もあるんだ。スマンが応じて貰えないともっと金の準備に時間をかけなくちゃならん事もある。気を悪くしたら悪いが、こちらも仕事でな。」
振り返れば身長2m近い大男がそこに居た。左頬に斜めに傷が入った強面のオッサンだ。と言うか、デカ過ぎやしないだろうか?しかも筋肉ムキムキである。
髪は短く切り揃えられていて目つきが鋭い。威圧感が半端無い。と言うか、暑苦しい。どうやらこの男が組合長であるらしい。
「仕事、ですか。まあそれならしょうがない。付き合いますよ。それで、お茶は出ます?」
「一番高い茶葉と菓子を用意する。こっちだ。」
その話し合いをする部屋に案内された所で俺はもう一つ聞いておいた。
「前回来た時の使者とやらは今日は?」
「・・・もう二度とあの様な馬鹿はうちには入らせん。出入り禁止にしておいた。」
俺はソレに「ならよかったです」とだけ返す。ソファーに座って待てばそこにお茶と菓子が出される。
「さて、では君には詰まらん話だとは思うが、最後まで聞いてくれ。」
こうして俺は組合長の説明を最後まで聞く。菓子をムシャムシャ、お茶をごくごくと飲みながら。
その内容は普通だ。別に組合長直々にせねばならない話でも無いだろう中身である。
(まあ動く金額がそれだけ大きくて最初から一番上の責任者が受け持った方が面倒な報連相をカットできるって感じだろうな)
分割払い、組合預け、株の購入、金のインゴット、土地購入、投資、などなど。
一括払い以外の方法での手続きや代わりの支払い案などが提示される。だが俺はどれにも興味は出ない。
「一括で。」
「その理由を、良ければ聞かせて貰えないか?」
「気分?」
「・・・分かった。だがそうなると支払いができるのがいつになるか分からない。組合に保管してある資金では遥かに足りないのでな。それを準備できるまでは幾つも越えねばならん手続きが多い。それに時間が大幅に取られてしまう。」
「そんなに高値を付けたんですか?まあ高く売れるならソレはそれで俺には別に悪いこっちゃ無いですけど。」
何時の時代も、世界が変わっても、そう言った大きな取引になったら余計な仕事も発生するんだろう。
ソレと恐らくは税金などの関連でも手続きが増えるんだろう。一番面倒そうだそこら辺が。
それに代金を一括支払いで求めればその物理的な量を集めるのにも困難を要するはず。
買い取り金額を高めにしているのならば余計になおさらである。
「この件に感しては私が全てを担当する。責任を持って君の要望に応えると約束する。こちらにも意地と言うのがあるのでな。それでは、コレに署名をしてくれ。」
出された書類の内容を全く読まずに俺はサインを入れる。漢字で苗字だけ書いた。
「・・・珍しい名前、なのか?これが君の名だと言うのならこの国の者では無いのか。何と読むんだ?この様な文字は見た事が無いのだが?」
「エンドウ、と読むんだ。まあここを利用するのも今回だけだと思うから気にしなくても良いと思う。」
「ふむ、それは残念だな。もし気が変われば是非ともうちでまた買取をさせてくれ。」
こうして新たに契約証明書を渡されて割符が回収された。そしてソレと一緒に「一か月後に来て欲しい」との言葉も。
こうして俺は組合を出る。未だにこの新選民教国の貨幣が手元に無いのは面白くは無いが、別に買い物をしなくても観光はできる。
なので今日は一日この国を見て回る事にした。メリアリネスの所には向かわない。
どうせ準備モロモロが直ぐに終わる訳でも無いだろう。戦争をおっぱじめてノトリー連国とやらを潰す気でいるそうだから、その時になったら姿を見せれば良いのである。
それまではゆっくりと観光を楽しんでいれば良いのだ俺は。メリアリネスに王権が移ると言う事でそこら辺の戴冠式などもやるだろう。
そうなれば相当に戦争開始までは時間が掛かるはずだ。
「あー、そう言った諸々の重要な儀式を全て簡略しちゃうって事も考えられるか。後はノトリー連国ってトコの動き次第かねぇ?」
メリアリネス的にはなるべくなら早めにこの問題を決着させたいと考えているだろう。
長引かせて良い事など一つも無いのが戦争と言うモノだ。経費が嵩むだろう相当に。
戦争特需と言った感じで儲ける所もあれば、戦争被害で悲惨な状況に変わる部分もある。
何にせよ国民にダイレクトに影響が出る程の大規模戦争にしたくは無いはずだ恐らくなら。
「あー、その為にも俺を使いたいって事なのね。まあ、分かる。」
あの孤島で俺は軍隊相手にほぼ何もさせずに追い返した。多分メリアリネスは俺にそれをもう一度やって欲しいと考えているのだろう。
「と言うか、ノトリー連国ってどう言った風土の国なんだ?何かしらやり返したいだけ?それとも国土を奪って征服が目的?それとも、もっと長期的な情勢を考えた工作の一環?まあ、幾ら素人がそこら辺の事を考えても分からんよなぁ。・・・実際にノトリー連国とやらに行って見るか?」
もしかすればノトリー連国には切羽詰まった事情があって仕方なく、何て事があるかもしれない。
視点を、見方を変えて両方の国の中身を比べて見なければ分からない事もある。
一方的にこちらの新選民教国だけの目線で物事を判断するのは止めておくべきだろう。
俺はそんな事を考えながら大通りを歩いた。
「しかしまあ、活気が無い訳じゃ無く、しかし名産がある様子で無し。言ってみれば安定?もしくは停滞?悪く言えば澱み、かな?」
別に道行く人々の表情は悪いモノでは無い。いつもと変わらぬ毎日、繰り返される同じ明日、穏やかに過ぎ去った昨日、と言った様相だ。
波風、そんな感じがこの通りを行く人々の中に感じられないと言った感想だ。コレは得難い幸福と言っても良いモノなのかもしれないが。
「ソレも勇者パレードで少しは改善されてこれなのかね?国が公式で魔王の件を発表してこれなのかね?」
そこで俺は無性にコレにノトリー連国とやらの方が気になった。はたして向こうはこちらとどれ位違うのか?と。
(行ってみるかな。じゃあちょっとその前にどちらの方角に向かえば良いか聞くか)
俺は行った事の無い場所にワープゲートは繋げられない。なので最初は先ず実際に現地に行かねばならない。
ここで俺は門に向かう。この首都を守る外壁門だ。そこに居る門番にノトリー連国のある方角を訊ねれば良い。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥である。
「いや、微妙に使い処が違う様な?まあ、いっか。」
こうして到着した門には大勢の旅人たちが検問を受ける為に並んでいた。
商売人だろう者たちは門番に許可証なのだろうモノを見せて馬車を進ませ門を潜って行く。
「うーん、人の多い時間帯に来ちゃったかぁ。もうちょっと待つか?それとも並ぶか?いや、門番に聞かないでも別の誰かに聞いちゃえば良い話か。」
俺はそう思ってまだ列の後方に並んでいた馬車の御者に話しかけた。
「すみませーん、お聞きしたいのですけど。ノトリー連国の方角に出る門はこっちで合ってます?」
「何だ、そんな事も分からずに並んでいたのか?別にこっちから出ても間違いじゃ無いが、門から出てホレ、左手側に草原に進む道があるだろ?そっちに流れなきゃならん遠回りだ。右道に向かえば鉱山都市があるから俺たちはそっちに向かうんだが、アンタ、何処から来なすったんだい?」
「つい先日にこの都市に来たばかりでしてね。お隣の国って言うのにも興味が出まして。こちらとあちらでどの様な特色の違いがあるかこの目で見てみたくなりまして。」
「ノトリーは止めた方が良いと思うぞ?何せ向こうの奴らは余所者を好かん。あんた見た目が目立つし余計に良い印象は持たれないと思うぞ?」
「あー、そうなんですねー。ご心配して頂き有難うございます。まあでも、行きますけどねー。」
「奇妙だなあんた。はっはっは!でも気を付けろよ?・・・俺の小耳にはさんだ情報だと向こうの国は動きがキナ臭くなって来たって話だからな。」
その御者は俺の事を面白そうに笑った後に小声で注意をしてくれる。続けてやはり声量を抑えて追加情報をくれた。
「向こうだけじゃ無いんだ。ほら、勇者の見世物があっただろ?魔王を倒したその次はノトリーを攻めるんじゃねえかってな。ソレで俺たちは武器の仕入れに、と思って鉱山都市に向かうんだ。あそこは腕の良い鍛冶師が多いからな。こっちで捌けば傭兵どもがこぞって買い付けに来るだろうと読んでる。もし戦争にならなかったとしても売れない品でも無いからな。武具は長く保つが、壊れない訳じゃ無い。今回の機はどちらに転ぶにしろ損が出ない程度で数を多く仕入れようって魂胆な訳よ。」
どうやら俺が商売人に見えない見た目だからこそ、この御者は俺にここまでの情報を話している様だ。
要するに商売のライバルにはなり得ないからこそ安心してペラペラと喋っているんだろう。
それに付け加えて順番を待つまでの暇で口を軽くしてしまっているのかもしれない。
「いやー、中々良い情報を教えて貰ったなぁ。でもそれに見合う対価を今俺持って無いんだけど?」
俺は今この国の貨幣を持っていない。金無しである。しかしコレに御者が笑う。
「ははは。イランイラン。待ち時間がアンタのおかげでちょっとは暇潰しできたしな。ソレを代金として貰っておくよ。・・・おっと、俺たちの番にいつの間にかなってたな。それじゃあな。」
(中々に良い人に出会った。一期一会だなあ)
あの御者だけでは無くこの門から出て行く者たちは全員が鉱山都市の方に行くのだろう。
(こう言うのは勘が鋭いって言うのか?それともどこからか情報が漏れてる?只の噂話からの推測で動いているだけ?)
商売を生業としている者たちの情報網と言うか、読みの鋭さ?勘の鋭さ?は侮れないモノだ。
これから確かに新選民教国とノトリー連国は戦争に突入する流れである。
そう言った流れに咄嗟に動くのか、事前に動くのか、もしくは全く頑として動かないのか、どう行動するかによって勝負の分かれ目、明暗、その商売人の性格と言うのが出るんだろう。
「それじゃあ俺も行こうかね。草原の方の道を遠回りだったか?まあ別に俺の場合は空を自由に飛んじゃうんだけどね。」
俺は建物の陰に入って魔法光学迷彩で姿を消す。そのまま一気に空へと飛び上がって御者に教えて貰った道の方角に飛行する。
そこまで速度は出さず、とは言っても100kmくらいは出ていると思うが。そのまま飛行を続けて行けばどうにも土地が徐々に痩せていると言った印象に風景が少しづつ変わって行っていた。
(あー、まさか、食糧問題抱えてる?それに合わせて人口問題も?何処の町村もそんな硬直状況に陥ってるから余所者を受け入れない?)
自分たちの生活で精一杯な所に不安要素を入れたくは無いだろう。
(コレは土地の改善とコントロール、それに合わせて農作物の改良も一緒に必要になるよなぁ)
俺はどんどんと荒れた地に変わっていく光景を流し見ながら空を進む。そこでやっと村を発見したのだが、そこはかなり寂れていて今にも消えてしまいそうな所だった。俺はここで一旦立ち止まる。
俺はコレを見て思う。ノトリー連国が十五年前に攻め込んだ理由を。
(国を養える土地が少しでも欲しかったんだろうな。隣国との輸出入、何てせずに食糧問題を永久的に解決したかったと。ソレともう一つ・・・)
人減らしがそこに加わるんじゃないかと俺は思ったのだ。
痩せた土地で育てる事の出来る、収穫の多く見積もる事の出来る植物でも賄えない、養えない位に人口が増えてしまえば?
食糧難で飢餓や疫病なども増加傾向になっていくのが簡単に想像できる。
それらの不安、不満、解決を国民が国にぶつければ内部紛争が起きる事は間違い無い。
一揆が各地で起きればそれを国は鎮圧せねばならなくなるだろう。
その鎮静に武力での解決しかできなかった場合はより一層に国民感情の悪化が蓄積するのは目に見えている。
死人がソレで増えに増え続ければ国民は一斉に国を亡ぼす勢いの憎悪を内に溜め込んでいく事だろう。
ソレが爆発すれば滅亡か、衰退か。いずれにせよ国の危機がやって来るのは確実だ。
それをコントロールして計算し易く、修正し易く、制御し易く、不満を別の所に向けられるのが戦争だ。
ノトリー連国はコレを理解していて新選民教国に「国の事業」として戦争を継続的に実行して行く腹積もりかもしれない。
「突発的にガス抜きの為にやった事ならまだいいさ。そこは仕方が無いだろうよ国の判断として。だけど今回は?継続的に計算ずくでこれからは憎しみと悲しみの大量生産って、そりゃ、無しでしょうよ。」
この戦争で俺は死人を一人も出す気は無かった。しかしここで俺のこの予想そのままにノトリー連国が今回の戦争をしようとしているのならば、そのまま戦死者が一人も出ないなんて役人たちからしたら首を絞められている様なモノだ。
数を減らしたいのに、減らないで戦争が終わるのは、欲しい結果が得られないと言う事である。
「他にやり方が無いのかよ。戦争しか国を存続させる方法が無いの?それこそ農作物の品種改良とか、新たに他国から植物サンプルを取り寄せて土地に合うモノを選別するとか。土地そのものの改善とか。」
素人の俺が簡単に考えられるだけでもコレだけある。だけど素人考えでしかないと言う事でもある。これらは結果を得るのに非常に年月がかかる研究だろう。
国がソレを今も実行中で、しかしそれを待ってるだけの時間がもう無いのだとすれば?
「国民感情を怒りと敵意に染めて隣の国に向けさせなけりゃ存続できない位に火が付いてるって事になるかぁ。ヤバいな、そりゃ。」
国としてもう成り立たたせる事が困難になっている状況に追い込まれているとしたら?そうなればもう何も言えなくなる。
まあこれは俺の勝手な妄想に過ぎないのだが今は。
「ノトリー連国の政治の中心に居る奴らが私利私欲でこの戦争をやろうとしている、何て事だったら即座に潰しに行っても良いんだけど。それよりも食料問題の方が解決しなけりゃ、根本的な解決にはならんか。」
ここまでは俺の予想からの独り善がりだ。土地の痩せ具合、最初に到着したこの村の寂れ具合でそこまでの妄想をしたと言っても過言じゃ無い。
この妄想が本当に真実か、それとも、もっと違う背景があるかを調べる気にはならなかった。俺がそこまでする義理は無いから。
とは言え、人情はある。ここで俺は悪戯心が芽生えた。
「ちょっと面白そうだからやってみるか?家庭菜園するくらいの軽い気持ちでこの見渡す限りの土地を「魔改造」とか?ソレが完成したらさぞ壮観だろうなぁ。」
俺にはソレができる力がある。ならばコレだけ土地が余っているのなら、ちょっとくらいそこで俺が遊んでも良いだろう。
誰にも迷惑を掛けず、しかしそれが人の助けになるのならば、俺の行動に文句は無いだろう。
「よしよし・・・それじゃちょっくら、あちこち回りますかー。」
俺はこうして早速この「魔改造プロジェクト」を開始した。この村を生まれ変わらせる。
先ず初めに気にしたのが俺だけが一人で考えてもこの世界の事をまだ細かい所まで解っていないと言う部分だ。
そこは俺にはこれまでに作って来た人脈がある。なので知り合いに片っ端から色々な話を聞いて行く。実際にノトリー連国の土のサンプルと状況をセットで見せて説明を加えて。
誰かしら良い知恵か、アイデアを持っている人が居るかもしれないので徹底的に訊ねて回った。
クスイは当然として、ジェールにゴクロムにミルスト、ミライにサンネルにゲルダ、テルモにサレンに婆さんにクレーヌ、ゴズにルーネ、ロヘドにマンスリ、レクトルにデンガルにケリンにアリシェル、ラーキルにダシラス、メールンにキガッズ、ゲードイル伯爵、師匠につむじ風の四人と。
取り敢えずザっと思い付く人物の所には全て行って相談をしてみた。
しかし中々良さげな植物の事は聞けなかった。どうにも土のサンプルを見せると誰もが難しい顔をしてしまうのだ。
そして俺がやりたい事を説明すると誰もが誰も「規模がおかしい」とか「何でそんな事を思い付くんだ」とか言った事を俺に突っ込んで来るのである。
と言うか、ミッツだけは「エンドウ様なら余裕ですね!」と称賛してくれたのだが。
「とまあ思い付きで相談し始めてから今日までに三日かかっちゃった訳だが、先ずは土地の回復から始めないとダメって結論は当たり前だったなぁ。」
植物を植えるにしろ土がある程度は耕されている事も必要だろう。
だけどもノトリー連国の国土は乾いて固く荒れてしまっているのだ。
なので俺が最初にやらねばならないのはコレを掘り起こして水気を持たせて柔らかい土に変える事である。
ソレと栄養分も含ませて土の中の生物、微生物?なども活性化、いわゆる「生きている土」にする事がスタートラインだ。
「と言う訳で、俺は暫くの間そっちの件で飛び回るから、メリアリネスはちょっと戦争を始めるの待っててくれるか?」
「・・・貴方は一体何をしようとしているのです・・・おかしいでしょう?どう考えたらそんな壮大な話になるのでしょうか?エンドウ殿はこちらの味方、なのですよね?」
もの凄く複雑な表情で俺を睨んで来るメリアリネス。しかし俺はコレに言い返す。
「何か勘違いして無い?メリアリネスの味方はするよ?そりゃ面倒臭い事になってる茶番劇「魔王」を取り下げさせる為にね。でもそれはもう目途が立ったと言える状態だし、別にメリアリネスに頼まなくても今の国王に「お願い」すれば今すぐにでも撤廃してくれるでしょ。脅したって良いんだし?最初とは状況が今はひっくり返ってるからもう何時でも良いって感じだし?」
今の現状は以前とはガラッと一気に変わっている。なので別に俺はメリアリネスを使ってこの国の「魔王問題」を解決しなくて良いのだ。他の手段も使える様になっている。
侯爵も宰相も牢にぶち込まれ、国王も目が覚めたと言った状況である。メリアリネスを頼らずともやり用がある。
ここでメリアリネスは大きく大きく深呼吸してから言う。
「こちらにも事情と言うモノがあるのですが?」
「俺にだって事情があるよ?ソレとノトリー連国にもね。そりゃ自分の国を守る為にメリアリネスが準備に忙しいのは当然だし、戦争に勝つ為に気負うのはしょうがないけどさ。俺はこの国の世話になった覚えも無いし、だからってノトリー連国に恨みも無いんでね。俺は俺で自由にやらせて貰うから。」
「・・・分かりました。エンドウ殿はお好きな事をして頂いて構いません。私は私で全ての準備を整えておきます。そちらが片付いたら声を掛けてください。その時が来たら出陣とします。」
「なるべくなら戦争にならない様にしたいって考えてるから俺は。その準備も無駄になる可能性も受け止めてね?」
俺は別にノトリー連国を救いたいとか言った聖人みたいな事を考えている訳じゃ無い。
これからやろうとしている事が大成功を収めた場合には俺の勝手な「妄想」で思い描いたノトリー連国の問題は解決する。と言ういい加減な事を基本にして言っているだけ。
そうなれば戦争は起こらなくなるかもね、といった程度だ。でもそこら辺の事までメリアリネスに説明を深くしていない。
なのでメリアリネスは俺のこの言葉を聞いてより一層に複雑な顔に変わって行った。
(詳しくノトリー連国の国内情勢を調べた訳じゃ無いからねー。ソレで土地魔改造とかやろうとしてるんだからお前何しようとしてんだよって突っ込まれるのはどうしようもないね)
それに向こうの国の上層部やら代表者?国王?が「戦争すっぞゴラァ!」を推し進めた場合は俺のやった事など関係無く戦争は始まる。と言うかそっちの可能性の方が高いくらいだ。
こうして俺はメリアリネスの前から立ち去る。ワープゲートで。アーシスもこの場に居たのだが、もうこの二人の前ではワープゲートくらいではどうと言う事も無い。
今回の俺のいきなりの訪問にもメリアリネスは一切動じずに直ぐに対応してくれた。まあその表情は「諦めた」と言った感じではあったが。
しかし話の内容が内容だっただけに最後は困惑の極みと言った感じの苦虫を噛み潰した顔で俺を見送りしてくれている。
「さてとー、じゃあ先ずは耕す所から?・・・でもどれ位深くすれば?表面だけじゃ無く結構地下深めの方が良い、よな?あ、ソレと将来的にはそこの土地は畑か水田?にするとして水源の確保か?井戸を掘る?じゃあ地下水の存在も調べないとならないし。あー、栄養価の高い土ってどんなだ?肥料って何を混ぜれば良いかなぁ?ここら辺の風土って乾燥地帯?雨はどれ位の頻度で降る?気温や湿度は?・・・良く考えて見りゃ「農業ド素人が何言ってんだ?」って感じになって来てるなぁ・・・」
魔法が使えるからと言って何処まで、そして何ができるかは俺の脳内にある知識やらイメージなどがハッキリしている場合である。
大幅に魔法でカットできる仕事は多いだろうが、それよりももっと別の部分が、本質の「土」と言った部門が今回はより重要な訳だ。
「そんな知識無いわー。早まったか?まあ投げ出すつもりは無いからテキトウに思い付いた事をブチ込んで行けば何かしら変えられるだろ。現状よりも悪くなる、って事は無いだろうしな!」
まるで子供の土いじり遊びだ。だがこれから俺がやる事はその規模が違う。
「その前に村の人たちに挨拶かな?突然村の周囲が大きく変わって行けば驚くのは当たり前だろうしな。」
俺はここで手土産を持って行く事を思い付く。村人たちを不安にさせてしまうだろう迷惑料として。
「帝国で食料をガンガン買い込むかぁ。そうなると市場が混乱するか?そこら辺は皇帝に先に相談してから購入って感じにしないとダメかなぁ?」
食料を大量に買い込む正体不明の存在、そんなのが現れたら帝国でどんな噂が立つか分かったモノではない。
俺が直接仕入れをしないで皇帝に頼んで穏便に済む様にした方が良いかもしれない。
一々店を回って俺自身で買って回るよりもその方が一辺に纏めてインベントリに仕舞えるだろう。そちらの方が楽だ。
「よし、そうなればまた帝国に行くか。」