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隣国とのギスギスとした事情

「結局はこうなるんだよなぁ。」


 俺は倒れ伏す百五十名に視線を向ける。今俺と対峙して立っている状態なのは勇者エラルドのみ。

 倒れている奴らは俺の「魔力固め」で窒息させ、気絶まで追い込んで無力化した。

 まあ傍から見たら重装兵も魔術師も勝手に苦しんで、勝手に倒れて、勝手に気絶した様に見えているだろう。

 その間の俺は普通に立っているだけ、と言った事も付け加えると、向こうとしては何が起きたのかなんて理解ができるはずが無い。

 俺の事なんて一切情報が無いのだから。いや、そもそもメリアリネスの報告を全く信じていないと言う部分もある。


「これは一体なんだと言うのだ!お前たち!どうした!?」


 宰相が叫んでいるのだが、反応は無い。全員が意識をブラックアウトしているので誰も返事ができないのだから当たり前だ。


「何がどうしたら開始の合図と共に全員が一斉に倒れると言うのだ!?」


 全員と侯爵が言っているのだが、一人勇者は困惑の極みと言った様相で立っている。

 この勝負には勇者エラルドも参加しているのだから全員では無い。


「!?!?!?!?・・・!?」


 とまあこんな感じでエラルドは倒れている者たちと俺とで視線を行ったり来たりだ。

 メリアリネスとアーシスは顔真っ青。目の前の光景が俺のやった事だと言うのは気付いている様子。

 その二人の後ろに立つ三名の武官はと言うと、何が起きて今こうなっているのかを全く理解できていない。


「どうなっておるのだ?こ、これはお主がやった事なのか・・・」


 国王はいち早く俺がやった事なのだと気づく。勝敗は決したも同然なこの状況で、しかし負けを認めない宰相と侯爵。


「ええい何をしておるかエラルド!奴を斬れ!殺せ!殺せぇぇえええ!」


「奴は危険だ!勇者よ!早く奴を排除せよ!魔王を討ち取るのだ!出あえ出あえぇぇ!城守兵たちよ!魔王を殺すのだ!」


 確かに勇者がまだ戦闘可能状態なので勝敗は厳密に言えばついていない。

 だけども此処で追加の兵士導入とは恐れ入る。恥を知らないと見える。宰相が恐らくは周囲に事前に配備していたのだろう兵たちを呼ぶのだが。

 しかし俺は別に気にしない。と言うか、魔力で壁を作ってあるのでこの城外訓練場にその兵たちは入って来れずにいる。

 どの兵も透明で見えない壁を手持ちの武器で全力でぶっ叩くのだが、魔力壁は無傷、どころかその叩き付けている武器の方がイカれ始める始末である。


「うん、まだやる気が君にあるなら相手をするけど、どうする?その場合は一応は容赦はする気でいるよ俺は。そこの喚いてる悪党二人とは君は違うみたいだしね。そこの流され国王とも違う。ちゃんと自分の意志も意見も疑問も持ってるだろ?ここでソレを吐き出してみなよ。今ならメリアリネスも俺もちゃんとそれに答えてあげよう。うるさい外野は黙らせるからさ。」


 俺のこの言葉にエラルドはきゅっと眉間に皺を寄せる。もの凄く言い難いと言った様相である。

 だがしかし剣を抜く様子は無い。どうやら俺とタイマンでやり合うつもりは皆無らしい。

 強く目を瞑ったかと思うとゆっくりと開いたエラルドは覚悟が決まったと言った雰囲気で姿勢を正して口を開いた。


「・・・今回の事の裏にある真実が知りたいです。メリアリネス殿、お教え願いたい。」


「そうですね、我が国とノトリー連国との関係はエラルド殿も知っていると思います。根本にはこれがあるのですよ。」


 嫌そうな顔でメリアリネスが説明をし始めた。その内容は隣国との話らしい。


「始まりは十五年前、ノトリー連合が我が国に対して侵攻、侵略を奇襲の如くにしてきた事が発端で最悪の関係になっているのは御存じでしょう。」


「その時のノトリー軍を返り討ちにして我が国有利の和平交渉で事が済んだと学んでいます。」


 何だか妙な雲行きになっている。単純に俺が魔王呼ばわりされるのが無くなれば良いだけなのに、何で隣国との話になっているのか?

 しかし俺のそんな小さい疑問など置いてけ堀でメリアリネスは話を続ける。


「その交渉ではノトリー連国の軍備増強を禁止していましたが、その効力は今年で切れます。再び隣国が攻めて来る可能性が出て来ました。と言うか、数年前から既にもう秘かに水面下でノトリー連国は兵力を集めている事がここ最近になって諜報部の調べで判明したのです。これは極一部の者にしか知らされていない情報です。」


 当然この事は宰相も侯爵も国王も知っていたと。そして軍の最高幹部?であるメリアリネスもしっかりと知っていたと。


「我が国でもコレに対しての兵力の増強、軍備拡張などをせねばなりませんでしたが、その微妙な十五年と言う歳月は国民の危機意識を奪ってしまっていました。軍の強化の為に税金を上げるなどと言う理由だと国民から反発を受けかねない位に平和ボケをしていたのです。何故これ程に平和であるのに、戦争の為の準備などで金を出さねばならないのか?と。これは現在の状況を楽観視している貴族たちもです。」


 どうやら十五年と言う歳月は貴族たちの間に「隣国恐れる必要無し」と言った意識を作ってしまっていたらしい。

 しかし俺はここで考えた。たったそれだけの年月で戦争をこうも忘れられるのだろうか?と。

 十五年なら別にまだ世代交代と言った感じでも無い。多くの戦争を知らない世代が新たに国政に関わっていると言った感じでも無いのにそこまでには幾ら何でもなら無いだろうと。


「ソレで今回の大気中の魔力濃度の増大を使って「魔王」ですか・・・」


 どうやらエラルドはもう大体の全容を察してしまったらしい。

 敵を「ノトリー連国」では無く「魔王」などと言うモノにすり替えて国民を納得させようとしたと。

 なまじ研究者たちが実際に大気中の魔力の増大とやらを観測した事で「魔王」と言うでっち上げの真実味が増す訳だ。上手くソレを利用したんだろう。

 国民の不安を煽る「デメリット」を並べて脅して金を出させると言った具合に。


「経済が停滞していたと言うのも確かに事実ではあります。それを大きく動かす為と言うのも本当なのです。それと隣国に対しての牽制も含めた軍事訓練と言った意味合いもあるのですが。しかしエラルド殿の「勇者」の件は私は知りませんでしたし、知らされてもいません。これらはどうやら別の意図で準備されたモノですね。さて、それはどう言った狙いだったのかは、侯爵様と宰相殿が良く知っているのでしょう。」


 ノトリー連合がここ近年まで隠れてバレずに軍備増強できていたのには驚きだ。

 ソレがノトリー連合の方が一枚上手と言った事なのか、或いは神選民教国がへっぽこなだけなのかはさておき、話はまだ続いた。


「さて、私は独自に調査をしています。何の、と問われれば、諜報部のです。我が国の情報収集能力はそんなに低かったか?と。ずっと、そう、ずっと、我が国の特派員、潜伏班は和平交渉後、ノトリー連合の動きをずっと監視していたはずでした。それなのにソレがここ最近になってやっとノトリー連国の動きが判明?遅過ぎるのです。まるで意図的に誰かが隠していたような、そんな感覚です。」


 さてソレは誰が隠していたの?って事である。そしてその真意もちゃんと知らないといけないだろう。


「暗部、並びに諜報部は宰相殿の管轄であり、そこで情報が止められていたと私は考えているのですが。まあそれが本当だったとしても宰相殿はこの事で真実をお話になられる気は無いのでしょうね。」


 ちゃんとこの情報が判明次第に国王に報告されていたならば、国としてノトリー連国に対して抗議か、警告、或いは罰則、罰金を支払わせようとした動きをしたはずだ。

 それら以外で取れる国としての行動では軍事作戦があるだろう。コレによって隣国への攻撃もあったはず。正当な理由、大義名分でノトリー連国に攻め入る事ができたはずだ。


「さらにまだあるのですが、どうされますか?エラルド殿には少々きついモノになると思いますが。」


 メリアリネスはここで鋭い視線をエラルドに向けてそう言い放った。

 コレにエラルドは少し俯いてから真っすぐにメリアリネスを見返す。


「私はこの国の貴族です。国民に安寧を与える義務があります。この様な裏がある事ならば私はソレをちゃんと知っておかねばなりません。」


 真面目、エラルドはどうにもお堅い頭をしている。それは悪い事では無いのだが、融通が利かないと言う裏返しにもなる。


「どうやら宰相殿と侯爵様は昔から繋がっていた様です。もうお分かりですね?」


「父上は私を軍の総司令官に就かせて侯爵家にそのまま軍を取り込みたかったのですね。そして宰相はその後押しをした。ソレで貴女の影響力が少しでも残らない様にと強引に殺そうとした・・・何と愚かな。」


「まあ、それだけではありません。ここまで話してしまいましたし、もう良いでしょう。宰相殿は隣国ノトリー連国と通じていますよ。はぁ、これは最後の最後まで取っておくつもりでしたが、エンドウ殿が私の味方をしてくれているので安心して暴露できます。やっと肩の荷が下りた気持ちです。」


 爆弾をまだ抱えていたメリアリネス。しかもソレをこの場のこの場面でぶち込むなんてどう言った精神をしているのだろうか?

 と言うか、ぶちまけるのに全部「俺が居るから」といった理由を使うのは勘弁して欲しい。それのせいで何か起きても俺には責任持てない。


 と、ここでプルプル震える存在一人。いや、俺が若干二名を「魔力固め」で動けなくさせているので、ソレが無ければ顔真っ赤にしていた者が三名と言った感じか。


「この痴れ者どもめが!貴様らは一体国を何だと思っておる!バリダー!裏切ったか!国を売ったのか!貴様ぁぁ!」


 国王陛下はバッチバチに御怒りである。そりゃそうだ。でも待って欲しい。これでは国王が自分で自分をハッキリと「無能」と叫んでいるだけである。

 まあそれならそれで部下に深い信用、信頼を置いていた、と言った言い訳を使う事もできるが。

 しかしよく考えたらソレはそれで駄目だった。国がちょっとヤバイ橋渡ってますよ、と言うのを今知ったと言う事なのだから。

 国王はそうならない為に存在するのであって、なってしまっていたら遅いのだ。ダメ王であるこれでは。部下に裏切られていたのだからオシマイである。


 だがここで国王がメリアリネスの言葉を嘘と捉えなかったのはどうしてか?

 報告書の内容は信じられないと言ってこうして俺は今この場でその力の証明をしているのだ。

 なのに今この場でメリアリネスの口にした情報を国王は直ぐに理解した。そして真実だと受け入れた。

 メリアリネスが暗殺されかけたと言う部分が関係してるのか、どうなのか?国王はメリアリネスに刺客が放たれて殺されそうになった事を知り驚いていたのでソレが余程ショックだったのか?


 さて、今回のこの宰相の売国?ギリギリでメリアリネスが迫る危機を阻止した、と言って良いのだろう。いや、良いのか?

 最終的に俺が居なければメリアリネスも殺されていた可能性があるので、そう考えると今のこの状況は「俺のおかげ」だと言える。

 そうするとメリアリネスの言う「俺が居たから」に全部集約されてしまう。コレには溜息しか出ない。


 そんな事を俺が考えていたらまたメリアリネスが喋り出す。


「父上、この責任はどうお取りになられるつもりでしょうか?」


 メリアリネス、王女様だった。目の前の国王を父だと。そして宰相と侯爵のこの件に対して責任追及をしている。

 二名の断罪を問うのでは無く、王自身の進退を質問しているのだ。これは要するに。


「・・・私は耄碌しておったのだな。潮時か。退位する。」


 退位である。国王はどうにも直ぐに腹は決まったらしい。項垂れつつもハッキリとした声で国王は宣言してしまった。地位も名声も権力も未練は無いのだろうか?

 余りにもあっさりと国王は退位をする事を決めてしまったのにはちょっと疑いの目を向けてしまう俺。これはこれで「大丈夫か?」と心配になる。

 アレヨアレヨと色んな事が起き過ぎて精神状態が不安定、と言って片付けてしまうにも少々思い切りが良すぎると思うのだが。


「息子に席を譲ろ・・・」


「ソレはお待ちを。全ては軍が戻って来てからにしてください。そして弟では無く、私が王として立たせて頂きます。」


 どうやらメリアリネスの覚悟と言うのはこの事であるらしかった。


「メリアリネスよ、本気か?」


 国王が驚愕の表情で直ぐにメリアリネスに問う。気は確かか?と。女王になると宣言するメリアリネス。


「私がノトリー連国との戦争に勝利した後、直ぐに弟に玉座に就いて貰います。それを私が隣で支えて行きましょう。厄介な事は全て私が片づけます。弟の性格では戦は荷が重いでしょうから。」


 メリアリネスは隣国との戦争まで始めると言い出した。そもそもそこまでをちゃんと事前に考えての覚悟だったんだろう。

 確かに戦争となったら責任問題やら戦死者の弔いだの、隣国との調停だの賠償請求だのと多忙に殺される勢いだろう。

 メリアリネスは戦争に負けるつもりは一切無いと言った雰囲気だ。寧ろ勝つのが当たり前、と言った堂々とし佇まいである。

 戦後処理に自国の復興と言ったモノは入っていないのだろうか?そこはやはり戦場は敵国「ノトリー連国」の支配域でを考えているのか、どうなのか?

 自国領土内での戦をするつもりが無いのであれば攻め込むか、或いは何処かの広大な土地にていきなり両軍の総戦力を出しての決戦を仕掛けるつもりか。


「父上は軍が戻るまでに粗方の書類処理と法整備、ソレと退く用意と私の戴冠の準備をお願いしたく。」


「うむ、分かった。これ程の失態をしてしまったのだ。それらはできる限り綺麗にしておく。それが私に残された最後の仕事だな。」


 何だか綺麗になってしまった国王の顔。随分とスッキリとした顔つきになっていた。まるで憑き物が落ちたかの様だ。

 そしてここでメリアリネスが俺に向かって言う。


「そう言う事ですので、エンドウ殿、協力して貰えますよね?」


「うん?・・・ん?!」


 確かに俺はメリアリネスの味方をするとは言った。だけどまさか。


「私が王位を弟に譲る前にエンドウ殿の「魔王」の件は取り下げましょう。ですので、それまでは私の味方でお願いしますよ。」


「ソレって、戦争にも参加しろって事か?」


「いえ、それだけではありません。今から侯爵と宰相の屋敷を片っ端からひっくり返します。それにもご協力を。そこから出た証拠を固めてそれぞれの派閥の不正を暴いてそれに連なる貴族も粛清しますので。ついでにノトリー連国とのつながりの証拠も探します。」


「おいおい・・・」


 これまでに独自調査をして宰相が「黒」だと言うのはハッキリしていたんだろう。

 メリアリネスのニッコリとした笑顔が怖ろしい。本気で血の嵐を起こすつもりだと何故か分かったから。


「宰相が敵と繋がっていた証拠も集めてノトリー連国に叩き付けますので早めにやってしまいたいので今からお願いします。ああ、報酬はちゃんとご用意致します。無償で手伝えなどとは申しません。どうでしょうか?」


「・・・はぁ、分かった。やりたい様にやれば良いよ。メリアリネスの決めた事だろ?俺はそれに文句は付けないよ。協力するよ。だけど金は要らない。色々と戦争するなら入り用だろ?その後の処理にも幾らでも金が必要になるんだろうからな。」


「有難うございます。エンドウ殿に深い感謝を。」


 こうして俺はどうやら戦争にも巻き込まれてしまった。ここでケツ捲って何処かに逃亡するのはバツが悪いし、ケツの座りも悪い。今の俺は「もうどうにでもなれ精神」になった。


 さて、この場は俺が「魔力固め」しておいた宰相と侯爵を武官三名が拘束して幕を閉じる。

 俺が止めていた城守兵はこの場面を見て何がどうなっているのかを理解してい無い様子だった。

 ここで国王がしっかりと解散との命令を出してやっと治まる。


 ここで俺とメリアリネスとアーシスは早速家探しする為に移動。

 国王と武官三名は宰相と侯爵を牢にぶち込む為に城に戻っていく。

 因みに宰相と侯爵はずっともごもごとみっともなく藻掻き続けているが、喋る事は出来ない。

 口の部分だけは「魔力固め」を解除していないから。コレを解いていればきっと喚いて五月蠅い事この上無かっただろう。


 さて勇者エラルドはと言うと、深刻な顔をしてその場に突っ立ったまま。コレには誰も声を掛けずにこの場を退場している。早まった事だけはしないで欲しいと願うばかりだ。と言うか、掛けてやれる言葉が見つからなかったと言うのが真実か。


 さて、俺はメリアリネスの後ろについて行くばかりである。宰相と侯爵の屋敷が何処にあるのかなんて知らないし、そもそも捜索をするのだからそこら辺の人員などの準備も必要で時間もかかるはず。

 そこら辺の事はどうなっているのかと問おうとすると城を出る門の前には百名程がずらりと並んでいる。

 その前でメリアリネスが言葉を発する。


「皆の者!我が国に巣食う寄生虫を退治に行くぞ。進め!先ずは宰相邸だ!」


 この言葉に誰も掛け声の一つも上げずに静かに、そして流れる様にして動く。めっちゃ怖い。


「既に事前に準備が済んでいた?いつ?首都に戻って来た時に?それとももっと前から?」


「準備は充分に済ませてあったのですよ。後はソレをいつ実行に移すかの問題だけでした。そしてソレは私が今回の件で帰還する機に一気にやってしまう計画でした。もちろん、軍と共に私が一緒に戻って来た勢いに乗って、のはずだったのですけどね。」


 俺の疑問、それにメリアリネスが答えを発表。どうやら武力を使っての強引な捜索をして宰相も侯爵も両方一辺に問答無用で物理的に潰すつもりだったらしい。過激に過ぎる。


「うわ~、俺、必要無かったんじゃないの、コレ?」


「いえいえ、エンドウ殿がもし居なかったら居なかったで、その場合は私は帰還する軍の中で事故に見せかけて殺されていた可能性が非常に高いですからね。心の底から今ではエンドウ殿とこうして友好な関係が築けた事に感謝していますよ。あの島にエンドウ殿が居てくれた事で、私は命を救われたと言っても過言ではありません。」


 大袈裟だ。何とも言えない気分にさせられた。そんな偶然アリか?と正直思ってしまう。

 もしすれ違いとか、或いはタイミングがちょっとでもズレたらとか。

 或いはちょっとでも俺への対応にヘマをしていれば、今の状況は無かったと言うのだから。


「御都合がヨロシイ事で。人の縁ってホント、理解でき無いよなぁ。」


「調査で既に宰相も侯爵も国家反逆罪が成立していました。証拠を消される前に、のらりくらりと追及を躱されない様にするには、逆に向こうの思考の死角を突く位しか国を守るための手段がありませんでしたから。それほど置かれている状況はギリギリと私は判断していたんです。時間的なモノも充分と言える余裕は有りませんでしたから。」


 メリアリネスは宰相の屋敷への道のりでそう説明をしてくる。どうやらメリアリネスの見立てではノトリー連国がこの国に直近で攻めて来るといった予想だったらしい。


 そんな事を話していたら到着。目の前にはめっちゃデカイ屋敷、ソレと広大な敷地。


「ここを調べるって、めっちゃ広過ぎじゃね?」


 今からここをこの場の百名ちょいで捜索をすると言うのだ。無茶だろう。しかしメリアリネスが俺に頼んで来る。


「エンドウ殿、あなたの力で何とかなりませんか?」


「あ、そこで俺の出番なのね・・・はいはい、分かったよ。それじゃあ一気に調べるか。気合入れてやりましょうかね。」


 俺がそのセリフを言った直ぐ後に「どかん!」と爆発、その後に煙が上がる。これは俺がやったのではない。どうやらこの場に居る百名の中に魔術師が居たらしく、魔法で門を破壊したらしい。

 どうにも門番は頑なにこの集団に門を通る許可を出さなかった様だ。それで強行突破と言う事らしい。


「・・・待ってくれたら俺が開門したのに。あーあー、爆発音で衛兵も集まっちゃうし、屋敷内の用心棒?が一人二人三人・・・三十人?随分と厳重にしてるなぁ。つか、コレ私兵か?」


 宰相は屋敷の防衛の為の正式な騎士を雇っていないらしい。出て来る武装した者たちはどいつもこいつもそれぞれが自由な武具で統一感ゼロ。

 その手に持つ武器も様々。剣を持つ者が多く、その中にナイフ、手斧、弓矢、槍、杖を持つ者も。

 誰も彼もが自信に満ちた顔つき。どうやら手練れ集団と言った様だった。


「我が名はメリアリネス!この度宰相バリダーが国家反逆罪との疑いがある。これからする屋敷の捜索を邪魔する者は犯罪者として捕らえる。そうなりたく無くば今すぐにそこを退け!」


 コレで素直に敷地内から出て行ってくれたら楽だったのだが。

 誰一人としてその場から移動しようとしない。屋敷の入り口、扉の前に展開してその構えた武器を一向に下ろそうとも、しまおうともしない。


「まあそう上手くはいかないだろうなぁ。」


 こちらは百名ちょい居るのだが、その中に戦闘を生業にしていると言った空気の者は俺の目で見ても十名くらいしか居なさそうだ。

 俺と同じ事を感じているのか、宰相側の私兵たちは不敵な笑みでこちらを見てきている。三十名で勝てると睨んでの事だろう。

 闘えない者が百名、対して戦闘バリバリの専門職が三十名。どちらが勝つかと予想すれば、この場合は宰相側の私兵だろう。


「まあ俺が居なかったらの話ね、それは。」


 もうここまで来てしまったのだ。さっさと終わらせるためにも俺はここで自重などしないで邪魔者の排除に乗り出した。

 さっさと「魔力固め」で邪魔者を拘束、そのまま魔力を操って歩かせて庭の隅っこに整列させておく。

 そのついでにこの広大な屋敷も敷地も隅々まで魔力ソナーで調べておく。


「当然の如くに隠し部屋があるんだけど。やっぱ偉い人には屋敷の中に一つや二つ隠し部屋を持つのが普通なのかねぇ?」


「そこは何処ですか?エンドウ殿、案内してください。」


 宰相の所だけでは無く侯爵の屋敷も捜査しないとならないのだ。ここで長く時間を使っている暇は無いだろう。

 メリアリネスが案内してくれと催促するので俺は「はいはい」と返事をしてさっさと屋敷の中へ入る。

 そのまま見つけた隠し部屋の入り口前に到着。扉のギミックもさっさと魔力を流し込んで操作して開けてしまう。

 こうして目の前の何ら変哲も無い壁が横にスライドしていく。もうこの程度ではメリアリネスもアーシスも驚かない様だ。

 そこに現れた地下への階段を下りていく。中は真っ暗なので俺がサービスで魔法で明かりを出して通路を照らす。

 そうして辿り着いた地下室には簡素な机の上に十枚近くの書類。それをメリアリネスもアーシスも手に取って読み始めた。


「今日より三日後にどうやらノトリー連国は出兵をする予定だったらしいですね、この最近のやり取りなのだろう書類によれば。それを宰相が情報操作をしてなるべく隠す様な流れだったみたいです。暗殺で私が死んだゴタゴタに合わせて攻め入る予定だったのでしょう。どうにも稚拙な策ではありますけど、大胆とも言えなくもありませんか。何もかもが上手く行っていれば我が国は大打撃を受けてもおかしくありませんでしたコレは。」


「で、ノトリー連国はこのまま戦争を仕掛けてくると思うか?」


 事が上手く行っていれば宰相が最終的な連絡をノトリー連国に出していただろう。

 だけども結果、宰相は城の牢に今頃ぶち込まれている。これではノトリー連国との連絡も取る事は困難だろう。

 この場合は決められた時までに連絡、接触が無かったパターンを考えると。


 トラブルに遭ったと判断して暫く待ち続けるのか。

 或いは即座に「失敗」と切り捨てて撤退をするのか。


「仕掛けて来ても、そうで無くても、どちらにしろエンドウ殿が居れば「敵国、恐れるに足らず」ですので。それは私が身を以て体験しましたからね。ですので今は国内の安定をさっさとして行きます。この書類は回収、国王陛下に提出しましょう。城に一旦コレを以て戻ります。」


 どうやら俺たちだけ城に戻って報告と言う事らしい。百名の捜査員はこのまま続けて残って屋敷内の調査を続けさせる様だ。


 こうして俺たちは隠し部屋の地下室を出てさっさと屋敷を出た。

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