表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/327

どれだけやれば気が済むのか

「で、俺としては最終的に上層部やら国王がイチャモン付けて何かと無茶を言ってきたり失礼極まる事を言ってきたりしたら面倒だしいっその事全面戦争して吹っ飛ばして全部潰したいんだが?」


 俺はメリアリネスの屋敷に御厄介になっている。自由にして貰って構わないと言われてもの凄い豪華な部屋を一室提供された。

 その部屋に俺とアーシスとメリアリネス、ソレと護衛の一名が居る。明日以降の事を相談する為だ。ここに居ない護衛の残り四名はこの屋敷内を警邏している。


「・・・全部潰すと言うのは、この国を消すと言う事か?」


 俺の言葉にヒクヒクと口端をぴくつかせてメリアリネスは苦い表情で問いただしてくる。


「いや、取り敢えず殺しはしないよ?けど、そうだな。分かって貰う為に俺の力を体験して貰う事にはなるな。」


 俺はそう言い直してテーブルに出された茶と菓子を堪能する。

 そもそも俺が何でもカンでも気に入らないと言ってこの力を何の配慮もせずに振るえばそれこそ国なんて多分一時間も掛からずに滅ぼせるだろう。

 俺は魔法と言う力を使えはするが、それを使って世の中をぶち壊したいとも思わないし、無暗やたらと相手の立場を崩壊させる様な事もする気は無い。

 嫌いな奴を、邪魔な奴を、気に入らないと思った相手を、悪人を、それこそ片っ端から殺して回っていたらそれこそソレは只の殺人鬼と何ら変わらないような気がする。

 気まぐれで殺したり殺さなかったりと自分の中でも基準が曖昧な部分もあったりするし、そう言った事も散々してきているが。


 俺は世の中のしがらみなどを全く分かっていない輩でも無い。それらを力づくで振り切って嵐を巻き起こす気も無い。

 確かに俺は「自由」なのかもしれないが、歴史やら掟やら教義やら約束やら秩序やらと、そう言ったモノを何の理由も無しに否定したりもしたくは無いと思っている。

 傍若無人、暴君の如く、そんな振る舞いをしたらそれこそ俺は本当に人で無し「魔王」になるだろう。

 まあこれまでもそんな事をちょっとくらいはやって来てはいたが。


 今回の事はメリアリネスにやれるところまではやって貰うとして、ソレで話し合いが何の進展も無かったら俺が直接話を付ければ良い。その時になったら容赦しなければ良いのだ。

 それでもまだ相手が頑固にも俺を「魔王」などと言うのであればその時には本当にその魔王とやらの「振る舞い」をして見せてやれば良い。

 ソレが相手の望む形だからこそ「魔王」呼ばわりしてくる。それならコチラはその求めに応じてそれに相応しい態度で接すれば良いのだから。


「出方次第と言う訳ですか。しかし、その流れくらいしかできないですね確かに。」


「俺っていつもこんな感じだからさ。大抵の事には流されてその場その場で思い付きでの行動が多いんだよ。」


 これは俺が魔法で「何とかなるんじゃない?」と考えてしまっているせいである。

 大抵の事は魔法で解決できてしまう。超御都合主義とでも言えるこの力はどんな企み事でも、どれ程の戦力が目の前を塞ごうと、それらを軽く蹴っ飛ばしてしまえる。

 そんな安心があるからこそ、俺は悩んだり深く考えない様になってしまっていると言えるし、雑な解決方法を選んでしまう傾向にある。


「私がどれだけ国王陛下を説得できるかに掛かっていますか・・・無理難題ですね。無茶も程があります。侯爵も、宰相も私を殺害しようとしてきたのですから、今の状況は城に入ってしまえば「殺してください」と、自殺をしに行っている様なモノですからね。貴殿が味方で無ければ。」


 既に護衛もアーシスも宰相のバリダーがメリアリネスを殺しにきていると言うのは教えてある。その時にしたアーシスの鬼の形相にはギョッとさせられた。ハッキリ言って怖すぎだ。


「では、全ての命運は明日に決まります。今日はもう寝てしまいましょう。もし、上手く話しが纏まらなかった場合、私も覚悟を決めましょう。」


「あ、夜襲があったりすると睡眠の邪魔だし、壁張っておく。」


 明日には城に行ってヤヤコシイ事になるのだろうからして、今日はしっかりと寝て疲れを取っておくべきだ。

 一部屋一部屋全てに一々結界を張っておくのは逐一面倒なのでこの屋敷全体を完全に覆っておく。


 俺が魔法でこの屋敷全部を守護する事に安心したメリアリネスたちは部屋を出て行く。


「さて、寝るかねー。」


 既に屋敷に着いた後に夕食は済ませてあった。なのでもう話し合いがコレでお終いなら後は寝るだけ。

 屋敷内にメリアリネスに敵意がある者が潜んでいないかは既に魔力ソナーで調べ済み。

 侵入者や不審者、潜伏していると言った者も居ない事は確認済みだ。

 きっとメリアリネスが帰って来る速度が早過ぎて仕込みが間に合わなかったんだろうと推察する。


(いや、本当に?あれだけしつこくて神経質、心配性なのに?・・・もう一回やっておくか)


 宰相か、侯爵かは知らないが、どっちにしろこれ程にメリアリネスの命に粘着して狙って来ているのだ。そんな奴がこの屋敷に何も仕掛けていない、何て事は考えづらい。

 なので俺は寝る前にもう一度屋敷の中を魔力ソナーで調べ直す。今度は徹底的に。すると。


「あー、悪意が無い訳だ。罠が仕掛けられてら。壊して処理してポイ、だな。」


 魔力ソナーで最初に調べた際には人だけに集中していたので気付け無かった。俺はトコトン間抜けだ。

 メリアリネスの部屋のベッドの下に槍が飛び出す罠が仕掛けられていた。油断も隙もあったもんじゃない。

 これはもし一歩間違えていれば、調べるのが間に合っていなければ、メリアリネスは殺されていた。


「あっぶねー。いや、ホントやばい相手だな。・・・他に別の仕掛けや罠は、無いな。ホッとしたわー。」


 コレでやっと眠れる。今こうして俺に冷や汗を掻かせた相手には後で「お礼」をしないとならないだろう。まあ誰がやったかはまだこの時点じゃ分からないが。メリアリネスを狙う犯人が複数の場合もある。


 これまでメリアリネスには俺の魔力を纏わせていなかった。俺が側に付いているからまあ急に襲われても大丈夫だろうと言った甘い考えだった。

 しかしこれからは彼女を絶対に死なせない為にやっておかねばならない。こんな「罠」何てモノを設置されていたのだから安全の事にもっと注意を払うべきだった。


「この調子だと明日からもドタバタしそう・・・と言うか、するんだろうなぁ。」


 俺は溜息を一つしてから眠りに入った。


 で、翌日だ。清々しい朝である。しかし屋敷の外は何だかおかしい。


「いや、まあ、そうか。魔力壁に電撃が流れる様にしてあったからな。不審者が不用意に触ればそうなるよ。」


 全身黒づくめの男が三人程倒れていた事で屋敷の使用人たちが騒いでいるのだ。

 しかもそいつらが倒れていたのはメリアリネスの部屋の近くと言う事で、こいつらが暗殺しに来た者たちだと言うのが直ぐに分かる。


「馬鹿だなー。いや、この間の宿屋での襲撃が失敗したってのを知らないのか。その情報が入って無いから同じ事を繰り返してるんだな。」


 幾ら何でもしつこ過ぎるし、相手はなりふり構わないつもりなのか。騒ぎを気にする気も無いのか刺客を送って来る回数が多過ぎる。

 そんなにメリアリネスを亡き者にしたいのか?執念か、もしくは他に何か狙いがあるのか、焦っているのか。


 取り敢えず俺は背伸びをして大きなあくびを一つしてから黒ずくめ三人の元に向かう。

 そこには既にアーシスと護衛五名がそいつらを囲って逃げ出せない様にしてあった。その側にメリアリネスも居る。

 この三人を発見した使用人は下がらせている様で見かけられない。


「エンドウ殿、おはようございます。それで、やはりこれは貴方が?」


「まあそうだな。宿屋の時と同じだよ。で、こいつらの処分は?」


「城に連行しましょう。それをやった所でこの者たちを送り込んで来たのが誰なのか分かるとは思えませんけれど。それでも牽制にはなるかと。」


 宿の時には連れて行くのも面倒だったし、あの場で処分と言った流れだったが、今なら違う用途にも使えると言った所か。


「ここまで来たらそんな手間を掛ける必要も無いと思うけどね。俺としてはもうこれ程にしつこいと「どうでも良いんじゃないかな?」って思っちゃうけど。」


 国と言う体裁と言うのは大事だ。その点を考えてメリアリネスの意志を尊重しているが、ぶっちゃけもう俺の方は良い加減どうでも良くなり始めて来ている。アブナイ傾向だ。

 これ程までに一人の人物の命を始末しようとするのに取って来る手段が直接的過ぎるし、回数も多過ぎる。

 悪意が駄々洩れ、クドイ、明らかに「殺してしまえば後はどうとでもできる」と思っている節が見え見えである。

 そんなクソみたいな悪党と言える相手に何を我慢する事があろうか?と思ってしまっている俺が居る。

 その悪党が幾ら国の重役を担っている相手であろうが、そんなの俺には関係無い。それこそ俺を「魔王」呼ばわりしてきている国の重鎮だ。もうやっちゃって良いのでは?とすら思い始めている。

 それでも慮って色々と抑えているが、ソレももうそろそろ限界だ。


(良い加減今日で片が付かなかったら「魔王」呼ばわりされてる事は一切無視してこの国と関わらなければ良い話だよなぁ)


 俺が気にしなければ良い話なのである極論この「魔王」の話は。

 今の所この国だけが「魔王」と騒いで沸いているのであって、別の国が俺の事を「魔王」認定している訳じゃ無い。

 結局は俺が無理してここでこの件を取り下げさせずとも放っておけばいい代物でもあるのだ。

 そんな事を思っていたらメリアリネスにこう言われる。


「・・・私が必ず今回の事を全て撤回させるので、エンドウ殿、どうか、早まった事は抑えて欲しい。」


 どうやらメリアリネスには俺の言葉は脅しに聞こえてしまったらしい。コレに俺は小さな溜息で返すだけにしておいた。


 そんな朝の事もあったりしたが、その後は朝食を摂ってリビングで再び話し合いだ。

 メリアリネスは昨日の内に城に知らせを送っておいたのだと言う。返事の内容はと言うと、今日の午後に国王との謁見、報告をする事になったと。

 と言う訳でサラッと軽い感じで本日の流れをおさらいだ。コレが終わったらメリアリネスは身だしなみを整える為に色々と準備に時間を掛ける。


「城に到着後はそのまま玉座の間に私は向かいます。護衛はアーシスのみにします。エンドウ殿は・・・そのまま、はぁ・・・姿を消したままで付いて来て頂ければ。」


 コレに追加で「移動中も刺客が襲来する可能性が高い」と言った話もする。

 こうも何度も襲撃が多いと「二度ある事は三度ある」と言った言葉に笑いしか出てこない。

 諦めたらそこで終わり、などと言うが、この頻度はちょっと人格を疑うレベルだ。


 こうして後はぶっつけ本番、後は野となれ山となれである。メリアリネスが幾ら頑張ってもどうにも出来そうにも無いだろうと俺は思っているのだが。


(やるだけやった後の「しょうがない」なら誰もが納得するだろうしな)


 取り敢えずは出発の時間まで俺は肩の力を抜いてお茶を飲んで過ごした。


 そうして登城の時間。メリアリネスはビシッとした軍服?取り敢えず沢山勲章が付いたその白を基調とした重そうな服を着て行くらしい。


「これは余り着たくは無いのだがな。」


 肩をグルングルンと回して大きく溜息を吐いてからメリアリネスは馬車に乗り込む。アーシスがそれに続いて乗り込んだ。

 俺は乗らない。空を飛んで付いて行った方が楽。そんな理由だ。


 さて、出発だ。俺はそれと同時にこの屋敷から城までのルートにウザい奴らが隠れていないか魔力ソナーを一気に広げて調べた。

 朝食後にサラッとやった話し合いで地図を見せて貰っている。もちろんこの屋敷から城までの道のりを教えておいて貰う為だ。

 道中に襲われるとまた面倒だ。もう先に俺が全部固めてそのまま事が全部終わるまで放置と言う事で決まっている。


(で、所々に潜んでいる敵意を持つ奴らが合計で三十名とは恐れ入る。本当に無駄な所に熱意が注がれてるなぁ)


 当然そいつらが馬車を襲ってこれない様に「魔力固め」を施しておく。コレでスムーズに城に到着できるだろう。

 この分だと城の中にもどうせ刺客を配備しているに違いない。それらも後で片付け案件だ。


 そうしている内に馬車は進む。快適だ。余計な邪魔が入らないのであっと言う間に城に着いた。

 大きな門が開いていく。既に段取りはできているんだろう。中へと馬車が進めばどうやらターミナルの様な広場で馬車が止まった。


(何で読んだんだっけか?確か暗殺って乗物から降りる際に一番狙われやすいとか何とか?)


 襲撃者にとってターゲットが狙い易く止まる瞬間と言った所か。狙撃をするのにもこれは確かにチャンスだろう。

 乗り物から降りる時、余程慌てていなければ勢い良く降りる何て事はしない。一瞬立ち止まる。


(で、三名の狙撃手が各持ち場でメリアリネスを狙っている、と。何処までも執念深いな、ええ?おい?)


 城に着いた時にはもう俺が全部調べておいた。良い加減コレだけの数に襲われて、それでいて一々それらをその場その場で撃退などしていたら先に進まない。

 そいつらは、と言うか、城の中に潜んでいる刺客たちは全員が漏れ無く俺の「魔力固め」で身動きできなくさせてある。

 その数、何と驚きの三十名。小間使い、メイド、騎士、庭師、料理番、文官などなど。

 城の入り口からどうやら玉座の間までの通路に各種配備されていると言った様相になっていたのは流石に呆れた。

 本日の為に相当な手回しがされていたと見て良いんだろう。ここまでの手際、手腕をよくもまあメリアリネスだけを殺す為に使えたものだ。

 優秀、有能なのだろうそいつは。だけどもソレを使う所を間違っていると言ってやりたい。

 と思っていればもう玉座の間の扉の前。その扉を守護する騎士二名は流石に刺客に挿げ替えられなかったらしい。

 その騎士は大きな両開きの扉をゆっくりと開けていく。メリアリネスがその中に入れば「メリアリネス様御帰還」と声が響く。


「只今戻りまして御座います国王陛下。」


 そう言ってメリアリネスは部屋の真ん中辺りで立ち止まって片膝をついて挨拶を口にした。

 その後ろにアーシスも居て同じ様に片膝をついて顔を下に向けている。

 その先に髭モジャで金の冠を被ったオッサン。どうやらその人物が国王らしい。


「うむ、よくぞ戻った。此度の件、お前の口から直接の説明をせよ。事前に受けた報告書の内容、俄かには信じられん。」


 メリアリネスが玉座の間に入って来た事でこの場で苦い顔を晒した者は二名。恐らくはソレが侯爵と宰相。

 国王の横に少し離れて立っているのが宰相だと思われる。


(他には暗殺に加担してる奴は・・・いなさそうか。だったらこの二人だけが悪事を企んでいたと)


 国王の様子は全く変わっていない。話通りにメリアリネスの命を狙っていたのは侯爵と宰相で、国王はこの二名の企みなど全く知らないのだろう。

 今もメリアリネスの話に耳を傾けて眉根を顰めている。

 メリアリネスはあの絶海の孤島での事を詳細に説明をしている。大袈裟に話したり、法螺を吹いたりしていない。

 彼女の主観だろう内容ではあるが、俺が聞いていても別に余計に付け加えたり、嘘を吐いたりと言った言葉は無い。

 本当に淡々と指揮官として現場で見聞きした体験を具体的に話している。


「そして私は会議の後にその者と会話をしました。相手の要求は「魔王」の件の一切を取り下げる事。孤島に今後一切立ち入らない事。」


「ふむ?我が軍がそ奴一人に手も足も出ぬとは。その話が真ならばそ奴が、そ奴こそが「魔王」であるか。ならば危険な存在である。勇者を派遣して討伐をせよ。」


「ソレはお待ちになって頂きたい。国王陛下、此度の「魔王」の件、取り下げを。かの者を敵に回せば国が亡びます。危険だの、討伐だのと言った事は訂正してください。安易で愚かな行為は一切取ってはなりませぬ。国を簡単に滅亡させる事の出来る力の前では何もかもが無駄なのです。」


「何を申すか。お前は我が決定を愚かと申すか。もうこれは決まった事である。お前は軍を辞め、代わりに勇者エラルドを就かせる。そして第二遠征をし、その「魔王」を討つ。」


「私の言葉は信じられませんか?国を亡ぼす事の出来る力を持つ存在に、我々の国力など塵芥に等しいのです。障害にもならぬのですその者にしたらそんなモノは。それこそ私が率いた兵力ですら全く通用する気配すらありません。それを勇者などと言った者が軍を率いた所で結果は変わらぬでしょう。どうかお考え直しを。その者との友好を結ぶべきです。対立、敵対は最も愚かな選択です。」


 俺はいつ姿を見せようかタイミングを見ていたのだが。どうにもメリアリネスの説得は明らかに国王には届いていない。


(さて、ここいらで悪戯するかぁ。ワープゲートを出してッと)


 今朝の黒づくめ三人をこの場にポイッと出す。メリアリネスの前に。

 こいつらは城に連行して牢にぶち込んでおく予定だったのだが。ここまでにそんなタイミングは無かったので今出しておく。

 コレにギョッとした顔を見せたのはメリアリネスとアーシス以外のこの場に居る全員。

 コレで場がどの様に転がるか高みの見物をしようと思って俺は周囲の観察をする。そこに国王の驚いた声が響く。


「一体何処からこやつら!?者ども!であえであえ!捕縛せよ!」


 騎士たちが玉座の間に十五名程入って来て黒づくめ三人を縄で縛る。そして連行していった。

 一体全体何だったのか?そんな空気がこの場に立つ。まあそうだろう。何せその三人は床に転がったままでいきなり現れて何らの抵抗もせずに捕まってしまったのだから。

 そこにメリアリネスが口を開く。


「今の三人は今朝、我が屋敷に侵入しようとした不審者です。こやつらと同じ姿の者に帰還の道中の宿にて私は命を狙われております。それだけではありません。野盗に見せかけたと思わしき軍部の者に二度、襲撃を受けまして御座います。」


「・・・何じゃと?今、何と申した?」


 平気な様子でメリアリネスがそんな事を言うモノだから国王がポカンとした顔になる。

 この流れは別にメリアリネスと相談してやった事では無い。その場その場で俺が勝手に動くと言う事は伝えてはあったが。


「首都に着いた後にも、ならず者の組織に命を狙われました。何者かが私を殺す様にその組織に依頼を出したようです。・・・私を亡き者にしようと企んでいる者がこの中に居ます。」


 この言葉に国王が眉根を顰めて「真かソレは」と小さく吐き出す。これにハッキリと確信を持った強さでメリアリネスが「犯人はこの中に居る」と口にするので国王も流石にこれには苦い顔をした。本当の本当に国王は何も知らないらしい。

 この場に集まっている貴族?文官?武官?たちも驚きの声を上げていた。その「亡き者」と言うのを企んでいた当の侯爵と宰相はと言うとしかめっ面を晒している。

 しかしその表情を見ている者はこの場には居ない。誰もがメリアリネスに視線を向けていたから。


「私が今この様にしてこの場に居られるのは命を助けられたからです。」


「誰に助けられたと言うのだ?そもそも帰還には護衛も付いておったであろう。」


「行く先々で待ち伏せるかの様に敵は潜んでおりました。これは私の動き、予定をあらかじめ知っていた者にしかできぬ事です。」


「メリアリネスよ、誰に、誰に助けられたのだと言うのだ?それだけの用意をする犯人ならば襲撃者の人数も護衛では対処ができぬ数だったのであろう?誰なのだソレは?ハッキリと申せ。」


 メリアリネスと国王の会話に誰も割り込んで来ない。


「この国が「魔王」と指定する、その者にで御座います。国王陛下、私はその者の居る島に乗り込んで、それこそ問答無用にて攻撃を始めたのにも関わらず、私は助けられているのです、その者に。その者の求める所は「魔王呼ばわり」されるのは面倒御免だからその一切を取り下げろと。」


 コレに国王は「うむむ」と唸った。


「そもそも助けられたと言うのならその「魔王」は一体今何処に居ると言うのだ?その本性はどの様な者であるか?全く掴み所が無い。訳が分からぬぞ?」


「勝手に俺を悪者扱いしてるから分からない何て言うんだよ。そこを先ず認識しろよ。そっちが掲げる前提条件がそもそもおかしいって何で分かんないの?」


 俺はそう言いながらメリアリネスの横に姿を現した。


「何者か!?怪しい輩め、騎士たちよ!」


 国王は即座に騎士を呼ぶ。いやまあ、国王のこの反応の速さは「ビビリか!」とツッコミを入れたくなるがグッと堪える。


「お宅の所の研究者?だか何だかが大気中の魔力濃度が上がったとか何とか言っているらしいけど、ソレってどんな被害が出るとか分かっていたりするの?」


「貴様は何を言っておる?いきなり現れたと思えばその様な事を口にするとは?何と不気味な。騎士たちよ、この者を早く捕らえよ!」


 小心者なのだろう国王は何処までも。俺の正体なんてそもそも知る気も無くて、いきなり現れたこの場に呼ばれていない、意味の分からない相手に対して問答無用で無力化を指示する。

 確かに向こうの立場で身の安全を考えてみるなら、正体不明の招かれざる客を即座に捕縛は当たり前の選択なのだろうが。

 ここまでの話の流れからして俺がこいつらの言う「魔王」であると分かりそうなモノだと思うのだが。


「そうか、それはそれで直ぐに捕縛、何てのはもちろんの事、もっとツッコめばこの場で殺せって命令を出す場面だな。」


 向こうからしたら俺は今「飛んで火にいる夏の虫」だ。「魔王」は討伐対象。

 なのに殺せと言わずに国王が捕縛しろと騎士に命令を出すのが何とも。


「メリアリネス、説得は無理って事で良いか?こんなに察しが悪い王様って事ならもう体験して貰うしか無いだろ?」


 百聞は一見に如かず、人って言うのは他所から幾ら話を聞いた所で自分の信じたく無い事は信じない。

 ソレが幾ら信頼を置いている相手の話す真実であった所で、それを嘘とか、大げさだと、聞いている当人が思ってしまえばその真実は中身の百分の一も伝わらない。

 今のメリアリネスと国王のやり取りがそうだろう。実際に体験をした者の話を聞いているのに、国王はその内容を全く無視するかのように予め決めていた通りに動くと宣言しているのだ。

 馬鹿馬鹿しいにも程がある。これではメリアリネスをここに呼んで一々その口から説明をさせなくてもいい。

 それでもこうした形式ばった報告と言うのは国の体裁を取り繕うのに必要だからやるんだろう。それが幾ら茶番事であったとしても。


「エンドウ殿、出て来るのが早過ぎでは無いか?」


「いや、だってメリアリネス。これって国王はもう宰相と侯爵と話を付けてあるって言う事だろ?勇者を軍の頭に入れて第二遠征を出して「魔王」を討つとか言っちゃうんだぞ?そもそもこの出来の悪い茶番劇「魔王」ってのはさ?居ない存在を勝手にでっち上げてソレを倒しに行こう!って筋書きだろ?それのあれこれで無理矢理に動かした経済的な流れは一時的なもので、次の経済活性化案を実行するまでの時間稼ぎだったんだろ?ソレが第二遠征とかまだ茶番を続けるって言ってるんだ。他の案は作って無いって白状してるじゃん?で、居ないはずの魔王ってどうやって倒すのって話で。そこに俺が出て来ちゃったから都合良く利用してしまおうって見え見えだろコレ?勝手に魔王を作って、それを勝手に俺に当て嵌めて、そんで最後は俺を殺すって?うん、何だか自分で言っておいて段々と腹が立って来たんだが?」


 国の都合で個人を勝手に悪者に祭り上げて、それを一方的にぶっ殺して景気回復の一助にしようって、こりゃ結構な理不尽、不条理だ。

 最初の嘘っぱち話「魔王」はまだ許せるし、勇者だの、メリアリネスに軍を辞めさせるだのと言うのはまだ良い。

 この場で俺が姿を見せても話を聞こうとも、しようともしない態度はどうよ?ってのもまだ、まあ、吞み込もう。

 しかしこうも国の一番偉い王と言う存在がこれではこの国の程度が知れる。話が全然進められない。


「何故誰も来ぬのだ!?」


 国王が騎士を呼んだのに誰も来ない。さっきの黒づくめ三人の時には直ぐに現れたのに。

 コレに国王が「誰ぞおらぬのか!」と再び叫ぶ声が響く。しかし返事は無い。静かだ。

 当然俺が動けない様に騎士は固めてあるのでこの場に来れるはずが無い。既に魔力ソナーで城の中は全て調べてある。重い鎧を着ている者たちは全て「魔力固め」済み。


 そんな時にこの玉座の間に入って来た者が居た。


「勇者エラルド参上!私が来たからには国王陛下の身に指一本触れさせはせん!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ