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求めていく

 それは四人が自分たちだけでは到底クリアできなかった事を自覚しているから。力不足である、と。


「エンドウ一人でクリアできただろ?ぶっちゃけた話。最後のヌシだって。俺たちはお前の魔法のおかげで倒せたようなモノだ。」


「そうよ。あれは私たちの力じゃない。あんたの力だもの、言って見れば。」


「そう言う訳で、俺たちはギルド長に申請する。俺たちのランクは上げてくれるな、ってな。」


「理由を聞かれても答える事は無いですけれど。こちらがヌシの証明をしなければそれは通るはずです。」


 どうやらあのサイクロプスは出さないつもりらしい。せっかく素材買取がしてもらえるようになったのだから、それを売ってパーティーの強化資金にすればいいはずである。

 だが、四人はソレを残しておきたいと言っている。


「ヌシでだけじゃない。キメラも、途中の階層の例の魔物も全て出さないでいく。俺たちはランクを上げなくともお前の分はキッチリ上げてもらうつもりだから安心しろ。」


「そう言う事。エンドウの力だけであのダンジョンはクリアした様なモノだから。そこら辺は私たち四人が証言するから、多分上がらないって事は無いわ。」


「特例としてダンジョンクリアをしてもランクを上げなかった例もある。そこら辺は調べた。」


「調査隊はしっかりと私たちがクリアをしたと証明をしてくれましたから。一番低いランクのエンドウ様を上げないと言った事はしないと思います。私たちの分は自分たちの都合で上げない、そう言った形でランクを据え置きにしますので。」


 俺が理由を聞く前に四人は説明をする。全部お前一人だけでクリアできただろ?と。

 ソレが余程の事であると考えた四人は自分たちの強さをもう一度見つめ直す、と。


「あ、そう言えばラディ、身体強化と武器の魔法付与はどうする?訓練したいって言ってたけど。すまないな。俺もやる事が色々あったからすっかりと忘れてた。」


「あ!私もあの服にする魔力付与を教えてください!あれからあの時の感覚を思い出しながら自力で頑張ってみたんですけどどうも上手くいかなくて。」


 ラディよりもミッツの方が先に食い込んできた。どうやら特訓をしていたようだ。しかし芳しくないと。


「もう一度やってくれたら俺の方は多分できるようになると思う。しかしちょっと悔しいんだよなぁ。カジウルはもう既に自由自在だって自慢してくるのがウザい。」


「はははは!もう感覚は掴んで完璧だからな。あの後は密かにずっと体内に巡ってる俺自身の魔力を強く意識して意図的に操作し続けてたからよ。まあでもぶっちゃけ、剣の方にソレを纏わせるのは全然できねえ。」


 カジウルの自慢にラディは「直ぐに追いつく」と言って対抗心を静かに燃やしている。


「私、矢に付与するあの爆発。怖いからもうやりたくないんだけど。でも、ミッツができるようになれって押してくるのよ・・・」


「アレができるようになれば戦力大幅増加ですから。「しない」のと「できない」のとでは大分本質が変わります。マーミはできるかそうでないかで「できそう」と言いました。ちゃんと聞きましたよそこは。ならしっかりと練習していつでもアレを放てるようにならなければ!」


 こうして会話は強さを求める四人の事に。しかしその時間も短かった。

 どうやらお呼びが掛かったからだ。ギルドスタッフが「ギルド長室にお越しください」と声を掛けて来たからだ。

 俺たちは席を立って案内された部屋に入る。そこはかなりの広さだった。大事な客を入れる場合の特別な部屋なのか装飾がかなり凝っていた。


「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。お座りください。早速お話ししましょう。」


 そう言ったのはこのギルドの長、ミライだった。

 その背後にはどうやら今回のダンジョンの調査をした者らしき二人。


 俺たちは勧められたソファに座り、出されたお茶を飲む。

 それは以前俺がバッドモンキーなる魔物の皮を売った時に出された紅茶だった。

 その香りにミッツはうっとりして、マーミは香りを鼻で大きく吸い込んで香りを堪能しようと必死である。

 この紅茶、どうやら「超」が付く高級品なようだ。カジウルはちびちびと勿体ないと言いたげな顔でカップを傾け、ラディはじっくりと口の中で味わうようにゆっくりと一口を飲み下していた。


 そんな様子を見ていないかの如くにミライは話をはじめる。


「この度のダンジョンクリアは、確認されました。ですので貴方たち五人、一人一人のランクを一段階上げる事となります。おめでとうございます。」


「ちょっと待ってくれ。ここに居るエンドウ以外はランクを上げないでくれ。」


 このカジウルの発言にミライはピクリと片眉を微かに上げただけだった。

 そして冷静にその理由を質問してくる。


「どう言う事でしょうか?何か問題が?ランクが上がる事は貴方たちにとって利益です。ギルドにとっても。それを・・・彼以外のランクは上げない?解らないわ。納得できる理由が要ります。」


「あのダンジョンは俺たちの実力じゃ本来クリアできないレベルだった。それができたのは。と言うか、そもそもこのエンドウ一人の力でクリアした様なモノだ。だから、俺たちのランクは上げないで欲しいんだ。」


 これにミライが俺を見る。そもそもギルド長は素材買取の件でゲルダ上級鑑定士へのクレーム対応をしてもらった事が有るので俺の顔を知っている。

 だが、こうして俺へ個人的な話を振ってこないのは、しっかりと今の場はパーティーへの対応として話をしているからだろう。


「彼の実力「だけ」でクリアした、だから自分たちは要らない?だけれど、貴方たちはパーティー。彼の実力もまたパーティーの実力でしょう。ならばランクを上げる事にそこまで拒否をしないでもいいのでは?」


「そう言えない事情がある。エンドウは今回俺たちのパーティーでやって行けるかどうか、その様子見だったんだ。何年も俺たちのパーティーで活動していた訳じゃ無い。そうやって馴染んでいない「力」を俺たちはパーティーの「力」とは認められない。だから今回のランクアップは俺たち四人は辞退させてもらう。」


 カジウルは四人の総意だと言って固い決意を言葉にした。


「おかしいですね。貴方たちの「力」が及ばないダンジョンを彼一人の力でクリアした。と言っているのですよ?どれだけあなた達「つむじ風」が活躍してきたか私は把握しています。その実力も知っていますよ。そんなパーティーの実力は裏では「Bランク」以上と言われる実力がある貴方たちがクリアできないダンジョン?全く以て・・・信じられませんね。ですが、あの「決闘」は私も知っています。実際に私も見ていましたからねアレは。分かりました。」


 ミライは納得してくれたみたいだ。しかし条件を付けられた。


「あのダンジョンで討伐した魔物をここで見せてください。ここで買取をしようと言う訳ではありません。調査隊が不可解だと言っています。それを確かめたいのです。構いませんね?」


 ここでミライの後ろで今まで立っていた調査隊の一人が話始めた。


 先ずは最初に入った広場。あそこで何があったのか。不自然な形で床に固まっていた血。

 二つ目に入った広場も同じであった事。そして下の階層へと下りる階段前にも全く同じような血の塊。不自然な。

 道は全ての罠が発動してそのままになっており、これもまた不自然過ぎると。

 道中の魔物が全くいない状態で調査の速度も上がった頃に天井に一部不自然な穴。

 まるで空気が流れてきているかのようにその穴からは微かに風が入り込んでいた。しかもその終わりが何処まで続いているのかすらわからないと言ったもの。

 さらに奥に行けば大部屋と呼ばれる一つにダンジョンの壁の一部が溶け焦げている部分があるなど。

 そこにいたはずの、そして「つむじ風」が倒したはずである魔物の痕跡すら見つけられない大部屋。

 最終のヌシの部屋の前の不自然なコレもまた天井の穴。

 そして極めつけ。ヌシの存在は何処に?ヌシを倒した。ならばその時に激しい戦闘があったはず。その痕跡は?特にこれと言って盛大に争った様な跡が確認できないヌシの部屋。

 しかも部屋の大きさから言ってどうもこの部屋に居たはずのヌシは巨大な「何か」だったはずと結論が出されている。

 だが、そのヌシを倒したならばその死体が無い事がおかしい、と。

 ヌシのその巨大な身体がそもそも打ち捨てられたまま、などとはならず忽然と全てが無かったかのような、そんな状態。

 そんな巨大なはずだったヌシを全て持ち帰れる訳が無い。だったらどこに消えたのか?


 調査隊がかなり事細かに調べていた事に少し驚いた。そして俺がやらかした部分を全てチェックしていた事に。


「貴方たち、何か隠しているわね?でも、深くは追及しないわ。確かに、貴方たちの言う「彼」の力は気になる、凄く、すごーく、気になる所だけど。今回は特別に、ホンの一部だけでいいわ。「証拠」を見せてくれるだけでランクの件は私の方で処理をしておきます。」


 ついでにヌシの部屋を調べてそこにいた魔物が「巨大である」と結論を出す鋭さ。


「・・・分かりました。この事は内密にお願いします。エンドウ、頼めるか?」


 カジウルがそう一言俺へと告げてくる。もちろん出すのは構わないが、インベントリをばらすのは今はまだ駄目だ。

 なので一旦俺は部屋を出て誰もいない廊下でサイクロプスの「脚」を取り出す。

 それはあの時にカジウルが斬った時のである。


 それを持ってそのまますぐに部屋へと入る。すると思い切り顔を引くつかせる三人。

 もちろん調査隊の二人とミライである。


「ワ、分かったわ。もうしまって、け、結構よ。ありがとう。・・・どうやら相当な化物を倒した様ね・・・」


 これだけでどうやらどんな魔物を倒したのか察した様子のミライ。

 俺はそのまま廊下にまた出て脚をインベントリにしまう。そしてまた部屋に入る。


「今見たものはここに居る者達だけの秘密にします。それで、良いですね?」


 即座にニッコリと営業スマイルだと思われる笑顔を張り付けてそうミライは話を閉じた。

 その事で少々気になっていた事が有ったのでついでにこの場で俺はミライに尋ねる。


「俺たちは先日、このギルドの貸し部屋を借りたんだけど、その部屋の棚に黒い四角い手乗りサイズの物体が置いてあった。しかも座るテーブルの死角になる微妙な位置に。」


 これを聞いたミライの顔は瞬く間に難しい顔になっていった。


「私はソレを指示していないわ。・・・はぁ~。それはおそらくフクレ、副ギルド長がやった事ね。説明するわ。もう少し時間を貰うわね。先ずは謝らせてちょうだい。本当に申し訳ない。」


 そう言ってミライは頭を下げる。だけど俺はここでその謝罪をどうだっていい、と言っておく。


「ギルド長が謝る事じゃないので。別にその謝罪を受ける受け無いの話では無いですね。そんな事より説明を手早くお願いします。」


 この言い方はちょっとキツ過ぎかもしれないが、実際問題、謝罪よりも説明の方が欲しい。

 なので話を先に進めろという俺の要求だ。


「厳しい事を言うのね。でも、私の責任でもあるわ。フクレは情報を重要視しているの。冒険者を管理するのに、彼らの能力をしっかりと把握するのが重要だって。それが例え盗聴してでも、って。その上でそうした情報を基に冒険者に仕事を振ってギルドが権力を持つ事が大事だと言っているの。」


「あの黒いのは盗聴器で、犯人は副ギルド長、ね。じゃあついでだけど、ギルド長のお考えは?」


 俺はここでのギルドのスタンスを聞いてみる。


「私は冒険者には信頼と信用が大事だと思っているの。だから、過度には彼らに干渉しない。だけれども、ギルドに所属するからには節度は守ってもらう。そこら辺は大事だわ。ギルドの信用が失われる、これは冒険者全ての信用に響くもの。そうなれば仕事どころじゃない。彼らは冒険者として自由があるわ。だからソレを縛ったりしない、囲い込もうとしない、寧ろ、その自由をしっかりと守れる組織であるようにと考えてる。それがより冒険者としての活躍の場が広がる事に繋がっていると思っているわ。」


「ギルド長のお考えは解りました。ちなみに盗聴の被害は、あの部屋をすぐに引き払ったのでそこまでの物ではありません。ご心配なく。今回の件も別に副ギルド長への非難とまでは言いません。御咎めも求めませんからこの話は無かった事にして頂いて結構です。こちらからこの件で副ギルド長に何かを求めると言う訳でもありませんので。では、ここら辺でよろしいですね。」


 こうしてダンジョンクリアの確認は終わり部屋を出る。

 その去り際に一言だけ付け加えておいた。


「あ、そうそう、この部屋には盗聴器は仕掛けられていないようですので安心していいかと。でも、今後に盗聴器が仕掛けられる可能性も考えておいた方が良いかもしれないですね。それと、その衝立の裏にいる三人は調査隊の方たちですか?いらっしゃったのなら別に隠れていなくてもよかったのでは?」


 衝立は完全に俺たちの死角にあった。チラリとも衝立自体が見えないのだ。だけれどもその裏にも人がいた事を俺は把握していた。

 しかも別に怪しい動きをしている訳でも無かったのも分かっている。なのでこの調査隊のメンバーだろうとアタリを付けての発言だった。


 そう言って俺は部屋を出る。先に部屋を出た「つむじ風」の四人はこれからどうする?と言った感じの顔を俺に向けてきていた。


「エンドウのランクアップと俺たちのランク据え置きはコレで問題無いとして。副ギルド長の件、アリャどうしてだ?」


 カジウルがそう疑問を投げてくる。何故不問にしたのかと。


「俺はそもそもここ最近冒険者になったばかりだし。しかも登録してから大分日にちが経ってからのまともな初仕事がこれだからな。そんな存在の俺がドウノコウノ言える問題じゃ無いし。この件はそれこそギルドの問題だろ?俺の口なんて出す所がそもそも最初から無い。」


「あんたね、まともな仕事が初のダンジョンクリアとか前代未聞だし。それこそ、その前にあんたは決闘騒ぎで有名でしょう?」


 マーミが速攻でツッコミを入れて来た。


「そうなんだよなぁ。道を歩いていてもチラチラ俺を見てくる人が居るんだよ。でも、そう言うのって気にしないようにしてるんだよね。別に俺に話しかけてくる訳でも無いし。近づいてくるなら対処のしようもあるし意識の一つもするけれど。そうじゃないから段々と決闘の事忘れ気味になってきてるんだよ。」


 これには呆れたとラディは述べる。


「お前、あれだけ派手にやらかしといてそれは無いんじゃないか?もうこの都市にあの件を知らない奴はいない程なのに。」


「派手にやったのは相手の方がであって、ドッカンドッカン爆発な。それとは逆に俺は別に派手な事なんてやらかしてないでしょうに?」


 そもそもあのモヒカンの名すら思い出させない状態である。

 そして俺がやったのは精々人一人を消滅させたくらいだ。


(うん?俺ってかなり地味な事のように見えて、結構インパクト強い事してんな?)


 段々とあの決闘騒ぎを忘れて記憶の隅に寄せている俺は、あの時に自分が為した事のヤバさも考えようとしていなかった。


「この後の事はどうしますか?時間はかなり早い時間ですけど。思ったよりも話し合いが早く終わりましたし。」


 ミッツがそうして今日のこの後をどうするのか聞いてくる。


「じゃあさ、ラディの特訓しよう。それと、マーミの分も。あ、それとミッツも。カジウルは一人だけ自由行動で。」


「オイ?俺だけ除け者かよ!?」


「え、だってもうカジウルは出来るんでしょ、自前の魔力で。なら別に特訓に付き合う事無くない?」


「ちょっと待ちなさいよ。私にあの矢の付与をできるようにさせるの?勘弁してよ・・・」


 カジウルへツッコミを入れ、そしてマーミは何故か引いている。


「何でそこまでマーミは拒絶を示すんだ?できるようになればパーティーの切り札になるじゃんか。あ、俺初めてパーティー名知ったんだった。何だよ「つむじ風」って。そのパーティー名の由来とか聞きたいんだけど。」


 俺はそんな事を気軽に言葉にする。するとマーミは言葉を詰まらせながらも理由を話した。


「矢は消耗品よ?だから回収しなくちゃいけないわ。あんな爆発に巻き込んだ矢は当然後で回収できない。だって、粉微塵よ?どうやって回収すればいい?矢がそんなんじゃいくら数が有っても足りないくらいじゃない。それを買うのにもお金が掛かるわ。あの一つ目巨人は大丈夫だった。けど、これがもっと小さくて脆い魔物だった場合どうする?剥ぎ取り部位が無くなるばかりか、矢もろとも木っ端微塵でしょう?」


 確かに使う場面を考えなければいけない。それは別にマーミの判断一つで解消できる問題なのだが。


「それに、その爆発する矢の威力に慣れてしまうと、雑魚に対しての緊張感も無くなってしまうわ。一撃で殺せなかった魔物も、その爆発でなら一撃。そうすると今まで培ってきた感覚に余計なズレ出て、その内に致命的な思考の隙間ができかねないもの。そこにもし何らかの攻撃が襲ってきたら?いつもなら食らわないような一撃をその「隙間」があるせいで避け損ねたら?その一撃で私は死ぬかもしれない。コレは笑い事じゃないわ。」


 危険予知、マーミは将来において強力な攻撃ができるようになった時に起こるかもしれない自分の中に起こる弊害を危惧しているのだ。

 確かにこれは笑えない。それが起こり得る、と、爆発する矢を習得する立場のその本人が言っているのだ。

 でも、これもマーミが克服すればいいだけの事なのだけれども。

 人は時に自惚れが過ぎて痛い目を見なければ目が覚めない、と言った場面に遭遇するものだ。

 その時には全てが遅い、なんて事は笑い話にもならない。このマーミの恐れは当然なものかもしれない。


「そういう時に俺たちが助けに入るんだろうが?当たり前だろ?お前の油断は俺たちの油断でもある。そう言うのが起きないように俺たちは助けあって来ただろ?そんなモンは一時的なもんで、それこそお互いが支え合ってその隙間を埋めて行けばいい。何とかなるって。」


 カジウルがマーミへとそう述べる。パーティーならフォローし合って当たり前。

 これこそがマーミが感じる不安を埋める唯一のモノだと。


「そもそも、矢なんてモノはいずれ回収し続けていても壊れるだろ?だったらその爆破矢の一撃で確実に一体を仕留められるなら相対的に見て安いじゃねーか。お前の腕前なら狙った場所に当てられるだろうし、回収しなくちゃいけない部位を残す様に狙えるだろ?」


 ラディはマーミへの信頼を口にする。


「そうですよ。怪我をすれば私が治しますし。それにそもそも、エンドウ様から身体能力向上の魔力操作を教わってできるようになれば、そのような場面になっても攻撃なんて避けれると思いますよ?」


 ミッツは特に考え無しに楽天的な事を吐く。


「あ、それならさ。貫通力向上を矢に付与すればいつもと変わらないで攻撃できるんじゃね?ソレで戦力アップとか。それと、矢の回収が、とか言うなら爆発する矢の場合は壊れないように完全鉄製の矢を作ってソレを練習してみるとか?うん、これイケそうじゃないか?」


 俺は矢への付与の別の提案と、回収を解決できる提案をして見たが、これにまたしても四人からジッと見つめられる。

 とここでマーミが折れた。


「分かったわよ・・・やればいいんでしょ。急激に強力な攻撃ができるようになったら、私自身が強くなったと勘違いするかもしれないと思ったの。そんなのカッコ悪いじゃない。私たちはまだまだ実力が、経験が足りてない。そう思ったから危惧していたのよ。でも、これもまあ、強くなるための一歩なのよね。はぁ~。カジウルが実戦で調子こいてヘマしなけりゃいいんだけど。」


「おい!何で俺だけにそう辛辣な言葉をぶつけてくるよ!?」


 こうして最後に笑いを取った後にギルドを出る。

 この後はマルマルの外に拡がる森へと行って誰もいない場所で特訓をしようと言う事になったからだ。


 こうして人気のない森の中に入って適当な広場を探す。

 いや、俺が作り出した。魔力を地面に流して。木や草を地面ごと移動させる。

 まるで地面は風が吹いた湖面の様に波うち、どんどんとソレが広がっていくにつれて木や草がそれに合わせてズレていく。

 こうして円形の広場が出来上がった。半径はざっと見「6?7?」mくらいだろうか。テキトーな所で止めたのでイマイチ真面目に測っていない。


「・・・もういつ見ても、おかしいわよね。これ、魔力で起こしてるんでしょ?ホント、イヤになるわ。この信じられ無いものを見させられてる感じ。」


「随分な言い方だよねそれ。俺、落ち込んで良いかな?慣れろとは言わないけど、口には出さないでもよくない?」


 マーミにそうツッコミを入れられてしまう。俺はそれに愚痴をこぼして返す。

 これを全く気にしないカジウルは早速訓練とばかりに集中を始める。

 黙りこくったカジウルにラディは俺へと言ってくる。


「俺はまだ身体能力向上やら、武器への魔力付与はできてない。俺から始めさせてもらっていいか?カジウルの奴に一歩先に行かれてるのが何とも言えないんでな。」


 ラディはカジウルとの付き合いは長いそうで、どうやら既にカジウルが身体能力向上を会得しているのが悔しいらしい。


「あ、それなら二人同時に行こうか。マーミとミッツどちらが先にする?」


 魔力を流すなら二人同時でいいだろう。手は二つ、なら、一人だけというのは勿体ない。


「ミッツが先でいいわ。私は休憩させてもらうわよ。全く、ホント、非常識よね。エンドウは。」


「マーミ、もしかしていじけているんですか?一人だけ反対だったのを押し切られる形になったから?」


 ミッツがマーミへとツッコんでいく。どうやら俺を非常識呼ばわりしたのが少々腹に来たようだ。からかうようにそうマーミへと言葉をぶつけていく。


「いじけてるなんて子供みたいなマネしてないわよ・・・」


 と、どうやら痛い所を突かれたらしい。溜息と共に木に寄り掛かる。

 俺は時間も惜しいのでラディとミッツをこちらに呼び寄せる。


「じゃあ二人とも背中をこちらに向けて。よし、既にこの方法は成功しているし、すぐにでも魔力操作は会得できるんじゃないかな?んじゃ、魔力を流すからその魔力の感覚に合わせて自分の魔力をソレに追従させるように意識を向けてくれ。」


 この方法はテルモに既に実践済みである。なので後はダンジョンの時の感覚を思い出して、二人が自分の魔力を操作して身体能力向上へと変化させる事をしっかりとイメージできるかによる。


「ぬ!?おおおお?!チョ!ちょっと待て!これは!?」

「ひゃああああああ!?何ですかコレは!?何ですかコレは!?なんですかああああ!?」


 ラディはなるべく冷静に対応しようとして、そしてミッツは盛大に驚き騒ぐ。

 その時間も1分程で納まる。どうやら二人とも直ぐに自分の中の魔力の感覚を掴んだからだ。

 後はその感覚に慣れて自分で自由自在に動かせるようになれば後は簡単だ。

 俺は二人の背中に当てていた手を放す。するとジッと自分の内部へと意識を向けていた二人がハッと気付いて俺へと振り向いた。


「後はダンジョンで俺がやった時の感覚を自分たちで再現できるように想像をハッキリとさせればたぶんイケるんじゃないか?ミッツは自分の装備に頑丈さを与える像をしっかりと頭の中において魔力を流せばいい。ラディは、そうだな、ナイフの刀身を魔力で作りだして延長していく、って感じだな。」


 俺のアドバイスはポカンとした顔の二人に届いているのか。そう不安になってしまう。

 俺の顔を見つめるだけで二人は固まったまま動かないからだ。

 そこにカジウルが俺へと要求してくる。


「なあ!それ、俺も一度受けてみたいんだが?俺だけここでも除け者か?そればっかりは勘弁してくれよ。俺泣くぞ?」


 どうやらカジウルは自分だけ「初体験」できないかもしれないと、俺から魔力を流される感覚を受けたいらしい。


「じゃあ、こっち来てくれ。あ、カジウルはもう既に身体能力向上は出来るんだろ?だったら次はそうだな?魔力を剣に纏わせる所からかな?」


 俺は近寄って来たカジウルの肩に手を置いて魔力を流す。


「おッ!?おッ!?・・・おぉおォオぉおおおお!?」


 とやはり予想通りカジウルも呻きなのか、驚きなのか良く解らない叫びをあげる。

 彼らには俺の魔力を全身くまなく頭の先からつま先まで徹底的に行き渡らせておいた。

 これでおそらく既にこの三人には教える事はもうないはずだ。後はマーミだけである。


「じゃあマーミの番だ。・・・そんな露骨に嫌な顔するなよ。」


 もの凄くヤバくて不味い何かを口一杯に入れたような不快な表情をしてドン引きしているマーミがそこにはいた。

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