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処分は厳しめに

 そうしてその日の夜だ。夜襲があった。しかしそれは一瞬で終わる。

 何故ならば俺が張った結界に触った馬鹿たちは全身を痺れさせて宿の廊下に転がる事になったからだ。

 結界を張るだけだと面白く無いだろうと思って追加効果を付けておいたのだが、こうも綺麗にハマるとは思っていなかったが。


 その仕掛けてきた奴らは昨日に俺が説明をしていたメリアリネスを見張っていた者とその仲間六人。

 そいつらはどうやら暗殺を得意としている者たちだったらしい。黒い服、バレない様に布で顔を覆っている。その手には毒を滴らせるナイフ。


「で、こいつらの顔に見覚えは?」


 メリアリネスたちは夜襲があった事を朝になって知る。

 コレで俺が結界を張ってあるから大丈夫だというのが証明できた。

 今後はアーシスが俺を疑い睨んでくる事も無くなるだろう。


「見覚えは、無いな。皆はどうだ?」


 俺が床に転がっている男の一人の覆面を剥ぎ取ってソレを公開する。そしてメリアリネスに訊ねた。

 しかし答えはこれである。護衛たちも、アーシスも知らない顔だと言った感じの反応だ。

 なので襲撃者全員の覆面を全て取るのだが、やはりどの顔も見た事は無いと言った結果に。


「これは、死んでいるのか?・・・一切身動きができないだけで生きてはいる?」


 アーシスはどうやら違和感でも感じたのかそんな事を口にする。しっかりと転がっている襲撃者たちを観察していた様だ。コレに俺は答えてやった。


「俺が魔力をこいつらに纏わせて固めてあるから動けないだけだな。結界に触ったら先ず自害できない様に痺れさせて動きを封じる様にしておいたしな。んで、その後はそのままの恰好で俺が魔力固めして朝まで放置って感じ。眠かったからな。夜はちゃんと寝るもんだ。」


 呼吸だけはできる様にはしておいてやった。だが、まあ、こいつらは別に殺しても構わないだろう。

 こいつらを解放したとしてもまた襲撃して来るかもしれないし、自由に喋れる様にしたとしても即座に毒を飲んで自死をしようとするだろう。

 こいつらは城の中に招き入れたあの時の斥候と同じだ。口の中に毒を仕込んでいつでも自分で余計な情報を吐く前に死ねるようにしてある。


「こやつらは暗部だろう。欲しい情報を吐かせようとしても無駄だな。その手の類の拷問にも耐えるし、一切口を開かんだろう。寧ろ敵に情報を渡すくらいなら即座に自らの死を選ぶ者たちだ。このまま解放しても再び私を狙って来るだろう。」


 メリアリネスはどうやら解っている様だこいつらが何者なのか。そしてしっかりと「処分」を口にした。


「こやつらは目立たぬ場所に持って行き殺そう。この場で即座に殺すのは宿の者に迷惑が掛かる。暗殺などと言った仕事を請け負っているとは言え、こやつらも国の為に働いている私たちと同じ。せめて苦しませぬ様に。こうして命の取り合いになってしまっている現状、心苦しいが、私たちも死ぬ訳にはいかんのでな。」


 汚れ仕事とは言え、仕事は仕事。上からの命令を受けて役割を全うしようと動いている者たち。

 形からしたら国から指令を受けて動いているのだから自分たちと同じだと、メリアリネスは言う。


「まあこう言った場合はこいつらを操ってる裏に居る奴がクソ野郎って事だな。恨むならそいつを恨めよ?」


 俺はワープゲートを開いてこいつらをポイポイとその中に放り込む。その際には魔力固めも解いておいた。


「エンドウ殿!?一体何を!?」


 俺がやった事が何なのか分かっていないメリアリネス。当然この場に一緒に居る護衛たちもアーシスも俺の行動が全く分からない、分かって無い。なので説明をする。


「海のド真ん中にぼちゃん。運と実力と、それからナンヤカンヤあれば生き残るんじゃない?殺してから死体の処理として捨てるって言うのでも良かったけど、どうせならこれまでに殺してきた者たちの苦しみの十分の一位は感じながら死んでいけばいい、何て思ったもんで。」


 メリアリネスはこの暗部の者たちに同情の念?みたいなモノを持ったようだったが、俺は違う。

 残酷だと言われるかもしれない、慈悲が無いと言われるかもしれない、ドエスだと言われるかもしれないが、これくらいの苦しみはこいつらは味わって死ぬべきだと考えた。

 勝手にこうして処理してしまったが、まあ七人も居たのだ。目立たない場所とやらに連れ回す労力もある。

 そこら辺も俺に掛かればチョチョイのチョイだったかもしれないが、そんな手間をかけるくらいだったらこうして今すぐに処分した方が早い。

 それに今回の仕事は何ら落ち度の無いメリアリネスを裏で殺そうという事なのだ。悪事も悪事であろう。

 ならそれに相応しい因果応報で処分してやるのだ。大海原のド真ん中から生還できるモノならしてみれば良い。


 さて、こうして俺がこの暗部の者たちを目の前で処理した事で何だか護衛たちの俺を見る目が変わる。

 誰も彼もが皆「畏怖」を込めた視線に変わっている。アーシスもだ。

 メリアリネスはどうやら俺の処分の仕方が気に入らなかったのか、拳を握りしめて苦い顔になっていた。

 苦しまずに、恐怖も与えず、絶望もさせないでスパッと死なせてやる気だったのかもしれない。


「さて、今日は晴れたし、出発するんだよな?だったらじゃあ一日分の遅れが取り戻せる様に俺が手助けするから、驚くなよ?」


 こうして俺たちは食事を摂ってから宿を出る。当然俺は魔法で姿を消す訳だが。

 代わりと言っては何だが、メリアリネスたちが乗る「馬」名前は確かチョウダズ、あのダチョウ二連結した様な体の魔物に魔力を多めに注ぎ込んでおいた。

 これで多分疲れもせずにかなりの速度を出せる様になっているだろう。

 全員が騎乗し、そして先ずは並足と言った感じで走らせ始めた一行はその速度に驚いている。ぶっちゃけ、制御できていない。

 チョウダズが少し興奮気味で走るモノだから全員が必死にソレをなだめようとしている。でも止める事ができていない。

 多分無駄だ。走る、走る、走る。俺が込めた魔力の量が減ってある程度落ち着くまではこの調子でかなりの距離を走る事だろう。


 コレに道を逸れずにチョウダズは真っすぐにちゃんと走るモノだから早々にメリアリネスは諦めて自由に走らせている。

 アーシスはそれでも制御をしようと試みているが、通用していない。

 護衛たち五人はメリアリネスに倣ってチョウダズの走りに身を任せ始めた。


 かなりの速度は出ているが、安定して進めている。行く手を遮る者たちは未だ現れていない。


(この速度で走っているから道に罠でロープ張られてたら止まるに止まれ無いだろうし、そのまま突っ込んだら引っ掛かるよな?ヤバいかな?)


 俺は一行の上空を飛行して付いて行っている。もちろん彼らの安全の為だ。襲撃があれば俺が排除をするつもりだ。


(ワープゲートを使えば即座に到着できるんだけどねー。首都には一度行った事あるから一瞬で移動できるんだけどな)


 メリアリネスもアーシスも俺が「勇者様」を見せる為にワープゲートを通らせている。

 なので頼んできたら別に俺はワープゲートを使わせても良いと思っていたのだが。その事を少しも言ってこない。


(まあ護衛の五人にワープゲートの事を知られるのはどうか?とか思うけどさ)


「勇者様」の件は疑われたので面倒だったからいっその事見て貰った方が良いかとワープゲートを使用した。

 今の状況はあくまでもこれはメリアリネスが首都に移動する急行軍なので、そのメリアリネスが何も言わないのだから無理に俺の方からは何も言わないつもりだ。


 さて俺はずっと魔力ソナーで道の先に襲撃者が居ないかどうか確かめながら飛んでいる。

 その範囲は一キロ程度の広さで抑えてある。別にこれ位で充分過ぎるだろう。

 そしてチョウダズの制御がどうやらできる様になりかけて来たなといった所で反応が出る。


「メリアリネス、一旦停止。敵さんがこの先に三十名居るぞー。」


 俺のこの掛けた声はメリアリネスにしか聞こえていない。俺が全員に指示を出してもアーシスも護衛も素直に聞いちゃくれ無さそうだからだ。

 俺の言葉に従ってメリアリネスが指示を出し直した方が護衛たちも素直に言う事を聞くだろう。

 一々面倒だが、形だけでも今はこうしておいた方が良い。


 コレにメリアリネスが「全員停止、警戒態勢」と静かに指示を出す。ここで俺は姿を見せて一行の前に着地する。

 アーシスがコレに「一体今どこから・・・」と漏らしているが無視して俺はこのまま行くと接敵する事を教える。


「このまま行くと先にある林の道に三十名の武装した奴らが待ち伏せしてる。どうする?」


 どうするとは、捕縛するか、無視するか、遠回りでやり過ごすか、ブッ飛ばして押し通るかと言ったそこら辺の判断を言っている。


「エンドウ殿の仕業だろう?この速度で走ってチョウダズが全く疲労していないのは。そのおかげで時間も距離も稼げて余裕がある。ならば少しだけ時間を使おう。そいつらから少しでも情報を得たい。どうだろうか?」


 この襲撃を計画した奴が誰なのかをこの時点で知っておきたいと考えるのは当然だ。

 城に到着後の王様への報告時にその犯人に対して追及し牽制すると言った事もできるだろう。


「じゃあゆっくりこのまま進んで行こう。奴らがちゃんと俺たちの前に出て来やすい様にな。」


 こうしてまた俺は姿を魔法で消すが、やはりメリアリネス以外全員コレに驚く。

 もう良い加減慣れれば良いのに、などと俺は思うが、まあ無理なのかもしれない。

 俺の言動にメリアリネスが余り動じないのは既に諦めたか、開き直ったか、自棄になっているからだ。

 彼女の目は既に遠くを見つめて現実逃避をしている。


 そうしている内に徐々に待ち伏せしている相手との距離は縮まっていく。

 コレに向こうの反応はと言うと、少し警戒度を上げた様子だ。様子を探りに来ていた斥候役の敵がこちらの脚の遅さに眉根を寄せて直ぐに去って行く。


 そうして時はきた。武装した男たちがメリアリネスたちを囲む様にして一気に近づいて来る。


「貴様らの命、ここで頂戴する。」


 代表の男がそう言って剣を抜いた。するとメリアリネスがコレに返す。


「私の事を知っていての襲撃だな?悪い事は言わない。今すぐに剣を収めてそこを退け。そうすればお前たちは死なずに済むだろう。こちらには切り札がある。忠告を受け入れずに襲ってくれば、返り討ちせねばならない。お前たちの背後に居る人物は誰だ?教えるならばこの場は見逃すが?」


 メリアリネスがそう言っている間にも男たちは次々に剣を抜き放って構えていく。どうやら問答無用で襲って来るつもりらしい。


「・・・しょうがない。一網打尽にすれば後が楽だと言ったのは私だったな。エンドウ殿、助力願います。」


 敵の刺客を首都に着く前に中央街道に集めてそこで一纏めで処分。これはメリアリネスが考えた事だ。

 しかしだからと言ってもメリアリネスは無暗に殺害はしたく無いと考えていたんだろう。

 だがこうなればしょうがない。俺に一気に叩いてくれてと頼んできた。


「まあやるけどね。さて、それじゃあ先ずは見せしめに誰に死んでもらうかな?」


 一人か二人捕まえて尋問をこの後する。それをスムーズにする為に生贄としてここでこの中の誰かに「有り得ない死に方」をして貰うとする。

 尋問で「恐怖」によってその口を軽くして貰う為に。ペラペラと情報を吐き出しやすくしてやるのだ。

 死に方を選ばせると言った脅しもしてみたりも良いだろうか?そうするとデモンストレーションとして幾つか残酷な死に方を披露して見せた方が良いか。


 で、30人も居たらその中に下衆、外道が一人くらい混じっていたりする事もあるだろう。

 丁度そんな事を思っていたら無防備に前に出て来る男たちが数名。


「へっへっへ・・・俺は運が良いぜ。あの高値の花、名高き軍姫メリアリネスを滅茶苦茶にしてやれるんだからなぁ。ふへへへへ。殺す前に楽しんでも、良いよなぁ?泣き叫ぶアンタを犯すのが楽しみだ。ヤッて、殺して、その後の死体もぐちゃぐちゃになるまで使い倒してやるからなぁ?」


 その一人がそんな事を口走ってぺろりと唇の端を舌で舐め湿らせる。典型的なクソ野郎と言った所だ。

 そいつに続いて汚らしい、いやらしい笑みを浮かべる男が他に六人程。どうやらこの集団は一枚岩では無い様だ。

 そいつら七人以外は苦々しい顔のままに剣を構えていた。どうにもそのクソどもと同類と思われたくないと言った様子である。

 その苦い顔している奴らは結局こちらを殺しに来ているのだから結局は同じ敵でしかない。

 糞でもクズでも、普通でも、こちらの命を最終的に殺すというのだから何らこのクソどもと変わりないと言ってやりたい。


 さて、こうなるとこいつらはどうやらメリアリネスを襲撃するのに急遽拵えた寄せ集めと言った様子である。

 と言う事はこの刺客を送った裏に居る輩は一人では無く二人、もしくはもっと多い可能性も出て来た。


「先ずはファイアーボールの制御をもうちょっとできる様になりたいし、一発いっとくか。」


 この時の俺の姿も、声もこの場の誰にも見えていない、聞こえていない。

 魔法で姿は消したまま、声も消音して聞こえない様にさせている。


 ここで事前に打ち合わせをしていた合図をメリアリネスがする。人差し指をぶっ倒す相手に向ける。

 そのタイミングで俺はファイアーボールを放った。指定されたのはその胸糞悪くなる台詞を吐いたクソ野郎である。

 ここで一発キッチリと威力を制御したファイアーボールを思って俺は集中する。しかし。


「上手く行った・・・うわ!グロ!」


 小規模の爆発、と言える位の範囲で収める事ができた。だけどもその結果が「上半身の無い死体」である。

 割と良い感じで威力や爆風の向きなどを調整できて、周囲に無駄に被害が拡散しなかったと思ったらこれだ。どれだけ俺はセンスが無いのか?

 当たった相手が気絶、そして3m位吹っ飛ぶ位のイメージを持ってファイアーボールに魔力を絞りに絞って込める量を抑えて放ったのだが。

 結果はこのザマである。先程迄クソな言葉を吐いていた生き物は死体となってドサリと音を立て地面に倒れる。

 どうやら俺は込める魔力を「薄める」と言った事が苦手らしい。この「気付き」は俺の心に大打撃だ。そんなに俺は大雑把な性格なのか?と。自分への自信が揺らぐ。


「・・・は?」


 さて、この爆発で敵たちは呆けた顔で思考を停止してしまった。その間に辺りに血の匂いが拡散している。下半身のみの死体からは血が流れ出ている。血で小さな池ができている。

 こんな状況で最初に正気に戻ったのはやはりメリアリネスだ。次に死んだ男と同類だろう残りの六人の方に指を向けた。


「ファイアーボールは止めとこう。じゃあ次は・・・脅しの為に一つ踊り死んで貰おう。」


 指定された男六人の中の一人に俺は「魔力固め」から「操作」をする。

 取り敢えず別に本格的にダンスをさせようと思った訳じゃ無いのでぶっちゃけその全身を滅茶苦茶に動かしまくる。

 関節の向きなど気にしない、限界点など天元突破。まるでぐちゃぐちゃに操られて手足があらぬ方向に絡まった操り人形みたいになる男。

 もちろんもうその時点で既に死んでいる。魔力固めを解除すれば「ぐしゃ」っといった擬音がぴったりな感じで地面に落ちる。

 ここでやっと悲鳴が上がった。「ひゃあああああ!?」とまあ甲高い声だ。

 その壊れた操り人形の側に居た男の上げた悲鳴だ。最初はメリアリネスを見てニヤニヤ気持ちの悪い笑い顔をしていた癖に悲鳴は一丁前に上げると。


 俺はソイツがこれ以上耳障りな悲鳴を上げない様にと「魔力固め」。


「それじゃあ絶叫系がお好みだそうだから、紐無しバンジーをさせてあげよう。」


 俺はソイツを空中高く上げに上げた。きっとその男の人生において今までに見た事の無い絶景となっただろうそれは。そしてその男の見る最後の景色となる。


「目の前で潰れたザクロみたいになるのを見る気は無いから、向こうで死んでくれ。」


 落下地点を調整して俺は視界外になる様にその男に掛けていた魔力を解除する。こうして後は放っておけば墜落死だ。

 グロ注意である。もう最初の「下半身だけの死体」だけでお腹一杯だソレは。


「じゃあ次は窒息死な。」


 次の標的を「魔力固め」で動けなくしてからの肺の中の空気を全て抜く。そこから呼吸を一切させない。

 その代わりに体の自由は与えてやった。するとソイツは苦しみで藻掻き始める。

 最初は呼吸ができない事で混乱し、次第にソレができない事を理解して絶望し、手で喉を抑え込んで必死の形相に変わる。

 顔色がどんどんと変わって行って目は次第に虚ろになって行く。ここ等辺で全身に力が入らなくなるのか地面に膝をつき、そのまま横たわる。

 意識がもうろうとして行く様が喉を抑えていた手が次第に力無く落ちる事で良く観察できた。

 最後は全身を痙攣させ、そのまま一切動かなくなる。死んだのだ。


「クソの残りは三人か。面倒だから一気に行くか。」


 地面に魔力を流して変形させて「棘」として勢い良く突き出さて一人は腹を串刺し。

 次は凍死。「魔力固め」からの全身氷漬け。ちゃんと外側だけじゃ無く体内の方もしっかりと凍らせて。

 最後は「絞る」。身体の末端から血液をキッチリカッチリと絞って行き、心臓と脳にそれらの血流が流れる様にする。するとそいつは立ったままで憤死。死んだ見た目だけで言うなら一番きれいなモノだ。

 まあ時間が経ったら鼻と目と耳から血が垂れて来てまるでゾンビみたいな絵面になってしまったが。


「よくもまあ俺もコレだけ残酷な事ができる様になっちまったもんだ。・・・あら?」


 ノリノリで「処刑」していたのは俺だけだった。メリアリネスたちも、襲撃者たちも、この余りの光景にドン引きして声も出ない様子。

 それらが治まるのにはまだ大分時間が掛かりそうだった。なので復帰を早める為にメリアリネスに声を掛ける。


「おい、もう一度警告を入れて見てくれ。取り敢えず今のを見たら普通の奴だったら素直に服従してくれるだろ。」


 こんな結末になるとはメリアリネスは思っていなかったんだろう。

 見せしめに数名殺すと言ってもだ、これ程の種類の殺害方法を取る何て考えてすらいなかったみたいだ。


「・・・はっ!?お、お前たち、今のをちゃんと見たな?では、もう一度改めて言わせて貰おう。こちらには切り札がある。今見て貰ったのが・・・その、それだ。死にたく無くば武器を捨て、地面にうつ伏せになる事。そしてこちらの質問に嘘偽り無く答える事が条件だ。賢明な答えを選ぶ事を望む。」


 メリアリネスのこの言葉が向こうに届いて浸透するまでたっぷりと10秒近く必要だった。

 それからは相手の行動も早い。誰もがその手に持った剣を遠くに投げ捨てた。

 自分の足元に捨てると何時でもソレを拾って敵対の構えに変える事ができる、そう判断されるのを恐れたんだろう。

 敵対の意志が完全に無い事を示す為に敵の全員がそうやって自らの持つ武器や荷物などを離れた所に放っていく。

 その間の表情は非常に青かった。視界に入る死体を意識してしまっているんだろうきっと。

 自分ももしかしたら「あんな目」にあわされるかもしれないと。なのでそれを必死に回避するために自ら「暗器」やサブ武器まで外して遠く放り投げている。

 このまま敵対した場合の未来の結末、それが目の前にあっては逆らう気も失せると言った所か。これ程までに残酷な死に方をするとなってはその恐怖も大きいのだろう。


 さて全員がうつ伏せになってその手を頭の後ろに組んでいる状態になった。

 そこまでの体勢になれとはメリアリネスも言っていないのだが、まあ自らそう言った行動に出たのは完全にもう敵対する気が無いと示したかったのだろう。


「では、聞かせてくれ。お前たちに私を殺す様に指示を出したのは一体誰だ?」


 しかしメリアリネスの質問には誰も答えない。


「では質問を変えよう。あの死んだ七名を差し向けて来た、裏で糸引く者は誰だ?」


「・・・バラスガルド侯爵。」


 どうやら自分たちの裏は話さないが、そうじゃない事はしっかりと答えてくれるらしい。

 そしてこの時点でメリアリネスを狙う黒幕が多くて二名以上だと。しかも侯爵がその内の一人だと確定してしまった。

 こいつらと死んだ七名はコレでしっかりと別だと判明した。


(あれ?侯爵?そしたら勇者様ってのはコレに絡んでる?)


 その侯爵の名が出て来た時にメリアリネスの顔にも苦いモノが浮かんでいた。


「ならば、分かっている、知っている事までで良い。バラスガルド侯が何を企んでいるのかを教えてくれ。」


 メリアリネスの質問は続く。コレに素直に答えてくれる敵のリーダーであろう男。


「これは推察でしかないが、自分の息子に軍を率いらせるのに貴女が死んでいた方が統制の面で邪魔が無くなると考えての事だと思う。」


「私が軍から完全除籍される事が前提なのだな、しかもソレは既に決定事項か。国王陛下もソレを承認されているのか?」


「陛下は貴女を殺そうなどとは思っていないはずです。確かに軍を辞めさせる事は既に決めていますが。」


「侯爵と親密な関係となっている者を挙げて行けば・・・ふむ、お前たちの裏に居る人物の予想は絞り易いか。」


 この男たちの背後に居る者がこの時点で判明していたらこの後の事をもっと簡単に解決できそうだったのだが。こいつらは自身の裏に居る人物の事はきっと喋らないだろう。

 まあメリアリネスの尋問の仕方が温いだけだと言うのもあるのだが。


「私が生きていると軍の者たちが新しい司令官の言う事に素直に従わないと考えたのだろうな侯爵は。何か事案が発生した時に、私の影響が軍に残っているとマズイ事でも裏で企んでいるのか・・・」


 まあ当然企んでいるのだろう。そうで無ければ暗殺などと言う手段を取るはずが無い。

 メリアリネスが生きていたら支障が出ると判断してのこの襲撃で合っているだろう。

 取り敢えず今はこのくらいの情報まで分かれば良い、そんな判断なのかメリアリネスは出発の合図を出す。男たちは放置だ。ちゃんと約束を守る為に。

 本当ならここで皆殺ししておく場面ではある。後々でこいつらが再びこっちに襲撃を仕掛けて来る可能性を潰す為に。

 でも殺す事をメリアリネスはしたくない様だ。お優しい事である。


 さて、メリアリネスたちは先に行って貰う。この先に敵が潜んでいる場所は無い。なのでこのまま行かせても大丈夫だ。相当先まで魔力ソナーで調べておいたので安全は確実である。

 さて、俺はまだこの場に残っていた。姿は消したままだ。こいつらが他に何か情報を漏らさないかどうかを確認する為である。

 恐怖の対象が居なくなったと分かれば安堵感でその重い口も多少は軽くなって要らぬ言葉を吐き出してくれるんじゃないかと言った希望である。


「・・・目標の魔力量はどうなっている?大体のモノで良い。計器にはどれくらい出た?」


「十五万です・・・」


「何だと?計器の故障では無いのか?」


「・・・故障は有りません、正常に動いております・・・」


「切り札、これが?目標はそれだけの量の魔力を得る事に成功し、あの様な精緻、出力で自由に魔法を行使できるようになったと言うのかこの短期間で?」


「宰相殿に直ぐに報告すべきです。これでは余りにも・・・」


「バリダー様の下に直ぐに帰還だ。この事を報告する。その後・・・私たちはこの件に一切関わら無い!」


「隊長!それは!?」


「お前たちも目の前で見ただろう?ああなりたいのか?」


 どうやらこいつらはバリダーと言う名の宰相に命令を受けての事らしい。しかしどうやら黒幕に逆らう拒否権がある様だ。

 この隊長の言葉に他の隊員たちは下を向いて黙ってしまう。どうやら上役からの命令よりも断然、自分の命の方が優先度が高いと。

 どうにも宰相とこの隊たちとの間にはそこまでの強力な協力関係と言ったモノは存在しないらしい。


「撤退する。お前たち、荷物を早く回収しろ。そして直ぐに首都に帰るぞ。宰相には義理で報告まではするが、その後は我が隊はメリアリネス様を狙う事は一切せん。こんな馬鹿げた命令など、こちらが騙された様なものだ。この様に命が幾つあっても足りない仕事など受けて堪るか!」


 怒りを込めてそう指示を出した隊長は自分の剣と荷物を拾うとさっさと道を歩き出した。

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