一体全体今度は何だ?
そこからは真っすぐ小道を行く。ひたすらに進めばどうやら別の大通りに出る様で喧騒が近くなってきた。
「かなり大きな都市だしな。そりゃ別の道に通じている事もあるだろうけど。でも、ちょっとおかしく無いか?」
その喧騒は歓声が多く、黄色い声援が飛んでいる様に聞こえた。ソレが気になって何だ何だと歩く速度も上がる。
しかしそこで見た光景にウンザリする。
「勇者様・・・って、何だよ、ソレ?」
出た通りはちょっとしたパレードみたいになっていた。しかも騒ぎになってるその中心はイケメン。
しかも誰も彼もがそのイケメンに対して「勇者様」と呼んでその姿を一目見ようと人だかり。
(おいおい・・・某有名RPGゲームじゃ無いんだから、って、まさかコレもか?)
その姿は何と言えば良いか?キンピカ?鎧も剣も、その髪色も。そこに瞳だけは濃く、しかし澄んだ青の青年だ。
そんな人物が豪華な馬車に乗っており、窓から姿を見せて歓声に手を振っている。
豪華な装飾が施されたその馬車はオープンカー?と言って良いか?屋根が無くその「勇者様」とやらが良く見える。
「その後方にもぞろぞろと同じ型の馬車が?乗っているのは・・・はい、説明どうも。」
周りの見物人たちの会話からその後続馬車に乗っているのがその「勇者様」の仲間だと言うのが判明する。
それらがゆっくりと通りを進むのだ。コレを一目見ようとする者たちがワンサカと道に溢れんばかりだ。
(どこぞの野球チームの優勝パレードみたいだな)
俺が見物人たちの会話をアレもコレもと拾って情報の収集、精査をしてみた所、どうやらこの勇者御一行お披露目も「一環」である様で。
(メリアリネスはこれ、知ってるのか?・・・いや、知らんだろうなぁ。そうなると恐らくは出軍してから後に出た案件って事か)
俺はこの目の前のパレードの事をザックリと理解できたので脳内でコレをもう一度整理をする。
「魔王」を倒す為に軍を動かした後にもう一つの「目玉」を作り出す為、どうやら強者選抜大会を国は開いた様だ。
そしてその大会で優勝した強者を「勇者」認定したようである。そしてソレをお披露目と言った事であると。
(ついでに魔王の討伐をメリアリネスができなかった流れにして、そこにもう一度この「勇者」を投入するつもりだと)
軍を動かす理由その②。勇者が魔王討伐に出る。コレでまた経済を半ば強引に動かす、と。
暫く周囲の会話を集めて情報精査すればする程にそんな流れに話が向いている。どうにもこの中に国民への情報操作をする為の諜報員が紛れ込んでそんな「会話」を流している様子。
明らかにその手の話をしている者たちの言葉の「響き」に俺は違和感を感じていたので直ぐにピンと来た。
これが国の決定か、それともどこぞの個人の思惑が混じっているモノかを俺は知る気も無いが、メリアリネスの失脚、そんな思惑が透けて見えた。
彼女に恨みを持つ者か、或いはその地位から引きずり下ろしたい者が居るっぽい?まあこれは俺の只の勘だが。
さて、そんな事は今横に置いておいてだ。このイケメン「勇者」どうにも胡散臭い。だってそんなに都合良くこうしてイケメンが強者の集まる大会でそう簡単に優勝などできるのだろうか?
八百長を疑ってしまう。俺のひねくれた脳味噌がそんな事を囁く。
いや、もしかしたら本気のガチでこのイケメンが強くて自力で優勝したかもしれないけれど。
(それにしては鎧を着熟せているとは見えなかったんだが?まぁあんなキンピカ鎧を着熟せと言われても、無理だろうけどさ)
趣味が悪い、そんな第一印象だ、その鎧のデザインには。何せキンキンピカピカ、目に眩しいのだ。
目立つと言う意味ではもの凄く良いのだが、俺からしてみるとクドイ、の一言。
その金ぴかに負けない位のイケメンだからこそバランスがどうにか取れている、と言った感想だ。
(魔王を倒すのは古来より勇者の役目、ってか?子供に読み聞かせる物語みたいだな、まるで)
勧善懲悪?カッコいい勇者の活躍?恋と友情の物語?ドラゴン◯エスト?
(勇者は巨悪を倒して凱旋し、英雄へとジョブチェンジってか?その後は偉い人の娘を嫁に貰って国を支える柱として末永く平和を守り暮らしましたとさ?)
そこで俺はどうするか考えた。さて、メリアリネスにこの事を教えておいた方が良いのか、そうで無いのか?
「はぁ~。余計に面倒臭い方向に話が傾いてやしないか?コレ?」
俺は溜息と共にそのパレードを眺め続ける。これはどうやら街の中、幾つもある大通りを隅々まで回ってお披露目する様で。馬車は道途中の十字路をゆっくりと曲がって行った。
「ご苦労様で御座いますってか?コレ何時間回るんだろうな。長時間は相当辛いだろうに。まぁ今はまだ始まったばっかりみたいな様だし、体力には余裕が見えていたけど。」
勇者御一行様は誰もが笑顔で疲れを見せていなかった。パレードはまだ始まったばかりと言った様子である。
これが後半になればなる程に国民に振りまく笑顔も曇り、振る手も腕が上がらなくなっていくんだろう。ハードな仕事である。
そんな事になっていても見物人の歓声は大きく、そして止まないのだろうなと。
「パレードの活気に当てられてそこら中で酒がどんどん売れてるなー。」
歓声を上げて喉を嗄らした者たちが我も我もと酒場に入って注文をする声が。
酒が売れればツマミも当然売れていくし、酔えばそこから話に花が咲いてまた喉がカラカラになって酒を飲む。そうして盛り上がればそこら中がお祭り騒ぎだ。
「まあ酒だけじゃ無くて果実水を売ってる店もあるみたいだしな。ここは食品関連やら酒場が連なる通りなのかねぇ?」
俺はまだ姿を消したまま。幾ら周囲がどんちゃん騒ぎになっていても俺の着ている服は目立つ。
「傭兵組合に素材売却したのは早まったかー?」
この国の貨幣を持っていない事と、ゲルダが解体した「ワニ」の魔物の処理もあって丁度良いかと打算で動いてしまったのは迂闊だった。
まだもしかすると傭兵組合が俺の事を探して回っている可能性もある。そうするとここでこの御祭騒ぎに混ざりたくても自分の「目撃情報」をバラ撒いている様なモノで、そうなれば。
「そうしたら直ぐに組合職員が俺を発見するだろうからなぁ。そうなったらまた面倒臭い。」
暫くして俺はこのお祭空気を楽しむのを諦めて港町に戻った。
そして一応の為に「勇者様」の情報を提供しようとメリアリネスの所にお邪魔する。
「ちょっと時間良いか?親切か、余計なお世話か、迷ったんだけどさ。知っちゃったからにはメリアリネスの耳にもちゃんと入れておかないと、と思ってな。」
「・・・突然現れるのは勘弁して貰いたいのだが。秘書が今居なかったから良かったモノの、バレたらどうするつもりだったんだ?」
「いや、その時にはその時で口止めをお願いしてそのまま話を進めるけど?もうそこら辺の事を細かく気にしたら負けだな、って思い始めてる。正直ちょっともうどうでも良いかな?とか思い始めてる。」
俺がそんな宣言をしたらメリアリネスが「負けとはなんだ・・・」と大きく溜息を吐きながらツッコんできた。
彼女に溜息を吐かせている原因は俺だと言うのは分かっているが、そんな事を俺が一々気にする義理も無い。
気にせずさっさと俺が見た、聞いたモノをメリアリネスに説明する。ついでに俺の推測も添えて。
するとコレにメリアリネスのリアクションは。
「私が居ない間にその様な・・・はぁ~。国王陛下も、宰相殿も、側近たちも、大臣たちも、誰も彼もが私をそんなに辞めさせたいのか・・・」
軍の部下たちには慕われたり尊敬、敬愛されている様子のメリアリネス。
だけども政治家たちが彼女に向けるモノはどうやら「排除」と言った代物である様だ。
これは最初から仕組まれていた計画だったと思った方がしっくりくる流れである。考えを改めた方が良い様だ。
どうにも国の中枢は腐り始めている模様である。権謀術数、権謀術策などと言うモノが俺は苦手だ。
この流れだとメリアリネスが国に戻った時にどの様な処遇を受けるか分かったモノじゃない。
そうしてメリアリネスが何だカンだと軍を辞めさせられてしまったりすると、俺の王様への「O・HA・NA・SI」がすんなりと通らなくなる恐れもある。
「うん、もう力づくで全部潰して黙らせてしまおうか・・・」
「そ、それは、か、勘弁して欲しい。国の混乱は民を苦しめる事にしかならない。」
面倒臭さが増しそうな事に少しだけ俺はウンザリしてしまった。そこで俺が呟いた言葉に対して必死に「ソレは止めてくれ」と要請するメリアリネス。
なので俺はコレに「半分冗談だ」と言って茶化してみたのだが。メリアリネスはこれに「半分・・・」と溢して黙ってしまった。
そんなタイミングでドアが開く。そして「休憩にしましょう」と言って入って来た人物が一人。どうやら戻って来た秘書だろう。
「・・・な!?貴様!何者!」
俺は魔法を解除して姿を見せていた。メリアリネスと話をするのに姿を消したままはしないでおいたのだ。ちゃんと会話相手が目の前に居た方がメリアリネスが落ち着くと思って。
姿が見えない相手の話に独り言の様に返事をするのは精神的にも負担だろうと変な所に気を使ってしまったらコレである。自分の行動がこれ程に裏目に出たのはどうにも溜息しか出ないが。
「なあ?この人は信用できるか?」
「アーシス、この事はちゃんと説明するから、警戒を解いて。座って話をしましょう。」
俺の質問にメリアリネスはお茶を乗せたトレイを持ったまま固まる人物に優しく声を掛ける。
アーシスと言うらしいが、女性だ。見た目がメリアリネスに似ている。
アーシスはどうやら船の方には乗船せずにこの港町に残る軍の事務手続きなどの処理をしていたと言った事らしい。
「・・・大丈夫なのですか?一体何処の誰なのですこの者は・・・」
アーシスはメリアリネスが別段態度を変えていない事で一旦は落ち着きを取り戻している。
しかし俺への不信をその目に乗せてこちらを睨んできているので警戒は怠っていない。
「せっかくのお茶が冷めるわ。ゆっくりと時間を取って話をするから、貴女も座りなさい。休憩しましょう。」
メリアリネスのこの言葉でアーシスはゆっくりとした動作でソファーに座る。そして持って来たお茶の用意を始めた。
執務をしていた机から移動してきてメリアリネスはソファーに深く腰を下ろした。そして出されたお茶の香りを充分に堪能してから一口それを飲んで話始める。
「彼は・・・何と言えば・・・今の所、敵でも、味方でも無い、と言って良いかしら。これから教える事は国家機密だと思って何処の誰にも教えては駄目。例えソレが国王陛下でも。」
国で一番上の人物にさえ秘密を漏らすなと言った事でこれから聞かされる事がヤバいモノだと悟ったアーシスは一瞬だけ息をするのを止めた。
「お姉さま、それは一体どう言う・・・」
どうやら二人の関係は姉妹らしい。確かに顔が似ているのでそうだろうなとは俺も思っていたが。
それからは俺の正体が国の言う所の「魔王」だと言う所まで進んだ。コレにアーシスは引っ込めていた警戒心を最大にまで一気に引き上げる。
「落ち着きなさいアーシス。最初に言ったわ。彼は敵でも、味方でも無いのよ、今のこの時点では。そして害意も持っていない。貴女ならもう気付いているはずでしょう?彼が敵になるかどうかは、今の私たちの態度一つでどう転ぶか知れ無いのよ。分かるでしょう?この意味が。」
暫く沈黙が続く。俺はここまで一言も喋っていない。アーシスに説明をするのなら俺で無くてメリアリネスにして貰った方がちゃんと話を聞くだろうと思っての事である。
メリアリネスは追加でアーシスに俺が「魔王」を否定している事もちゃんと説明をしてくれた。
そして俺がソレを取り下げる様に直談判?をしに一緒に軍の帰還に付いて来る事も。
「さて、俺の事が分かってくれたか?直接的にお二人さんに恨みも憎悪も無いからさ、別にそんなに神経尖らせないで良いぞ?取り敢えず言いたい事があるのは王様に対してだしな。勝手にそっちの都合で「魔王」なんぞを俺に押し付けてんじゃねーぞ!ってな。」
俺のこの言葉に信用も何も無いと言わんばかりにアーシスはこちらを睨んでいる。
コレにメリアリネスは話題を変える形で「勇者」の説明をした。そしてその情報を持って来たのはこの「魔王」なのだと。
だがコレにアーシスは反発をする。
「その情報は確かなのですか?こちらを混乱させる欺瞞情報だと言う可能性は?そもそもこいつが魔王だなんて。」
「いや、だから魔王じゃ無いって。まぁ、普通はそうだよな。俺との付き合いは短いのに、この話を信じてくれてるメリアリネスのがおかしいってもんだ。」
俺はハハハと笑って見せた。メリアリネスはこれに苦笑いを浮かべるだけ。
「それじゃあ俺の力の一端をまたご披露しましょうか。信じられないなら自分のその目で事実を確認した方が早いだろ?」
俺のこのセリフに「何を言ってるんだコイツ?」と怪しむ事を隠さないアーシス。
メリアリネスの方はと言うと、どうにも死んだ魚の目になって現実逃避を試みようとしていた。
そこで俺は立ち上がってワープゲートを出す。この行動にアーシスが反応して勢い良く立ち上がり護衛用として腰に付けていたナイフを抜き放ってメリアリネスの前に立つ。
「キサマ!やはりお姉さまを亡き者にしようとする刺客か・・・!?」
「落ち着きなさいアーシス。貴女はちゃんと私の話を聞いていたでしょう?」
メリアリネスがそう言った所で俺は「コレを通ってくれるか?」とだけ告げる。
するとアーシスの方は「バカな!?何を言っている!」と怒り。
メリアリネスはと言うと「分かったわ・・・」と半ば諦めた感じで立ち上がる。
「ちょ!?お姉さま!?何を!?」
狼狽えているアーシスを他所にメリアリネスは死んだ魚の目のままにワープゲートを通って行った。その動きに澱みも躊躇いも無い。
コレにアーシスが躊躇い驚きつつも「えーい!ままよ!」とその後を追っていく。
そこで俺もワープゲートを通ってついちょっと前に通ったあの人気の無い脇道に出る。
そこでは先に通った二人が無表情で立っていた。ピクリとも動かない。どうやらショックが少しばかり大きかった様だ。
「お?どうやら向こうを勇者御一行様が通るらしい。ほら、行くぞ。タイミングばっちりだな。」
俺は二人の背中を押して進む様に促す。向かうのは傭兵組合方面の大通り。
どうやら勇者御一行様を俺が見た通りからグルッと回ってそちら側をパレードする流れだったんだろう。丁度そちら側で歓声が響ていた。
「どうなっているんだコレは!?」
アーシスが突然叫んだ。ようやっと自分の置かれた状況を呑み込み始めたらしい。だがコレをメリアリネスが叱る。
「黙りなさいアーシス。私たちが今ここに存在する事を誰かに知られる訳にはいきません。慎重に行動します。」
それは有無を言わさぬ静かな重い言葉だった。アーシスはコレに直ぐにグッと口を開くのを堪えている。
「ならほら。マント。うーん?だけどこんなお祭り騒ぎでマントとフードで全身を隠す輩とか、不審過ぎるなぁ?まあ、しょうがないか。俺が力を見せるって言ったんだし、ここもやっておくか。」
一応はインベントリからその身を隠せる様にと大きめの布を取り出して二人に渡したのだが。
そうすると只の不審者に成り代わってしまったのでどうにかできないかと悩んで結果、二人を光学迷彩の魔法で包んで周囲に見えない様に配慮する事に。
「・・・何を今貴殿はやったのだ?」
どうやらメリアリネスは俺のこの言葉に不信感を抱いたらしい。だけどもコレを無視して俺はまた二人の背中を押して道を進む様に促す。
「き、貴様!押すんじゃない!気軽に我々に触れるとは!無礼だぞ!」
アーシスは俺の行動に怒るのだが、魔法の事に関しては気付いていない様だ。
「行きますよアーシス。もうこうなれば流れに身を任せるしかありません・・・と言うか、自棄です。」
「は?お姉さま!?ちょっとソレはどうかと思います!?」
既にもう腹は決まったメリアリネスがどんどんと早足で「勇者様!」と声援が響いてくる大通りの方に行ってしまう。
コレに慌ててついて行くアーシス。俺もその後ろについて行く。そして勇者のお披露目パレードが目の前に。
「・・・まさかとは思いましたが、本当にここは首都ですか。見覚えがある通りです。そして、勇者、ですか・・・」
俺の語った話をこうしてその目で直に確認してメリアリネスは暗い表情だ。
アーシスはと言うと、顔を激しく上下左右に振って自分の今居る場所が信じられないと言った感じだ。
「さて、コレで分かってくれた?俺が嘘なんて言っていないって事が。」
ここでハッとした顔になって突っかかって来たのはアーシスの方だった。
「どう言う事なのだこれは!?あの「勇者」と呼ばれているのは侯爵家の御子息ではないか!一体全体どうなっている!?」
「いや、そんな事を俺に言われても知らんわ。」
俺の言葉の何が気に入らなかったのか?アーシスがキッと俺をいきなり睨んで来る。
そんな目で睨まれても俺には理不尽にしか感じられない。だってこの「勇者」に一切俺は関与していないのだから。
そんなに睨んできても不毛なだけである。複雑な心情を今の場で俺くらいにしかぶつけられないのは分かるが。
「って言うか、勇者様とやらはそんなお偉いさんの息子って、裏が思いっきりあるとしか思えなくなっちゃったよ。」
政治的な裏取引でもあったのではないか?そんな風な疑惑がバンバンと膨らんでいく俺の中で。
別にソレが悪い事だとは思わないのだが、それに俺が巻き込まれるとなれば勘弁して欲しい案件だ。正直、凄く面倒事の臭いしかしない。
こうしてパレード見物が終わって俺たちはまたワープゲートで港町の方に戻った。
そこでメリアリネスから真っ先に出た言葉はと言うと。
「この分だと確実に私は軍を辞めさせられるだろうな。しかも恐らくはその後釜には・・・ふっ、勇者様が着任される事だろう。」
そう言ってメリアリネスはソファーに深く座って大きく溜息を吐いた。アーシスがこの言葉に「そんなバカな!?」と驚いて言う。
「今更お姉さま以外の者が軍を率いるのですか!?しかもソレがあの勇者?あり得ません!国は一体私たちの事を何だと思っているのだ!」
どうやらこれまでに相当な苦労が軍に、二人にはあった模様。しかし俺にはそんな事情は関係無い。気にするのは別の点である。
「取り敢えず明日には出発するのか?それならそれで真っすぐに城に戻るって予定で良いのかな?」
俺は今回の事に余り余計な時間を掛ける気は無い。勇者などと言うクッソ面倒そうな存在まで出て来てしまったのだ。早め早めにこの案件は終わらせたい。
この件は時間を掛ければ掛ける程に問題の面倒臭さが増しそうだから。
だけどもどうやら帰還には時間を掛けるらしい。メリアリネスが計画を話し始める。
「この港町は三つの主要街道がある。首都から真っすぐに繋がっている中央大街道は人の流れが多い。我々は今回の一件で中央は使用する予定が無い。一番距離が近いのが中央ではあるのだが。」
「それは要するに、残りの二つを使って軍を一々遠回りさせる事で各地に金をバラ撒いてちょっとでも経済の動きに流れを作ろうとしてるって事?」
軍の人員は相当な数である。そうなるとソレを街道途中の町や村に滞在させる事になる。一気に千人以上を一日で首都からこの港町に移動させる事なんて無理だから。
日数を相当に掛けて行軍するのは当然で、そうなればその途中にある宿場にて休息を取る必要が絶対に出る訳で。
「で、右と左、どっち?」
「来た道は平坦で草原が多い見晴らしの良い街道を使った。そちらの道は疲れは小さいが一番距離が長い。帰り道は・・・山岳の多い上り下りの多い街道だ。こちらは訓練も兼ねている。こちらは距離面で言うとそこまで遠いと言う事は無いのだが、その上下の激しい移り変わりに体力を多めに消耗する事で進行は遅くなるだろう。」
こうなると俺の考えていたよりも大分帰還は遅くなりそうだ。そう思っていたら。
「私は先に戻る為に中央を行く。少数の護衛を付けて。緊急事態・・・と言えるからな、貴殿の事は。既にこの事は全体に通達済みだ。帰還の件に関してはそれ以外の予定は変えずにいく。」
メリアリネスだけは即座に俺の存在を「緊急報告」として伝える為に中央をかっ飛ばすらしい。
「先触れは既にここに到着後に即座に出してある。簡易的な報告書も持たせてある。しかし、私が直接説明をしなければならない部分も当然ある。」
まあ確かに文字だけ、文章だけで伝わらない部分の方がきっと大きいだろう今回の事は。
そこらへんの伝わらないだろう所に関しては当人の俺が直に説明する話でもある。
「お姉さま、勇者の件が気になります。本当に国王陛下はお姉さまを?」
「決定でしょう。しかも私は今回「魔王」の首を上げられずに帰還ですもの。」
「そんな「魔王」などと言ったモノは存在しないのです。でっち上げてしまえば・・・はっ!?」
アーシスが急に俺の方を見て来た。見て来た、と言うか、また睨まれた。
「え?何でここで俺は睨まれてんの?」
思わぬタイミングでアーシスが俺に向けて敵意を剥き出しにして来るのは何故なのか?解せぬ。
「キサマは一体何者なんだ・・・」
国が「魔王」と指定した存在は「でっち上げ」なのに、目の前に何故か「魔王」と呼べる力を持つ存在が居る。しかしその当人は「魔王」を否定する。
どう解釈して納得できる様に呑み込めば良いのか?アーシスはそこら辺が上手く行っていないんだろう。
「アーシス、敵対を選ぶ事は最も愚かな選択よ。味方の立場など選ばないと言うのであっても、その時はせめて中立を保ちなさい。敵意も悪意も向けてはならないわ。・・・死ぬよりも悲惨な目に遭うわよ・・・」
「え?その評価も評価で酷くないか?」
どうやらメリアリネスは思っていた以上に俺を恐れている事がこの言葉で分かった。悲惨、と言った時の声のトーンがもの凄く暗く響いている。
こうして用事も済んだので俺はこの時点で退出する。まあちょっと過剰に余計な事をしてしまったかもしれないが。
そうして今日の残りの時間は酒をチビチビと飲みつつツマミを食べて海でも眺めて寛いで過ごす。
そして翌日、朝早く、と言うか、まだ日の出前なのだが、出発すると言うのをメリアリネス本人が俺に知らせに来た。
「おはよう。私たちの予定を知らせておく。貴殿は付いて来るのだろう?ならば説明をしておいた方が良いと思ってこうしてやって来た。」
「律儀に過ぎる・・・まあ悪い事じゃ無いんだけどさ。早過ぎない?もうちょっとゆっくりと寝る時間を確保しても遅くないんじゃないの?」
「緊急の報告が有る際には迅速な行動を心掛けている。今日までの時間で作った書類は私が別働で離れても軍が機能する様にする為のモノだ。やらねばならぬ仕事だった。それが無かったら港に着いた後に直ぐに出発をしていただろう。」
「真面目なのは良い事だ。でも、もうちょっと要領良くなれないもんかね?それは俺が指摘する事じゃ無いか。はいよ、それで、旅程は?」
俺はメリアリネスに今後の予定を聞く。その内容は。
メリアリネス、ソレと五人の護衛とアーシス、この七人で出発。馬に乗って早駆けで一気に距離と時間を稼ぐらしい。
計画的に途中で補給と馬の交換の為に街に寄る。野営も組み込んで首都へ急行する。
俺はコレに理解を示して「了解」と一言。それを聞いてメリアリネスはメンバーの待つ場所に向かった。
別にここで俺も同時に出発をしなければいけないと言う事は無い。俺に掛かれば魔法でチョチョイのチョイで後から出ても余裕で追いつく。
まだ眠かったのでもう一眠りしてから俺はメリアリネスたちを追う事にしてベッドに潜り込んだ。
そうして二時間程寝ていただろうか?起きて朝食を摂った後に爺さんに出る事を告げる。
家を出た後は俺は光学迷彩で姿を消して空を飛びメリアリネスを追いかけた。