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良くある事、良く無い事

 俺はかなり広めな倉庫に案内される。しかしここは頻繁に使われる場所では無いらしい。予備の買取倉庫と言った感じである。

 他のメインで使っている倉庫で此処での魔物買い取りは充分に受け入れられているんだろう。

 これはこれで俺には都合が良い。


「では、こちらに品を揃えておいてください。準備できましたらお呼びください。査定の者を寄こしますので。」


「なんか怪しいお願いをしてしまって申し訳無いです。快く場所を提供して頂いて恐縮です。」


「買取の品は大量と言う事ですが、目安としてこの広さのどの程度まで埋まりそうですか?」


「・・・えーっと、満タン、ですね。」


「ぇ?」


 俺の言葉に職員は「嘘だろ?」って顔をしたが、その後は冗談だとでも思ったのか「では一旦部屋から出ます」と言って退室していった。


「本当なんだけどな。さて、コレだけの広さなら出し切れるだろ。オッケーだ。」


 俺はゲルダが解体した分の「ワニ」をここで売り飛ばすつもりだ。インベントリの中に入ったままなのでコレを処理してしまいたい。

 なのでこうした誰も居ない状態でそれらを全部取り出す。流石に今ここで誰かに俺のインベントリを見られバレたくはない。

 こうして俺は倉庫の端から埋めて行く様にどんどんと取り出していく。もう既にゲルダが解体しているモノなので部位ごとに分けて分かり易く並べる。

 ここで地面にそのまま置くのはどうかと思って俺は魔法でキレイに床を均している。小石やゴミ、埃を全て除去。

 ここは予備倉庫と言う事で地面にそのまま柱を建てている掘っ立て小屋的な作りだったのだ。恐らくは大分昔、この組合ができたばかりの頃の最初期の倉庫として使われていたんだろうと予想する。


 さて、そうやって床の均しと同時に素材を並べて全て素材を出し切る。ついでにこの解体されている「元」がどの様な姿だったのかを理解して貰う為に一匹マルマル解体されていないモノも出しておく。コレも売る。

 こうして作業が終了してから俺のいつもの間抜けに気付く。


「あ、これって今日中に査定と金額が決定するのか?もしかしたら量の関係でとか、或いはこれまで未発見の魔物とか言った事で査定自体が混迷する?」


 出した物を調整してまた仕舞うと言うのも負けた気がする。なのでもう職員を呼んでしまう事に。半ば自棄だ。

 そうしてやって来た職員と査定員、それと三名のお手伝いと言った所か。

 その五名は中に入った途端に「ギョ!?」と同じリアクションを取った。まあ何せ目の前には「ワニ」がマルマル一体その巨体の凶悪な顔を彼らに向けていたのだから。


「すみませんが、コレ全部お願いします。」


 俺の言葉に反応せずに固まったままの五名が元に戻るのを待つ。そうして待っていたら返って来た答えが。


「しょ!少々お待ちください!」


 職員がそう叫んでからこの場から離れてどこかに行ってしまった。

 コレに俺は「やっちまったな」と思った。そもそもコレだけの量をどうやってこの場に持ち込んだと言うのか?しかも短時間で。これは真っ先に疑われる案件である。

 誰も此処には俺以外に居なかったのだ。それなのにこれ程の量を一人で用意する事など普通は不可能だろう。

 恐らくはその方法を追及されるかもしれない。その時はその時で秘密で押し通せば良いだけなのだが。そのやり取りが面倒だ。

 しかしここで職員が連れて来たのはこの傭兵組合の上役では無かった。手伝いを追加で呼びに行っただけらしかった。

 てっきり「責任者を呼んで参ります」的な感じでこの場を離れたものだと思ったのだが。


「ここに出したのは全てこの魔物の素材です。追加でこのままこのマルマル一体も買取をして欲しいんですけど、大丈夫そうですか?」


「・・・はい、頑張ります・・・」


 俺の求めに「頑張ります」とは一体?と思っていたら次々に手伝いの職員が先ずは解体されている方の肉や皮骨を次々に台車に乗せてどこかに運んでいく。

 確かに初見の魔物の査定などをするのにコレだけの量があれば頑張らないといけない案件だ。もしかしてこちらでは発見済みの魔物かもしれないけれども。


 どちらにしろこれらをどの様に傭兵組合で捌くのか?商人に?食堂に?武具店に?量が多過ぎて捌ききれないかもしれない。その場合は肉が残って腐ってしまうかもしれない。


「あ、半分凍らせて保存しましょうか?」


 俺がそう言って職員に提案すると「直ぐにお願いします!」と食いつき気味で懇願されてしまった。

 そんな突然冷凍保存ができるのか?と言った疑問はこの際この職員は投げ捨てたらしい。

 彼らの目の前で一気に素材を凍らせていく。それらは全て肉関連だ。


「おい!凍ったモノから保管室に運ぶんだ!いそげ!ソレと凍らせていない常温の物は直ぐに食堂に行って試して貰え!ぁ駄目だ!先に錬金部にある程度持ち込んで食用にできるかの試験を!骨は技術部に!皮を武具組合に!内臓関連も肉と一緒に錬金部に持ち込め!急げ急げ!この量だ、作業を効率よくやらなきゃ何時まで経っても終わらんぞ!」


 どうやらこの魔物「ワニ」はこっちの国でも初見、発見されていなかったモノであった様だ。この様子だと金額を受け取るのは確実に明日以降となりそうである。


(まあ別にメリアリネスが戻って来るまでにはまだまだ日数がかかるだろうし、いいだろ)


「えー、本日は神選民教国首都、カリアリネール支部、傭兵組合に買い取り持ち込みをして頂き、有難うございます。・・・しかし、持ち込まれた量が、量ですので、金額確定にはお時間を頂きたいと思います。こちらの割符をお持ちになられて、そうですね・・・二日後にまたこちらにお越し頂いても宜しですか?その時には、金額は確定されていると思いますので。」


(一旦メリアリネスの方の様子を見に戻るか。この素材が安く買い叩かれてもこの量だ。それなりの金額になるだろ)


 俺はこの素材の希少性やら価値などは分からない。なので専門家がそこら辺を決めれば良い。

 ソレが安かろうが、高かろうが、今回持ち込んだ量が全て買い取りになれば金額もそこそこになるだろうと予想する。

 まだまだインベントリにはこの「ワニ」が残っている。大量に。肉が「買い取り不可」だった場合もどうだって良い。その時は取り敢えず素材として肉は使えないモノとして処分するのはしょうがないと思うので。

 得られる金額がその時には大分低くなるだろうが、取り敢えずインベントリの中がスッキリできたと思えばソレで良いだろう。


 こうして俺は割符を受け取ってこの場を後にする。その際に職員たちが走り回って大騒ぎだった。

 俺の持ち込み素材を捌くのに色々な場所に問い合わせをしないとならないんだろう。誰もが「えらいこっちゃ」と言った表情で報連相が飛び交っていた。

 そんな組合を出て俺はメリアリネスの滞在する港町に戻る。もちろんワープゲートで一瞬だ。

 戻ってくれば先ず鼻に潮の香。そして焼ける魚の香ばしい匂いと、ジュワジュワバチバチと弾ける脂の熱せられる音。港町なので屋台が魚中心の物が多いからだろう。


「まだ手元に金が無いから、魚が食べたかったら自分で漁をしないと駄目だなぁ。いっその事釣りでも楽しむか?」


 自分一人の食事なら魚が一匹、或いは二匹釣れるだけで充分だ。漁などと言った言葉を使うと大量に魚をゲットしている俺の様子が頭に浮かんでくる。

 これは過剰だ。だけどもちょっと考えた。そうやって魚をゲットしてこの港町で売っぱらっても小銭が稼げたのでは?と。

 だけどもこの港の漁師の事を考えればそれは無理だと考え直す。そうした人たちの仕事に横からちょっかいを出す様な真似は駄目だろうと。

 それにいかにも怪しい人物の持ち込んだモノをこの港町の商売人が買い取ってくれるか?と考えれば、それは無理だろうと。


(こっちにも漁港組合とかあったりするんだろうな。何せ傭兵組合で「武具組合」とか言った単語が聞こえたしな)


 余所者の俺がそう言った組合の仕切る市場で横入りできる訳が無い。システムがキッチリと組み上がっていると見なして良いだろう。

 そんな所に俺がいきなり飛び入りしようとしても弾かれるだけだ。傭兵組合が俺の持ち込んだ素材を買い取ってくれたのが例外だと思った方が良いだろう。


「さて、素人の俺が釣りなんていきなりやって釣果が上がるのかどうか。」


 俺は苦笑いをしつつ港の方に歩いて行く。姿は消していない。なので町民の視線がこちらにバンバン集中して来る。

 そんな中で港の波止場に到着。取り敢えず一人でいるのに適当な場所を見繕って腰を下ろしてからそこで俺はふと気づく。


「別に釣り何てしないでも魔法一発で魚の一匹や二匹は簡単にゲットできそうだよなぁ・・・」


 魔法で何でもできると言うのはこう言った時に不便だ。何でもできてしまうと言うのは時に「楽しみを奪う」のである。

 目的がそもそも「魚を食べよう」となっていたのでここで一々釣り何てしないでも良いのである。しかし娯楽と言うのは自分の精神を豊かにする為に必要な行為であるのだ。

 そうやって釣りをしないでも、魔法一つで魚が取れてしまう、こういう時に何で俺はこう面白く無い事を気付くのかと自分を問い詰めたい。


「まあいっか。刺身が食いたいなあ。」


 などと呟いてから俺は海の中に魔力を浸透させていった。かなりの広範囲にである。

 そこで妙な魔力の塊が引っ掛かる。それはどんどんとこちらに迫って来ているでは無いか。

 しかも相当まだ遠い距離に居るのだが、その接近して来る速度はかなり速い。

 俺はその存在の姿形を確認しようとして集中して魔力ソナーの詳細を確認した。それは。


「額に巨大な角があるサメか?・・・体長が角も入れると10mは有りそうだ。で、何でソレがピンポイントで俺の方に向かって来るんだ?」


 そうなのだ。そいつは俺の方に向かって来ているのである。場所を移動してみても方向修正してきてキチンと俺を捕捉している。


「こいつは、どう言う事だ?」


 このどうやら海生魔物、名前が分からないのでシンプルに俺の中で「角サメ」と呼んでおく。

 そいつはそもそもどうやら最初からこの港に向けて突っ込んできていた。それがどうにも、そこで俺の魔力ソナーに反応して目標を俺に変更、設定したようであった。


「おいおい、このまま突っ込んできたら波止場もそこで留まってる船にも被害が出るじゃ無いか。」


 俺の発した魔力ソナーに釣られて来る魔物が存在するとは思っていなかった。

 もう今俺がこの場所から離れたとしてもこの「角サメ」は止まったり、方向転換せずに此処に突っ込んで来るだろう。


「魔力固め、それと、操作で何とかカントカ・・・」


 俺は咄嗟に「角サメ」の動きを止めようとしたのだが、どうにも俺の思ったように上手くいかない。どうやら海の中では俺の御得意の魔力操作に弊害が出るらしい。

 船団を操作した時には上手くいっていたのだが、これには何か条件などがあるのかもしれない。

 だが今はそんな事を考えている暇も検証する暇も無い。この「角サメ」への魔力固めの掛かりがイマイチなのだ。

 しかもそこそこ魔力を持っているらしいこの「角サメ」が抵抗をしてくるのだから厄介だ。暴れて海中を滅多やたらに泳ぎ回る。

 コレでこちらに突っ込んで来る勢いを止められたのは良いのだが、まだ油断はできない。

 もう側まで来ている「角サメ」が海面から跳ね上っている様子が直ぐ目の前なのだ。

 俺の送り込む魔力に抵抗するかの様に身体を捻り、振り、そして海面に叩き付ける。

 その衝撃はかなりの大きさになっており、船や波止場にコイツがぶつかると被害が甚大になりそうなので俺は何とかこの「角サメ」の動きを抑え込もうと魔力を送り込む。


「どう言う事なんだコレ?これまでは思う通りに行ってたんだがなぁ?」


 ソレでも「角サメ」は強く抵抗を続けて一向にその動きの激しさが落ちない。

 それでもかれこれ10分程の時間だっただろうか?格闘の末ようやく「角サメ」がピクリとも動かなくなったのだ。

 どうやらこの戦いは俺が勝ったと言う事になるんだろう。そのまま俺はまるで釣り糸を巻き取る感覚で魔力を引っ張る。

 この「角サメ」を引き上げるとソレはそれは立派な太く長い角、黒光りする巨体、凶悪な牙がまるでノコギリの刃の様な魔物を陸揚げである。


「引き上げたは良いんだけど、これ、どうしよう?」


 まだ俺はあの「ワニ」の代金も受け取れていないのに、この「角サメ」をゲットである。


「コイツ、食えるのか?」


 角は売り飛ばせそうだ。何かに加工して使えるかもしれない。

 けれども肉はどうだろうか?確かサメの肉はアンモニア臭くて食用には向かないと聞いた事があった様な、無かった様な。別の海洋生物の話だったかもしれない、うろ覚えである。

 皮は何かの工芸品にでもできそうであるが、そこら辺は全く以て俺が知る由も無い。

 歯、牙はそのままで本当に木を切れそうな感じである。そのまんまで鋸として使えるのでは?とすら思える。

 コレだけ巨体であるとソレを支える骨も太いだろう。そうするとソレも何かに加工して使えるだろうか?

 内臓関連だとサメの肝油だったか?確か通販で健康食品?カプセル?でやっていた様な気がする。

 ヒレは干せばフカヒレにできるだろうか?そうなるとこの「角サメ」の肉や骨を茹でた出汁でフカヒレを煮込むとこの魔物の本来の旨味とやらが味わえるのだろうか?


 こうして妄想ばかりが先行していたらいつの間にか周りに人だかりができていた。


「おい、これはお主がやったんか?」


 一人の老人が俺にそう質問して来た。コレに正直に俺は答える。


「あー、そうなんだよ。釣り上げたは良いんだけどさ。俺はこの魔物の使い道が分からないんだ。食えるコレ?」


「お主・・・呆れた奴じゃの。そうじゃな、処理に困っとるのならワシに任せてみんか?」


「んー、じゃあ任せようかな。只単に今日の分の飯を釣ろうと思っただけなんだけど、こんなのが捕れちゃって困惑してたんだ。余ったり残ったりしても俺の手に余りそうだし、これ全部この町に寄付って事で良いや。その代わりに数日分の宿と食事の提供を交換って事にしてくれると助かる。」


「・・・お主、大バカ者なんじゃのう。その恰好からして余所者なんじゃろうが。それでもその申し出は常軌を逸脱しとるぞ?コイツが何なのか全く分かっとらんじゃろその様子だと。近海のヌシじゃぞ、コイツは。」


 どうやら俺は大物中の大物とやらをゲットしてしまったらしい。

 ここで俺は気が付いたので注意事項を言っておいた。


「あ、因みにこいつ体力が無くなって大人しいだけでまだ生きてるから近寄らない方が良い。」


「馬鹿もん!そいつを早く言え!お前たち!まだ近づくんじゃない!こら!言う事を聞け下がれ!下がるんじゃ!急げ!死にたく無ければ近づくんじゃない!」


 老人がそう言った瞬間に「角サメ」が大きく一つ跳ねる。この巨体と重さだ。下敷きになったら命は無いと思った方が良いだろう。

 ソレと噛みつかれても終わりだろう。あの凶悪な口で一噛みされただけで瞬時に肉片に変えられてしまう。


 まだ事切れていない「角サメ」は地上に上げられてもまだ抵抗を見せている。海に戻ろうと藻掻いて暴れる。

 不用意に近づいていた恐れ知らずの若者が五人程いたのだが、一人が逃げ遅れて下敷きになりかけた。

 這い蹲って即座に離れたので潰されなかったが、これは間一髪だった。周囲で悲鳴が上がっている。

 人の輪はコレで一斉に蜘蛛の子を散らすが如くとなる。

 因みに俺は一切手助けしていないコレに関して。なのでこうして潰されかけた若者が生きているのは彼の運だろう単純に。


「じゃあ今から止めを刺すから、宿と飯の件、良いだろうか?」


 俺はそう老人にもう一度確認を取って了承を得たので「角サメ」に魔力を纏わせる。

 そしてそのまま魔力を内部に浸透させて脳を直接「ぎゅ」っと潰した。コレで一つ大きく痙攣した「角サメ」は次にはピクリとも動かなくなった。

 誰もがこの光景を見て呆気にとられた表情に変わる。


 こうしてその後は老人の一声でこの町の漁師だろう浅黒い肌のマッスルなオッサンたちが解体作業を始めた。

 次々に肉、骨、内臓、皮、牙、角、ヒレとじゃんじゃんと各部が切り分けられては様々な人たちがそれらの部位を運んでいく。


「取り敢えずはワシの家に来い。持て成してやる。」


 俺はこうしてこの老人の家にお邪魔する事となった。家に到着して中へと案内されるとそこは広いリビング?と言って良い部屋だった。

 そこで「暫く待っておれ」と言われてる。そのまま老人は部屋を出て行ってしまった。

 その時に出されたお茶はどうにも俺の知っている味で。


「ぬぉ!?コレ昆布茶だぞ・・・しかも濃いめに淹れられていて旨味が強いな。あ、何だかめっちゃお腹空いて来た。」


 暫く待てと言われたがこのまま空腹のまま待たされるのか?と考えた時に老人が戻って来る。豪勢な料理と共に。

 俺の目の前のテーブルには所狭しと料理が並ぶ並ぶ。


「好きなだけ食ってくれ。この程度ではお主がもたらした利益にまだまだ足りん。遠慮はせんで良いぞ。」


「じゃあ遠慮無く。おっと?刺身もあるな。醤油・・・は当然無いか。こればかりはしょうがないな。では、頂きます。」


 出された料理を俺は次々に食べていく。先程の昆布茶で食欲が上がっていた俺はペロリと全ての料理を平らげてしまった。


「御馳走様でした。はぁ~、食った食った。暫く動けないな。」


 俺は椅子に寄りかかって腹をさする。久しぶりに食べた刺身に醤油は無かったが、どうやら「ワサビ」は存在していた様でソレを付けて塩で食べた。

 色も、ツンと鼻に来る刺激も正しく「ワサビ」だったのだが、香りが微妙に違うモノで、しかしそれでも美味しいと言えるモノだった。


「ようコレだけの量を食ったモノじゃ。お主の腹はどれだけなんじゃ?さて、一息ついたのなら聞いておこうかの。お主は何処から来なすった?」


「ああ、別に俺はこの町で悪さなんてしないから安心してくれ。そうだな、海の向こう、かなり遠い所から来てるな。」


 合ってもいないが、間違ってもいない。老人の質問に俺はそんな返事をする。


「何が目的でやって来たんじゃ?その服装は傭兵でも無ければ庶民とも見えん。どこぞの豪商か、貴族か?そうなると護衛の一人も付いておらなんだはおかしいじゃろう。」


「完全に一般人だねー。そこまで警戒しないで欲しいね。別に身分なんて高く無いからいつも通りな態度で話してくれ。ソレと目的って事だけど、まあ、詳しく話すと複雑になるし、面倒だから。ざっくり言うなれば、観光、だな。」


「観光じゃと?・・・何者なのかがサッパリ掴めん。だが、悪人では無いらしいな。さて、遅くなったが自己紹介しよう。ワシはここの町長をやっておる、バジスと言う。お主がここに滞在する間はワシが面倒を見よう。」


「俺は遠藤と言う。宜しく頼むよ。まあそこまでの長居はしない予定?になってる。それまでの間、お世話になります。」


 俺は軍が首都に戻る為に出発したら一緒に此処を発つつもりでいる。勝手な俺の予想だと三日後になるんじゃないかと思っている。

 根拠は別に無い。しいて言うなら、兵の疲労の回復を待つ。消費した物資などの整理。報告書の作成などなどの諸々にこれくらいは使うだろうと言ったモノである。

 これらに費やす日数は最低でも三日は必要なのでは?と考えているので、もっと遅くなれば四日、五日、六日とどんどんと延びる事になるだろう。

 二日後には「ワニ」の査定金額が出ているはずなので、それまではこの港町でのんびりとしていればいい。

 こうして俺は町長の家にてお世話になる事となった。


 そうしてその翌日。俺は久しぶりにクルーザーを取り出して海を走る。

 やはりこうして船を操縦して海を高速で移動するのは空を飛ぶのとはまた違った快感があるのでソレを俺は思う存分に楽しむ。

 そうやって楽しんでいるとダンガイドリの事を思い出して「卵」の収穫ができないかどうかを考えた。

 あのインパクトのある濃ゆい味をまた食べたいと思うのだが。


「あー、やっぱり養殖場はやっとくべきだったかなぁー。繁殖期じゃ無いと卵を取りに行けないし、そのタイミングを俺は知らんのだった。」


 そんなボヤキをしながら港町周辺の海岸線を探索する様に走る。ダンガイドリがここにも居ないかと観察を続けながら。

 しかし巣は見つからず。そうそう都合の良い事は起こらないよなと肩を落として沖合に船を向かわせる。

 今度はちゃんと釣りをしようと町長から釣竿を借りて来ていたのだ。


「・・・餌はどうすれば良いか考えて無かった。釣り竿だけ借りて来てもどうしようも無いな?馬鹿か?俺は?」


 この借りた釣り竿、釣り糸を巻き取るリールがしっかりと付いている。俺の知っている物と何ら構造に遜色ない代物だ。

 何がどうしてこの様な高度な釣竿がここに存在しているのかは知らないが、そこを追求しようとは思わない。


「まあ、雰囲気だけでもちょっと楽しみますかね。」


 こうして俺は船を止めて海へと釣竿を振る。素人ながらに上手く針を遠くに飛ばせた。

 コレに満足して俺はそのまま五分程ボーっとしていたのだが、そこで何やら釣り竿に微かな反応が来ている事に気が付いた。

 針だけで魚が引っ掛かるなどとは思っていなかった俺はそれに気が付くのが遅れた。コレに急いで竿を引き上げてみたのだが、手応えが、ある。

 そのまま驚きと期待とで胸をワクワクさせながら糸を巻き取る。因みに今回の事に魔力ソナーは発動させてはいない。

 ここから俺と魚との果てしなく長い戦いが始まった、なんて事は無く、見た目が深海魚の様なグロテスクな魚?が釣れてしまった。


「こんなキモイのはキャッチアンドリリース!初めて釣れたのがビギナーズラックでこんな見た目のって!即座に放流!」


 釣り竿からその釣果へと魔力を流して操って針を抜く。そのまま拘束から解き放たれたそのキモイ魚は海へと「ぼちゃん」。手で触れたく無かったのでコレで良しである。

 釣れた魚、魚?はギョロ目でその口もヤツメウナギの様なキモさ。ヌメヌメとテカる表皮、所々太かったり細かったりと奇妙な体型。

 もうホント、一秒でも目に入れていたく無い位に見た目がキモイ、キモイ、キモイ。これ程までに不安を掻き立てられる存在に今まで出会った事は無い、と言い切れる。


「はぁはぁはぁ・・・こっちの精神が危くなりかける程って・・・スゴイな、異世界。」


 何かしら妙な悪電波などを撒き散らかしていたのでは?と思える位に先程の魚・・・魚?アレは本当に魚だったのか?は気色悪かった。こちらの精神が削られる感覚、耐え難しである。


 ここで俺は釣りを中止した。もうあんなものが引っかかる可能性がある事は即座に止める。


「・・・まさか昨日食べた料理の中にさっきのが入っていたりとかしていないよな?無いよ、な?」


 調理されてしまえば先程の見た目など関係無くなってしまう。俺はその可能性に思い至って背中がゾッとした。

 料理の元となったモノが何かを知ってしまうと、きっともう調理された物だったとしてもソレは食べられなくなるだろう。


「考えるのは止めよう。そうだ、美味しかった、それだけで良い、良いんだ。深く考える事も、気にするのも、余計な詮索はしないで良いんだ、そうしよう・・・」


 この事は記憶の中から消しておく。その為に行き先を決めずに無心にクルーザーをかっ飛ばして海を何処までも走る。

 そうして海風を受け続ける事15分程。ようやっと気持ちが落ち着いて来た所で気が付く。


「何処まで来ちゃった?どれ位離れた?」


 走らせる方向すら何も気にしていなかったので俺が方位的にどこら辺に居るのか全く分からない。

 港町はどっち?そんな事を考えてから船をUターンさせてまた走らせる。ここまで真っすぐ来たので同じルートを辿れば帰れるはずだ。

 途中で方向転換などをしていないので気楽にまた速度を出して真っすぐに海を走る。最終的にワープゲートを使えば戻れるので遭難の心配が無いのである。

 そしてまたそれから15分後。来た道をそのまま同じ様に戻っていると思っていたのだが。


「・・・見えねぇ。」


 どうやら方向が微妙にズレが生じていたらしく、行きと同じだけの時間船を走らせていたのに港町が何処にも見えない。


「遭難です・・・もう良いや。素直にワープゲートで帰ろ。」


 自分の良い加減さに呆れながらワープゲートで素直に港町に戻った。

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