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良く解る?いや、分からん解説

「え?何で?」


「いや、向こうには相当に優秀な魔術師が五十名は居るんだろう?私の持つ魔力が城と通じている事を真っ先に見抜かれて「ヌシ」だと正体がバレるぞ直ぐに。」


「あ、そう言う事もあるの?なるほど、そう来たか。そんな事になればどっちにしろ相手がどう動いて来るかは分からんって訳ね。・・・それにしても納得いかない部分があるし、違和感があるなぁ?」


 向こうが口にする魔王が現れただの、巫女が神託を受けただのの言葉が俺には薄っぺらに聞こえてしまう。

 そこにきてこうして確信があるかの如くにこの島に上陸してきているのだ向こうは。そして見つけたここにいきなり攻撃してきた。

 話を聞いていて魔王も神託も信憑性が欠片も無いと感じるのに、この島への上陸と城への攻撃は躊躇いも慎重さも無く為されている。


「さて、本当にどうやってここを見つける事ができたんだろうな?魔王って嘘くさい部分も向こうは呑み込んでの事らしいしな?そこら辺も聞いておきたい所なんだが。さて、話は纏まったのかね?」


 向こうの会議はまだ続いている。「対話を試みるべき」と言った案と「そんな事はできん」の二つで分かれている。

 対話派は三名が、それに反対するのは四名だ。士官たちは全員男性。総指揮官だろう女性がまだ一言もこの会議で発言していない。

 そんな状態でずっとアレがどうする、これはどうなると幾つもの案が出され、それを否定され、と言った感じでどんどんと現状の打破ができないと言う事が浮き彫りになって行き、会議は煮詰まって行く。


【皆の者、静まれ。今回の件を我々は根本から振り返って考えねばならぬ】


 この言葉は総指揮官のモノだ。やっとこの会議で言葉を述べる気になったらしい。

 しかしどうにも「この先どうするか?」と言った事では無く、今回の切っ掛けとなった大本を思い出せと言う。


(盗み聞きしてるみたいな気分になるから早い所決断を下して欲しい所なんだけどな)


 さっきからこの会議の内容をずっと盗聴している訳だが、これは俺だけが聞いている訳では無く、スピーカーON状態にしてレストにも聞いて貰っている。

 何故なら初代皇帝をしていたレストなら国軍と言ったモノの中身を俺よりかは知っていると思ってだ。

 この攻めて来た軍の内部事情とやらに対して俺なんかよりも理解があるだろうとの思い付きからである。

 レストにアドバイスを貰うなら情報共有をしてあった方が話も早い。なので聞いて貰っていたのだが。

 ここでレストはちょっとだけ驚く。


「女指揮官か。よっぽど優秀で尊敬されているのだろうな。一斉に他の男性士官が黙った。侮っている者が一人でも居ればこの時点で噛みついている事だろう。」


 そうなのだ、この総指揮官が静まれと言葉を発して士官たちは一斉に黙ったのだ。


【最初から皆に情報を共有していればもっと話は早かったのだがな。今回のこの遠征は私にしか詳しい事情を知らされておらず、しかもソレを他言無用だとすら命じられてしまっていた。しかし今はソレも守ってはいられんだろう。当初の予定などもう無いかの如くに狂ってしまっているからな。さて、では事の発端から説明しよう。これを皆が知っていなければこの会議は只の無駄でしかない。先ずはこの事をこれまでずっと黙っていた事を謝罪させてくれ】


 どうやら解説タイムが始まるらしい。一番聞きたかった事をこれから説明してくれるという。

 どうやって向こうから情報を引き出そうか、話し合いに持ち込もうかと思っていた所だ。これは大歓迎である。説明してくれると言うのであればこちらもソレが一番楽だ。今後の俺たちの対応もこれを知っていれば何かと動きやすい。


【先ずは国の観測研究部署が大気中の魔力が日に日に、いつの間にか増加し続けている事を知ったのがきっかけだ】


 俺はコレに「うん?」と引っ掛かる所があった。以前にドラゴンからそこら辺の事で説明を受けた覚えがある。確か俺の魔力が世界に漏れ溢れているとか何とか?言った話だったはずだ。

 世界と俺が繋がっている?とか言う話で、俺はその世界から魔力を引き出して使う事ができたのだったか?

 コレに俺には「何のこっちゃ?」と言った荒唐無稽な話にしか聞こえなかったのでマトモに詳しい部分を覚えていない。

 いや、頭が痛くなりそうなので専門知識的?超自然理論?オカルト的な深い解説などは聞かずに「ザックリ」としかドラゴンから説明を受けていないのだった。


【濃度の高低の詳細な調査から魔力がどの方向から押し寄せているかの発見に繋がり、その方角にこの現象の大本が存在すると報告がなされたのだ】


(はい、それはもしかして、もしかしなくても俺の事ですね?何だか良く分からないけど、なんかスイマセン)


 今回の事の原因はどうにも俺にあると言う事が判明してしまった。俺はコレにガックリきた。何でこうなった?と。


【さて、国の経済の停滞が近年は問題に上がっていた事を皆は承知だろう。大臣の一部がコレに目を付けたのだ。只の詳細調査の部隊を組むのではなく、経済を活性化させる様な「嘘」を混ぜて軍を動かそうとな】


 おいおいまさかと俺は思った。稚拙、穴だらけ、子供騙し、そんな感想だ。


【国が民に向けて発表をする。敵が現れたと。それを討伐する為の軍を出動させるとなれば物資の面でも、金の流れ的にも動きが起きる。安易ではあるが、これなら一時的にではあるが大きく、そして簡単に流動を作る事が可能だ。軍を動かすにも理由が必要だ。そのための「魔王」なのだ。経済の停滞を崩す為の切っ掛け、たったこれだけの為にこの大気中の魔力増加の調査にかこつけたと言う事なのだ】


 俺はバカらしくなってきた。そんな理由かよと。しかし経済の停止、金の動きが鈍いと言うのは国の大きな衰退の一因になりかねないから大事と捉えるのは致し方無い。

 だけどもソレを解消する為とは言え「でっち上げ」をするのに「魔王」は無いんじゃないのか?と思ってしまう所がある。

 でも藁にも縋ると言った所もあったんだろう。人は追い込まれると何をしでかすか分からない生き物だ。


【出軍の為の準備期間中に観測研究に進展があり、超長距離観測を可能にする魔道機材が導入され調査がされた。その際に大海のド真ん中に巨大な魔力の歪みを観測したと言うのがその報告内容だ。コレに国はそこに魔王が存在するとの事で「決定」した。それに従い我々はこんな大海原を進んできたのだ。そして報告通りにそこに発見したこの孤島に迷わず上陸した。魔術師たちがこの島の存在を一目見て慄いていたのは皆も知っての通りだ】


 どうやらもの凄く性能の良い機材を使っての観測でこの孤島の存在をキャッチしたと言っている。中々この世界の技術と言うのも侮れない。

 その結果に沿って動きこの軍は確信をもってここに上陸したと言う事らしい。それでも一切の迷い無く上陸、拠点づくり、城への攻撃と、これほどに澱み無い行動は「凄い訓練されている」との一言で簡単に片付けて良いモノだろうか?


【皆の者もここまで言えば分かるだろう。我々は何かしらの「結果」を持ち帰らねばならん。ソレも物理的な何かだ。そして我々の攻撃が通じない相手がここには存在すると言う事実がある。それが「魔王」であれ、そうで無い者であれ、その相手をどうにかせねば引き返すなどと、帰還する事はできん。こちらの最大攻撃が効かない相手が居る、などと言った報告だけを持ち帰っても意味は無いのだ。国はそもそも我らに「魔王」の討伐を命じた。ならばその証明が要る。コレが仕組まれた茶番だとしてもだ。コレが下らぬ国の政策で、我らがつまらぬ事に利用されているとしてもだ】


 引き下がる気は無いらしい。ぶっちゃけ、面倒臭さが上がった。

 不退転の決意が重い。こっちはさっさと帰って欲しいと願っているのに。


 とは言え、この総指揮官、ここで最後に国の決定に不服を抱えている発言。それでも上からの命令を追行しようとしている。御堅い性格なのかもしれない。


【さて、ならば我々はどの様な危険があろうとも思い付いた手段は全て虱潰しに実行に移さなければならない。それが幾ら可能性が「無い」などと言う事であろうともだ。何がきっかけで事が好転するか分からない現状、泥臭い事であろうが大恥を掻く事であろうが、それが意味の無い事であろうが試さねばならない】


 これに俺はやっと結論が出たんだなと溜息が出た。長かったがここでやっと総指揮官が決断を下す。


【話し合いでも何でもしよう。相手が応じるのであれば。この壁を生み出しているモノの姿すら見る事ができていない現状、こちらから話し合いを申し込んで向こうが応じ出て来てどんな姿であるかを確認できたなら今よりも幾分もマシだ、前進したと言えるだろう】


 どうやら「誘き出す」と言うニュアンスが大きい様な気がするのだが、まあ良いだろう。進展はした。向こうがこちらの話を聞く体勢?になったと言える。

 ならばこちらから出向いた方が手っ取り早い。とは言えもうちょっと様子を見てからだが。


【さて、そうは言えども問題がある。どうすれば向こうが姿を現すと思う?これまでどれ程にこの壁に攻撃を仕掛けても相手の反応は全く無い。何か思いつく事があったらどんな馬鹿馬鹿しい事でも構わん。言ってくれ。どの様にすれば向こうと接触が可能なのか?どんな言葉を掛ければ相手は出て来るのか?皆で知恵を出して貰いたい】


 総指揮官はできる事は何でもやると言い切った。しかし現状の変化をどうすればできるのかは全く見えないと正直に口にして部下の士官たちに意見を聞く。

 俺は「ここだな」と思った。ずっとこれまで士官たちはあーでも無いこうでも無いと議論をし続けても良い案など出て来ていないのだ。

 この総指揮官の求めに誰も答えられる者など出はしない。ならばここだろう。ここしかないだろう。


「あー、聞こえてる?やっとコッチの話を聞いて貰えそうな雰囲気になったから声を掛けてみたけど。さて、何から喋れば良いかな?あぁ、先ずは挨拶が先か?それよりも俺の言葉、通じてる?」


 俺の声が天幕の中にこだまする。コレに士官たちは一斉にその腰の剣を抜き放って戦闘態勢に入った。

 まあいきなり覚えの無い声がして来たら警戒するだろうし、剣の一つも抜くだろう。


「話し合いをするんじゃ無かったのか?剣など抜かれて向けられれば怖くて口が開かなくなるなぁ。」


 俺は少しだけおチャラけてそう物申す。これは一応相手の覚悟とやらを試す為だ。

 コレで相手がいきり立って怒ったらまだ話をする状態になっているとは言えない。


「何処に隠れている!?姿を現せ!貴様何者だ!?話をすると言うのなら我らの前に出てこい!」


 焦りと緊張、そして敵意が満タンな怒声が響いた。剣を抜いた者の中で一際体躯の大きい、そして顔が強面の士官がそう声を張り上げる。


「まだ駄目そうだね。それじゃあまた様子を見て後で再度声を掛けさせて貰うよ。」


 俺はここで一旦切り上げようと思った。挨拶としてはコレで充分だろう。ここでこれ以上の会話を続けようとしてもまだまだ相手の準備と覚悟は足りないらしいから。


「待ってくれ。お前たち、剣を収めろ。口をつぐめ。ここからは私のみが話す。さて、部下が失礼をした。私は神選民教国、軍事総司令部、メリアリネスと言う。」


「ふぅ~、俺は遠藤。あんたらが攻撃して来た城に滞在してる者だ。」


 俺と総指揮官との自己紹介は済んだ。さてここから、と言った感じなのだが、沈黙が続く。

 別に俺から語る事はこれ以上無いから向こうの言葉を待っているのだが、メリアリネスは黙ったまま。


「んー?俺に聞きたい事は何も無いの?それなら今日は挨拶だけにしてここで終わりにしておくかい?続きはまた明日でも良いよ?そっちはどうやらまだまだここに居座るつもりらしいしね。」


「今貴殿は何処に居られるのか?声はすれども姿が見えない。この天幕の周辺にも・・・気配が感じられないが?」


「おや?下らない事を聞くね。話し合いでも何でもするんじゃ無かったのかい?俺が別にそこに居ずともこうして会話が成立するのならそれは関係無いだろうに?何かその点に不都合があるのかな?」


 俺はちょっとずつ煽る。相手のこれからの出方が気になるからだ。

 この程度で怒りを露わにするのなら姿は一切見せなくとも良いだろう。怒気がまだ出てくる様ならこちらが姿を見せたら見せたで一斉に斬り掛かって来るに違いない。

 逆にこの煽りで冷静になって警戒してくれたならもう少し話し易くなる。俺の姿を見せても殺そうといきなり攻撃をしてくるなんて事を防げるだろうから。


「・・・我らの軍議の内容をどうやら知っているのだな?どの様な方法で?」


「おや?知った所でそちらさんは引き下がる気は無いんだろう?教える意味が無い。」


 多少は俺の事にビビッてくれている様だ。このままこちらの事を恐れてこの島から出て行ってくれると嬉しいのだが。まあそうは問屋が卸さないのであるが。国に土産が必要だと言っているのだから。


「何処から、いつから聞いていたのだ?」


 こうも簡単に盗聴をされてしまうのは軍としては大問題だろう。そこら辺の事を重点的に調べておきたいのか、或いは色々と他の事を思考する為の時間稼ぎか。

 先程俺が「無駄だよ」と伝えたばかりなのに「内容を知っている」と言う部分に拘って質問を飛ばしてくるメリアリネス。

 俺はこれに素直に答える。


「この軍議の最初からだな。話し合いをする、しないの言い合いも。魔力の観測も、そちらさんは国が考えた茶番劇「魔王」とやらに付き合わされているってのも聞いたし、保有している最大攻撃が通用しないってのも、まあ諸々最初から全部だ。」


「・・・質問を変えよう。聞きたい事が大量にある。そちらは我々の事はもう既に全て知っているのだ。ならばこちらに貴殿の事を詳しく教えて頂きたい。それが一番相互理解をし易いだろう。」


 さて、何処から何処まで説明すれば良いのだろうか?何を教えて、何を黙っていれば良いか?それともこの求めに応えてすんなりと俺の事を話しても良いモノか。

 ここで取り合えず何も包み隠さず聞かせた所でその内の何一つとして信じては貰えないだろうと俺の勘は言っている。

 取捨選択が面倒になって来たので当たり障り無い部分を先に話す事にして俺は喋り出す。


「俺は冒険者だ。ここには休息を取りにやって来た。城は俺の知り合いの物で、そこに滞在させて貰っている。そちらのいきなりブチ込んできた攻撃を防いだのは俺の魔法だ。」


 ここまでの俺の言った中で向こうが素直に信じられる説明などきっと一つも無いだろう。

 ソレを証明する様にこれまでずっと黙っていた士官たちがざわついて各自勝手な事を口走り始めているのだ。

 怒りを込めて「ふざけているのか!」「こちらをおちょくっておるのか!」と言った言葉が吐き出されている。

 普通の人の反応はそんなモノだろう。しかしここで怒りもせず、狼狽えたりもせずにメリアリネスはじっとしている。どうやら俺の喋る続きを待つ体勢である様子。

 なのでここで俺はこちらの心情を言葉にした。


「そっちの事情はもう既に聴いていたし、魔王とやらの首を得るまでは国に帰れないって事らしいけど。俺としちゃ、さっさとこのままここから出て行って欲しいと願ってるよ。ぶちゃけ、迷惑。そちらさんがやった事がどれだけ非常識なモノであるかは、分かってる?言っておくけど、アンタらの国が勝手に決めた魔王なんてモノに付き合う気は俺にはサラサラ無いんだ。」


 こっちの事を何ら考えもしない、配慮もしない向こうの身勝手な行動を俺は怒ってみる。

 幾ら何でも総指揮官がこの行軍を「茶番」と断じたのだから、見つけた島、そこに存在する城にいきなり何の確認も、警告も、宣言も無しに攻撃は酷いだろう。斥候が城に侵入し何者かの存在を確認しているのだから余計に。

 こちらはこちらで斥候を普通に不法侵入して来た者として捕まえて尋問しただけだ。何らおかしい対応をした訳じゃ無い。当たり前の事をこちらはしただけだ。

 だったらメリアリネスは最初に真っ先に攻撃を仕掛けるのでは無く、俺に対して会話を試みるのが正解だったのではないだろうか?

 まあ御国の事情で物理的な成果を嘘でも誤魔化しでも何でもいいから持ち帰らなければならないと言っていたのでしょうがない行動だったのかもしれないが。なりふり構わずと言った感じなのだろう。


 そこら辺を踏まえても俺の対応はかなりヌルい方だと思う。向こうの答え、態度如何によってこちらの出方を決めるつもりでいる俺は。

 ここでいきなり全員海に放り込む、などと言った鬼畜の所業はしない。相手がちゃんと自らの意志によって帰る事を選択させるつもりだ。

 そんな訳でちょくちょく俺は圧を掛ける感じな言い方でメリアリネスに問いかける。


「ここで決めてくれないかな?大人しく国に帰ってもう二度とここへはやって来ないで欲しいんだけど?もしまだ事を構えるつもりなら、俺は無理矢理にでもそちらさんを強制排除しなきゃいけない。」


 これ以上そっちの事情を諦めずに押し付けてくるなら、こっちにも考えがある事をしっかりと忠告する。

 しかしどうにもこの俺の「強制排除」に血の気の多い士官たちが騒いだ。口を閉じていろと命じられていたのに我慢ができなかったらしい。


「姿を見せぬ臆病者が何を言うか!」

「何処までもこちらを愚弄するか!」

「隠れたままの卑怯者が何を!」

「キサマの言葉は一切何一つ信じるに値しない!」


 文句は幾らでもあるだろう。確かに俺は信用の一欠けらも無いだろう。初めて話す相手なのだから当たり前だ。信用も信頼も無いのは。ついでに姿を見せていないので余計に。

 怒りの言葉を吐くこの士官らにとっては最初から敵の言葉など聞くに値しないのだと言うのは分かる。ソレとプライドだけはどうにも高いらしいと言うのもコレで分かった。

 だけどこの場でこの怒りは非常に下らないし、相応しくない。自分たちは頭が悪いと言ってしまっている様なモノである。

 彼らが今の置かれている現状も状況も、また力の差も理解できていないと白状しているのと同じだ。

 文句を言いたいのなら俺の魔力障壁に一ミクロンでも構わないから罅の一つも入れてからにして欲しいものだ。


「さて、部下の方たちはこの様な意見であるらしいですけど。ここの総責任者の意見はどの様に?」


 向こうに俺へと危害を加えるだけの力はありはしない。方法も無い。

 しかしこちらは一方的にこの軍を壊滅させるだけの力を有しているのだ。声を上げた士官たちはその差を全く認識できていない。どれだけ無能だろうか?

 このキャンプ地まで押し返された現実を未だに認識できていないと言っているのと同義である。できていないから怒りの声を上げるんだろう。そうなると何処までも愚かで価値が無いと言える。


「さて、ふざけるなと声を上げた四人、先ずはアンタらにだけ特別だ。ちゃんと現状にどれ程の力の差ってのがあるかを体感して貰おうか。」


 俺は「さっさと帰って欲しい」その思い一つである。ここでこっちの手の内をもう一つだけ披露する。

 魔力障壁だけじゃないんだよと脅す。そっちが自らの意志で帰ろうとしないなら地獄を見る、無理やりにでもここから追い出す手段がこちらにあると見せつける。


 俺は四名の士官に魔力固め、からの操り人形で。


「な!?何だコレは!?か、かか、勝手に体が・・・!?」


 魔法とは本当に恐ろしいものである。俺は城に居るのに、このキャンプ地までかなり離れているのに、遠隔操作で相手をこれ程に自由自在に操る事ができてしまう。

 向こうの詳細は魔力ソナーで調べられるし、ソナーの極小の魔力波から特定のものに一気にこうして魔力を集中して籠める事も出来てしまう。


 だから、今この天幕の中では怒り吠えた士官四名がブレイクダンスを踊っている。


「ぐががあがががあがぁ?体の自由がきかかかかかかかかんんん!」

「おごっ!?へぼっ!ぶべぼっ!?」

「視界が・・・あがっ!?激しく・・・げぼろっ!」

「俺は今どんな事になっているんだ!?勝手に動く!」


 激しいダンスに付いて行けずに気分を悪くした二名が吐き気を我慢しつつも耐えている。

 他二名はどうやら強い意志で必死に体の自由を取り返そうと力んでいるらしいのだが、一向にダンスは止まらない。

 たっぷり五分程躍らせ続ければ声も出せずにぐったりした顔の士官たち。まあ鎧を着ている状態で踊るブレイクダンスは余程負担が激しかっただろうから当たり前だ。


「さて、返答は如何にメリアリネス。言葉は要らない。今すぐに行動で示して貰おうか。」


 こうして俺は即座に行動で答えを示せと迫った。ここで無様な答えは出せないだろう。部下の手前だ。「考えさせてくれ」そんな程度の言葉を吐いて少しでも時間を稼ぐ言葉を紡ぐのが精一杯だろうと俺は思ったのだが。


「皆の者、直ぐに撤退だ。本国への帰還準備をせよ。」


 この決定に士官たちが一斉に、そしてたっぷりと5秒程メリアリネスを見た。これにここで檄が飛ぶ。


「即座に行動せよ!私の命令が聞こえなかったのか!」


 かなり強い口調で吐き出されたそれに士官たちが慌てた様子で天幕を出ていく。


(どうやら帰ってくれるらしいな。コレでやっとまた静かになるな)


 俺はここでそんな感想を持ったのだが、何やらまだ引っ掛かる。何となくだが「コレで本当に終わりか?」と。


(それにしても賢者の次は魔王呼ばわりねぇ?そもそも魔王ってどう言う存在になるんだろうな?この世界だと?)


 俺の認識だと「魔王」なんて存在は悪者で、そして世界征服を企んでいる存在だったりする。まあ勝手な、そして単純で稚拙なイメージだコレは。

 もしくは「織田信長」だろうか?日本の歴史上でもこれほどに有名な「魔王」も居る事だ。

 こっちの世界にも「魔王」とやらが昔は存在したかもしれない。

 神選民教国とやらがどの様な意味を込めて「魔王」と言っているのかは分からないし、知りたくも無いと思うのだが。

 メリアリネスが茶番だと言ったくらいだ。国も何となくのボンヤリでイメージ的な「魔王」として使っているんだろう。

 詳しくこれが悪い、あれが悪いと言った具体的な事なんて決めて「魔王」を使っているのでは無いんじゃなかろうか?

 そうで無いなら魔王とはいかなる存在なのか、ちょっと追及して聞いてみたい。

 まあそんな機会も無く、この件は全部すっかりと忘れ去るのが今一番良い事なのであるが。

 どうにも俺の勘はまだまだ長引くと告げている。残念な事に。


 そんな勘が大当たりしない事を願いながら俺は軍の撤退をずっと魔力ソナーで観察していた。


 撤退が決まった事で軍の中はてんやわんやの大騒ぎ、となると俺は思っていたのだが、割かしスムーズに片づけは進んでいた。

 兵士たちは何ら文句の一つも口に出さずに黙々と撤退作業を続けている。

 これはどうにも教育がしっかりと生き届いている、と言った感じでは無く、兵士たちの中には「うへぇ、やっと帰れるのかぁ」と言ったゲンナリとした、そして微かな喜びの雰囲気が蔓延している。

 どうやらこの遠征はそもそもおかしいと兵たちの間には既に広まっていた様だ。それを口にハッキリと出してはいなかっただけで。

 俺の魔力障壁に突撃して何の結果も出ていない事もどうやらこの空気に拍車をかけている様子。


 そんな中でブレイクダンスを踊った四名の士官だけは自らの担当する隊の者に撤退支持を出しながらブツブツと「そんなバカな・・・」と言った類の言葉をずっと吐き続けていた。

 こいつら四人が国に帰った時にある事、無い事を勝手な主観と逆恨みで周りに吹聴しない事を願うばかりである。

 こういった人物が愚か者であるか、分を弁える者であるかはその時になって見ないと分からない。

 大抵はこう言う奴が喚き散らして不穏を広めるのだ。公の場では口を開かずとも裏では自分の周囲の人物だけに愚痴や文句を聞かせて同情しろと同調を迫るものだ。


「それはそれで俺のただの偏見なのかもしれないけどな。とは言え、こいつら絶対に納得いって無いのが誰の目にも明らかって態度は、なぁ?」


 俺はメリアリネスにそこ等辺の心配を告げておいた。そっちで抑え込んでくれよ?と。

 そう、まだ俺は会話を終わらせていない。丁度この天幕の中はメリアリネスしか居なくなったのだ。

 ならばちゃんと邪魔者無しに話し合いをするのであれば今が機会だろう。


「さて、まだ何か話し合っておく事はあるか?質問でも疑問でも何でも聞いてみてくれて良いぞ?答えられる事にはちゃんと真摯に答えるから。あ、俺でも分からない事はちゃんと解らんってしっかりと言うから安心してくれ。騙したり良い加減な事を言って煙に巻く様な事をするつもりは一切無い。」


 俺のこの言葉にメリアリネスは手を額に添えて「頭が痛い・・・」と溢していた。

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