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始まった攻城戦?

 俺が戻る際の皇帝の表情は非常に苦いものであった。恐らくはこの問題をどう扱って良いか全く良い案が出てこないからだろう。

 そんな皇帝に俺が掛けられる言葉は無いのでこうしてさっさと孤島の方に戻って来たのだが。


「で、レスト、向こうの様子は何か変わった事はあった?」


「残りの斥候が今先程二名ここに辿り着いたが、エンドウが張った障壁に阻まれて中へは入って来られていない。で、そっちは何か分かったのか?」


「どうにも神選民教国とやらがその正体らしい。けど、それでも何が目的でここに上陸してきたのかは全くだ。」


 ここに最初に辿り着いた斥候は城の内部に試しに入らせてみたが、しかし残りの斥候を入らせる気は無い。

 教育が行き届いている非常に優秀な斥候だと言うのは充分に一人目で分かっている。なら二人目、三人目も同じく捕らえた所で何も吐かないだろうし、直ぐにまた自殺しようとする事だろう。

 ソレが解っているのでもう他の情報を得ようとこの斥候を招き入れる気は無いし、ここから拘束もできるけど、しない。


「結局名前だけか。まあ明日になれば分かる事か。余り知りたいと思えない所が何ともな?」


 レストはそう言って小さな溜息を吐く。ぶっちゃけ俺がここから魔力ソナーで向こうの会話を拾って情報を得る事は出来る。

 そんな事まで出来る便利な魔法。もう手放せないのだが、しかし余り依存もしたくない。

 乱用はしない、と何となくだが俺の中で決めているのだが。しかしこう言った時にふと使ってしまいそうになる。


「明日に分かる事は明日にすれば良いよな。じゃあお茶でもしてちょっと落ち着こうか。」


 この神選民教国の目的が余り良いモノでは無いと言うのは何となくだけど勘で分かる。

 ソレが俺もレストも分かっているので気分が余り宜しくない。なのでティータイムにして一息ついてその気分を和らげようとレストに提案する。


 それからは向こうの軍に動きは一切無く、落ち着いた様子であった。

 俺が捕まえて解放した斥候がこの軍の総指揮官に何かと報告は上げているはずだと思うのだが。

 妙に向こうの空気は静かで不気味だ。追加で城に斥候を出すと言った行動も無し。


 そうしてその日は過ぎ、翌朝だ。一気に相手は動き出した。

 いつの間にか千人規模になっていたその軍は森を突っ切って真っすぐにこちらに向かって来る。


「まだ早朝だぞ?日が上がり始めたばっかりなのに。眠い。ホント、眠い。」


 昨夜は何だか寝付けなくてウツラウツラとずっとしていた。そしてもうそろそろ眠れそうだ、なんて思った所でコレである。俺の機嫌は少々悪い。

 レストの方は別に睡眠が必要では無い。ダンジョンに取り込まれてその身体は変質していて眠りが必要では無くなっている。

 しかしレストは眠る事は無くとも目を瞑って意識を暗闇に漂わせると言った事で精神を落ち着かせているらしい。

 そんなレストもこの軍の動きには不安を感じるらしく言葉を溢す。


「これほどに朝から軍事行動と言う事は向こうは長時間の作戦行動を取る気でいると言う事か。長丁場になるのか?」


 話が無駄に長くなるよりも短く終る方がよっぽど良い。しかし相手はどっしりと腰を据えてこちらに攻め入るつもりなのだろう。

 昨日に魔力の壁を確認した斥候の報告をきっと受けているはずだ。この軍の指揮官はそれに対して何らかの対応を考えて来ている筈である。


 話し合いでこの場が解決できる物であれば喜ばしかったのだが。

 向こうはそもそもこちらの話など聞くつもりは端から無いのか、どうにも魔術師を前に出して前進をしているのだ。


「これは初手で魔法の攻撃で壁をぶっ壊す気でいるって事だよな?」


 決定的にこちらと向こうに大きな溝が形成されているとコレでハッキリと分かる。

 その溝を先ず少しでも埋める為には向こうに先ず思う存分好き放題、暴れたい放題させる必要が出て来た。

 コレにちょっとだけ俺はウンザリする。今日一日ずっと騒がしくなるな、と。


 そうして向こうの軍が城の前に到着した。ここまでの行軍は別段乱れたと言った事も無く陣形を直ぐに形成。

 そしてやはり問答無用だった。魔術師が一列に並んでのいきなりの攻撃である。


「砲撃開始!」


 魔術師の列はかなりのモノだ。五十名が横一列、それが一斉に炎の球を発射した。壮観である。

 その炎の球が俺の張った魔力壁にぶつかる。と同時に爆発した。只燃え上がらせるだけでは無かったらしい。

 激しく空気が揺れる。爆発の衝撃波はかなりのものだ。しかしこの衝撃波に相手側は全く揺らぎを見せる事は無い。


「まあ揺らがないのは俺の張った壁もそうなんだけどね。」


 全く以て相手の魔法攻撃は通じない。俺と向こうの魔術師で魔法に込めている魔力の桁が違うから。


 さて、俺の魔力障壁は透明なのでこの爆発で破壊ができたかどうかを相手側は確かめない事には城には突撃できない。

 だからここでやはり斥候が先行して城に近付くのだが。


「見えない壁はまだ健在!再攻撃を!」


 と大きな声で報告をしている。これを受けて軍の中心から「再度砲撃!」と声が響く。


「んん?号令をかけているのは女性?」


 ここで俺が気になったのはその声だった。一度目に聞こえた時は別段気にしないでいたのだが。

 しかしこの二度目に聞こえてきたそれで「え?」と思ったのだ。それは女性の声である。

 この軍の総指揮官はどうやら女性であるらしいというのがコレで判明した。


 そして再び砲撃は開始されてまた爆発、衝撃波をまき散らすのだが。


「け、健在です!破壊できていません!」


 斥候の報告が再び。そこには驚愕が含まれていた。破壊できていない、この事実に総指揮官が再び同じ号令をかける。「もう一度だ!」と。

 こうして三度目の砲撃が始まるのだが結果は同じ。ここでようやっと兵士たちの間に動揺が走り始めた。

 ここで俺は「まだまだなんだよなぁ」とボヤく。


「うーん?まだ駄目だな。もっと士気が下がってくれないと。」


 恐らくこの時点で俺の方から出て行ってもこっちの話なんてまだ聞いちゃくれないだろう。

 口を開く前に問答無用で突撃してきて俺を殺そうとしてくるに違いない。

 なにせこの砲撃には容赦が無い。どうやら魔術師たちは自身の魔力を込められるだけ込めて魔法を放っていたのか息切れをしているのだ既に。この様子だと体内魔力が既に枯渇しかけているに違いない。

 殺意が高い、高過ぎる。こちらの言い分など聞く気は最初から無く、殲滅、破壊、消滅を向こうは狙っている。

 これではそもそも会話が成立する隙間も無い。だから待つ。相手の動きをずっと魔力ソナーで観察しながら。全てを相手側が出し尽くすまで。


 そう思っていると魔術師たちが下がった。そして代わりに前に出て来たのは重装歩兵たち。隊列を組んでその手には大きな突撃槍。

 どうやら魔術師たちの魔力の回復を待つ間にこの兵士たちが攻撃を仕掛けるつもりらしい。


「打ち崩せ!」


 短い号令がかかると兵士たちはそのまま槍を前に突き出して一斉に走り出す。

 しかしコレは滑稽で虚しい結果に。この程度で俺の張った魔力壁が破れるはずが無いから。

 ガギン、そんな金属音がして槍は全て弾かれ止まる。中には勢いが止められて転倒してしまった兵士もいる。

 結構な速度でぶつかって来ているが、全く魔力壁には響かない。


「ドラゴンくらいじゃないかな?俺のこの障壁をぶっ壊せるの。」


 俺はそんな事を呟いて虚しくなった。自分で自分を「化物」と言っているのと変わらないから。

 しかしその考えを直ぐに頭の中から追い出す。今問題なのは目の前の神選民教国の軍であるから。


 さて、向こうの攻撃はまだまだ続く。今度は矢の雨だ。だけど全てコレも弾く。当たり前だ。

 最初にしてきた魔法が通じていないし、槍での突撃も防ぐのに今更矢が刺さるなんて事は有り得ない。


 ここで攻城兵器が出て来た。丸太を横に寝かせてそれを荷車に結び付けて固定した物だ。

 ぶつける部分は鋭く削られ尖っている。これをそのまま人力で走らせてそのまま叩き付ける気らしい。だがコレも無駄に終わる。

 衝撃音が「どおん」と発生したが、ただそれだけ。一点突破を狙ったのかもしれないが、これなら最初の魔法砲撃以下である。


 ここで再び魔術師たちが前に出て来た。どうやら再び魔法での攻撃を開始するらしい。

 しかしその陣形の広がり方は最初の横一閃では無く扇形?だった。緩やかにカーブを取っている。どうにも各自の放った魔法が重なり合って威力を上げる方法を取る様子だ。

 魔術師たちの魔法を放つ掌が向いている方向が同じ場所、その一点に集中していた。


「各自耐衝撃体勢!・・・3!2!1!放てぇ!」


 どうやら放たれた魔法が上手く融合したらしい。島全体が動いているかの様な錯覚をしてしまいそうな位の揺れを感じる爆発だった。


「うん、残念。凄かったけど。コレで一旦落ち着いてくれると良いんだけどね。」


 当然この攻撃にも俺の張った壁は無傷。コレで一気に向こうが冷静になってくれると助かるのだが。

 何をしても無駄、そう受け止めて彼らが島を出てこのまま素直に帰ってくれると楽だ。そうなると目的が何だったのかを聞けない事になるけど。


「ここまで殺意高過ぎでバッキバキに攻めて来たんだからそれなりの理由ってモノが存在してるはずだしなぁ。」


 その理由如何では俺は彼らを殲滅しないとならないが。それはやりたくはない。

 軍と言うのは良いも悪いも、好きも嫌いも無い。命令で動くものだ。そんな相手に殺戮をしたいなどとは当然思えない。

 これが全員極悪な悪党であれば虐殺でも何でもした所で罪悪感も少ないだろうが。まあそうだったとしてもソレも余りやりたくは無いけれど。


 そうでは無いのだ。正規軍だ目の前の兵士たちは。ならばここに各自個人の意思と自由で攻め入って来ている訳では無い。

 国の方針に従っての出兵だ。そんな彼らを無差別殺人する気はこちらには一切無い。

 悪いのは国の上層部の決定である。末端の兵士たちを皆殺しにして解決する問題では無いのだ。


「さてさて、現場の責任者はこの現状、結果をどう判断して来るかねぇ?」


 まだまだ一件落着には長い時間が掛かりそうで俺は大きく一つ溜息を吐いた。


 さて、魔法での砲撃で打ち崩せない事にイラつきを持ち始めた向こうの兵士たち。


「何故だ、どうしてだ、コレだけの威力が効かないだと!?」


 と、そんな言葉を誰もが口々に漏らし始めた。中には少数ではあるが「えらいこっちゃ・・・」と自分の置かれている状況が余りにも不穏な事を嘆き始める者も出ている。

 それでもまだ大多数が自分たちの勝利を疑っていない。向こうの士気が完全に潰れて意気消沈するには当分の時間が掛かりそうだった。


「こちらも少しだけ手を出すか。」


 俺はここで魔力の壁をほんの少し前面に押し出す。その距離は1mだ。たった1メートル。

 そして魔力障壁を分かり易くする為にちょっとだけ着色、薄い青色にした。

 軽くイメージを込めて魔力を流しただけで薄っすらと壁は青く光る。コレに相手側の指揮官が唸った。


「な!?何だと!?」


 どうやらここまで何も変化を見せなかった事で反撃が無いと思い込んでいたのか、たったこれだけで相手は驚いたらしい。

 とは言っても高々魔力障壁が透明から薄っすらと青く見える様になっただけ。軍の方に1m近づいて来ただけ。

 その事に安心したのか驚いている時間は短かった。まあ俺もそれだけで終わらせる気は無いのだが。


「さて、徐々に徐々にと攻めますかね。」


 俺は五秒に1mm壁を押し出していく。ジリジリと。この城全てを覆っていた物が僅かずつ迫る。拡大しながら、相手に。

 最初の内は接近してくる距離が小さ過ぎ、そして時間も五秒おきにと言う事で向こうの軍の誰もが壁が迫っている事に気づけていない。

 だが五分、十分と時間が経てばこれが気のせいでは無いと一斉に気付き始める誰もが。


「全軍後退!」


 コレに危機感を覚えたんだろう。指揮官が軍を下がらせる。魔力壁が迫った分だけの距離を。

 しかしそれで壁がジリジリと迫る事実を解決できた訳じゃ無い。問題を先送りにしただけだこれでは。


「向こうが何らこちらに容赦も無かった訳だし?こっちもそれに倣っても良いよな?」


 俺は速度を変えずにこの障壁を相手へと押し出し続ける。かなり時間が掛かるだろうが、コレで向こうの拠点、キャンプ地まで押し返す気でいる。

 ソレは何故かと言うと、そうすれば軍の補給が楽になるだろうからだ。

 向こうさんの全てをギッチギチに絞り出させるには補給地との距離が近ければ近い程に良いだろう。

 そして全てを出し切らせたらやっとそこで落ち着く時間もできるだろうと見込んでの事である。

 もう何もできる事が無い、そう相手が諦めてくれた所でようやっとこちらから話し合いを持ちかける事ができるというものだ。


「さて、俺はそれまでのんびりと昼寝をしていよう。はぁ~、眠い。」


 居眠りしていても魔力は流しっぱなしにしてこの魔力壁のコントロールは続ける。それが今の俺にはできる。

 だから俺は睡眠不足を解消する為にリクライニングチェアを出すとそのまま寝転がって目を瞑った。


 そうやって大分時間が過ぎたんだろう。俺を起こしたのはレストだった。


「エンドウ、全て任せてしまっているが、今現状どうなっている?状況は?」


 そうやって肩を揺すられて目を覚ました俺は説明をする。


「ふはぁ~?うん?良く寝れたかな。あー、今はようやっと相手さんのキャンプ地に全員押し返せたくらいかな丁度。」


「向こうはまだ戦意が衰えていないのか?」


「そうだね。どうやらまだこれはもっと時間が掛かりそうだ。長期戦はやだねぇ、全く。あ、レスト、飯食う?」


「呑気だな。まあエンドウに掛かれば何でもカンでも解決できない事は無いか。」


「いや、幾ら何でもソレは言い過ぎだ。俺だって解決できない事はあるよ。」


 俺もレストも危機感は余り無い。軍に攻められている立場だというのに。

 ソレもそうだ。俺がその気になったら千人くらい簡単に断崖絶壁から全員放り投げて海の藻屑に変える事など簡単なのだから。

 とは言えそんな事をする気は無い。相手の目的の詳しい所をちゃんと聞く為にもなるべくなら穏便に済ませてお帰り願いたいのだから。

 もしかしたら何か誤解があってこうして攻めて来たのかもしれない。何か勘違いが元でこうしてこんな孤島くんだりまでやって来たのかもしれない。

 そこら辺をちゃんと落ち着いた所で話を聞かねば、またそこからゴチャゴチャと語弊が生じる可能性もある。拗れる可能性が大きい。

 ならば相手がしっかりと冷静に、落ち着いて、こちらへの敵意が落ち着いた時にでないと話などできやしない。それを今は待つしかないのだ。


「果報は寝て待て?今の状況に合ってるか?この言葉?」


 こうして俺はまだ摂っていなかった食事をする為に用意を始めた。


 さて向こうの様子なのだが、兵士たちがガンガンと自らの持つ武器を魔力障壁に叩き付けている。

 必死に壁を押し返そうと手を付けて踏ん張る者たちも居た。

 魔法での攻撃が今も何度と繰り返されてはいるのだが全く効果は無し。

 キャンプ地が目と鼻なの先、と言うか、キャンプ地ギリギリのラインでこうした行動をしているので補給も兵士の交代も簡単だ。

 ずっと間断無く壁への攻撃は繰り返されているのだが、相手は一向に諦めると言った気配は無い。

 最初から分かっていた事だコレは。斥候を捕まえた際に尋問しようとした所で、即座に自殺を選ぶような軍部である。

 見切りが早いのと同じくらいに諦めも悪いんだろう。これは別に矛盾する所は無い。


 捕まって脱出する手が無い、行動不能で相手への反撃が不可能と判断して斥候は直ぐに自殺を選んだのだろう。

 しかし今のこの軍の行動はとにかく動け、できる事をやれるだけやれ、と言った空気なのだ。この二つは相反しない。

 相手は軍であり、指揮官が命令を出せばそれに従うのが兵士の役割だ。やれと言われたらやるしかない、それが一兵士の悲しい定めである。

 斥候はこれとは違って相手に情報を一切渡さない、しかし掴んだ情報を死んでも持ち帰る事が優先される役割だ。

 軍と言う大きな組織はこの二つを内包している。二つは役割が大きく違うのだそもそも。だから矛盾しない。


「とは言え、もう諦めてくれても良いだろうに・・・」


 ずっと壁を攻撃している兵士たちが無駄だと感じていても、指揮官から停止の号令が掛からないのであれば続けるしかない。

 魔力障壁への攻撃はその後夕方までずっと休まず続いた。ちょっとこれは異常だ。

 斥候が即座に自死を選んだ程に教育が行き届いていたのはまだ理解はできた。

 けどこれ程に長時間無駄であると分かりそうな事をずっと兵士にやらせる指揮官にはどうにも理解ができない。


「どんな性格してるんだよ?と言うか、指揮官も只自分の役割を果たす事に徹しているだけか?」


 軍を率いて目標を制圧、最終目的を達成させるために指揮官は兵士を使う。

 その事だけに執着するのであれば困難と分かっている事であっても命令を取り消しなどできはしないだろう。

 執着がその指揮官本人のモノでは無いとしても、軍として上からの命令が出ていて当然ここに攻め入って来ているのだからソレを達成しなければならない立場であると。


「苦労してるんだろうなぁ。御気の毒様だよ、全く。俺には迷惑な話でしかないけど。」


 俺は魔力障壁をこのキャンプ地ギリギリの所で停止させている。このまま壁を押し出し続けて相手を崖へ押し切って落とす気は無い。

 だが向こうはずっとここまで押し返され続けていたのだ。夜中にまた再び動き出して押し出されないか心配で精神を削る事になるだろう。


「こんな方法を取るのは陰湿と言われるかもしれないけど。しょうがないじゃん?だって相手はどう見てもまだ諦める様子が無いんだから。どうしたって相手の体力を削るんじゃなくて心を削らないと、これ絶対にこっちの話を聞く気無いって。」


 俺は城に居ながらも相手の状況や動きは全て手に取る様に分かっている。魔力ソナーを展開し続けているから。


 そして今更に指揮官の「声」も拾って相手の状況や行動も確認しようと思った。

 俺はここで良い加減こちらも相手が全く諦めない空気なので情報を少しでも得ようと考えてそれを実行したのだ。

 別大陸の者だと言う事であるが、その言語はもう俺は理解できていた。魔力で脳を強化すると情報処理能力がスパコン並みになる。当然原理は分からないけど便利だから使えるのだから使ってしまう。


【どうなっている!?アレは調べさせれば魔力で構成されていると言うでは無いか。我が国の精鋭の魔法攻撃で破壊できぬなど信じられん】


【どんな攻撃すらも弾く魔力障壁など聞いた事がありませんな】


【既にこちらの最大威力が通じない事は証明されております。我々にはもう既にアレを破壊する手立てはありません。しかも今は逆に我らが追い詰められている始末。このままもし壁が迫り続ければこちらが崖から落とされかねません】


【相手の正体が掴めず不気味過ぎます。一度船へと戻ってこの島から遠く離れる、本国に帰還する事も考えねばなりますまい】


【相手がむざむざこちらを逃がすでしょうか?撤退の動きが見られ次第、あの壁が一気に迫って来ないと言う保証は?】


【軍の安全を考えれば即時撤退ですな。何もかもここに置いて。壁が破壊できないと言う事は我らに与えられている命令は達成できない。現状不可能と考えるべきです。そうなれば今の何ら軍に損害が出ていない今、結論を出さねばならぬでしょう】


【こんな事を今言うのもなんなのだが・・・話はできないのか?】


【何を馬鹿な事を。本国は敵を「魔王」と言っているのだ。神事を扱う巫女に神託が来たと言うではないか。それを忘れたのか?この世界の行く末が掛かっているのだぞ?それを話合い?それこそ馬鹿げている】


【国の命令はその「魔王」を滅殺せよとの事だ。これに我らの独断で相手との交渉を?今の現状をもう少し冷静に吞み込むべきだな。これ程の相手だぞ?そんなモノが通用するとは思えん。相手は恐らく、考えたくも無いが、既に我々を追い詰める所か、即座に殲滅できる力を持っていると考えても良い】


【だからです。逆に考えましょう。どうして我々をこの様にして即座に殺せるだろう力を持つ「魔王」が呑気にこうして敵対者を生かしておくのでしょうか?何か理由か、もしくは考えがあると思った方が腑に落ちます】


【君はその訳が何なのか解っているのかね?解ってから、こうだと確信ができる考えが持ててからその発言をするべきだな。我々は敵を討ちに来たのだぞ?既に戦闘を始めてしまっているのだ。全く性格の不明な相手である。話し合いが逆にこちらに不利な状況を招かないとどうして言える?】


【もう既に今の我らは追い詰められていると言っても過言では無い。今以上に不利になる状況など考えられんな。私は相手に対して対話を申し出てみる事は別に悪い手では無いと考える。我々の今の戦力でこの壁を壊せるとは到底思えん。いや、本国に帰ったとして、しかしこの壁を壊せるだけの戦力などありはしないだろう。結局この「魔王」を倒す力を我が国は有していない】


【貴様!国を裏切るつもりか!】


【裏切る?私は現実を見つめてしっかりと現状を把握しているだけだ。冷静に結論を出しただけだ。そう吠える貴公には現状を打破する策はあるのかね?無いと言うのであるならば裏切りなどと言った言葉を取り下げて頂きたい】


 俺はこの会話を聞いて頭を抱えたくなった。


「誰だよ、魔王って・・・」


 しかし相手が話し合いを選ぶ雰囲気を出している状態であるのにはちょっとだけホッとした。

 あともう少しだと言う事だ。しかし余り追い詰め過ぎても意味は無い。自棄になられてしまうとこちらの話など一切聞いちゃくれない精神状態になる。

 まだこのまま暫く様子見と言う事にするのが良いだろう。


「それにしたって神託だぁ?しかも魔王だって?・・・胡散臭い、実に胡散臭い。子供騙しも良い所じゃ無いか?」


 しかしこうしてその「魔王」だとやらがここに居ると言う事を観測し、判明させ、こうして実際に上陸して来るだけの力が相手にあるのだ。舐めてはいけないだろう。

 それにしてもだ。こちらがそれに納得いかないのは別である。


「向こうが勝手に魔王って言ってるだけなんだろうしなぁ?だって相手の正体が掴めない、不明だって言ってる士官がいるじゃん?確実に魔王だって言い切ってる訳じゃ無いからなあ。まあそれでも御国様とやらが「魔王」だと言っているのであるならばその命令に従うのが軍人だろうけどさ。俺が出て行って、さてソレで一目で魔王って断じてきて殺しに来るか?ソレは無いだろ?」


 俺の見た目は普通の人だ。いきなり向こうに出て行って、さて俺を見て「魔王」と決めつけて来るか?と考えるとそれはきっと全員が全員では無いだろう。

 それでも軍と言う存在は上が「黒」と言えばそれに従うものなのだ。兵士たちは疑問を抱え、しかしそれでもそれを心の奥に封じて上官の命令を熟す為に動くだろう。


 さてここで相手の心理を考えてみてもいきなり城に攻撃をしてきたのはまあ分かる。先制攻撃で城の制圧を真っ先に考えた結果だろう。こんな場所に建っている城だ、怪しく無い訳が無い。

 そんな存在を放っておく事はできないだろうし、ここには向こうは「魔王」を討滅しに来たと言うのだ。目の前に城が発見できればソレを「魔王の城」と認識して攻撃してくるだろうから。


 城壁が壊れればそこから内部へと兵の侵入個所を増やす事も出来るし、壊れた部分が多ければ多い程に兵の展開もしやすくなる。

 一番駄目なのは狭い通路に一気に兵を突撃させる事だろう。罠にでも掛かれば一気に数を減らされる恐れもある。

 入り口が狭いと少数しか戦力投入ができない。そこを狙われてしまえばむざむざ兵を殺される事になるだろう。随時戦力投入などと言った事をすると死体の山が出来上がりかねない。

 一斉に相手へと全てをぶつけた方が犠牲もより減らせる事もある。

 その為の準備として城への侵入経路を大きく、増やす為に一斉に初手で魔法攻撃を仕掛けて来たのだろうし。


 この場所に誰が居ようと居なかろうと、それが魔王で無くとも先ずは自分たちの安全の確保の為にも目の前の怪しい城の破壊、もしくは奪取が必要だと言うのは理解できる。


「それにしてもまだ総指揮官らしい女性が一言も喋って無いな?レスト、どうする?」


「どうするとは?」


「いや、城主はレストだろ?俺が話し合いをするよりもレストの方が良くね?」


 俺は翻訳した会話をレストに聞かせている。レストは帝国語?しか話せないので俺の魔法を使って変換してこの場に相手の会話を流していた。


 俺は只この孤島で傍若無人な振る舞いをされちゃゆっくりしていられないと思ってこうして軍を相手取っている。

 ここでやっとじっくりと考えてみれば相手の目的は「魔王」であるらしいし、今の場合に当てはめるとソレは俺の事を言っているのか、或いはレストの事なのか二択なのである。

 と言う訳でこの場合はレストが出て行った方が第一印象が良いのでは?と考えた次第だ。

 俺の見た目は「フツー」だと思っていたが、改めて俺の全身を見返してみればこの世界の「普通」では無いのだった。

 だったらレストが出向いた方が相手の受ける印象は多少落ち着くのでは?と。


「いや、恐らくは一発で私の正体はバレるぞ?」

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