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フラグはもう既に起っていた、さてそれは一体いつに?

 さて、翌日である。昨日はゆっくりと酒とツマミを堪能してからベッドでグッスリである。今はもう昼前。

 取り敢えずチェックアウトの手続きをしに部屋を出る。カウンターにてその旨を伝えて懐からカードを取り出して決済をする。


「さて、闘技場だな次は。うーん?さて、どうなったかねぇ?」


 そのまま専用直通通路を行けば闘技場入り口にメールンが立っていた。


「エンドウ様、手続きの用意が整っております。こちらにどうぞ。」


 どうやら会議に出た上役の面々は俺を即座に追い出すという結論を出したらしい。

 これにちょっと苦笑いをしつつも俺はそのままメールンの案内のままに手続き場所へと入る。

 そこで出された書類内容をちゃんと読んで署名をする。ここまで別段特に何も起きない。

 もしかしたら俺にリベンジしたいと言う従魔師が乗り込んで来るか?とかちょっと思ったりしたのだが。

 そう言った事も無く無事登録解除は終了。メールンからも「お疲れ様でございました」と労らわれた。

 そして追加で「また気が向かれましたら戻って来て頂けたら嬉しいです」とお別れの言葉を貰う。


 こうして俺は後ろ髪惹かれる事も全く無く、そして昨日みたいに引き留められらる事も無く従魔闘技場を去る。


「さて、買い出し買い出しっと。酒も飯もツマミもインベントリに入れておけば全部解決・・・って、ホント、便利過ぎ。」


 俺は大通りにて目に付いた、良い匂いのした屋台物をどんどんと購入していく。

 歩いていれば以前に目撃したラーメンも売っていたのでソレも購入した。

 普通に言ってお持ち帰りでは無くラーメンはその場で食して行くのがルールであるのだが、俺は店員と話をしてこちらが器を出すのでそれによそって貰ってそのまま俺が持ち帰る事を求めてみた。

 コレにオーケーが出たので二人分を頼む。これをインベントリにそのまま入れるのはちょっとした挑戦だ。

 零れやしないのか?麺が伸びたりしないか?などなど。インベントリに入った物はどうにも時間の経過はしないと言った感じなのだが。

 それでもこうした汁物?はそのまま入れた事が無い。多分大丈夫だろうが、イメージ的に少々の不安があるので今回実験の為にもやってみる事にする。

 コレに俺以外にも他の客はいた。そしてこの交渉を聞いていた者は「おいおい・・・」と言った不思議そうな、納得いかないと言った感じの微妙な顔をしていた。


 そんな目線を無視して俺はラーメンを持ってそのまま人気の無い場所でソレをインベントリに仕舞う。

 その後は良い酒を扱っている店の事を色んな通行人に聞いてその中で一番評判の良い店に突撃。

 様々な店に酒を卸している大店であるらしいその店で大量に酒を購入。もちろんカード払い。

 店の店員は半分呆れた様な、しかし大量に売れて嬉しいと言った複雑な表情で「お買い上げ有難うございます」と口に出す。

 さて、買ったその場で俺は樽ごとその購入した酒をインベントリに放り込んで行ったのだが、当然店員がこれを目撃している。しかしそれは俺の対応をしていた一人だけ。

 購入した酒の確認と言う事でその保管場所に案内されたのでその時は店員は一人しか居なかった。なので「まあいっか」と店側が酒を運び出す手間を省いてあげようと言った軽い気持ちだった。

 ほいほいとその重い樽が持ち上げてられ虚空にほっぽり投げられては消えていくのでコレに案の定、この光景を目撃したその店員は開いた口が塞がらないと言った感じで言葉を失っていた。

 その後に俺はその店員が正気に戻った所で間違いが無いかをもう一度確認して貰ってから店を出た。


「さて、向こうに行こうか。忘れ物は・・・無いかな?それじゃあしっかりと向こうでダラダラしますかね。」


 俺は準備万端と言った感じで人気の無い場所でワープゲートを出してレストの居るあの城へと移動した。


「よっ、レスト。元気だったか?」


「ん?突然だな。まあ別にこれと言って変化も異常も起きていないよ。あ、もしかしてこの城の中の物を運び出すのかい?」


 レストは俺を見てそう返してくる。それに俺は簡単に答えて本来の要件を口にする。


「いやいや、それはもうちょっと?いや、結構な後?になると思うよ。それと、これから暫くの間ここに居させて貰いたいんだけど、良いか?」


「ああ、幾らでも滞在してくれ。ここの主はエンドウだと言っても過言じゃ無いんだ。自由にしてくれて構わないさ。大歓迎だよ。」


 こうして俺はこの孤島に長期滞在する事とした。それにしてもレストがここの主が俺だと言うのは言い過ぎだと思う。

 確かにやろうと思えばこの城を乗っ取る事は可能であるが、それをする意味も無いし、そこに利益なども見いだせない。

 だから主だと言われてもピンと来ないし、御免被る。


 それからは早くも一ヵ月ここに滞在し続けた。帝国で購入してきた屋台飯と酒でダラダラとレストと毎日を過ごして。

 レストも自分が以前に生きていた時代に無い料理、酒を堪能して大満足と行った感想を漏らしている。


 時々、と言うか、すっかりと忘れていたのだが、ここは地表に出現しているダンジョンだ。

 そしてレストは帝国の初代皇帝であって、そして今はここのダンジョンのヌシなのである。

 彼は食事を摂らないでもこの先、半永久的に存在し続ける事が可能だ。微量の魔力をその身に吸収し続けているだけで生存ができるのである。

 これは岩塊蜥蜴と似ているな、などと考えたがそれ以上の事を深く掘り下げて考察しようとは思わなかった。

 俺にとってはそこら辺の謎は気にしないし、関係も無い。レストはレストで良いのだ。俺は俺である。


 そうして生活している内にこの孤島に異変が起きた。突然の事である。


「島の端の方が何だか騒がしい?鳥が騒いでいる。・・・何かあったのか?」


 コレにいち早く気付いたのはレストだった。俺は此処の所全く以て魔法の行使をしていないので気付けないでいた。

 この言葉の後にレストが凄く厳しい表情になったのでそこで俺はやっと久しぶりの魔力ソナーを広げてみたのだが、そこには。


「・・・おいおい、お客さんかよ、こんな僻地に?しかも船、凄くデカイやつだな。乗組員の数名が崖を登り切ってロープを垂らして、あー、何だ何だ?団体客だな?えぇ?おい?」


 その魔力ソナーで得た情報は俺を「何で?」と言った混乱に陥らせた。

 せっかくゆっくりとこの孤島でバカンス?を堪能していたのにだ。これでは向こうから問題事を持ち込まれた形だ。

 こちらはそもそもこの様なお客様は即座に帰って貰いたかったのだが、どうにもアチラさんがそうはいかないとばかりな大人数で上陸してくる。


「よし、レスト、ちょっと魔力で城の周りを覆っておくから様子見といこう。向こうさんがどの様な理由でここに上陸してきたのかが全く見えないからな。」


 先ず怖ろしいと感じるのは「どうしてこんな普通にしていたら辿り着くのに非常に困難なこの島にはいってくるのか?」と言った部分だ。

 向こうの団体客はしっかりと、そしてハッキリとこの島への上陸を計画していたかの様なキッチリとした行動を取っているのだ。

 連携とか、或いは統率が取れていると言って良いだろう。海流に流されて偶々辿り着いたこの島の調査を取り敢えずする、と言った感じのオロオロ、ザワザワとした様子は全く見られない。


 そしてどうやら一部の者たちは武装しているのだ。いや、確かに未知の地に入るにあたって用心の為、或いは警戒の為、それこそ自分の命を守る為に必要なモノであるのは間違いないのだが。

 しかしそれにしたって完全重武装は無い。何度もに分けてそれらの装備を船から崖に、ロープで釣り上げて運んでいる。

 これ程の鎧やら武器をそれこそ島に持ち込む意味がそこまで無いはずだ。ここに偶然辿り着いたと言うのであるならば。

 そうで無いならハッキリとここに用があって上陸している。それこそ全身金属鎧とバトルアックス、バスターソード、ハルバートなどの重装武器までいきなり陸揚げ用意する必要は無い。

 最初は斥候を放ってこの島の生態調査や食料などの確保、水の有る無しを確認させるのが流れだろう。

 それなのに島に入った兵たちは各自順番に装備を着こんで行くのだからさあ大変だ。まるで戦争をしに来たようである。


「いや、これは戦争にし来てるな?どうしてだ?」


 ソレが分からない。相手はすっかりと戦闘モード。隊列を組み始めており、重装兵の数が徐々に増えていく。

 その後にはどうやら魔術師とみられるローブを羽織った男たちが各隊に配置されて行く。

 斥候役だろう男たちが三名、その隊列が組み終わった所を見届けてから森へと侵入、島の深部へと入り込んで来る。


 魔力ソナーでその様子をジッと観察していた俺はレストに意見を訊ねる。


「で、レスト、どうなんだ?何か攻め込まれる様な事に思い当たる節は無いか?」


「いや、無いな。そもそも帝国からこの城は引っ越しをしてきたんだ。しかも誰にも知られる事無くだ。しかも場所も場所だろう?この様な海原の中に浮かんでいる誰も来ないはずだった孤島だぞ?これ程の軍と呼べる存在が目的があって入ってくるなど有り得ないはずだ。」


 そう、船の数は一隻だけでは無い。十五隻もの大艦隊である。その船の大きさも相当な巨大な物で。

 それこそ何処の誰と、何と海戦するの?と疑問に思うくらいだ。いや、コレだけのもので無ければこの大海原を突っ切ってここまで来れなかったと認識した方が良いのだろう。

 船からは続々と兵士が崖に掛けられたロープで登って来る。それこそコレだけの艦隊に乗り込んでいた人の数を考えればまだまだ上陸してくる人数は止まらないだろう。

 その内この島に大軍隊と言えるモノが展開されるに違いない。


「いや、ホントどうしてこうなってるんだよ・・・」


 俺は大きな溜息を吐いた。幾ら考えてもここに攻め込まれる理由など全く思いつかない。

 この軍が近づいて来ても城の中へと入って来れない様に魔力の壁で覆ってあるのでいきなり戦闘と言った事にはならないだろうが。

 心当たりが無い事がこれ程に人を不安にさせるとは、そんな事を俺が考えていたら軍が動き出す。

 崖近くに隊列を組んでキッチリ並んでいた兵たちはどんどんと木々を伐り倒し始める。

 どうやら通り道、と言うか、もっと上陸して来る兵たちの収容できる広さを確保する為である様だった。

 この孤島はこの城がある場所以外は結構な森が形成されている。崖近くなどは木々が深めに生い茂っていて鳥たちの巣なども多くある。


「自然破壊はして欲しく無いんだがなあ。まあしょうがない。相手側の動きを見極めるのには見過ごすしかないか。」


 まだまだ膨れ上がって行く兵の数。工兵隊と言うのだろうか?一部の斧を持った体格の大きい男たちが見る見る内に周囲の木々を処理していく。

 その勢いは衰える事は無い。何故なら今も次々登って来る者たちがどうやら戦闘を行う兵では無くこの工兵隊に変わっていたからだ。

 重装兵たちはいつの間にかこの工兵隊たちの安全を確保する為に周囲の警戒をして防御陣形とでも言うべき広がりを見せている。

 あっと言う間に陣地が形成されていく。切り株を除去、地慣らし、テント張り、調理場の設置、切り出した木々を組んで簡易の見張り台の建設と防衛柵の構築、軍を統制するための本拠の天幕展開、それらが一気に行われた。


 俺の魔力ソナーでその逐一、一切を感知していたのだが、まあ、早い。これ以上の効率があるか?と思わず口にしてしまうくらいに。

 どうやら今日一日はこうしてキッチリと拠点作りをするらしく、島の中心に侵攻して来ると言った様子を見せない。堅実、そう言った感じである。


「で、どうするレスト?いや、すまん、どうするって聞いてもどうすりゃ良いかなんて答えは無いよな。」


「そうだな、相手の方の出方が分からんとこちらも動き様も無い。向こうに何ら迷惑や被害を掛けた覚えは無いから、相手側の主張次第だな。さて、これは何処の国の軍なのだろうな?私は過去の存在だから今の各国の情勢などは全く知らないのでな。こちらからは何も言う事は無いんだ。いや、本当にどうしてこんな所にまで。御足労な事だよ全く。」


 俺はと言えば、そもそもこの世界の情勢事態に詳しく無い。と言うか、全く知らん。レストよりもその知識が無い。

 ここの孤島のある場所が一体どう言った位置に存在しているのかすら調べて無い。


「なあ?海洋をコレだけの数の巨大船でここまで渡って来れる国家はどこか思いつかないか?」


 俺はレストに質問した。見渡す限り海、海、海なこの島まで来れる力を持った、そしてコレだけの兵士を連れて来れる様な戦力を持つ国家に思い当たる節が無いかを聞いてみたら。


「・・・うむ?そうだなぁ。私が各地を旅していた時とは時代も違うだろう。そして長年の間に国力と言ったモノも変化をするだろうから、予想もできないな。」


「あー、そうだよなあ。だってレストは帝国ですら「こんなになってるとは思わなかった」って感じだったからな。他の国の事が分かるはずも無いか。そうなると待つしか無いかな?こちらから出向いたとしても、どうにも話が拗れちゃいそう。」


 何せ相手側のヤル気がもの凄い。陣地構築の勢いからソレを感じ取る事ができる。

 食事を摂るのも休憩を取るのも交代制で、作業は全く以てして止まる事は無かった。

 作業している者たちの動き、能率も全く下がる気配無く動き続けているのが魔力ソナーからも分かっている。


「この状態の場所に俺たちの方から出向いてもアチラさんはきっとその勢いのままに問答無用してきそうだもんなぁ・・・」


 出すもの全部出し切って相手がウンザリして脱力したと言ったタイミングでこちらが出向くくらいで丁度良いのではないだろうか?

 そうじゃ無ければ相手側がこちらの言う事に耳を傾け無いだろう。そう思えてしまうくらいに気勢が凄い。


「何だっけ?確か兵法にも似た様な「ありがたい教え」があった様な・・・?」


 相手の勢いがある内は手を出さず、それが治まってから仕掛ける、だったか?うろ覚えだ。


「さて、どうやら向こうさんは今日こっちに攻め込むつもりは無いらしい。斥候はまだ働いてるみたいだけど。ここに辿り着いても様子見だけで単独で内部潜入、なんて事はしないんじゃないか?まあ、魔力壁展開してるし絶対入り込めないだろうけど。」


「うむ・・・エンドウ、ちょっと良いか?一つ案があるのだが?」


 レストがどうにも思い付いた事があるらしくソレを俺に説明して来る。


「あー、そう言うのもアリか。別に向こうさんが準備万端まで待つ事も無いって事ね。レストの言った通りに事が運べばやってみようか。」


 俺は説明を聞いて納得してレストの案を採用する。こうして魔力ソナーで斥候の動きを注視して待つ事に。


 そうしてその1時間後、城の前に一名の斥候が現れる。静かにその足音を殺して城へと近づいて来る。

 やがてその斥候は城の内部へと侵入をしてきた。他の仲間の到着を待つ気配は無い。侵入するのに迷いを見せていないのだ。

 どうやらそのまま単独でここを捜索しようとしている様だ。かなりの自信である。

 俺の勝手な想像だが、こう言った場所に侵入を試みようと思ったら二人一組でどちらかが外に残って安全確保とトラブルがあった際の対応役として残って様子見をすると言った事をするのではないか?と考えるのだが。


「随分と豪胆なんだな。さて、捕縛して話を聞こうか。レストは此処に居てくれ。お前が殺されたらこの城がどうなるか分かったもんじゃないからな。」


 レストはこの城のヌシだ。ダンジョンはヌシが消えると忽ちの内に崩壊する。

 安全を確保できたと俺が判断できてからレストにこの斥候と対面して貰うつもりである。

 まあ俺の魔力をレストに纏わせておけば予想外の攻撃を受けたとしても安全だと思うのだが。


 さて、その間も斥候の動きを俺は魔力ソナーでずっと観察している。

 城に入って来る時は大胆な奴だと思う程に一気に素早く入り込んだのに、その斥候は中に入ったら一部屋ずつ内部の確認をして回っている。城の入ってくる時と違って慎重過ぎるのだ。

 この行動の極端さにどう言う事だと俺は疑問を持った。


「まぁ直接見に行けば分かるか。ちゃんと相手をこの目で確かめてからでないと。安易な判断は下しちゃ駄目だな。」


 俺はその斥候が居る部屋に堂々と入る。


「おーう、回りくどくは聞かない。ちゃんと答えてくれ。お前は何処の誰だ?ここに何の用があって入って来た?」


 突然掛けられた声に斥候は即座に懐のナイフを取り出して俺へと投げつけて来た。

 しかも間髪入れずに白く丸いピンポン玉の様なモノを床に叩き付けている。そして次の瞬間にはソレが「ぱん」と割れる。

 それはどうやら逃走用の道具であるらしい。割れた玉からは何せ部屋中を埋め尽くす程の真っ白な煙が噴き出てきたからだ。


「うへぁ~。真っ白で何も見えん。これを何とかするか先に。」


 俺は魔力固めの応用でこの部屋を包む。そしてソレを一気に収縮させた。もちろん煙だけをピンポイントで濾過して集める。

 すると部屋の中心に白い丸い球が出来上がる。もちろんこれは俺の魔力で部屋に充満していた煙を集めた物だ。

 そして綺麗に視界が確保されて目の前に驚いた顔のままで固まっている斥候が。


「まあ逃がさないんだけどね。さて、質問に答えて貰って良いかな?何をしても無駄ってコレで分かってくれたら、さて素直に答えてくれるとこっちも話がしやすいんだけどね?」


 俺は魔力固めで体の自由を奪っただけで喋れ無くはしていない。なので俺の質問に答える事は可能だ。

 しかし斥候がしたのは自らの奥歯を噛み締める行動だった。

 俺はコレに直ぐピンと来た。だってスパイ物の作品にはよくある「自死」の為の行動だからだ。

 歯に仕込んでおいた猛毒で即死して情報を相手に一切渡さない。死人に口無し。そんなパターン幾らでもあるあるだ。


「まあそれを俺が許す筈も無いんだけどね。どれどれっと・・・」


 毒を飲みこませない。只ソレで良い。そのまま俺は斥候に纏わせてある魔力固めの魔力を操作して毒の一切を口外へと取り出す。その毒は真っ黒なホンの僅かな量の黒い液体。


「即座に自死を決める事ができる程に良く訓練された兵なんだな。スゴイスゴイ。でもさ?躊躇いが一切無い所を見ると洗脳に近く見えるな。自分の死を様子見もしないで即決するとか?何だよ、相当ヤバい国が来てるって事かぁ?」


 ウンザリ、そんな気分に少しだけなる。そう言ったちょっと?いや、結構な狂いっぷりの国にこちらの話は通じるのだろうか?そんな事を考えてしまった。


「あー、イカンイカン。まだそうとは決めつけられないよな。もっとちゃんと情報を得て行こう。さて、お前さんは何処かに自分の国の紋章とか入れた物持ってないの?」


 改めて俺は魔力固めで完全に動きを止めた斥候をまじまじと観察した。

 するとどうやらこの斥候の持つ短剣に何やら紋章とみられるモノが見えた。


「蛇?が自分の尻尾に噛みついてるのか。それが輪っかになって?こりゃ、何だ?」


 その輪っかになっている蛇の円の中に絡み合った三匹のこれまた蛇。三ツ◯サイダーみたいなマークになっていた。


「けったいなマークだな?まあ良いや。コレだけ分かればまあ良いだろ。どうやらアンタは一切何も喋る気が無いらしいしな。まあ頭の中を読み取らせて貰うって事も俺にはできるんだけど。」


 魔力をこの斥候の頭の中へと満たして情報を抜き取る事も可能なのだ俺には。原理は分からん。でもこの様な事が簡単にできてしまうのは怖ろしい事である。

 しかし別に今はそんな事をしなければならない程に焦ってはいない。ここに攻め込んできた相手の事はその内に分かるだろうから。

 今すぐと何処の誰が攻め込んできたのかを急いで判明させなければいけない場面では無い。そして判った所でどうしようもないのだ。


「じゃあお帰り願おうか。ここで体験した事を上司に報告しに行ってくると良いよ。」


 俺はワープゲートを出してこの斥候をその中へとポイッと投げる。そして直ぐにワープゲートを消す。レストに引き合わせて少しでも何か情報が得られるかどうかを試すまでも無かった。

 その斥候を解放した時には魔力固めも同時に解除してある。きっと斥候はこのまま拠点に急いで戻って自分の見聞きした事一切を上司に話す事だろう。


「さて、コレで相手が多少は落ち着いてくれると良いんだけどな?・・・この件でもっとこっちの事を危険視されたりして?あー、そうなったら余計に面倒が増えそうだなー?」


 俺はレストの所に戻って得た情報を共有する。そしてこの蛇のマークの事を知らないか聞いてみた。


「私の記憶の中には無いな。それにしてもこの紋様にはどの様な意味を込めているのか。自らを食べる蛇の魔物?ソレと絡む蛇。何とも解釈がしにくいものだ。趣味も、悪いな。」


 レスト的にはこの紋章にかなり嫌悪がある様だ。確かに「誰がこんなデザインにしたんだ?」とツッコミを俺も入れたい所だ。しかし今はそんな話では無い。


「じゃあちょっと皇帝にこれ聞いて来るわ。行ってくる。」


 俺はこれでは埒が明かないと思ってワープゲートを繋げて帝国に移動する。


「で、いきなり玉座の間に現れると。偶々私しか今ここに居なかったから良かったモノの。他に誰かが今のを目撃すればどうなっていたか分からんぞ?」


 皇帝に即座に怒られた。俺の悪い癖はこうして慣れて来ると慎重さを直ぐに放り投げてしまう所だ。

 しかも今回は妙な軍が孤島に攻めてくると言う異常な事態になっていて他の事を気にする思考が余計疎かになっている。


「・・・スマン。取り敢えずここの城で人気の無い場所って何処が安定?今度からソコに出るわ。と言うか、話はそれじゃ無くて。これ、知らない?」


 俺は蛇の紋章を見せる。見せると言っても壁にパッとプロジェクターで映し出してである。魔法、便利。

 これを見て皇帝は眉をしかめる。


「いきなり何をと思ったら・・・はぁ、どうしてエンドウがこれを?まあ、いい。求められた答えを私は持っている。勿体ぶる気は無い。教えよう。これは神選民教国の紋章だ。」


 何だか良く分からない名前の国が出て来た。ここでパッと思い付いた事を質問してみる。


「ソレって教会と何か関係があるの?」


 名前の響き的にそうなのかな?と軽い感じで聞いてみたが。全然違うそうで。


「この国は別大陸の大国だ。帝国と過去、一度交流を持った事がある、とかなり古い資料にあった。紋章が特徴的だから覚えていたよ。余りにも遠い国同士だからな。国交を繋ぐ、と言った所まではいかなかったらしい。ソレもそうだ。海を隔てた別大陸だからな。」


「あー、そうなのか。良く分かった。うーん?なんて説明したら良いかね?ちょっと難しい問題になりかけてるなぁ。」


「何だソレは・・・一からちゃんと説明をしてくれ。何が何だか分からないそれでは。」


 こうして俺はどうしようか悩みつつ皇帝に今回引越ししたダンジョンがある孤島にその神選民教国が軍を上陸させてきた事を説明する。


「・・・全く何なんだ一体。分からん、何もかもが解らん。あー、一つ言える事は、あのダンジョンに存在する品の数々はこの帝国の貴重な歴史的資料だ、国宝だ、と言う事くらいか。」


 考えようによってはその神選民教国とやらが帝国に攻め込んできた、と言えなくも無い。

 だが今は向こうの目的がまだハッキリと判っていない状態であるので何とも言えない

 それこそあんな大海原のポツンとした孤島だ。そんな場所がさて何処の国土だと言うのか?と言った感じである。

 コレに神選民教国の方はと言うと、まるでこの孤島にハッキリと目的があって上陸してきている様子である。

 しかしそこには帝国に戦争を仕掛ける、などと言った空気は感じられなかった。

 物々しい、と言う感じではあるのだが、しかしそれでもボンヤリとした感想でしか無いが「戦争」と言った雰囲気では無いのだ。


「上手く言えないんだよなぁ。最初は確かに軍だ、戦争だ、攻めて来た、とか思ったんだけど。話を聞いたら何だか余計に分からなくなってきた。」


 俺は魔力ソナーで逐一、相手の動きの一切合切を観察していたのではあるが。しかしそこから受けた印象だけで全てが断じられる訳じゃ無い。


「どうする?国際問題に発展?帝国として対応する?どうしようラーキル?」


 俺は皇帝に伺いを立てる。俺個人で対応して良い問題なのか?そうでは無いのか?


「情報の核心が無いのでは私だってこの時点での決定は無理だ。はぁ、向こうが略奪を目的としているなら帝国としての意を伝えて拒絶は確定だが。しかし相手側がどうやってその孤島にダンジョンが存在している事を知れる?そんな事は不可能じゃないのか?」


 元々帝国にあったダンジョン、それを俺が不可能とやらを可能として引っ越しをしたのだ。それを神選民教国がどうやって知る事などできようか?ソレが分からない、不明だ。不気味である。


「もう出たトコ勝負しか無いって事だよな?ならもう悩んでいてもしょうがない。向こうに戻るわ。」


 こうして俺は玉座の間からまた孤島の方へ戻った。

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