表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/327

核心、革新、確信

 さてそんなこんなでギルドが調査を終わらせるまでの間、パーティーメンバー各自は大人しく過ごして期日を待った。

 金は充分過ぎる程だと言われたのできっと充実した休日となったはずだ。みんなそれぞれしたい事、する事が決まっていたようで自由時間だ。

 そんな俺もその間に終わらせることがあってギルドの言った期日までソレにかかりきりだった。それは。


「大分作業がスムーズにいくようになりましたね。では次は空間圧縮です。」


 テルモに魔法修行をさせていた。いや、修行ではあるのだが、それはエコーキーの香草焼きに関してである。

 先ず魔力の流れを操作する事を覚えさせた。とは言え俺がテルモに魔力を流して、彼女の中のその俺の魔力に追従してくる様に意識を強く持って操作させると言うものだった。

 これは彼女はすぐに習得する。才能があるねと褒めてみたが彼女の反応はと言えば。


「信じられないです!こんな方法で魔力操作を教えるなんて!これなら誰だって直ぐにチョチョイのチョイで覚えられますよ!」


 チョチョイのチョイ、何て言葉がこちらでもある事にツッコミを入れたかったのは堪えた。

 そうして次に教えたのは細胞の事である。皮を剥く際に「何故ここまで綺麗な皮剥きができるのか・・・」と呆然とされてしまったからだ。

 なので皮と肉、それを繋ぐ細胞の部分を分離する。そう言ったイメージを伝えるためにあれやこれやと考えたのだが、絵で説明した方が分かりやすかろうと思って外で地面に棒で絵をかきながら説明をしていた。

 その呑み込みも早く、自分自身もそう言った小さな細胞の膨大な寄せ集めで構成されている事まで「ほえぇ~」と感心していたくらいだ。人体の神秘に宇宙を見ている様子。

 吸収が早い。俺が考えていたよりも大分早い魔力操作に理解。これはもしかしなくとも早くも店がオープンできるかもしれない。

 そして後でビールを冷やす事も教えてみようかと考えていた。


 肉を柔らかくするための方法も細胞を細かく魔力で分断するイメージをすればいいと教えたらすんなりと習得したのは驚きだったが、彼女曰く。


「これほどの知識を教えられてしかも魔力操作だってここまで精緻なものを教わったんです!これくらいできなければ嘘ですよ!」


 であった。その際に副産物的なアイデアで肉の「硬さ」調整もその時に思いついた。

 柔らかいのが好きな人も、肉の噛んだ時の歯ごたえが好きな人も、そう言った好みもコレで解決できるだろうと。


 で、こうして次の工程、塗した香草を圧縮して肉にしみ込ませる作業に突入している。

 その圧縮もすんなりと成功してしまったのだからもうこれはテルモの才能か?と思ったのだが。


「ここまで魔力が増えていればエンドーさんの、いえ、エンドー師匠の教えてくれた方法を頭の中で実行するだけですよ!」


 彼女に俺の魔力を与え続け、そしてソレを使用させてきたからだろう。

 彼女は自力では無く、俺のおかげで魔力量が増えたのだ。

 自身の器以上の魔力を他人から強制的に流し込まれてその器が広がる。そして溢れ零れた魔力まで使って魔力操作をし続けた。結果は以上である。

 人工的に魔力量アップ。しかも半ばかなりの無理を押しての短期間で。

 ダンジョン内でもマーミにお説教をされているので、ここでテルモに釘を刺しておく。


「魔力量が上がった事は誰にも言ってはいけない。俺の事も口外してはいけない。いいか?俺は別に目立ちたくない。他人に目を付けられたらそれこそ俺を利用しようと近づいてくる悪人が出てくるだろう。そう言った輩に煩わされたくない。」


 彼女が俺の事を師匠などと呼ぶものだから警戒心を上げた。そう、情報が洩れて不審に思った彼女の知り合いなどが俺の事を調べたりしたらそこから俺の事が拡散されかねない。

 そもそも冒険者としてダンジョンクリアをしているパーティーに名を連ねている訳だから遅かれ早かれかもしれないが。

 それでもテルモにもう一度釘を刺しておく。


「師匠呼ばわりは無しだ。いいかい?これから先君が俺を師匠などと言ったらもう何も教えない。」


「はい!分かりました!あんなに美味しい料理を作れないなんて事になったら人生の八割は損をした事になりますからね!だから早く作れるようになるために続きを教えてください!」


 もう圧縮をマスターしてしまったのだからこの後は焼くだけなのだが。

 人生八割ってほぼ全部じゃん?と言いたかったが、も一つもうこの場で教えておいてしまおうと思って、酒を冷やす事を教え始めた。


「え?魔法で御酒を冷やすんですか?・・・それは思いつきもしませんでした!これは・・・ヤバい事になりそうです!」


 目がギュピーン!と輝いたように見えたが気のせいと思っておく。

 どうやら彼女はここまで気が弱かったクセに酒好きであるようだった。

 しかももう既に最初に会った時の面影はない。あのおどおどした態度も直ぐに見せなくなった。

 香草焼きを食したその後すぐから。しかも自信もついたようだ。魔力量も魔力操作も上がった事で。

 ハツラツとした笑顔が眩しい少女と化している。そう、化けた。


 服装を改めさせたのだ。ミルに言って彼女の格好を変えてくれと頼んで任せたのである。

 ぼさぼさだった髪は綺麗に整えられ、そして服も最初に着ていた黒づくめから一気に変わった。

 それでもミルの着ている服とさして変わらないものを着せていたのだが、明るさが段違いである。

 彼女の性格もこうして変わって来た事できっと知り合いが見ても直ぐに分かる人はいないだろうって位変わった。


 さて、こうして彼女の教育は終わり俺が仕込んだものはそつなくこなせるようになったテルモ。

 その彼女をクスイに預ける。この先は開店の事に関してのお勉強をクスイとしてもらう事となっている。


 そう、店をテルモに全て采配を任せるとなっていたのだ。もちろんクスイが後ろ盾になって世話を焼くのは当たり前でだが。


 さて、ビッグブスの売り上げをクスイに渡してあるが、その中からクスイの店にアルバイト店員を雇う事になっていた。

 ミルだけではどうにも店を回す事が辛くなってきていたからだ。

 クスイは俺の考えた事を実現するために動いている。それも忙しくだ。

 だから店番を娘のミルだけに任せていると過労死しかねない程である。

 寧ろブッラック当然と言わんばかりの働きで、ミルが過労で倒れないか心配な程となっている。

 それはポーションの件で一躍この店が有名になったからなのだが、それを俺が「働き手を雇おう」と提案したのだ。

 で、急遽五人のおばちゃんが雇われた。そしてミルには休日を作るように言い聞かせてそれも大分上手く回り始めた所である。


 で、テルモの調理の上達の為にエコーキーの皮が当然多く出たのだが、それらをどうしようか悩んだ。


「うーん、話を聞いたけど、羽の部分以外は素材として使い物にならないってか。んじゃあこれを燃やして灰にして畑の肥料にするか?でもなあ。これ、買い取ってくれそうか?・・・そうだな、なら買い取ってくれるようになるための下地を作るか。実際に肥料としても使えるのかどうかの実験もしないといけないし?」


 植物性の灰は確か肥料になったはず。では動物性のは?と考えたらちょっと悩んだ。

 ならば実験をすればいい。これから先、香草焼きの店を出す事になっているのだ。

 ならばこれからこの皮も定期的に出る事になる。ならばそれらの処分も考えておかねばならないのだ。

 只の生ごみ、それだけでは直ぐに限界を迎えてしまうだろう。灰にするにしてもそれらをどれくらい畑に撒くか、そう言った事も観察していきながら作物を育てないといけない。

 そしてそんな畑ではどんな収穫が一番上がるかなども検証していかねばならないだろう。


 そうと考えたらその構想をメモしておく。紙の用意は簡単だ。

 木に魔力を流す。木の繊維、それをイメージしてそこから追加で紙漉の映像を脳内に流す。

 するとどうだろうか?手には魔力の淡い光と共にニュルニュルと形を変化させた木がどんどんと紙へと変わり手の平に乗っていく。山盛りに。

 A4サイズである。これは自分が仕事で良く使用していたから半ば無理矢理な感じでイメージがその大きさに固定されているのだ。


 その一枚をインベントリから取り出してペンを取り出す。ボールペンだ。

 あの森の中では何でもそろった。膠の様な粘りのある樹液を出す木も。

 それを丁度良くしみ出すくらいの調整にするのは苦労した。速乾性も考えて。

 これにはかなりの時間を費やした事を思い出す。そしてペン先の構造は知っていた。

 以前ボールペンの先はどうやって液を伝わらせているのかと言う説明をしていたTV番組を見た事が有ったのだ。

 そして文具屋で個人で使うお高いボールペンを購入しようとしてその台紙の裏に書いてあった構図絵も見ていて記憶がしっかりと残っていた。

 創り出す事はそちらの方が簡単だった。そしてこのペンはクスイにもプレゼントしている。そして紙も。


 この構想の紙を後でクスイに渡せばきっとこのアイデアを真剣に考えて考証してくれるに違いない。

 マルマルの都市で仕事についていない者たちを集めてきっとどこかの畑を見繕ってくれるだろう。

 畑が開墾から始まると言うのであればそんな事に時間をかけてはいられないので俺が魔法で整地までする事を書いておく。


 するとクスイが後ろからそんな構想を覗いてきた。テルモに教えていたのはクスイの家の居間である。

 家主がいるのは当然なので俺に驚きは無い。しかし、クスイの次の対応の速さには驚く。


「エンドウ様。明日、お時間を頂けますかな?今日中に土地を買っておきます。その場所の整地をお願いします。」


 もうクスイはこの話を「成功する」と見抜いている様子だった。


 こうして俺はその日は森の家へと帰って師匠にあった出来事を話していく。

 何故そんな報告めいた事をしているのかと言えば、俺はこの世界の常識を全くと言っていい程知らないからだ。

 だから加減が分からない。なので師匠に一応あった事、やった事を話して判断を仰ぐのだ。

 先に師匠から様々な常識とやらを教えて貰ってから、なんて事になればこの世界で俺は雁字搦めにされて自由を謳歌できない。

 だから事後承諾、などとは言わないがそこら辺を教えて貰うのは俺が「こうした」「ああした」と言った行動の後になる。

 そしてテルモに魔力操作を教えていたがこの方法には師匠は頭を痛めかけた。


「エンドー、私は一体今何を作業していると思っている?ポーションを作りながら魔力操作、及び魔力量を増やす地道なだな・・・」


 と言いかけて師匠は言葉を止めた。


「ふぅ、しょうがないか。よくよく自分を見つめれば、私は自力でやる事に意義があると考えているからな。そんな方法では自分で納得いかないだろう。地道に、順調に魔力は上がっているし、操作も以前と比べたら遥かに上達した。」


 で、テルモに教えた事を師匠も「私にも説明してくれ」と迫られたので同じ事を教えた。


「これほどまでか・・・いや、本当に世界が違うのだな・・・」


 どうやら師匠は勝手に何かを納得?して黙ってしまう。


 そしてこのタイミングで師匠に聞いてみた。クスイに聞きそびれた謎を。


「魔法も使わずに離れた相手に指示を伝えるって事できますか?」


 これはサンネルの倉庫の事での話である。あの時はサンネルに誰も近寄っていなかったはずなのに、小屋に行くと既に金額の用意がされていた事を説明した。

 俺の脳内マップは確実にサンネルに誰も近づいていない事を示していたし、そもそもあの倉庫の中に入っていたとはいえ、遠くに居る部下にサンネルが大声を出していれば多少は倉庫内でも聞こえていたはずだ。

 これに師匠は少し悩んだ後に答えを口にした。俺はそれに「なるほど!」と納得させられてしまった。


「手で指示を送ったのだろうな。金額、それを白金貨では無く金貨で揃える、そう言った事を手の形、あるいは身体の動きでしたのではないか?」


 手話、それはかなりの数のバリエーションの手の形、動きで相手に自分の意思を伝える手段だ。

 野球なんかでもチーム内でオリジナルの合図を作り、作戦を選手に送るなどと言った行為がある。

 それなら遠くの部下にサンネルがサインを送れただろう。そうして俺が代金を受け取る小屋に行くまでに金額を揃える時間ができたはず。


「あー、すげーな。単純な事だったけど、それでもそう言った手段を使いこなしてるってヤベーな。商人すげーわ。」


 自分が魔法を使えるからなのか、そう言った単純な手法が思考の死角に隠れてしまっていた。

 これでは賢者と言われる資格が無いように思われる。それを師匠に伝えたら。


「エンドウは紛れも無い賢者だろう。そこは変わらんよ。」


 何故だか師匠と俺との「賢者」の認識がちょっとズレていると思う。

 そうした事実がはっきりと分かって俺は頭の中がムニャムニャするのだった。

 そんな気分を振り払うためにいつもより風呂に長めに入って心機一転させてベッドにもぐりこんだ。


 その日は早めに寝て翌朝早くに起床した。

 いつものように師匠と朝食を摂り、今日もクスイの家へと向かう。

 向かうと言ってもワープゲートを通ってすぐなのだが。

 と、そこでは既にもうクスイが庭で俺を出迎えていた。


「では早速参りましょう。馬車も用意してあります。」


 何ともまあ準備が素早い。むしろ用意周到?

 何時どんなタイミングでクスイはこういった準備をしているのか?

 恐ろしい手腕とでも言えばいいのか、どうなのか?


 そうして俺とクスイを乗せた馬車はマルマルの都市の外壁門を過ぎてさらに離れていく。

 どうやらマルマルから遠すぎず、しかし近すぎない場所の土地を買ったようだ。

 とは言えマルマルの中では無く外の土地となるはずだ。そこら辺の土地の管理などと言った事は何処の管轄なのだろうか?

 難しくて面倒な事はクスイが全部やってくれる。だから俺は別段悩まなくていいか、そんな事をクスイに伝えると。


「書類仕事なんて目じゃないですよ、開墾と言うのは。使うその労力、時間、つぎ込まねばならない金は莫大な金額になります。右から左に流れるだけで確かに書類仕事は労力を掛けずに大きな金が動きますが、所詮はその程度なんですよ。」


 と、寧ろ俺のこれからする事の方が驚きモノだ、とクスイは付け加えた。


 そんな事を話しているとどうやらクスイが買ったと言う土地に来たようだった。

 そこには杭とロープを使って「ここからここまで」と言った感じで区切りがされていた。

 その広さはざっと見渡しただけでも大分ある。いや、大分有りすぎる。


(なんだろう?東京ドーム?一個分?ってどれくらいの広さ?)


 ソレだけの広大な土地をクスイは買ったのである。恐ろしい。投資額は一体いくらになったと言うのか?

 俺のアイデアの畑の肥料計画はその資金を回収できるだけの事業では無いのでは無いのか?

 赤字垂れ流しにならないか?そう不安に思えてしまう。しかし考え直した。


「冒険者として早くランクを上げてバンバン金になる仕事をこなせばいいじゃないか。そうだよ、最初からそのつもりだったんだからコレはコレでいいか。」


 クスイのやる事に俺は全幅の信頼を置いている。ならば俺のする事と言えば金を稼げばいいだけの話だ。

 この大きな畑もクスイの脳内では元が取れるばかりか儲けが出せる、そう睨んでの事なのだろう。

 そうとなったらすぐにでもこの荒れ地を俺の魔力を流して整地するだけである。

 そして整地するだけでなくどうせならすぐに作物を植えられる状態にしてしまえばいい。

 そしてここまで来た道も整地して平らに滑らかな地面に固めてしまえばいい、ついでに。


 ついでと言えばできた作物を運ぶための荷車も作るのが良いだろう。周囲には邪魔な木が生えていたり、周囲の木は伐っても何ら問題の無い物らしいのでそれらを使って魔法で荷車を作り出しておく。


 あれやこれやと畑を作る前にできるだけあった方がいいモノを作り出しておく。

 俺が思いつく農具をあれもこれもと作っておいた。

 そこら中にあちこち転がっている大きい石やら岩やら何やらを集めてそれらに魔力を流す。それは瞬く間に鍬や鎌や鋤、休憩用のベンチなどになっていく。

 それらは石製ではあるが、最初の内はコレで仕事をしてもらう事になるだろう。その内鉄製の道具を買えばいい。

 しばらく長く使ってもらうために強度は上げてあるのでそう易々とは壊れないだろう。

 持ち手は木で作る。ソレを作った農具にはめ込む際には魔力を流して一瞬で終わらせる。

 持ち手の木の太さなんて魔力を流して一瞬で変えて細くし、農具にはめ込む穴に入れたら元の太さに戻せばいい。

 そこら中に道具の元になる素材は転がっているのだ。元手はタダだ。いくらでも作っておいて損は無いだろう。

 ポンポンとそうやって手当たり次第に道具を作り出していく俺の姿を、クスイが唖然とした表情で見てきているのを視界に入れて俺はそこでやり過ぎた事を悟った。


「あ、もうそろそろ本番の畑の整地をしないといけないか。待たせたな。んじゃもうちょっと後ろに下がってくれ。」


 俺は足の裏からいっぺんに魔力を放出した。それこそこの広大な場所を全てやらねばならないのである。

 場所ごとに移動してチマチマとはやっていられない。なので一気に一息でやってしまうためにかなりの量をぶっ放した。

 そうすると俺の頭の中のイメージ通りに、そこら中からボコボコと石や岩や木の根、草の根やら畑には邪魔なものが一斉に飛び出してくる。

 それらのゴミをまるで波で流し寄せるかのように地面が隆起して移動させて端へともっていく。


 そういったゴミは魔法で地中深くに埋めてしまっても構わなかったが、石材は農具に変えるし、草や根は細かく砕いて乾燥させて畑の肥料にでもできないかと思ってこうしてひと手間掛ける事にしたのだ。


 こうして畑になる場所の脇に石の山、草木の根の山が出来上がった。

 一旦ソレを置いておいて俺はもう一度魔力を大地へと流す。今度は土をかき回して空気を含ませるのだ。

 フワフワのフカフカな畑の土にする為にである。

 俺はここまでで大分魔力を使っていた。でも、自身の感覚ではまだ半分も使っていないと言った感想だった。

 ここまでの事をしているのにもかかわらず、である。


「コレは本格的に自分の魔力量を数字で把握しなけりゃいけないぞ?でも、そんな莫大な量を図れる道具って・・・あるのか?」


 多分なのだが、師匠に会った初めの頃ならおそらくギリギリどれくらいかは数字で出せたのだろうと感じる。

 しかし、その時とは大分変ってしまった。俺の魔力量は。それと問題がもう一つ。密度だとも言われた。

 これらの事を考えると多分もう既に無理だろうなと諦めはある。

 数字でこういった量が分かると管理がしやすいから知っておきたいとも思えるのだが。

 一応師匠には「量ったりしない」と言われてしまったのでどんな道具であるのかも知らない。

 その魔力を計測する道具とやらを改造しようにも、そもそもそう言った魔法の道具を作る知識を俺は持っていないのでどうしようもないのだが。


 そうやって余計な事を考えつつもつつがなく開墾作業は終了した。

 その後は石の山へと魔力を流して農具製作、草木の根を魔力で乾燥させて風化させて粉にする作業をして終了となった。

 と思いきや、俺は気付いた。水は?


「なあクスイ。畑にやる水撒きは?ここの辺りに水場はあったりするのか?」


「はい、すぐそこに大きな川が。・・・エンドウ様?何かお考えが?」


 こんな広大な畑に水を撒いて回るだけで一日がかりだろう。

 そうなると自動で水撒きをできないかと考えてしまう。だけれどもここで自重した。

 何でもカンでもそう言って俺基準で物を考えた所で実行できるものと、できない事がある。

 水道、スプリンクラー。それを再現はしない方が良いだろう。と言うか、再現できない。


 蛇口をひねれば水が「あふれ出てくる」水圧で。そうしてその圧力が高いから水が遠くまで飛び散らせることができるスプリンクラー。

 この世界にそんな施設を作る気にはなれない。むしろ、そんな施設を作れるだけの専門知識は俺には無い。

 俺ができる事と言えばもっと規模のちっぽけな事くらいだ。

 川からこの畑の中心まで水を引き、それを溜め池を作っておいてそこに入れておく。撒く水をそうやって川まで一々行かずともに近場に引き寄せる。

 それ位の事くらいしか思いつかない。だからソレを実行する事にした。クスイにその川のへの案内をしてもらう。

 そう遠くない場所にその川は流れていた。川幅はざっと7mか、8mくらいか。しかも深さが大分あるらしく2m程はあるだろうか?その水質は透明でかなり綺麗だ。流れもそこまで早い訳では無く穏やか。

 そこから畑の中心に作った穴、ため池にする為の場所に川の水が流れてくる様にと溝を掘っていく。


「あ、ヤベ。ストッパー無いとダバダバ流れてきっぱなしになるな。木で作ればいいかな?」


 川の流れから入ってくる水をそのまま流し込んでいてはため池が溢れてしまうので、急いで流れをせき止める抑え板をはめ込んだ。


「もう少し工夫しないとなぁ。でも、今はコレで充分か?鉄腕ダッ◯ュ見ていて助かったわー。」


 そんな独り言を言いながら作業はほどなく終了した。

 そんないい汗かいている俺をクスイは「は~」と感心した顔で見てくる。


「エンドウ様がいれば人の住む土地はいくらでも増やせそうですな。いやはや、コレは・・・もはや何も言う事が有りませんぞ?」


 よく聞いたらこんな広い土地は年単位で開墾をするそうだ。しかも道具まで作り、しかも川の水を通してため池までと考えればもうそれはもう「ヤバい」そうである。

 で、どうせなら行きつく所までやっちゃうか?と聞いてみた。


「水車小屋を建ててその動力を使って何かできそうじゃん?今日はこの辺で終わりにしといて、今度来た時に造ろうか?」


「エンドウ様、こんな事を言うのはどうかとも思うのです。私は貴方に命を救われた身ですので。しかし、あえて今は言わせて頂きます。」


「え、何改まって?ちょ、怖いよクスイ・・・クスイさん?」


「やり過ぎに注意してください。」


 キッパリと叱られた。どうやらここにクスイ一人しかいないから良かったものの、他の誰かがいたらそれこそ俺と言う存在が世間に広まってしまう所だった。

 ここまで馬車で来ているが、その御者は馬車の方に残っていてこちらに見に来ていない。

 危なかった。とは言っても、もう既にあちこちでチョットばかりやらかしていたりしているもう既に。

 そう言う訳で俺と言う存在が今よりももっと「ヤバい奴」認定されるのは時間の問題と言った所だ。何せ俺は既に人一人を大勢の目の前で消滅させているのだから。


 だけれどもその時間が長ければ長い程、俺はそれまでヤンチャをできると言う事だ。

 なるべく慎重に、かつ大胆な行動が求められるだろう。


 と心の中では気取ってはみたものの、別に俺はさほど気にしちゃいない。


「有名人になるだけなら別に構いやしないさ。だけど、俺の自由が無くなっていくようならこの都市から出て別の土地に行けばいいだけさ。」


 俺はそうクスイにサッパリとした気持ちでそう言っておく。

 この都市を離れる事を多少惜しむ気持ちはある。しかし、ここに留まり続けたいと思う程のこだわりは無い。

 それこそ、帰ってきたいと思えば俺にはワープゲートがあったりしてしまうので、一つの場所、といった面で縛られなければいけない事が無いのである。


 こうしてこの日は終了。その後は何も予定も無くマルマルの都市をブラブラして散策をして森の家へと帰った。


 こうして日は過ぎてようやくギルドが調査を終えただろう予定日を迎える。

 俺は森の家で昼食を摂った後、久々にその日はギルドに顔を出した。

 するとそこにはカジウル、マーミ、ラディ、ミッツの四人が既に集まって雑談をしていた。

 そこに俺は近づいて挨拶をする。ひさしぶりだな、と。


「おう!お前さんにどうやって連絡を取ったモノかと今話し合ってた所だ。」


「ねえ?エンドウはそもそも一体どこに住んでるのよ?情報を共有したくてもあんたが捉まえられなくちゃどうしようもないわよ?」


「まあいいじゃないか。それは後にしよう。時間までにはエンドウもこうして現れた事だしな。」


「そうですね。調査隊も昨日に既にギルドに到着していて資料は纏めてあるそうですから。ギルド長がそれらにはもう目を通していると言う話です。後は待つだけです。」


 どうやら今日、調査隊の報告と俺たちの報告を合わせる事になっていたようだ。ギルド長を前に。


「で、エンドウ。俺たちは相談してダンジョンクリアによるランクアップを受けないと言う事にした。」


 俺はこの突然のカジウルの言葉に驚きを隠せなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ