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大立ち回りでドッカンドッカン

「帰って来るのが早かったな。で、私の要望通りに奴らは始末したのか?」


「あー、その事なんだが。こいつは返させて貰う。そして依頼は、無しって事で。」


「貴様・・・どう言った了見でこんな真似をする?私に逆らってタダで済むと思っているのか?」


「あんたなんかよりも怖い相手に立ち向かえないね。それこそ、相手には皇帝も付いてるんだぞ?しかもお気に入りで国の計画にも参加してソレを成功させたって話も。あんたが太刀打ちできる相手じゃ無い。それをアンタは最初から分かって無かった。こんな所に閉じ籠って居続けて外に興味など無かったのがいけない。」


「何を馬鹿な。あのような小僧と小娘に貴様はビビッて手も足も出さんだと?ふざけるのも大概にしろよ?この屑めが。」


 支配人はそう言っていわゆる「何でも屋」を強く睨む。

 ここは例のカジノ、遊技場と言い換えた方が良いか。先日にゲルダが大暴れしたあの場所だ。


「俺たちはアンタから何も前情報を貰わずに仕事を受けちまった。依頼料の額に目が眩んじまってな。事前にあの二人がトンデモ無い人物だって知ってりゃこの依頼は受けなかった。さて、前金は返した。調査費などは別に抜いたりしていない。そのままそっくり返す。俺は命が惜しい。あんたは俺たちみたいな集団を見下している様だが、こっちだって好き好んで命を売って仕事してる訳じゃ無いんでな。幾らでもこの場で罵倒してくれて良いぜ?その代わりアンタのその罵倒はこっちには一つも響く事は無いけどな。」


「こちらの依頼をそっちの都合で破棄するというのなら、迷惑料を払え!同じ額を!」


 支配人は語気を荒げてそう求める。何処まで金に汚いのかと言いたい。

 だがここで「何でも屋」は用意していた金を取り出してテーブルに置く。


「コレで良いだろ?さて、用事は済んだ。一応はここで忠告しておくが。もうあの二人には手を出すな。もしこの場で俺が去った後にまだ付け狙うと言った言葉を吐けば、アンタは破滅する。良くこの言葉を考えな。」


「ふざけた事を!無能は今すぐに消えろ!お前の代わりなど幾らでも居るんだ!別の組織に依頼を出してくれる!あの二人は絶対に許さん!」


「へー、そうなんだ。なら以前に言った通りに俺は自分の命を守るためにアンタを潰すが、文句は無いな?」


 部屋の中に突然現れた俺とゲルダに唖然とした顔になる支配人。

 しかしそれが収まると椅子から勢いよく立ち上がって叫ぶ。


「貴様らいつの間にそこに居た!?何処から入ってきやがった!部下どもは一体何をしている!」


「最初からここに居たよ。姿を消す事ができる手段があるんだよ俺には。さて、彼に話はすべて聞いてある。あんたが依頼主、ハッキリとこの場でも口にしていたし、言い逃れはできんよ?」


「なあエンドウ、もう良いか?アタシはこんな卑怯な真似する奴をさっさと潰したいんだが?機嫌がどんどん悪くなる。」


 ゲルダのこの言葉に支配人が即座に顏を青褪めさせる。前回の事を即座に思い出したんだろう。

 コレに支配人を守ろうと部屋の四隅に一人づつ居た護衛が即座に踏み込んできた。

 三名は支配人を守る為に側に行き、残りの一人がゲルダへと襲い掛かった。

 しかもその手にはナイフを持っていてゲルダの首を斬る様な軌道でソレを振るって来ている。


 しかしゲルダはこれをヒョイと一歩体を引いただけで避けた。


「殺す覚悟があるなら、殺される覚悟も持ってるんだろうな?あぁん?」


 多分この護衛が素手で殴りかかって来ていただけなら命までは取られなかっただろう。

 既にその護衛の首にはナイフが突き立てられている。それは当然ゲルダのあの新しく作って貰ったナイフである。

 反撃、正当防衛、それによって護衛の命は即座に散った。

 抜かれたナイフの血糊をそっとその死んだ護衛の服で拭うゲルダの目は冷たい。


「さて、支配人さん。ゲルダは見ての通り、襲い掛かって来る輩に容赦は無い。しかもこうして狙われるのは二度目。慈悲も無しだ。諦めてくれ。」


 俺はここで支配人に残酷な事実を告げる。ゲルダはもう俺の言葉で止まりそうにも無い。

 ここでまだ部屋から出て行って無かった「何でも屋」は顔をしかめて「うわぁ・・・」と漏らしていた。

 どうやら「もしあのまま依頼を熟そうとしていればこの護衛の様になっていた」と言うのを目の当たりにして背筋が凍ったようだ。

 支配人の側に居る残りの護衛三名もどうやらこれには委縮した様子だ。しかしそれを支配人は許さない。


「何をぼさっとしているお前たち!このクソ娘を殺せ!殺せぇぇぇ!」


 だがその叫びは虚しい。殺害対象が護衛たちよりもよっぽど弱ければ、この命令の勢いで走り込んでいただろう。

 これには相手が悪い。そんな勢いなどで立ち向かっても勝てはしない程の腕の持ち主だゲルダは。

 ソレを察してか護衛はジリジリと慎重にすり足でゲルダに近付いて行く。間合いをこれでもかと言わんばかりに測りながら。

 しかし護衛対象の支配人の壁になる事も忘れていない立ち位置は流石プロ?と言いたいくらいだった。


「死にたい奴から前に出な。ソレと、アタシにも矜持って奴があってね。素手で掛かってくれば殺しゃしないから安心しな。」


 どうやら妙な部分に自分ルールがある様だゲルダは。

 コレに一気に動揺を広げる護衛たち。先程やられた仲間がナイフその手にゲルダの命を狙って即座に返り討ちで殺されているのを見ているので「死にたくない」と迷いが生じている様だ。


「とは言え、素手でだってやり用に因っちゃ一撃で殺せる方法だってあるんだ。殴り合いじゃ無くて首を捻ってくるような狙いを悟れば即座にこっちも同じく殺しに行くけどね。」


 一思いに素手で殺害、それを考えれば確かに首を狙うだろう。そこにゲルダは言及した。

 このゲルダの発言で護衛たちの動きが一瞬だけピタッと止まる。

 どうやら考えを見抜かれていた事でその脚が止まった様だ。

 もちろんゲルダはこの隙を見逃したりしない。先程俺が言った通り、容赦も慈悲も今のゲルダには無い。


 ここでゲルダが踏み込んだ。コレに護衛の大男が一人宙を舞う。顎を叩き潰されて。

 その護衛はゲルダから下から上へとその顎に掌底を食らったのだ。これは一瞬の出来事である。二秒にも満たない時間だ。

 この威力に運が悪ければ即死、いや、運良く生き残れたとしてもその後は即座にその怪我に回復魔法でも受けない限りは長い期間地獄を見る事になるだろう。ご愁傷様である。


 床に伏したその護衛はピクピクと痙攣しているのでおそらくは生きている。手当をしないと死ぬかもしれないが放っておく。

 護衛は残り二人。既にゲルダへと同時攻撃を狙って拳を振り込んでいる。そう、武器を持っていない。

 恐らくはゲルダのあの発言で「自分が死なない方法」として素手で襲い掛かったんだろう。どうやら支配人は人望と言うモノが無いらしい。

 確実に守り切り、そして相手を無力化、殺害をすると言うのであればその手に武器を持っていた方が有利。

 支配人が大事だと、しっかりとこの護衛がそう心に刻んでいたらナイフがその手にあったはずだ。


 しかし護衛たちが最終的にゲルダの脅しに屈した、そんな形になっている今この瞬間は。


 だがやはり生き地獄は味わう事になる。


 いわゆる人中と言うやつである。ゲルダの攻撃は。


 迫り来る相手の拳をサラリと簡単に躱して見せたゲルダはその攻撃を空ぶって体勢を崩していた片方へと四連撃をお見舞いしたのだ。


 先ずは「鳩尾」。お次は「眉間」。さらには「喉仏」を潰し、最後は「金的」だ。

 この連撃をモロに食らった護衛は白目になって前のめりでドサリと床へと倒れる。


 まだ部屋を出て行っていなかった「何でも屋」はコレに「ヒエッ!」と小さい悲鳴を上げていた。どう言った了見でまだここに残っているのかは知らない。


 俺はと言うとコレに「やり過ぎじゃ無いか?」と疑問に思ったが声には出さない。


 そして残ったもう一方は一度大きく後ろへ下がっている。そしてゲルダから少しでも距離を取ろうとジリジリとずっと下がりっぱなし。

 だがここでゲルダが気付いた。


「あぁ?あのクソジジイは何処に行きやがった?」


 そう、いないのだいつの間にか支配人が。部屋の何処にも。ゲルダの困惑に護衛がニヤリと表情を変えた。

 どうやら支配人が逃げ出す為の時間稼ぎが成功した事で狙い通りと護衛は笑った様だ。


 とは言え支配人が何処に消えたか俺には分かっているが。


「そこの床に隠し通路があるんだよ。ソファの裏。そこから支配人は逃げてった。」


「・・・あぁ?何でそれを知ってて見逃したんだよ?」


 ゲルダはちょっと不機嫌そうに俺にそう言う。先程ニヤリと不敵に笑っていた護衛はと言うと、俺が気付いていた事に対して驚いた様子で口をだらしなく開けている。

 バレていた事にどうやら信じられないと言った感じだろうか?上手く逃がした、一切その場面を見られていないはずだ、そんな自信があったのだろう。

 だけど俺には魔力ソナーがあるからこの目で見ないでもバッチリ動きが分かってしまう。超バレバレである。


「あー、それがさぁ。その隠し通路の先にはどうやら支配人の部下たちが大勢控えてる広場があるみたいなんだけどね?」


 俺は魔力ソナーで調べた事をゲルダに教えた。コレにゲルダは。


「なら早いトコ追いついてそいつら全員ブッコロす。行くぞエンドウ。」


 この言葉に護衛がギョッとした顔になる。ゲルダからの圧力が上がったからだ。

 その身体から発せられている熱がどんどんと上がっていっている様な感覚を受ける。

 どうやらもうゲルダは完全にプッツンしてしまっているらしい。

 皆殺し、さもそれが当然とばかりに自然体でそう言葉にしたゲルダを見て護衛が震え上がる。ソレが不可能では無いと感じたんだろう。ゲルダを見て顔を青くしている。

 ゲルダは決して嘯いている訳じゃ無い。それができるだけの実力を持っているのだ。


 だけども俺がそれに水を差す。


「あー、ゲルダ、それがどうやらもう終わってるっぽいんだよ。」


「はぁ?」


「兵隊がそこに突入して全て制圧してるね。支配人も捕まってる。それこそ大立ち回りでドッカンドッカン大暴れ。兵隊さんたちが大活躍ってな感じだな。」


「・・・はぁぁッ?!」


 一拍置いてからゲルダは俺の言葉を理解して「理解できない!」と言った声を上げる。

 ここで追加で俺は説明を加えるのだが。


「うーん、俺とゲルダはさ、なんて言ったら良いか?見守られて?見張られて?いたんだよ。」


「おい、一体誰にそんな事されてたって言うんだ?」


 不満げにゲルダが質問して来るので俺はサラリとそれに答えた。


「皇帝。」


「はぁぁァぁァぁァぁァ!?」


 ゲルダの大声がこだまする。その顔は「なんでやねん!」と今にも叫びそうな感じだ。


「どうやら皇帝が動いたみたい今回は。」


 俺もこれには少々驚いている。何でこの時に?と言った感じの動くタイミングとか、或いは何でこの遊技場の支配人を捕縛するのかと言った所に。

 これはこれで何かしらの事情があるのかと思うのだが、そこら辺の細かい所はきっと俺もゲルダも知らなくて良い事情なんだろう。

 こうなるとどうにも、多分ずっと前々からここの遊技場は深い部分にまで調査が行われていたに違いないし、スムーズに兵隊の数を集めて制圧作戦を実行している辺り、近々俺たちがこうして突撃して無かったとしても捕り物は行われていたはずだ。


 さてこの俺の「皇帝」発言に護衛が信じられないと言った困惑と、それが本当ならば自分も終わりだと言った絶望の表情が混じった顔になる。

 ゲルダはと言うと「うーん・・・」と唸りつつ俺に聞いて来る。その顔は非常に落胆したものである。


「・・・で、エンドウ。まさか、これで終わりって事か?」


「消化不良だけどね。しょうがない。帰ろうか。」


 ゲルダのこの質問に俺はきっぱりと答える。ここまでだ、と。

 ここで兵隊たちと合流すると事情聴取とか何とかで同行願われてしまうだろう。そうなったら面倒臭い。

 取り敢えず今は此処から即座にケツ捲って逃げるのが一番楽な選択だろう。さっさと部屋を出る。

 それと、さっきまでここに居たはずの「何でも屋」は俺が「皇帝」と言葉を出した時に即座に部屋から去っている。逃げ足が速い、機を見るにして敏と言った所だろうか?


 こうして俺たちもそのまま誰も見ていない通路でワープゲート出して宿の部屋へと戻った。ここでゲルダが不満を漏らす。


「暴れ足りねぇ。狩りに行くぞ。」


「はぁ~。まあ、別に良いけどね。」


 その後俺たちはまたワープゲートで帝国の近場の森へと移動した。そこで三体程の狩りをする。もちろん魔力ソナーで俺が獲物の居る方向を指し示して。

 ゲルダの狩った獲物はマルマルで換金する予定である。帝国では売らないと決めていた。

 ある程度ゲルダの消化不良がコレで解消できたので帝国の宿へと帰る。時刻は夕方に差し掛かるかと言った時間。


「おいエンドウ。飯は宿で食おうぜ。外で食う気が無ぇ。ソレともう良いや。明日マルマルに帰ろう。アレコレあったが、もう充分楽しんだ。」


 ゲルダが宿の食堂に向かいながらそんな台詞を口にする。俺はその後ろに付いて行きながら「依頼はそれで終了だな」と答える。


 俺はゲルダの見張りと言うか、護衛と言うか?御守役である。忘れそうになるけど。

 マルマル冒険者ギルド長のミライからの依頼を受けてゲルダの休暇にこうして付き合っているのだ。

 ゲルダはその事を今まで忘れていた様で「そう言えばそうだったな」と鼻で笑う。

 こうして食事を早めに終えて俺たちはさっさと部屋に戻って就寝した。


 そうして翌朝はあいにくの雨。土砂降りと言う訳では無いが結構雨量は多めだった。

 そんな日でもこの帝国の賑わいが少し控えめになるぐらいだ。他の地域だとコレだけの雨が降っていれば大通りと言えども極端に人の往来は減るのだろうが。


「流石帝国?って言う程に各地をまだ巡って見れては無いからなぁ。」


 俺はベッドから起き上がって大きく背伸びを一つする。そしてロビーの受付カウンターに向かう。ゲルダが部屋を今日引き払うのでその手続きをする為だ。

 その事を一言俺が告げるだけでスムーズに処理は終わる。流石の超高級?ホテルである。何らこちらに面倒などが一切起きない。


 手続きが終わってさあ一旦部屋に戻るかと思って階段の方を見ればゲルダが下りて来ていた。


「ん~?こっちに居たのかよ。あぁ、アタシの部屋の事か。なら朝飯食ったら向こうに帰るかぁ。」


 あくびをしながら俺の前にゲルダは立つ。どうやら入れ違いで俺の部屋をゲルダは訪ねていた様だ。

 朝食を摂ったら帝国からオサラバ。またゲルダはマルマル冒険者ギルドで仕事の日々を送るのだろう。

 こうして俺たちは宿の食堂で食事をしてその後に休憩を挟んでマルマルに戻る。もちろん俺の部屋からワープゲートでである。

 まだゲルダは俺のワープゲートを納得したくないのか、どうなのか?やはり通る際のその顔は非常に機嫌が悪そうだ。

 俺はコレに苦笑いをしてゲルダの背を押してマルマルへと移動したのだった。


 毎度の事ギルドの裏手の人気の無い場所に到着だ。帝国からマルマルを一瞬である。

 こちらの天気は晴天だ。帝国とマルマルの間には相当な距離がある。こちらが晴れていても別におかしくない。


 さてこのままギルドの中へとさっさと入った俺たちは受付に先ずは帰って来た事を伝える。

 すると受付は「ギルド長に連絡をしてまいります」と席を立った。


 待った時間は1分も無い。戻って来た受付嬢は「ギルド長室へどうぞ」と言って俺たちを促す。

 勝手知ったる何とかカントカ。俺たちはそのまま真っすぐにギルド長室へ。

 扉をノックして入室許可を貰う前にゲルダが部屋へと入ってしまう。


「帰って来たぜ。仕事に今すぐ復帰する。書類処理は任せてしまって良いんだろ?」


 入るなりいきなりゲルダがそんな事を言うのでギルド長がこれに溜息を漏らしながら返す。


「おかえりなさい。大分機嫌は良いみたいね。分かったわ。直ぐに仕事に掛かって頂戴。これまでに別段問題と言った事は起きていないから、今日の仕事はそこまで多くないでしょうけどね。」


 書類仕事を一旦止めてギルド長はゲルダの顔を見てちょっとだけ安堵の息を吐き出していた。


「で、俺の仕事もこの時点で終了と言う訳だ。俺の依頼の方の処理は後で良いよ。別にこっちは急いで無いから。」


 ギルド長の執務机に乗せられた書類の量はそこそこだ。なのでその点に気を配って俺の依頼の件は後回しで良いと言っておく。

 この俺の言葉にギルド長はお茶を一口飲んでから言う。


「有難う。それじゃあそっちは明日に回すわ。報酬金はいつでも取りに来ても良い様にしておくわね。で、問題は無かった、で良いのよね?」


 コレに俺はゲルダと顔を見合わせて同時に「無かった」と口に出す。

 ギルド長はこれにもの凄く、そして一瞬だけ眉間に酷く皺を寄せた。しかし即座にソレも元に戻る。


「まあ、良いわ。二人が無事に帰って来てくれただけで良しとしておきましょ。あんまり追及すると余計な頭痛の種を抱える事になりそうだし。それじゃあ、お疲れ様。」


 この言葉でこの場は解散となって部屋を出る。そこで俺は訊ねた。


「あ、解体した素材はどうする?どっか出せる場所あるか?」


 これらの事に関しては相談して買い取り金額は全てゲルダの口座に入れる事となっている。これらの手続きもしないとならない。

 ここでゲルダは心配を口にする。


「解体場に行くからそこで出し・・・あぁ、同僚の目があるだろうしどうするかねぇ?」


 手ぶらでいきなり解体場に入った俺がインベントリからドサドサと解体された素材を出したら大問題だ。

 しかしコレはそもそも誰の目にも見られていなければ何ら支障は無い訳で。


「周りからこちらを見えなくさせる魔法が使えるからソレを発動させてから出せば良いかな。」


 俺のこの「魔法で何でも解決!」発言を聞いてゲルダがやはり機嫌を悪くする。じろりと俺を睨んで来る。

 しかし何もここでツッコミを口にしないでゲルダは無言で解体場に向かいスタスタ歩いて行ってしまう。

 コレに俺は直ぐにゲルダの後を追う。そして解体場に到着したらゲルダが無言で「ここに出せ」と一つの台の上を指さす。

 俺はコレに素直に従ってゲルダの解体した魔物の素材を並べていく。

 出し終えれば後は用は無いと言わんばかりにゲルダが手をひらひらと俺へと振って来る。

 別に俺もこれ以上ここに居ても仕方が無いのでさっさと解体場を後にした。


 ギルドを出て俺はこれからどうしようかと背伸びをしながら天を仰ぐ。


「さーてと。何だかんだとあっちコッチにフラフラすると何かしらこう言う風に仕事しちゃってるんだよなぁ。何でこうノンビリできないかね?」


 確かここへは最初ギルド長の顔をちょっと見に来ただけだったはずだ。それが依頼を受けて欲しいだのと言った話の流れになってゲルダがいきなりキレながらギルド長室に突撃してきて、と。


「帝国の宿も引き払ってレストの所に暫くガチ引き篭もりしてみようかな。」


 しがらみの事は一旦何も考えない様にして誰も来ない場所に引き篭もる計画を頭の中で思い浮かべる。そして。


「よし、従魔闘技場の方も脱退するか。」


 俺はそう決めてワープゲートで帝国に戻った。

 宿を引き払う前に俺は闘技場の方に向かう。そして通路に居たスタッフに声を掛ける。


「登録の解除をしたい。手続きは何処ですればいい?」


 そのスタッフは最初この言葉を聞いて「は?」と言った感じの顔になっていた。

 しかし俺の事を認識すると大慌てになりながら「こちらでお待ちください!」と、どうにも空いているのだろう客室で待つ様に言われてしまった。


「あー、そうかぁ。俺ってド派手にここでやらかしてるからなぁ。こんな短期間で去るとは思われて無かったのかもな。」


 メールンにはここの登録の際には伝えてはあったが。他のスタッフがその事を周知されていなかった場合は先程の反応みたいになるだろう。

 一躍有名人になったこの闘技場のスターがいきなり「やめる」と言ってくるのだ。慌てるのも無理は無い。


 そんな感じで10分程待たされた後にメールンともう一人スタッフが部屋へと入って来た。

 そして真っ先にメールンが俺を説得して来る。


「エンドウ様、どうか考え直しては頂けないでしょうか?・・・ソレが無理でしたら後一戦だけ、一戦だけ出場をお願いしたく。」


 メールンともう一人のスタッフは深々と頭を下げて俺の返事を待つ姿勢になった。俺はこれに対して。


「うーん、先ずここの登録を解除するのは決定事項かな。ソレと一戦だけ、って言うのはやっても構わない。ただし、それにはちゃんと理由を聞かせて貰う。」


 俺のこの返答に応えるのはどうやらメールンでは無くもう一人のスタッフの方だ。


「この度はエンドウ様を「殿堂入り」にするかどうかの会議がありまして。その、結論から申し上げますと、もう一戦した際にエンドウ様が勝利をすれば、と言った決定がされまして。」


 どうやらこのスタッフ、メールンよりも上役である様だ。良く見たら胸の部分にバッジが付いていた。

 これがどうやら上級スタッフと言った証なのかもしれない。

 どうもこの従魔闘技場は俺の事を「殿堂入り」なんてものに閉じ込めてコントロールしたい、或いは利用したいらしい。


「じゃあその一戦の相手は?対戦相手の従魔はどんな奴を予定してるのか、教えてくれない?」


 俺は公平性的に見てこの求めにこのスタッフは答えられないだろうと分かっていてこんな質問をしてみた。

 そして予想だときっとこの最後の一戦とやらに出てくる従魔はきっと「アレら」だ。


 しかしここで以外にもスタッフはその出場従魔を答えてくる。


「火空蜥蜴に岩塊蜥蜴です。」


「うーん、やっぱりな。どうやら情報が深い部分まで得られなかったみたいだね。流石にギルド長が悪戯好きだから、そこら辺の情報は流出させなかったか。」


 俺のこの言葉でメールンもスタッフも「はい?」と言った顔になる。

 次に言う俺の言葉で二人の顔はさらに間抜けな呆けた顔に変わる。


「その二匹を捕まえて冒険者ギルドに納品したの、俺だから。取り敢えずは俺の登録解除の件はまた明日来るとしようか。どうせその二匹と戦っても俺が絶対勝つし、無駄な事する必要あるかねぇ?」


 この発言で固まっている二人の横を俺はさっさと通って部屋を出た。もう今日はこれ以上要件も無い。

 後の事はここの役員たちがまたワイワイガヤガヤと騒いで結論を出す事だろう。

 最後の一戦の事は俺は別にどうだっていい。やるならやるで構わないし、それを中止にして俺の登録解除をしてくれるならそれもソレ。

 別にここを止めるにしても、一戦するにしても、こちらに急ぐ用事が他にある訳でも無いのでどちらに転んだ所で俺の中では何ら問題は無い。


 さて帝国はあいにくと雨なので今日の残りは宿で酒でも飲んでゆっくりとするつもりである。別段特にやらねばならないと言った事も思いつかない。

 明日にまた闘技場に顏を出す事になるのでもう一泊だ。チェックアウトの手続きは明日となる。


「さて、レストの所に行くなら土産は持って行くべきだよな。屋台飯を大量に買い込んで行こうかな。自分で飯作るのが何だか面倒だし。酒も持って行ってゆっくり二人で飲んで語らうのも良いかも?」


 誰も来ない孤島である。邪魔されない、そして俺も俺で何かと余計な事に巻き込まれないだろう環境だ。

 あの場所に辿り着くには大海原を行かねばならない。それを乗り越えて辿り着くなんてこの世界の船で、技術で、食料で、それが出来るとは思えない。


「・・・ん?今何か妙な感覚が・・・気のせいか。宿に戻るとするかな。」


 俺は闘技場を出て宿に歩いて向かう。今日は雨であるので従魔闘技場も試合は中止なのか客の姿が見られない。

 宿に着いたら受付カウンターに居たスタッフに酒とツマミを部屋に持って来て欲しいと伝える。

 そのまま自分の部屋に入って深くソファに座って俺は大きく溜息を吐く。


「さてと、久しぶりに静かな時間を堪能しますかね。」


 その後に運ばれてきた頼んでおいた酒とツマミを受け取って俺は何も無い時間を過ごした。

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