バレたらしょうがない
取り敢えずは先にまた俺が先行して飛行して火口側まで行く。そこからワープゲートでゲルダを連れてくる。
「はぁ~、凄い光景だ。モクモクと煙が凄いわ。」
火口の淵に立ってそこから覗き込めば今回の捕獲目的の火空蜥蜴が軽く三十は居た。
そして今は火山が活性化しているのか、どうなのか?煙がそのすり鉢状の中の中心からモクモクと上がり続けている。
確か飛行して街の手前で止まった時には今よりももう少し煙の立ち上がり方は控えめだった様に思う。まあ遠目で見ているから目測が誤っていると言った感じもするが。
「さて、アタシもこれからどうしたら良いかは分からない。どうするんだ?」
情報を知っていて、それで実際に現場に行った事があるかと言えば、無いだろう。
ゲルダが俺に教えてくれた情報はきっと自らで調べたか、或いはそう言った情報を扱っている機関などから以前に仕入れたりした事があるモノであろう。
高位の冒険者でもこの火空蜥蜴の狩りは困難だと言っていたのだ。ならばゲルダがここに実際に来た事が無い可能性の方が高い。
「ゲルダからは意見は?何かあるのであれば今言っておいて欲しいし。何か注意事項があれば先に聞かせておいて欲しいんだけど。」
「そんなのは初めて来たアタシに聞かれてもなぁ?」
「それにしてはここ登る時に堂々としてたけど?」
「そんなもん引き返すでも無けりゃ観光に来た訳でも無いんだ。登るのが当たり前だろ?それ以外にやる事なんて無いんだから愚図愚図してる暇があったら登るだろ?」
「ごもっとも。」
さて、下らない会話はここまでだ。まだ俺たちは火空蜥蜴に見つかってはいない。
まあ見つかる事は無いだろう。俺が事前にバレない様にと魔法で光学迷彩をかけているから。本当に怖い位便利だ、魔法ってやつは。
「さて、アレの中に石ころ一つでも投げ入れれば一斉にこっちに飛んできそうだな。」
あの群れは小さい方なのか?或いはあれが標準なのか?もしかしたら餌を摂りにこの場から離れている個体、或いは群れが居る可能性もある。
「うーん、捕まえるのは簡単だろうけど。あの中から一匹だけ引っ張り出すのは面倒そうだなぁ。」
地形的にもそうだし、群れになっている事も邪魔だ。俺の「魔力固め」で無力化しても良いのだが。
俺たちが一匹捕まえた後のこの群れの動向が気になる。仲間を連れ去られた後のこの火空蜥蜴の群れはどの様な反応をするのか?
「なあ、あいつらは仲間意識とか高い系?そうなると色々と俺たちの仕事の後に暴れ回って他に被害が及ぶとか無い?」
「アタシに聞かれても分からねえよ。こいつらの生態調査もそこまで進んでる訳じゃねえからな。言っただろ?高位冒険者でも近づかねえって。そんな危険な魔物だ。命がいくつあっても足りやしないよ。」
確かにそうである。研究者がこんな場所にまで登って来て、そして魔物の生態調査などをして、さて、それで研究を進めて行く上でどれだけ死ぬかと言う話である。
登山するにしてもかなりこの火山は急斜面。転落の危険が多大。
火口付近は何処にも隠れられそうな場所は無く、魔物に見つかれば即座に襲われるだろう。
魔物は火口の内側に群れて固まっているのでソレに近づいて調査、などと言った事は自殺行為に近い、と言うか、これは身を守れる手段が無ければ自殺だときっぱりと言い切ってしまっても良いだろう。
そもそも火口の煙がモクモク出ているソコへと調査中に落ちてしまえばそれで簡単に死ねる。
「はぁ~。しょうがない。大人しくさせるには俺の魔力をぶつけるしかないみたいだな。」
師匠から止められているが、今回はちょっとくらい解禁しても良いだろう。
ここは別に人口密集地では無いし、魔物が暴れない様にさせる為に使うのだ。
魔力を発するのは短い時間、一瞬だけにするつもりだ。それもあの群れに対して指向性を持たせて発するつもりである。
これをやれば不用意に火空蜥蜴たちは動かなくなるだろう。
「と、思った所で一匹デカいのが戻って来てるな。二回り位大きいか?」
俺たちの居る場所に一瞬だけ影が通り過ぎた。それは遥か上空を飛んでいた。この群れを纏める個体なのだろう。その大きさは相当な巨体である。
この個体の大きさを確認したゲルダはキラキラした目でその火空蜥蜴を見ていた。
「すげぇな・・・飛んでる姿が美しいねぇ・・・」
まあゲルダの言いたい事は分かる。雄大だと言いたいんだろう。自然の美しさと言うやつである。
「で、アレの大きさは普通くらいなのか?」
「だから私が知るはずも無いっての。何でもこっちに話を振って来るんじゃないよ。」
聞かれてやっと思い出す、と言った小っちゃい情報などがあるかもしれないので俺はこうしてゲルダに細かく聞いてみたりしているのだが。
鬱陶しがられるのならばもうもうこれ以上は聞かない方が良いだろう。俺がさっさと一匹捕まえて檻に入れて帝国に運べば良いのだから。
「とは言え、どれ位の成長度の個体を連れて行けば均衡が保てそうかねぇ?」
若い個体の方が良いのか、老いた個体の方が良いか。とは言っても俺はこの火空蜥蜴のそう言った見分けはできない。
こうなったらクロの時みたいに脅し付ける様にしてあの群れからイケニエでも差し出さる様に仕向けよう。
と思った瞬間にさっきまで空を飛んでいた群れのボス個体だろう火空蜥蜴がこちらを警戒する様に顔を向けて上空で旋回しているのに俺は気が付いた。
「バレた?」
姿さえハッキリと向こうに見えていなければ大丈夫だろうと思っていた。しかしどうやらそれだけでは足りなかった様だ。
「キュエエエエエエエエ!」
上空でその鳴き声は響いた。コレに寄って一斉に上空に飛び立ち始める火空蜥蜴たち。
「おい、エンドウ、バレた。逃げるぞ。」
ゲルダはそう言って下山をする体勢になるのだが俺はそれを止める。
「まあ慌てなさんな。逃げるまでも無いから。」
「・・・大丈夫なんだな?」
「問題無い。」
俺がそう答えた時、空が真っ赤、と言うか、オレンジに染まった。
ソレは奴らが一斉に吐き出してきた火球である。空を埋め尽くさんばかりのその火球の数は俺たちにそのまま降り注いでくる訳で。
一匹が一発、合計で三十一発。ボス個体だろうその一発だけが周りの他の火球よりも一回り大きいサイズだ。
それが俺たちの周囲で爆発を起こす。それこそ爆撃の如くに。
「ゲルダ、耳は大丈夫か?咄嗟に障壁張ったけど音は遮断しなかったからさ。」
「・・・こっちは大丈夫だ。生きた心地はしなかったけどな・・・」
もの凄い形相で睨まれながらゲルダにそう言われてしまう。説明している時間は無かったのだからこれくらいは許して欲しい所だ。
とは言え、コレで終わりじゃ無かった。第二波が既に準備されており、それが発射されそうになっている。
「ゲルダ、もうちょっと耳を塞いだままでお願いするよ。こいつらが先ず後何発撃って来るのか、その限界を知りたいからな。それにあいつらがコレで諦めてくれるとコッチも楽だしな。」
「まだくるのかよ・・・」
そんなやり取りをしている間にも第二射が撃ち込まれる。それがまた俺の張った魔力の障壁に阻まれてドッカンドッカンと爆発する。
周囲にもその爆発した余波と火の粉が舞い上がってまるで地獄と言って良い様な光景になっている。
この二撃目の攻撃が収まった後に俺は即座に三発目が来ると思っていた。しかしそれが来ない。
上空で火空蜥蜴はこちらの様子見をしているのか、どうなのか?静かに旋回してクルクルと俺たちの周りを警戒しつつ飛び続けている。
「頭が大分良いらしいな。こっちに被害が無い事をしっかりと認識してるみたいだ。なるほど、賢い賢い。」
「・・・おい、余裕ぶってて大丈夫なのかよ?と言うか、あいつらの火球を事も無げに防げてる時点でおかしいにも程があるんだがな・・・」
ゲルダが呆れた声でそう言った瞬間に「ガキン」と言う音がする。俺たちの背後だ。
ソレはいつの間にか俺たちの背後よりその爪で串刺しにしようと急襲してきた火空蜥蜴。
しかしこの攻撃は俺が張ってある魔力障壁で防がれ弾かれている。コレで火空蜥蜴はどうやらこちらの意識の隙を狙うと言った狡猾な事も出来ると言うのも判明した。
この音にギョッとしてゲルダが背後を振り向いた時には火空蜥蜴は再び空へと飛び上がっている。
「おい、こんな状態で捕獲なんて無理だろ。しかもこの調子だと逃げられな・・・ああ、お前にはあれがあるんだよな。別に焦る事なんてなんも無いとか、ははっ、ドンダケだよ本当に。」
ゲルダが乾いた笑いを漏らす。ゲルダの言うあれとはワープゲートである。
逃げようと思えばこの障壁の中にワープゲートを出して別の場所に移動すれば良いだけだ。
なので何も焦る事は無い。そもそも俺はこの火空蜥蜴の攻撃を針の先程も通すつもりは無い。
「さてと、あんなに高い所に居るとコッチがやりづらいな。アイツらの動きを封じて・・・単純に墜落なんてさせたらあいつら落下の衝撃で死んじゃうな?「魔力固め」で守ってやっても良いんだけど。それもまだ勿体無いか?」
この魔物がまだまだこちらを仕留める事を諦めていない以上はどの様な行動をまだしてくるのかの観察をしてみるのも一興かと考えてしまう。
研究が進んでいない魔物の生態なのだ。ちょっと見てみたいと思ってしまった。残りの攻撃行動の種類は後なにが残されているだろうか?
火空蜥蜴の攻撃行動はそもそもその吐き出す火球と後ろ足の鋭い爪に寄る強襲だけなのか?
他にもっと意外な行動を取ったりしないのか?そこら辺をちょっと知りたい。
「ゲルダ、まだもうちょっと我慢はできるか?あいつらが他にどんな思い付きの攻撃をしてくるかちょっと観察したい。アイツら賢いみたいだし、何かもっと面白い行動をしないかどうか待ってみたいんだ。」
「・・・余り時間は掛けるなよ?それなら、まあ、良いさ。鉱石を集める事も忘れるんじゃないよ。」
と言った瞬間に障壁にあちこちからガキンガキンとその火空蜥蜴の爪が弾かれる音が連続で響いた。
どうやら一体目は様子見、今は本番と言った感じで一斉に襲い掛かって来た様だ。
一回目で完全に攻撃が防がれている事をマグレだと思ったのか、どうなのか?障壁を壊そうとぶつかってくる爪の攻撃は激しいのだが、それはずっと弾かれ続けている。
「うーん?ボス個体だけはこっちに飛び込んでこずに上空で観察してきてるな。なるほど、体躯が大きくなるとその個体の脳も大きさが増すし、思考する力も一段階それで上がってるって事なのか?ちゃんとこっちの出方を窺ってる様に見えるな。」
一向に破壊できない見えない壁に爪を立て続ける火空蜥蜴たち。それでも上空でボス個体が「ギャア」と一鳴きしただけで攻撃を中止して空へと一斉に飛び上がって行く。
「おー、統率力も相当だな。さてはて、じゃあ諦める、って事は、果たして知っているのか、そうで無いのか。」
俺はボス個体に注目を続けた。次はどんな事をしてくるのかと言った観察を続ける。
しかしずっと俺たちの上空を旋回し続けるだけで一向に行動に出てこない。どうやら手詰まりと言う事の様だった。
「ならお終いだな。・・・よし、じゃあちょっと魔力を放出してみるか。久しぶりにやるから絞り具合をしっかりとしないと余計な被害が出そうで怖いな。」
俺は右手を何度か握ったり開いたりを繰り返す。
そしてボス個体のその身体から発している魔力の量をジッとよく見て観測する。
「よし、それじゃあいくか。」
火空蜥蜴のあの身体の大きさで、重さで、あんなに自由に空が飛べるはずが無い。これはようするに魔法の効果であろう。
ボス個体の魔力量よりも少し多めに魔力を放出して奴らにぶつければ、俺が奴らよりも強力な存在だと認識して大人しくなるのではないかと勝手な想像をする。
そして魔力をとうとう放出した。この魔力をぶつける相手は空に居る。無駄にこの火山周辺に被害を出さない様にと出力、範囲を絞って上空目掛けて掌から魔力を発する。
その効果は直ぐに現れた。円を描く様に飛んでいた火空蜥蜴の群れは一斉にバラバラに飛び回り始める。まるで混乱をきたしたかの様に。
「ギュエエエエエエエエ!」
その後は一拍してボス個体が大きく一鳴きすればそれが徐々に収まって行く。そして。
「おお?ゲルダ、どうやらあいつらは逃げも隠れもしないらしいぞ?自然界の生物だからてっきり多くの数が逃げ出す結果になったりするかもとか思ったりしたんだけどな。」
俺がそう言って振り向くとそこには震えるゲルダが。
「・・・化け物じゃねーかよお前・・・何でお前みたいな奴が平気で街中を歩いてやがるんだ・・・普通におかしいだろ・・・ゾッとする所じゃねーよ・・・」
絞り出すかの様に一言一言ゲルダは俺を化物呼ばわりして来る。身体を縮こませて俺から少しでも距離を取ろうとしてかその体勢がおかしくなっている。
上半身だけ「ドン引きだ」と言いたげに斜めに構えて俺を見るその目はまるで非難する様な眼差しだ。
だけど一歩も引き下がっていない所を見るに、俺とのこれまでの付き合いでちゃんと信頼はしてくれているんだろう。
「あー、どうやらゲルダは俺の出した魔力を感知しちゃったのか?・・・はぁ~。だからって化物呼びするのは酷くないか?別に俺はこんなだからって悪事を働いたりする気は無いし、暴れたりなんてする気は一切ないぞ?そんなに怯える事無くない?」
「おま・・・自分の事を一切何も分かっちゃいねーのかよ・・・馬鹿なの?」
「おおぅっふっ・・・いきなり辛辣な言葉をアリガトウ・・・それにしても賢者呼ばわりされるのは多かったけど、馬鹿ってきっぱり言い切られた事は無かったかな?ちょっと新鮮だ。まあ、確かに自分が賢い人間だと思ってはいないけど。それにしたって馬鹿でも無いとは思うんだけどなぁ。」
俺の返しにゲルダがさも「哀れな奴」と言いたげな視線を向けてくる。解せない。
そんな時に火空蜥蜴に動きがあった。数体が俺たちの前に降りてきたのだ。
これには俺は「まだヤル気か?」と思ってそのまま向こうの出方を様子見していたのだが。
「おい、エンドウ、これはどういう事だよ?何でこいつらお前の前で大人しく突っ伏してやがるんだ?」
「・・・アレ?これって平服してるって事?あ、そんな感じですか?」
俺の前で「降参です」と言いたげに地面にべたッとその身体を伏せている火空蜥蜴。その中にはあのボス個体も居る。
どうにも群れの総意らしいのだコレは。その代表としてどうやらボス個体含めて数体が俺の前でいわゆるこれは「服従ポーズ」を取っていると見られた。
「・・・あー、なるほど?じゃあちょっとこっちの意思を伝えてみようかな?上手く行くかどうか・・・おっと?どうやら良い感じ?」
クロにやっている様に俺は自分の意志を乗せた魔力を火空蜥蜴に流す。
するとボス個体が「クエ」と一鳴きして平服している中から一匹が立ち上がって前に一歩出てくる。
どうやらその個体を俺たちに差し出すと言う事らしい。
「ゲルダ、取り敢えずコレで魔物の捕獲は終了だ。後は鉱石を探そう。」
「お前、今のこの状況が普通じゃ無いと分かってるか?驚きを通り越してアタシは逆に冷静になり過ぎてるんだが?」
「えー?こんな時にそこ気にするって今更じゃない?本来の目的は魔物の捕獲だし、そこはお疲れさまって言う所だよな?」
俺は火空蜥蜴に向かって手をひらひらと振る。すると蜥蜴たちは各自一鳴きした後に空に舞い上がって行った。
「それじゃあ先に帝国に戻ろう。前と同じで先にゲルダが前触れとして報告しに行ってくれない?」
そう言って俺はワープゲートを出す。コレにゲルダは「気が乗らねえ・・・」とボヤきつつもワープゲートを通る。
「さて、それじゃあその間に俺は鉱石をソナーで探してみるか。ここじゃ何だし、もうちょっと下に降りて探すか。」
ここは火空蜥蜴が多く居る場所だ。なので魔力ソナーに余計な物が引っ掛かって来ない様にと別の場所に移動をする。
それにひょこひょこと不格好な歩きで付いて来る捕獲?した火空蜥蜴。どうやら空を飛ぶのは得意なようだが、地を歩くのは苦手な様で。
「意外に可愛い所があるんだな火空蜥蜴って。コケたりしない様に道を少し均しておいてやるか。」
足元の安全確保は俺の為でもある。そこら中がゴツゴツとした石だらけで俺も歩き難いのは確かなのだ。
そこらじゅう見渡す限りゴロゴロとデカイ石が転がっている。それを魔法でサッと片付けると均された平らな斜面となってスムーズに移動ができる様になった。コレで転ぶ心配が大分減る。
「さて、相当コレで距離は取れたか?それじゃあここらで軽く一回やってみるか。」
俺はそう思って魔力ソナーを足元からその地下へと流し込んだ。調べるのは借りてきたサンプルの鉱石、コレの在処だ。
「うーん?ここの真下に丁度その鉱脈があるのか?凄く大量に引っ掛かって来るんだが。」
先ずは一つ目が見つかった。どうやらここの火山は鉱石の山と言った様子である。魔力ソナーでサンプルを調べ、ソレと同じ物が地中に無いかどうか簡単に調べようとしただけだったのだが。
これを掘り出せば良いだろう。とは言えだ。相当広い範囲にその鉱脈がある。
これらを全部俺の魔法で回収してしまえば、そこに脆い地層、大空間ができてしまう。
そうなれば崩落の危険もあるし、その場所に一気に火山の噴火でマグマが溜まる場所になったりするかもしれない。そうしたらそこから一気に噴火口が追加、となって地形が大幅に変わってしまう。
まあそう言ったモノは偶然やら噴火の規模などで変わるかもしれないし、そんな事は起こらないかもしれないのだが。
ソレでも安全の為にも埋めて行かねばならないだろう。掘って、はい、ほったらかし、と言った事は無責任にも程がある。
そうなれば一気に鉱脈を吸い上げてしまわずに、回収した部分に少しづつ地層を寄せて隙間を無くして行くなり、そこら中に転がっている無数の石を補填として埋め込んでいくなりすればいい。
「時間が少しかかりそうだ。もう一つのサンプルも回収しなきゃいけないしな。とは言えもう見つけてあるから場所は分かるけど。」
今の場所からもっと下山した所にその鉱脈は走っていた。そう、走っていた、だ。
その鉱脈は今真下にある鉱脈溜まりと言った塊りになっている訳では無く、まるで川にでもなっているかの様にその鉱脈が長さ数百メートルにも亘っているのだ。
「これは帝国にコイツを引き渡してからゆっくりと取りに来た方が良いかもな。じゃあ先に依頼の方はコレで終了させちゃうかね。」
俺はワープゲートを出して火空蜥蜴を先に通らせる。
別に魔力固めでこの魔物を操ってはいない。俺が「通れ」と命令しただけで火空蜥蜴はすんなりと言う事を聞く。
「さてと。それじゃあ時間的にはもうギルドは準備は終えてるかな?」
俺も直ぐにワープゲートを通る。出た場所は前回の引き渡し場所だ。
するとそこにはもう既に巨大な檻が用意されていて準備万端と言った感じだった。
ギルドスタッフが三十名、そしてギルドマスターも居る。ゲルダも一緒だ。
しかし誰も火空蜥蜴に近付かない。まあしょうがないかもしれない。
火空蜥蜴はどうやら見慣れない場所に瞬時に移動した挙句に人に囲まれているこの状況に混乱しているのだ。
翼を大きく広げて、口を盛大に開けて、少しでも自らを大きく見せて周囲を威嚇。
それ以上一歩でも近寄れば襲い掛かるぞ、そんな空気を纏っていた。
「落ち着けよ。」
俺はそんな火空蜥蜴の身体にポンと手を置いて一言。するとしおしおと萎びる様に火空蜥蜴は翼を閉じていく。
大きく開けていた口もゆっくりと閉じていき、今度は冷静に周囲を見渡して観察し始めた。
「それじゃあこいつを引き渡しますね。依頼達成って事で良いですよね?・・・あー、一つお願いして良いですか?」
俺は未だにこちらに近づいて来ないギルドマスターに声を掛ける。コレで終わりだと。
そこについでにちょっとした思い付いた事を頼んで見ようと続けて言葉を吐く。
「魔法で契約する所を見学させて貰えません?」
俺は正式に魔物と契約する場面を見た事が無い。なのでソレを一目見ておきたいと思ったのだ。
最初に帝国に来た際にクロにやられたアレはノーカンである。
しかしギルドマスターから返事が来ない。ゲルダの方はと言うと呆れた目で俺を見て来ていた。
そしてどうしてギルドマスターが依然として動かないのかを説明してくれた。
「捕獲する魔物を選んだアタシがこう言うのも何なんだけどよ?そいつをこんな間近で目の前にしたら普通の奴らはこう言う反応するもんなんだよ。」
要するに、ビビッて未だに体の自由が利かないと言う事らしかった。
「え?ゲルダは大丈夫そうだったじゃん?え?ゲルダは普通じゃないって事?」
「バカを言うなよ。あんたの前にひれ伏した火空蜥蜴の数にアタシは腰が抜けそうだったのを辛抱堪えていたんだぞ?」
根性と胆力が凄いと言う自慢、と言う訳では無い様だ。ゲルダは大きく大きく一つ溜息を吐き出してから。
「おい!何時までボサッとしてる気だよ!さっさとやる事やれってんだ!」
呆けてしまっていたギルドマスターにゲルダはそう吠えて活を飛ばす。
コレにやっと気を取り戻したギルドマスターが俺に向かって。
「あー、えー、っと、そのー?檻の中に入る様に命じて貰っても良いかね?エンドウ?」
こうして俺は火空蜥蜴に檻に入る様に命令してやっとこの場のスタッフたちが深呼吸をして落ち着きを取り戻したのだった。
その後はその場で依頼書に完了のサインをギルド長に入れて貰って依頼は達成だ。
そして俺はその後に火空蜥蜴が連れて行かれる場所まで一緒に向かう。
その道行きでどうやって魔物との魔法契約をしているのかを聞いてみた。するとその手順は別段簡単だった。
先ずは魔物に契約の魔力を半ば無理矢理受け入れさせる為に弱らせるそうだ。
その方法と言うのは餌を与えない、と言う飢えを利用するのだそうで。
「ふーん?じゃあそもそも魔物が弱っていなくても受け入れる事を了承していればすぐにでも契約魔法は完了するんですね。じゃあやっちゃいましょう。」
俺が捕獲?服従させた火空蜥蜴は別に弱らせないでも俺が命令すれば契約魔法を受け入れるだろう。
コレにギルド長がちょっとだけ「何言ってるか分かりません」みたいな顔をする。
契約をして魔物を従わせる所を見学したいと俺が言った事を了承してくれていてその責任者として一緒に魔物を保管?する倉庫に向かっている。
「野生の魔物は人に懐かないからね基本そもそも。直ぐに魔法を受け入れる魔物は最初から飼育された特殊な魔物だけだね。・・・できるのかね?」
そう言えば確か小さい状態から飼育する方法で魔物を調教する特殊な職業の話は聞いていた。
そこで俺へと「普通は無理だよ」と説明をしていたギルド長は最後にようやっと気付いたみたいで。
「まさかこの魔物に今すぐにでも契約魔法を施す事が可能なのかね?」
勢い良く俺の方を向いて目を見開いてくるギルド長。俺の言葉の意味をこのタイミングで理解したらしい。
「むむむ・・・?では、急いで係りの者を集めよう。ソレともう今回は既に購入契約は済ませてあってね。何を捕まえて来るかは分からないと説明をしていたのだが、なりふり構わずその購入者は押しに圧して来てね。その購入者の所の従魔師にも知らせを出して直ぐに来るように連絡も取るとしよう。」
ギルド長は指示を飛ばす。スタッフたちはコレに即座に散って仕事を素早く終える為に走り出している。
さて、ゲルダはと言うと先に宿に戻っている。どうやら相当に疲れたらしい。
俺はこれが終わったらまだ用事が残っている。鉱石の採取だ。
「明日でも良いんだけどな。まだ今日を終えるには少し余裕もあるだろうし。パパッと取って来て明日は鉱石を渡して作って貰って。それでゲルダの休暇は良い具合に終わりかな?」
恐らくは新しい解体ナイフの使い心地を試す為に一体魔物を狩る流れになるかもしれないが。
ソレを入れて丁度良い位だろう。色々と今回もあっちこっちに飛び回ったものである。
こうして俺は準備が整うまで椅子に座ってこれまでのゲルダとの旅行?を思い出して待ち時間を潰した。