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どうしてもここで

 看板はどれも似たデザイン。二つ三つそう言った店に俺が入って確認していったのだが。


「駄目だな。似たデザインばかりの所は無理っぽい。ああ、でも、そうじゃない看板の店も駄目だったけどな。」


 これなら大丈夫だろう、そんな思いで入ったまるっきり似てない看板の店に一度だけ入ってみたけれども断られている。

 どうにもメインストリートにある店は全部があの「系列」か或いは「提携」と言った形になってしまっているらしい。


「・・・すると、もっと路地裏だとか、通りからすげー離れた場所にある店じゃ無いと駄目って事か?」


 ゲルダはそう言って小さく溜息を吐いた。店探しが難航を極める様相を呈してきたからだ。

 何せゲルダの求める解体ナイフ、これは特注で作りたいとの事である。

 ならばその求めに充分な腕前を持つ鍛冶師の営む店が適正だ。それをこの街から見つけなくてはいけないと言う事になる。


 けれども街の人々にその話を聞こうにも「勘弁してくれ」などと言った言葉が返って来るのだ。

 これはどうにもあの店の影響、と言うか、脅しが街の人々に浸透していると言う事であって。


「どうやら支配されちゃってるんだな、あの店に。いや、支配なんて言ったらダメか。統一規格、って所なのかな?」


 俺はそう言葉を漏らす。そう、あの最初に入った店の取り決めたルールに従ってこの街は運営を整理したと言う事なんだろう。

 それまでは各店が混沌とした状態だったのではなかろうか?それで多くのトラブル何かも抱えていたに違いない。

 ソレを一つの巨大な企業が一気に纏め上げていったと。改革と言って良いのだろう。ソレでこの街は以前よりもきっとより良くなったと。


「それに従って無い店を探せって事か?冗談じゃないね。見つかるかどうかも分からないじゃ無いか。マルマルに戻って鍛冶店に頼んだ方が良さそうか?うーん?それだと手元に来るのが何年後になるか分からない。今ここでチャチャッと造って貰って使い心地を確かめたいんだけどねぇ。」


 腕の良い鍛冶師なら恐らくは三日あればナイフ一本作れるのだろうか?ゲルダのこの言葉だとそう言った感じを受ける。

 店を見つけるだけなら時間があればできるだろう。でもその店がゲルダの注文を受けてくれるかどうかは分からない。


 そうなればマルマルの鍛冶店で注文をしても良いかと言う判断になる。ここで労力を使うよりもそっちの方が楽だろうから。

 けれども、どうにもそうなれば予約制になるだろう。そしてゲルダの求める特注になればその品が手元に来るのに時間が掛かると。

 そしてそうなればそのナイフが微妙にゲルダの気に入らないバランスに調整されていれば?幾ら指定したり、或いは現物を職人に持たせてその感覚を覚えさせてもだ。

 もしかすれば出来上がりが上手くいかずに職人が納得しない、なんて言って最終的に職人の所からゲルダの手にその品が来るのが遅くなる可能性もある。

 そう言った場合にもゲルダが「これは違う」なんて気に入らなければだ。それを修正するにもっと時間と労力を掛けないとゲルダの手元には新たな解体用ナイフがいつまでもやって来ない事になる。


 だけども今こうして鍛冶の盛んな街に来たのであればそう言った手続きはかなり圧縮できるだろう。直接鍛冶師にナイフを預けて直ぐに製作に入って貰う。

 サンプルが手元にあれば職人も直ぐにソレをコピーすれば良いだけだからやり易いはずだ。

 そうなれば今回のゲルダの休暇の内に新品の解体用ナイフが手に入るのだ。この機会は逃したくないだろう。


「ここの通りはもう無理だろ。向こうに入ってみようぜ。アタシは何が何でもここで新調するよ。」


 ゲルダがそう言って大通りを外れた脇道へとスタコラ歩いて行ってしまった。

 誰しもがここを訪れたら通るであろう道には希望は無い。だったらそう言った道から外れた場所を探すしか方法は無いだろう。


「こんな寄り道になるとは思って無かったなぁ。」


 そんな事をぼやいて俺はゲルダの後を付いて行った。


 さて、こうして裏路地と言える場所を探すにしても後は勘と運である。そしてそれらは基本足で稼ぐしかない。

 客入りの事を考えたら目立つ場所に店を構えたいモノだ。だけども此処はそんな場所からは外れている。

 そんな場所で商売などは続けてはいられない。客が店を見つけて来てくれなければ、そして入って来てくれなければ、そして気に入って買って行ってくれなければ、売り上げには繋がらないのだから。

 そう、跳び越えるハードルが多過ぎるのである最初からこう言った立地は。

 稼げなければ店を畳むしかない。何時までも仕事の無い店でなど従業員は働いては居られない。

 そうやってどんどんと消えていく個人店とでも言えば良いか、何処もかしこも鍛冶店らしき家屋はあるのだが、開いていると言った空気が全く無いものばかり。


「何処も反応無し、か。」


 ゲルダはそう言った開店休業状態の店だと思われる店のドアをノックして回るのだが、これまで一件も人が出て来ると言った反応が無い。


「もしかしたらこう言う所の職人は大通りの店に引き入れられてそっちで働いて金を稼いでるのかもね。」


 ヘッドハンティング、と言ったら響きはカッコいいが、そうじゃないだろう。このなんとも言えない寂れた空気に俺は悲しい気持ちになった。

 これは生きる為にしょうがなく自分の店を畳んで大通りの店で一従業員として働くしかなくなる所まで追い込まれたと言って良いんだろう。

 自身の城となる個人の店を持てたのに、持ったのに、それを潰してでもしてその他大勢の中に紛れて働かなければ明日を生きる金も稼げない。何とも悲しい事だ。

 中には「晴れて一人前になれて独立」と言った形で店を出した者もいるだろう。親から店を継いで経営していた者もいただろう。

 しかしこうも激戦区の街ではその程度じゃ客が訪れないだろうし、客の取り合い競争にも負けるはずだ。何か突出した部分でも無ければ。

 夢破れて山河あり、だったか?なんか大きく違う様な気がするが。いや、兵どもが夢の跡?これもちょっと変な感じだ。


「どうする?今日中に見つけられるか?コレ?」


 俺はそうゲルダに問いかける。コレにゲルダは意地だと答える。


「もうこうなれば徹底的にこの街を探すよ。アタシは諦めたくはないね。」


「じゃあ俺もそれにお供しますかね。あ、空飛ぶ蜥蜴?別にあの岩塊蜥蜴みたいな変な特徴は無いんだろ?」


 空を飛んで火を吐くだけなら別に俺の敵じゃ無い。


(あれ?もしかしてこれってワイバーンって事?)


「あぁ?空を飛んでいる魔物は基本的に厄介だろ?・・・あー、エンドウにはそんな事は関係無いのか・・・」


 何故だかゲルダから諦めた様な感じで言葉が吐き出される。


「もうちょっと何かこう、言い方があるでしょ?溜息と共に、なんて言われ方されるとこっちも良い気分にはなれないよ。」


 俺はせめてもの抵抗と言った具合にそう言ったのだが。


「事実だろ?ここまでどうやって来たと思ってるんだ。エンドウ、アンタの魔法で空を飛んできたんじゃないのか?あぁ?」


「あ、ハイ・・・ソウデスネスイマセン・・・」


 ゲルダから少しだけ睨まれつつそう言われてしまい、これに俺は何も言い返せずに謝罪の言葉しか絞り出せなかった。


 そうやって歩き続ける事その後30分。ようやっと開いている店が見つかったが、そこは看板が無い。

 看板は店の顔だ。それが無いと言う事は鍛冶屋では無いかも?と思ったのだが。

 中の内装が雑貨屋とは思えない。ソレと店内を見回してみても商品だろう物が一切見当たらないのがおかしかった。

 どうにも鎧を着せて展示させておくのであろう木で出来たマネキン?の様なモノもあるので、おそらくは鍛冶屋、或いは武具店だと思われたのだが。


「ごめんください、どなたかいらっしゃいますかー?」


 俺はそうやって声を掛けてみる。ゲルダは店内をさっきからじっと見まわしている。

 もう一度同じ言葉をカウンター奥へと掛けてみたが、反応が無かった。


「コリャ開店休業だな。店主もいなさそうだし。店番も見当たらない。他を当たるか。」


 俺がそんな言葉にした時に店の入り口に人の気配がする。その後にもの凄く力無い声で。


「お前ら、ウチに何の用だ?」


 不機嫌さと諦めが大いに混じった声で用事は何だと聞いて来る人物。この店の店主だろう。


 振り向いたらそこには背の低いズングリむっくりなモジャ髭の男性。


(あー、これがアレか?ドワーフってヤツなのか?)


 樽と言って良いのだろうか?それに非常に図太い腕と脚が付いていると言った体系なのだ。

 それに生地の厚い素材でできた前掛けをしてる。頭にはバンダナを撒いていた。


 そこにゲルダが自分の腰に装着していたナイフを抜いてカウンターに置いた。


「アンタがここの店主かい?これと同じモノを作って欲しいんだ。」


 客と店との最低限のやり取り、そんな感じである。

 たったこれだけのやり取り。そう言われた店主は店の奥へと入って来てカウンターに置かれたそのナイフを見る。

 そのナイフはゲルダが言っている愛用していた解体用のナイフなんだろう。


 だがここで店主は言う。


「見ての通り、うちには何も無い。大通りの店に頼みに行きな。そっちの方が確実だろうよ。仕入れもできなくてな。材料が無ぇ。見た所、良いナイフだ。丁寧に使い込まれて処置も適切だな。だが、材料があったって暫く腕を振るって無いワシじゃあお前さんの満足いく物が作れん。錆びた腕を磨き直す用の余分な材料すら手元に無いんじゃお手上げだ。悪いな。」


 ナイフに触りもしない店主は一瞥するだけ。しかしそれだけでどうやらゲルダがそのナイフのメンテナンスを怠たったりしていない事を見抜いたようだ。

 そして丁寧に何故注文を受けられないのかを説明してくれた。


「材料の仕入れができないって、例のあの店のせいでって事か?」


 俺は何で仕入れができないのかを直ぐに予想し、それを質問した。これに店主が。


「まあ御察しだ。別に悪いこっちゃねぇよ。あくどい事してこの街の店を一纏めにした訳じゃねーんだ、アレは。今は安定してる。前みたいな皆バラバラのままで店をやっていたら後十年ももたずにこの街は寂れてただろうさ。どいつもこいつもいがみ合って、喧嘩して、足の引っ張り合いばかり。客の取り合いが酷くてな。我が強い野郎ばかりさ。時には犯罪まがいの事までし始めた馬鹿な奴も居やがった。まあそいつは直ぐに袋叩きにあって店は潰れるわ、追放されるわで割に合わない目に。何てのはあんたらにゃ関係無い話だったな。たまに人と話すと愚痴が漏れて止まらなくなっていけねぇや。とにかく、ワシらみたいな小さい個人店には材料が回って来ないって事さ今はな。だから諦めてくれ。」


 どうやらこの街の鍛冶屋や武具店が纏まった事には別段悪い事では無いらしい。

 しかし俺たちの用事からしてみれば良い方向に働いていないのが現状である。


「材料はやっぱりソレを産出する為の特定の組織があるって事で?俺たちが勝手に採掘してきちゃ駄目って感じ?」


 俺はさらに質問する。こう言う社会構造に俺たちが何も知らずに首を突っ込むのはいけない事である。


「そう言う事さ。決められた特定の採掘現場がある。それを経営する会社もある。それらはワシの所みたいな小っちゃい店にゃ何も素材を仕入れさせちゃくれねえんだ今は。クズ石一つワシらみたいな個人店には回っちゃ来ねえな。」


「じゃあその「特定」の場所以外で鉱石を取って来るのは違法とかにはならないのか?」


「・・・お前さんたちはここ等辺のモンじゃ無いんだな。ふぅ、馬鹿な事を言うもんじゃねえよ。まあ、答えてやるが。別にそう言った行為は御咎めはされねえ。年に一人か二人はそう言った馬鹿な真似をする奴が現れる。けどな、それは危険過ぎるってもんだ。自分の命を賭ける程か?冒険者を護衛に雇うにしたってあの山は強力な魔物の住処だ。命がいくつあっても足りねぇそんな場所の護衛の依頼なんて受ける奴は皆無だぜ。依頼を出すにしたって相当に高い報酬で無けりゃ食いつく奴も居やしねぇさ。ま、そう言う理由でどんどんとウチみたいな弱小は消えて行ってるのが現状だ。一人が運べる鉱石の量なんてたかが知れてる。そんな事を何度も往復でできる訳が無い。店の経営が護衛に払う依頼報酬で全部ぶっ飛ぶ。鉱石を取りに行くのに店が無くなるんじゃあ、こんな馬鹿げた話は無いだろ?」


 本末転倒と言う事だ。だけどそうなると。


「俺たちが勝手に鉱石を取りに行くって言うのは別に構わない訳だ。ゲルダ、ついでに鉱石も取って来よう。そうすりゃ一石二鳥だ。」


 俺は魔物の捕獲と一緒に鉱石を採取する事を提案した。


「まあ別にソレで良いんじゃねーか?アタシは新しい解体ナイフができりゃ満足だ。それじゃあ行くか。」


「・・・は?おい!おい!オイオイオイ!?ちょっと待て!チョトマテ!お前らよ!?馬鹿を言うな!あの山には高位の冒険者でも滅多に立ち寄らんぞ!?ソレを散歩気分でとか有り得ないからな?!」


 店主は俺たちが店を出ようとする所を止めて来た。でも別に俺はその止められた内容に別段関心は無い。だから別の事を聞いた。


「あ、そう言えばどんなのが「鉱石」か俺全くそこら辺ド素人だから行っても只の石ころとか持って来る所だった。あー、参考にできる物って店に残ってたりしません?ホンの一つまみでも良いんで。取り敢えずナイフに使う分の奴をお願いします。えっと、どんな種類がどれ位の比率とかも分かってたらソレも教えてください。」


「・・・何を言ってるのかサッパリなんだが?お前さんたちは一体何者なんだ?揶揄いに来た訳じゃねぇ、ってのはそこの嬢ちゃんが出したナイフの使い込み具合で分かったが。」


 店主は俺の顔を見た後にゲルダの顔を見る。その表情は「変な奴らが客に来ちまったなぁ」と言う微妙なものだった。


「単純に考えましょうよ。俺たちは貴方にナイフを作って貰いたい。しかし材料が無い。ならば俺たちが取って来る。ソレで注文のナイフを製作してくれればそれで良いんです。材料費は俺たちが取って来るから無料。別に勝手に俺たちが鉱石を取って来るので護衛とか依頼報酬とかは発生しない。支払いは製作費だけ。貴方の鍛冶の腕前だけを買う。これで納得して貰えます?」


 俺がざっくり説明したらコレに店主がポカンとした顔になる。

 人って奴はどうやら自分の価値観や常識などをぶち壊す発言を聞くとこうして思考停止してしまうらしい。


「・・・ぐふっ、ぐふっ、ぐふぁぁァぁああああああはっはっはっはああ!」


 と思ったら次には店の中のあちこちがびりびりと振動する程の大爆笑。店主はどうしてここまで爆笑するのか?その要素があの説明の何処にあったのか俺には理解できない。

 本人にしか分からない笑いのツボと言うヤツだろうこれは。気にしないでおく。


「分かった!ワシの腕を存分に振るう事を約束しようじゃねーか!そんなに気軽にあの山に入れるだけの実力ってのがお前さんたちにはあるんだろ?余りにも何も知らなさ過ぎる、って感じじゃねーからな、お前さんのその態度はよ。無謀でも無けりゃ蛮勇でも無さそうだ。ちょっとお前こっちこい。作業場に入って来な。参考になるモノが在ればいいんだろ?」


 俺は店の中、どうやらこの店主の仕事場に入らせて貰えるようだ。

 そのまま付いて行って奥へと入る。するとそこでどうにもガサゴソと部屋の隅にあった箱の中を引っ掻き回す店主。

 あーでも無い、これでも無いと、どうやら俺に見せるサンプルを揃える為に箱の中をひっくり返す。


「おうおうおう!これだコレ。ほらよ。こいつとコイツを出来るだけ持って来てくれ。最初も言ったが、今のワシの腕は鈍っとる。だからよ、いきなり本番、って訳にゃいかん。嬢ちゃんの満足以上の物を作ってやりたいからな。頼まれたとあっちゃこっちも半端な仕事はしたくねえ。ソレで良いな?試作品が充分作れるだけの量じゃ無けりゃ意味が無いからな?それだけの量を確保してくれるんだろう?」


 そう言いながらニヤリと笑って店主が俺に差し出してきたのは、どうやらゲルダのナイフに使うであろう鉱石らしい。そのどちらもビー玉くらいの大きさしか無い。

 さて、作業場を見渡してみればインゴットに製錬するのもここでやるんだろう。そこらにどうにも型が乱雑に置いてある。

 箱に入っていたのはその仕事の途中で落ちたものか、只のサンプルとして保管してあったモノかは分からない。


「じゃあちょっとコレ一緒に持って行っても?はいはい、じゃあ行ってきます。」


 こうして俺たちはヤル気を出してくれた店主に見送られて店を出る。その際に「無事に帰って来いよ!」と言葉を貰う。

 この後はゲルダに俺は休憩しようと提案して喫茶店?を指さす。コレに反対しなかったゲルダはさっさと席に座って店員に注文をしている。

 そこで俺は今後の行動に関しての希望を口にする。


「鉱石掘ってる現場見学しに行って見たいんだけど、良いか?」


 俺のこの言葉にゲルダの反応はと言うと。


「んあ?このまま捕獲に行くんじゃねーのか先ずは?」


 ゲルダの口からは「まあ当たり前だな」と言った素直な言葉が出てくる。コレに俺は単純に興味だと返す。


「実際の採掘してる仕事風景とかを見てみたいんだよね、只単純に。時間は掛けないよ。まあ見れなかったら見れないで良いんだ。ちょっとした思い付きだな、観光の一つみたいなもんだ。」


 俺のこの求めに対してゲルダは「ふーん、別にいいぞ」と言ってくれる。こうして俺たちは先ず鉱石採掘現場を見学しに行く事に。


 そうしてお茶で一服してから通行人に教えて貰いつつ歩いて辿り着いたのは鉱石採掘場の側の通りだ。

 ここは火山地帯、しかしその火山で採掘してる訳じゃ無い。ここはその火山から結構遠く離れた場所だ。

 そもそもがこの街もその火山の直近に存在する訳じゃ無い。この鉱石採掘現場があって、それに連なってできている。


「あそこの坑道で掘られてるんだな。さっきから荷袋抱えた厳ついオッサンが何人も行き来してるなぁ。」


 採掘坑道の入り口はかなりの大きさだ。何と言えば良いだろうか?雷門?くらいの大きさはあるだろう。相当にデカイ。

 崩落をしない様にと内側には支える枠が頑強に組まれている。真新しい木材が使われているみたいで最近取り換え直した様だ。

 長年ここは鉱石が掘られ続け、しかも今だにその資源が枯渇してはいないのだろう。多くの人々がここで働いている。


「おーい、まだかよ?アタシらの目的地は此処じゃ無いんだ。行こうぜ。」


 ゲルダがそう俺を急かす。確かに俺は時間は掛けないと言っていたし、只の興味の見学だ。長居は無用だろう。


「歴史を感じるねぇ。さて、それじゃあ俺は俺の仕事をしないとな。とは言え、ゲルダのナイフはついでだけどさ。」


 俺とゲルダは通りを外れて火山の方角へと向かう。そうやって歩いてある程度行くと途中で道が途切れている。


「まあ直接火山を開発やら調査に行くと言った事はしない訳だし、無意味だからなぁ。ここからは自己責任、って事なんだろうな。」


 俺たちは鉱石ゲットをしに行くのではあるが、そもそもが魔物の捕獲が本来の目的だ。

 危険地帯に入る事が大前提である。このまま真っすぐに進む。しかしこのまま呑気に歩いていても無駄に時間が過ぎるだけなので。


「ゲルダ、火山までは遠いし、到着まで歩きじゃ時間が掛かり過ぎるから、飛ぶぞ?」


「・・・却下だ。このまま行く。」


「おいおい・・・」


 どうやらゲルダは飛んで行くのはお気に召さないらしい。俺の提案に嫌だと、歩いて向かうと言ってくる。

 ならばしょうがないだろう。俺だけ先行して現地に行ってからワープゲートで迎えに来ればいいだけだ。ちょっとした手間だが。

 と言うか、ゲルダは来ないで宿でゆっくりとしていれば良かったのでは?

 その事を聞いてみたらゲルダからは「そんなのつまらねえだろうが」と返された。どうやら火空蜥蜴?とやらと直接対峙してその目で見たいらしい。


 この後は俺だけサッと飛行して火山の麓に。そこから待って居るゲルダの場所にワープゲートを繋げる。


「よし、それじゃあ通って。・・・って、何でそんなに嫌そうな顔するんだよ。」


 ゲルダは空を飛ぶだけじゃ無くワープゲートも納得いかないらしい。もの凄く渋々と言った感じで足取り遅くワープゲートを潜る。どうやら飛行するよりかはちょっとだけマシ、と言った具合なのだろう。

 そうして到着した火山の麓、熱気があって時折ゴゴゴゴと軽い地震を感じる。

 ここで俺は今回の目的の魔物の特徴をゲルダに詳しく聞いてみる。


「じゃあゲルダ、おさらいを頼むよ。これから捕獲する魔物の説明宜しく。」


「分かった。今回の捕まえる魔物は空を飛ぶ。その口から火炎の球を吐く。この山の火口付近に生息していて餌は周囲にある深い森で狩りをする。前足は翼と一体化していてその手は使い物になって無い。オマケ見たいな爪が生えてはいるが、脅威じゃねえ。だけどその後ろ足だ怖いのは。空からの強襲でその後ろ足の鋭い爪で掴んで来ようとする。奴らは人と比べれば遥かにデカイ。その爪一つで簡単に串刺しだ。それが片足で三本ある。掴まれたらお終いだよ。奴らは前足とは逆で後ろ足の方が器用だ。右足左足それこそ自由自在に操ってこっちを翻弄して来るって言う話もある。」


「んん~?口から吐いて来るって炎の球よりも、後ろ足の方が脅威って事?」


「あいつらの一番厄介な所は空を飛んでる事さ。地上に墜とせればそこまでの脅威じゃねえ。ちょっとデカイ蜥蜴だ。まあ火を吐くって事も危険じゃあるが。それでも耐火性の服を揃えときゃ焼死体になる事は避けられる。奴らを狩るのに一番欲しいのは腕の立つ弓士だな。奴らの翼膜に五つくらい矢が刺されば急速にあいつらの機動力は落とせる。まあ、落とせるんだがなぁ。」


 何だかゲルダがもやっとした感じで言葉を止める。そして。


「あいつらは群れてるんだよ。だから、高位の冒険者も無理して狩ろうとしないのさ。」


 ハグレ一匹だけであれば狩るのは容易い。しかしそれが集団であればたちまちに困難になるとゲルダは言った。


「だからあいつらの素材は滅多に市場に出回らねぇ。貴重な品だな。全身が血の一滴まで有用だ。翼膜は高い伸縮性を持っていて色々と使い道がある。骨は軽く頑強な癖に加工が容易い。肉はそこそこ美味い。貴重だからってその味よりも希少性で高値が付く。牙と爪はそのまま削るだけで切れ味鋭いナイフに早変わりだ。内臓と血を精製するとその成分が精力剤になる。目玉は宝石と同じ値で買われる。保存の為の特殊な溶液に漬けて一ヵ月も掛かるけどなその場合は。それもソレで希少性でかなりのお値段って訳だ。腱や筋なんかは弓の弦に加工されると最高級品になる。これは専門の職人の腕が必要になるが、その加工も難しいって話でアタシはソレを使った弓なんてモノは一度もこれまでにお目に掛かった事は無いね。」


「なるほどなぁ。じゃあアレか?一匹捕獲するだけじゃなくって数匹狩って行く?」


 ゲルダはちょっとだけ思考する。俺はてっきりゲルダが自分で解体したいと言って直ぐに「一匹狩ってくれ」と言ってくると思ったのだが。


「止めとこう。そんなモノを持ち込んだら大騒動だ。面倒に巻き込まれるのは嫌だね。・・・あぁ、でも、今回の捕獲はアタシの名前でやってるんだった・・・クソ鬱陶しいのが寄ってくるだろうねぇ。あぁ、クソ!その筋の奴らがちょっと踏み込んで調べりゃそこら辺の事は丸裸じゃ無いか。」


 狩るのではなく、それよりももっと難しいと言われる捕獲をするのである今回は。

 ならばどうやってソレを成したのかと言った質問が依頼を成功させた冒険者に殺到するだろう事は目に見えている。

 ちょいと調査専門の業者に頼めば誰が市場に素材を持ち込んだかは直ぐに割り出しをされると。そうなればゲルダの元には依頼を持って来る者が殺到、と。


「簡単に請け負うんじゃ無かったな。まあ良いさ。ギルドには口止めさせりゃ良いんだ。それである程度は抑えられるか。・・・そこら辺はエンドウがやってくれるんだよな?」


 ゲルダは今更俺を睨んで来る。そこら辺の事は俺が頼まずともゲルダが頼んでもギルド長は受け入れてくれるだろう。

 何せキレたゲルダをその目で見てギルド長は本気で震えていたのだ。この頼みは恐らくは断ったりはしないだろう。


 そんなこんなで俺たちは岩だらけの斜面を登って行く。

 そう、当然火空蜥蜴とやらの住処に向かわねばならないからだ。そこは火口付近だと言っていた。

 この山は活火山である。何時噴火してもおかしくない山だ。そんな危険地帯をこれから行かねばならない。

 そう言った環境もこの火空蜥蜴の狩猟を難しくさせている一つの要因であろう。

 軽い噴火でもして思わぬ場所から溶岩が噴き出てくるなんて事になるとそれだけで命がいくつあっても足りないし。

 噴火で空に舞いあげられた石が落ちてくる、それもまた命がいくつあっても足りない。

 身の危険がここでは常時発動中。そんな場所に好きで向かう輩など普通は居やしない。

 それなのにゲルダは別段そんな事を気にした様子も無い。そこに俺は声を掛けた。


「なぁ?空飛んで行こうよ。」


「却下。」


 やはりゲルダは飛行するのがトコトン嫌であるらしかった。

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