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なるべくなら早めに仕事は終わらせておくのが吉

「ああ、済まないな。まだ全く受け入れ態勢はできていなくてね。どれ位の量を持ち込むつもりだいそもそも?それがザっと分からないと場所の確保もままなら無くてね。」


 まだ俺はレストのあの引っ越しした城から持ってくるべき宝物のリストなどは作っていない。

 と言うか、そう言ったモノを作るにしたって専門家が必要で。


「あの二人はまだ手が空きそうにないんだ。今も夢中で執筆と纏めと編纂と、まあ、要するにだ。かなり時間が掛かると言う事だね。」


 皇帝があの二人と言ったのは歴史家のバガンゲルとジャモルフの事だ。

 あの二人の手が空かないとこちらに運び込むアレもコレもの判断が付けられない。


「もうそろそろ帝国からお暇しようと思ってたんだけどなぁ。その前に残ってた仕事を綺麗に片付けてから出発しようと考えてたけど。しょうがないから今抱えている仕事が終われば別の所に向かってみるかな。」


「二人の作業が一段落した所で君に連絡を・・・と思ったけど。どう言う方法でならいつでも君と連絡が取れるかな?君がこちらに一瞬で来れたとしても、余り遠くに行かれていたらこちらの連絡員が君を追うのに一苦労だ。それだと捉まえる事ができず意味が無いからね。」


 連絡手段はどうするのか?ソレを皇帝が聞いて来るので俺は答える。


「気が向いたら俺からこっちに顏を出すよ。まあ放置はしない様に気にする様にはしておく。五年も十年も間が空く、なんて事はしないから。取り敢えず聞いとくけど、ざっくりと後どれくらいで一息つく?」


 俺は魔石で作った例の電話の事を話さない。これは只の気まぐれだ。別に渡しておいても良いモノだとは思うが、それを今回は控えておく。渡した事を誰か他の者に知られると面倒が後で起こりそうと考えて。

 別に皇帝を信用して無い訳じゃ無い。誰にも言うな、見せるなと言っておけばきっとソレを守ってくれると思う。

 けれどもそれは短い間だけ。長い年月を預けっぱなし、といった形になるとどうにも不安が残る。誰かにバレやしないかと。


 だからここで歴史家二人が後どれ位で落ち着きを取り戻すのかを皇帝に聞いてみる。コレに返って来た答えはと言うと。


「・・・あー、ザっとこれまでの事を踏まえても。最短でって考えても一年は堅いね。気長に待つしか無いんだよねぇ。」


「じゃあその位でこっちに顏出しにまた来るよ。」


 最短でと言っているが「じゃあ最長でどれくらいだ?」などとは聞かない。そんなのは意味の無い質問だ。

 気長に待つしかないと皇帝も言っている。別に急ぐ事でも無いだろうから歴史家二人次第と言う事だ。


「で、今抱えている仕事って言うのは、従魔闘技場のだろう?」


「あ、知ってた?まあそうか。これ位の情報は簡単に得ていないと駄目だよな。そうじゃ無けりゃ国を治めるなんてできないだろうし。」


 皇帝は俺にどんな魔物を捕獲して来る気かと聞いて来る。


「君が来た事で従魔闘技場が大騒ぎで面白くなってきてる。これからも滅茶苦茶に引っ掻き回してくれると嬉しいね。それで、捕獲する魔物は決まったのかい?」


「俺は別に迷惑を掛けたい訳じゃ無いんだがな?引っ掻き回すなんて言い方は止してくれよ人聞きの悪い。まあ、まだ連れてくる魔物は決めて無いんだけどさ。それ次第でまた荒れるかね?」


 何を捕獲するかまだ決めていない事に皇帝がクスクスと笑う。


「楽しみだねぇ。それによって客の動きもまた活発になるよ。近年は安定し過ぎていてつまらないと感じていたんだが。君が来てくれた事でかなりの刺激が投入されて久しぶりに私もワクワクしているんだ。これまでに色々と起きた問題も君のおかげで被害も最小で済ませる事ができた事だし。エンドウ様様だよ。まさに賢者様だね、エンドウは。」


「・・・賢者呼ばわりは止してくれ。その呼び方されるのが俺は気に入って無いんだ。さて、ちょっとお邪魔し過ぎたな。んじゃ俺は戻るよ。」


「ねぇ?ちょっと相方のお嬢さんに伝言して欲しい事があるんだ。良いかな?帝国の冒険者ギルドに移籍する気は無いかって聞いてくれないか?」


「そう言った勧誘やら誘致は俺を通さずに正式な要請を国から出せよ。そこら辺の事を俺は関わる気は無いからな?」


 どうやらゲルダの事も既に調べて知っているらしい。それもそうか。きっと俺には常時監視を付けて動向を探っているだろうこの分だと。

 皇帝の求めを断って俺はワープゲートを出して宿の部屋へと戻る。既に時間は夕方を過ぎていた。


「あ、夕食を食べてないな。宿の食事を摂れば良いか。今から通りに出てどっかの飲み屋に入るとか面倒だな。」


 取り敢えず今日はもう他に無理に何かをしようとしないでも良いだろう。夕食を摂ったら風呂に入って寝る。

 明日の事は明日だ。ゲルダに小冊子を見て貰ってからである。


 そうして翌日。清々しい朝である。外は快晴。


「急いで無いし慌ててもいないけど、ゲルダの休暇の残り日数も無限って訳じゃ無いからなぁ。今日の内に仕事が片づけられると良いんだけど。」


 俺はゲルダの部屋をノックする。しかし反応が無い。これまでだと既にゲルダは起きていて部屋から出てきていたのだが。

 魔力ソナーで一瞬だけ部屋の中を調べてみたのだが。部屋の中に居るのは居るらしい。しかしどうにも起きている様子が無い。

 ベッドの上から移動していない様なのでまだ寝ているみたいだった。


「珍しい、って言う程の長い付き合いじゃ無いし。別におかしな事でも無いか。試合観戦で興奮してエネルギーをよっぽど消費したのかな?」


 只の疲れに因って今日は起床していないだけなのかもしれない。なので俺は宿の朝食を摂る事にした。

 一人であれば通りに出て屋台飯などを食べていただろうが。ゲルダが起きた時に直ぐに小冊子の件で話ができる様にと宿の食堂でゆっくりとする事にした。


 食後のお茶を飲みつつ待つ。ゆったりとした時間が流れる。偶にはこう言うのも良いモノだと思った所でゲルダがやって来た。

 俺の席の前に座って食堂スタッフに食事を頼んでいる。


「あー、すまねえな。昨日はちょっと夜遅くまで考え事していてよ。」


「ソレって捕獲する魔物の事で?」


 俺はその考え事が何なのかを聞く。直近でゲルダが悩む事と言ったら捕獲する魔物を何にするかくらいだろう。なのでストレートにそう聞いてみた。


「昨日の観戦で良く分かった。下級から中級位の魔物が多いな。上級や最上級ってのが少ない。と言うか、ぶっちゃけて言うと、一部の従魔師が従える魔物が一強だ。アレじゃあ相当強力なのを三体、いや、四体をバラけさせる様な形にできなけりゃ一人勝ちがずっと続いて面白くも何とも無くなっちまうな、アレは。」


 例の商人が買ったゴリアリススパイダスの事だろう。それが出ると他の従魔師は勝てないとゲルダは断言した。


「ふーん、そんなに強力なんだな、あの魔物。俺は余り他の試合を見て無いから全体像は良く分からな・・・あ、実際に俺戦ってるな結構な数。」


 俺は以前に連戦した時の事を思い出している。そしてそれに全部勝利しているので全く印象が薄かった。

 クロも一緒に戦ったし、大体こんなものか、位にしか正直言って感想は無い。


「・・・で、そっちはどうなってんだよ?必要な情報は集まってんのか?」


 此処でゲルダの食事が運ばれてきたので俺はソレを食べながらで良いから話を聞いてくれと前置いて説明をし始める。


「ああ、それに関して食事後に部屋に戻って話し合いをしよう。情報はもう手に入れてある。ソレをゲルダに見て貰って闘技場の均衡が保たれる魔物はどんなのが良いかを決めて欲しいんだ。」


 ゲルダは「ふーん」と気の無さそうな返事をしながら食事を黙々と食べ続ける。

 食事を終えた後にゲルダの部屋に一旦戻る。そこで俺は小冊子を出してゲルダに渡した。

 ソレをペラペラと軽くめくってその中身をサッと確認するゲルダ。


「へぇ~。揃えてる魔物の強さはどいつも平均的になってやがる。しかし種類は多めだな。それで作戦を練るって感じか。どれもコレもあれを立てればこっちが起たずって感じだな。」


 ポケ◯ンを思い出す俺。あの国民的ゲームとなったあの爆発的大人気のシリーズを。


「だけどなぁ。一つだけ突出しちまってるのが、コイツだな。駄目だ完全にこれじゃあ。上級二体か。これじゃあ他の従魔師が幾ら罠を張って、作戦練って、奇襲を掛けたって良い線止まりだ、これじゃあ。」


 ゲルダは溜息を吐いた。どうやらこの様子だと従魔闘技場を大分気に入っているらしい。

 強い魔物を持つ従魔師だけが勝ち続けるのは何とも面白く無いと言った感じか。いや、俺が言える事では無い。

 俺はもう既にやらかした後である。そんな言葉を吐ける権利が無い。魔物の捕獲しかり、クロを出場させた事しかり、一日連戦してその全てを勝っている事しかり。


 さて、駄目な上級と言うのは俺とキガッズの試合に出てきていた内の二体が上級と言う事らしい。その一体はゴリアリススパイダスだと言う事だろう。


「で、捕まえる魔物はどんなのが良い?種類が被らなくて、それでいてその魔物の生息場所ってのもゲルダが知ってるとこの後がすんなりと済ませられるんだけど。」


「無茶を言うなよ。取り敢えず候補だけは幾つか上げられるけどよ。その生息域って考えるとどうしても分からないのもあるんだぞ?例を挙げるなら空を飛ぶ奴で、しかも「流れ」なんてのは捕まえるのにどれ位の年月が掛かるか試算も出きねえぞ?」


 流れ、それの意味する所はきっと生息する場所を決めていないと言った感じなのだろう。

 流れるままに、気の向くままに、餌のある方へと移動をしてこれと言った特定の住処を作らないタイプか。

 確かにそんな魔物を捕獲しようとするならどうすれば良いかなどの案など浮かばないだろう。


(いや、待てよ?今の俺なら、できそうか?)


 ちょっとやれそうな気がする。でも今はその事をゲルダには伝えない。

 これはもし追加で後一体欲しい、なんて時に言い出せば良い事だ。別に今じゃ無くて良い。


「じゃあ取り敢えず直ぐにでも可能ってのから順番にコレに書いて行ってくれない?一番難しそうってのは最後の最後に回して今思い付くだけの分を先に書き出して見ようか。」


 こうしてゲルダが考えられるだけの魔物の名前を紙に書き出させた。

 で、直ぐにでもと言った魔物の名前は五体。ゲルダがその生息場所も知っていてこれなら何とか上級に通じると言った魔物。

 どうやらその生息場所もギリギリこの帝国から向かえると言う距離らしい。


 その次にちょっと難しいと言う理由でカテゴリーされていたのが三体。これは生息場所は分かるが、この帝国からかなり遠い場所であると言う。

 ゲルダの休暇日数じゃ間に合わない感じなのだろう。


 最後に書かれた魔物はどうやらその「流れ」であるらしく、二体がその候補に挙がっていた。


「まあ俺は名前だけ見てもどんな魔物か全く想像つかないんだけどね。」


「何だ、分からねぇって。おかしなやつだな。お前が名前挙げてけって言ったんじゃねーか。」


「おかしなやつ呼ばわりは止めて欲しい・・・でも、言い返せないんだよなぁ・・・」


「で、どれから行くんだ?あんな滅茶苦茶な手段を持ってるお前ならここに書いた魔物の半分以上は捕獲できるだろ?」


「あー、それね。俺が行った事がある場所にしか行けないのよ。だから、最初はその魔物の生息地に行く所からかな?」


「はぁぁ!?だとするとこの挙げた魔物全部駄目じゃねーかよ!・・・なんだ、この依頼は失敗だったな最初から。」


「いや、ゲルダが目的地までの誘導をしてくれたら一気に現地に到着できるけど?」」


「・・・何言ってんだお前?」


 白けた目でゲルダが俺を見てくる。言っている事が分からないとでも言いたげに。

 こういうのは実際に体験してもらうしかない。

 と言う事で。


 =======   =======  ======


「くぇrちゅいおp@zxcvbんmあsdfghjkl;:!!!!!!!!」


 ゲルダが何か叫んでいるのだが、無視した。と言うか、何を言っているかサッパリ解らない。

 いや、その内心は良く分かるのだが。


 俺たちは今空を飛行中だ。向かうのは帝国から遠いと言う三体。その内の一つ。

 宿から出て俺は先ずこの三体の内の一番近い場所は何処だとゲルダに聞いて方向を指し示させた。

 まあそれからは御察しだ。誰にも見られない様に魔法で光学迷彩に因って透明化。その後空高く魔法で飛んで、目的地へと出発。

 まるでドラゴンボ◯ルの武◯術である。その速度もかなりの速度だ。しかし寒さも空気の壁もぶっちゃけて言えば俺の魔法で全く感じない。

 魔法様様、御都合主義、魔法は依存度最強である。この世界で俺が行きていくにはもう魔法は欠かせないモノになってしまった。


「で、ざっと三十分で到着してしまった訳ですが。ゲルダ、大丈夫?」


 到着したのは岩山と言った感じの場所だ。飛行中にゲルダがある程度落ち着きを取り戻した所で疲れた声音で「あそこだ」と小声で到着を知らせて来たので直ぐに地上に降りたのだが。


「・・・」


 返事が無い、只の屍の様だ状態である。

 俺はゲルダが気を取り戻すまで待つために野営セットを取り出してお茶を用意して飲む。

 その間も地べたに回復体位と言われる体勢で寝たままのゲルダ。どうやらまだまだ時間が掛かりそうだった。


「・・・テメェ、いつか覚えてろよ・・・絶対に一度は泣かしてやるからな・・・」


 大分げっそりとした表情ではあったが、俺がお茶を一杯飲み終えた五分後にゲルダがそう恨みを口にしつつ起き上がる。


「出発の時に俺がじゃあ「空を飛んで向かいます」って言って、ゲルダ、信じた?しかも、もし信じたとして、きっと今と結果が変わらないんじゃない?」


 俺はゲルダの恨みに「どうせ無理でしょ?」と言い返す。空を飛んでいくなどと伝えて、それで少しくらいゲルダに覚悟ができた後に飛んだとしても、きっと目的地に到着した時の結果は変わらなかった様に俺は思う。


 コレにどうやら上手い切り返しが浮かばないんだろう。ゲルダはムスッとして黙ってしまった。沈黙は肯定と同じである。


「さて、ここで捕獲するのはどんな魔物なの?ゲルダが教えてくれないと俺には分からないから。じゃあ行こうか。」


 俺はパパッと野営セットを片付ける。その際に俺は一杯のお茶をゲルダに差し出した。これでも飲んで落ち着けよ、と言った気持ちで。

 しかしゲルダはこれをグイっと一気に飲み干してから岩山を指して一言。


「あれだよ、アレ。もう見えてる。」


 コレに俺は「ん?」と思ってゲルダの指さす方を向いてみたのだが、別に俺にはちょっと大きめの岩しか視界に入って来なかった。

 ソレは至って自然の風景だ。ゲルダはそこに見えていると言うのだけれど、俺にはさっぱり分からない。

 分からないからこそ気付く所もある。ゲルダがこんな事で嘘を俺に付く理由が無いから。


「擬態?岩に?地面に?どっち?」


 そう、見渡す限り岩、岩、岩、灰色のゴロゴロとした石が敷き詰められている岩山。そんな場所の何処を見ても魔物が見えなくても、そこをゲルダが指さすからには魔物が必ず居る。


「真正面少し上、そこから右をずっと行って一番デカイ岩だ。」


「はぁ~。俺には只の岩にしか見えないんだけど?ゲルダはどうやって見抜いたんだアレ。」


「こいつらは形が特徴的なんだ。慣れれば直ぐに分かる。ホレ、どれもコレも岩の天辺を良く観察してみろよ。」


 ゲルダに言われて俺はその指さされた岩と同じ特徴、形の岩が他に周囲に無いか探した。

 するとよく観察してみればそこかしこに二十近く同じ形があるのを発見してしまう。しかし大きさが小さいモノ、大きいモノなど、その数は様々だ。


「あいつらは必ず岩の天辺が同じ形になるんだ。何だか知らねーけど。面白いだろ?その中で目の前にいる内であれが一番デカい訳だ。アレを捕まえて行けばいい。で、どうするんだ?」


「餌は?不思議なんだけど、この魔物ってさっきから全く動かないよね?どうやって生きてるの?」


 俺たちがこんなに近くに居るのに全く反応が見られないのだ。本当にこれが魔物なのか?只の岩なんじゃないの?思わずそう疑ってしまう。

 俺のこの質問、疑問にゲルダがフフンと笑い答えをくれる。


「アタシが以前に読んだ研究書にはこう書かれてた。どうにも魔力を直接その身に吸収する能力があるらしい。よくもまあこんな事を調べたモノ好きな研究者が居たもんだと当時は驚かされたぜ。ソレと同時にこの魔物もどうしてそんな生態になったのか凄く興味が引かれたなその時は。それでアタシも気になって一度コイツと直接やり合った事があったけどね。何処をぶっ叩いてもコイツには響かない。目を狙ってもソレを咄嗟に閉じられると瞼に弾かれる。尻尾もあるんだが、それもしなやかでしなる癖に全く刃が通らない。こいつの全身何処もかしこもどんな攻撃しても武器が通らないんだよ。ハンマーでカチ割ってやろうとしても無駄だった。欠けもしないのさ。関節部分を狙ってもこっちの剣の刃が欠ける始末だ。心底その時は嫌になったね。そもそもこの岩塊蜥蜴はこの状態から動かす事も難儀でさ。何百発とガンガンぶっ叩いてようやく立ち上がって来てアタシを敵と認定して来た位だからね。あの時には最終的に二日掛けて倒せないと結論づけてくたびれて帰ったよ。」


 ゲルダは楽しそうに、そして最後の方はウンザリした感じで饒舌にこの岩の事を説明してくれる。どうやらその当時の事を思い出しながら喋っているみたいだ。


「ふーん、これ、蜥蜴が正体なのか。・・・あれ?直接魔力を吸収するの?ソレって・・・」


 もしかして竜じゃないのか?と言いかけて止めた。確証も無い思い付きを口にするものじゃない。

 俺が言い淀んだのをどの様にゲルダが受け取ったのかは知らないが「な?オカシイだろ?」と口にする。


「じゃあお手並み拝見と行こうか。まあでも、前にアタシを動けなくさせた上に勝手に体を操ったあの方法を使うんだろ?これまでの事でエンドウが馬鹿げた魔力持ちだって事は良くこの身に染みて分かってるからな。さっさと捕獲して連れて行っちまおうぜ。」


 さっさと捕獲とゲルダが言っている横で俺はちょっとだけ考え事をする。


(今度ドラゴンに話を聞いてみるか?いや、別にそんなのはどうでも良いか。俺は魔物を捕獲して連れてけばいいだけだ。深く考えない様にしよう)


 俺はそう一人で納得してから魔力ソナーを広げてみた。目の前の山の天辺まで。するとどうだ。この岩塊蜥蜴とやらが何処もかしこもびっしりだった。

 思わず俺は「うげぇ」と悲鳴を吐き出してウンザリな気持ちになる。


「なあ?この岩山、この魔物だらけだぞ?そっちもあっちも、向こうもこっちも、そこかしこ。この魔物しかいないって流石におかしく無いか?」


「あぁ?そうなのか?ふーん、別に良いんじゃねーの?こいつらが積極的に動いて周囲に被害を出してるって訳でも無さそうだしよ?何が一体心配なんだ?」


 ゲルダにそう言われて俺も「そう言われれば」と考え直した。しかしここで思い出す。

 この蜥蜴、魔力を直接その身に吸収すると言っていなかったか?そもそもその結果が判明したのはどの様な方法を取っての事なのか?


「なぁ、ゲルダ?何だかそこら中の「岩」がもぞもぞと動いて無いか?」


「そうだな。動いてるな。・・・エンドウ、お前何した?いや、そもそもウッカリしてたが、魔法で拘束するのって無理だよな?」


「いや、この岩山にどれくらいの数が生息してるのかちょっと気になって魔力を薄く延ばしたものを山に発してその機微を捉えて周囲の観察をしただけなんだが?」


「・・・おい、そりゃお前、この蜥蜴に餌をやってる様なモノじゃねーか・・・」


 ゲルダがそう言た直後に俺たちから一番遠い場所に居た岩塊蜥蜴が地面から飛び出してきた。


「まさかとは思うけど。俺たちって、狙われてない?コレ?」


「おい、お前どうしてくれるんだ?こいつらはその身で直接魔力を吸うんだぞ?・・・そう言えば、お前が使うのも魔力で拘束するんだもんな?ああ、そう言えばそうだよ。そうなるとこいつらには通じないんじゃねーか?そうだよなぁ?」


 ジリジリとゲルダは後退する。何せ目の前では地面からボコボコとお目覚めの岩塊蜥蜴が次々に地上に出てきているのだから。


「あー、そうかぁ。こいつらの研究をしたって人も似た様な事をしてこの事実を発見したのかもなぁ。」


 目の前の事態に俺はそう呟いてしまう。呑気にそんな事を気付いている場合では無い。目覚めた岩塊蜥蜴たちがキョロキョロと周囲を見渡しているのだ。

 それこそ「さっきの魔力の発生源は?」と言った具合に。

 ソレを俺たちに結び付けてこちらをロックオンして来るかどうかはまだ分からないが、余計な動きをしない方が賢明だ。


「ゲルダ、ジッとして余り動くな。アイツらどうやら視力が悪いらしい。こっちにまだ気付いて無いみたいだ。」


 どの岩塊蜥蜴も同じ行動をしていた。首を左右に振ってゆっくりと周囲を見渡しているのだ。

 しかし俺たちに気付いた様子も無く何匹かはまた地面に「ズゴゴゴゴ」と盛大な音を立てながら地面の中に沈んでいった。

 そしてそう言った蜥蜴たちはまた静かに風景の一部に変わる。全くもってしておかしな光景だった。


「その研究者ってのが生き残ったのは多分コレのおかげなんだろうな。どうやら近眼みたいだぞこいつら。」


 俺は一番近くに居た岩塊蜥蜴でさえ俺たちに気付いていない事で相当な目の悪さだと言うのに気づく。


「さて、ゲルダ、こいつらを闘技場で活躍させるとしたら、どう言った役割が良いんだ?」


「・・・魔力に対しての壁、物理的な壁、って感じじゃねーか?後は・・・こいつらの脚の速さがどれ位かによるかな。」


「捕まえられない事も無いと思うんだけど。そこら辺を試して見てからの方が良いかもな。」


 さっきまで周囲をキョロキョロしていた岩塊蜥蜴は一匹、また一匹と地面へと沈んでいく。

 どうやら俺たちに気付けずに諦めた個体から元の状態に戻っていっているらしい。


 そこで俺は一応の為に一匹釣って確認をしてみようと魔力の塊を飛ばす。一番近い場所に居たソコソコの大きさの個体に。

 塊と言っても小指の爪程の大きさに絞っている。そしてそこに込める魔力も相当に薄めておいてある。

 とは言っても俺はそこら辺に自信が無い。俺が「コレで充分」と思った量でも他所から見ると膨大な密度の魔力、と言った事が今まで何度もあった。

 なので今回も俺はかなり意識してギュギュっと絞って、薄めて薄めてと、かなり気を付けてその魔力塊を作り出している。


「ゲルダ、逃げる用意。そこの個体に魔力を向けて飛ばしたから。コレに食いつこうとしてきたら釣るから。そこでこいつらの走る速さを確かめる。」


「おう、分かった。とは言え、こいつらの脚は短いし、形状的にも関節の可動範囲的にも見てそこまでの速度は出せねえとアタシは思うが。」


 どうやらゲルダがこれまでの自分の経験上での知見を語る。とは言え油断はできない。

 一見こうしてノンビリしている存在が実を言うと走らせると怖ろしい速度を出すと言った事もあるだろうから。

 一見体格が大きく愚鈍そうだと思っても、意外や意外、本気を出すと人など簡単に轢き殺す、などと言った動物なんて幾らでもいる。

 しかも此処は地球と言う世界では無く、ついでに言えば「魔物」なんて言う不思議な存在が居るのだ。

 俺の常識的にも、この世界の摩訶不思議的にも、ここはこの岩塊蜥蜴に対して油断はできない。


 こうして俺が飛ばした魔力に対して岩塊蜥蜴がそれに気付いたのはその距離が1m位に近付いてから。

 しかしその時の動きと言ったら目で追えない位の素早さだった。

 しゅ、と魔力塊に対して首を向けて瞬間的にそれに食いつこうと動いたのだ。その瞬発力と言ったらない。

 魔力塊を操作して岩塊蜥蜴から離そうと思った時にはもう遅かった。既に食いつかれていてその半分を持って行かれていた。


「おいおい、マジかよ。ゲルダ、撤退。」


「逃げきれないとは言わないが、結構な早さだな。新しい発見かねこれは?」


 食いついた魔力塊の飛んできた方向から岩塊蜥蜴が俺たちに気付いた。そしてドスンドスンとその脚を一生懸命に動かして俺たちへ向けて走り込んで来たのだった。

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