表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/327

さて、狩りなんですけど、その前に

 荷物はインベントリに仕舞ってあるので手ぶらで森の中を行く。本来のあるべき負担が無いのでスムーズに森の奥地へと到達した。

 そして今は夕食の準備中である。ゲルダの荷物も一度取り出して本人に渡してある。


「何なんだよお前・・・何で野営の食事がこんなに豪華で、それでいて、何だよ・・・何なんだよ・・・」


 テーブルに椅子、テントも大きいモノを取り出して設置した。周囲は俺の魔法で透明な壁を張ってあるので魔物の襲撃も無い。

 これならゆっくりと落ち着いて休息が取れる。


「アタシは夢でも見てるのか?ここは何処で、お前は何なんだよ・・・」


「さっきからずっとそんな調子だけど、ホレ、さっさと夕食を摂ってゆっくり寝てしまえよ。」


 俺は食事をし始める。スープ、パン、ステーキ、サラダ、炒め物と少し多めに作ってみた。

 ゲルダがどれ位食べるか分からなかったので少し余裕を持って作ったのだが。余り物が出たら明日の朝食に回すつもりだ。


 突っ立ったままのゲルダがそろりそろりと椅子に座る。そして恐る恐ると言った様子でテーブルの上を見つめている。

 別に俺は毒など入れてはいないし、調理風景をゲルダはずっと見て来ていたのでそんな物は入っていないと分かっていたはず。

 しかし信じられないモノを自分の口の中に入れるのにビビッているんだろう。一口目を口に入れるのに時間がもの凄く掛かっている。

 でも食べてしまえばすぐだ。その後は勢い良く食事をし続ける。そうしてあっと言う間に準備した食事は綺麗に無くなった。


「ふはぁ~、食った食った。美味かった。久しぶりにマトモな飯を食った気がする。」


「普段どんな食事してんだよ。まあ、いいや。御粗末さまでした。それじゃあ片付けするか。」


 ゲルダの日常など別に知ろうとは思わない。なのでさっさと俺は会話を続けずに後片付けをしてしまう。

 まあ魔法で一発で綺麗にしてしまうのでソレも瞬時に終わってしまうのだが。


「じゃあ見張りを決めよう。アタシが先に立つからアンタは寝てな。」


「ん?いや、ゲルダも寝るんだよ。別に見張りなんてイラン要らん。」


「はぁ?何を言ってる?こんな奥地に来てるんだぞ?魔物の襲撃があれば二人しか居ないんだからやられる可能性が高いじゃねーかよ。」


「いや、そもそもその危険地帯に一人で向かって狩りをしようとしていた当人が言うセリフかソレ?」


「一人の時だったら木の上で枝に寄りかかって寝てるよ。それで大抵はやり過ごせるからな、ここの森に生息する魔物だったら。」


「いや、それでも充分危ないだろ・・・まあ良いか。説得するなら万の言葉よりも実際に体験してみてくれた方が早いな。」


 俺は手頃な石を一つ取って思いきり投げる。そう、張ってある魔力の壁に。

 そして飛んで行った石は音も無く見えない壁にぶつかってポトリと地面に落ちた。


「は?」


 この現象にゲルダが硬直して動かなくなった。俺がギルドで荷物をインベントリに入れた時の反応と同じだ。

 およそ一分くらいその状態である。それから復帰したゲルダは叫んだ。


「どうなってやがるんだアレは!お前がやってんのか!?どれだけ高い魔道具を持ってる?ソレをこんな所で使うって?と言うか!そんな魔道具聞いた事無いぞ!?」


 俺は説明が面倒臭くなってきた。確かに俺の事を全く知らないのであればこの現象が魔道具か何かの効果だと勘違いしたりもするかもしれない。

 けれどもこの勘違いを一々「俺の魔法だよ」と説明するのが億劫だ。なので黙って俺はテントに入り込みながら一言。


「強度が不安なら自分で納得できるまで壁に斬りつけていて良いぞ?一応は四方を全部囲ってあるから魔物は入って来れ無くしてある。安全だから不安が解消できるまで思う存分確かめてればいいさ。」


 ゲルダ用のテントも俺が出してある。内部でゆったりと足を伸ばして寝れる大きさのテントだ。

 別にここで魔法で周囲の木を使ってコテージでも作り出してそれでゆっくりとしても良かったが。

 そうすると何だか余計にゲルダが俺に面倒な質問をしてきそうだったから止めている。


「じゃあお休み。明日は早く起きて狩りをするんだろ?余り遅くまで起きていない様にな?」


 そう言って俺は先に休ませて貰った。


 その翌朝。日が昇って辺りが明るくなり始めた位の時間で俺は起きた。


「うんんん!良く寝た。・・・朝食の用意をするか。」


 簡単で良いだろうとは思いつつも、インベントリの中には食材がまだ多めに残っているので少し無駄遣いをしても良いだろう。

 朝からしっかりと食べて今日も一日頑張るのである。狩りをするのは俺では無くゲルダなので体力を付けさせるつもりで作る。

 そうして俺が準備をしている間にゲルダが起床してきた。そしてその最初の一言目はと言うと。


「・・・なあ?こんな狩り、アリか?何だか納得したくないんだけどさ?狩りって言ったら、ほら、さ?な?」


「何が言いたいのか分からんが?今日くらいは良いんじゃないのか?だってほら?ギルド長も言っていたよな?ギルドに戻ってきた時にゲルダの健康に不備があって休まれても困るって。」


 一応はこの「狩り」に関してはこれまでに溜まっていた休暇を消化するつもりで行ってこい、などとギルド長は言って送り出している。

 しかしその消化が終わった後でギルドに戻って来てまた働き始めるのに「怪我」をしていたら困るし「体調不良」も駄目だと言っているのだ。

 だったら野営で一々無駄に体力や神経をすり減らす必要はそもそも無い。

 今は俺が居るのだ。ゲルダにはゆっくりと自らの心身を万全に保って貰うのが一番である。

 だってこれからゲルダは「狩り」をするのだからその余裕を充分に残しておいて貰わねば困るのだから。

 何せこの「狩り」はゲルダのストレス発散の為にやるのであって、そのストレス発散で要らないストレスをまた感じるのは無駄なのだから。


「分かった。今回に限っては何も言わないでおく・・・って言うと思ったか!吐け!お前は一体何でこんな事ができるんだよ!吐け!吐けこの野郎!」


 いきなり俺にゲルダが掴み掛かろうとしてきたので仕方無く「魔力固め」を行使する。まだ調理中だから危ないのだ。食材を切っている最中だし、鍋は火にかけているのでぶつかると危ない。


「げっ!動けない!?こんな真似まで出来やがるのかよ!」


 突然動けなくなったゲルダが驚きつつ俺を睨んでくる。


「まあ落ち着けよ。ギルド長も言っていたけどさ、俺は護衛だし、契約書にゲルダの監視やら体調管理?やらも含まれてるんだよ。今の状況を甘んじて大人しく受け入れてくれ。」


 ゲルダは俺の同行があってこそ、今こうして狩りに出てこれているのだ。そうじゃ無いとギルド長は許可を出さないと言っていたのである。

 なので俺のやる事、成す事にゲルダは余り文句を付けられる立場に無い。幾らでも俺に質問、疑問をぶつけたい心境だろうが、ここは我慢するべき場面だ。


「ぐあァぁァ!納得いきたくないんだよぉ!」


「じゃあそうなると俺は無理矢理ゲルダを引っ張ってギルドに帰還しないとならないな?だってソレは俺の同行を拒否しているって事と同義だろ?ならギルド長との約束もあるんだから今すぐにギルドに戻らないとな?」


「ぐぬぬぬぬぬぬううううううう!」


 ゲルダにとっては俺と言う存在は未知である。全く持ってその意味不明な存在を側に連れていたくは無いんだろう。

 人は自らの理解不能なモノを恐れる傾向を持っている誰もが。ゲルダのこの反応は当たり前のモノだ。


「俺は別にゲルダの邪魔をしようと思ってる訳じゃない。ギルド長も言ってただろ?俺の同行以外は自由にして良いってさ。全部が全部割り切れって言ってるんじゃないんだ。取り敢えず目的の「狩り」の事に集中すれば良いんだよ。ほれ、朝食だ。」


 俺はできた食事をテーブルに並べていく。それと同時にゲルダの「魔力固め」を解いた。

 急に動ける様になったゲルダはブスッとした表情のままに席に着く。すると勢い良く食事を食べ始めた。


 腹が満ちればある程度は精神も落ち着くと言う物だ。取り敢えずは食事を終えてゲルダも先程の勢いは無くなっている。


「分かったよ。狩りはアタシのやり方でやるからな!アンタは手を出すんじゃないよ?」


「口は出して良いのか?なら・・・向こうの方角に一体ハグレの魔物が・・・」


「うおおおおおおいいい!?いきなり口を挿むとかどう言うつもりだ!?魔物を探す所からもう既に狩りは始まってるんだよ!それをアンタいきなり・・・ぁァぁァぁもう!」


「だってさー?獲物がいつまでも見つからないと俺も強制的にこの依頼にずっと縛られるんだぞ?一応は俺、帝国で活動してる事があってそっちでの事もあるからさっさとコレ終わらせたいんだけどさー?」


「はぁ?また訳の分からねー事言いやがって・・・まあ、良いさ。早く終わらせるって言うのはアタシもまあ同意する。こんな所で魔物を狩るのは新人どもに見本を見せつける為だしな。コレに関しちゃそんなに時間もかけていたくねぇし。でもな?捜索と追跡も狩りの醍醐味だぞ?ソレをいきなり魔物の居る方角をぶっちゃけられたアタシの身にもなれよ・・・この意気込みをどうしてくれるんだよ・・・」


 そんな会話を続けつつも俺は片づけをしているのであっと言う間に野営の跡は無い。

 ゲルダの荷物も手早く片付けてインベントリに入れてしまう。

 その光景を何だか恨めしそうに睨み続けて俺にガンを飛ばしてきているゲルダ。それを俺はサラッと流す。


「じゃあ出発で良いな?今日は何体狩るんだ?」


「あぁ?そうだな・・・二体も狩れれば良い方なんじゃねーのか?いや、アンタそもそも魔物の位置が・・・分かるんだよな?」


 ブスッとした顔で俺を睨んだままにゲルダは答えるのだが。


「いや、倍だ。四体は狩りたい。アンタ、妙な魔法を使ってアタシの荷物を消しちまうだろ?獲物を幾らでも狩った所でソレを使えば嵩張って荷物になる事も無い。魔物の居る方角さえざっくりと分かるんだったらこれ位狩るのは余裕だ。アタシの鬱憤晴らしに付き合ってくれるんだろ?なら、使えるモノは何でも使わないとな?」


 続けてそんな風に結論を出した。どうやら機転の利かせ方も分かっている模様である。先程迄の硬い思考はさっさと放り投げたらしい。


 こうしてゲルダは最初の一体目、俺が指し示した方角へ進み始めた。


 それからザっと一時間後、既に一体目の狩りを成功させているゲルダは優秀なんだろう。


「へぇ、凄いな。綺麗に一撃で首を一突きって、あれ?ゲルダ強くね?」


 一体目は大きめの狼。その跳びかかりに対してゲルダは瞬時に深くしゃがみこんでショートソードで華麗に一突きで仕留めている。


「これくらいは慣れりゃできる。一番仕留めるのが簡単な方法で襲ってきたからな。楽だったぜ。素材の皮も綺麗に無駄無く狩れる方法だコレが。それを新人たちは全く理解できてねぇ。」


「いや、それって相当に度胸が必要じゃない?ソレと、合わせるのにも技術が要るし、突きを入れるのも技術無いと駄目じゃない?」


「あぁ?こんなの狩りをずっとしてりゃ覚えるだろうが?新人の奴らは獲物を滅多刺しだぞ?アホかって。アイツら魔物素材を何だと勘違いしてんだかな?金に換えたい物をボロ雑巾にして何がしたいんだ?って話だぞ?」


 ゲルダに返り血で汚れた所は無い。刺した後に直ぐに身を引いて離れたからだ。

 会話を続けつつも動き続けて血抜きを始めているゲルダ。手馴れている。


「ほらよ。アンタの意味不明なアレに入れてくれ。後で簡単に取り出せるのはもう分かってんだ。さてと、次はどっちだい?」


「意味不明と言われたら言い返せないのがツライ・・・そうだな、向こうだ。あ、狩るのは狼だけか?」


「うん?この際だ。何でも良いよ。一応はこの一体だけで見本としちゃ充分だ。新人の馬鹿ガキどもにゃコレを見せりゃ後はアイツらの問題だ。その後に改善が見られなきゃ只あいつらが落ちぶれて自分の首を絞めていくだけだ。」


 そう言い切ってゲルダは次の得物の方角に向かって歩き始める。

 そうして森を行く事30分。そこには二体のゴブリンが。


「へぇ・・・二体ね。最低でも五体は居なけりゃ手応えもへったくれも無いんだけど。まあ、良いか。この際贅沢は言わないさ。」


 そう言ってゲルダは素早く駆ける。その速度は森の中を走っているとは到底思えない程にスムーズだ。

 立てる音も小さい。カサカサと草が風に揺れているのかな?と思えるくらいにしか音を立てていないのだ。


 ゴブリンは別に鈍い魔物と言う訳でも無い。だがこのゲルダの接近に気付くには一歩遅かった。


 獲物を仕留めるゲルダのその一撃は「美しい」と形容しても大げさじゃない動きだった。

 二対の魔物は断末魔さえ上げる事無く首を斬られてその頭部を地面に落とす。


「はっ!今日は動きに一段とキレが出て調子がいいねぇ?ソレもコレもアンタのおかげって事にしといてあげるよ。」


 そう言ってさっさと討伐部位を切り取って小さい袋にソレを入れてこちらに放り投げてくるゲルダ。

 ソレを俺はキャッチしてインベントリへ即座にポイ。次の得物の居る方角を指し示す。


「今日中に帰れそうだね。アンタと狩りをすると楽ちん過ぎて支障が今後に出てきちまいそうだよ。」


 その後にはビッグブスを一頭ずつ狩って終了となった。このビッグブス二頭に関して、一撃で首を断つと言う達人技を見せたゲルダ。


「なぁ?解体の知識と経験が豊富だと、首を断つのも簡単になるモノなのか?」


「あぁ?まあ、知らないよりは知ってる方が良いんじゃねーの?剣撃が通りやすい大体の位置が目測で分かっていた方が「頸断ち」は成功率も上がるだろうさ。」


「ゲルダは普段から毎日四六時中、仕事で刃物を扱ってるけどさ?だからって言って「剣」は使わないだろ?何でそんなに強いんだ?」


「んー?アタシはそもそも冒険者ランクは高いんだ。上から数えた方が早い。登録して幾らか上げてから更新して暫く経つな?「えー」だか「びー」だか覚えてねーけど。」


「おおう、そりゃ強い訳だ。剣の使い方も習ったりしたのか?」


「いんや、独学だな。刃が付いてる道具は特殊な形でもしていなけりゃ使い方なんて基本は同じだ。ちゃんと刃を立てて、圧し当てて、引く、単純さ。そこに力具合と当たった瞬間のブレを抑えるだけさ。」


「簡単に言うなぁ。それって言葉にしたらだろ?自分の身体でソレを行おうとして、さて、上手く行く様になるには相当修練が必要になるやつじゃん?」


「あー?アタシは最初っから上手くいっていたけど?まあ才能があるって言う事だったんだろ?アタシはさ。」


「俗に言う天才ってヤツですかね?恐れ入りました。」


 こんな会話をしながら森を抜ける。既に狩りは終了でマルマルに戻る途中だ。

 森の奥地に入って来ての狩りとは言え、インベントリに荷物は全部入れてしまっているので身軽である。

 なので歩く速度もスタスタと軽快だ。相当早い時間に冒険者ギルドには到着するだろう。


 予想は当たる。昼を過ぎて少々の時間に既にマルマルに帰還をしてしまった。


「アンタと一緒に狩りをすると駄目だね。楽過ぎてイケない。狩りって言うのはさー?もっと緊張感が・・・いや、良いさ。今日だけって事だ、これは。例外を何時までも抱えているのも馬鹿らしいや。」


 そんな事をボヤいてからゲルダはギルド内へと入った。そしてそこでドスの効いた声で冒険者三人組に声を掛けていた。


「おい、てめえら、ちょっと面貸せや。嫌とは言わせねーぞ?」


 どうにもその三人組が問題の新人らしいのだ。その三人は今回狩ったのであろう獲物がその手にある。丁度狩りを終えて帰って来た所らしい向こうも。

 さて、その狩った獲物はどうにも「狼」なのではあるのだが、身体中がメッタ刺し、切り刻まれており、血糊もべったりついて乾いてカピカピになっている。ぶっちゃけ、汚い。


「今回もまあ、へたくそな狩りをしやがって。そんなボロにしちまえば買い取りの値段は低いと言っておいたよなぁ?あぁ!?しかも血糊をそのままにして洗いもしないで持ち込むなんて、馬鹿なのか?そこまで汚い場合はソレを落とす経費も買い取りの値段から引くんだぞ?頭空っぽかお前ら?」


 般若の如くな怒りの形相。ゲルダは本気でキレていた。コレには新人三人組もギョッとして一歩後ろに下がる。


「エンドウ、先にアタシの狩ったウルフを解体場に出しといてくれ。先ずはこの場で一発こいつら馬鹿どもの目を覚まさせてやる。」


 ゲルダにそう言われて俺はギルドの奥にある解体場に向かう。そしてそこにいた職員に事情を説明したらスンナリと入らせて貰えた。

 どうやら既にギルドスタッフ全員に今回の説明は行き届いているらしかった。

 一番大きな台の上に俺はインベントリから今回ゲルダが狩った狼とビッグブスを出しておく。ゴブリンの討伐部位の入ったコブクロもついでに。


 出し終えてから30秒ほどたって現れたゲルダと新人三人。


「良く見て確かめろ。お前らが持って来たそのボロと、そこに乗ってるのが同じモノかどうかをな。」


 新人たちの顔はどうにも一部分が腫れている。どうやらゲルダに本当に一発ぶん殴られたらしい。

 取り敢えず俺の今の所の仕事はコレで終わりだ。この場に残って俺までゲルダによる新人への説教プラス解体講座を聞く必要も無い。

 そのまま俺は解体場を出て一旦帰還した事を報告する為にギルド長室に向かった。


「そう言う訳で、一度戻って来た。このまま一旦今から俺は帝国の方に行って今後の予定とか話し合って来るから。ゲルダには明日の朝にまた待ち合わせって事で。あ。まだゲルダがどこら辺まで遠出して狩りをするのか聞いて無かったな?まあいいや。そんじゃゲルダの分の荷物はここに置いておきますね?んじゃまた明日~。」


「呆れて何も言えないわね。一応は、無事に帰って来てくれて嬉しいわ。でも、近場とは言え、戻ってくるのがここまで早いとは想定して無かったわよ。」


 俺はギルド長のそんな言葉を聞き流して帝国に戻る。宿泊している部屋に。


「さて、ゲルダがどれ位の期間狩りをするかとか、分からんしな?何日分の休暇を溜めてたんだろうなぁ?一ヵ月?は多いか?一週間?はちょっと中途半端に短いし?そうなるとそこまで遠くには行けないんじゃないのか?」


 ソファに座って俺は今後の予定を考える。ゲルダの狩りに付き合う上で俺はそこで何日拘束される事になるのか?

 どうせだったら思う存分ゲルダには羽目を外させて、今後ギルドで働く上でスッキリとした気分でスタートして貰うのが良いだろう。


「闘技場の方に俺の予定を先に申し出ておかないと。変なタイミングで試合を組まれちゃうかもしれないから早い所言っておくか。」


 俺は宿を出て闘技場に移動する。そこで誰かしらスタッフを捕まえて俺が用事で試合を出来ない事を伝えておけば良いだろう。

 なんて思っていたら直ぐに見つかった。誰がって?ソレはメールンだ。


「おお、良い所にいてくれた。ちょっといい?あのさー、俺マルマルで用事ができちゃって。試合の方は組まずに置いてくれない?それがいつ終わりになるかはまだ未定なのよ。勝手言っちゃっうみたいで悪いけど、そこら辺の事を支配人には宜しく言っておいてくれる?」


「はい、畏まりました。こちらとしましてもエンドウ様の試合は暫くは・・・その・・・」


「あ、もしかして、対戦したいって従魔師が居ないって感じ?まあ、そうだよな。ちょっと派手にやり過ぎた感じあるもんねぇ。」


 メールンの言葉が最後まで続かない所に俺は察した。この間の試合はそもそもだ。

 捕獲が不可能とされた強力な魔物が従魔として試合に出ていたのである。それに勝ってしまっているのだ俺は。

 クロは相手の従魔の攻撃を一撃も掠る事無く避け続けている。その最後には相手従魔を吹っ飛ばし、すっ飛ばして場外へ。


 俺は俺で、どうにもこうにもキガッズを軽くあしらってその剣まで折って見せてしまった。

 戦神闘技場の伝説と言われたその存在が手も足も出ない、そんな俺に誰が挑もうと思うのか?


「それならそれで都合が良いかな?それじゃあ俺の予定が終わったらまた連絡するから。」


「はい、行ってらっしゃいませ。」


 メールンに送り出されて俺は闘技場を出る。とは言え、別に今すぐにまたマルマルに戻る訳じゃない。

 遠出する予定は明日だ。ゲルダも今日は新人に説教を終えたら休息を取る事だろう。

 俺の伝言をギルド長が伝えてくれると思うので今日の残り時間は自由だ。


「んー?中途半端になっちゃいそうだなぁ。どうするかね?あ、そう言えばレストに飯を持って行ってやるって言っておいたから、お土産を今買っておいてインベントリに仕舞っておくのが良いか?」


 そう思ったら即座に行動。相変わらずその場の思い付きで俺は行動しているなぁ、などと思いつつも「焼きそば」の店に向かおうとして声を掛けられ止められた。


「エンドウ様、ギルド長がお呼びです。冒険者ギルドにお越しください。」


 どうやら見張っていたのであろうギルド職員がそこに居た。


「・・・あー、今すぐに行かなきゃいけない用事かな?そうで無ければ俺は別の用が・・・」


「直ぐに済むとギルド長もおっしゃられて・・・いえ、ぶっちゃけスイマセンが、これ以上ここで見張りに立たされるのがつらいので申し訳無いですけどギルド長の所に顏を出してくださいオネガイシマス・・・」


 ドンヨリとした雰囲気とがっくりと肩を落とすそのギルド職員の哀愁漂う空気に俺は「あ、ハイ・・・」としか返せなかった。

 どうにもこの職員、ずっと俺を捕まえるのにここで見張りをさせられていたとぶちまけて来た。

 その事に申し訳無さと、そして少々の哀れさを感じたので俺は素直に帝国冒険者ギルドにその職員と向かう。

 そうしてギルドに到着、そのまま俺は案内されてギルド長室に入った。


「やあやあ!報酬を受け取りに来ないモノだからどうしたのかと心配したよ?ささ、座ってくれたまえ。茶と菓子を出そう。はっはっはっは!」


 何が面白いのか俺には理解不能だ。ギルド長は愉快そうに笑う。


「エンドウの試合は面白かったなぁ!本当に!いや、最後は思わず笑ってしまったがね!試合の内容はと言えば、まあ、敵対しては決してならない、って感じだったな、アレは。」


 どうやら本題の導入の為の世間話としてこの間の俺の試合の事から話し始めるつもりの様だギルド長は。あの試合をどうにも見物してたらしい。


「カリゲルドのあの真っ赤な顔を見たか?あの後で奴は怒りが過ぎて頭に血が昇り過ぎて倒れたそうだぞ?その瞬間を見て見たかったのだがなぁ。」


 どう言う訳か知らないがギルド長はカリゲルドにちょっとした恨みでもあるらしい。これ程に機嫌良く人が高血圧で倒れた事を楽し気に語るのだ。何かしらの許せない理由でも持っているのかもしれない。

 そこに茶と菓子が運ばれてくる。茶を一口ググっと多めに飲んだギルド長はまだまだと言った形で話したい事があるらしくお喋りは止まらない。


「カリゲルドがせっかく高い金を出して買った従魔もエンドウの従魔には手も足も出ていなかったからなぁ。そう言えば、あの黒い獣は何処で見つけたんだ?良かったら情報を買うぞ?」


 どうにもクロの事をギルド長は「欲しい」と言っている様だ。しかしクロの同種がこの世界の何処に存在するのかは俺は知らない。

 クロと会ったあのダンジョンはもう無くなってしまったのだから。


「そこでなぁ?ちょっとまた頼みたい事があってな?今後の従魔闘技場の事なんだ。カリゲルドがあれ程の従魔を手に入れてしまったのでなぁ?他の者たちがアレに太刀打ちできる魔物を欲しいと、内に依頼が殺到してしまって困っているんだ。どうだろうか?また手を貸して貰えないだろうか?カリゲルドの所の従魔師がこのままだと一強として抜きん出てしまって試合の面白さが無くなってしまいそうなんだ。」


 予想していた事だコレは。俺もその点は気になっていた。でもそれは創意工夫と努力で何とかなる内容だと俺は思っている。

 なので断ろうと思ったのだが、そこでちょっとした悪戯?を思い付いた。


「良いよ。その代わりにもう一人それに連れて行く者がいる。依頼を受けるのはその者で、俺が直接依頼を受けると言った形にはしない。ソレで良いなら受けても良い。俺とソイツだけ、二人だけで向かう。今回の件でギルド側からの補助や雑用などの要員は一切要らない。」


「おおそうかそうか!どんな形であれエンドウが魔物を捕獲して来てくれる形にはなるんだろう?ならば誰が依頼を受ける形になったとしても実質は君がその捕獲をしてくれる事になるのだから、依頼は達成されたも同然と言うものだそれは。」


 こうして俺はまた翌日にその同行者と一緒に顏を出す来る約束をしてギルドを去った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ