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ちょっとソレはおかしい

 俺は教会を出た後に建物の陰に入る。そこでワープゲートを出した。

 教会からだろう。監視の目が俺に付いていたのだが一瞬でソレを躱してワープゲートを通る。

 通った先はレストの城だ。そう、あの絶海の孤島に引っ越しさせたあの場所である。


「よう、どうだ?調子は?」


 城内部へとスタコラと入って玉座の間に一直線。部屋の中でぼーっと突っ立っていたレストに向けて何か異常が無いかを質問する。


「ああ、エンドウかぁ。いやぁ、何も無いよ。怖ろしい位に、何も無い。ダンジョンにずっと籠っていた時と変わらないね、何もかもが。」


「ちょっとくらいは城から出ても別段大丈夫なんだから日の光でも浴びて気分転換くらいはしてるんだろ?」


「確かにテラスに出て背伸びをする事もあるけど。いや、そう言う事じゃない。」


「分かってるって。こんな事をしたのは世界広しと言えども此処だけだろうからな。この先どんな事が起きるか分からないって意味で不安があるのは察してるよ。」


 そう、何もかもが分からない事だらけ。もともとあった城がダンジョンとして取り込まれて、それが地上に再び戻ってきて、そしてソレをその場所から移動してこんな孤島に引っ越したのである。

 どんな問題が待ち受けているか分かった物じゃない。未来は神のみぞ知ると言うやつだ。


「で、エンドウ、用事はそれだけなのか?何やら疲れている様子だが?」


「あー、そうなんだよ。ちょっと精神的になぁ。だからここでちょっと休憩させて貰えるか?ここなら誰も居ないしな。」


 この俺の発言に何があったのかとレストは聞いて来る。俺はテーブルと椅子を出してくつろぎつつ喋る。妙な奴らと知り合いになってしまった事を。


「話を聞けば中々に癖の強い者とそこまで良く早々にほいほいと知り合えるモノだ。自分の行動をもう少し動く前に顧みたらどうなんだ?自覚はあるんだろ?どうしてそうなったと言う権利はそこに無いんじゃないのか?・・・目立ち過ぎなのがいけない。」


「俺は自分のやりたい、遊びたいと思った事を制限したくないだけなんだよ。でも、これを押し通すとどうしても絶対にそうなっちゃうんだよ。分かってるはずなんだけどなぁ。」


 その場その場で思い付きで動いても、計画して動いても、どうしても目立つ。

 ソレは俺が「魔法」などといった力を思う存分に使ってしまうからだと言えるが。

 自重などとは言うけれど、なるべく目立たない方が楽だとは思えども、どうしたって思い付きが実現できるだけの力を持っていると、どうしてもはしゃいでしまう自分が居る。

 多分ブレーキなんて幾らでも踏める場面があった。けれどもそんな時程今までは一歩踏み込んでしまっている場面が多い。


「幾らでもここを休憩所として使ってくれて構わないさ。エンドウが居なければ私は今ここに存在できていないのだからな。寧ろここは君の城と言っても過言じゃ無い。君がここの主だ。私ではここまでの事を成す事は不可能だったのだから到底な。この様な事ができたのは世界広しと言えども君しかいないだろう。私なんて城を維持管理するくらいしか能が無い。城を丸々この様に移動させる、しかもこの様な孤島に。誰も想像だにしないだろう、いや、できないだろうね。」


 世界広しと言えども、その言葉をレストが使って俺をそう評する。勘弁して欲しい。だって俺がどう否定しようとも現実は無情だから。


「城の主?勘弁してくれ。でも、たまにここに逃げこませて貰うけどさ。」


 こうして誰も来ない静かな時間を昼前までくらい堪能した。

 宿の部屋でゆっくりとしていれば良いじゃ無いか?といった思考もしたが、帝国に居ると何かしら俺に用がある人物が居た場合に直ぐに突撃されてしまう。

 それが幾ら高級宿で、誰彼構わずに入って来れない場所だとしても。

 こうして人が居ないこの孤島の城に入ればそんな心配は全くしなくて良いのだ。こちらの方が断然精神を落ち着かせるのにバッチリである。


 帝国へと戻る前にここで昼食を摂ってしまおうと思って俺は料理を始める。レストも手伝って二人で食事をした。


「レストは別に食事はしないでも大丈夫なんだよな?となると、これはやっぱり嗜好品って事になるのかね?」


 生きる為に食べる、これが必要無いレストはダンジョンに取り込まれてダンジョン主として変化している。

 その存在は人とは全くの別物と化してしまっていて飲食が必要無い体に。


「そうだね。別に食べても問題は無いんだけど。食べなくても魔力さえ取り込んでいれば体の維持は可能だね。便利な身体と言ってしまうのは、悲しい部分だけれど。」


 別に気にした様子も無くそう答えるレスト。俺はコレに帝国のあの料理の数々を食べさせてやりたくなった。

 食事を終えて片付けが済んらだ少しだけ落ち着いて来た。なのでここで帝国に戻る事にする。


「今度来る時には面白い料理を持ってきてやるよ。食べられるならソレを楽しまなきゃ損だからな。じゃあ、またな。」


 ワープゲートを繋げたのは宿の自分の部屋だ。こうして直に移動すれば付けられていた監視の目など関係無い。


「はぁ~。さてと。別に何かやる事が無いなら無いで何だか妙に落ち着かないもんだな。帝国の観光は一時中断して久しぶりに暫く顔を見て無かった人たちと会ってくるって言うのもアリか?」


 この世界に来て知り合いが大分増えている。一番長く顔を合わせていないのは誰だったかと思ってボンヤリとこれまでに会って来た者たちの顔を思い浮かべて行く。


 しかし誰かに早急に会わねばならないと言った事も無い。誰かに会いたいと強く願う程でも無い。そこまで精神が落ち込んでいる程でも無い。


「昼間の風呂にでも入って贅沢をするかぁ。久しぶりに入るな?」


 この部屋はバスタブがある。だけど俺は魔法で全身を清潔に保つ魔法を自分に掛け続けている。なので風呂に入るなどと言った事をしてこなかった。便利過ぎるのも時に困りものである。

 ベッドでゴロゴロとして時間を過ごすよりも偶には良いだろうと思って久しぶりに服を脱いで真っ裸になる。


「解放感が凄いな・・・早い所湯に浸かるか。」


 妙な快感を覚えそうで怖くなって直ぐに魔法で湯をバスタブに張って飛び込む。


「ぶふっぅゥぅゥぅゥぅゥぅゥぅゥぅゥぅ・・・」


 変な声を上げてしまった。今は自身に纏わせている魔法も解除している。湯の熱さをこの身に直接得る為に。

 だからこの全身を駆け巡る感覚に思わず声を上げてしまったのだ。湯船に浸かる心地良さを久しぶりに思い出した。


「ぉぉぉぉ・・・風呂は良いモノだ。忘れていた感覚が一気に吹き上がってきたぁ・・・」


 今までの疲れが全て湯に溶けて消えて行くような心地良さに何もかもを忘れて行く。

 全身の力が抜けていき時間も忘れて風呂に浸かり続ける。湯から上がったのは大体それから一時間後だった。


「生まれ変わった様な気分だ。これは定期的に風呂に入らないと駄目だな。魔法が便利だからって忘れちゃいけなかった事がまだこれだと沢山ありそうだ。」


 風呂に入る、これは体の清潔、健康維持と言う意味では無く、この世界の今の俺には「精神的安定」の為に入らねばならないと強く思う。


「さて、サッパリした事で気分はリフレッシュしたし、何をしようかね?」


 風呂に入ってその後に昼寝、と言った贅沢も良いだろうと思ったが。ここ最近は暇ができると昼寝だと言って何度も寝ていたような気がする。堕落はイケない、堕落は。

 なのでここはこの勢いでこれまでに考えて来た細々とした思い付きを片付けてしまうと言うのも手だと考えた。


「いや、別に無理してそうやって動き続けようとしなくてもイイじゃ無いか・・・でも、そういう気分だからしょうがないか。」


 でもよくよく考えて見ればこれと言った特にやっておきたい思い付きは無かった。


「うん、マルマルの冒険者ギルドにでも行って見るかね?」


 よくよく考えてみると俺はそもそも冒険者仕事とやらを余りやっていない。

 冒険者のランクとやらがあったはずだが、それにも興味が無かった。

 銀行の預金カードみたいな使い方ができるから便利だと思って冒険者登録をしていると言った感じだ。

 今なら別に冒険者ギルドでのカードで無くても商業ギルドなどがあればそちらに登録してこうした金のやり取りができるカードを作ってそちらを使っても良いだろう。

 冒険者ギルドがあるのだから商業ギルドといったものが存在していてもおかしく無いだろう。となればそちらでもこの様な銀行預金カードみたいな物は使っているはずだ。そちらに乗り換えると言った事も考える。


「あー、商売絡みだと今の冒険者って立場の場合よりも一層鬱陶しいのが群がって来そうな予感がする・・・」


 金の亡者などと言う言葉があるが、商売をする者の中には金に生る事に対しての執着が激しい者が居るだろう。何が何でも食らいつく、と言った感じで。

 そんな奴に纏わりつかれたら?こちらが首を縦に振るまでずっと粘着される事は間違いないだろう。

 そうした事を思い浮かべたら背筋に寒いモノが走る。


「クワバラクワバラ・・・さて、それじゃあ久しぶりに、そうだな、ミライギルド長の所に顏でも見せに行って見るかな?」


 気まぐれに何か依頼を受けて見ても良いだろう。他には世間話か、或いは何か重大なニュースでもあれば仕入れるのもイイ。

 一応は帝国での教会の件もあったし、そこら辺で冒険者ギルドがどの様な対応を教会へとしたのかを聞いてみるなどでも構わない。


「取り敢えず、また思い付きで動くんだな俺は。でも他に別段やる事無いんだよなぁ。」


 今の俺は全く持って何もやる事が無い。従魔闘技場で試合が組まれていればそれに出はするが、今日はどうにも連絡が来ないので試合は無いんだろう。

 戦神闘技場とやらには行く気が起きない。キガッズに見つかると無理矢理試合をさせられそうだから。

 帝国聖教会にはなるべくなら関わりたくないし、マシルともなるべくなら関わり合いたくない。

 帝国の冒険者ギルド、そのギルド長ガベルも何だか悪戯好きな面が見受けられるので余りお近づきになりたくない。その悪戯が俺に向けられるのは勘弁だ。


 俺はここまで考えてハッとした。もうこれ以上は帝国に残り続けなくても良いのでは?と。

 嫌な事が多くある場所に居続ける必要は別にどこにも無いのだ。


「あ、ダンジョンの美術品やらなんやらを運び出すって仕事が残ってるんだったか。そこら辺の準備はできてるのか?うーん、中途半端に仕事を残して別の場所に移動するのはなぁ?」


 取り敢えず今は別にマルマルにまた戻ってずっとそちらに居続けると言った事では無いのでワープゲートを展開する。

 そして散歩する様な軽い気分で人気の無いマルマル冒険者ギルドの裏手に移動した。

 そのまま入り口の方に回ってさっさとギルド内へと入る。そして依頼掲示板を眺めてみたのだが。


「別段コレと言って面白そうな依頼は・・・無いな。うーん?ギルド長に話を・・・止めておいた方が良いかな?いつも突然来ないでくれとか言われてたっけ。仕事の邪魔しちゃ悪・・・」


「エンドウ様ですね?ギルド長がお呼びです。どうぞこちらへ。」


 背後から突然掛けられる声。どうやら受付スタッフが来たらしい。そしてその内容が今俺が考えていた中身と真逆である。


「なんか俺、悪い事したかな?うん、して無いよな?」


 こんなタイミングに呼ばれるものだから不安が生じる。以前やらかしていた何かで問題があったかと少し思考する。しかし思い付く所が無い。

 素直に受付の後を付いて行きギルド長室に入る。


「はぁ~。良く来てくれたわね。いらっしゃい。まあ、積もる話もあるけれど、貴方はそう言った事をしないわよね何時も。回りくどい言い方はしないわ。私から貴方に依頼を出したいの。受けてくれないかしら?」


「珍しい、珍し過ぎてちょっと怪しいって感じるくらいに。」


 俺は少しだけ冗談を混ぜてそう答える。コレにミライギルド長はと言うとそのまま話を続けた。


「そう構えないで欲しいのだけど?ええ、それでね。うーん、こんな事を言うのはちょっと躊躇われるし、情けないし、バカみたいなのだけれど。まあ、前置きはこれ位にして。従業員のうっぷん晴らしの為なのよコレは。」


 何を言われているのか、どうにも要領を得ないこのいきなりの説明に俺は「はい?」と首を斜めにしてしまう。この時の俺の頭の上にはきっとハテナマークでも出ていた事だろう。


「あー、ウチの素材買い取りは、貴方利用した事あるわよね?で、そこの、まあ、ゲルダなのよ。ここ最近ずっと珍しい素材を扱っていないせいでどうやら仕事に支障を出しかねないくらいに機嫌が悪いの。・・・分かるでしょ?」


「あー・・・」


 俺は記憶の中から今回の問題の中心人物の顔を思い出す。そしてその顔つきと態度も。


「貴方なら、珍しい、と言うか、今までゲルダが見た事も聞いた事も無い様な素材を持っているんじゃ無いかって。縋る思いでずっと待ってたって訳なのよ。」


 妙な悩みもあったもんだと俺はここで少しだけ呆れた。しかし別にこれ位の事を依頼として出さずとも只の「お願い」と言った形で俺に話をしてくれれば良いはずだ。

 依頼だなんだと言った堅苦しい手続きなんてせずともそんな頼み事なら別に断る理由など無い。固くなにここで「売らない」などと言う様な性格じゃ無い俺は。

 俺もギルド長もそこそこの付き合いだ。別にここで「だが断る」などと言い放つ間柄でも無い。


「貴方はいつもサンネルの店に素材を売却しているでしょう?だからこうして直接貴方に依頼を出す形じゃ無いと素材をこっちで買取させてくれないんじゃ無いかって、思ってしまったの。」


「そこまで薄情な奴じゃ無いんですけどね俺。まあでも、ギルドでの買い取りに思う所があってサンネルへの売却を決めたって言うのはあるからなあ。そこはそう思っちゃうのはしょうがなかったんですかね。」


「依頼は受けてくれるかしら?受けてくれるならいつ、何を持ってこれそうなのかを教えておいて貰えるとこちらも助かるわ。」


 どうやら俺が既に受ける流れでギルド長は話を進めたいらしい。


「時間も、もうこれ以上余り掛けたくないのよ。不安が膨らむばかりだわ。ゲルダがそもそも自らで魔物を狩りに行こうとする可能性も否定できないから。あの子なまじ強いから・・・それに追加で解体の知識もあるしで、はぁ~。何かやらかす前にこの件は早めに解決したいのよ・・・」


 大きな溜息と共に「タイムリミットは後僅か」とぶち込んでくるギルド長。

 コレに俺は口が滑った。思い付きがするりと漏れ出てきていた。


「じゃあどうせなら本人に狩りと解体を両方させちゃえば良いのでは?それで鬱憤晴らしが大いにできるんじゃあ?」


「は?」


「いや、これは別にふざけて言ってる訳じゃ無くて。そこまで仕事に支障が出るくらいにモンモンとした物が本人の中に溜まってるって言うのであれば、魔物をブッ飛ばすのでスカッとすれば良いし?素材の解体を本人が楽しいと感じてるって言うなら、その狩った魔物の解体も本人にやらせりゃ、凄いスッキリできるんじゃないのかなって?」


確かゲルダは上級の鑑定士?解体士?だったか何だったかの資格持ちでは無かったか。ならばギルド長がゲルダを「なまじ強い」と評するくらいならいっその事両方やらせれば?と。


「はい?・・・それ、誰が護衛に付くの?もちろん、エンドウ、貴方よね?」


「ぁ・・・」


 口は禍の元。面倒そうな依頼をより一層に面倒な形にワンランクアップさせてしまった。

 しかし別にこれは今ここで俺が魔物の素材を直ぐに提供すれば護衛などと言った仕事は考えないですむ、済むはずだ。

 だがここでギルド長室のドアが勢い良く開かれる。


「だあああああ!もう我慢できねぇ!自分で狩ってくる!ギルド長!もう限界だ!どいつもこいつも面白みの無い素材ばっかり!傷が多過ぎて使い物にならん素材ばっかり持ち込んできやがってよぉ!」


 そこには吠えるゲルダが立っていた。


「遅かったわね・・・それで、受けて、くれるわよね?」


「あ、ハイ・・・」


「・・・あ!?お前はいつぞやの!」


 ギルド長はニッコリと俺に微笑んで圧を掛けて来ていた。それに俺は何故か頷く事しかできなかった。

 ゲルダはと言えば、俺を見るや否やそう口走って思いきりガンを飛ばしてきている。


「ゲルダ、落ち着きなさい。そこに先ずは座って。話をしましょう。」


 俺の座るソファの隣、スペースの空いている部分へと座る様にギルド長はゲルダに言う。

 コレに機嫌が悪そうにしたままにゲルダは言われた通りに座る。俺を滅茶苦茶睨んだままに。


「貴女は気が短いから先ずは言わせて貰うわね。狩りに行くのは許可します。だけど、条件付き。それが呑めなければ出て行かせないわ。」


 このギルド長の言葉にゲルダはムスッとした顔のままに了承の言葉を口にする。


「分かった。それで、条件って?・・・こいつがここに居る事が関係してるのか?」


 ぶっきらぼうにそう言いつつ、やはり俺をまた睨んでくるゲルダ。ここまで嫌われる様な事をした覚えは俺には無いのだが。

 しかし俺がそう思っていてもゲルダはそうは思っていなかったからこそのこの眼差しなのだ。これをどうにかしようとするならば時間も労力も相当かかる事だろう。

 そんな事にエネルギーを使いたくない俺は睨まれ続ける事に触れないでおく事にする。


「彼を貴女の護衛に付けなさい。護衛費用は私が出すわ。それ以外は自由にして構わない。」


「あぁ!?こいつを護衛!アタシの!?冗談じゃない!」


「なら駄目よ。貴女が抜けている間の穴埋めにどれだけのしわ寄せが他の職員に行くと思っているの?それに、貴女が自分自身で狩りをするなんて、それで怪我をしました、暫く仕事はできません、だとか。不慮の事故で死んでしまいました、なんて事になりでもすればこのギルドにとってどれだけの損失になると思っているの?一人で行かせるはずが無いでしょう?」


 どうやらギルド長の指摘を全部分かっているんだろうゲルダは。反論などせずに黙ってしまった。

 俺はそこに口を挿む。


「なぁ?狩りに行くのは確定か?珍しい魔物の素材を今すぐに扱えるのであれば機嫌は直るのか?どうなんだ?」


 俺の質問にふてくされながらもゲルダは答えてくれた。


「一発スカッとしたいんだよアタシは。冒険者が持って来た素材が汚かったり、ボロボロだったりを見させられるとムシャクシャするんだ。何でもっと綺麗にできないんだって。ここ最近の冒険者なりたてのヒヨッコにそう言う傾向が多く見られるんだ。素材の質に無頓着な奴が多い。ちゃんとこっちはその度に注意してるってのに、こっちの苦労も考えない。それでいてそんなクソみたいな状態の素材で買い取り額が高くなるはずが無いのに文句だけはいつも偉そうに付けてきやがる。そういう奴らを何度ぶん殴ってやりたいと思った事か。これまでずっとそう思った時はいつも周りが止めに入るから一発も殴った事は無えけど。しかもだ!ここ最近になってウチのギルドに他所から流れて来た冒険者が居てよ。そいつら五人組なんだが、ふざけた奴らなんだ。特にそいつらがヒデぇ。いつも買い取り額に文句付けては鑑定士の目は腐ってやがるだの、前に居たギルドじゃ買取はもっと高かっただのと鬱陶しい事ばっかりダラダラその口から垂れ流しやがる。もう我慢がならねぇよ。アイツらの面を今度見ちまったら流石にキレるぜ、アタシは。」


 恐らくはもう本当に限界なんだろうゲルダは。一気に不満をぶちまけた。その問題の「流れの五人組」の顔を次に見たら確実に事を起こすのではないだろうか?

 それが確信できてしまう程にゲルダの憤りがこちらに伝わってくる。


「その問題の五人組の事なら近日にそれなりの処分を下す予定だから少しは落ち着きなさい。前もってその事は教えてあったでしょう?ウチの流儀を守れない奴らはそれなりに痛い目を見て貰う事になっているから。貴女が五人組をぶん殴る、なんてしてしまえばギルドの評判が悪くなるのは分かっているわよね?・・・はぁ、と言う訳で、コレで分かってくれたかしら?エンドウ、頼むわね?」


「あぁ、分かった。分かったよ。これじゃあ何も言えないよ。で、どこら辺に狩りに行きたいんだ?近場か?遠出か?」


 先ずはそこが大事だ。ギルド長もゲルダが長く抜けたらその穴埋めが大変だと言ったばかりである。


「先ずは近郊の森で一狩りして新人の馬鹿共に見本を突き付けてやる。その後は町一つか、二つ程遠くに出てここ等辺じゃ見ない魔物を狩りたいね。」


「ギルド長、良いのか?コレ?」


 どうにもこの様子じゃ長期になりそうだ。こちらの世界には車やら電車、飛行機なんて高速で長距離を移動できる移動手段など無いのだから。

 なので俺はそうギルド長に確認を取ったのだが。


「良いわ。どうせなら数年分貯めてある休暇を全部使うつもりで行ってきなさい。貴女は毎年毎年、支給されてる休暇を一日も使わないわよね?もし自分が居ない時に珍しい素材が入ると嫌だからって言って。だったら今の状況はうってつけね?何せマトモな素材を冒険者たちが持ってこないって言ってるんだから。」


 変なタイミングでマルマルの冒険者ギルドに来てしまった物だと俺は内心で呆れてしまった。

 何かそう言ったモノに吸い寄せられる、或いは引き寄せる何かを俺は持っているのだろうか?


「よっし!そうと決まれば今すぐに準備して近郊の森の奥に行くぞ!」


 ゲルダは勢い良く立ち上がって右手に拳を作って左手の平に打ち付ける。小気味良い「パチン」と言った音が部屋に響いたと思えばゲルダはもう退出していた。コレにギルド長は苦笑い。


「じゃあ依頼書を作ってしまうわね。それに署名して頂戴。契約内容はちゃんと読んで理解しておいて。一々説明を口頭ではしないから。」


 そう言ってギルド長は執務机でさらさらと紙に今回の件の条件などを書いている。そして五分程で俺の前にその書類が出される。

 内容は別にそんなに難しい事は無い。


 ゲルダに付いて行く。彼女の安全を最優先で護衛は当たり前。無理をしない様に監視。狩りに満足するまで付き合う。

 その他にも体調管理やら、他所で迷惑を掛けない様に注意するなどの一通り「常識だろ?」と思える事まで細々と注文が書かれていたりはするが。まあざっくりと言ってしまえばそんな所だ。


「で、俺は何時まで待って居れば良いのかね?ゲルダが準備して、一度ここに戻って来て声を掛けてくれるのか?」


 書類にサインをして俺は待つ。その間にギルド長に質問をしたが。


「ゲルダはああ見えてそう言う所はキッチリしてるから大丈夫よ。きっと準備が整い次第に貴方を呼びに来るわ。」


 ゲルダの出て行った勢いを見て「そのまま俺を置いて行ってしまうんじゃないのか?」などと言った印象を持ったのだが。

 ギルド長はソレを否定する。ゲルダとギルド長は長年の付き合いだろうし、その性格もちゃんと把握しているんだろう。

 その言葉を信用して俺はソファでそのままゆっくりと待つ事にした。俺の方の準備なんて何も無い。なのでこのままボケッとして待つ事に。


 その時間約30分。またしても部屋のドアは勢い良く開けられた。


「おい!行くぞ!今から急げば森の奥地にまでは行ける計算だ!ぼやぼやして無いでさっさと来い!野営をして翌日に狩りだ!」


 ゲルダの俺への対応が雑。コレに俺はギルド長を一瞥してみる。するとギルド長は言葉にはせずに苦笑いして「ごめんなさいね」と小声の謝罪のみ。


「はぁ~。分かったから慌てなさんな。さてと、行こうか。」


 俺は重い尻をソファから上げる。そしてゲルダに近付いて床に置いてある荷物をひょいと持ち上げてインベントリにしまう。


「は?・・・はぁァぁァぁァ!?」


 ゲルダの驚きは無視だ。この際だからもう俺も出し惜しみ無し、隠し事無し。ゲルダにはその内にワープゲートも見せるつもりでさっさと部屋を出る。


 すたすたと俺はギルドからそのまま外に出たのだが、ゲルダが来ていない。


「あ?何だよ・・・ぼやぼやしてるなって言ってきた癖に。」


 そのまま一分程待って居るとゲルダがやって来て開口一番。


「お前!一体何者なんだよ!?」


「で、森だろ?奥にまで今日中に行くんだよな?荷物なら言ってくれればいつでも出すから。ほら、さっさと行くんだろ?」


 俺のこの態度に一拍置いてゲルダは「う"ん"ん"ん"ん"ん"ん"!」と何とも言えない唸り声をあげるのだった。

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[気になる点] だいぶ話数が進んでるからそろそろ… 魔力乗せて威圧とかしないもんかね?主人公の見た目?で侮ってるか知らんけど物語前半からずっ〜と初見に舐められるから威圧したら良いのに…と思って読んでる…
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