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驚きがここにも

 そんなフラフラとしている時間は直ぐに止められた。


「少々宜しいでしょうか?貴方が「エンドウ」で合っていますね?」


「何ですかいきなり?確かに俺がエンドウだけど?アンタ、誰?」


 いきなり声を掛けられたのだ。しかも女性である。かなりの美人でロングストレートな銀髪が眩しい。

 切れ長な目でじっとこちらを見つめてくる。その纏う空気はピリピリとしていてどうやら緊張していると言った感じだ。

 着ている服は何とも「神官」と言ったらしっくりくるだろうか?光を反射して目に眩しい程の純白の服。

 金糸でどうやら縫われているらしい刺繍は余計にキラキラを生み出して目に痛い位の輝きだ。何となくミッツの来ていた服に似ている様な、似ていない様な?微妙に違いがあるデザイン。


 そんなどうにもお金持ちなのか、或いはどこぞのお偉い人なのかは知らないが、その様な人物が俺に話しかけてきた。

 その女性には護衛が付いていて五名。どいつも屈強な体躯をした男で、各自がお揃いの服でやっぱり神官みたいな服を着ている。しかしその腰には剣が掛かっており、もの凄い剣幕で俺を睨んでいた。


「失礼いたしました。いきなり名前を呼び捨てにしては不快感を与えてしまいましたね。」


 女性が俺に軽く頭を下げて謝罪してきたのだが、これを見て護衛の五人が余計に俺を睨んでくる。それこそ俺を視線だけで殺そうとせんばかりに。


「貴方に少々お聞きしたい事が御座いまして。こうして探しておりました。申し遅れましたが私は・・・」


「すまないが、アンタの名前は別に聞く気無いよ?その聞きたい事って何?そっちを先に話してくれる?さっさとそれに答えて飯を食いに行きたいんだよ俺。」


 朝飯を食っていない状態な事を俺は告げる。この女性の名前など俺にとってはどうでもイイ、興味も無い。

 俺のこの態度は非常に相手に対して失礼だろう。不愉快にさせるだろう。

 相手の女性は俺の名をいきなり聞いて来た事を謝罪したのだし、ここまで突き放す様な言い方はしないでもうちょっと柔らかく拒絶の言葉を選んで口にするべきだったはずだ。

 けど、俺はコレにイヤな予感しか感じ無かったし、仲良くするつもりも無いし、丁寧に接しなきゃいけない義理も無い。

 こんな無礼な対応で俺の印象をどんな風に相手が受け取ったかなどはそっちのけ、関係無い。

 そんな事よりもいち早くその「聞きたい事」とやらに答えてさっさと通りから外れた狭い路地から漂ってくる香ばしい匂いをさせる店に行って見たいのだ。


 でもこの俺の態度で護衛の五人が憤怒の形相をしている。だがどうにも良く訓練されているのか、どうなのか?

 その腰の剣をその怒りの感情のままに抜いたりはしないらしい。


「では、そのお食事の席にご一緒しても宜しいでしょうか?そこでお話を聞いて頂けたら。」


 女性はそう言って別段俺のこの態度に怒った様子も無くそう言ってくる。

 俺はこれを別に断っても構わないと思っている。思っているが、取り敢えずその聞きたい事とやらの内容も聞いておこうと考えてコレを了承した。


(高い確率で昨日の事なんだろうなぁ)


 十中八九、あの昨日のチンピラたちを突っ込ませたあの件についてだろう聞きたい事とは。

 小さい溜息を吐きつつも俺は行こうと思っていた路地の店へと歩き始める。

 コレにどうにも俺を逃がす気は無い、と言わんばかりに護衛の内三名が俺を囲う様にして付いて来る。残りの二名が女性を守る形でその後を付いて来ている。


(どんだけの人物なんだよ、この女性は。事情聴取にそんなヤベェのを連れてくるか?そんな必要あるのか?)


 どう考えても護衛が過剰反応し過ぎだ。この対応でこの女性が「特別」なのだと言うのが丸わかりである。

 さて、そうなればこの女性にしかできない特別な事があるんだろうそうなると。

 それは一体何だろうか?と考えた所で目的の店に入ってみた。するとそこは。


「へい!いらっしゃい!七名様ですかい?じゃあ一番奥のテーブルに入ってくださいや!おーい!七名様ねー!」


 店の従業員だろう男がそう言って俺たちを一番奥の席に案内してくれたのだが。その額には捻じり鉢巻き。腰には腹巻で、その姿にどうにも既視感。


「バカ◯ンのパパですか?・・・どうなってんだコレ?」


 何かのギャグかと思って一瞬呆けてしまったが、直ぐに復帰した。

 店のスタッフたちは男も女も全員が同じ格好だったからだ。どうにもそれが「制服」であるらしいのである。


 案内された席に座ればそこは畳部屋で靴を脱いで上がる座敷型だった。


(これって・・・絶対にそうだよな?)


 恐らくは懐石料理のあの店と同じだ。ワークマンに連れて行って貰ったあの店と。

 どうにもこの帝国にも「日本人」が影響を与えている部分があると。


 そしてここの店には一種類しかメニューは無く、そしてどうにもソレは俺の良く知るあの料理だった。


「ヘイお待ち!この店の名物!オコノミーンだよ!熱々だから食べる時には注意してくれな!コッチのタレをお好みの量掛けて食べてくれ!タレは三種類だ!自分好みを見つけて楽しんでくれ!」


 ソレはどう見ても「お好み焼き」。入っている具はどうやらこの世界の食材でのオリジナルなようだが。


「ブル●ックソース・・・マヨネーズに?これ・・・トマトケチャップか?」


 今俺の感情をどう表現したら良いだろうか?複雑に色々と渦巻いて良い言葉が見つからない。


「では、頂きましょうか。私はこの料理を初めて食べます。」


 女性がニッコリと笑顔で楽しそうにオコノミーンを食べ始める。一口食べて「美味しい」と口にした後は護衛にも薦めている。


「ほら、皆も食べましょう。」


 護衛たちがその言葉でやっと料理に手を付けて食べ始める。別に彼らは此処に飯を食べに来た訳じゃないだろうし、そもそも、もしかして既に朝食は食べ終えているかもしれない。

 けれどもどうやら彼らの上司でもあり、護衛対象でもある女性から「一緒に食べよう」と言われてしまうと逆らえないのだろう。


 俺もやっとの事で感情を落ち着かせて黒くドロリとした「タレ」を先ずかけてみた。

 俺の知るブルドックソースよりも粘度は高い。しかし香ってくる匂いは俺の知るソレと良く似ていた。


「おおっふ・・・マジでお好み焼きソースだぞコレ。良く開発できたなぁ。」


 俺は感心した。そして食べたこのオコノミーンがやはり完全にお好み焼きだった事に安堵すると共に懐かしさにじわっと心が温かくなる。


「マヨネーズは、うん、そのまんま。で、ケチャップだけど・・・コレはトマトって感じじゃないけど、酸味が良く再現されてるわ、マジかよ。」


 俺は三種のタレを堪能しつつ感動してペロリと料理を平らげた。思わぬ所にこの様なモノが存在して驚きを隠せない。

 どのタレも再現度が高く、余程の開発期間と食材の吟味が為されたのだと思いを馳せると感動がやってくる。


「美味しかったですね。この様な食事を皆さんは普段から食しているのですね。勉強になります。さて、では落ち着いた所で回りくどい事をせずにお聞き致します。昨日の事です。戦神闘技場にて、乱入者が出ました。その方たちは試合にいきなり入り込んで何の戦略も無く選手たちに突撃をし、返り討ちになったのです。」


 やっぱりか、そんな感想に俺はなる。質問はその事だろうと分かり切っていた。


「その方たちが言うには。」


 その後の事はもう予定調和としか言いようが無い内容だった。

 そいつらは俺に操られてあの場に突っ込まされたと主張。要するに、俺が主犯で、あいつらは被害者面したと。

 まあ確かに俺がその戦神闘技場とやらに迷惑を掛けたと言う点でだけ言えば、犯人は俺だと言う事になるだろう。

 でも恐らくはこの件に至っては証拠が無い。確たる証拠が。


「彼らが虚偽の証言をしていると言った可能性・・・を確かめる為に俺を探していたと。」


「はい、貴方は既にこの帝国では有名ですから、見つける事はそこまで難しい事ではありませんでした。多少探しましたが。」


「で、そっちから見て俺はその騒ぎを起こした張本人だと決めつけている感じかな?」


「そうですね。あの七人の言葉が嘘とも思えません。貴方の御力が強大だと言う事も調べが付いておりますから。」


「うん、従魔闘技場の事を言ってるんだなそれは。そんで俺がその乱入者って奴を操って事を成したとしてもおかしくないと判断していると。・・・ねえ?余りにも正直に言い過ぎじゃないか?」


 どうやら向こうは確信を持って俺に聴取を行っているらしい。余りにも明け透けに言うモノだからちょっと呆気にとられた。余りにもストレートにモノを聞いて来るのはどうなのか?

 話の駆け引き全く無しで大丈夫か?と相手に対してそこに逆に心配をしてしまう。その後は別の心配も。


「それで、俺がソレを否定したらどうなんだ?そっちはそれで引き下がるのか?」


「私はあくまでも調査をお願いされた立場でして。貴方が口にした言葉をそのまま依頼主、この場合は闘技場の管理者に報告を上げるだけですね。後は直接会った私の所感を付けてと言った所もありますが。」


「直接その闘技場関係者が俺の所に来て事情を聞いてくれば良い話なのに、そちらに依頼を出してまで調べを行おうとしたのは何かしらの特殊な訳があるって事で良いんだよな?調査をお願いされたって事はアンタらは別の組織であると言う事だろ?で、どんな業務が主なんだ?こうして犯人と思わしき相手に話を聞くだけ?捕まえるとかは無いのか?」


「中々に大胆な方ですね。踏み込んで来る一歩が大き過ぎます。答えられません、と言うのは簡単なのですが。・・・ふふふっ、どうにも貴方には話しても宜しいかと個人的には思っていますが。彼らが許してはくれなさそうです。」


 俺とこの女性との会話に一言も割り込んでこない護衛五人。しかしその顔が心情を物語っている。

 余りにも感情が出過ぎだと言いたくなるその表情は流石にどうにかしろとツッコミを入れたい所だったが、それは俺が注意をする事じゃない。

 憤怒と言った簡単な一言で言い表せない表情であったが、そこからひりひりとした雰囲気が俺に向けられていたのできっとこの場で俺を殺したいとでも純粋に心底思っているんだろう。


「皆さん、控えてください。店の方たちの迷惑となります。さて、ではここの支払いはこちらで持ちましょう。どうやら貴方は犯人では無いと仰るので。こうして押しかけてしまいましたから、迷惑料だと思ってくだされば。」


 どうやら俺が口にした「否定したらどうなんだ?」と言う言葉で犯人じゃないと主張していると向こうは受け取ると、そんな形にする気らしい。


「御馳走様でした。もう会う事も無いですね?余り面倒な事を持ち込まれたくないものです。」


 シレッと俺は嫌味を吐いてみる。だけどもコレには。


「いえ、私としましては個人的な友誼を得たいと願っています貴方と。ですのでまたお会いしたいのですが。」


「はぁ。まあ、別にそれは良いですけどね。その五人もまた一緒ですかその時は?」


「彼らは同席させるつもりはありません、と言いたい所なのですが。まあ、数は減らす努力はしますね。では、また。」


 そう言って店を出て行く六人。やっぱり護衛が女性を囲って万が一が無い様にと警戒を最大限に上げて去っていく。


「うへぇ・・・なんだか良く分からないのに絡まれちゃったなぁ?あ、名前・・・は、まあ次に会った時で良いか。」


 最初に名前なんて聞かないで良いと言ってしまったのでこの女性の名が分からない。けれどもそんなのは次の機会で良いだろう。まあ、次が無い方が俺としては良いのだが。


 さてこの聴取に対してここで自白して「俺がやりました」などと言わなかったのは別に只そう言ってしまうともっと後が面倒臭くなりそうだったから。

 ここは確かに俺が関係無い戦神闘技場とやらに迷惑を掛けたと言った形になっているのだから、社会的にもちゃんとそこは誠意をもって謝罪をして慰謝料を払うなどの処置をするべきだったんだろうが。


「俺の精神はそんな事で罪悪感とかを感じなくなっちゃったしなぁ?悪戯がバレちゃた?てへ?みたいな気分だよ今は。」


 あのチンピラ共に制裁を加える事に闘技場を利用した事は確かに迷惑行為だ。そんな思い付きは人としてそもそもやってはいけない行為だと言う事は理解している。

 しかしコレに満足している自分も居て、しかも別に悪いとも思っていない自分が居る。


「ドキュン?確か・・・DQN、だったか?頭のおかしい奴の事をそう言うのだったか?俺もそう言う奴になってしまったのだろうか?」


 店を出て通りを腹ごなしに歩きつつもぶらぶらと散歩しながらそう自分に自己嫌悪しそうになる。

 サラリーマンしていた時にはこんな事など有り得なかっただろう。そう、俺は大分変わった。まるで人が変わったと言えるくらいに。


「でも、俺は俺なんだよなぁ・・・あーあ、今回の事は変な縁を作っちゃった切っ掛けになってるし、反省点はそこだよなぁ・・・」


 彼女らは一体どう言った特殊業務を請け負っている組織なのだろうか?

 護衛に付いていた者たちは相当に強い者たちでは無いかと予想するのだが。

 そんな者たちを五人も付けてまで俺に直接会いに来るあの女性も女性でどんな立場の人物なのか?


 俺は自分が行った行為でこの様な事になるとは思ってもみなかった事に頭を悩ませる。

 またこの出会いが余計なドタバタに繋がらない事を願いつつも散歩を続けた。


 そうして広いこの帝国を散策し続ていればあっと言う間に昼を過ぎて大分経ってしまっていた。

 昼食も食べ終わって散歩の続きをしていれば新しい発見もあるものだ。まだこの国を知り尽くしていると言えないのだから当たり前だが。

 賭け事で遊んで満足していた俺は分かった気になっていただけ。まだまだ色々と見て回れる観光名所が沢山あった。

 大型ショッピングモールの様な場所もあったし、バカでかい劇場もあったし、競売所などもあった。


「奴隷市があったのは衝撃っだったけど・・・それでも国がちゃんと管理してるって話だったしな。」


 その市にいた客に声をかけて話を聞いた所、犯罪者、借金、などの問題で身を落とした者がどうやら奴隷として「懲役」の様な形で売られているのだと説明を受けた。

 捕縛した者たちを只牢へと収監しておくだけだとソレを生かしておくためのお金がかかる。食事代や監視員など。

 そう言った出費を補ったり回避したりする為に国が厳重管理するらしい。

 重犯罪、極悪犯罪などの罪が確定している者はさっさと処刑を敢行するそうで、そう言った悪人はこの奴隷市では扱わないそうだ。


「絶対に裏であくどい商売してる奴隷商っているよな、コレ。」


 どんな商売でも、国が幾ら厳重管理していても、そう言った隠れて犯罪を成す者は出る。何かを隠れ蓑にして、或いは法の裏を通って。


「俺の考えるこっちゃないな。正義の味方でも何でも無いんだ俺は。さて、戻るか。もうそろそろ俺も闘技場で準備しないと・・・って、あ?クロは元気かな?」


 俺はそもそも従魔師として登録しているのだ。一匹でも従魔を連れて行かねば格好が付かない。

 すっかりとそこら辺を忘れて一人で出場する所だった。とは言え、別に俺一人でも本気出さずとも簡単に勝ててしまうのだが。


「うーん?帝国でもう一匹魔物を従魔にしたら良いだろうか?クロはデカいから連れて歩きにくいしな?自分が従魔師だって事をいつも意識できるように身近に連れておきたいなぁ?」


 俺はそんな事を考えつつ宿へと戻った。帝国に居る間だけでもそう言った意識を持っていた方が良いだろうと。

 すると宿のその入り口にはメールンが立っていてこちらへと会釈をしてくる。


「お帰りなさいませエンドウ様。準備の方は宜しいでしょうか?私はこちらで待機しておりますので、大丈夫でしたらお声がけください。闘技場控室までご案内致します。」


「ねぇ?従魔を一匹、そうだな、小さくていつも連れ歩けるような可愛いのを飼いたいんだけど。知らない?あ、戦闘能力が皆無で良いんだ。愛玩動物って感じで。」


 俺は魔物の捕獲の仕事を受けて行った森では狼の魔物を逃がしたのだが。

 今この場では思い付きでペットを飼おうと考えてしまっている。あの時と考えている事が今は真逆だ。

 今の俺は昔と違ってこう言った気まぐれが多くなっている様な気がする。

 行き当たりばったりで生きるとこう言った性格に変わってしまうモノなのだろうか?


「・・・では、先ずはそちらへと案内させて頂きます。まだ試合時間には少々御座いますので。こちらです。」


 メールンはちょっとだけ驚いた後に俺をどうやら店に案内すると言ってくれる。

 俺もそれにしっかりと付いて行く。何せまだ訪れた事が無い店であるのは確定だからだ。

 そんな俺の求めにあった店を俺は大通りの散歩で見かけたり見つけたりしていない。

 なのでそう言った店はもっと別の場所にあったりするんだろう。俺がまだ足を運んで無いだけでその様な店は確実にこの帝国には多く存在するはずなのだ。

 これ程に景気の良い国なのである。金持ちが平気で何匹もペットを飼ったりなどと言った事もあるはずだ。

 従魔師のスポンサーなどに商人が付いていると話では聞いている。ならば従魔の餌や体調管理、その他に従魔の小屋と、何でもカンでも金が掛るはずである。

 そうした受け入れができると言うのは一種のステータスとかではないだろうかこの帝国の大商人にとっては。

 そう言った背景がもしあったのならば、多くの生き物を「飼う」と言った行為が金持ちの証と言った感じで広まっているかもしれない。


「こちらで御座います。私はここでお待ちしておりますのでエンドウ様は中へどうぞ。お時間が差し迫って来ましたらお呼び致しますのでごゆっくり。」


 メールンに案内されたのは立派な構えの大商店、と言った感じだった。ここの店は他の店とは大分離れていて、しかも敷地が広大、と言うか、貴族の家の庭と言っても差し支えない位の規模である。


「・・・壁が分厚い、高い、門も厳重。大型の魔物も扱ってる、って事か?」


 俺の予想していた店の大きさはもっとこじんまりしたペットショップだったのだが。

 だって俺は小さい、可愛い、連れ歩ける、そんな求めをしたのにだ、連れてこられたのはこんな大屋敷である。


「まあ、入ってみれば分かるよな?大は小を兼ねる・・・意味あってるか?いや、あってるよな?」


 そんなボヤキをしつつも俺はこの店の中へと入らせて貰った。

 で、最初に目の前に入って来たのは大ホール。そのど真ん中に巨大な檻。

 そしてその中にはその檻に見合っただけの大きさの熊。クマ?で良いのだろうか?そんな魔物が入っていた。

 そのクマが入って来た俺に鋭い眼光を向けて来た。どうやら警戒をしている模様だ。


「いらっしゃいませー!こちらは初めてでございますか?当店では揃えられない魔物はいません。お探しの魔物がいればこちらにソレを伝えて頂ければ直ぐにご用意して見せます!」


 どうやらこの店のインパクトを出す為に目の前の魔物はここにドドンと置かれているらしい。

 店員が自信満々に俺にそう声を掛けて来ている。恐らくはこの熊?とこのセリフで客に信用とやらを植え付ける事を目的にしているんだろう。

 これだけの巨大な魔物が内には居ますよ、だから客がどれだけの魔物を求めようとも揃えて見せますよ、そんな感じなんだろう。


「・・・あー、小さくて、可愛くて、普段から連れて歩ける動物を飼いたいんだけど、ここはそう言った小型のは扱ってる?」


「はいはいはいはい!ソレはもう!その様な要望のお客様も多く居らっしゃいますので。こちらにそう言った魔物を揃えて御座います。ささ、こちらへ。」


 どうやら専門の別コーナーがあるらしい。俺は案内されるままにその部屋へと入る。

 そこには確かに小型の魔物が所狭しと檻に入れられて並べられていた。いや、小型?と言って良いのかどうかは疑問が残る。


(あー、サラリーマン時代にはこう言ったペットショップなんて入った事無いし、こう言う感じなのかぁ)


 ペットショップなんて言っても種類はあるはずだ。犬、猫、鳥、爬虫類、虫、魚、とか色々と。

 そしてこの部屋はと言うとどうにも爬虫類系が多い。しかしどうやら種類別でもっと部屋があるらしく、どうやら最初に店員が案内したのは此処だっただけという事らしい。


「如何でしょうか?こちらは非常に珍しい黄金のカリブリスルで御座います。この部屋の魔物は特有の獣臭と言ったモノは発生させないモノが中心で揃えておりまして。臭気に敏感な御方でも飼いやすくなっております。」


 カリブリスルと言う名の魔物は「黄金のカメレオン」と言った感じだ。だがしかしやはりそこは魔物。

 大きさは大体50cmと言う具合で確かに小型?と言っても良いモノかどうかは疑問だが、口をよく見るとその中はギザギザな牙が。

 体の表面も棘がかなりの主張をしていてちょっとでも触れればブスリと刺さりそうな鋭さだったりする。

 手の爪も相当に鋭く、引っ掻かれたらヤバイ。サクッと深く皮膚を切り裂かれそうな印象で、光をきらりと反射させている。


「どうやらこちらはお気に召されなかったようですな。ではまだまだ別室が御座いますのでご案内をさせて頂きます。」


 爬虫類コーナーを出て別の部屋へと案内される。試合時間の事もあるのでそこまで時間を掛けては居られないので、今回は下見と言ったつもりでザっと見て行く事にした。


「こちらはガドラクルストと言う名の魔物で御座います!見た目に反して大人しいのですが、コレでいて私くらいの重さを軽く持ち上げて放り投げられる怪力を持っております。」


 次に紹介された魔物は虫系だ。そしてどう見てもヘラクレスオオカブト。

 だけども大きさが最初に紹介された黄金カメレオンと同じくらいだ。小さい、小型と俺は求めたのだが、どうやら紹介されたこれらの魔物の大きさが「小型」と言える部類らしい。


「こちらのお部屋に揃えてある魔物も特有の臭気は無く、飼うにしても大人しい性格のモノが多くて餌もお安いモノが主流です。大分飼いやすい、買いやすい物が揃っております。如何でしょうか?」


 俺が微妙な反応をするので店員はまた別の部屋へと案内してくれる。そこは魚コーナーだった。

 ここで紹介されたのはやはり巨大なグッピーである。大きさ50cmである。やはりコレも魔物らしく、しかし餌はどうやら植物系を食べる大人しい種であると説明を受けた。

 肉食の魚魔物もそこには展示されていたが、その顔はかなり凶悪。口が大きく、一度噛みつけば離さないと言わんばかりの鋸の様な歯が印象に強く残る。どれもコレもがそんな感じだ。


 そもそも魚は連れて行けないのでは?連れ歩けると言う俺の注文を忘れている模様の店員。コレもまた俺が微妙な顔になった事でまた別のコーナーに案内される。


(俺一人に対して案内がこうしてずっと付いて来るって、暇なの?)


 これだけデカい屋敷が丸々ペットショップだと言うのであれば、飼っている魔物の世話で従業員の数も膨大だろうし、飼育し続ける労力や出費なども巨額になると思うのだが。

 そうして余計な事に気をまわしていたら次はどうやら犬猫鳥系の部屋らしい。


「ではこちらなど如何でしょう?メリクリッサと言う種で御座います。こちらは様々な美しい毛並み、毛色を持つ魔物でして。はい、ご覧の通りでございます。ウチの一番の大人気商品です。」


 そこには狐?と言った風貌の魔物が数多く揃えられていた。そのどの個体も毛の色が様々で一つとして同じ

柄は無い。しかもキンキラに輝いていて可愛らしい顔も相まって確かに人気になるんだろうなと言うのが良く分かる。

 だけど俺はこんな派手なペットを飼うつもりが無かった。そもそも俺は小型と言った。俺のイメージ的にはハムスターくらいの大きさを思っていたのだが。

 どうにも魔物と言うとやはり最小でも大きさがかなりのモノになるのが一般的なんだろう。このペットショップ、というか、ここは従魔を取り扱っている店だろう確実に。


「えーっと、手の平に乗るくらいの滅茶苦茶小さいのって、いませんか?」


「・・・はい?手の平に乗るのでございますか?流石にそう言った魔物は・・・はて?いえ、ちょっとこう言った魔物とは別に恐らくと言ったモノが在る事はあるのですが・・・」


 妙に言葉が濁る店員を追求し、詳しい説明を要求したら渋々話をしてくれた。するとどうにも「変な物」を先日入手したのだと言う。

 俺は最後にソレを見せて貰おうと思って強くお願いする。

 するとどうやら店員の方も俺を「上客」にしたいと思惑していたのか、この求めを受け入れてくれたのでソレを持ってきてくれると言う。


「さて、変な物?面白そうだよなぁ。っと、試合の時間も考えないといけないか。呼びに来るって言っていたけど、遅刻はしたくないからな。」


 そんな事をぼやいていたら店員がその「変な物」を入れてあるのだろう箱を手にして部屋に戻って来た。

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