捕獲作戦は成功・・・した?
「で、どれが今回の捕獲予定?ソレと、失敗って?もしかしてこの中に標的は居ないのか?」
俺が魔力固めで拘束している魔物は微動だにしない、できない。ここはもう安心しても良い所である。
でも魔物の威容にビビッているのか、リーダーはこっちに近付こうとはして来ない。
「おーい、状況説明を求むー。簡単な仕事を失敗した冒険者たちはどうしたー?」
ちょっと声を張ってそう俺は皮肉を入れた質問を飛ばしてみる。失敗だと言った位だ。犠牲者が出ていたりしたら俺が助けてやらん事も無い。応急処置くらいはしてやってもいい。こんな仕事で死ぬ事は無い。
だけどもリーダーから反応が無い。俺は別に彼に魔力固めは掛けていないのだが。
このまま待って居ても埒が明かないので俺は固めてある魔物たちを操って歩かせて集合させておく。
正直言って蛇はどうやって動かせば良いかと少し悩んだが、ちょっとコツを覚えたらスムーズに動かせるようになった。新たな経験である。
そのまま俺はリーダーの居る方へと近づくのだが、一緒に魔物も近付けてしまったせいかリーダーは一目散に俺に背を向けて、というか、正しくは魔物に背を向けてダッシュで逃げて行った。
「ハッキリ言わせて貰うと、俺にこの後どうしろと?いや、ホント、分かるよ?俺が相手に対して配慮して無かったと言えば、そうなるけどさ?でも、あそこまで全力で逃げる事無くない?」
リーダーはきっと「失敗」した事を俺に伝えに来るくらいは責任感が強い性格なんだろう。律儀だ。
だけどやはり冒険者は命あっての物種。俺に構うよりも目の前の分かり易い脅威から逃げる事を選択したと言う訳だ。
誰もコレを責められないだろう。いや、俺は一言くらいは言えるはず。
「魔力固めを少しの間だけとは言え体験させたんだから、この状況をその分くらいは理解できていても良さそうなモノじゃないのか?」
リーダーだけは俺に対して多少の信頼を置いていてくれていると思っていた。
だけどもこうなるともの凄く悲しい。いや、彼らと今後長い間一緒に仕事をして行くと言った仲になる訳じゃ無いから別にこれほどに本来悲しむ事は無いのだが。
それでもここまで綺麗にスタコラさっさと逃げられてしまうとどうにも思う所はある。
「この中にゴリアリススパイダスってのが居るのか、いないのかダケでも一言教えてから行ってくれれば良かったのに・・・」
そんな余裕があったら最初から逃げずに魔物への観察をもう少しだけしていた事だろう。
そしてそこで違和感を覚えてくれていればきっと俺に対してちゃんと受け答えをしてくれていたはずだ。
「・・・この三匹はこのまま連れて行けば良いのか?はぁ~、しょうがない。ちょっと魔力ソナーを森に広げて様子を見てみるかぁ。」
失敗だと言うのであればもしかすれば冒険者が遭難していたり、もしくは怪我をしてしまい動けずにいると言った事も起こっているかもしれない。
想定しておくべきだった。こうして簡単だと思っていた仕事でも失敗すれば大惨事も有り得ると。
こうして森中に魔力ソナーを広げて確認を取ってみたが、別に誰かが動けずに森に居残っていると言った事は起きていないらしく誰も居ない。
ソナーに引っ掛かった冒険者たちの数を確認して見ても別に減っていると言った事は無く、死人や重傷者などは居ないみたいだった。
「全員無事って事で良いのかね?でも依頼は失敗なんだろ?どうする気だ?このまま冒険者たちが集まっている場所に俺も合流した方が良いか?」
その後に話し合いをして撤退か、或いはもう一度チャレンジをするかを決めてもいだろう。
だけどもリーダーが逃げた程の魔物を引き連れてその場にこのまま行っても良いモノかどうかは悩み所だ。
「この三体の中に目的の魔物がいるか居ないかを確認して貰わなきゃ駄目だしなぁ。しょうがない。行くか。」
冒険者たちは森から逃げてはいるが、バラバラになっている訳じゃ無く、どうやら集合場所は決めてあったらしく一か所に集まっている。
俺はそこへと捕獲した魔物と一緒に向かう事にした。俺が引き連れて行く魔物を見て冒険者たちがどう言った反応を見せるのかは大体想像がつくが、リーダーが先にそちらに向かっているので事前説明はしてくれるモノと思って森を進む。
そして俺がその場に姿を見せた時には冒険者たちは安堵の息を吐いていた。のだけども、その俺の背後に三体の巨大魔物が姿を現せば阿鼻叫喚の嵐だった。
先にこの場にリーダーが到着していて事情を説明しておいてくれたと思ったのだが、どうやらそうとはならなかった様で。
どうやらリーダーは森の中を彷徨うように逃げたらしいのだ。俺がこの場に到着した時に見かけたその姿はゼイハアと息を荒げていた。
そう、俺はリーダーがこの集合場所に合流した後にそこまでの時間差無く到着してしまったのだ。
だから説明する時間も何もあった訳は無くて。
「ひゃあああああああ!?どう言う事だコレは!逃げ逃げ逃げ逃げぇ!」
「でぶひゅ!?ここまでくれば安全じゃ無かったのかよおおおおお!?」
「誰か囮になってこいつら抑え込め!・・・俺は逃げるぜぇ!」
「クソが!そう言うお前が死んでこいやあぁァぁァぁァ!」
「ギャアアァァ!?し、しし、死にたくないぃぃぃぃい!おかあちゃーん!」
「助けてくれぇ!俺はまだ死ねない!家に帰ったら妻と娘が俺の帰りを待ってるんだぁ!」
「へ、へへへ、えへへへへへへ?俺、生きて帰ったら酒場のメリーに結婚を申し込むんだぁ・・・あは?あはははは?」
「お前正気に戻れ!このままじゃ無駄に死ぬぞ!?と言うか!お前みたいな不細工をメリーが受け入れる訳ねぇだろうが!」
「お前なんかにメリーちゃんを渡すかぁァぁ!彼女は俺の嫁になるんだぃ!」
「寝言は寝て言えやゴルァ!彼女は俺の天使!誰にも渡すかぁァぁァぁ!」
「いっその事彼女を狙ってる奴らは全員この場で死ねぇ!最後に生き残った俺がメリーさんを幸せにするんだぁァぁ!」
「お前ら良い加減にしろよ!?そんな馬鹿な事で今喧嘩するなら俺たちが生き残る為の囮としてこの場に残ってろ!」
彼らの言葉を俺は聞かなかった事にした方が良いのだろう。そして聞かなかった事にするその上で、ここでちゃんと俺から説明をせねばならない。
「あー、お取込み中の所申し訳ありませんがね?こいつらは暴れたりさせないんで、落ち着いてください。」
その俺の声は喚く冒険者たちを一斉に黙らせる事に成功したのだが、逆にそれで訪れた静寂に寧ろ耳が痛くなりそうだった。
「俺はこの中に今回の目的の魔物が居るのかどうか知らないんですよ。それで、誰か分かる方、教えて頂けません?」
次の俺の言葉にまたしても冒険者たちが「ナニイッテンダコイツ?」と言いたげな顔をしてくる。
その顔を殴ってやりたい、などと思ったりも一瞬したが、それよりも大事なのは失敗した理由だ。
「何でそもそも今回の件は失敗なんて事になったんですか?失敗だと言うと俺が連れて来た三匹の中にゴリアリススパイダスは居ないって事なんですかね?」
失敗、この言葉の響きで数名が苦い顔になる。どうやらその彼らの所で事は起きた様だ。
でも、誰も何も答えてくれない。リーダーすら言葉を発してくれない。リーダーはあんなにも俺と色々話しをしていたのにも関わらず。
中心となっている存在が代表して説明を始めてくれないと、ここは何時まで経っても御通夜みたいな空気で居続けなければならない状態である。
で、やっと話始めてくれたと思ったらその内容はがっかり。
「その、中には、今回の目標は居ない。その三体はどれも強力な魔物だが。」
「あっそう。やっと話が進められるな。で、このまま撤退?それとももう一度挑戦するのか?」
「・・・逃げるのに全員が身軽になる為に荷物は全て森の中に置いて来た。中身は奴を誘き出す為の餌しか入っていなかった。それももう無いから撤退だ。」
この言葉を聞いて冒険者たちは帰り支度を始める。この集合場所には持ってきていた他の荷物があらかじめ集積されていてこのまま帝国に帰るだけなら別に問題は無い。
問題はギルドに彼らが失敗を報告せねばならないと言う事だけ。そして失敗がどうして起きたのかをまだ俺は聞けていない。
俺にも知る権利くらいはあるはずだ。
「で、原因は?ソレを教えてくれても良いだろ?何せそっちが失敗したら俺の仕事も無くなっちまうんだから。」
この求めにリーダーは心底疲れたと言った感じで説明をし始めた。
「慎重に奥へと進まねばならない所を、一部の奴らが突出して先行した。そこで余計な大型の魔物と接触しちまって前線で騒ぎさ。コレに刺激された森の中が大きく動いた。普通ならこれ位じゃここまでの事にはなりゃしないはずだった。だけど運が無い。その騒ぎを嗅ぎ付けた魔物がそこに集まりだしたのを察して早めに撤退だ。このまま森の中に残っていれば余計な被害がこちらに出かねない状況になっちまった。実際にこいつらには二人で組んで行動させていたが、その内の五組が中型から大型の魔物に発見されて追いかけられている。その他にも見つかりはしなかったが危ない場面に遭遇した奴らも居る。ここに全員が無事に辿り着けて魔物を撒いて来れたのは奇跡としか言いようが無いな・・・ははは。」
どうやらリーダーはずっと彼らに指示を出す為に森中を駆け回っていたんだろう。乾いた笑いが最後に漏れている。
そして最後の最後で俺へと失敗を告げに来ていたと。まあそこで「強力な」などと彼らが付けて呼ぶ魔物を三体も見かけたら逃げ出すのはしょうがないと思えた。
「で、教えて欲しいことがもう一つ。ゴリアリススパイダスってどんな姿をしてるのか説明してくれるか?できるだけ詳細が欲しいんだけど?」
俺のこの求めにリーダーはぽつりぽつりと説明をしてくれた。
その姿はこの俺の捕らえた魔物の鶏よりも大きいらしい。そして全身に棘の様な甲殻を持つ。
その顔は細長く、伸ばす舌は長いと言う。その巨体で体当たりと、伸びる舌でこちらを絡め捕ろうとしてきたり、薙ぎ払って広範囲を吹き飛ばしてくるらしい。
「うん、分かった。それじゃあ。」
「は?」
俺はこの場に魔物を置いて森へと再び入る。ちゃんと魔物は魔力固めで動けなくさせたままだ。
そんな俺の動きに理解ができないと、いや、このまま魔物を置いて行くなよと言う気持ちなのだろうリーダーが「ちょっと待ったぁ?」と素っ頓狂な声を上げているが、無視だ。
俺はすたすたと森の中を進む。どんどん進む。一度もうこの森には魔力ソナーを広げてしまった。
なのでその目的の魔物の位置をもう把握できている。話に聞いたその魔物の姿に似た存在は確かに森の奥に居る事が分かっていた。
冒険者たちがこのまま帰っても、帰らなくても別に俺はもう自分の仕事を終わらせて戻る気でいる。
彼らが失敗しても別に俺が失敗したわけでは無いからだ。
冒険者が失敗したら俺も仕事が無くなる、などと言ったのは嘘も方便とか、そう言ったモノだ。
そうでも言わないと失敗した経緯や原因を教えてはくれなかっただろうから。
彼らは何故失敗したのかをギルドに報告義務があるはずだ。そしてその時に自分たちにとって少しでも「御咎め」が少なくなる様に言葉を選んで説明をするはずである。
あの人数だから口裏合わせも労力は掛かるだろうが、疑われにくい言い訳は作れるはず。
「まあでもリーダーがあれだけハッキリと俺に失敗理由を語ってくれたから報告もソレと同じ内容にするだろうけど。」
リーダーだけは俺に真摯に正直な事の経緯を話してくれた。もしかしたらギルドの監視者は彼だったのかも?などと考えるが、俺がそこまで気にする必要の無い話だコレは。
ギルドに戻った際に俺に事情を聴かれても何も言わないでおく気である。俺は俺で自分の仕事を達成して戻る気でいるのだから、依頼成功したのに「失敗」も「言い訳」も何も無いだろう。
目的の魔物以外として蛇、鶏、蜘蛛の魔物は追加報酬でボーナスが付くかな?などと考えてみたりしたが、別に今俺は金がそこまで欲しいと言った状況では無い。
寧ろあの三匹を連れて行って余計な面倒が起きるのでは?などと考えたら「このまま連れて行くのもどうか?」と言った考えにまでなってしまった。
そんな事を考えていれば目標のゴリアリススパイダスと思われる魔物が目の前に。
「アルマジロ?巨大アルマジロか?背中に棘って言っていたなぁ。コレであってるよな?」
その甲殻には野球靴のスパイク程度。しかしそれがあの巨体の突進でこちらに刺さると思えば少々所では無く、エグイ。
というか、この巨体で体当たりを食らえば人など簡単に吹き飛ばされるだろう。それだけで普通は脅威であり、そもそも正面から力比べ、などと言った捕獲方法は冒険者たちが取るはずが無い。
「これって餌に睡眠薬になりそうな物を含ませて食べさせれば都合良く眠ったりしないのかね?」
確かこいつは説明だと餌を早朝に充分取ったら其の後はじっと動かない。
だったらその寝ている間にこいつを捕まえたり、それこそ隷従させる魔法陣を使うのだったか?ソレを施して契約を完了させられないのかとふと思った。
「あ、魔物が弱っていないと駄目なんだったか?確かそんな事を言っていた様な?無いような?」
でも以前にクロに対してどこぞの馬鹿貴族がいきなり魔術師を大勢使って無理矢理契約を施そうとして来ていたが、あれは例外なのだろうか?
ここで悩んでいてもしょうがない。どうにもイラついている様子のゴリアリススパイダスに俺は近付く。
そう、森の一騒動でどうやらコイツは餌をいつもの様に摂れていないらしく、ご機嫌斜めと言った感じなのである。
深い森の中、10mも離れているのだが、瞬間的にそれは俺へと接近してきた。そう、舌だ。
リーダーから受けていた説明の通りにその舌が伸びて来た。俺を絡め捕って食べようと言った魂胆かもしれない。
だけど俺はソレを魔力で作った壁で止める。
「舌が唾液でべとべとで汚い。しかもこの舌・・・めっちゃ凶悪じゃない?」
もの凄くザラザラ、それこそ金属ヤスリ以上のトゲトゲしさなのだ。
コレで薙ぎ払われたら一瞬でズタズタだ。触れられたらそれだけで治しにくい傷となりそうである。
「こんなのを従魔闘技場で戦わせたらコイツ「一強」になっちゃいそうだけど、良いのかね?」
俺が戦ってきた魔物の中でこいつは強力な方だと言うのが分かる。なのでこいつがあの闘技場で暴れたら「並み」と言われている様なレベルの魔物だったら勝てる見込みが無い。
だけどもコレも魔物の特性を使った作戦次第では勝てない事も無いだろう。三体連れて行けるのだ魔物は。ならばそこは知恵の絞り所だろう。
まあそうなるとその有効な作戦を実行できる魔物が手元に無くては話が始まらないのだが。
「ちなみに、クロだったら簡単に単独でこいつを倒せるだろう位だからまだまだ、だな。」
クロはあれでも結構な強さだ。アレを超える強さと言うとそんなに数は居ないだろう。
そう考えるとクロって貫禄が無いな、などと思ってしまった。
「猫科だからしょうがない?一日の内で眠っている時間が多くを占めるから「眠る子」で「ネコ」って読むって何かの本で読んだな?」
呼び方の由来を纏めた雑学本か何かにそう書いてあったような覚えがある。
でもここは異世界であり、そもそもクロを「ネコ科」と呼んで良いのかどうかに疑問が及ぶ。
そんな下らない思考をしている間にゴリアリススパイダスは舌を引っ込めている。
そして次の行動に移っていた。当然それは俺をブチ殺す為の準備である。
その動きは別段早いと言う訳でも無い。寧ろのっそり、のっそりと言ったゆっくりだ。
だけどもその後の攻撃方法は過激だ。何せアルマジロと表現した通り、こいつは体を丸めて球体みたいなったのだ。
それがどう言った理屈かは分からないが、自然とこっちに向かってゴロゴロといきなり転がり始めるのだからおかしいモノだ。
それが徐々に速度を上げながらこちらに迫ってくる。このままでは俺は「インディー◯ョーンズ」の映画のワンシーンみたいになるって事なんだろう。
木々をなぎ倒しながらも迫ってくる。だけどその勢いは止まるどころか増すばかり。地面のデコボコも何のソノで回転数を上げてくる。
「まあ、普通に止めるけど。」
このまま普通なら転がって来たこいつを左右に跳んで躱すのだろう。
この巨体だからそのタイミングが合わなければ簡単に轢かれてしまう。
普通なら掠っただけで吹き飛ばされる質量だ。それを俺は正面から止めるのである。
「魔法って怖いな。何でもできる究極の御都合主義だ。極めたらそれこそ神様か、或いは悪魔にでもなれる代物だよ、全く。」
俺の目の前には茶色い岩石の如くのゴリアリススパイダスが。
コイツの甲殻の色はこげ茶か、或いは茶色と言った感じで周囲の風景に溶け込む色味だ。
もしかするとこのままジッとしていれば巨大な岩としか遠目では分からないかもしれない。
「コイツも転がる時には魔力かなんかで自身の身体を転がしていたのかね?あ、そうなると転がって来たのを横に避けたとしてもカーブして追撃とかされたりしていたのか?」
そんな事が出来るとなれば確かに冒険者が捕獲をしようとして以前に一度失敗していると言った事も頷けた。
何せこの甲殻、軽く指先で叩いただけで金属の様な音がするのだ。このまま普通に剣を叩きつけたとしても弾かれてしまうだろう。
そしてこうして丸まられると、甲殻の隙間を狙って矢でも剣でも刺そうと思ってもちょっと動かれたら直ぐに甲殻にぶつかってしまうくらいにその隙間は小さい。
「このまま転がしながら連れて行くか。それとも普通に元に戻して歩かせた方が早いのか?」
どちらにせよこいつは捕獲目標であるのでどんな形であれ連行すれば俺の仕事は完了だ。
このまま森を戻るよりもワープゲートを使った方が楽ちんである。なのでそのままゴロゴロとゴリアリススパイダスを転がしてワープゲートを通して三匹の魔物を置いて来た場所に移動させた。
「・・・冒険者たちはどうやら帰還をしたらしいな。誰も居ない。まあ、当然か。」
冒険者たちがもし俺が捕まえたこの三体の魔物に対して討伐しようなどと思って攻撃を加えた所でそれらは当然の様に弾かれるだろう。俺の魔力で覆っているので生半可な攻撃じゃビクともしないのだから。
彼らは自分たちの仕事に失敗した。だからもう帝国へと戻る選択肢しかこうなると無くなる。
俺が戻ってくるのを待つ事など彼らはきっとしない。だってリーダーが言っていた。俺が目的の魔物を捕獲できると冒険者たちは思っていないと。
「まあしょうがない。俺もさっさと帝国に戻るとしよう。・・・あ、こいつらどうすれば良いんだ?このまま連れて行って、手続きとか、入国手段は?」
冒険者たちが超ビビリまくっていた魔物である。それを合計で四体も引き連れていきなり帝国の中に連れて行ったらきっと大騒ぎになる。
そして俺が捕まえて来た事を知られるとまた余計に民衆が俺に対しての興味を再燃させるだろう。
また大勢に寄って集られるあの圧迫感はもう体験するのは嫌だ。
「門の前に先ずは移動。で、門番に説明をしてギルド関係者に繋ぎを取って貰う、って順番で大丈夫か?・・・余り上手くいくイメージが浮かんでこないなぁ?」
門番にもきっと驚かれる事だろう。魔物を四体引き連れていきなり現れたら。
そしたらそこでもまたパニックだきっと。そしておそらくその騒ぎは城にも報告されて皇帝が出てくる可能性が高くなる。
「・・・あ?そうか。見えているからダメなんだった。毎度おなじみ、姿を消しちゃえば良いだけだった。」
俺はその事を思い出すとさっさとワープゲートを通って帝国の門の前に出る。
魔物は俺の魔法で見えなくさせた状態で連れて行くのだ。
コレで門番はきっと大丈夫。後はギルドに人をやってギルド長にでも来て貰えたらそれで引き渡しといけばいい。
「あのー、スイマセン。ちょっと良いですか?冒険者ギルドに連絡を取りたいんですが、伝令として誰か出せる人員はどなたか空いてませんか?」
「はぁ?何だアンタは?こっちは審査と列の整理で忙しいんだが?しっしっ!仕事の邪魔だから。誰か別の奴に言ってくれ。ったく。」
態度が悪い。いきなりどうやら俺はハズレを引いたらしい。こういう時に俺は運が無い。
確かに門には珍しく団体客とみられる者たちが居てガヤガヤと少々の騒がしさがあった。俺が帝国に来た時とはえらい違いである。
とは言え、俺も暇じゃない。いや、別に時間は充分にあるかもしれない。これは気持ちの問題だ。
帝国でなるべく騒ぎにならない様にと配慮をしようと思ってのこの行動だったのだが。
一々人を経由して呼び出さないでも魔物を防壁の端に邪魔にならない様に寄せて置いてそのままギルド長を俺が直接呼びに行けば良いだけの話だった。
これは俺のウッカリミスだ。そのせいでちょと余計にイラっとしてしまったのはしょうがない事だったと呑み込む。
「さて、じゃあ行くか。」
俺は冒険者ギルドの裏手へとワープゲートを繋ぐ。一応は誰にも見られない様に人目に付かない場所から移動した。
そしてギルドにさっさと入って受付に一言。
「ギルド長への報告があるので繋いで貰えませんか?私は遠藤と言います。」
先日の受付嬢とは別の女性だったので名前を告げる。ここでアポの無い方は無理、などと言われたらどうしようかなと思ったのだが。
どうやらちゃんと話は通してあったのか直ぐに受付嬢から返答が。
「はい。エンドウ様がいらっしゃったら直ぐに執務室へと案内するように仰せつかっております。では、こちらへどうぞ。」
仕事ができるギルド長らしい。ちゃんと俺の名前をギルド職員に周知させてある様だ。
こうなれば物事はスムーズに進む。俺も無駄にイラっとしたり、下らない事で時間を取られないで済む。
こうして俺は部屋へと案内されて中に入ったのだが、そこには書類の山と格闘するギルド長が。
「随分と早い帰りだな?・・・失敗した、と言った感じでも無いな?その様子だと。」
「いや、冒険者たちは失敗したよ?俺はまあ自分の仕事はちゃんと熟したからこうして早く魔物を引き取って貰いたくて直ぐに顔を出したんだけど?」
「何?早過ぎじゃ無いか?冒険者たちはまだ戻って来てはおらんぞ?どう言う事だ?失敗?しかし君は仕事を熟したと・・・説明をして貰うとしようか。」
「あ・・・やば。」
全部ブッ飛ばして俺だけ戻って来てしまっている。これはそもそも普通じゃない。そこの考えがすっぽりと抜け落ちていた。
一仕事を終えた充足感で肩の力が抜けてそう言った事まで全く考えが及んでいなかった。早く戻って依頼を完了させてしまおうとしか考えていない。
「その前に門の外に魔物を置いて来ているから引き取りを先にして貰いたいんだけど?」
「・・・おい、待て、魔物を置いて来た?大丈夫なのかソレは!?」
どうやら話を逸らす事に成功したらしい。けれどもそれは驚きと言う形で慌てさせての事だ。
また落ち着いて来たら何かと事情の追及を始めようとしてくるだろうギルド長は。
なのでさっさとここは依頼成功の書類を準備して貰って魔物の引き取りが終わればサッとそれにサイン、直ぐに逃げるのが上策だろうか?
「じゃあ行きましょうか。魔物を檻に入れるでしょうけど、それの準備はしてありますか?」
諸々のそう言った準備がされていなければ話にならない。なのでその点を確認したのだが。
「もちろん大丈夫だその点は。計算の得意な者に耐久性を考えさせて創らせた特注品だ。鍛冶ギルドとの連携もして綿密に、材料と製法までしっかりと整えた代物だ。ゴリアリススパイダスの全力でも壊れない設計をしてある。」
ムフン、と少し鼻息荒くギルド長はそう言い切った。
「じゃあソレと別に後三体分の檻を用意してくれますか?無いなら無いで森へと帰しますので。」
俺のこの返しにギルド長は真顔で「は?」と間の抜けた声を出した。
「あー、目標の魔物以外にも捕まえた魔物がいまして。冒険者たちが言うにはそちらも強力な魔物だと聞いたので。だったら連れて行ったらこの魔物も引き取るのかな?と思って連れて来たんですけど。まあ、駄目なら駄目で心配なさらないでも大丈夫ですよ?直ぐにでも森に帰して来ますから。」
俺のこの説明にギルド長の顔は「ナニヲイッテイルノカ、ワカラナイ」と言った表情に変わった。