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問題はそこじゃない

 今、城はゆっくりと空を飛行している。目的地へと向かって。海の上を飛んでいる。

 誰の目にも触れる事無く、その速度は大体ランニングする速度よりも少しだけ早いくらいだ。


「で、その孤島はこの速度で行くとどれくらいの時間掛かりそうなんだドラゴン?」


「そうだな。このままの速度ならば夕方過ぎて夜に入る頃だろうな。いや、もう少しかかるか?」


 今以上に速度は出せる。出せるのだが、そこは安全マージンを多めに確保と言う事で速度の出し過ぎは抑えている。


「そうだなぁ、それだとこのままじゃちょっと時間が掛かり過ぎだな。少しづつ上げて行って限界を見極めていこう。」


 余り速度を出し過ぎても俺たちに「G」が掛かるのは勘弁だ。なので徐々に俺は魔力を注いでいく。


 今こうして城が空を飛んでいるのは俺が飛行している時の方法を大規模に展開しているだけである。

 なのでもう慣れた行為を只大きくしているだけなので別にこれと言って不安定な部分は無い。


「・・・まさか本当にこの様な事になるとは。いや、絶景だ。世界は広いな。」


 レストが城の窓から外を眺めて呟く。これで同じセリフが十二回目だ。

 語彙力がもの凄く減っていると言わざるを得ない。驚愕が脳内を支配して未だにそこから抜け出る事が叶わないのだろう。


 俺はそんなレストを無視してドンドンと魔力をこの城を飛ばすのに込めて行っているのだが。


「いやー、マジで何も感じないぞ?コレがワークマンが言ってた事か?前ならもっと減ってる感覚があったんだけどなぁ?」


 魔力が体の中から抜け出て行く感覚を以前では味わっていたはずだ。これだけの質量を固定して浮上させて飛ばしているのに今は何も感じる所が無い。

 だけども自分が思うように魔力は操作できていると言える。なので何とも不思議な気分なのだ。

 使えば減る、その当たり前が、その制限が自分の中から消えたと考えると確かにこれは中々に大事である。


「だから私は嫉妬しているのだ。理解できたかエンドウよ?その極致にまだ私は至れていないのだぞ?お前などよりもよっぽど魔力や世界の理を理解していると言うのにだ。理不尽だと言いたくなるわ。」


 そんな事を言われても俺だってこうなりたいと思ってなった訳では無い。

 ドラゴンに嫉妬されている事の方が理不尽だと言いたいくらいである。


「さて、大分速度は上げたけど。上げ過ぎても止まる時が逆にマズくなるからこの辺で止めておくか?」


 目的地は絶海の孤島。誰も人の住まない無人島である。相当に大きい島らしい。余計な輩が寄り付かない様にするのに打って付けであった。


「レスト、コレで良かったのか?とは言え、他の解決策が俺には思いつけないけどさ。」


「構わないさ。私があの場に残り続ける方が帝国に問題を持ち込む。こうして離れるのが一番の最善策だったよ。」


 帝国に迷惑を掛けない為だとレストは言う。


「突如発生したダンジョン、そしていきなり現れる過去の城。これらは余計な混乱を生むだけだ。それを私は望まない。それを一気に解決する方法がコレなんだ。何も文句も問題も無いさ。まあ、そんな事を口にしておいてなんだが、未だに信じられない部分が大きいのだがな。」


 そう締めくくって苦笑いをレストはする。どうやら「空を飛ぶ」と言った部分が未だに衝撃が大きくて呑み込めないのだろう。

 この城が宙に浮いてからずっとレストが外の景色を眺め続けている様子からソレが読み取れる。


 さて、ドラゴンはと言うと、今「真の姿」で城に並行しながら飛行している。

 海に出て少し行ったくらいから「ここならば良いだろう」と言って「真の姿」になって飛び始めたのだ。

 どうにも久しぶりの元の姿での飛行で解放感に浸っているらしい。その表情は何だかご満悦と言った様子に見えた。


 そしてかなりの時間飛行していればその景色は見えた。何処にも船をつけられる様な部分が無い。正しく絶壁。そんな大地が迫る。

 俺は遠くにその島が見えて来た所で速度を落とし始めた。極々僅かずつ。急制動にならない様にと慎重に。


 その島に住むだろう鳥たちが警戒でギャアギャアと鳴きながら城の周りを周回する。

 この頃にはもうドラゴンは人型に戻っていて城に居たのでこうして鳥たちがこの「空飛ぶ城」に警戒をして飛び出してきているのだ。

 もしドラゴンが一緒に城と飛んでいたとすればこの様な状況にはなっていないだろう。きっと鳥たちの方がドラゴンを恐怖して逃げ出していたに違いない。


「歓迎、はされて無いな。まあ一応は自然環境やら生態系に影響が出ない様に配慮した位置にコレを置くつもりだけど。そう言えば魔力の流れとかはどうなるんだこういう時は?」


 俺はドラゴンにそう質問する。今更な話だ。ダンジョンが異空間にあった時には確か魔力がアーダコーダと難しい話があったと思うのだが。


「ん?別に何も問題は無かろう。この城がそもそも魔力を周辺から収束する装置として機能しておる様だぞ?エンドウ、そんな簡単な所が分かっておらんかったのか?・・・間の抜けた事を今更・・・」


 ドラゴンに呆れられてしまった。まあ確かに俺はこの城に満遍なく自身の魔力を浸透させていたのにその動きに気付かないでいたのだから呆れられても仕方が無い。

 この城のそう言った性能をドラゴンが把握できている事の方が凄いだろう。俺みたいに城全体に魔力を流して大々的にこの城を調べたりとかをしていないのにそこら辺を理解できているのだから凄いと思う。


「エンドウは量ばかりが増えているな。その弊害で絞って細かい部分に魔力を通す事ができないでおるな。もうちょっと精進をせよ。」


 フン、とドラゴンにお説教を食らってしまう。コレに俺は何も言い返せずに「はい、努力はします・・・」としか返せなかった。

 このやり取りにまたレストが少々笑うのだが、俺はソレに対してレストを睨むだけにしておいた。


 こうして飛んでいれば目的の場所に到着した。そこはドラゴンが言っていた通りに丁度何も無い草原となっている場所だった。

 この孤島はかなりの大きさであり、この島に人が訪れた事がある様な形跡は見当たらない。


「丁度良い広さだな。本当に偶然とはびっくりさせられる。」


 レストはしみじみとそんな事を口にする。その時に丁度俺は着陸態勢に入った。

 静かに、それこそ音一つ、衝撃一つ立てない様に、斜めに傾かないようにと俺は集中して各所に気を配って城を大地に下ろす。


「さて、コレで引っ越し完了だな。このダンジョンの維持に関してもどうやら放っておいても問題は無さそうだって言うし。俺も時々ここに様子を見に来るよ。それじゃあ俺は一度向こうに戻って皇帝に報告をしてくる。あ、ドラゴンもありがとうな。また何かあったら頼りにさせて貰う。あー、次は対価を取るって言ったか?何が良いんだ?お前の場合「金」で納得しそうに無さそうだよな?」


「む?なら美味い物をたらふく食べさせて貰うとしようか。それでいいぞ?」


「何でここでいきなり食いしん坊キャラになってんの?まあ、良いけど。」


 俺たちはもう一度だけ城に何処か異変が起きていないかどうかを確認。

 それからドラゴンは「またな」と言って去って行った。俺がワープゲートで送ろうかと言ったら今度は人型のままで空を飛んで何処かテキトウな所に向かうと言って行ってしまった。

 もうそろそろ夕方になって空も暗くなると言った具合であったのだが。それでもドラゴンは「夜空を飛ぶのもまた一興」と鼻歌交じりであった。


「じゃあまたなレスト。俺も向こうに戻ったらこっちには暫く来ないだろうから。おや?こっちで何か起きてもその場合俺の助けが無くなっちゃうなそうなると・・・」


 ここまでほぼ俺の都合で起きている事である。アフターケアを考えないと駄目な部分だろう。

 安定した状態になるまで俺は油断無くここの様子を確認する義務が多少はあるだろう。


「じゃあコレ。魔力を繋げれば俺の持つこっちの「電話」に繋がるから。何かあれば連絡をくれ。一度試してみるぞ?ほら、コレを持って魔力流してみ?」


 俺は例の魔石「電話」を渡す。こういう時に使わなければ宝の持ち腐れだろう。

 コレの存在はこうして人の居ない場所であるならばレストから情報が他に漏れる心配も無い。


「・・・これは、凄い物を生み出すのものだなエンドウは。驚かされてばかりだ。」


 一度この「電話」を試したらコレで何度目か分からないと言った具合でレストは目を見開いていた。

 ソレを見届けてから俺はワープゲートで従魔闘技場の宿に移動した。報告は明日にしてベッドでゆっくりと寝ようと考えたのだ。


「ふぁ~。何だか疲れたな。いや、疲れてはいないな。何だろうか?やっと一仕事を終えた様な心地良い、アレだ、なんだ・・・まあ、良いか。」


 俺はベッドにもぐりこんだらすぐに目を瞑る。そうして一段落着いた事でリラックスした状態で眠りに堕ちて行った。


 翌朝はドアを激しくノックする音で目が覚める。


「エンドウ様!エンドウ様!起きていらっしゃいますか!?皇帝陛下がお呼びです!至急来る様にと!」


 これは宿のスタッフの声では無い。俺は何となくそう感じながら目を開ける。

 俺はベッドからゆっくりと起き上がって背伸びをしてから返事をした。


「朝食を摂ってから城には向かいますから。慌てないでください。」


 この言葉でやっとドアのノックは止まった。しかしどうにもドアの正面からその者は撤退したりした様子が無い。

 宿のスタッフに対して「直ぐに朝食の準備を!」と言って指示を出しているのだ。


(宿でさっさと食事をさせて早い所俺を城に連れて行きたいと見える。俺を直接呼ぶ様な事態ってどう言う事だよ?)


 この帝国にそれほどの異変や異常が出たと言う事なのだろうか?しかし俺にはそんな事態に陥っているのかどうかは分からない。

 俺が「そんなの普通だろ?」と思っている事がこちらの人間だと「マジやべえよ!」となっている事は何度もあった。

 そうして起き上がって水差しから一杯の水を飲んでから起きたばかりの脳味噌を働かせるようにして深呼吸をしたらどうにも朝食の準備が整ったと声を掛けられる。


「早いよ?ドンダケなんだよ?まあ、良いか。別に俺の都合が悪い訳じゃ無いしな。」


 俺は部屋を出てスタッフに案内されるままにその朝食の準備をされた部屋へと向かう。

 そこにはこれぞ朝食と言った感じの食事が用意されていた。目玉焼き、ソーセージ、小鉢のサラダ、白くふんわりとしたパンである。どうにもどれもオカワリ自由らしい。俺はそれらをぺろりと平らげて一息ついた。


「・・・エンドウ様、では、宜しいでしょうか?城へとご案内させて頂きます。」


 ソレを口にした人物の声は朝にドアをノックしていた者と同じ。どうやら皇帝が寄こした特使の様だ。

 着ている服は何だか豪華だし、身綺麗で、しかもほんのりと良い香りがするので香水でもつけている。

 こちらの気を悪くさせない様にと気を使っているのが凄く良く分かる。相手に不快感を与えないようにと非常に上品にまとめ上げられている格好だった。

 急いでいると言う空気はその様子からは窺えないが、それでも動きの端々、言葉の端々に若干の焦りが見え隠れしている。


 この特使を別に困らせたい訳じゃ無い。だから俺は素直にこの求めに応じて席を立つ。

 俺は案内されるままにその特使の後ろに付いて行き宿を出る。出たら出たで即座に目の前に大きな馬車だ。

 それに乗り込めと言う事だろう。ワープゲートで一瞬で移動しても良かったのだが、こうして特使が来ていると言う点で俺はこの特使の顔を立てる為にも馬車での移動を甘んじて受け入れた。

 馬車の扉を開けて貰ってから乗り込んだのだが、クッションが柔らかくて尻が疲れない。どうやら最高級の馬車を用意したらしい。


「で、先に俺が呼ばれた話の内容を聞かせて貰って良いか?その方が到着した後が楽だろうし。」


 馬車内は広く特使が俺の正面の席に座った時に俺は声を掛けた。それと同時に馬車は走り出している。


「・・・昨日、この帝国に強力な魔物と思わしき雄叫びが響いて参りました。帝国としてはその存在を脅威と判断。その討伐にエンドウ様を皇帝陛下が御指名です。」


「・・・あー、それって多分あれの事かぁ・・・なんて説明したらいいのかねぇ?」


 俺のこの返しに特使が怪訝な顔を向けてくる。その「雄叫び」の内情をどうにも知っていると言った風な俺の言い方に疑っているのだ。

 俺はコレに正直に話して良いモノかどうかを悩む。そしてその結論は直ぐに出た。


(駄目だ。直接皇帝に二人だけで話をした方が混乱は避けられる。ダンジョンを移動させて一段落着いたし、混乱も避けれたと思ったのに・・・俺のあの時のちょっとした悪戯心がここに来て問題を作っちゃったかぁ・・・つか、ドラゴンどれだけスゲーんだよ)


 ドラゴンがやった雄叫びがかなり遠くにある帝国迄響いたと言う事なのだ。ドンだけ張り切ったんだと言ってやりたい。

 元はと言えば俺がドラゴンにレストへのドッキリを仕掛ける為に促した事なので何も言えない。俺のせいであるこれは。

 俺はちょっとした溜息を吐いてから馬車の窓から外を見る。どうやら帝国民の誰もがその雄叫びを聞いていた様で道行く人々の誰の顔にも不安や恐怖が見られた。

 そんな道を豪華な帝国の馬車が通るので道行く人たちはコレを怪訝な顔や驚きの顔で見送る。


(昨日の雄叫び騒ぎの翌日は豪華な馬車が道を行くんだ。この二つを繋げて考えて憶測が飛び交ったりもするだろうな)


 真実なんかよりも噂の方が広まるのが早い、なんて事を何かで聞いた事があったような気がする。

 直ぐにでも皇帝に事情説明をして御触れを出させないとこの混乱を抑えるのに余計な手間と労力が掛かってしまうだろう。

 ドラゴンの雄叫びで戦々恐々になっている国民が帝国から出て行く、もしくは現状に不安を感じて家に閉じ籠って出てこなくなる。

 そんな状況に下手をすると陥ってしまうかもしれない。経済がそうすると大幅に止まるだろう。


(嘘でも良いから皇帝には「件の魔物は討伐された」って感じの簡単で簡潔な御触れを出させないといけないか)


 こう言った事は手早く今日中に片付けた方が良いだろう。明日には安全だと言う報告が国中に広まるようにしておいた方が良い。

 俺はその点だけを手短に皇帝に言おうと思って大人しく馬車に揺られる。

 馬車が幾ら高級なもので性能も高いだろうとは言え、やはりガタガタでデコボコな道の影響を受けてしまう。

 スプリングが車輪にセッティングされていればもっと揺れは抑えられるのだろうが。


(そこまで俺が心配するこっちゃ無いんだよなあ。こうして馬車に乗っているから思い付いちゃう訳で)


 俺は馬車に乗らずともあっと言う間に目的地に着ける手段を持っている。

 こうして馬車に乗る機会は今後皆無と言っても良いだろう。これまでがそうだったのだ。

 いきなり今日がきっかっけで移動は馬車で、なんて事になるはずも無い。


 そんな下らない事を考えていれば城に到着。馬車から降りて案内の後ろに付いて行く。

 こうして城内へと入って連れて行かれた部屋はと言うと玉座の間だ。

 恐らくはまたここでダンジョン調査の時みたいに晒し者にされながらに俺は依頼をされるんだろう。


「お偉いさんって形式やら何やらを蔑ろにできないから面倒だよなぁ。まあ、しょうがないか。付き合ってやらんと話が進まないんじゃ中に入るしか無いよなぁ。」


 俺がボヤキ終わった所で扉が開く。そして中に入ればやはり正面の玉座にはラーキルが座っている。

 そしてどうにも「お偉いさんです」と言った感じの豪華な鎧と剣を付けた立派な顎髭を持つ人物がその横に並んでいる。


「こやつですかな?ふんッ!見た目からは只の青年にしか見えませんな。しかも着ている服は見慣れぬ特殊な物。胡散臭すぎるのでは?いくら皇帝陛下が友人と言ってはいても、この城にこの様な怪しい人物を招き入れるとは、少々お戯れが過ぎますな?皇帝陛下、昨日の雄叫びの正体をこやつにやらせようとは正気ですかな?」


 恐らくは軍部関係の者なんだろう。そしてその身に着けている物が豪華な所で俺は察した。恐らくは最高幹部とか言った類の人物なのだと。


(このオッサンはダンジョン調査を頼まれた時には居なかったよな?今なんで居るの?)


 ダンジョン調査の護衛に同行していてもおかしくなかったはずだ。何せダンジョンは魔物の巣窟、って言うのが常識なんだから。

 と思ったら皇帝が結構な爆弾をそのオッサンに剛速球で投げつけた。


「騎士団長ドラド、彼は君よりもよほど強いよ。いや、比べ物にならない位かな。君は直接彼の従える魔物を見ていないからそんな事を言うのだろうがね。その魔物は騎士団を一匹で壊滅させる事ができる力を持っているよ。それを従える彼が弱い?有り得ないね。従魔師は従える為に一度魔物を身動きできなくさせ無ければならないのは知っているだろう?そして魔法で契約、拘束をする。その魔物は彼の命令を素直に聞いていた。さて、そうなれば彼が弱いとでも言うのかい?」


 コレに頭に血管が浮き出る程に激昂したドラドが、しかし冷静に反論をする。


「強い魔物を連れているからと言って、その従魔師までが強いと言う証明にはなりますまい?強力な魔物の幼体を拾い従魔契約をしていると言う事もあるかもしれません。もしくは偶然にも弱っている魔物を見つけ契約魔法で従えていると言う事も可能性が無い訳じゃ無い。」


 この反論に皇帝が笑う。不敵に。


「ふ、ふふふふ、はッはっは。そうだな、そうだ。確かにね。ドラド、君の言う通りな事もあるだろうさ。けれども今君の言った言葉とは偶然という恐ろしく稀な事態を言っているな?彼は、エンドウはそんな生易しい物じゃ無いんだよ。まあ、その話は今は置いておくとしようか。」


 この皇帝の言葉に騎士団長ドラドは額の浮き出た血管そのままに怪訝な顔をする。


「さて、エンドウ、もう馬車の中で端的に話はもう聞いているだろう?君に昨日の雄叫びの正体を探って貰いたいのと、できればその存在の討伐を願いたい。出来るだろうか?」


 騎士団長との論じ合いを切って皇帝は俺に今回の内容を説明してきた。コレに騎士団長は増々皇帝を睨みつけている。


「あー、その事なんだけど。安心して良いよ。そいつはもう別の場所に移動した。それと、そいつは別に危ない奴じゃない。もう安全なんだ。その事を御触れを出して直ぐに民の安寧と慰撫に力を注いで火消をしたらいい。」


 俺のこの言葉にこの場の全員が「は?」といった顔になる。皇帝も同じくだ。

 しかし少しの間が空いた後にこの空気を切り裂いたのは。


「何をふざけた事を抜かしている!我らを愚弄する気か!」


 騎士団長だった。御怒りMAXな表情でもの凄い剣幕である。しかし即座にコレを抑えたのは皇帝だった。


「騎士団長ドラド、黙り給え。・・・エンドウ、後で詳しい話を聞いても良いかい?いや、この場で説明は・・・駄目か。じゃあしょうがないな。さあ、皆!即座に触れを出して!安全だと、もう大丈夫だと。さて、問題は解決、お開きとしよう。」


 掌をパンパンと二回叩いて解散を命じる皇帝。しかしコレに騎士団長は噛みついた。


「幾ら皇帝陛下と言えどもこの様な者の言葉を信じてふざけた命令を出す事は許されませんぞ?・・・この私が直接こやつの正体をこの場で暴いてやりましょう。」


 即座に剣を抜いて俺へと斬りかかって来た騎士団長。その踏み込みは誰にも止められなかった。


「ちぇええええい!」


 この場で俺をハッキリと殺すつもりの力の籠った一撃だった。寸止めをして俺を試す、そんな気持ちも様子も一切そこには入っていない。


 ガキン、その音は騎士団長の剣が床に叩き付けられた音。俺を袈裟斬りにして真っ二つにするつもりで放った一撃だと良く分かる程の。

 でも俺には掠り傷一つ入っていない。着ているスーツにすら微かな傷も入らない。

 ソレもそうだ。俺はずっと自分に魔力を纏わせてバリアを張っていた。こうした不意打ちで万が一にも死なない為に常時発動しっぱなしだ。

 だから当たり前の結果である。俺にとっては。だけども攻撃を仕掛けて来た騎士団長にはこんな事は絶対にありえない事との認識だろう。


「ば、馬鹿な・・・!?」


 斬った手応えは感じていたんだろうが、しかしそこに違和感もちゃんとあったんだろう。

 そして俺が全くの無傷で、しかも平気でその場に立っている事が信じられないと言った顔になっている。


「あー驚いた。滅茶苦茶じゃねーか。いきなり人をブチ切れて殺そうとするとか?しかもアンタ騎士団長だろ只の。皇帝の許しも無しに、しかも皇帝の命が危いとか言った場面でも無かったのに。玉座の間に呼ばれた者を切り殺そうと動くとか、有り得ねーよ、マジで。皇帝が俺を直接指名したんだよ?その相手をいきなりコレ?常識無さ過ぎない?」


「何がどうなっている!?どの様な奇術を使って我が一撃を躱した!?」


 バックステップ一つ、騎士団長は俺から離れる。その顔は驚愕に染まっている。

 警戒心を最大に上げているんだろう。剣先は俺に向けたままに正眼の構えでずっと俺を睨みつけて来た。

 しかしそこへと皇帝が騎士団長へと声を掛ける。


「ドラド、お前は今何をしたのか分かっているか?彼は私の友だと、そう言っておいたはずだな?その彼を本気で、この場で、斬り殺そうとした。我が呼んだ人物を勝手な自己の怒りによって殺害をしようとした。愚か者のやる事は何処までも醜いものだな。」


 冷たい目で皇帝が騎士団長を見る。俺はコレにどうするんだ?と言った感じで皇帝へと視線を向けたのだが。


「騎士団長ドラド、今先程の行動に言い訳があるなら言ってみろ。いや、そんなモノは無い。あるはずが無い。これまでのお前の言葉と感情がソレを証明している。勝手にエンドウの事を詐欺師だと一方的に決めつけて、彼の言葉の真偽も気にせずに馬鹿にされたと思い込み、この玉座の間で、彼を斬り殺そうとした。これは極刑に値する。独断専行などと言った生温いものでは無いぞ?さもこの場で我が物顔で皇帝などいないとばかりな暴虐な振る舞い。私を蔑ろにして勝手をしたお前の行動は許されるべき事では無い。」


 良く響く声で皇帝はまだまだ騎士団長を断ずる。


「私はちゃんと説明をしておいたはずだな?これから来る者には一切の手出しはするなと。お前が勝手に私が喋るよりも先に話をし始めた事には目を瞑った。コレも無礼である行動だ。だけども私は我慢したぞ?ソレと、ちゃんと最初に言っておいたはずだなコレも。私が彼と話しを付ける、だから、お前は口を開くなと。それを無視して話を続けるお前を私は許しはした。この事に関してもお前は不遜無礼を働いている事は認識していたか?残念だ。非常に、残念だ。」


 皇帝を蔑ろにしてさもこの場では自分が一番偉いとばかりに振舞う。これではあんまりだ。騎士団長とは?である。

 いや、そもそもいきなりこの場でこの様な非常識な行動に出る者が騎士団長になれるはずが無い。

 だとすると、今俺を斬り殺そうとしたのは何かしらの考えがあっての事かもしれない。


 皇帝の「残念だ」のその言葉に騎士団長が構えを解く。その時に一つ大きく息を吐き出して「やれ」と小さく騎士団長は溢した。その一言はこの玉座の間に良く響いて誰の耳にも入った。


 その次の瞬間には皇帝の目の前にナイフが浮いている。そのナイフは四本。額、喉、心臓、ヘソの四点である。完全に急所を狙って殺害を試みている軌道だ。


「いや、まあ、自棄を起こしてアンタが皇帝へと斬りかかったりしたら一大事だなって思って障壁張ってたんだけど。暗殺者を忍ばせてたのかよ。本命は皇帝の暗殺ってか?そうなると軍部が武力で帝位を簒奪?そんな大それた計画を立ててたって事か。俺を殺すのは本番前の茶番劇って?マジで舐めた真似してくれたな?えぇ?オイ?」


「何だと!?コレも失敗に!クソ!お前は一体何者だ!ええい!こうなれば!であえ!であえ!」


 この騎士団長の一言でこの場に完全装備の騎士たちが入り込んで来た。その数ザっと三十。

 まだこの場には文官たちが全員残ったままであり、それらを絶対に逃がさないようにとその騎士たちは剣を抜き放って周囲を囲み脅しをかけて来た。


「これ程に面倒になるとは思ってもいなかった。お前のせいだ!おい!命が惜しくば動くなよ?悲鳴一つでも上げれば即座に殺す!」


 その脅し文句に文官たちは一斉に口を閉じる。いや、そもそも誰もが騎士たちが入ってきた時も、皇帝が暗殺されかけていたのを見ても誰も一言も発してはいなかった。


(よく訓練された文官たちだなぁ・・・って呑気な事を言えるくらいに、こんな状況は何度も経験済みなんだよねぇ)


 御愁傷様、俺はそんな一言を心の中で述べた後にクーデター勢を一人残らず「魔力固め」で動けなくしてやった。

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