大きな大きなお引っ越し
落ち込みはしたが、そんな事はもう今更どうにもできない事だ。忘れるのが良い。結局俺にはこの世界の理など知ったこっちゃないのだ。
俺は楽しむと決めたのだ、この今の自分の人生を。魔力と言うご都合主義を極めたシロモノを使って楽しむのである。
朝食を摂った後に俺はドラゴンへとお願いをする。
「さて、ドラゴン、今日はお前が見たって言うその場所を探しに行ってくれ。俺は話をしなきゃいけない相手がいてな。あ?そいつは誰だって?ここの国のお偉いさんの所だよ。」
ドラゴンはどうやらもう一度世界を飛び回るのはちょっと面倒だと思っている様だ。その顔が渋い。
でも協力はしてくれるらしく「しょうがない」と言って俺が出したワープゲートで外に向かう。
「良いのだろうか?どうやらエンドウはドラゴン殿を扱き使っている様に見えるのだが?」
レストがどうやら勘違いをしている。
「あれくらいの事はやらせても文句言われないさ。こっちはこっちでアイツから以前に迷惑を多少は掛けられてるんだ。どっこいドッコイさ。さて、こうして予定も早めに決まった事だし、皇帝にその事を伝えてくる。レストはどうする?せっかくだしちょっとだけ外に出て今の帝国をその目で見てみるか?」
ちょっとくらいダンジョンからヌシが出て行っても大丈夫であるらしいのでそんな提案を俺はレストへとしたのだが。
「いや、やはり私は外に出る気は無いよ。この目で直接見たいと言った気持ちが無い訳では無いが、いざ一歩を踏み出そうとすると本能的な抵抗感と言うモノが私の中に現れる。恐らくはこれはダンジョンに縛られていると言う事なんだろうな。一心同体と言うと大げさ、では無いか。私が消滅すればダンジョンは消える。それがどうやら抵抗感の元らしい。」
どうやらヌシとなった事で何やら心理的な面に大きな影響が出ているらしい。
確かにここに居れば早々に危ない目に遭う事など無いだろう。しかし外に出れば?
予想などできない、偶然による命の危機が発生する可能性が出る。そんな所に自ら好き好んで向かう様な事はしないと言う事だ。
これはどうしようも無い事である。だけどもだからと言ってダンジョンから出てそんな事案に遭遇する確率を考えれば万が一とか、億が一とか、そう言ったモノであると思う。
だけども「ゼロ」と「イチ」は違うのだ。在るか、無いか、たったそれだけの事ではあるがソレが起きてしまえば大きな差となるのである。
「まあしょうがないね。それじゃあ行ってくる。直ぐに戻ってくるけど、その後はこのダンジョンの様子を一日観察かな?ドラゴンが早く例の場所を見つけて帰ってくればダンジョンの問題だけになるしな。」
ドラゴンの飛行速度がどれ位かは知らないが、それでも相当に早いだろう。俺の予想でも遅くて一日、早くて半日とみている。
首尾よく見つかって早めに帰って来てくれる事を願うが、そう上手く話が進まないものだこういう時は。
ノンビリと待っていれば良いだろう。あんまり気負う様な事では無い。
このダンジョンが外に出れば城がドカンと何も無い場所に現れる事となる。そうしたらソレを俺が魔力で完全に包んで持ち上げて運べば良いらしいのだドラゴンが言うには。
ならばソレを信じれば良いだろう。この様な事にドラゴンが嘘を言う理由は無い。
果報は寝て待て、などと言ったりするものだが、俺はあいにくとこういう時に限ってあっちもこっちもと方々を行ったり来たりすることが多い。
「仕事体質って言うモノなのかね?俺って言うのは。」
そんなボヤキをこぼしつつ俺はワープゲートを出して帝国の城へと繋げた。
「と言う訳で、もう準備は大体できてる。ダンジョンの中の貴重品とかは後々にこっちに俺が運び込めば良いだろう。取り敢えず報告はこんな所かな。」
俺は直ぐに皇帝の執務室へと出向いて直接皇帝に話を通した。普通ならこの様には行かないだろう。
国の運営と言う点で見れば俺が手続きを相当にブッ飛ばしてこうして皇帝と直接に問題の件を話し合うなんて考えられない事だ。
「分かった。自由にやってくれていい。そうだな、宝物の件はエンドウが時間の余裕のできた時に一度私に知らせてくれれば直ぐに準備を始める。・・・はぁ、とは言え、まだ空きを作れてはいないし、目録も作れずと言った状況で言える事では無いがな。それにしても、ダンジョンとはそこまで簡単に他所へと移せるなど、誰も信じないだろうな。」
「ん?ラーキルは信じるのか?俺も自分で報告だとか言って自分で頭のヤバい事言ってるな?って自覚はあるんだけどさ。」
「エンドウがどうにも自然に話をするものだからなぁ。嘘を言っているか、そうで無いかくらいは多少の判別は付けられる自信はあるぞ?それでも信じられない事であるのは変わりない。私は君ならソレができるのではないかと漠然と思ってしまった。それがすとんと素直に胸に落ちたのでな。この直感を信じるだけだな。それにしても王冠を持ち込んだあの日からまだあれから一週間と経っていないのになぁ?仕事が早いな、エンドウは。」
「余り猶予も無かったし、しょうがない所はあったけどな。とは言え、確かにトントン拍子ではあるな。ちょっと怖い位にすんなりと事が運んでちょっと嫌な予感もしないでもないけど。」
俺はこのトントン拍子がその後に何か影響を出すのではないかと懸念する。だけども皇帝はソレを一笑した。
「嫌な予感も何も、これほどに仕事が早ければこの件に介入しようとする貴族たちも自らの子飼いを捻じ込むための準備の時間を作り出せず仕舞いだろうさ。これは悪い事では無いし、問題が早く解決できる様で私は無駄に頭を悩ませずに済むから助かるが?いや、そうだな、書類仕事が一気に増えると言う点は勘弁してほしいがね。それも署名を入れて判を入れるだけだし、簡単に終わらせられると言えば、終わらせられるんだがな。」
「この仕事が終わったら俺は宿で惰眠を貪る事にするよ。仕事頑張ってくれ。」
俺の応援の言葉に皇帝は「あーはいはい」と言ってお茶を飲み干した。
その後に俺は部屋を退室する。ワープゲートを一目の付かない場所に出してその後はワークマンの所に移動した。
「ちょっとだけ追加で情報を持って来た。ワークマン、要るか?」
「何だ?今丁度休憩を入れようと思っていた所だ。聞かせて貰うよ。」
ワークマンの仕事を邪魔しちゃ悪いかと思っていたのだが、どうにも彼の意見を俺は聞いておきたかった。
かくかくしかじか、俺がドラゴンから聞いた話をワークマンにする。
「・・・中々衝撃が大きいな。少々待ってくれるか?これは世界に関わる根幹の話だな。私がソレを聞いてはイケなかったような気がするのだが?」
俺には何処の何が世界の根幹だったのかがちょっとまだ理解ができない。
しかし何となくだが、規模が大きい話だと言うくらいは呑み込めている。
それこそこの世界の大いなる存在と言えるドラゴンが今の俺の状態に多少の嫉妬を持つくらいだ。
その点で考えると俺の状態がそれだけ大問題だと言う事くらいは察する。
「あー、何から説明したら良いか・・・先ずはダンジョンが移動させられると言う件を説明しようか。」
ワークマンは俺の事では無く先に自分の専門分野の話をする事に決めた様だ。その内容は。
そもそもあのダンジョンはこの世界に存在した城を取り込んだ物であるから、それがこの世界に出てくればソレは元あった物がまた元に戻るだけなのだと言う。
なのでダンジョンであろうともその城は物理的なモノであり、それを魔力で包んで移動させる事は容易らしい。
まあその全体を丸々魔力を浸透させて元の形を保ったままにさせる事はソモソモ理論上はできるが、現実的にソレができるだけの魔力量を持つ存在はいないと言う事なので実現不可能らしいのだが普通は。
後はソレを浮かせて別の場所へと持って行けば良いだけ。確かに簡単だ。
いや、違った。浮かせると言う事も先ずは普通無理。それを忘れちゃいけなかった。
「うわぁー・・・ソレができる俺は普通じゃないって事だよな?それくらいは簡単かぁ、って思っちゃう俺を殴りたい・・・」
時々こうして他人の口から俺の事が「普通じゃない」と言う話をされると毎回へこむ。慣れて来たと思っていたのだが自分では。
「で、だ。エンドウ殿。魔力が世界と繋がっていると言う話なのだが・・・この話は他の誰にもしてはならないだろう。しかも、だ。未だに自身の魔力量を上げている状態だと言ったな?ソレは止める事ができるか?・・・いや、もう止められる状態に無いのだろうな。門がエンドウ殿の中に出来上がっている・・・と言う事は、もう自然に世界は君の魔力を吸い上げていると言う事になるだろうな。君が持つ魔力が世界へと溢れ出ているのではない。吸い込まれているのだ。だがソレは別に一方的に悪い事では無い。この世界に満ちる魔力に君の生み出した魔力が混じる、と言う事は、自然に漂う魔力は君の魔力と同じモノだとも言える。ならば幾らでも使いたい放題と言う事だ。自覚が無いみたいだが、認識してくれ無理矢理にでも。これは怖ろしい事なんだ。分かってくれるか?」
真剣な目で俺を見るワークマンは非常に怖い顔で俺にそう「理解しろ」と言ってくる。
でも俺はまだイマイチ何がどうなのかが分からない。
「あー、具体的にハッキリと、何が怖ろしいんだ?・・・あ、そうか。魔力使いたい放題が駄目って事か?いや、でも、これまでも別に使いたい放題って程でも無いけど、結構な魔法は大量に使ってるしなあ?」
これまでにも魔法を使っても使っても魔力が自分の中から減らなかった。それは大量に魔力を保有していたからだと思う。
まだまだ最初の頃はその世界とやらに繋がってはいなかったと思うし、初期段階でも魔法は使いたい放題だったと言えるので余りこのワークマンが注意してきた事に関して俺は何も感じられない。
「自覚が無いとはこれ程に怖ろしい事だったとは・・・いいか?エンドウ殿、この事実は「世界を一人で相手取れる」と言う事だ。しかも、自らはその場から一歩も動かずに、だ。人の身で、だぞ?」
俺は首を傾げる。ワークマンが余計に何を言っているのかが理解できなかったから。
「はぁ・・・これでもまだ分かってはくれないか。いや、しかし、心配はしないでも良いのか?エンドウ殿をドウコウできる様な存在を私は・・・想像も出来ん。要らぬ心配だったか?そもそも世界と同化しているも同然の状態のその相手に対してできる工作とは?」
今度は俺の態度にワークマンが首を傾げてウンウンと唸って困惑顔になる。どうなっているのだろうか?
「あー、取り敢えずこの事は誰にも言わなけりゃ良いって事だろ?いや、うん。今まで通りで良いんじゃね?ワークマンもそんなに心配しないでも?俺は別に世界を相手取るつもりは無いし、それに、俺に悪意を持ってちょっかい出してきた奴は完膚なきまでに叩き潰すし。これまでと何ら変わらないんじゃ無いか?」
俺のこの意見にワークマンが納得したような、そうで無いような、何だかモニョった表情になる。
「事が起きてからでは遅いのだが・・・遅いのだが・・・うーむ?その「事」すらも起きはしないのかこうなると?」
どうやらワークマンの中で「卵が先か、鶏が先か」みたいな問題になっている様子だ。
取り敢えず俺は聞きたい事は聞けたので退去する事にした。ワープゲートをダンジョンに繋げる。
移動する際にワークマンへと別れの一言を言ったのだが、ワークマンはコレに返事もせずに「うーん?」といまだに首を斜めにして腕組をし唸り続けていた。
「只今~。んで、ドラゴンは?と言っても俺が外に出て迎えないとヌシの部屋にいきなりドラゴンが来れるはずが無いか。」
ワープゲートで一気に移動できる俺はそこら辺の配慮が欠ける。
ドラゴンが帰って来ていたとしても、そのまま普通はダンジョンに入ってそのまま進んでヌシの部屋まで行かねばならない。
そんな中で空っぽ鎧やのっぺらメイドたちがドラゴンを侵入者だと判断して襲い掛かると確実に返り討ちになる。
「今はレストに制御は完全に戻ってるだろ?ドラゴンを襲わない様に命令は出せるのか?やっておかないとアイツがダンジョンに入ってくると片っ端から襲ってくる奴らを千切って投げちゃうし、ダンジョンに穴が開くぞ最悪。」
「おい、私はそこまで無暗矢鱈と暴れたりはせんわ!エンドウ、お前は私を何だと思っておるのだ?」
俺がレストにそんな事を言った時に丁度ヌシの部屋の扉が開く。入って来たのはドラゴンだ。
「おう、早かったな随分。俺が思っていた時間よりも相当に早いぞ?首尾よく見つかった、って事で良いのか?」
どうやらもうレストはドラゴンが戻って来ていてダンジョンの中に入って来たいた事を知っていたらしい。
ここまでどうやらスムーズにドラゴンは来れたらしい。閉じて行く扉の方を見るとメイドと執事が頭を下げていたのでどうやら案内をしていたと言った感じである。
レストはどうやら俺が帰って来る前にドラゴンが戻ってくる事も想定して準備はしていたようだ。
「ドラゴン殿、お帰りなさい。で、見つかった様ですねその分だと。」
「以前に飛んだ航路をなぞって飛んだだけで簡単に見つける事ができた。さて、後はここの問題だけだな。あとどれくらいでここは外に出る?」
ドラゴンはダンジョンが後どれくらいの時間で外に出現するようになるか聞いて来る。
「あー、待て待て。そう慌てるモノでも無いだろ。それに俺もダンジョンが外に出るって事を初めて体験する訳だし。今回俺は観察に徹するから。ドラゴンは此処から場所がどの方向か教えてくれるだけでもう行っても良いんだぞ?」
「最後まで見届けるつもりだが?エンドウの妙な思い付きの結果をちゃんと面白おかしく見物させて貰うぞ?」
「性格悪い、とまでは言わねぇけどさ、もうちょっと言葉選べや!」
俺とドラゴンの妙なやり取りを聞いてレストは笑う。
「二人は仲が良いな。見ていて飽きないよ。」
レストは自分はさも部外者で他人事みたいに言うのでコレにちょっとだけ俺は何だかカチンときた。
「おう、それは良かったな。って言うと思ったか?レスト、お前ちょっと外に出ろ。驚かしちゃるから。」
レストの背中を押して俺はワープゲートを潜らせようとする。レストはレストで俺が何をさせようとしているのかが分からずに少々の困惑と抵抗感を出している。
しかしコレに構わず俺は無理をしてグイグイとレストを押してダンジョンの入り口付近に出る。
ドラゴンも俺がレストへと何をしようとする気なのか気になって一緒にコレに付いてきた。
「よし、ドラゴンも一緒に来たな。来ると思った。それじゃあドラゴン、元の姿に一瞬だけで良いから戻って見せてやってくれ、レストにな。」
俺が何をレストへとしようとしているのかをドラゴンは察してニヤリと笑う。
人型のドラゴンは絶世と言っても良い程の「美人」である。そこに悪辣な微笑が入る。それがちょっと処じゃ無く様になっているからちょっとイラっとさせられたが。
「では、見るが良い!驚け!慄け!恐怖せよ!コレが私の!真の姿だ!」
そう叫ぶとドラゴンの身体が発光し始めた。そしてどんどんとソレが巨大化していく。
ソレは俺が最初に会った頃のドラゴンの大きさよりも少しデカイくらいで止まる。
止まった瞬間にドラゴンのその姿は神々しく輝いて「真の姿」とやらの全貌が。
「ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ついでにサービスとでも言わんばかりに雄叫びを上げるドラゴン。正直、うるさい。
だけどコレを俺はレストを驚かせるには充分過ぎる演出だなと思って隣りを見る。
「あ、やべえ・・・これ、気絶してるな。」
レストは立ったままに目を大きく見開いたままに意識を飛ばしていた。
「やり過ぎた・・・おい、ドラゴン、人型に戻ってくれ。レストが大変だ。」
「む?何だって?・・・おや?少々張り切り過ぎたな。いやしかし、久しぶりにこの姿になると解放感が会って良いモノだ。時々こちらの姿になって空を散歩するとしよう。」
「おい、止めとけよ。目撃した人が居たらお前のその姿を見て周囲に話を広めるだろうからな。そうしたらバレでもすれば化物呼ばわりされて人型であっても街に入れて貰えなくなるぞ?」
俺はドラゴンに注意する。この「真の姿」を優先するのか、或いは人型の方を重要視するのかを。
「おっと、そうであるか。ならば・・・人型になっていた方が良いかもしれん。まだ楽しんでいない街などがあるからな。」
「お気楽に観光を考えてるお前って何様なんだよ?自由過ぎる。」
ドラゴンは即座に人型に戻った。そしてレストに近付くと。
「驚くを超えて気絶する所までいってしまったか。なるほど、残念だ。こやつが慌てふためく所を見て楽しみたかったが。」
「いや、俺も気絶するとは思っていなかったからな。さて、ヌシの間に戻ろう。このままにしておけないしな。後で謝らんと。」
只ちょっと驚かせるだけのつもりだったのだが、こんな結末になってしまったのなら謝罪はしなければならないだろう。
まあドラゴンはきっと「ゴメン」の「ゴ」の字も謝らないと思うので、俺がちゃんと頭を下げないといけない。
俺が思い付いた事であったのだ。それが想定外になってしまった。レストには尻餅付かせるだけ、なんて軽く思っていたのだが。
「こっちの世界の人たちには何倍にもショックがデカかったりするって事を念頭に入れて無かった。」
いや、普通の地球の人類でも誰だってドラゴンなんて生物を目の前にすれば気絶する人は出るだろう。
今回の場合は俺が余りにも動じなさ過ぎて他人の事を慮っていない事が原因だ。
俺が「ちょっとだけ驚いた」くらいの事はこっちの人たちにはその十倍以上の衝撃だと言った位に受け止めておいた方が丁度良いのかもしれない。
ヌシの間へとレストを抱えて戻って来た。まだ目を覚まさないレストを布団に寝かせる。
「・・・あ、ダンジョン主になった存在って睡眠は取らなくても大丈夫なんだよな?じゃあ完全に気を失ってる今の状態ってヤバイ状態?」
気絶していると言う事はこのダンジョンの管理を意識できないと言う事だ。そうなると不慮の何事かが起きてもおかしくない。
レストは今回一時的に短い時間とは言えダンジョンの外に出ている。そしてこうして気絶だ。
二重の意味でダンジョンとレストが切り離されたと言った形になってしまっていた。
「おい、ドラゴン、大丈夫かなぁダンジョン?ヤベエ事とか起きたりとかしないよな?ここまで来て消滅し始めたとか堪ったものじゃないぞ?」
「お前は自前でそれらの異変が起きていないかを即座に調べる力があるだろうに。私に聞かずとも自分で気付くべきだぞ?」
ドラゴンは俺に魔力ソナーを使えよ阿呆、と言ったニュアンスの事を言ってくる。
まあ確かにちょっと焦ってしまって自分を少し見失っていた。
コレに直ぐに俺はダンジョンの隅から隅まで魔力ソナーを広げて全体を把握する。
「・・・大丈夫みたいだな。と言うか、なんだろうか?安定期?何だか俺の魔力ソナーに感応?しない?」
「ふむ、どうやら浮上するらしいな。もう既に外界へと浮上するだけの魔力が満ちたのだろう。外に出てその様を見届けよう。」
ドラゴンは勝手にうんうんと頷いて俺にワープゲートを出せと言う。
「分かった。何が何だか言ってる事がイマイチ分からんけど。ダンジョンが外に出ようとしてるってのだけは分かった。外で待っていればダンジョンが出て来る様子が見れるって事だよな?ワークマンも呼んで来るか?って言うか、早かったな。」
俺はワープゲートを出してダンジョン入り口の側に出口を繋ぐ。そして外に出てみると。
「おおっ!?え?マジで?なんか地面から音も無く「ニューッ!」と出て来てるぞ?うわっ!コレ何だか見ていて気分が良くなる光景じゃ無いな!?」
しかし視線は逸らせない。何故だか目を釘付けにされる、そんな光景だった。
暫くすれば俺たちの足元からも城の一部がニューっと出てくる。城の規模はそもそもかなりのデカさだ。
なのでここに居ると俺たちは地面から生えてくる城に押し上げられる形になってしまう。
俺たちは移動する事にした。上空に。城が地面から生えてくる光景をこうして空からずっと眺める時間が過ぎる。
ソレは長いような、短いような、そんな奇妙な感覚を覚えさせられる時間だった。
「かなりの規模の城だけど。例の場所の広さは充分か?」
「余裕だ。かなりの大きさだからな。丁度良い広場がある。そこに置くのが良いだろう。やり方は分かるか?」
「あー、そこら辺はワークマンに教わったよ。それじゃあ、このままやってしまっても構わんだろうか?レストが起きたらにした方が良いか?」
あっと言う間、と言った感じで城は出現している。なのでまだ中に居るレストは気絶から起きていないだろう。
「一度中に入って見て様子を確認しよう。レストを起こして何か変化なんかが起きてやしないかを見て貰った方が安心だしな。」
俺たちは城の中へと一度入る。これはワープゲートで、では無く、正面門からだ。ソレは何故かと言うと。
「まさか外に出て来た城が「一度も訪れた事が無い」判定を受けるとは思っても見なかった。」
どうやら異空間にあった時のダンジョンと、外にこうして出て来たダンジョンはどうにも別物判定らしくワープゲートがヌシの部屋に繋がらなかったのだ。
その違和感に直ぐに気付いて「おいおい」と少しだけ俺は焦った。しかし別にこの城の中を行くのに別に迷ったりはしない。
既に道順は覚えているし、魔力ソナーを広げて変わりが無い事はちゃんと即座に確認した。
こうして通路を行くと空っぽ鎧と遭遇。しかしこちらを襲っては来ない。
「やっぱり魔物に変わっちゃったメイドさんや騎士たちは元に戻らないのか。」
俺がその点を口にするとドラゴンは。
「大量の魔力をダンジョンに吸い込まれた際に浴びているな。変質してしまっていて不可逆だ。逆に寧ろ人型を曲がりなりにも保っている事は奇跡と言えるモノだぞ?」
レストも特別と言えるが、のっぺらぼうも空っぽ鎧騎士もどうやら同じく例を見ない事であるらしい。
そんな事をドラゴンと話しつつも廊下に飾られている品々に目を向ける。
これらが破損していたり、変形していたりしていないかをザっと見る。まあ何か変化があっても俺が見ただけで分かるはずも無いのだが。
こうしてヌシの間に到着して中へと入る。そこにはまだ起きていないレストが横になっていた。
「このまま目覚めない、って事は流石に無いよな?でも、気絶から意識がずっと戻らないってあるかもしれないし?ちょっと揺すって起こしてみるか。」
目覚めないレストを放置したままにして事を為すのは何だか気が引けた。なので起こそうと試みてみる。
声を掛けてちょっと激し目に揺すったおかげか、レストは目を覚ました。
「・・・エンドウ、何で事前に情報をくれなかったんだ。こんな目に遭ったのは生涯で初めての事だ。・・・うっ!?頭が・・・ッ!」
「いや、起きれて良かった。このまま意識が戻らなかったどうしたら良いかと思ってた。それと、すまん。こんな事になるとは思ってもいなかったんでな。取り敢えず、ダンジョンは外に出た。レストが気絶してる間に。それで、何か異変を感じたりしないかどうかをレストに確認して貰いたくてな。」
俺が魔力ソナーで調べた所で言うと別に異常は無いのだが。レストはこのダンジョンのヌシなのだ。
ならばヌシだけにしか分からない感覚があったりするかもしれないと思っての頼みである。
レストは目を瞑って深く深呼吸をした。俺が差し出した水の入ったコップを一気に煽って飲み干す。
「ふぅ~・・・どうやら別段変わっている所は感じないな。このまま事を運んで良いと思う。やってしまってくれるかエンドウ。」
レストからの確認も取れた。なので俺は自分の魔力を城全体、だけでなくその地盤にまで少しだけ入れて「固定化」を図る。
「・・・あ、インベントリに入れてこれって運べるか?ドラゴン、大丈夫?」
「止めておいた方が良いなソレは。アレだろう?エンドウの魔力によって作られる空間に収納と言う事だろう?止めておけ。それをしてどうなるかは私にも予想は付かん。それこそこの様な事をするなどと前代未聞な事だ。なるべく単純な方法でやるのが問題を発生させないコツだろう。」
「おおう・・・そうだよな。あァ~、そうなると、この城、空を飛ぶ事になるんだよな?目撃者が出ない様に光学迷彩も施さないと駄目か。」
天空の城◯ピュタでもあるまいに、などと思ってみてもそのネタが分かるのがこの場に俺しかいない。
「あー、とんでもない位にデカイ引っ越しだよな、全く。」