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夢中に、必死になればなる程に突然ぶっ倒れる確率が上がる

 それからというモノ歴史家たちはレストに夢中だ。その一言一句を漏らさない様にと必死である。


 さて、二人がヤル気を出した際には俺に対してバガンゲルが「紙とペンを寄こせぇぇぇ!」などと叫んで掴みかかって来る始末である。まあ、元気。

 掴みかかられても俺はソレをひょいと躱している。俺の胸倉を掴み損ねたバガンゲルは床に転びそうになったが、俺はそれに構わずに紙の束を取り出す。あとペンも。

 これらは城で出発前にダシラスに用意させていた物を取り出しただけだ。

 ソレをジャモルフが「ヒャッハー!紙だ!ペンだぁ!」などとテンションがおかしな方向に爆上がりして精神に異常をきたしたのでは?と思えるくらいの絶叫を上げた。


 それからというもの、レストはこの二人の質問攻めにドン引きしつつホンの少しの後悔を滲ませた苦い顔でそれに答えて行く。

 どうやらレストはこの歴史家たちの事を見誤っていた?多少甘く見ていたようだ。

 次々に止めど無く出て来る自分に向けたあらゆる質問にタジタジになっている。


「はい!休憩!お二人さん、そこで止まって!・・・止めろって言ってんだろうが!」


 俺のストップの声が聞こえていないオッサンたちの頭に拳骨を軽く落とす。そのジンと響く頭部への地味な痛みにハッと我に返る二人。


「昼食です。食べないという選択肢は与えません。」


 ゲンコツを落とさなかったらそのままずっと喉が嗄れても口を動かしっぱなしにしたであろうオッサンたち。彼らに対して俺は有無を言わさず「飯を食え」と命令を出す。

 コレにこの二人は「むむう!」と唸りながらもテーブルに着いて配膳されている食事を食べ始める。

 しかし食事をしながらも次に何をレストへと質問しようかと言った事が脳内から溢れて口からソレが漏れている。


「古い資料に無かった所を順に埋めるように・・・いや、そこは別の資料に書かれていた事柄が本当だったかを先に確かめるべきか?」


「今ある知られている歴史に齟齬が無いかを追いながら確かめるのには時間を要します。別の方向から攻めて行くのが良いでしょうか?初代皇帝からの視点をもっと増やした方が・・・」


 多分口に入れた料理の味など全く分かっていない、と言うか気にしたりしていないんだろう。

 ずっとそんな事をぶつぶつ言いながらも器用に食事をキッチリと済ませた二人は口直しに一杯の水を口に含んで一息ついた。

 と思ったらレストに向き直って即座に質問を始めようとする。それをまた俺が止めた。


「食事後は暫くの時間を置いてから作業を再開しなさい。」


 俺は少し冷たい感じを受ける冷静な声音でそう命令を二人に出す。

 今はレストだけに負担を背負わせてしまっている様な状態だ。こんなペースではレストの方が先にダウンしかねない。歴史家たちの方は目が血走せる程の熱量と勢いなのだ。

 俺が彼らをコントロールして抑え込まないとレストが無駄に疲弊してしまうだろう。


 こうして食休みを終えて、それこそ大体三十分が過ぎたくらいで再開をさせる。

 再開までの間の二人は紙へと得た情報を纏める作業をしている。どうやら何もせずに待ち続けるのが苦痛らしい。

 もうこれでは職業病と言って良いだろう領域だ。余りにもこの仕事に人生賭け過ぎである。

 とは言えこれは止められるモノでは無いなと思ってソレを俺は黙って見過ごした。

 この分だとこの歴史家たちはその内にぶっ倒れるだろう。もちろん本人たちが自覚していない疲労で、である。

 今のペースで行くときっと確実にそんな未来が訪れる。それが来る直前で俺が無理矢理に二人に休息を与えなければならないだろう。


「その時が見極められるかどうかだよな。はぁ~。」


 俺はこの歴史家たちへと魔力を纏わせて体調の悪化を見逃さない様に見張る事にした。


 それから二日。よくもまあここまでずっと止まらずに働き続けられるモノだと俺はドン引きしている。

 俺がその都度止めなければバガンゲルもジャモルフも食事も睡眠もしようとしないのである。

 休憩時間を取らせればレストへの質疑応答で判明した事を紙に纏める。

 それ以外ではトイレと水分補給くらいだ、その口が止まるのは。

 いや、トイレに行っている間もきっと考え事をし続けてそれらが口から漏れ続けていた事だろうこの分だと。

 就寝も無理矢理布団へと押し込まねばならず、しかも横にさせて目を瞑れと命令をしなければならない始末だ。

 しかも意識が落ちるまでずっとあーでもないこうでもないとぶつぶつと何事かを呟いて思考を止めていない。そんな状態で突然ピタッと喋らなくなったと思ったら眠っているのだ。軽いホラーであるこれでは。

 余りにも毎度こんな調子だと体調が崩れるだろうと思っていたのだが、二人は未だに絶好調である。

 まだまだ細かい所まで根掘り葉掘り聞くつもりでいる歴史家たちをいったん止めて、逆にレストに休みを入れさせなければならなくなる始末だ。


「で、レスト、気晴らしをしに行かないか?ダンジョンを散歩しよう。」


「・・・ああ、それは良いな。あの二人に付き合っていたら流石の私も潰されてしまうよ。」


 苦笑いをした後にレストは大きく息を吸って吐き、肩をがっくりと落とす。

 ダシラスに歴史家二名の世話を一旦任せて俺とレストはヌシの間を出る。


「俺の魔力は既にダンジョンを抑え込んで無いから、レストはもう既に感じてるだろ?」


「ああ、そうだな。どうやら本来の姿が完全に出てきたようだ。懐かしい。」


 そう、俺はこのダンジョンの拡張を魔力固めで止めていたのをとっくに解除している。

 まだ地上にダンジョンが現出してはいないが、このまま放っておけばソレも時間の問題だろう。

 あと三日か四日くらいの猶予はあると思うが。


「全く変わっていないな。全部記憶にある。そうだな・・・変わっている場所と言えばヌシの間だけだな。と言うかあんな部屋はそもそも最初ここには端から無かったはずだから、私が飲み込まれた際に新しく生成されたものだと思う。」


「その事はワークマンには言ってあるか?なんか凄く重要な話だと思うんだけど?」


「そこら辺は私から話さずともワークマンからの質問の中に入っていたよ。それにはちゃんと答えてある。」


 ダンジョンとは魔力の集約した場所から発生すると見て良いんだろう。

 自然にできたモノである場合はそれに吸い込まれた存在がヌシとなって初めてダンジョンとして具現化すると言った感じだろうか。

 強力な魔物が自らの魔力を使って生み出すという形もあるかもしれない。


 そんなこんなでダンジョンの中をレストと共に歩く。しきりにレストは首を左に右にと向けているのだが、これはどうやら昔を懐かしんでいるらしい。

 こうして歩いていれば思い出す事もあったりするだろう。コレがきっかけでまた何か新情報を歴史家たちへと提供すると言った流れになるかもしれない。


 既に今はレストがダンジョンのコントロールができている状態なので出会う「のっぺらメイド」や「空っぽ鎧」は俺たちに襲い掛かって来ない。来ないばかりか綺麗な一礼をしてくる。


「このままレストがダンジョンから出るとどうなるんだ?ダンジョンが崩壊するとか、無いよな?」


「ワークマンによると「ダンジョン内の魔力が少しづつ減少する」らしい。詳しい事はそこまで聞かなかったが、直ぐに消滅すると言う事では無い様だ。」


 主が不在のダンジョンは徐々に衰退して消滅するんだろう。まあそう言った珍しい現象が起こる事は恐らくは超希少と言われる事だろう。

 何せダンジョンからヌシがどう言った理由で外に抜け出すと言うのだろうか?

 大抵のダンジョンのヌシは引き篭もるモノであり、こうして自由にダンジョン内を歩き回ると言った事も有り得ないんだろう本来は。

 そう考えれば考える程にレストと言う存在が奇跡の産物と思える。


 こうして歩き回って暫くして俺たちは散歩を終えてヌシの間に戻った。

 そこには飢えた狼、ならぬ、飢えた歴史家たちがレストを待ち受けていた。


「続きを!はよ!」


「まだまだです!もっと!もっと歴史の真実を!」


 もうこれ程までになると異常と言って良いだろう。帝国「マニア」と言い換えれば良いか?

 歴史家、などと言った上品な言い方では無く、これでは変態と言って差し支えないと思える。


 この勢いにレストは散歩で回復していた精神力を大幅にごっそりと削られたらしい。

 その顔は頬がヒクヒクと引きつって直ぐには口を開けられ無さそうであった。


 それから再び二日経過した。これだけの期間密着して昔の話を四六時中求められてレストはもううんざりと言った感じだ。

 もうこれ以上は話す事など無い、と言うか、寧ろ解放してくれと言わんばかりにその顔に疲れが滲んでいる。

 しかしこれの反対にバガンゲルもジャモルフも顔色艶々である。興奮して全身の血行が良くなっているらしい。


「うははははは!帰って早速編纂作業に取り掛からねば!」


「これは今までの常識を覆すものですよ!慎重にやり遂げなければ!」


 やっとどうやら満足したらしい歴史家たち。「俺たちの戦いはまだこれからだ!」と言った感じでまだまだこのまま突っ走る勢いである。


「お二人さん、ちょっと冷静になって貰えませんかね?そもそもレストから得られた話はちゃんと纏める前に皇帝に報告して貰わないと駄目ですからね?一応これは「ダンジョン調査」って名目なので。歴史調査では無いし、お二人が勝手に暴走してもいけないんでね。それと、レストが「ダンジョン主」って事は書いちゃ駄目ですよ?」


「は?なんだと?」


「私たちを何だと思っているのです?」


 止めておいて良かった。二人は今回の事がどう言った経緯で今ここに居るのかをすっかりと脳内からほっぽり投げていた。

 このまま帝国へと帰していたらきっと執筆部屋にでも閉じ籠って編纂が完了するまで出てこないつもりだっただろう。

 此処はちゃんとハッキリと伝えておく方が良い。


「コレでダンジョン調査は「半分」終わりです。貴方たちの仕事はここまでですね。中間報告としましょうか。」


 俺が何を言っているのかが分かっていない歴史家二人は首を傾げる。

 ダシラスは何となくだが俺が言いたい事が分かっているのかウンウンと首を縦に軽く振った。


「俺とレストはまだやる事が残ってるんですよ。お二人は皇帝に今回の調査で判明した事をちゃんと報告。その後の事は皇帝から指示を受けてください。」


「やる事とはなんだ?ここから至宝の数々を運搬する事か?いや、目録を作るなら私たちがこれからこの中を巡って調べれば良いだろう?」


「おっとそうです!王冠を!王冠を見せてください!約束だったでしょう!?」


 そう言えば確か王冠を見せるとか言っていた事を思い出す。ここで俺はレストに目配せした。この二人に渡しても良いか?と。

 頷きが一つ帰って来たので俺はインベントリから王冠を取り出す。

 どうしてこんなシンプルで何も飾り気も希少性も無さそうな物を必死に確認したがるのかが俺には理解できなかった。

 それでもこの歴史家二人にはこのダンジョンに在る他のどんな物よりも希少と考えているのか、恭しく、かつ慎重に、何処からともなく手袋を取り出して付けて王冠を俺から受け取った。


「この裏側に・・・本物であるならば・・・!?」


「そうです!ここに!・・・すすすすす!ススススス!素晴らしいぃぃぃぃぃぃ!」


 どうやら何か刻印でも入っているらしく、王冠の内側の一部を二人はずっと目を見開いて凝視している。

 そして血走った目をしたまま絶叫をジャモルフが上げている。この分だと「本物」と確信したんだろう。


「えーっと?どうやらレストはソレを二人に持って行って貰っても良いと言ってる。取り敢えず今は調査内容のその紙の束と王冠だけ持って帝国に戻る事で納得してくれ。あ、ダシラスもお疲れさん。ダシラスも一緒に戻って皇帝にこれからの動きの指示を受けて従ってくれ。俺はまだ個人的にもこっちで幾つか残ってる仕事があってな。あ、いや、一応俺も一緒に行くわ。皇帝と話しておきたい事があるから。」


「はい、畏まりました。これまでの日々はどれをとっても貴重で掛け替えの無い経験となりました。有難うございました。エンドウ様もレスト様も、お疲れ様でございました。」


 ダシラスは深く一礼を俺とレストにしてくる。

 コレで一応は皇帝からの求めは大体を完了した。後は俺の用事である。


(後はこのダンジョンをどうやって保護するかだよな。それと、俺の「変化」の件をドラゴンに聞きたいんだけど。あー、聞きたいような、聞きたく無い様な?)


 俺はどうにもここが気に入ってしまっている。こんなにもヘンテコなダンジョンは恐らくこの世界に二つと無いだろう。

 レストを殺害してダンジョンを消滅など以ての外だし。そもそも俺はダンジョン内の「のっぺらぼう」を面白いと思ってしまった時点でダンジョンを消す気にはならなくなっている。

 レストがダンジョンから抜け出た場合も長い期間掛かるとはいえ、ダンジョンから魔力が抜けてその内に消滅すると言うし、注意が必要だ。


(今回の事で情報が漏れるとすればこの歴史家たちからだろうしな。初代皇帝がダンジョン主と聞いて信じる者は居ないだろうとは思うけど。それでもここに「ちょっかい」を出してくる奴が出ないとも言い切れないしな)


 皇帝がこのダンジョンを保護するという「御触れ」を出してくれるのが一番手っ取り早いのだが。

 それに反対する者も出て来るだろう。賛成する者も居るかもしれないが。そうなると何故このダンジョンを保護するのかと言った理由を追及して来る者が現れるはず。

 そうなったらレストの事もその内にバレる事になるだろう。そこから良からぬ企みを思い付く者がこのダンジョンに何かしらを仕掛けてくる可能性が出て来てしまう。

 俺がこのダンジョンにずっと居続けるならば、そう言ったちょっかいは返り討ちにするので心配もしなくて良いのだが。ずっとここに居る事は今の所考えていない。なのでその対応を考えないとならなくなるのは面倒だ。


 このダンジョンの事がそう言った悪意や企みを持つ者に広まらなかったとしても、突然に何も無いこの地上にいきなり城が現れたら民衆に事が知られるのは時間の問題になるだろう。

 ダンジョンが地上に出現、しかもソレが過去にこの場所にあった「城」であったというのならば、これにまたしても「調査」を派遣すると言った流れになってしまうはずだ。

 自分の利益を求めた貴族が皇帝の命に背いて勝手にダンジョンへと調査団を派遣しようとするかもしれない。


「あー、どう転んでも面倒があるよなぁ。いっその事このダンジョンを他所に移せないかな?」


 俺は自分でぼやいたこの言葉にピンと来た。別にこのままここにダンジョンがあり続けなくても良いのである。

 他所に移せるのであれば何処か被害が、余計なちょっかいを出そうとする者が来れない様な、そんな場所に移動させてしまえば良いのである。


「ワークマンに相談だな。それとドラゴンにも何かしらこの事で関連した情報が無いか確認しないと駄目だな。」


 結局はドラゴンを呼ぶ事になるのは確定になってしまった。

 しかしそれが今すぐとはいかない。帝国に戻さねばならない者たち三名がいる。そちらを送り届けて俺も皇帝に幾つか言っておかねばならない事もできた。


「さて、行くか。一応目隠しをオッサンたちに・・・いや、そのままで良いか。」


 王冠に夢中で他の事が目に入っていないらしい二人。その二人の背中をダシラスに押させて無理くり歩かせる。

 その先はワープゲートだ。城の訓練場に繋げてある。この歴史家たちにまたダンジョンを歩かせるとなったら幾ら時間があっても足りない。

 ダンジョンから出るまでに下手すれば数日掛かる可能性も有る。それは既に今ダンジョン拡張がほぼ終わっていて内部が広くなっているからだ。

 そしてどうにも一緒に取り込まれていた美術品や装飾なども出てきているので、それをこの二人に目にさせると手が付けられないだろう。


 移動が終わって1分経った所で歴史家たちがやっと気付く。ここはどこだ?と。


「いや、気付くの遅過ぎでしょ・・・まあ、いいや。さっさと自分で歩いてくださいよ。これから皇帝の所に行くので。」


 こうして気付くまでに「おーい」とか「ちょっと!」やら「こら!」とか俺は二人へと声を掛けていたのだが、それも耳に入っていなかったのか王冠にずっと夢中であった。どんだけなんだよ、と何処までもドン引きさせられている。


 そうして多少の時間が掛かったものの、無事に皇帝の執務室へ到着する。向かっている間はダシラスが居たおかげでスムーズにいった。

 俺だけだったら怪しい奴として止められていたかもしれない。何せ俺の事はまだまだこの帝国の城では末端まで広まっていないらしいから。

 王冠を未だに眺めつつ手にした調査書と視線を行ったり来たりさせている歴史家二名が付いているので、もしダシラスがいなければきっと確実に城の守備兵に捕まっていた事だろう。不審者感がもの凄いのである。


 ダシラスが扉をノックして名を告げると「入れ」と皇帝の声が返って来る。

 中へと入ればそこにはソファに座って休憩中の皇帝が。執務机には幾らかの仕事書類がまだ残っているようだ。


「エンドウ、首尾は上々と思って良いのかな?」


「ああ、つつがなく・・・とは言っても良いかどうかは分からんが。取り敢えずキリの良い所までは終わったんじゃないか?一応はその報告だな。中間報告。」


 皇帝の目の前だというのに歴史家たちはまだ書類と王冠を睨んでいる。その目は真剣そのもの。

 寧ろ皇帝など目に入っていない。またどうやら自分たちの世界に没頭してしまったらしい。


「まあ良いよ。二人がこの様な性格をしてるのは最初から分かっていたから。挨拶が無くても別に構わない。さて、それじゃあ調査の結果を貰っておこうか。」


 そう言って皇帝はダシラスが差し出した今回の調査報告書を受け取る。

 ここで俺は先に自分の要件を皇帝に話す事にした。読み終えた情報を精査すると言った事は時間が掛かるので先に俺の方の事を伝えておいた方が良いだろうと。


「なあラーキル、ダンジョン移動させて良いか?一応はまだできるかできないか分からんのだけど。もう後二日あるか無いかくらいであそこに城がいきなりドーン!と出現する事になるのよ。そうなると色々と面倒臭い奴らが寄って集って、って事も出るだろうから。別の地に引っ越せないかなって。」


「・・・言っている意味が良く分からないんだが?城が出る?移動させる?どう言う事だ?」


 分からないと言っているが、皇帝は恐らく俺が言った事を表面上は理解できている。だけど信じられないと言った気持ちで確認の為に聞き直している。


「ソレと、ダンジョンの中に在る物品はレストの許可を一応は得られたらこっちに持ってくる予定なんだけど。仕舞っておく場所あるか?盗難とかされたりしない様に厳重な管理が必要だと思うんだ。」


「待て待て、待ってくれ。順を追って説明してくれなければ分からん。そこら辺の事も一緒に調査書に書かれているのか?」


 皇帝はペラペラと紙をめくって素早く大雑把に内容を把握し始めた。けれども最終的に苦笑いになる。


「エンドウよ。何処にもその手の事が書かれていないのだが?説明はちゃんとしてくれるんだろう?」


 皇帝は大きく溜息をついてから俺へと視線を向けてくる。


「大丈夫、ちゃんとそっちが納得いくまでしっかり説明する気でいるから。それじゃあ何処から話すか?」


 俺がそう答えた時に突然「そうだった!」とバガンゲルの声が上がる。


「皇帝陛下!早く我々に仕事を振って貰わねば!報告は読んだのだな?ならば我々は一刻も早く編纂作業に入らせて貰いたい!」


「そうでした!こうしてはいられません!これほどの情報量!纏めるのに幾ら時間があっても足りません!」


 ジャモルフもそう声を上げて皇帝を見る。その目は少量の狂気が混じっている様にも見えた。

 コレに「分かっていた」と口にしていた皇帝も若干顔を引きつらせている。

 しかし素早く机に向かうとスラスラと命令書を書きあげて行く。


 今回の件に関しての口外を禁止。情報漏洩は厳罰。チラッとしか見えなかったがその命令書にはそう言った文言が入っていた。

 完成したソレを手に持った皇帝が二人へと差し出す。するとコレをひったくる様に乱暴に取るバガンゲル。

 でもその後はちゃんと命令書をしっかりと上から下まで読み込んでいた。ジャモルフも横から命令書を覗いてしっかりと読んでいる。


「もうここには用は無い。これで失礼する!」


「楽しくなってきましたよー!」


 二人がウキウキな足取りで部屋を出て行った。これに皇帝がダシラスへと指示を出す。二人を頼んだ、と。

 あの状態になった歴史家たちが無理、無茶をしないか見張れと言う意味である。コレにダシラスは一礼して部屋を後にする。


「さて、エンドウの話を聞こうか。全く、君と知り合ってから退屈しない所か、仕事が増えてしまったなぁ。」


 そう口に出す皇帝に俺は仕事の溜まり具合は大丈夫なのかと机の上の書類に目配せする。コレに皇帝は心配するなと言った感じで苦笑いだ。

 この部屋には皇帝秘書も一緒に居たのだが、壁際に立っていてまるで空気と思ってくれと言わんばかりに存在感を消している。

 その秘書に向けて皇帝は手を横に振る。どうやら退室しておけと言う事の様で、直ぐに秘書は部屋を出て行った。


「さあ、これで遠慮無く話せるだろ?で、城が出て来ると言うのは、どう言う事なんだ?」


 俺はソファに腰を下ろす。それからざっくりとこれまで判明しているダンジョンの事を説明した。


「そう言えば王国の研究者の報告書もその内にこちらに送られてくるんだったな。詳細はそれで詳しくこちらも検証するとして。ダンジョンが異空間からこちらに、か。しかもソレが初代の頃に建造された城で、しかも中には宝がギッシリねぇ・・・頭が痛くなってきそうだ。」


 話終えた後には天井を見上げる皇帝の姿。俺の言った事をちゃんと「事実」として受け入れてくれている様だ。

 普通なら「おかしな事を言うな」などと一蹴されてしまう所だと思う。こうして信じてくれるのは俺の事をちゃんとラーキルが信頼してくれているという証拠と見て良いんだろう。


「宝物を運び出すのはあの二人との約束ってのもあるんだけどね。その城が移動できるか、できないかはまだ分からないけど。その前にちゃんとこっちに運び入れられる受け入れ態勢を作っておいて貰わないといかんと思って。あ、目録とか作らないと何があって、何が無くなってとか分からなくなるな。それもちゃんと帳票作らないと駄目だよな?」


「そこら辺は、まあ、後で良いさ。あの二人くらいしか初代の頃に詳しい者が居ないと言って良い状態だからね。その件の話を別の者にやらせたらあの二人の怒りが限界を超えてしまいそうだ。」


 そう言って皇帝は苦笑いだ。俺もそれには同意した。あの二人を怒髪衝天させてしまえばその後にどうなるか分かったモノでは無い。


「俺は取り敢えずあの城を消したいとは思っていないんだ。話した通りに初代はダンジョン主となってしまっちゃいるが、マトモだ。そんな奴を簡単に殺す様な事なんて絶対にしたくないし、あのダンジョン自体をそもそも俺が面白いと感じちゃって消滅させる気が無い。だから、城を移動させて良いか?って聞いたんだ。帝国の側にダンジョンが無くなれば良いんだろ?そうなったら移動させるだけで良いだろうと思い付いてな。地上に城が出て来てくれれば俺がソレを何とか他所に移せるんじゃないかと思ってる。一応は移動した先であってもお宝は俺が責任もってこっちに運び込む事はするからさ。その許可だけくれるか?」


 俺は皇帝に雇われている立場だ。形だけでも皇帝から言質が欲しい。後々で面倒事になったとしてもソレを抑え込むのにちゃんと皇帝が許可したという事実がここで必要なのだ。例え書類などの証拠となる物が無くとも。

 こうして皇帝に許可さえ取れれば後は俺の好きにしても大丈夫だ。何かその後にあったとしても皇帝へと問題を丸投げできる。俺が面倒を抱え込まないでオッケーなのだこうしておけば。


「君の自由にしてくれて構わない。どうやらこの件は私には荷が重いらしい。抱え込む問題が大き過ぎるどころか皇帝と言う権限があっても解決できない部分が多過ぎる。そこら辺は全て君に、エンドウに任せるとしよう。」


「分かった。じゃあ遠慮無く。あ、それと貴族たちに勝手な行動を起こす奴が出ない様にラーキルがちゃんと釘刺して止めといてくれよ?」


 俺は皇帝にそう注意してからワープゲートでダンジョンへと戻った。

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