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進む研究と頑固なオッサン二名

 ソレから二日。俺とワークマンはこの場所で住み込みである。まだあの歴史家たちはやって来る気配は無い。

 ワークマンがレストに質疑応答をしていてずっと資料と睨めっこであった。

 俺はやる事は無かったのでリクライニングチェアを出して二人のその会話を何となく聞き流しつつ子守歌にしてウトウトと居眠りをすると言った具合である。


 レストは流石にダンジョン主になっている状態なので体力的な疲れと言ったモノは出てはいない。

 しかしワークマンの方は研究があれよあれよと進む事に興奮してしまい、途中で俺が無理矢理止めて食事や睡眠を取らせると言った事もしばしば起きた。


 そうしている時にようやっとダンジョンの入り口に待ち人が来た反応が出る。


「ようやっとか。じゃあ俺は迎えに行ってくる。ワークマン、無理するなよ?」


「研究の効率が下がる、だろ?分かっっているよ。」


 俺は一言断ってヌシの間を出る。とは言ってもワープゲートで入り口付近へと移動するだけなのだが。

 一応は誰にも見られない場所に繋げておいてそこからさもずっとこの場で待っていたと言った感じで三名の前に出て行くのである。


「準備に手間取ったのか?結構ゆっくりしていたな?」


 俺はダンジョンの入り口から中を警戒して覗いていたダシラスに声を掛けた。


「エンドウ殿、いらっしゃいましたか。はい、彼らは何かと言い訳をして準備を遅らせるなど、どうにも非協力的でした。」


 ダシラスはそう言って俺に近寄って来る。どうやら少々苦労を掛けさせてしまったようだ。


「ああ、まあしょうがないさ。ダンジョン研究の専門家じゃ無いからな二人は。・・・そうか、まだ何で調査に協力しろって命令書が出たのかを分かって無いんだよな。そりゃ行きたく無くて準備も引き延ばしにしようとするよな。」


 今更に俺は「そう言えば」と思ってしまった。城で顔合わせしていた時にちゃんと俺の口からそこら辺を説明しておけば良かったのだろう。

 でも歴史家二名のあの態度でそこら辺の事を伝える事を放り投げてしまっていた。

 遅くはなったがちゃんとここで二人の役割を説明しておいた方が良いだろう。

 ワークマンの研究の方はこの二日で大分進んで終わりが見えている。

 考えてみればタイミング的に丁度良いくらいに納まっているのだ。


「で、この大所帯が二人が連れて来た従者?で良いのかね?」


「はい、彼らは自分で荷物を持つつもりも無ければ野営の準備などもする気は無いと。」


 召使が自分たちの世話を全てやる、と。自らの手で為すは歴史を書に残す仕事のみだと。


「あー、まあ、間違っちゃ、いないな。いないけど、うん。」


 これだけの大人数をヌシの間に入れてしまって良いモノかどうかが悩み所だろうか。

 五十名がこの歴史家二人が連れて来た人数である。この中には荷物持ちや、その他には料理人、身支度の世話などをする者なども一緒に連れて来ているんだろう。


 俺は今回、ワープゲートを使用せずにこの大人数をヌシの間に連れて行く事になる。歴史家二名にワープゲートの事を知られたくない。

 しかしこの数を連れてダンジョン内を歩くのはソレは面倒だ。どうにかできないかと考える。


「ああ、そうか。こっちにレストを連れてくれば問題は無いじゃん別に。」


 ダンジョン主が別にヌシの間から出られないと言う訳じゃ無いのだ。こっちにレストに来てもらえば良い話。簡単だ。

 ダンジョン内の適当な一室を使ってそこで歴史家二名とレストを会わせればいい話である。


「その前にダシラスには今回の詳細を話しておいた方が良いかな?」


 こうして俺は歴史家二名に先に事情を話すよりもダシラスに説明をしてしまう事にした。


 そんな説明のその間にどうにもダンジョン入り口前の広場に天幕を張り出した従者たち。その中へとテーブルやベッド、絨毯まで入れて行く。

 まさかと思ったが、どうにも歴史家二名、まだ名前すら俺は知らないが、彼らはダンジョン内に入る気が一切無いという感じだった。


「おいおい、最初からこうしようと考えてたって事か?」


 俺は呆れた。そんなにダンジョンの中に入るのは嫌なのかと。

 その豪華な広々とした天幕の中に従者たちは様々な資料と見られる束や本などを運び込んでいる。どうやらここで彼らは仕事をする気らしい。

 ダンジョンの入り口まで来たからコレで言い訳は出来ると踏んでいるんだろう。皇帝からの命令はコレで受けた形になると。

 そしてダンジョン内に入らずに自分たちの本来の仕事をここで熟してしまおうと言う魂胆なのだ。


「頭の中どうなってるんだよ・・・ここまでするくらいだったら皇帝に抗議して人選を変えろと訴えれば良いじゃ無いか・・・」


 妙な所で律儀にならずとも不満があれば訴え出て抵抗を見せれば良いのだ。

 皇帝はその程度で「処刑」などとは言い出さない人物である。それをこの二人は知っているのか、分かっていないのか。

 俺の横ではダシラスもこんな事になるとは思っても見なかったのか呆れ顔である。

 ここでどうしたモノかと止まっている場合じゃ無い。取り敢えず俺は歴史家二名に近付いて挨拶を先ずしておくことにした。そして改めてお互いの自己紹介などをと思っていた。

 その後に今回彼らが選ばれた理由を話すつもりであったのだが。


「ふん!近づいて来るな。私はお前と話す事など無い。直ぐにでも私は仕事の続きに取り掛かりたいのだ。お前に構っている時間は無い。」


「そうです。この様にこんな場所まで来させられて大いに時間を無駄にさせられているのです。私たちには構わないで頂きたいですな。」


 こんな調子で先に牽制を入れられてしまった。取り付く島もない。

 さっさと準備を終えた天幕へと入って行ってしまった二名に再び声を掛ける気力が失せた俺。


「なあダシラス?どうすれば良いと思う?」


「・・・放っておけば良いかと。彼らが皇帝の命令を追行したように見せかけて放棄していたと報告は私から上げておきますので。」


 ダシラスは歴史家たちを突き放す宣言だ。もう堪忍袋の緒が切れているんだろう。


「まあ、もう一度後で説明はしようと思う。責任はあるしな。何せ俺は全権委任されてる訳だし。一応は彼らにも振られた役割があるんだからソレをやらせないとね。」


 俺はダシラスを伴ってダンジョンへと入る。そしてそのまま暫く真っすぐに進んでそれなりに奥に入った所でワープゲートを出した。

 ワープゲートの事はダシラスにはバラしても良いだろうと判断した。このままダンジョンを普通に進んでヌシの間に行っても良かったのだが。

 正直、面倒臭い。結構距離もあるし順路もそれなりに複雑だ。アッチを曲がり、こっちを曲がりと中々にこのダンジョンの中は迷路である。

 その途中で出会うだろうのっぺらメイドや空っぽ鎧騎士をダシラスが見て驚き、攻撃を仕掛けないとも限らない。

 俺はそう言ったゴチャゴチャを起こさない為にもさっさとダシラスをヌシの間に入れてしまった方が良いと思ったのだ。


「・・・なんでしょうかこの膨大な魔力の渦は?エンドウ殿、コレは?」


「あー、すまん、入ってくれ。説明面倒。行けば分かる。」


 ダシラスがコレを見て質問して来るだろう事をすっかりと忘れていた。それをこの場で一々説明するのが面倒なので百聞は一見に如かずをして貰う。

 だけどもこんな説明ではすんなりと頷いてワープゲートに入ってくれないだろうとも思ったのだが、ダシラスは一つ大きく頷くと直ぐに動いてくれた。


「俺の事を信頼してくれてるって事、何だろうけど?もうちょっと躊躇うとか無い?と言うか、最初からダシラスって肝が据わってる性格なのかね?」


 既にワープゲートを通っているダシラスに俺の声は届いていないだろう。ずっとここに俺だけ突っ立っているのも間抜けなので直ぐにワープゲートを通って移動した。

 で、そこには間の抜けた顔のダシラスがいた。そんな顔をさせる原因はワークマンとレストのやり取りを耳にしただけじゃ無くワープゲートの事も入っているだろうきっと。


「お?戻って来たかエンドウ殿。ん?あの二名は来ていないのか?」


 俺とダシラスを見てワークマンがそう口にする。どうにもワークマンも俺に「毒されている」ようだ。

 俺がワープゲートが使える事で超便利を享受しているワークマンは少しだけ「普通」を忘れかけているらしい。

 俺はとっくにそこら辺の事がすっかりと先程まで抜け落ちていたのでコレを責められない。


「・・・ああ、ワークマン、夢中になって忘れているみたいだし、俺もちょっと悪いんだけどさ。ワークマンってダンジョン調査とその遠征となったら、どんな準備をする?」


 俺が突然にそんな質問を投げる物だから、これを受けたワークマンが一瞬だけ停止して次には「あー」と力の抜ける声を上げた。どうやら理解してくれたらしい。


「先にワークマンの研究を終わらせてしまっても良いと思うんだ。その後にレストには申し訳無いがもうちょっとだけ付き合って貰いたくてな。」


 俺はレストに事情を話す。初代皇帝の資料が今の帝国には非常に少ない事。二代目皇帝が初代の資料をワザと処分した可能性。

 俺がダンジョン主がマトモで、そして初代皇帝だと話してしまったので今の皇帝が歴史家二名を派遣した事。


「と言う訳で、レストには後々に来るその二名に話をしてやって欲しいんだ。」


「恥ずかし過ぎるだろうにソレは・・・しかも今更私の事などを記した所で何の役にも立たないだろう?」


「いやいや、そう言う訳にも行かないんじゃないか?帝国ができた歴史、その根本がどうしたって資料が少ないとか国としての体面を損ねてるって事になりかねないし?」


 レストからすれば自分語りをする事になる訳だ。コレは確かに顔を顰める案件だろう。

 子供に寝物語として聞かせるならまだしも、歴史を本に残す仕事をしている本職にそこ等辺の話をするのはこっ恥ずかしいだろう。

 しかも自分が話した内容が今の帝国に新たに今更「歴史」として正式に残ると言うのであればなおさら。

 こう言った事は自分が知らない所で勝手にまとめ上げられて、そして自らの死後に発表されるのが大体な流れなはずだ。

 ソレが何の因果か、ダンジョン主となって生き永らえている今になってこの様な事になっているのは勘弁してほしい所だろう。


「・・・なあ?その二名がそもそも私の事を「初代」として認識すると思うか?有り得ない、そんな風に言って信じはしないだろうさ。それでも?」


「あー、そこら辺は俺も心配してる部分でさ。それでも一応は現皇帝が命令書を出してるからね正式な。一応は俺が彼らに命令を出してレストから語られる事を全て書き記せ、って言えばやるとは思うんだ。でもなぁ?」


 全くヤル気の無い歴史家二名のあの顔が思い出される。そして俺がレストの前に二人を連れて行ってその「命令」を出したとしたら?と。

 その場面を想像するともの凄く嫌な顔を浮かべる二人の顔が。


「ちょっとコレは何か作戦を考えておかないとな。」


 歴史家二名が自らヤル気を出す様な流れを作ってこの作業に取り掛からせないと、どうにも途中で仕事を放棄されるのではないかと思う。

 なのでどうやって二人をその気にさせられるかの文言を俺は考えておかねばならない。

 コレに俺は思わず「面倒だなあ」とボヤいてしまった。


 さて、ここまでダシラスは何も言っては来ない。その代わりにヌシの間を隅々まで歩き回って観察をしていた。

 それこそ目を見開いてじっくりと壁の際の際まで、角の角までみっちりと。


「ダシラス、何か気になる事でもあるのか?」


 俺がその様子に聞いた。ダシラスのその尋常では無い必死さもあってちょっと放置し過ぎたと言った罪悪感も少量そこには混ざる。

 この一言にダシラスがギュンと言った擬音でも付きそうな勢いで俺の方を向いて来るのだからちょっと怖かった。


「エンドウ殿!コレはどう言う事なのですか!?」


「いや、何をどう聞きたくてどう言う事って言ってるのか分からねーよ。」


 ダシラスの言葉はざっくりとし過ぎだ。だけども小さく深呼吸をした俺は理解した。

 聞きたい事がいっぱいあり過ぎて上手くそれを言葉にできずにいて、一言で纏めて「どう言う事なのか?」とダシラスは問うたのだ。

 ダシラスには事の流れを大雑把に説明をしてはいたが、このダンジョンを俺が「魔力固め」している事情は話していなかった。

 恐らくはダシラスの聞きたい大部分はその事なんだろう。彼はどうやら優秀な魔術師であるから、今のダンジョンのこの状態を直ぐに看破したのかもしれない。


 俺はここでダシラスを落ち着かせるためにワークマンの事を紹介した。ダンジョン研究者だと。

 そうしたら大分興奮していたにもかかわらずダシラスはきりっと直ぐに冷静な態度を取って「初めまして」と挨拶を返す。

 コレに俺は「二重人格」を疑う。それくらいダシラスの切り替えは一瞬だった。

 そんな事はさておいてと言わんばかりにワークマンがダンジョン談義を始めてしまう。誰にかって?ダシラスにだ。


 コレにダシラスも「フムフム、なるほど」と聞き入って、かつ、理解をしてしまうからもう駄目だった。俺は止め所を失った。こうなるとワークマンは長い。

 ダシラスが今のダンジョンの状態を見抜いたのだとワークマンは察したんだろう。先程のダシラスの取り乱し様で。

 ソレを説明するためにワークマンはこのダンジョンの現状をダシラスに説明するのだった。


 その間に俺は食事の準備をしてしまう事にする。それが終わる頃にはダンジョンの話も一段落しているだろうと思って。

 ダシラスとワークマンの話は続いている。それをレストが見て「優秀だな」と溢した。

 俺はその声の重さにレストが以前に部下の事でかなりの問題を抱えていたと言う事を察した。

 きっと当時は苦労が絶えなかったんだろうなと。しかし今の帝国と、昔の帝国では何もかもが違う。

 今の苦労と昔の苦労を比べる意味は無い。それでもレストは自分が皇帝として建国した当時を思い出してしまったんだろう。


 そんなこんなで食事が出来上がる。この匂いに釣られてダンジョンの説明を切り上げると言った形でダシラスとワークマンがこちらを向いた。

 俺は四人分の食事の用意をしてテーブルに並べる。そう、レストも食事を一緒に取っている。

 別にダンジョン主に食事は要らないらしいが、それでも俺はここに滞在する初日にレストに食事を勧めている。

 食べられない訳じゃ無いのなら一緒に食べようと。俺はレスト一人だけ除け者にはする気は無い。

 レストが食事の香りに釣られて口内に涎を溜めていたのがバレバレだったのもある。


「なあ?オッサン二名を説得する材料とか、或いは気を引くための情報とか無いか?」


 歴史家と既に言わずに俺はあの二人をオッサン呼ばわりする。もうあんな面倒臭い者たちはオッサン呼びで充分だろう。

 俺は食事をしながらそんな質問を飛ばす。俺の知恵だけでは良い案が浮かんできそうにも無かったからだ。

 賢者などと他者から呼ばれていても俺はそんな自覚は無い。頭が良いとは言えないと自分でちゃんとそこら辺は弁えている。


「そうだな。あの二人は大分頑固みたいだし、気を引くための情報と言うとダンジョンの話は無理そうか。」


 ワークマンが自分得意のダンジョンの話はあのオッサンたちには通じないだろうと口にする。


「歴史関連の話を振れば宜しいかと。あ、そうですね、それでも動かない可能性も高いですが。」


 ダシラスが彼らとの話をきっかっけにするなら歴史関連の事を切り出すのが良いと言う。だけども直ぐにあの二人の偏屈具合を思い出して少しだけ顔を顰める。


「無理矢理に引っ張って来るのは駄目だと言うのなら、このダンジョンの中の装飾品を幾つか持って行って見せれば良いのではないか?宝があると知ればその二名も欲に駆られて興味を示すのではないだろうか?」


 レストがそんな事を口にする。どうやらこのダンジョンの中に有る様々な装飾品に執着などは無い様だ。

 確かにこのダンジョン内の通路に飾られている物は全て恐らく高価な品ばかりなんだろう。

 だけどもオッサンたちが「金」に興味があるとは思えない。


「あ、いや、そうか。それで行こう。なあレスト?ここって当時のままなのか?」


 俺がレストの案を採用したからワークマンもダシラスも不思議な顔をした。

 俺と同じくあのオッサンたちが「金」で動く人物とは思えないと二人も思っているのだ。


 だけども「価値」という点、その視点から見れば光明が見える事を俺は気付いた。

 しかしこれだけであのオッサンたちが動くとは思えなかったが、きっかけにはできるだろう。そこら辺を話した所「そう言う事か」と納得してくれた。

 食事の後ゆっくりと休憩を取ってから俺は再びオッサン二名に会いに行く事にする。ダシラスはヌシの間で待っていて貰う事に。


 既にワークマンとダシラスは意気投合しておりこのままここに残して行く方が良いだろうとの俺の勝手な判断だ。

 コレにダシラスは頭を一つ下げて「行ってらっしゃいませ」と俺を見送る。コレに俺は何だかやり辛さを感じざるを得ない。

 ダシラスはついでに「大賢者様の御言葉のままに」と小声で発していた。俺には聞こえていないだろうと思っての発言だろうが、キッチリ聞こえている。

 普通の者なら聞こえない程の呟きだっただろう。けれども俺は色々とそこら辺「感知」する魔法を身に纏っているので分かってしまうのだ。


(俺の言う事を何でもハイハイと聞き入れて従うのはどうにもなぁ?)


 俺を崇め奉るのはどうにかして欲しい、と思ってもどうにもならないんだろう。この世界の人間の価値観からして俺はそう言った対象になってしまうレベルに居るらしいから。


 こうして俺はダンジョンを出た。俺の脇にはダンジョンの通路に飾ってあった小脇に抱えられる程の大きさの壺。

 コレがオッサンたちの気を引けるだけの代物なら良いのだが。俺には何をダンジョンから持って行けば良いのかまったく審美眼が無かった。なので適当に持って来たのであるが。


 ここで大事なのは価値は価値でも「歴史的」というモノが付くかどうかだ。

 オッサン二人は歴史が大好き、などと言うと語弊を生むだろうが、歴史と付くモノに関してはきっと食い付きは良いだろう。

 何せ書き記すその当時の背景を知らねば歴史など纏める仕事になど就いていられないだろうから。

 仕事上、その当時に何が流行って、何が起きて、どんな事、物が中心になって歴史が動いていたのかなどを調べているだろうからそこら辺の詳しい部分は知っているはずだ。


 このダンジョンの中に在る装飾品はレストがいうには「そのまま」らしいのだ。

 ならばこれらの「歴史的価値」でおっさん二名を釣る事は充分に可能だと俺は思ったのだ。


「・・・なんだ?私たちの仕事の邪魔をしに来たのか?」


「勘弁してほしいですね。今凄く良い所なので。」


 いきなり天幕の中には入れない。入り口には使用人であろう男が立っていたので二人に面会をしたいと願い繋ぎを取って貰ったのだが。

 一応は中へと入る事を許されてみれば一言目にはコレである。相当に俺は嫌がられていると言って良い。


「編集はどれくらいまで終わりましたか?こちらの仕事へと切り替われる切りの良い所まで終わっていてくれると助かるんですがね?」


 俺はそんな返事を返した。しかしこれには。


「何を馬鹿な。それほどに早く仕事が進む訳が無かろうが。よりにもよってダンジョンなどと言う私たちに関係の無いモノを押し付けられて只でさえそのせいで遅れがでているのだぞ?」


「そうですそうです。今貴方に構っている時間さえ惜しいのですがね?分かって貰えませんか?今こうして面会の許しを出したのは貴方の顔を立ててやっているだけですよ?」


 ここで俺はツボを前に出してみた。


「・・・おい、一体なんだソレは・・・!?」


「おやおや、それは私たちへの貢ぎも・・・はい?」


 俺の予想は間違っちゃいなかった。しかし二人の食いつき度が予想外だ。


「き、き、ききききき!貴様!ソレを一体何処で!?」


「そそ、そそそそそそそ!?ソレは幻とも物語の中だけとも言われた代物では!?」


 頑固オヤジは顔真っ青、オタク眼鏡は顔真っ赤。どうにも二人の反応はそれぞれだが、どうやらこのツボの価値は知っているらしい。どちらも興奮の色が見えている。

 俺には全く分からないけれど専門家から見れば相当な物なんだろう。二人の動揺ぶりでソレが良く分かる。


 しかしここで俺はこのツボを背中に隠す。


「あー、そう言えば新発見の資料って何が書かれていたんですか?ソレは後どれくらいで終わって、いつダンジョンの方に仕事を移行できますかね?」


 この言葉に二人がハッとした様子で俺の顔を見る。いや、睨む。


「おい、そのツボをもっと良く見せろ。」


「そうですソウデス!もっとそれを・・・いえ、こちらに渡しなさい!」


「いえいえ、コレは大事な「ダンジョン調査」の資料となりますので、お二人に渡すのは無理ですね。ああ、そう言えばダンジョン調査など自分たちの仕事では無い、とおっしゃっていましたからね。」


 俺のこの言葉に頑固オヤジは顔真っ赤、オタク眼鏡は顔真っ青と言った先程とは逆反応を起こす。


「き、貴様ぁ!我々に向かってその様な態度をおぉぉお!」


「いやいやいや!その様な事は!その様な事はぁァぁァあ!」


「では、ごきげんよう。あ、ダンジョンの中には勝手に入らないでくださいね?護衛も戦力も無いのに勝手に入ってもし魔物に襲われて死なれても困りますので。ああ、それならこう言った方が良いですかね?この調査に全権委任された俺からお二人に命令です。ダンジョン内に入る事は禁じます。それでは。」


 脅しをかけて俺は別れの挨拶として天幕を出る。そのままダンジョンへと歩いて向かう。いきなりワープゲートは出さない。

 天幕を出る際にはチラリともツボが見えない様にと隠しつつ出て行ったのでオッサン二名は「ぐぬぬぬぅ!」と呻き声を上げていた。

 どうやら最後の最後にちょっとでもツボの観察をしてやろうといしていたんだろう。それが上手く俺が隠して見せない様に天幕を出て行ったものだから唸って悔しがっているのだ。


(頑固だなぁ。何でちょっとくらい下手に出てお願いすると言った事をしないんだろうか?)


 一応今日はこれくらいで良いだろう。釣るにしてもいきなりは駄目だ。魚釣りでもかかった獲物は先ず少しづつその魚の体力を減らして引き上げやすくするために糸を巻くと言う事である。

 なので今回だけでなく明日も訪問しようと思う。何度も通えば二人も少しづつ抵抗をする気も失せて観念する事だろう。明日は何を持って行こうかと少し考えていたらダンジョンに入る時に天幕から微かに。


「どうせあれは我らを騙す為の偽物であろう!」


「そそそそそ、そうですな!きっと我らが言う事を聞かないので嫌がらせに用意した物だったのでしょうな!」


 などと声を大きく出して必死に言い訳をしている声が響いていた。

 まだまだそんな思考を出来るだけの余裕があるみたいだ。コレは長引きそうである。


「頑固だなぁ。余り長引き過ぎて持って行く物のネタが尽きちゃわないだろうか?」


 変な部分を心配してしまったが、別のその時はその時だ。オッサンたちに協力させる為のキメ台詞は幾つか考えてはある。

 その時にソレで決められ無ければもうソレはオッサンたちの頑固さが勝ったと思って諦めれば良いだろう。

 俺がその頑固に無駄にそれ以上は付き合う義理も無い。

 その際には「説得はした。しかし二人は一向に首を縦に振らなかった」コレで行く。

 首を縦に振らない明確な理由と道理が無ければ只の我儘となる。どちらに非があるのかと言われた際にはオッサン二名がお叱りを受ける事になるだろう。


 ダンジョンに入って少しだけ奥に進んで誰の目も無いと確認して俺はワープゲートでヌシの間に移動をする。

 そこでダシラスには「お帰りなさいませ」などと深く頭を下げられる。


「ああ、只今。ワークマン、何かダンジョンに関して重大な発見とかあったか?」


「んん?今までの研究に大きな間違いが無かった事は確認できたな。それが一番大きな成果だな。とは言え、それを発表したとしても誰もその事をマトモに信じてはくれないだろうがな。」


 ワークマンは苦笑いだ。それはそうだろう。ダンジョン主がそもそも「人」であり、初代皇帝だと言って誰が信じるだろうか?

 いや、今の皇帝はソレを信じたのだった。そして歴史家二名を派遣して初代の事を調べようとした。


「あー、っと、すまんレスト。ちょっと相談に乗ってくれ。」


 俺はオッサンたちを釣るのに今後どのような代物が食いつきが良いかを相談した。

 もちろん今日持って行ったツボは元の場所に戻してある。

 俺は美術品に全く興味も無ければ価値も知らないので、知っているであろう者に聞いた方が早い。


「なるほどな。それならば私も何が良いかを一緒に考えよう。」


 こうしてこの場の全員でこのダンジョンの美術品に関する会が開催されたのだった。

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