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追加でアレもソレもコレも

 俺は初代皇帝がダンジョン主である事を先ず告げる。コレに皇帝はギョッとした顔になった。

 しかしそこで「何故だ、どうしてだ」とか「信じられない」と言った事を口には出さずに話の先を促してきた。


「初代は息子に椅子を奪われたって。そんで軟禁?監禁?丁度ダンジョンのある場所に有った別の居城に移されてたんだと。そんでもって暗殺者が自らに仕向けられて殺されそうになった時に奇跡としか言いようが無い、目の前に出て来たダンジョンの穴?に入り込んで。気が付いたらヌシになってたってよ。そんでもって長い年月引き篭もってたら最近になって外界にダンジョンの入り口が繋がっちまったって。それで、聞きたいんだけどさ。そこら辺の歴史ってどうなってる?」


 ざっくりと俺は説明を終わらせた。一応はワークマンにもここら辺の話を事前に聞かせておくと言った目的もある。


「・・・驚いたな。その話はまさか本人から聞いたのか?いや、そうだよな。それ以外には無い。ダンジョン主が初代皇帝とは、おとぎ話にしか聞こえんしな。いや、うん、信じられないけど、君がそんな冗談を言う性格では無いと、短い付き合いでもわかるよ。」


 どうやら平然とした態度であっても内心では驚いていたようだ。俺が説明をしている間はずっと皇帝に大きな変化は見られなかった。

 しかしどうやらその心の中では驚愕に満たされていていた様である。それを易々と表に出していては皇帝なんて重みは背負っていられないんだろう。


「歴史にはこう書かれている。その城はある日突然に消えた、と。それこそ何の前触れも無く。跡形も無く。二代目に引継ぎをした初代がそこで余生を過ごしていたと言うのも書かれている。しかしコレは代々の皇帝しか知らない。エンドウが知っているはずが無い物なんだが。しかもその消えた理由がダンジョン・・・しかも呑み込まれて核になったのが初代で、暗殺?もう少し待ってくれるかい?」


 皇帝はどうやらまだまだダンジョンの話は全てのみ込むのに時間が掛かるらしい。

 それとは違って、もの凄くワクワクした顔でいるのがワークマンだ。聞いた話を自分の中の情報とアレコレと照らし合わせている様子だ。

 その顔も百面相と言って良いくらいにコロコロと変わる。今思い出せるダンジョンの研究のあれこれを思い出してああじゃない、こうじゃない、などとブツブツと呟きながら二秒毎にその表情が切り替わるのだ。


「んで、ここでワークマンの出番、って訳だ。そもそもその初代は「マトモ」だから、そんな相手に話を聞ければダンジョン研究が大きく進むんじゃないかと思ってさ。それと、ダンジョンを俺は個人的に消したくないと思っちゃったから、どうにかできないかと何か取っ掛かりが見つからないかワークマンの知識と経験が欲しくてね。勝手言ってるつもりはあるんだが、全権委任されてるし、良いよな?」


「待て待て待てエンドウ!今何と言った?あ、違うそうじゃない!えー、だから、そうだ、今回の初代の話を君がし始めたんだから当然その本人から情報を直接聞いている訳で。初代が正気・・・だと?」


 皇帝が改めてその点に目を向けて驚愕をする。そして続けて俺に求める。


「我が帝国の歴史、しかも初代の頃の事が直接その口から聞けるのか?歴史家を呼んで本人からの話を書に纏め直して今ある物と比べたいのだが。コレは帝国が根本的にひっくり返るぞ?」


「何でそうなるんだ?そんなに今ある初代の記録は少ないのか?」


「・・・少ないな。有り得ない程に。意図的に「消された」と見て良い。そうなるとソレをしたのは二代目皇帝と言う事になるだろうしな。」


「で、今のラーキルは何代目だ?」


「私は十三代目だね。私も常々思っているのだが、良くもまあここまで続いたと思っているんだ。コレはこの帝国周辺に脅威が今まで起こらずに平和に時を過ごせていたからだろう。その基礎を作り上げたのが初代なんだよ。帝国がここまで大きくなったのも、その基礎が元になっていると私は思っている。」


「そうだよなあ。これだけ大きくなっても外の他の国との摩擦や戦争も無かったみたいだしな?」


「エンドウもこの国を見て薄々気付いているんじゃないか?各国の重鎮を招待して接待漬けにするんだよ。そして敵意なんて一切無いとこちらは主張して、そして、その証拠も見せて土産もタンマリさ。そうするとその国は大抵は戦争を起こして侵略、なんて事は考えなくなる。考えたとして、それを実行してもホンの小競り合いで済ませて平和条約を調印さ。本当に今までの皇帝は上手くやっていたよ。」


「それって今のお隣の王国もか?」


 俺のこの質問に皇帝は「当然だね」と言ってお茶を一口飲み込む。

 コレに俺は納得した。王国では戦争の空気なんてこれっぽっちも感じる部分など無かった。寧ろ帝国の「て」の字すら話を一切聞かなかった位だ。

 戦争をする理由も無ければ、それこそ必要も無い。そう言った事なんだろうきっと。

 帝国とは上手く付き合っていく。それこそ適正なその距離は「一切関わらない」と言った感じなんだろう。

 王国は王国で、帝国は帝国で。お互いにちょっかいを掛けない。極力無視をする事で争い事を回避しているのだ。


(あー、そうなると俺が王子様を助けたのは良かった事なのかね?)


 俺は以前に王子様に助太刀した事を思い出す。王国第二王子の確かメルデントルだったか?

 その第二王子がもし国王になったらと想像したら、何だか帝国に対して戦争でも仕掛けていたんじゃないか?と思えて来た。


 そんな事は置いておいて今は皇帝の方だ。思案する為に腕組をしてジッと目を瞑っている。

 そしてその目が開いた時には俺を真剣な眼差しで見てくる。


「歴史家を二名、それとその護衛にダシラスを付けたい。同行させてくれないか?」


「いや、別に俺の許しを得なくても指示を出せば良いだけだろ?俺は依頼を受けている方で、依頼主はそっちだ。追加したい事ができたら気軽に言えば良いんだよ。そこはそっちが上だろうに。良いよ。連れて行くさ。」


 こうしてダンジョンに三名を追加で連れて行く事に。これは別に俺にとっては何ら負担にはならない。

 負担になるとしたら初代皇帝であり、今はダンジョン主であるレストにである。

 ワークマンからは恐らくダンジョンの話を次々に聞かれて、歴史家からはきっと昔の話を根掘り葉掘り聞かれるだろうから。

 きっと体力的な面も精神的な面も両方が一気に削られる事だろう。


 何せ「未知を求める者」と言う奴は加減と言う物を知らない。いや、それを全く忘れると言った所か。

 自分の求める所を追い続ける事に集中するあまりに、自身の疲れも分からなくなって限界でぶっ倒れるまでソレが続く、なんてのもあるだろう。

 これ程までに過剰になり過ぎる者は滅多に居ないだろうが、それでも人は集中した時にそう言った傾向と言うのは出る。その比重がどれだけ深いかで決まるのだ。


(俺がちゃんとそこら辺の管理をしていないと駄目かもな)


 そんな事を考えて皇帝との話は終わる。手続き書類は直ぐに作成して処理を行うと言って皇帝は直ぐに執務机に向かい合う。

 そして綺麗な紙にスラスラと何やら書き始めた。それに即座に迷い無くポンと判子を押す。

 その時に丁度宰相と見られる文官が戻って来た。そしてそれにすぐさま皇帝が今作ったばかりの書類を渡した。

 コレにもの凄く苦虫を噛み潰した顔になる文官。そしてその内容を目にしてまたしてもギョッとした顔になって直ぐに部屋を出て行く。

 俺はコレを「苦労を掛けて済まないねぇ」などと心の中だけで謝った。


 さてこれで俺とワークマンはその歴史家二名とダシラスが来るまでの時間を客間で待つ事になった。

 メイドさんに案内されて入った部屋は客間としては広過ぎないか?と感想を持つ程の場所だったが。

 この帝国周辺の国の重鎮を招いて接待をすると言っていたのできっとここではコレが当たり前なんだろう。


「で、ワークマンには待たせてしまったようで済まないな。直ぐにでも研究に入りたいだろ?」


「そうだな、とは言わない。ゆっくりやるつもりだったからね。とは言え、こんな展開になるとはこれっぽっちも思ってもいなかった。」


 そう言って笑うワークマンはテーブルの茶を一口飲んでリラックスしている。

 そんな時に扉は開かれた。そこには今回同行する事になった三名が。


「どうして我々がダンジョンの調査になど付いて行かねばならんのだ!お前たちか!その調査とやらをしているのは!?」


「我々は忙しい身であるのに何故この様な・・・お前たちが何か妙な事を皇帝に言ったんだろう?そうで無ければ我々歴史家がダンジョンに入るなどと信じられん事になるはずが無い。」


 上から目線、怒りっぽい?しかも片方は陛下呼びをせずに皇帝と呼び捨て?

 どうなったらこの二名の歴史家がこの様に偉そうになるのかが分からない。

 不満を爆発させる二名。片方はまさに頑固オヤジ、もう一方は痩せて眼鏡をかけたいかにもなオタク。

 双方は文官の服を着ているのだが、どうやら他の文官と違いを出す為に胸にはキンキラに輝く「☆」のバッジが付いていた。


 ここでもう一名の同行者が挨拶をして来る。


「エンドウ様、この度の同行、光栄です。未熟な我が身なれど、この身を粉にして働きまする。どうか何でもご命令を。」


 と言ってきたのはダシラスだ。この言葉に歴史家二名はと言うと。


「おい!何故この様な若造に頭を下げておるのだ!帝国魔術師とあろう者が何を馬鹿をしておるか!」


「そうですね。何処をどう見ても見慣れぬ服装に、しかも何やら歳の方もまだまだ若く。貴方程の力がある魔術師が頭を下げる相手?どう見てもそうは思えませんね?」


 である。こうなると最初に確認して見ないといけない事がある。この二名が取り敢えず俺が今回のダンジョン調査で全権委任されている事は知っているのかどうかである。


「知ってるそのくらい。皇帝にどうやら全幅の信頼を置かれている相手と言う事らしいが。どの様に取り入った?間抜けなその面からは想像も出来ん程にやり手らしいな?ケチな詐欺ではない事だけは祈っておいてやろう。」


「どうにも口だけは達者なようで。どんな機会があって皇帝と顔を合わせたのか不思議ですね。その時に良い様に皇帝を丸め込んだのでしょう?なんと言ったのか気になりますね。」


 この言いたい放題である。皇帝はどうしてこの二名を同行者としたのだろうか?コミュニケーションがこれでは取れない。

 ダシラスもこの二名の口を開けば俺を馬鹿にする言葉に物申したいと言った顔になっているのだが。それでも俺が何もこの二名に言い返さないので大人しくしてくれている様だ。


「じゃあ出発、のその前に筆記用具は万全ですか?記帳する紙は充分な数と思える分を揃えてありますか?」


 俺を馬鹿にして来る二人にそう準備の事を確認する。これには呆れた返事が。


「あん?何を馬鹿な事を?ダンジョンの調査に我々が持って行く物など有るはずが無かろうが?我らを何だと思っておる?」


「そうですね。歴史家がダンジョン調査の何を手伝えと?笑える質問ですねコレは。」


「あの、二人は皇帝の命令書で動いてるんですよね?それには何と書かれていましたか?」


 俺はここに来てこの二名が何も準備をしてないばかりか、この調査の参加に端から協力する気が無い事を直ぐに分からされた。


「ああ?ダンジョンに行って調査を協力して来いとしか書かれていなかったわい。しかもここ最近になって現れたと言う噂のダンジョンだと聞いたぞ?」


「そのようなポッと出のダンジョンにどんな歴史があると言うのですか?我々は歴史家ですよ?古きを調べ、それを書に纏め、後世に活かす事を目指して活動するのです。どうして出来立てのダンジョンで我々が調べるモノが在ると?」


 何処までも傲慢だ。それだけの功績を残してきた、作って来たと言う自負があるんだろうが、これではどうにもならない。

 この調子でレストに会わせてもきっと彼らは初代皇帝が目の前に存在するとは思いもしないだろう。

 話を聞いた所で「でっち上げ」「噓八百」と言い出しそうだ。


「皇帝が我々を名指しで呼び出したのだ。何かと思ってみれば仰々しい命令書などを突き付けてくる程で驚いたが中身はこれだ。どうしたと言うのだ一体全体。今の皇帝は気が狂ったか?」


「そうですねぇ。今編集している書も修正が必要になるかもしれませんな?」


 まるで自分たちが皇帝よりも偉いのだと言わんばかりの言い草だ。もうコレはどうなっているのだろうか?

 皇帝は何かしらの考えがあって彼ら二名をこうして調査に加えたのだと思うが。余りにもこんな態度では不安が大きい。


「連れて行って大丈夫なのかこいつらは?・・・ダシラス、紙を大量に用意しておいてくれないか?その準備ができたら出発にしよう。」


 俺の求めに素直に頷いて動き始めてくれたダシラス。この俺の言葉に歴史家二名が苦い顔して「ふん」と鼻を鳴らして機嫌が悪い。

 その後は少しの間また待ち時間ができる。これはダシラスに頼んだ準備を待つ時間である。

 この間で歴史家二名はあーでもない、こうでもないと今期の皇帝の歴史書の件について話をしていた。このダンジョンの件が主な中心となっている様だ。

 コレにワークマンが俺へと「大丈夫なのか?」と言った視線を向けて来たのだが、俺はコレに微妙な何とも言えない表情しか返せなかった。


 別にダシラスに記帳用の紙を用意させずとも俺のインベントリの中にはある程度の紙ができるだけの材料は入っている。

 しかしこの二名の前で「はいどうぞ」とソレを出して渡す気になれなかった。

 なのでせっかくダシラスが何でも言ってくれと口にしていたので仕事を与えてみたのだ。


 そうして戻って来たダシラスの手にはコピー用紙A4サイズ400枚と言った感じの束が。

 そしてその背にはダンジョン調査に必要だと思っての事だろう荷物パンパンのカバンを背負っていた。


「私の出発準備は完了しております。この後直ぐにでも対応できます。」


 仕事キッチリである。俺は宣言通りに「出発」とだけ言ってソファから立ち上がったのだが。


「我々は行く気は無いぞ?幾ら皇帝の命令とは言えだ。歴史家がダンジョン調査?馬鹿を言うんじゃない。我々は自分の仕事に戻らせて貰う。」


「そうですね。最近になって書庫から発見された過去の文献のその中身の確認を進めている所ですからな。ダンジョンなどに構っていられる場合では無いのですよ。」


 平気で皇帝の命令に逆らう気であるこの二名。どれだけ傲慢なのだろうか?


「命令に背くと言う事は自身の命すら要らないと言う事ですか?ここ最近でも皇帝は逆らった者を処刑した事があったはずですけど?お二人は自殺したい、と?」


 俺のこの言葉に二名は苦虫を噛んだ様な顔になる。別にコレは俺がテキトーな事を言っているだけだ。真実は知らない。只々この二名をちょっとだけ脅すつもりで吐いた方便である。


「・・・ちっ!今の皇帝は粛清をするのが趣味か。全く持って不愉快だ。」


「まだまだ死にたくは無いですからな。ここは命令に従うしかありませんか。」


 二名は渋々立ち上がる。そして部屋を出て行ってしまった。残された俺とワークマン、それとダシラス。


「・・・ダシラス、あの二名をダンジョンに連行して来てくれないか?その荷物は俺が持って行くよ。」


 俺はここでダシラスにどうしようもない二名の世話を頼んだ。ダシラスはこの帝国で優秀な魔術師であるらしいので簡単にこんな頼みくらいはやってくれるだろう。


「はい、お任せを。あの方たちの口から出る言葉に少々嫌気がさしていましたので。問答無用で黙らせて縛り上げてでもお連れいたします。」


「・・・ありがとう。それじゃあ俺たちは先に行こう。ワークマン、良いか?」


 俺の言葉にワークマンは首を縦に振る。コレでやっと本格的に調査が進められる。不安な二名のお荷物は出来てしまったが。

 それでも何とかなるだろう。なら無かったらポイすればいいだけだ。いや、これは別に捨て置くと言う意味じゃない。完全に彼らを無視すると言う意味だ。

 魔力固めでずっと邪魔しない様にしていてもらうだけである。


 こうして俺とワークマンだけ城から出る事に。その際にはメイドさんに出口までの案内をして貰った。

 城の誰も居ない場所でワープゲートを出してさっさとダンジョンに移動でも良かったのだが。


「ちょっとだけ意趣返ししてやりたいんだよね。」


 俺たちが城の門をそのまま通る時である。門を出て行く俺とワークマンをギョッとした目で三度見した慌てた様子の門番。俺たちへと声を掛けようと僅かに動いたのだが、門の所でメイドさんが深く一礼して見送りをしているのを見てその動きをビクリと止める。


「趣味が悪くないかエンドウ殿?まあ門番の我々への対応は間違ってはいなかったが。その後の罵倒の言葉は言い過ぎなモノではあったがね。」


 ワークマンが苦笑いだ。そうしてその後は路地裏に入って人気の無い場所でワープゲートを出す。繋げてあるのはダンジョンのヌシの部屋だ。


「やあ、来たね。さて、何から聞きたいのかな?」


 レストが俺とワークマンへとそんな言葉を言ってくる。だがコレにはワークマンが挨拶で返した。


「・・・お初にお目に掛かる。私はダンジョン研究を生業とする、ワークマンと言う。この度は研究への協力、感謝する。」


 深く一礼をレストへとするワークマン。これにはレストが「ははは」と軽く笑ってから挨拶を返した。


「アリブレスト・ゲン・フォーゲルアイマーだ。気軽にレストと呼んでくれ。」


 二人はこの後に握手をしている。コレは俺には意外だったのだが、先に手を差し出したのはワークマンだった。コレをレストが強く握り返すと言う事態である。


「彼の目を見て確信をしたよ。エンドウ殿から話に聞いていただけだったが。ダンジョン主となっても正気、まともに話ができると言うのは直ぐに理解した。彼は同じだ。「人」と全く変わらない、とね。ならば今回は私の研究にレストが協力してくれると言う立場なんだ。私から友好の手を出すのが当たり前だろうからな。」


 どうやらワークマンは一目でレストに「危険は無い」と判断したようだ。それ所かダンジョン「ヌシ」では無く「人」だと、何も自分たちと変わらないとまで言ってのけた。

 コレに俺は少しだけ言い過ぎじゃないのか?と思ってしまったが、それこそ今の自分の事もあるので深く突っ込まないでおいた。

 俺も自分が今どんな状態だかを把握しきれていない。そんな自分の事を「人」だと俺は思っているのだ。

 ダンジョン主になろうがその中身がちゃんと「人」だと言うのであればそれはそれで良いんだろう。

「人」の定義の話である。哲学だ。そう言った難しい話をツッコミする場面じゃないんだろうと思う。


「エンドウ殿、荷物を、そうだな。あそこの辺りに展開したいんだが、出して貰っても良いか?」


 ワークマンはワクワクした感じで俺にそう言ってきた。しかし別段気持ちが逸っていると言った感じでは無い。落ち着いている様に見える。


「研究をするにも先に準備を整えておかねば効率が悪くなるだけでね。それに今回は急がねばならないと言う訳では無い。ゆっくりと行こうじゃないか。」


 そう言ったワークマンは「ホラホラ」と荷物を早く出すようにと俺を急かす。言っている事とやっている事が矛盾していた。

 そんなワークマンに対して俺は苦笑いである。インベントリに入れてある荷物を全部出した。

 コレにレストが俺に対して呆れた声で言う。


「信じられない事ばかりだ。今の外の世界にはエンドウの様な者が当たり前なのかい?」


 これに対して俺が答える前にワークマンが口を開いた。


「エンドウ殿が魔術師が当たり前の世界?ソレは凄い。世界が崩壊しかねないな。」


「何でそうなる!?・・・いや、まあ、そうだな。俺みたいな奴が大量に当たり前に居たらヤバいわ、確かに。」


 俺は思わずワークマンの言葉にツッコミを入れたのだが、冷静になって考えたら確かにヤバいだろう。今の所、俺一人だって手に余るだろう世界は。

 俺が今持つ魔力を全開で解放したらきっと世界恐慌、なんて事も想像できてしまった。


「早い所今の俺がどんな事になってるのか、ドラゴンに白状させないと駄目だなこりゃ。」


 俺の異変をドラゴンは俺よりも先に気付いたのにソレを教えてはくれなかった。はぐらかした。自分で気づけと。

 ならば今回はちゃんとキッチリとそこら辺の知っている事を吐き出させないとならないだろう。

 しっかりと自分の力がどうなっているのかを認識できていないと悲劇が起きかねない。今の俺の中の魔力はどんな状態なのだろうか?自分の中に意識を向けてみるも何にも感じなくなっている。

 以前は何となくだが自らの身体の中に何か力の流れ的な物を微かに感じられたりもしたが、今はソレも全く感じれない。

 早い所この原因を探ってちゃんと解決をしておかねばならないだろう。


 こうして俺が不安を思い浮辺ている間にもワークマンの準備は進む。そしてとうとう準備が出来た様だ。


「さて、早速だが話を聞かせて貰っても良いかな?目の前に現れた黒い穴に飛び込んだと言う事なのだが、その時の記憶はハッキリしているかな?穴の形状は歪んでいた?揺れていた?靄の様だった?渦を巻いていた?不定形だった?何でも構わない。違和感や、そうだな、個人的な感想?曖昧なモノで良い。どんな情報でもいいから言葉にできるモノはなるべくだけ教えてくれないか?」


 さて、ワークマンのレストへの聴取が始まった。ワークマンは今回持って来た資料をその手にしてまるで子供の様な目でレストに質問をしている。

 そのワークマンの勢いと熱意に多少押されながらもレストがハッキリとそれに答えていく。

 俺はコレに暇になる。別に俺はダンジョン研究者じゃ無いので。


(後でワークマンに俺から質問すれば良いんだよな。このダンジョンを消滅させずに済む方法)


 帝国からするとこんな場所にダンジョンが発生する事は予想もしていなかったんだろう。

 ダンジョンができたとしても直ぐに即応できる体制で監視をしていたんだろうけれども。

 恐らくは長い間ずっとダンジョン発生は無かったのではないだろうか帝国は。

 ダンジョンを攻略して欲しいと俺が城に呼ばれた時に居た文官の数を考えると慌てて会議がされたのではないかと推測する。

 発生しない、発生するはずが無い、そんな事を長く思い続けていざダンジョンが出てきたら「まさか」と驚いたと。慌てて焦って会議が踊って、アンドゥトロワ。

 そこで皇帝の一声で俺が攻略の全権委任に、何てなる訳だ。


「そりゃ長年ダンジョンが発生して無かったのはソレはそれでもさ。帝国の近辺にダンジョンは絶対に発生しない、なんて事は有り得ないと分かっていただろうに?いや、そんな事すらも忘れるくらいだったのかね?」


 人は時々当たり前の事を忘れる事がある。それはウッカリだったり、本当に長い時間思慮の外に有った物を完全に忘却してしまうとか。

 一年無かったから、二年目も無いだろう。三年目に入ってもその兆候すら出ないから五年目も大丈夫じゃ無いか?

 五年大丈夫なら、じゃあ七年はイケるか?七年良ければ十年もイケんじゃね?そうなると十年大丈夫なら十五年も余裕じゃん?


 などと言った感じで百年、二百年とそんな思考を重ねて行けば人々の記憶から真綿で首を絞める様に忘却されてしまうだろう。

 ダンジョン発生を見張る、と言った体制が今回この発生の早期発見に繋がったのでは無く、もしかしたら只々、偶々見つかったと言った感じなのかも知れない。


 俺は椅子を出して座りながら二人の様子を眺める。俺には今の所やる事は無い。いや、あった。


「歴史家のお二人さんは今頃どこら辺なのかね?大丈夫かな?ダシラス。」


 三名がダンジョンに辿り着いたら俺が迎えに行く事になるだろう。

 そうなると今このダンジョンを包んで「魔力固め」をしている魔力に注意を少しだけ割いておかねばならない。

 ダンジョンに彼らが入ってきたらすぐに分かるように。


「まあ今日には到着はしないか。早くて明日かな?ダンジョンに入るって事は分かってるだろうし、それなりの準備はしてくるだろうし?」


 ダンジョン調査は日帰りで終わる様な代物じゃない。だから用意する物はそれだけ膨大になるはずだ。それらの用意もあるだろう。

 それを運ぶ荷馬車も必要だろう。その積荷を扱う荷運びの者も何人も必要になる訳で。食料は膨大になる。飲料水は水魔石が有れば事足りるかもしれない。

 他にも野営道具は嵩張るだろうし重量もある。本来ならダンジョン調査となれば大規模遠征をするのが基本になる。


「俺が身軽過ぎて逆に浮くな。そこら辺の事をちっとも考えていなかった。あー、どうしようか?」


 俺は悩んだ。どうやってそこら辺の事を誤魔化そうかと。

 歴史家二名には俺のインベントリもワープゲートもバラしたくないと考える。ダシラスには、まあ、良いだろう。

 こうなるとこの二つの事を説明せずにワークマンのこの今の状態を上手く誤魔化さねばならなくなる。


「あの二人絶対に何かしら突っ込んでくるだろ。嫌だなぁ・・・どうにかできないもんかなぁ?」

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