表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/327

手続きなんてスッ飛ばせ

「久しぶりと言って良いんだろうな。しかしいきなり現れるのは驚くのでやめて欲しいんだがな。さて、こうして私の所に来たと言うのは何か私の力を必要としている事があると言う事か?君の力があれば何でも解決できそうではあるんだがな?」


 ワークマンは話が早くて助かる。しかし俺が助っ人を求めてやって来たのだとワークマンは勘違いをしている。


「いや、ダンジョン研究者にとって垂涎の話を持って来たから食いつくかな?って。あ、言い方が下品だったな。あーと、えーっと。何と言って良いやら話を纏めずに来ちゃったよ。ちょっと待ってくれ。」


 俺のこの間抜けな言い様にワークマンは動じない。「ふっ」と小さく笑ってお茶の用意をする為に椅子から立ち上がる。


「まあゆっくりとしていってくれ。時間は充分にある。私は今別段急ぎの物は無いのでな。最近になってやっと落ち着いてきたと言った所だ。」


 王国に出した研究論文、報告書の事を言っているんだろうきっと。ワークマンはどうやらその事で直近まで忙しかったようだ。

 それから俺は一分程どうやって説明をしようかと悩んだが、結局最初から話した方が早いと思って帝国の側にダンジョンが発生してソレの調査に俺が指名されたと言う所から話し始めた。


 何やカヤあって、そうしてここに来た理由までを話し終えた所で俺はワークマンの反応を確認してみる。

 するとワークマンはもの凄く苦いモノでも口に含んだかの様な厳しい表情になっていた。


「それで私の所にこの話を持って来たと・・・そうか、そうか。非常に嬉しいし、非常に興味をそそられるのだが。帝国へと私が向かうのは問題があるな。」


 問題があると言うフレーズに俺はピンと来た。


「外交問題?あれ?だって冒険者ギルドは別にそう言った垣根とかは無いだろ?そこら辺の所を利用して調査名目で入り込めたりとかはしないのか?」


「簡単に言ってくれる。外交問題と直ぐに理解しているのに。冒険者ギルドを利用する手続きはできない事も無いがね。時間も、各所の許可も必要になる。王国と帝国との外交処理とそこら辺を比べると「どっちもどっち」と言った所だ。」


 ワークマンは一つ溜息を吐いた。現実を見てどうやら溜息を思わずついてしまう程にその許可を得るのに年月が必要であるらしい。

 俺にはそこら辺の事は詳しく知らないので「まどろっこしいな」としか思えなかった。

 ここで俺には「証拠を残さない」という文字通りに「魔法の力」があるのだ。なので全部そこら辺をブッ飛ばしてしまえる。

 だけどもコレは犯罪ギリギリと言う事になるんだろう。積極的にそこまでの事をしたくないし、ソレにワークマンを巻き込むと言った事もしたくはない。


「しょうがない。もうこうなったら国の責任者同士で話し合いをさせちゃうか。」


「何をしようとしているのか聞きたくは無いが、一応は聞いておこうか・・・」


 ワークマンがジト目で俺を睨む。俺がやろうとしている事をきっと悟っているコレは。聞かれてしまったので俺もコレに答えるが。


「いや、皇帝と国王を直接話し合いさせて、そこでその場で書類を直に作って調印させちゃおうこの件の調査の仕事の。」


「馬鹿を言わないでくれ。とは言っても君の力があればソレが実現可能であるんだろうが。止めてくれ。本当に、止めてくれ。」


 ワークマンに真剣にそう止められてしまったのでこの方法は一時的に凍結だ。しょうがない、喉の奥から絞り出す様に「止めてくれ」と言われてしまえば。


「じゃあこの件は無理って事にするのか?ワークマンはそれで良いか?」


「いや、良くは無いな。これほどの貴重な例はきっと今後一生無い。逃したくは無い。そうだな。私一人だけを単独で先行派遣と言った形を取って帝国への入国を出来るようにしようか。研究者と言うのは機密事項も多く抱えているのでな。手続きもその処理も長く掛かるのが当たり前だ。しかしこの方法なら帝国に入るだけなら大分短縮が可能だ。明日にでも手続きの申し込みをしてこよう。研究者の交流と言った形にしてもおそらくは大分手続き処理も簡略化が可能なはずだ。そこら辺の所も絡めれば二ヵ月程で許可が出る計算が・・・」


「いや、どうせなら俺が王子様に書類処理を今日中にして貰える様に頼んで来た方が早い。早速これから行って来よう。」


 俺のこの返事にワークマンの顔から表情が落っこちた。すとん、と真顔になる。その真顔で言われた。言われてしまった。


「傍若無人だな。正しくそう言うしか無い。」


「・・・一応俺はソレが相手にできるだけの恩を売ってるしな。」


 ここでワークマンが口にした言葉で俺は少しだけ冷静になった。真顔で言われた「傍若無人」は結構、俺の心にグサッと深く刺さった。

 ソレを何とか言い返してみたのだが、確かに無理を言って受け入れて貰えるだけの恩を俺は王子様に、王国に売っている。

 いや、そうだとしても人としてこれほどまでに無遠慮に恩を盾にお願いを厚かましい程に何度もするのは如何なモノか?

 そんな事を考えはするが、それでも俺はソレを断行するのだけども。


「じゃあちょっと城に行ってくる。あ、まだもしかして北の町から戻って来てないとかあるか?まあそうだとしても行き来は直ぐに出来るしな。」


 俺には距離など関係無い。ワープゲートが使えるから。いや、本当にコレが無かったら俺はこの世界で何もできなかった事だろう。あれもこれもそれも。

 ソレをこの場で少しだけ心の中に浮かべて直ぐにワープゲートを出す。そして「行ってくる」とワークマンに告げて俺はこの場を後にした。


 そうして城の王子様の私室である。そこにはうーん、と背伸びをして一息つこうとしていた王子様がいた。

 俺は一先ず王子様が息を吐き切るのを待つ。そうしてから一声掛けた。


「すまん、ちょっと良いか?」


「・・・良くは、無いかな?いつも何時も突然に現れるよね。いや、まあ、うん。この程度の事でゴチャゴチャ言わないでおこう。さて、それで、要件を聞こう。」


 王子様にもの凄く微妙な顔をされた。俺がいつも突然に現れてお願いをして来るからきっとそこに一言物申したいんだろう。

 でも俺へと返したくてもいっぺんに返せない恩があるので、こうしてその文句を黙って吞み込んでくれるのである。


「ワークマンに帝国に行く許可を出してくれないか?ああ、それと帝国にダンジョンが出来たんだけどさ、その調査にワークマンが参加できる様にしたいから皇帝にそこ等辺の許しが出るように手紙書いてくれない?」


「・・・待って欲しい。今少し待って欲しい。理解する時間をくれ。」


 王子様はそう言って黙ってしまった。俺が何か追加で説明をしようと口を開きかけると掌をこちらにシュパッと素早く向けて無言で「黙っていてくれ」とジャスチャーで止められる。


 そうして二分。結構長い。そこでやっと王子様は思考から脱出して俺に返事をくれる。


「ワークマンが帝国に赴くのは、できる。・・・その様子だと今日中に許可が欲しいと言った所なんだろう?まあ、それは、無理じゃない。で、帝国にできたダンジョンの調査に彼を参加させるのは、どう考えてもできないだろう。王国はそのダンジョンとは関係が無い。帝国の問題だ全てが。王国から調査員を出す理由が無い。」


「あ、ゴメン。そこら辺には追加があって。俺が皇帝から直接そのダンジョンの調査、全権委任されてるんだ。だからワークマンを俺が必要だと望めばそこら辺の壁は大分無くなるだろ?」


「・・・何がどうなっているのか最初から話して貰った方が早かったかもね。そう言うのは最初に言っておくものだよ?」


 もの凄く爽やかな「怖い」笑顔でそう言われて俺は「ゴメン」と謝るしかない。

 こうして俺はワークマンにした話をもう一度王子様に説明として最初からした。

 ソレが終われば終始苦い表情で俺の話を聞いていた王子様はこう答える。


「一体全体どうしたらそんな事になるのかね?私にはいつもエンドウ殿の話が作り話にしか聞こえないよ。でも、それが真実だと言う事はちゃんと分かるんだから、堪ったものじゃ無いんだけど。エンドウ殿が嘘を吐く必要が無いんだよね何処にも。分かった。父上に手紙を書いて貰う。しかしコレは正式なモノでは無く密書に近い扱いになると思うよ?ワークマンが調査に参加するのは「灰色」になってしまうけど、良いかい?コレが限界だね。その「国王の手紙」を受け取って皇帝がどの様に対応するか迄は責任を取れないけど、ソレで良いんだろう?何せ君は皇帝から直接調査の依頼を受けているし、全権委任までされてる。問題は起きない、だろうね。」


「有難う。それで良いよ。で、手紙はいつ受け取れる?ソレを皇帝に渡せばワークマンをダンジョンに連れて行って良いって事だよな?一応はさ、こう言うのはちゃんとやっておいた方が後腐れ無いかな?って思ってこうして来たんだけど。思い付きで悪かったね。で、これ、負担が大きかった?無理だと思ったら俺の要求を何でも呑み込もうとしないで突っぱねてもいいからな?」


「・・・そこまでの気遣いを思いつくのに何故こうしていつもいつも突然に問題を持ち込んで来るんだろうか?今回の件は少々無理を押す形になるけど、別にエンドウ殿の求めを突っぱねる程でも無いさ。明日また同じ時間位に来てくれ。手続きの処理も書簡の方もそれまでには準備しておく。」


 俺はこうして王子様に話を付けて再びワークマンの所に戻る。そしてこの件の問題は解決を見たので明日にでも帝国へと行くから何かしら持って行く物があれば準備をしておいてくれと言っておく。


「じゃあまた明日来るから。大体同じ時間位に来る予定。それじゃ。」


「エンドウ殿、今日はこれからどちらに行くのかね?」


 俺が研究所から出て行こうとしたらワークマンにそう尋ねられた。


「ん?あー、そうだなあ。ダンジョンに行って今日あった事を説明して来る。」


「そう言えばそのダンジョン主は「正気」なのだったな。コレで研究は大幅に進む事だろう。」


 ダンジョン主であるレストがまともである事もワークマンには隠さずに話している。

 貴重なサンプル、その話がその本人から直接聞ける事にワークマンはウキウキ、ワクワクしている。

 荷物の整理は忘れない様にしておいてくれとワークマンにもう一度だけ念を入れてから俺はワープゲートで帝国のダンジョンへと移動した。


 当然繋げてあるのはダンジョン主の部屋なのだが、そこはまるで謁見の間みたいである。

 椅子に座って静かに目を瞑っているレストは俺に気付いて大きく驚きと共に溜息を吐いた。


「君は何処からどの様にここに入って来たんだ?ここのダンジョンに取り込まれて核となっているから直ぐに君が来た事が感じられて分かったけど。直前まで気付かなかった。それはどうやって創り出しているんだ?」


 驚いている部分はワープゲートの事である様だ。レストはここのヌシでもある為、ダンジョン内の事は手に取る様に分かるらしい。

 そしてそんな力を持っていてもどうやら俺のワープゲートの事は理解しかねるらしい。


「レストはずっとそうやって目を瞑り続けて何百年も眠ってたのか?おっと、その話は此処に明日にでも俺が連れて来る人物に話してやってくれ。」


「何をどうしたらその様な話になった?まあ、良いさ。君に全てを任せたと言った私が今更何を言ってもな。」


「おいおい、別に良いんだぞ?我儘言っても。別に俺はレストを消滅させようって訳じゃないからな。」


「それならちゃんと話をしてくれ。いきなりここに君が人を連れて来ると言うんだから驚きもするだろうに。」


 こうして俺はあっちこっちに奔走してレストの件を、と言うか、ダンジョンの件を解決?する為の人員を連れて来る事を説明した。

 とは言え、連れて来る予定は今の所はワークマンだけだが。

 彼の視点からレストの今の状況を観察して貰って、そこからこのままダンジョンを消さずとも良くなるアイデアを出して貰おうと言う形だ。

 研究者の視点から俺やレストが考えもつかない案が出て来る事を期待するのである。


「そう言う事か。で、その研究者は信用できるのか?私は実験動物扱いされたりするのか?」


「いや、そこまでの事はしないと思うよ。非常に細かい部分まで追及されてソレを「言語化してくれ」なんて言われるかもしれないなんてのは、あるかもしれないけど。」


 感覚を言葉で表すと言うのは非常に難しい。言い表す事ができる的確な意味の言葉があればソレを用いれば良いだろうが。

 そうじゃなくてもっとモヤモヤした言語化するのに難儀する感覚と言うのがあったりする時が問題になるのだ。

 コレを時に言葉で相手に伝えようとして、それが余計にこじれたり、勘違いされたり、間違った解釈をされたりと、そこら辺の事は大いに起こる事であろう。

 ワークマンは冷静な方だと思うのだが、熱が入り過ぎた時はどの様になってしまうかは俺は知らない。なのでそこら辺は祈るばかりである。どうか穏便に済みますように、と。


「そのワークマンが駄目、って訳じゃ無いけど。それでも良い案が出てこないなんてなったら最終手段を用意してあるから、まあ安心してくれ・・・いや、俺が安心でき無いな、あいつは。」


 この言回しにレストは眉を顰めて「何をしようと言うのだ?」と睨んで来る。

 俺はコレにダンジョンの事に詳しい奴がいる事を説明する。


「あー、そいつはドラゴンって言ってな?俺の、友人、何だが。アイツは自由奔放だからどうなるか分からんって言うのがホントの所でな。先ずは研究者に来て貰って、色々とダンジョンって奴の事を知ってからって事で。確実に何かしらの研究結果は出してくれると思うんだよ、ワークマンは。一応は信頼してるんだ。」


「分かった。受け入れよう。・・・明日に来ると言っていたな?今回現れた様に、同じ方法でここに来ると言う事か?」


 俺のワープゲートはどうやら皆に評判が宜しくないようだ。こうもレストまで苦い顔でそう言ってくると流石に分かる。

 王子様からも散々言われている。突然現れないでくれと。


「あー、一応はちゃんと入り口からにするよ。ワークマンもこのダンジョンの全体像は見ておきたいと言うだろうしな。」


 これにレストは納得してくれる。事情も説明したし、取り敢えずの要件は済んだのでダンジョンから出ようと思ったのだが、ふとここで思い付く。


「なぁ?ダンジョンに誰も入って来ない様に入り口を壁で囲っておいた方が良いか?侵入禁止にしてあるのかどうかのお触れが帝国で出してるのか、どうなのか、確かめて無いんだわ。帝国の冒険者がここのダンジョンに興味を持ってるのかどうかも知らんのよね。万が一って事もあるし、やっておく?」


 ここの調査を帝国がしているからこそ、俺がここに居るのだが。

 冒険者ギルドが独自に調査隊などを組んでここに派遣していた場合はどうなるのだろうか?

 そこら辺の話合いの細かい部分は聞いていない。ざっくりと皇帝から冒険者ギルドへ頼んでいないと言った事は聞いていたが。


「やっておいて貰った方が良いかもしれん。コレは言い忘れていたと言うか、君が初めてここに入って来た少し前に気付いた事なのだが、ここは、拡張し始めている。私の意志に反して。」


「おい、どう言う事だ?拡張?何で?・・・あ、外に繋がったから?ダンジョンって言う隔離された空間が外に繋がって勝手に広がり始めたか?」


 ダンジョンが外界にこうして出てこないでいた間はきっとこの空間は圧縮されていたんだろう。

 魔力が少量ずつ溜まり始めてソレが溢れ出てダンジョンの入り口が外の世界に出現してしまったと言う事らしいが。

 じゃあ出口を見つけた圧縮されていたモノがそれにどの様な動きをするかを考える。


「確かダンジョンが外の世界と重なり合わさるんだったか?ダンジョンと言う「小さな世界」が融合してこの世に現出するって事だったっけ?」


 俺はコレに「おや?」と思う。それはこの世界にのっぺらぼうの「メイド」と「執事」がそのまま外に?

 あの中身が空っぽの鎧騎士がうろつき回る世界になるのか?と一瞬考えてしまう。


「今の所は拡張が止まる気配は無いが、しかしメイドたちも執事も騎士たちも私の意志で制御は出来ているので最悪のカタチにはならないと思うのだが。この事がどの様な結果に繋がってしまうのかは予想ができない。どうすれば良いと思う?」


「・・・レスト、我慢できるか?ちょっとこのダンジョンを「固め」させて貰う。」


 俺はこれ以上事態が進行しない様にと自分の魔力を全開でダンジョンに流し込む。漏れが無いようにと隅々まで完全に。

 そして魔力固めと同じ要領でソレをガッチガチにした。


「一応はこれで応急処置はしておいたけど。どうだレスト?」


「・・・君は化物かい?さっきまでは私は自由にダンジョンの中を知覚出来ていたのに。今は何も感じなくなってしまった。こんな事はどれだけの魔力を持てば出来ると言うんだい?いや、人の力で出来る限界など、とうに超えているだろうこれは。君は一体、本当にどうしたらこれ程の事ができるように?」


「いや、分からねーよ俺も自分で自分がな。出来るから、できるんだよ。あー、化物呼ばわりをされるとかなりのショックだよ。」


 俺の言葉のショックの部分の意味が分からないらしいレストは少しだけ首を傾げるがそれも少しの間だけ。


「しかしずっとコレをし続けている訳にはいかないだろう?早急に解決の糸口でも見つけられないと・・・」


「いや、暫くは大丈夫だけど?あ?どうなってるんだ?俺、魔力が減ってる感覚無いんだが?」


 これだけの大規模な魔力行使をしておいて俺は自分の異変に気付く。

 自分の中に意識を集中して見たが、これほどに大量に魔力を流して強めに固めているのにどうにも自分の中の魔力の量が減ったと言った感覚がやって来ない。


「このダンジョンの事と同時に俺の事も、もうちょっと詳しく調べないと駄目じゃねコレ?」


 俺は自分の身体の事にとうとう危機意識を持った。コレは流石におかしいと感じる。

 以前に「多めに使った」と言った時には減った感覚が自分の中にあった。何かがごっそりと消費されたと言うか、抜けて行ったと言うか。

 何と表現したら良いかは分からないが、それでもそう言った曖昧でも確実に感じた感覚が、今は無い。

 今もこのダンジョンの拡張を止める為に魔力を流し続けているのだが、それでも減って言っている感覚がやって来ない。


「いよいよドラゴンを呼ぶ時だなコレは。アイツは何かしら俺に起きていた事が分かっていたらしいしな。・・・はぁ、言えよ、ちゃんとその時に。説明してくれよなぁ、あいつめ。」


 俺はドラゴンをここに呼ぶ方法を悩む。だがそんな俺を見て余計に深刻さをそこにレストは読み取ってしまったらしく心配の声を掛けてくれた。


「大丈夫か?何処か体調が悪くなったなどは無いか?幾ら何でも私の様な既にこの世に居ないと言っても良いだろう者に君の命を掛けると言った事はしないで欲しい。私は暗殺をされていたんだ、このダンジョンの奇跡が無ければね。だから、そんな死んだ者の為に何ら関係の無い君は無理をしないでくれ。」


「体調かぁ・・・なんかさ、別に、何ら変わって無いんだよなぁ。寧ろ体力は無尽蔵だし、絶好調?精神的疲労とかは感じる時はあるけどな。・・・おい、そんな微妙な顔するとかどうなんだ?」


 心配して良いのか、安心して良いのか、どちら付かずな顔になってしまうレスト。まあ、コレはしょうがない。

 俺も自分で自分の変化を把握できていないのだから、レストが俺をドウコウする事などできやしないだろう。

 もし出来るとすればドラゴンだ。アイツなら俺に起きている変化に対して何らかの答えを持っているはずである。


 何にしても順序良く物事を一つずつ進めて行けばいい。余り同時にやり過ぎると北の町の時みたいにアレモコレモソレモと気の休まる時間が無くなる。


「じゃあレスト、俺は帰って寝るわ。別に一刻を争うとか言った状況じゃねーしな。一つずつ行こう。先ずは明日ここにワークマンを連れて来る。調査が終われば皇帝に報告をして、ダンジョンの消滅をさせない様にする為には、ってのを終わらせて、それからだな。俺の事は。」


「余りにも君があっけらかんとし過ぎていて何だか力が抜けたよ。分かった。私はそのワークマンと言う研究者に何もかも包み隠さず全てを話そう。」


 こうして俺は宿に戻る。このダンジョンに繋げている魔力はそのまま解かないで。

 しかしコレでダンジョンへと魔力を流し続けているのにワープゲートも同時に出した事で「異常」をよりハッキリと認識する。

 ワープゲートは結構魔力を消費していたはずだ。けれども今はソレが何も感じない。

 マルチタスクと言うのだったかこう言った事は。それでも魔力消費をハッキリと感じていた時にはこの様な同時行使をした時、何も感じないなんて事は無かった。


 魔力で脳の処理を強化できる様になってこう言った事は簡単に出来てしまう様になってはいたが、消費した分の魔力はその場で直ぐに回復していた。


 考えてみれば使った魔力はその場その場で即回復していた様な気がする。俺が気にしていなかっただけで。


 さてダンジョンへの魔力とワープゲート同時使用は多少は労力を使っている。しかしそれは小さく溜息を吐く、そんな気にならないと言った程度である。それがそもそも化物呼ばわりされる要因の一つでもあるだろう。

 レストにハッキリと「化物か」と言われてしまった。後々に俺は「賢者」などと呼ばれずに「バケモノ」呼ばわりされる日が来るのかもしれない。


 そんな事を考えながら宿の部屋に直接ワープゲートを繋げて戻って来る。

 そこから俺はベッドに飛び込んで直ぐに目を瞑る。


「あー、どう言う事だよ。俺の行く先々でこんな事態が次々に・・・コレが主人公補正?とか呼ぶんだっけか?」


 考えてみれば普通なら遭遇しない事にかなりの頻度で遭遇し、そしてソレを俺は半ば力尽くで解決している。

 そう、普通では無い。俺は普通に過ごそうとして、そしてトラブルを見つけ、見過ごす事もできずに首を突っ込んでいるのだ。呆れたモノである。


「その中には俺が好きで首を突っ込んだ事もあったか?・・・取り敢えず寝よう。」


 俺はそう言ったあれこれを思い出して悶える前に何も考えずに眠ってしまう方を選んだ。


 こうして翌日、俺は少々驚きの展開に見舞われた。

 朝一で起きた時に俺は宿のスタッフから「お客様です。担当者様がいらっしゃっております」と言われたのだ。

 寝起きで早速これだったので俺はこの意味を呑み込むのに8秒近く掛かった。

 コレにロビーで会う事を告げてベッドから起きる俺はテーブルに置いてある水差しからコップに一杯水を取り、グイっと煽る様に飲み干した。


「何だ?確か闘技場では俺の試合は組まれないはずだよな?その連絡は行ってるはず。まだダンジョン調査は終わって無いし、調査を止めろと言われてもいない。何の用なんだ?」


 俺の担当者はメールンだ。しかしロビーに行くとそこにはメールンは居ない。

 代わりに別の女性がそこに立っていた。メールンと着ている服が同じで、どうにも闘技場女性スタッフの正装と言う感じなのだが。


「エンドウ様、申し訳ありませんが闘技場の方にお越しいただいても宜しいでしょうか?」


「・・・どんな用なの?一応帝国から俺の試合を止める様に求められているんだよな?」


「私はエンドウ様を呼んで来る様にと言われた只の伝言役で御座いまして。申し訳ありません。お呼びした後の御用件は支配人が直接お話をすると言う事でございます。」


 もうこれ以上のやり取りは無意味だろう。こう言われてはこれ以上このスタッフに何を言っても無駄だ。

 俺は朝食を摂っていない事を理由にして引き延ばしを画策。腹が満ちて気が向いたら行くとスタッフに言った。

 この事を支配人に伝える様にその女性スタッフに告げて俺は宿を出た。


 食事は宿では無く大通りの中に有る食堂の中からランダムで選ぶ。そしてその中へと入っておすすめを頼んでソレを食べ始める。

 今回は俺へと絡んで来る者が居ない。コレにホッとした。どうやら一部の地域で俺の事が激しく噂になっているようで、運良くこの食堂では俺に興味の目を向けてくる者が居なかった。

 なので静かに考え事をしながら朝食を摂る事ができた。


(何か臭いんだよなあ。俺の担当が変わった?メールンからそんな事は一言も連絡貰って無いしな。きっと勝手にその支配人とやらが俺を呼ぶ為にやったんだろう。俺は以前に担当を変えるなと言っておいたんだがなあ)


 ここでふと思う。もし俺が騙されているとしたら?である。

 あの伝言をしに来た女性スタッフがもしかしたら偽物で、支配人とは全く関係無い手の者であったなら?

 もしくは支配人の名を使って闘技場の本物の女性スタッフを使いに出すなどは?

 俺を呼び出す事だけを目的に支配人が話があると言って闘技場に誘い出すなんて事は簡単にやって来そうなものだ、俺を暗殺したい奴らからすれば。


「・・・どうするかな、コレ?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ