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いつも何でこうなるの?

 丁度良かったので俺はワープゲートを作って城に繋げる。俺と諜報員以外はコレを目撃する者が居ないので気絶した奴らをこの中に放り投げる。

 起きるまでの間を待つのは時間の無駄だし、連れて行くのも数が多くて面倒だ。

 だから一気に解決できる方法を選んだ。コレに諜報員は感情の死んだ目をして見つめて来ていたが、気にしない。


「さて、この中に入ってくれ。ずっとコレを保ち続けるのは魔力がかなり削られてきついんだ。」


 俺のこの言葉にどうにも恐怖を感じているのか、恐る恐るワープゲートの中に入る諜報員。

 何ら説明もしていないのでコレが何処に繋がっているかも把握していないのだから怖がるのも無理は無い。

 早めに俺は皇帝にダンジョンの事を報告したかったのでさっさと移動して貰う為には言葉で一々説明と説得をするよりも脅した方が早い。


 とまあ移動してしまえば後はスムーズに事は運んだ。城に移動したのだと呑み込んだ諜報員はその後は人を呼んで気絶した貴族たちを運ばせる指示を出していたから。


「じゃあ後は任せた。俺皇帝に話をしてくるから。」


 俺は謁見の間に向かう。そこに皇帝が偶々居れば良いが、居なかったら魔力ソナーで探せば一瞬だ。

 今の俺は皇帝からの依頼を受けていると言う形なので一応報告を依頼人へと直接するのが筋だろう。

 と思って謁見の間に入ろうとしたら門の前の護衛騎士に止められた。どうやら今中で会議中らしい。


「所で何の会議?国の経営に関するモノなら待つんだけど。ダンジョンの事なら報告があるから入らせて貰いたいんだが?」


 護衛の騎士がこの俺の質問に何も答えない。只槍を俺に向けてジッと構えるだけ。


「何故質問に答えない?中に皇帝は居るのか?いないのかくらいは答えてくれ。俺の依頼主は皇帝だ。直接報告する。」


 コレにも黙ったままで何も答えようとしない。埒が明かないので俺は無理矢理押し通る気になった。

 騎士のこの黙った態度は失礼が過ぎる。俺は仕事でここに来ているのだ。この騎士たちも仕事だと言うのは分かるが、この様な簡単な質問にも答えようとしないのは些か無理があろう。

 この程度の質問にも答えてはならない、なんて事は無いはずだ。一言質問の答えを口にするだけで問題は無いのに、無理に黙り続けるのはおかしい。

 その様な道理の通らない話を騎士とこのまま続けているのは不毛だ。だから魔力固めで動けない様にして俺は謁見の間の扉を開く。

 しかしそこには驚きの光景があった。よく顔は覚えてはいなかったが、俺を、皇帝をあざ笑っていた文官たちがニヤニヤした顔で皇帝を囲んでいたのだ。

 その手には剣を手にしていて皇帝をどうやら脅している様子だ。皇帝は腕に怪我をさせられている模様。


「何だコリャ?」


 もうそう思った時には俺は魔力固めでそいつらを全員拘束していた。と言うか、この謁見の間に居た全員を拘束している。

 柱やカーテンの影に隠れていた者たちも、恐らくは皇帝を守ろうとしていたその他の文官たちも。

 皇帝すらも纏めて全部固めておいた。だって、もの凄く面倒だったからだ。


「おいおい、そう言うのは俺がダンジョンの件の問題を全て片付けてから俺の知らない所でやってくれよ。もう、なんなの?ヤヤコシイ事になるのは御免だ、本当に。」


 大きな溜息が出そうになったのをグッと堪えて先ずは皇帝の傷を治す。それは一瞬だ。

 そして次に俺は全員をこの場に整列させる。敵味方に。その方が何かと理解するのに楽そうだったから。

 俺の頭の中の脳内マップには久しぶりに赤い色が。そう、敵意や悪意などを色で判断できる便利機能を久しぶりに発動している。

 コレは普段そこまで頻繁に使ったりしていないのだが、今の場面は使った方が断然やり易いので迷わず使用する。


「で、中立がこの場に居ないのは話が分かり易くできそうだから良いんだけど。ああ、クソ、説明をして貰うのが先かね?それとも俺の方の報告をした方が良い?」


 俺は皇帝を自由にする。すると皇帝はあっけらかんとした感じで話し始めた。


「なんて時に君は駆けつけてくれたんだ。心の底よりの感謝をしたく思う。とは言え、そうだな。先にこの状況を説明した方が良いと思うんだ。聞いてくれるかい?」


「どうせラーキルの見込みが甘すぎたって所なんだろうけど、聞くよ。」


「ああ、図星だ。本当に情けないよ自分が。ここまでしつこく、そしてくだらない連中だとは思いもしなかったんだ。」


 話は次の通り。


 皇帝が反抗してくる貴族たちを処分した。その後は無理に動こうとする者は居ないだろうと考えていた。

 しかし表面上は動いていなくても裏では頻繁に反意を持つ貴族は手を取り合っていた。皇帝の監視の目を掻い潜れるだけの手練れの密偵がその貴族たちの手の内に居た事がそこに拍車をかけたと。

 そいつらはどうやら皇帝の弟を担ぎ上げており、皇帝はソレを油断から気付いていない。

 ずっとコレをひた隠し続けた貴族たちはここで一気に皇帝を無き者にしようと動いた、と言った単純な話だった。


「結構派手な処分をしたから保身の為に大人しくするだろうと思ってたんだけど。その間に徐々に間引きをして行く計画でね。でも、これほどに一気に仕返しをしてこようとするなんて想定外だったんだ。しかも弟がそれに加担しているとは、ちょっとね、衝撃で。」


「皇帝の地位に興味が無かったのか?その弟は?」


「そうなんだよ。だけどソレがこうして担ぎ上げられてるってどうなの?って。で、少しだけ話を聞けたけど、どうにも、なぁ?女を使ったらしいんだ。まあ、お調子者の気は有ったから、上手く乗せられたんだろうね。結構な年月を遊興に沈められていたみたいで人がすっかりと変わってしまっていた。」


 今この場にどうやらその弟は来ていないらしい。でもこう言った時にその当人が丁度現れる何て事は時にある訳で。


「んん?何故未だに兄上が死んでおらん?まあ生け捕りにして利用する計画もあった訳だし、途中で変更したか?まあ良い。んん?見慣れぬ服装をした者が居るな?おい、こやつは誰ぞ?」


 そう言ってこの場に入って来たのは小太りの禿げたオッサンと言う表現が一番しっくりくるソイツと。

 その両側に出っ歯の文官とゴリラみたいな顔の文官だ。俺はここで思った。


(どうして俺が出会う悪人はたいていがこんな奴ばかりなんだ?)


 どうにもこの小太りのが弟らしい。そしてそれに付き従う二名はどうにもその太鼓持ちの様だ。

 俺はコレに呆れてしまって口を閉じてしまった。本当ならここで皇帝に対しこの後どうするのかを一言くらいは聞いても良かったんだが。

 もうどうでも良くなっていた。このままこいつらに思い思いにしゃべらせていてもうるさいだけだろうなと思ってこの時即座に魔力固めで動けなくさせてしまっていた。


「で、どうする?こいつらも拘束したけど。」


「・・・どう見ても君が何かしているのは分かるんだが、どうやったらこの様に誰も身動きできなくさせられるのかね?力の桁が違うね、本当に。と言うか、勝手に動かして整列までさせたよね?どうやってるの?本当に聞きたいんだけど?皇帝直下の魔術部隊に教えてくれないかな?」


 小太り禿の弟が入って来た時の言葉は「何故皇帝が死んでいないのか?」と言う疑問だった。確定だ。

 コイツは完全に自らの兄を殺そうといていたのだ。どうやら殺さないパターンもあったようだが、しかし確実に今回は殺害計画だった事をこの場で自白したようなものだ。


「で、どうする?こいつらの処分は?今は兵を呼んでこいつら連行して牢に入れておくか?」


「・・・難しい判断だね。この者たちを消した所で後釜の用意ができていないんだ。それを徐々に整えてから入れ替えをするつもりだったんだけど。これほどに早く私を手に掛けようとしてくるとは計算外だよ、全く。」


 皇帝は腹黒い。いあ、こうならなければ生きて行けなかった立場なのかもしれない。

 それにしても随分と皇帝は敵が多い。この立場になるまでにそれだけ嫌われる様な事をしてきたと言う事なのだろうか?


「自分たちの既得権益を増やそうとして皇帝を殺そうと画策するなんて、良くもそんな大それた事を考えられるモノだ。そんな者たちが増えれば国が腐るのは目に見えているだろうに。ああ、そうか。もう既にお前たちは腐っているからその事に自分自身で気付け無いんだな。手遅れと言う事か。」


 俺が魔力固めで拘束したままなので喋る事もできない犯罪者たち。こいつらは重罪も重罪だろう。

 そんな相手に皇帝は言いたい方だい。まあでも、こいつらがもう腐ってると言う点においては同意だ。

 政治と言う面でこの国は「酒・博打・女」が中心で裏の稼業なんてモノも多そうだが、それでも安定した国なのかなと言った印象があった。

 けれどもそうした中で城の中で仕事をしてる者が腐ってしまったらこの国はもっと別の様相を見せて行く事になっていただろう。

 恐らくは侵攻、お隣の王国へ。そんな事にも発展していたかもしれない。

 王国はお隣の国である帝国の動きをそこまで危険視していない様子だった。それはきっとこの帝国内がこの様に安定していて外に打って出ると言った戦争を仕掛ける国では無いと判断していたからだったんだろう。


 ここでこの皇帝すらも殺して自分たちの富を増やそうと画策する者たちがこの国の中だけで満足するとは思えない。

 そうなればこの国を飛び出して外の他の土地から富を奪い取ろうと計画してもおかしくは無いだろう。


「お前たちが大人しくしてくれていれば、余生は穏やかに暮らせただろうにな。私も容赦がない訳では無いのだよ?最初は余りにも目に余る過激な者たちを派手に処分はしたがね。しかし君たちは、まだ優秀な方だった。だから少しづつ、そして確実に、穏便に済ませつつ入れ替えをと考えていたのに。非常に、非常に、残念だ。」


 皇帝はその言葉を口にして玉座の横に立てかけてあった剣を取る。どうやらこの場で自らの手で処分しようと言う事である様だ。


 そのまま剣を大きく振りかぶって身動きできない大罪人に切りかかるのだが。


 カキン、とその剣は弾かれる。それは、まあ、しょうがない。俺が魔力固めをしてあるし、その魔力が剣を弾いてしまったから。


「・・・ねえエンドウ?コレは一体どう言う事だい?」


 少しだけ睨みを聞かせてそんな言葉を俺に飛ばしてくる皇帝。


「いや、俺がこいつらを動けない様にしてある魔力に剣を弾かれてるだけだが?」


 正直に今さっきの現象を説明する。これに皇帝はどうやら冷静になれたようだ。


「はぁー。良かったよ。今切り殺していたら余計に面倒が増える所だった。少し頭に血が上っていたようだ。ちょっと私は兵を呼んでくるから、こいつらをこのままにしておいてくれるかい?」


「いや、皇帝自ら使いっ走りするってどうなの?俺の方の報告はもっと後にしないと駄目か?」


「ああ、済まないね。子飼いの者たちを呼びだすのには私自らが行った方が手間が無くてね。直ぐに戻って来るから。待っていてくれ。この通りだ。命の恩人に対してこの様な事まで頼むのは心苦しいがね。」


「いや、俺とラーキルは友人なんだろ?友人を助けるのは当たり前って事で良いさ。」


 こうして玉座の間を出て行く皇帝。俺はここで思う。そんな子飼いを一人でも自分の護衛に連れていれば良いだろうに、と。

 そうしたらこんな場所で命を大胆にも狙われると言った事も起きなかったように思う。けれどもそこら辺も俺には想像できない理由が潜んでいるかもしれないので文句は口に出さないが。


 そうして待っているとやって来たのが治安部隊。そのリーダーが頭を俺へと下げて来た。


「この度は皇帝陛下のお命を救って頂き・・・」


 俺はその言葉を途中で止めた。俺への挨拶はいいからここに呼ばれた仕事をさっさと熟しくれないかと。

 コレに隊長さんは大きく一つ頷いて部下たちに拘束、連行をするように指示し始める。俺が敵味方を分けて整列させていたので仕事も早い。

 と、ここでどうにも皇帝直下と言っていた魔術師部たちであろう十名が俺に寄って来た。

 その先頭にはダシラスである。あのクロの一件の時の。


「賢者様、この度は皇帝陛下より、貴方に師事をして自らを高めよとの命を受けました。どうか我々にその御業の一端でもご教授願えませんでしょうか?」


 この十名が深く深く腰を折って俺に頭を下げて来た。しかもここでも賢者呼ばわりである。頭が痛い。

 相手の方が見た目が年上だ。そんな相手に頭を下げられ願われるとどうにもやりにくさを感じる。


「先ず、俺を賢者呼ばわりは止してくれ。そうじゃなきゃ何も教えない。」


 ここでやはり引き下がらない。「では、何とお呼びしたら」と訊ねられてしまう。まあ分かっていた、分かっていたんだが。

 コレに「エンドウで良い」と答えれば「エンドウ様とお呼びさせて頂きます」と返って来る。

 またこれに「様は止めてくれ」と言えば「ならばエンドウ殿と」と、これまたやはり俺の求める呼び捨てにはしてくれない。

 コレに俺は大きく溜息を吐く。しょうがないかと。自らの尊敬する相手を呼び捨てにすると言う行為は本人からしたら非常に呼びづらいだろう。

 尊敬と言う点において年齢と言うものは関係が無い。年下だろうが上だろうが、相手に対して自分が尊敬できると思う所があれば丁寧に接する気になる。

 そこで言葉遣いをラフで良いなんてその尊敬する相手に求められても「滅相も無い」となるのは当然だろう。


「で、皇帝は何処行った?・・・は?執務室に入って今回の使う書類の作成をし始めた?・・・どれだけ掛かるんだよ?ダンジョンの件の報告に来たのにそれアリか?俺の話は聞かないって、それどう言う事よ?」


 まあ帝国の安定が先、って事なんだろう。ダンジョンは俺に全権委任してるから全部片が付いたら話を聞けば良いとでも思っているのかもしれない。

 そうなるとこの魔術部隊をどうすれば良いか、な訳で。


「・・・ダンジョンに戻って一端レストに長引きそうって言ってこなきゃ駄目じゃん?あれ?タライ回し感がほんのりとするなぁ・・・」


 同じ所を行ったり来たり、グルグルと回る、そんなイメージが頭に沸く。でも俺にはワープゲートがある訳で。


「とは言え、こいつらに今ソレを見せちゃっても良いモノかね?」


 俺はどうにもこの十名の魔術師たちに俺の使っている魔法のやり方を教えなくちゃいけなくなった。

 そしてここでいきなり解散!と言った空気でも無い。彼らはじっと俺を見て視線を外さないからだ。


「移動しよう・・・何処か魔法を使っても大丈夫そうな場所は?ああ、鍛錬場?そこに行こうか先ずは。」


 こうして俺は先ずこの魔術師たちの件を片付けてしまう事にした。

 そうしてやって来た広場、さて何を教えれば良いかと悩む。俺の使っている「魔法」をどうやって彼らに伝えれば良いかである。


「なぁ?あんたらの魔力量を教えてくれないか?あ、駄目だ。ちょっと待って。ここに魔力量を量る道具を持ってこられないかな?あ、できる?それじゃあ持ってきて。」


 人を一人動け無くさせるにはどれくらいが必要かが俺には細かい所まで分かっていない。

 皇帝からは俺のやった事を教えてやってくれないかと言われているので魔力固めを教えれば良いだろうと考えたのだが。


「えーっと、この道具はどうやって使うの?あ、手をかざして魔力を送り込むの?あ、そう。じゃあ誰かこの中で一番、量が多い人誰かやって見せてくれない?」


 道具が来てソレの説明を一通り聞いた後に俺は誰かにやって見せてくれと頼む。そこでダシラスが前に出る。


「私がやって見せましょう。・・・ぬうううううん!」


 ダシラスは一度目を瞑って集中力を高めた様子で、その後に掛け声と共にどうやら道具に魔力を注入した。

 魔力量を量る道具は縦30cm、横20cm、高さ10cmの箱状だ。それが光る。

 ダシラスは測り終わったのか手を離した。するとその箱の表面にどうやら数字が浮かび上がって来る。


「私の数値は五千ですな。以前よりも二百上がっております。」


「これってファイアーボール何発分?威力は一発どれくらい出る?ちょっと試して見せてくれない?」


 俺はこの鍛錬場の中心に地面から2m程の円柱を作る。そこへとダシラスに一発ファイアーボールを撃って貰う事にする。

 しかしコレが何を確かめたいのかがダシラスもその他の魔術師たちも分かっていない。

 それでもダシラスは魔法を放ってくれた。疑いもせずに。


「・・・ファイアーボール!」


 俺が生み出した円柱へと手の平をかざしてダシラスは一拍置いてから魔法を放った。

 その火の玉は以前に師匠に見せて貰ったファイアーボールと大体同じ大きさだった。そしてその爆発はと言うと。


「少し小さい?まあ円柱が粉々になってるし、充分な威力だよなぁ。」


 俺がこの世界で師匠から見せて貰ったファイアーボールよりも爆発の威力は一段小さいと感じたが、それでも爆発音は凄いし、的にと思って出した円柱は耐久力は殆ど考えていなかったとしても粉々だし、充分な威力だろう。


「コレが約35,あるいは36でしょうか。それが限界だと思います。」


「なるほどなあ。人によって威力はマチマチなんだな。撃てる数がそれだけあれば王国の宮廷魔術師の一段上って事かな?あー、うん、この話は別にして。さて、今の威力を俺も再現してみないと駄目か。」


 自分の今の基準、それを量るためにも先程の威力を再現できる様になった方が教えやすいだろう。

 この威力のファイアーボール何発分の量の魔力があれば「魔力固め」一人分になるかを量る事が可能だ。


 こんな確認の仕方はまどろっこしい、コレに尽きる。しかし今まで自身の魔力量や、魔力固めに注ぎ込む魔力量を何時も気にせずに適当にやっていたツケが回ってきたと言う事だここは。


「今の使った魔力量は140前後って所かそうなると。じゃあちょっとその道具貸して?・・・掌をここに置けば良いの?じゃあ・・・なるべく俺が絞りに絞って計測した時の数値が幾つになるか確かめようか。」


 この道具を「魔力量計」と勝手に俺の中だけで呼ぶ事にする。そうして計ってみたら、まだまだ自分が修練不足だと言う事を実感させられてしまった。

 以前に「密度を抑えろ」と言われていたのを忘れていた。


「光が強過ぎだって!?眩しい!目がぁ~・・・目ぇぇぇがぁァぁ!」


 俺はこの時に量を出来得る限り自分の中では絞りに絞って、低く込めたつもりだった。

 だけどもその魔力量計は強い光を放ってこの場を、鍛錬場全域を真っ白に染め上げる程になる。その光をモロに目に入れてしまった俺は咄嗟に手を放して目を覆う。


 ソレが収まった時には魔力量計に数値が表記されていたようだ。しかも途中で手を離したのにも関わらず、その数値はまるで故障でもしたんだろうと言った数値を叩き出していたらしく。


「なぁ!?なんだ!?この数値は!?」

「今の光!信じられん!どれ程注ぎ込めばあれだけになるのだ!?」

「おい!本当にコレはどう言う事なんだ!?人が込められる量なのかコレは本当に?」

「この魔道具は理論値では十万までは量れるはずです!」

「あの一瞬でしかも絞れるだけ絞ったと言ったぞ?途中で手も離している!」

「それでこの数値が?そうなると密度の問題ですな?」

「いやいや!あの短い間に?幾ら何でもソレはおかしいのでは?いや、実際にこの数値を見ると、でも・・・」


 やいのやいのと魔術師たちは騒いでいるのだが、俺はまだ目が元に戻らない。魔力を目に流して治療しようと思っているのだが、上手くソレがいっていない。

 どうにも魔力で生まれた光での障害は中々治りが遅いらしい。それでも無理矢理目に魔力を集中していれば視界が徐々に元に戻って来る。

 真っ白で何も見えなかったのが次第にはっきりと周囲が見えてきてホッと俺は生きを吐き出した。安心で。元に戻らないのでは?などと一瞬だけ思ったから不安だったのだ。


「で、数値幾つ?・・・んん?二万?・・・あー、駄目だな。参考に全くならない。」


 俺は完全に視界が戻るまでまだもう少しだけ時間が掛かりそうだったので出た数値を聞いてみたのだが。

 今の俺が意識して何とか小さくして計測した魔力量が二万だと。そうなるとそんな数値は完全に使い道が無い。

 どれだけ俺は元々の魔力量を持っているんだよ、と。そこから推測してダシラスと同じ威力のファイアーボールを再現しようとしたら事故が起こるな、と理解できてしまった。

 いきなり実践で試してみようと思わなくて良かった。反射的に行動に移す様な性格の人間じゃなくて良かったと今自分で心底思う。

 マクリール師匠が言っていた事を思い出す。計測するな、と。確かいつだったか言われている俺は。

 その時には軽く「いつか量って見なきゃな」なんて呑気に思っていたが。

 ここで本気を出して計測していた場合、魔力量計をきっと壊していたに違いない。

 一歩間違えたらその未来だったと思う。壊さないで済んだ事に「良かった・・・」と心の中だけで俺は安堵した。

 そこで俺はここに何しに来たのかを思い出した。そして棒読みする。


「あーっと、拘束方法は至って簡単。相手に自身の魔力を纏わせて、その魔力を「硬質化」してしまえば良い訳で。込める量が足らないと相手に逆に魔力の放出で押し返されて動かれてしまいます。」


 俺はざっくりとしか魔力固めの事を説明しない。こんなの細かいニュアンスまで伝えられないだろうと思って諦めた感じで説明をした。


「えーっと、取り敢えずこの「二万」くらいの量の魔力を持っていれば簡単に人一人くらいは完全に拘束できると思います。えー、それで、デスネ。只今王国の方では魔力薬が美味しい改良をされて販売されております。そこそこなお値段ではありますが。味の改革が実現していて気楽にゴクゴク飲めちゃうから内包魔力を上げるのにうってつけ・・・です。」


 俺は心の中でクスイと王子様に謝る。魔力薬の宣伝をしてしまい、ゴメン、と。

 この後きっとこの魔術師たちは王国への問い合わせをする事だろう。

 俺が口にしたこの事実を知らなかったらしい彼らは「まさか」と言った感じの顔に全員がなっていたからだ。

 帝国で販売しているであろう魔力薬はあのクソ不味い物であるんだろう。魔術師たちの驚き様からして彼らも自身の魔力量を上げるのに不味い魔力薬を飲む事が相当に苦痛、苦行であったのは直ぐに読み取れた。


「と言う訳で。俺が教えられるのはこれくらいかな。それじゃあ俺はちょっと他に用事があるから。」


 そう言って俺はこの場を退散する。ここにこれ以上居ても魔術師たちに拘束され続けてしまう。質問攻めで。

 魔力薬の事を今すぐにでも確認しなければ、そんな事を彼らが口々に言っている間にさっさと逃げるのである。


 そうして一目散に城から脱出した俺は手近な建物の影に隠れる。


「はー、参った。精神的に参った。魔力量計壊さないで済んでホッとしたよ。あれ程光るとは思っても見なかった。心臓に悪い。」


 この後どうするかを俺は考えた。ダンジョンの事を俺に全権委任されてはいるが、全部勝手に俺が終わらせる、と言った事をせずに律儀にこうして中間報告にと皇帝に逢いに行ったのにこの展開だ。無理があるだろう。


「ダンジョン調査・・・ああ、それなら呼んだら喜んでくれそうな奴が一人居るな?」


 俺はこの時、ワークマンの事を思い出した。ダンジョン都市のダンジョン研究者である。

 今回のダンジョン主のレストは超が付く位に特殊な例だろう。ワークマンがこの件を知ればきっと嬉々としてレストの経験した事を研究したいと言ってくるのではないだろうか?


「そこに解決の糸口も出て来るかもしれないし。それにレストはあの骸骨のダンジョン主みたいにぶっ壊れてないから話もスムーズにやり取りできるからな。」


 理性がちゃんとあってレストはどう見ても「普通の人」なのだ。

 長い年月ダンジョンに閉じ籠っていたらしいが、何かしら精神が守られる様な事があったのだろうか?


「そこら辺の事もワークマンに丸投げしてみるか。この世界のダンジョン研究がコレで大きく先へと踏み込めるのならやってみる価値はあるよな。」


 ドラゴンに聞けばもっと踏み込んだ所まで行きそうではあったが、あいつは気まぐれだ。何処まで話してくれるかは分からない。

 何か言ってはいけない禁句などもドラゴンの中に基準があるかもしれないし、余り期待はしない方が良い。


「俺の魔力の件も何だかはぐらかされてちゃんと説明してくれて無いしな。自分で気づけとか言われて。さて、じゃあワークマンの所に久しぶりに顏を出してこよう。」


 俺はダンジョン都市のワークマンの研究室にワープゲートを繋げた。

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