どうにもおしゃべり好き
その後にもあの「のっぺらメイド」は現れた。次々に現れた。
「いや、ホント、ここは御城って事?みたいだし、そう言う面で見れば雇われて働いてるメイドさんの数は膨大と見て良いんだろうけどさー?」
こうして観察を続けると本当に見れば見る程、どのメイドも個性があって面白い。
髪型もそれぞれが微妙に異なるし、同じメイド服のデザインでも所々全体の印象を変えない程度にはアレンジが加えられていたり、或いは服に付けている小さなポーチやアクセサリーなどが個性的だったりする。
「それにしてもここのダンジョン主は良い趣味してんなぁ?メイドばかりなのは、まあ、ちょっとアレだけど。執事はいるのかね?」
ここの主が望んだ?あるいは無意識下が発現してこのダンジョンになっているはずだ。
そう考えると、どうにもこのダンジョンの一番奥に居るであろう存在は元々は「人」だったのだろうか?
「ドラゴンの時のあの骸骨を思い出すけど。どうにもこのメイドさんたちの生気に満ちた感じだとそうでも無いっぽい?」
人型のダンジョンのヌシと言うとゴブリンもあるだろうが、そうなるとここの城の中がゴブリンだらけとなっていただろう。
「ゴブリンの王様?知力が高くて、それでいてふんぞり返って?頭に王冠?・・・ぶふっ!」
ソレを想像したら何だか噴き出して笑ってしまった。
「それにしても通路が真っすぐ、しかも異様に長いな?面倒だから一気に突っ切るか?」
しかしどうにも先程まで俺の行く手を塞ぎ現れるメイドが突然出てこなくなった。打ち止めか?と思った時には眼前に巨大な扉が。
ソレはダンジョンの最奥、ヌシの間の入り口に他ならなかった。その扉の左右にまるで護衛か何かなのか、重鎧がたたずんでいる。
それだけでは無く扉の前にはどうにもその服装から執事?と見られる、やっぱりのっぺらぼうが立っていた。
頭髪は白髪だが毛量は多く、髪型としてはオールバックだ。どうにも顔パーツは無いのっぺらぼうなのは変わらないのだが、皺が所々刻まれていて「老執事」な事を窺わせる。
三体が同時に攻めて来るのかな?とコレに俺は思ったのだが、どうにも雰囲気が違う。
その「のっぺらぼう」が一礼を俺にしてくると重鎧が扉を開いていくでは無いか。
コレに俺は非常に驚いた。そしてのっぺら執事が俺を扉の中へと入る様に促すジェスチャーをするのでそれに素直に従って俺はヌシの間に入ったのだが。
「ようこそ侵入者君!私はアリブレスト・ゲン・フォーゲルアイマーだ。宜しく。さて、私は初対面の挨拶を終えた。君の名も教えてくれまいか?」
どうにもこのヌシの間は「謁見の間」でもある様だ。このアリブレストと名乗った存在はどうにも「玉座」なのであろう黄金に輝く豪勢なデザインの椅子に腰かけていた。その位置は俺の立つ場所から三段は高くなっている。
こうしてこのダンジョンのヌシは自分を「王」だと主張しているようだが、俺はそれに対して何らへりくだったりはしない。
「エンドウだ。取り敢えずその態度だと話し合いができる、と見て良いのか?」
「ふははははは!そうだな。ずっと暇で暇で仕方が無かったんだ。その長い期間の寂しさを埋める為にも君と思う存分語らいたいな?」
どうやら以前の「骸骨」の様に中身は「壊れ」ていないらしい。しかしそう楽観はしない方が良いだろう。
もしかしたら外面はそう見えるだけでもう内面は既に、と言った事も考えられる。
でも、目の前のアリブレストはどう見ても「生身の人間」にしか見えない。
「さて、私が今この様な状況になっている発端、その昔話は後回しにしようか。大分長く掛かるからな話終えるまで。じっくりと酒を飲みつつする話だ。で、だ。今はそれよりも君たちが何故ここに入って来たかの理由を聞いた方が話が早そうだ。」
理性もちゃんとあるようだし、そもそも道理も弁えている様子。コレに俺は今回の俺たちの事を話して見ても良いかと思った。
「おっとその前にだ。君が拘束しているメイドたちを自由にしてやってはくれないか?動けないままでは仕事ができず仕舞いだ。」
どうやらこのアリブレスト、ダンジョン内の事が手に取るように分かるらしい。
「いやー、それにしても君たちが逃げ回る所は滑稽で楽しませて貰ったが。君だけは、そう、君だけは違ったな。そしてソレはこうしてここまで君が辿り着いた事で確定している。」
アリブレストは話し続けた。まるで語らう相手をずっと求めていたかのように。
「おっと!スマンスマン。君の話を聞かねばな。先に物事が進まない。随分と私は浮かれていたようだ。何せ今この状況になって百年はくだらないのでな。しかも私はこの様な事をそもそも望んではいなかったのだ。おっと、また喋り続けてしまう所だった。過去の話は良いとして、さて、理由を聞こうか。」
玉座に座ったままではあるがアリブレストの喋り方は気さくだ。王としての態度や言葉遣いでは無い。
だが俺にとってもその方が話し易いのは確かだ。そこら辺を気にせずに俺は今回このダンジョンに入って来た理由を説明した。
「と言う訳で、今どうしてるのか分からんけど、逃げ回ってる十名の他の奴らを外に出してやってくれない?」
「なるほど、良く分かった。そんな事は容易いな。ほら、今彼らの通っている通路を外に繋げた。このまま行けば彼らはここから外に出るはずだ。それにしても外界に入り口が出現してしまったか。それは驚かせてしまったようだな。」
「アリブレスト、って呼ぶのはちょっと何か呼びずらいからレストでいいか?レストはその言い方だとこのダンジョンは隠し通して外に出ない様にしたかったのか?」
「ああ、そうなんだ。別にこれまでの現状が暇だと言ったのは間違いないし、寂しいとも思っていたのも正直な気持ちだな。でも、それ以上に私は外が怖かった。ずっと隠れていようと思っていた。でもこうなってはそんな気持ちも薄れているがね。」
「ソレはレストがこうなった原因が絡んでるって事なんだろうけど。でも今の問題はそこじゃないんだよなぁ。俺はここの消滅を依頼されてるし、どうにかならんモノかね?いや調査を先ずは言われてるからそこまでは行かないまでもレストの事を説明すれば良いのかもしれないけど。」
「この場所を外に現出させてしまう程に魔力が溜まってしまったのがそもそもだからね。その魔力を良い感じに発散できれば入り口は消えるんだが。それがどうにも私に上手く制御できずにいる。どうやら外の世界と繋がってソレが固定されてしまったようでね。閉じるに閉じれないのだ。」
「無理矢理断つとかは・・・ソレができりゃ世話無いか。で、じゃあレストを消滅させる・・・のは、これだけ真っ当に話し合える相手を消すって言うのはどうにも出来ないなぁ。」
「はははは!そう思って貰えて嬉しいね。確かにこの空間の中心が私になっている以上は私が消滅すればここも消え去る。さて、そうなればどうしようか?別に私は外に打って出ようと言った気持ちはこれっぽっちも無いのだよ。それを分かって貰えれば良いのだが。」
「あーソレはちょっとねぇ。ダンジョンには良い印象が無いからなぁ。レストにその気が無いにしても、その言葉をそもそも信じる事ができる「担保」が無いからなあ。」
こうして俺はこのダンジョンのヌシとまるで知り合いかの様に話し合いをする。
俺はもう既にこのダンジョン主を受け入れてしまっている。コレは別に相手に魔法でそう印象操作されての事では無い。
これ程に「普通」に話し合いができる相手をいきなり「ハイ殺す」とはできはしないだろう。そんな事がいきなり出来る何て精神異常があると言って過言じゃ無い。俺にはそんな事はできない。
しかしレストはダンジョンの危険をどうやら把握はしているし、その「危険」を自分が外に出す気は無いと言っている。
それでも外の人々には懸念が残る。何時かダンジョンから魔物が溢れ出てこないかどうかという。
俺もダンジョン都市周辺の幾つかが氾濫を起こしかけていた、と言うか、起こしていたのは経験した。
だからこのダンジョンから出て来るとしたらどんな魔物が?と言った所でソレを想像した。
「顔の無いメイドさんがこれでもかってくらいに溢れ出てきて、中身の入っていない重鎧が勝手に動いて、それを指揮するこれまた顔の無い執事が?おおう!恐怖だなそれは。」
「はははは!そうだね。それは流石にちょっと引く、って言う限度を超えてるね。ならばコレが運命だったのかな?僕はもう充分過ぎる程に生きたと言う事にして消えるべきなんだろうな。」
どうやらレストは自分の中で何かに納得し、悟り、そして諦めたようだ。覚悟が決まったような顔にいきなりなる。
そうやって勝手にレストがうんうんと納得しているのが俺にはどうにも気に入らない。
「・・・あー、それは何か俺が嫌だな?どうにかしたいけど。その方法が何か無いのかね?」
「優しいねエンドウ。でも、私は無為にこの中で命を延命してきた。もうそろそろ良いだろう。解放されるなら今だと思う。君にその幕を下ろして貰いたいんだ。」
「ソレは最終手段で。これまで百年はクダラナイってくらいに生きて来たんだろ?なら後一年や二年くらいはどうって事無いだろうに。それまでにどうにかできる手段を探してみて、どうしても無かったら望み通りにするのはしょうがないと決断を下せば良い。」
「・・・何でそこまで?君と私は今さっき会ったばかりだ。そんな相手にそこまでする義理は無いんじゃないのか?」
俺はコレにちょっとだけ悩んだ。確かにそうではあるのだが。真剣な顔のレストのこの問いかけを俺は少しだけ考える。
「いやー、気に入っちゃった?そう、忍びない?あのさ、俺もちょっと変だとは思うんだけど自分自身で。ここの顔無しのメイド、レストは良く観察した事あるか?俺は此処に来るまでに多く見て来たけどさ。どのメイドも個性があって面白いんだよ。何だかソレが消えちゃうってなると、つまらないって感じちゃったんだよ、凄く。」
この俺の答えに思いもしなかったと言った感じの「キョトン」とした顔になるレスト。
「・・・ぶふっ!ふはっ!ふははははっははははあははははは!そ、そ、そ、そうか!そうか!そうか!ソレは知らなかった!そんな理由で君は!君は!ふひっ!ふひははははは!」
どうやら随分と俺の理由が気に入ったらしい。レストはコレがツボに入ったらしくずっと笑い続ける。
「それは確かに変だな!ああ、変だ!しかし人は時に不可解な理由で行動をする。そうだ。それも一つの理由だな。私の、このダンジョンの命運は君に全て託そう。煮るなり焼くなり好きにしてくれて構わないよ。」
この後は俺も立っているのに疲れたのでテーブルに椅子、それとお茶セットを出してくつろぐ。
「君はどう言う存在なんだ?そもそもここは私の力が働いている場所だと言うのに。平気な顔をして異空間を作り出したかと思えばそこから物を次々と取り出すなんて。ふふっ!どうやら君は私へと引導を渡しに来たのでは無くて、救いに来てくれたのかな?どうやら期待しても良いらしい。」
こうしてレストの口から次に語られたのは自身の昔話だった。
そしてどうやらこのレスト、初代皇帝らしい。帝国の基礎を作り上げた歴史的存在だと言う事だ。
そんな彼がこの場所でこうして異空間、ダンジョンのヌシになったのはどうやら裏切りに逢った末の事である様で。
皇帝となって跡継ぎができる。その息子はどうにも強く権力を欲する人物に育ったそうだ。その息子にどうやら帝位を無理矢理降ろされたと。
信頼していた、自分の右腕だと思っていた宰相も裏切っており、息子と一緒になって自分を玉座から引きずり下ろしにかかって来たと言う。
こうして城から追い出されてこの場所にそもそも最初から建っていた別居に押し込められてずっと監視の目を受け続けて生きていたそうで。
「殺されなかっただけマシなのだろうな。普通ならば私を殺して後腐れ無くしておいても良いだろうに。どうにも息子の気まぐれで生かされていたらしい。だがそれも五年で終わった。」
どうにも宰相が初代皇帝が生きたままである事をずっと危惧していた様で刺客を放った。
その刺客に命を狙われ、死にかけた所でどうやら奇跡とやらが起こったらしい。
「ずっと宰相は私を殺したかったようでな。しかし息子の監視の目を掻い潜って暗殺者を放つのはどうやら苦戦したらしい。まあ確かにそうだ。ここの場所に居た者の全てが息子が私を監視する為に整えた環境だったからね。ああ、顔の無いメイド、執事も居ただろう?あれらは今ではこのダンジョンの「魔物」ではあるのだが、元はその監視たちなのだ。護衛の騎士もそうだ。私が逃げ出そうとする素振りを見たら即座に切り殺せと命を受けていたのだよ騎士たちは。護衛とは良く言ったモノだろう?全く、悪趣味な事だ。私の息子ながら何故この様に育ってしまったのか分からないのだ。」
レストは暗殺者に腹を刺されて絶体絶命、そんな時に目の前に黒い「穴」が出て来たそうだ。
そこにレストは迷わず逃げ込もうと飛び込んだらしい。どうせこのまま死ぬしかないのであればこの正体不明の穴に自ら飛び込んで自死しようと。その「穴」が何なのかさえ分からずに。
すると気付いた時にはもうこの場所、玉座に座っていたそうだ。
「その後はまあここの中を散々歩き回ったよ。でも、何処にも出口は無い。通路は顔の無いメイドが忙しなく掃除をし続けている。執事はずっとソレを見守る様にして動かない。鎧の中は空っぽなのに勝手に動くし。最初の頃は理解も納得も出来ずにいて理性がどうにかなってしまいそうだった。でも、私は死んでいない所か、刺された傷も消失していて生きていた事に心底ほっとしたのも正直な話だ。」
暗殺者はどうやらダンジョンの中には存在しないらしい。それはどうやら「拒絶」をしてダンジョンに飛び込んだからなんだろう。
そう、その黒い穴は自然発生したどうにもダンジョンの入り口であったようだ。
主の居ないダンジョン、そこに飛び込んだレスト。そして。
「そこから半年かかってここがどんな場所で、どんな空間で、私がどうなってしまったのかが理解できてやっと落ち着いたんだ。それからの私は此処に引きこもった。あいにくとここには私の命を狙う者は居なかったのでね。ダンジョンに取り込まれてしまった者たちは普段の私の世話をしてくれていた者たちでね。彼らには私を息子の命令で監視する以上の感情は無かったんだ。それが有難かった、味方では無くても敵意を持って私に接してこない存在だったから。おかげで快適な暮らしだったんだ。殺されかけるまではね。だからきっと、私がダンジョンに飛び込んだ時に望んでしまったんだ、彼らの事をね。だから、取り込まれてしまった、ダンジョンに一緒に。本当に申し訳無いと思っていたんだ最初は。けど、今ではもうどうでも良くなっているんだけどね。」
このダンジョンの「核」となったレストはそれからは外に出る事を望まずにずっと気の遠くなる年月を閉じこもっていたと。
こうしてダンジョンに取り込まれたレストはその年月で使わぬ魔力が徐々に蓄積してどうやらとうとう外の世界にこのダンジョンが繋がってしまったと。
レストの存在はもう人では無い「何か」に変貌している。飲まず食わずでは人は死ぬ。しかしレストは食事も不要、睡眠も不要でずっとここに居たのだ。
「鎧を君は潰したけれど、あれは暫くすれば元の状態に戻るよ。ダンジョンの魔力で。」
「なあ?レストはもしかして魔物は生み出せない?」
「生み出すはずが無いよ。そもそも私の意識がソレを拒絶しているからね。許可しない物は勝手に生まれない。私がダンジョンの核である限りね。私がここに国を作る時、魔物問題には相当に頭を悩ませたし、周辺の安全を確保する為にダンジョンを虱潰しに攻略したりと。それはもう「こりごりだ」と言うくらいに倒してきたからね。ここに居る魔物はもうこれ以上は増えないし、減る事も無い。」
どうやら当初にこのダンジョンに取り込まれた者たち以外はこのダンジョンからは生まれないようだ。
顔無しのメイドさんが大量にダンジョンから出て来ると言った光景が発生しない事に安堵を俺は覚える。
「ここにずっと閉じこもっていた年月を「生きていた」と言って良いモノかどうかは疑問だがね。しかし君とこうして出会う事ができたのは運命を感じるよ。あぁ、私はどんな形になるであれ、解放されるのだな、とね。」
「なあ?一つだけ聞いて良いか?帝国に執着は?」
俺はここでそんな質問をした。コレにレストは「何故そんな事を?」と言った顔になるが。
「そうだな。今の帝国がどの様になっているのかを知る事ができれば、それでもう充分だ。」
「じゃあその今の帝国の姿を見て貰うとしよう。」
俺は壁に魔力で映像を流す。上映会である。そこには俺が目にした帝国が映し出されている。音声も一緒に再現したりして。
ソレを一通り見たレストは大きく溜息を吐いた。
「私が目指した国の姿とはかけ離れているんだな。しょうがないと言う一言で終わらせたくは無いんだが、こうなってしまうとなぁ。」
気持に区切りをつける為かもう一度大きく溜息を吐くレスト。
「もう私は帝国とは何ら関係が無い。そうだ、大昔の私が今更帝国に物申した所でそんなモノは家畜の餌にもならんしな。今を生きる者たちが今を作るのだ。大昔の私の価値観であそこに飛び込んで声を上げたとして、誰もそれに耳を貸したりはせんだろう。私は寧ろ帝国が今までずっとどの様な形であれ存続し続けていた事を喜ばねばならんのだろうな。」
「さて、それじゃあこのダンジョンを消さないで済む方法を考えようか。俺としてはレストを殺すなんて言う選択肢は取りたくない。どうにか別の結末を持ってして解決したいんだけど。取り敢えず今のこのダンジョンの事を報告してこようかと思うんだが。中間報告って感じで。」
俺は一区切りついたと思って話を切り出す。これにレストは「それで構わない」と返してくる。
「あ、そう言えばあいつらどうなった?」
俺は思い出してあの十名の貴族たちがどうなったかを聞く。魔力ソナーで自分で調べても良いが、ここはレストが管理しているのだ。俺が余り出しゃばるとか言った真似は控える。
とは言ってもレストからは煮るなり焼くなりどうとでも、なんて言われているので勝手にしても文句は言われないと思うのだが。
「・・・どうやら無事に外には出たようだが、何やら揉めているようだぞ?一応は入り口付近の状況までなら私も把握できる。どうにも戻るかまた入るかを話し合っている様だな。」
「あちゃー。くだらない事でゴチャゴチャやってるのかよ。本当に頭が悪いんだな。俺ちょっと行ってくる。暫くまたここで待っててもらう事になるけど、レスト、いいか?」
「君の自由に。私の命運はエンドウ、君が握っているんだ。私は君の言葉に従うよ。」
「そうか。なら待っている間暇だろうから時間潰しに・・・よっと。コレで遊んでいてくれ。」
俺はダンジョンの壁から「チェス」を作り出してレストに渡す。そしてインベントリからは説明を書き記した紙を取り出して渡す。
「じゃ、一端皇帝に報告しに行ってくる。・・・うーん?その後はドラゴンを呼び出して相談した方が解決は早いかな?」
そう言って俺はワープゲートを出す。繋げる先はダンジョンの出口手前。サッと行ってパッとまだ揉めている十名の貴族たちの所に姿を見せた。
「ハイハイハイハイ!君たち、帝国に帰るよ一端。今回の調査の全ての権限は俺に一任されているからね。言う事聞けない奴は皇帝の命に逆らったとして報告する事になるから、ちゃんと俺の言う事を聞いてね?」
「貴様!?何故ここに居る!?あの穴に落ちて死んだのでは無かったのか!?」
俺を穴へと落としてくれた貴族はそう叫んだ。さも俺の事を幽霊だとでも言わんばかりの驚きの顔だ。
「その事は皇帝に報告するから覚悟しておいてね。皇帝の顔に泥を塗るようなマネをしたアンタの末路はどうなるかね?実際に俺が帰って来ずに死んでいたならふざけた言い訳をしてシレッと惚けるつもりだったんだろうけど。そうはいかないから。いやー、世の中悪い事はできないものだよね。」
俺はニッコリと笑ってそう言ってやる。この時このリーダー気取りの貴族から他の誰もがサッと距離を置いた。
「・・・は?ふざけるな。ここでお前が死ねば何ら問題が無かろうが。平民が目障りだ。おい、お前たち、全員でこいつを殺せば済む話だ。何故一歩引いている?我ら選ばれし使徒が何故この様なカスに脅されて引かねばならんのだ。気高い我々がこの様な薄汚い愚図に脅されて屈するなど有り得てはならんだろうが。」
直ぐに平静を取り戻したそいつは直ぐにそんな言葉を吐きだした。
(おいおい、凄い理屈だな。コレは脅しでも何でも無いんだが?本当に何もかも頭の中のネジが外れてるんだな?)
外れているばかりか、そのネジがチグハグに入っていると言うべきか?
こうなると話自体がマトモにできない、話し合いすら不可能になっている。
この言葉に納得したのか、一歩引いていた九名の内の七名が剣を抜いて俺を囲ってきた。
残り二名はどうやらヤル気は無いらしく、一歩、また一歩と後方に下がり続けている。巻き込まれたくないと言った感じだ。
その二名の内、一名は皇帝から潜入を命じられているのであろう者である。
そして残りの一名はと言うと、どうにもただ怯えているだけらしい。死んだと思っていた俺がこうして生きて戻って来た事に相当なショックを受けたと言った所か。
そのショックはどうやら俺を「殺す」と言う選択をそいつに取らせない程大きかった様である。
「よし、殺した後は放置で良いだろう。ここは平原だが、血の匂いを嗅ぎつけた肉食の獣が片づけるだろうさ。」
「おーい、こいつらの処分は一体どうしたら良い?ここでやっちゃっていいのか?それとも皇帝が裁くのか?どっちだ?」
俺はもうこの外道な発言と態度に面倒になった。言う事も、話も聞かないばかりか、一度穴に落として、こうして無事に生きて戻って来た事に対し再び殺害するなどと。
遠く下がって俺たちを見ている二名へと声を掛ける。すると。
「生かしておいてください。証言は私がします。・・・生きていればどの様な目に合わせても構いませんので。」
その言葉を発したのは俺が皇帝からの潜入諜報員だと見ていた貴族からだ。どうやら見込みは合っていたらしい。
「なら喋れ無い様にしてやろうか。口を開けば聞くに堪えない発言ばっかりだったしな?殺しをしようとして仕返しされるのがその程度なんだから、返り討ちで殺されないだけでも有難いと思って貰わないと。」
俺を囲う八名には今「魔力固め」を施した。もうこいつらは指先一つ自分の意志で動かせない。
さて、この次に俺がするのは口を大きく開けさせる事だ。その中へと。
「さて、この魔法で生み出したグツグツのあっつぅゥぅゥウイ!熱湯をざばーっとね?」
開けさせた口を大きく顔ごと上へと向けさせる。その大きく開いた口の上にはたっぷり湯量の熱湯の玉が。
もちろんコレは俺が魔法で生み出したものだ。これでこいつらの口の中を大火傷させて喋れ無くさせる為である。
「俺もまあ人が変わったよなぁ。こんな残酷な事ができるようになっちまったんだから。」
その一言の後にその熱湯を落とす。しかし悲鳴は上がらない。俺が魔力固めで動けなくさせているから悲鳴一つすら上げられないのだこいつらは。
充分な時間、まあそれでも一分?大分短いとは思うがそれよりも短い時間で熱湯を引き上げる。
だがここでどうやら気絶をしてしまった者たちが出ていた様で。数名が白目になって意識が無い。
「あー、時間が長かったかー。鼻から呼吸は出来るようにはしてあったんだけどね?しょうがない。火傷は治しておいてやるか。」
八名全員の口内の治療を魔法で行う。ちょっと拷問が過ぎた。このまま治療をせずにいたらきっと呼吸すら口内火傷の痛みでままならなくなるだろうから。
と言うか、口の中が火傷だなどと言う表現では生温いと言った状態になっている。
直ぐに治療を施したから良かったモノの、もし放っておけば死ぬんじゃないか?と言えるくらいに口内が表現できない程にヤバい状態だった。
「もうちょっと加減を考えれば良かった。まあ、死んでないから良いよな?」
俺は魔力固めも解いた。と同時にバタバタと貴族たちが地に倒れる。そのまま全身をビクンビクンと痙攣させて立ち上がって来る気配が無い。
「流石にやり過ぎだったかー。ま、良いか。さて、戻ろう。・・・ん?」
俺が残りの二名の方に視線を向けたら一人倒れていた。諜報員の方はその倒れている方の貴族を介抱している。
どうやら見ているだけでもその貴族には相当刺激が強かったらしい。気が弱いんだろう元々。どうにも俺への恐怖で気絶したらしかった。