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突然の帝国ダンジョン

 それら文官たちの無駄口が少しだけ収まった時に太鼓の音が二度鳴る。どうやらこの合図が皇帝の入って来る合図らしく文官たちは一斉に黙った。

 いや、黙ったのは一部の者たちだけ、ペチャクチャと皇帝への不平不満を漏らしていた者たちだけだ。

 その他の文官たちはそもそも最初から口を開いていない。一言も喋ってはいない。

 俺が入って来る前からずっとそうだったんだろう。小うるさく喋り続けていた文官たちへと哀れなものでも見るかの様な視線だけを送っていた。

 それに気づいていて喋り続けたのか、それとも全く気付いていなかったのか。そんな事は皇帝がこの場に現れた事でもう知る事も叶わない。


「良く来てくれたねエンドウ!昨日の今日で突然にすまなかったね。取り敢えずあの後の別れた直後に少々厄介な問題が入り込んできてしまったんだ。何と言う偶然か。ダンジョンが帝国の側に発生したらしい。」


 どうやら突如として前触れも無くダンジョンができたと言う。それは恐らく。


「そうなんだ。君は強い。だからそのダンジョンの調査と、できれば消滅もさせて欲しいと思ってこうして直接に私からお願いしたくてここまで来てもらった。いや、本当にすまないな。」


 そう言って皇帝は頭を下げた。俺に向けて。

 これを見て文官たちの中でニヤニヤ顔をする者が現れる。コレは皇帝を下に見ているとしか言いようが無い。

 自身が仕える相手を見下す様な態度はどう言った事だろうか?とは言え、そう言った顔になっているのは此処に皇帝が入って来るまで口を開いてゲラゲラ笑っていた者たちだけだ。


(皇帝は確か自分を舐めてる奴らは排除してそう言った者はもういないって言って無かったか?)


 色々と考える所はあるが、そこら辺は俺が気にしないでも良い所だろう。


「即座にこんな無粋な頼みをしてしまって申し訳無いね。闘技場の強さを見て君しかいないと思ってね。いきなり呼び出してこの様な場で晒し者になるような事をさせてしまったのも申し訳無い。私も皇帝という立場であるから、形だけでもこうして整えなければ物事を先に進められない部分もあってね。コレは正式な依頼なんだ。私直々のね。そうなるとこうして大げさにも城に招くと言った形を取らねばならなくて。いやあ、面倒でねコレが。それは置いておいて、今回の事の謝罪はまた改めて別の機会にもう一度させて貰うとする。さて、そのダンジョンの初期調査ではかなりの難度であるとの報告が来ているんだ。第一階層だけでね。と言うか、出て来る魔物がヤバ過ぎて戦闘を考えずに撤退をするしかなかったとまで報告が来てるんだ。」


 単刀直入、どうやら無駄話をしていられない程緊迫している様だダンジョン事情が。


 それでも既にもうダンジョンの中は調べが付いているらしい。どれだけ仕事が早いのだろうか?しかしそこにも問題が発生してはいると言う。

 闘技場の控室で別れてから報告を受けたと皇帝は言った。そして今こうして俺が呼び出されるまでの時間は非常に短いと言える。

 ダンジョンの調査の時間を考えればコレは異常と考えられる程だ。でもそこら辺のノウハウやダンジョン発生への監視を密にしていると言われてしまえばそこまでだ。そこら辺の事も俺が今気にする事でも無い。


「そこで君だ。あれ程の強さの魔物を従魔にできる君であれば私はダンジョン攻略が可能では無いかと直ぐにピンときてね。君にダンジョンの件を全て任せたい。」


 皇帝は全て俺にダンジョンの事を委ねるとまで口に出した。全権委任だ。この言葉がこの国の頂点から託されるとはもの凄いプレッシャーだろう本来なら。

 しかし俺は軽い感じで先ず質問を投げる事にした。何故なら。


「なあ?それって冒険者ギルドにやらせるのは駄目なのか?」


 至極当然の疑問だった、俺には。王国では冒険者がそこら辺の事を担っていて一括で冒険者ギルドがそれらを管理していた。

 しかし帝国では違うのかとここで疑問が出るのはしょうがない。


「ああ、そこら辺はねぇ。帝国での冒険者は魔物を捕獲する仕事の方が割が良いとしてダンジョンにはめっきり興味が無くなっている者たちばかりで。それが長い年月経ってギルドの方でもダンジョンの攻略が本来の仕事と言う認識が皆無なんだ。ちょっとそこは帝国の失策と言ってもいいね。情けない事ではあるけど。」


「やっぱ従魔闘技場は国営なのか。まあでも別に経済優先なら仕方が無いんじゃないか?とは言っても代わりに国が戦力を出してダンジョン攻略に乗り出すしかなくなるのはどうにも変な形になるな?いや、本来国を守るのが兵の役割だし、そこの本質は別に変らんか?」


「そこでエンドウなんだ。君は「冒険者」だろ?ギルドを通さずに国が冒険者へと直接依頼を出せない事も無い。それにギルドはダンジョン攻略を放棄していると言っても過言じゃ無い状況だからね。こうして君を呼んだわけだ。ホント、こんな偶然早々無いね。」


 皇帝はそう言って運が良いのか、悪いのかをケラケラと笑う。

 どうにも俺の事を詳しく調べていたんだろう。冒険者と言うのも既に調べが付いている様だ。

 まあ換金所で大金、闘技場の賭けでも大金、それを高級宿で使って取り敢えず一年間を契約してるのだ。簡単に調べられて当然だ。派手な金の巡りを追えばおのずと直ぐに俺が冒険者だと知れる。冒険者証のカードがクレジットカードみたいな使い方を出来るのだ。分からない訳が無い。

 国の諜報機関を相手に俺が個人で対抗しようとするならば俺は魔法を最大限にまで利用しなくちゃならないだろう。まあそんな事をする気も無ければその意味も無いのでやらないが。


 ここまでずっと俺と皇帝の会話だ。横から誰かが横入りしてきたり、別の文官が説明を肩代わりして喋ると言った事も無くである。

 普通はそう言った事の説明は誰か他の者が皇帝の代わりにやるのではないだろうか?偉い人がわざわざ説明と言う労力を他の者に任せないと言うのはどうなのだろうか?

 まあそれは皇帝がその話す相手に対して対等と思っている、或いは敬意を払っていると見なす事もできるが。

 それでも皇帝は立ったままだ。数段高くなっている場所に設置している玉座に座ってもいない。

 俺や、その他の文官たちが立つ床の高さと同じ場所に立って会話をし続けている。コレは流石にどうなんだろうと思うのだが。

 そこら辺の事もこの皇帝は計算に入れて話を続けていたんだろう。この皇帝はこう見えてもかなりやり手だ。腹の中はそれなりに黒い。俺がその事を考える意味は無い。


「状況は分かった。皇帝の立場も理解した。この場に呼ばれた理由も分かった。まあ受けても良いよ。あ、だけど今後の俺の闘技場の出場はどうなる?一時的に止めておく事になるのか?」


「そうだね、そこら辺は皇帝の名で事情書を出して支配人には説明をしておく。と言うか、もうそこら辺の手続きは済ませて朝一で出して来てある。」


「仕事早いな、異常に。それじゃあ行ってく・・・」


 俺がその場から去ろうとした所で待ったがかかる。皇帝から直接。


「いやいやいや、まだ気が早いよ!報酬の件も話して無いし、ましてや分かっている分だけではあるけどダンジョンの中の様子の詳しい説明もできてないのに。それとダンジョン対策会議に君も参加して欲しいんだ。そこら辺で詳しい今後の動きの方針を決めて、君からの意見も貰いたい。それから・・・」


「ああ、そう言うの面倒だからイラン要らん。」


 俺がソレを拒否して出て行こうとするのをまた皇帝が止めてくる。


「いやいや!ちょっとまだ待って欲しい!ほら!形だけでも整えないといけないんだ。私の苦労に付き合わせる事を苦しく思うが、こちらも今回の事に関して兵を出さねばならなくなっていてね。十名調査に出すのでエンドウと一緒に行って貰う事になっているんだ。そこら辺の相談と話し合い、詰めをして貰わないと・・・」


「んん?イランイラン。邪魔。そう言うのは・・・まあ、国として出さなきゃ面子が立たないか。じゃあ出発の時に呼んでくれればいい。そう言うのは勝手にそっちで決めて話し合って。付いて来るのは良いけど、その御守は面倒だからしないよ?」


「はぁ、分かった部屋を用意するよ。そこで待っていて貰えないか?直ぐに終わらせて長く待たせない様にする。」


 こうして俺は一室に案内されてそこでお茶と菓子で持て成された。

 その後は時間にして一時間程度だったか。扉が勢い良く開かれた。そしてそこに入って来た十名は恐らくダンジョンに俺と一緒に向かう者たちで。


「はっ!貴様が今回の冒険者か?見ない服だな?まあそんな事はどうでもいい。行くぞ!ぐずぐずするなこの平民が。」


 典型的な勘違い系のお貴族様と言った感じか。その全員が軽装である。ダンジョンを舐めている格好と言って良い。

 そして俺へのその言葉の使い方からしてどうにも俺を同行させないとならないと言った感じか。

 俺を平民呼ばわり、いや、実際に平民だが、するあたり、俺を無視して勝手にダンジョンへと向かっていてもおかしくなさそうであるのだが。

 この様子だと貴族様が何故平民如きを気にせねばならん!とか裏で言ってそうだ。


「皇帝の命と言う事で下らぬ冒険者などと言う存在を同行させるとは。高貴なる我々を何だと思っておるのか!」


 裏で言うのではなく堂々と城の中でそう叫んでいる。他九名も同じ意見なようでウンウンと首を縦に振って同調している。


(コレは駄目だな。どう考えても世間知らず過ぎる・・・)


 これから向かうのがどんな場所であるのか分かっていないんだろう。

 恐らくは「汚らわしい魔物が集まって居る場所」くらいにしか考えていないかもしれないコレだと。

 その汚い魔物を高貴で潔白、天に選ばれし使徒である我々が粛清、掃除をするとでも浮かれポンチな考えを持っているかもしれない。


「我々選ばれし者が十名も向かうのだ。ダンジョンなどと言う穢れた穴など直ぐに塞いでくれる。」


 俺は彼らの意識などを魔力ソナーで調べたりはしていない、と言うかそんなクソみたいな真似絶対に御免だ。

 だけどもこうして俺が想像した事にぴったりと合致する言葉をこの貴族だろう者たちの口から出てきている事に溜息しか出てこない。

 自分が死ぬかもしれない、とは微塵も思っていないのだこの分だと。コレはちょっと所では無い。有り得ないと言えるくらいに楽観している。


(自分が世界の主人公、とかこの全員が思って良そうだなあ)


 この十名の歩く後ろを俺は付いて行っている。そんな事を思いながら俺が後ろを歩いているなんてコイツ等は思っても見ないんだろう。

 と言うか、もう既に自分たちの口にした言葉に陶酔して俺の事などすっかりとその頭に無さそうだ。


 やれ自分はどこそこの者で剣の腕前はピカ一だ、だの。ワタシの自慢は魔法が、とか、弓の腕前なら私が、などなど。

 くだらない事ばかりを口にして互いに褒め合い、持ち上げ合いと、本当に「使えない」奴らが集まっている。


 城を出ればこの今の装備以外に荷物を準備してあるのかと思えばそうでは無かったのも馬鹿を通り越している。

 これからダンジョンへと向かうと言うのに野営の道具も、食料も、水もその他の必要と思われる物など一切見当たらない。


 そのまま彼らはどうやらダンジョンへと向かうための馬車へと乗り込んでしまったのだ。

 当然俺の乗る馬車などそこには存在しない。コレはどう言った対応だと言うのだろうか?


(こうなると普通は皇帝が俺用の馬車を用意してくれていても良い場面なんだけどな?)


 あの皇帝がソレを忘れているとは思えない。俺を呼び出すのにこれ程に手回しをしていた人物だ。馬車の用意を忘れると言った事は考えにくい。

 それは何か考えあっての事で、ソレを伝えずともその意図に俺に乗って欲しいと考えている、なんて可能性にまで思考が流れる。


(しょうがない。俺は徒歩で行くか)


 別に無いモノは無いで良い。そして別段この十名と共にダンジョンへと向かう事も受け入れる。


「さて、こんな奴らを同行させる意味は何だ?とは言え、コレは俺を害する為に皇帝が決めた事では無いだろうから流れに身を任せるか。」


 皇帝は俺を利用している、何てのは百も承知だ。そして俺は皇帝と握手をして「友人」となっている。

 ならばその友人の頼みとしてこのダンジョン攻略を受けたと言った形にしても良い。


「このままそのダンジョンを放っておいて後々にもっとヤバくてもっと面倒な事になっても嫌だしな。」


 こうして俺は馬車の後ろを歩いてそのままダンジョンへと向かう。


「あ?ずっとこの馬車の後ろを歩いていたけど、これ本当にダンジョンに向かってるのか?」


 途中で俺はその事に気が付いた。俺がダンジョンのその場所を知らないから馬車が先行して誘導してるのかと思ったのだが。


「ここは・・・いわゆる「花街」だよな?・・・コッチの方面に外に出る門があるのか?しょうがない。調べるか。」


 俺はここに至って周囲がいわゆる「ピンク色」に段々と染まっている事に気が付いて調べる事にしたのだが。


「こいつらただ単に女を買いに来たのかよ・・・マジで?これからダンジョンに直ぐに向かうんじゃ無い?」


 俺は混乱した。流石にソレは無いんじゃない?有り得ないだろ?と。

 だけども目の前、ドでかい娼館の前で馬車は停止してしまった。こいつらは本気でダンジョンに向かう気が無い。


「先ずは英気を養うにはここですな!」


 クズだった。どう考えても。皇帝の考えがどうにも分からない。


(とは言え、こいつ等にも「監視」は付いているから後々で報告が皇帝に上がるだろ。とは言ってもなぁ?)


 俺はそのままその娼館の前を通り過ぎた。どうせこの貴族たちは俺の事なんてもう眼中に、意識にも無い。そもそも俺がここまで馬車の速度に付いて来れているとは思ってもいないだろう。


 このまま花街を通り過ぎた後に左へと真っすぐに進めばダンジョンのある方向の門へと出る。俺は魔力ソナーを広げた際にダンジョンの位置も把握してあった。

 そもそもこの花街を通らない別の道は幾らでもあった。そしてこちらの花街を通るルートはそれなりに遠回り。それは要するにこの貴族共は最初からここに寄る為に馬車を走らせていたと言う事。


「俺一人でやるか・・・もうどうでもイイや。」


 こうして無事に俺だけがダンジョンの前に到着した。そこは地下へと続く洞窟の様な入り口。ここへの到着までの間には別段何か問題があった訳でも無い。

 先に魔力ソナーでダンジョン迄の道のりはもう知っていたので即座に到着している。

 このまま中に入ろうかと思ったのだが、一応は皇帝の友人と言う立場であるので皇帝の顔を立ててみようかなどと一瞬考える。

 そう、ここであの十名が今からどれだけ経てばここにやって来るのかを待ってみようかと考えたのだ。


「野営準備をしていようか。別にこの過ごし方が嫌いな訳じゃ無い。」


 リクライニングチェアを作り出してそれに座りボーっと空を眺める。その間は闘技場で戦った時の事を思い出しながら自分でいれたお茶の香りを楽しむ。

 あの貴族たちはもう今日一日は此処には来ないだろう。誰もかれもが若い輩ばかりできっとそのあり余る体力と性欲を娼館で「ハッスルハッスル」して自分たちの今回の選ばれたその使命すら忘れているだろうからきっと。

 翌日の昼過ぎに来たならば、まあ早い方だ。それまではゆっくりとこの何も無い原野で何も無い時間を楽しもうと俺は目を瞑った。


 宿のあの豪勢な部屋でくつろぐのも良いのだが、こうして自然の中でジッと動かないでいるのも心身が空に溶けていくかの様な感覚がして好きだ。

 だからこの時間がいつまでも続けばいいな、なんて思っている。そうやって過ごしていても腹は減る。動かずにぼーっとしていても人間腹は減るのだ。

 いつも通り、今まで通りに夕食を準備してさっさと食べ終わる。そう、もう時間的には夕方なのだ。

 あっと言う間に過ぎて行く時間は既に夜となり、食事を終えた後は再び横になって空を見上げる。

 そうして自然と眠たくなるまでずっと夜空を眺め、その美しい星空に自分の意識を漂わせ続ける。


 そうしているといつの間にか眠っていた様で朝となっていた。俺は一度立ち上がって大きく背伸びをすると朝食の用意をする。

 まだまだあの十名の貴族たちがここへ来る気配は無い。なのでノンビリ準備を続ける。

 食事を終えてもまだ来る様子は無い。野営用道具をテキパキと片付けて俺は地面に胡坐をかいて座り、じっと目を瞑り待つ。


(そう言えばお城で魔力量が幾つか試さなかったなあ。一時間くらい待たされていたからその間にできたと思うんだけど)


 とは言え、忘れていたんだししょうがない。皇帝は会議に出席していてそれ所では無かったはずだし、俺だけが勝手にあの場面でフラフラと城の中を散歩する訳にもいかなかっただろうから。


 そんな他愛も無い事を考えていても貴族たちがやって来る気配が微塵も無い。

 一応俺は依頼を受けた立場で、しかも皇帝の友人と言う事になっている。だからここは皇帝の顔に免じて待っているのであるが。


「まあ昼過ぎに来れば早い方だ、なんて俺が思っていただけだから。そうは言っても、もしかすれば今日来ない、って事も考えなきゃいけないか?」


 あの貴族たちの調子だと本当にそうなる可能性も否定できない。なので俺はここで確認の為に一度城に戻ってみる事にした。それもワープゲートを通って。


「で、どう言う事なんだこれは?そっちでも動きは把握しているんだろう当然。」


 俺は謁見の間に出る。そしてそこで一人で思索にふける様に目を瞑って玉座に座る皇帝へといきなりそんな言葉をぶつける。


「おわっ!?え?エンドウ?君は今どこから?いつの間に?」


 かなり皇帝はドン引きしている。素の状態だろうこれは。昨日俺がここで説明を受けていた時の空気とは全く違う対応の仕方だ。


「えっと・・・君は今まで何処に居たんだい?ここにどの様な手段で入り込んだのかはさておいて。」


「取り敢えず今皇帝一人だけだなここに居るのは。まあ良く護衛も無しに。とは言え、それが今俺の聞きたい事じゃないんだよ。アイツらの事だ。」


「ああ、すまないね。エンドウも分かっていると思うけど、私はこの件で君を利用していると言っても過言じゃ無い。直ぐにでも断りたかったら言ってくれ。」


「・・・まさかあれらの馬鹿を切り捨てる為だけに?」


「まあそうだね。あの者たちの裏に付いている貴族たちへの牽制でもあるかな。まあ裏に付いている貴族たちもそこまで頭のいい奴らとは言えないんだけど。頭が良く無い、でもソレはソレ、面倒なんだよ。何でもカンでも痛い目に遭わないと理解しない。そしてそんな目に遭うと一部の奴らは逆恨みをしてくるんだ。それにも対処しないといけないからどうにもこうにも疲れちゃって。」


 まるで悪戯している子供の様な顔つきになったら、次はもの凄く疲れた顔になって大きな溜息を吐く皇帝。


「ああ、今までエンドウは私の事を皇帝としか呼んで無いね。私の事はラーキルとでも呼んでくれ。」


 今更皇帝から愛称で呼んでくれと言われる。まあそれは良い。


「あの貴族たちは昨日娼館に入ったのは知ってるだろ?ソレの処罰は?」


 俺は良い加減なあの十名の処分はどうなっているのかと問う。俺の気にする所でも無いのだが、それでも皇帝がこの行動にはどんなお仕置きを考えているのか聞きたかった。しかし。


「ああ、何も。ダンジョン調査には期限を付けていないんだ。だから、別に何日かかろうともイイ。それまでに何かが有ったらその責任はそいつらに徹底的に慈悲も無く負わせるから大丈夫だよ。どんな行動をしていたかの記録はこちらで取っているから。何も無いならそれもソレ。大恥かかせて貴族としての「生命」は殺すから大丈夫。」


「やっぱり腹の中真っ黒だな。で、俺はじゃああいつ等を待たずにダンジョンクリアしていいのか?一応はラーキルの顔を立ててと思って一日待ったんだが?」


「あー、そこら辺はゴメン。もっと事情やら打ち合わせは私と君でしておいた方が良かったね。突然と急いでいたモノで慌てていたんだ。うーん、済まないけど、待っていてくれると助かるかな。一緒にダンジョンに入ってくれる?面倒は見なくてもいいから、一緒に入る事だけはしてくれ。後の事は自由で良い。」


「入るだけ、ね。そこにどんな意味があるのかは分からんけど。まあ仕事と思って待ちますかね。じゃあ行くわ。」


 俺はワープゲートを出して移動する。隠したりしない。そのままダンジョンの前に出る。


「さて、まだまだ来る気配が無いぞ?ここで待たずに宿の部屋で待てば良いかな?魔力ソナーで動きを観察していれば良いだけだし。」


 宿の部屋で待たずともこの帝国の散策もできるだろう。別にダンジョンの前に貴族たちが来るタイミングさえ分かれば良いだけだ。

 昨日の帝国の散策の続き、とは言ってもあの人に揉まれる経験はもうしたくないので姿は消すし、空も飛んでと言った形になるから、楽しむと言った観光は諦めなければならないだろうが。


 最初の頃にあのモヒカンを消滅させた後の街の人たちの反応と同じだったらもっとこの帝国を楽しんで歩けたかもしれないが。

 そうはなら無かったのだからもうしょうがない。放っておいて欲しいモノだが、もう相当な有名人になってしまっている。もう遅い。

 今の状態がある程度収まるまでは落ち着いてこの帝国を見て回る事はできないだろう。


「空を飛んで観察するだけじゃ味気無いよなぁ。どうするかな?」


 通りを行く人たちから俺の顔がバレない様にする為にはどうしたら良いか?そんな事を考える。

 ワープゲートで今は宿の部屋へと戻って来ていた。そしてそうやって考え事をしている時間の過ぎるのは早い。

 そうしていればどうにも動きが見られた。あの娼館から十名が出て行くのだ。何処へ向かうのかを少しだけ注意していたのだが。


「おいおい・・・何処に行く気だよ?そっちはダンジョンのある方面じゃ無いぞ?おい。」


 十名がバラバラに動き出した。誰も彼もがどうにも自宅に戻ると言った感じに見られる。


「嘘だろ・・・マジかよ。こいつら自分の役目を放棄してるのか?」


 そう疑いたくなる行動だった。この帝国の貴族にも愚か者ばかりなのが決定したと言っても良い。

 王国では王子様も苦労していたが、ここでは同じ苦労を皇帝がしていると分かった。何とも世知辛いとこの時俺は大きく溜息を吐き出すしか無かった。


 それから三日、貴族十名の動きは無い。全く無かった。俺もまさかと思ったりしたが、それでも過ぎた日数は真実だ。

 もしかしたらダンジョンに突入調査するための準備をしている期間か?と考えもしたが、それは無いなと思い直す。


「俺の三日間を返して欲しいぜ。帝国内を歩き回れもしないし、闘技場で試合も無かったんだぞ?空を飛んで散歩、もしないでずっと引きこもりだったんだからなぁ。」


 こうして四日目にして貴族たちは動いたのだ。その全員がダンジョンに一番近い門へと集合し始めている。


「さて、俺もそっちに向かいますかね。・・・あいつら俺の事を忘れてないだろうな?」


 一抹の、いや、相当な不安が募るが、まあいいだろう。ダンジョン内に一緒にこの貴族十名と入るだけで良いのだ。後の事は自由にして良いと言われている。


 そうして俺はその貴族たちが集まり始めている門の前に先回りして待つ。

 そこで最初に到着した貴族が馬車から降りてくる。丁度門の真ん中に立っている俺へと向けてこう言い放った。


「貴様!平民の分際でこの私の馬車の進む道を塞ぐか!この私直々に切り捨てて自らの罪の重さを分からせてやろう!」


 全く俺の顔など忘れている。これには流石にうんざりする。しかし黙っていればこの馬鹿貴族は俺を切ろうとして来るだろう。なのでソレを止める。


「俺は今回ダンジョン攻略を依頼された冒険者ですよ?お忘れですか?皇帝陛下からは貴方たちと共にダンジョンに「入れ」と命令を受けていましてね。ご一緒せねば依頼達成とはいかないんです。勝手に置いて行かれたら困りますので。」


「あぁ?なんだと?・・・はぁ、そう言えばそう言った話があったな。思い出した。ならば勝手について来るがよい。全く騒がせおって。そうであっても帝国貴族の行く手を阻むと言う行動を起こすとは。馬鹿も極まれりだな。」


 逆に相手に俺が馬鹿呼ばわりされた。納得イカン。でもそれもスルーする。


「先程俺が言うまで顔を忘れられていたので何を言っても止まってはくれなかったんじゃないですか?」


「はっ!くだらん!何故平民如きに呼び止められて馬車を止めねばならん?こちらは重要な使命を帯びて門を潜る所だったのだぞ?こうして止めずに貴様が勝手に付いてくれば良いだけでは無いか。こうして私をイラつかせて、挙句に手間取らせた事は許さん。後でそれ相応の罰を与えてやる。今は見逃してやるが、事が終わった後は覚悟しておれ!」


 そう勝手な事を言い放ってさっさとその貴族は馬車へと戻ってしまった。そして再び馬車は走り出す。


「おいおい、ここが集合地点じゃないのか?え?現地集合?マジかよ、俺の方こそ無駄だったじゃんか・・・」

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