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面接

 そのショックをそこそこに引きずってしまった俺は今日と言う日を引き籠って過ごす事にした。テーブルには俺と師匠だけしかいない。


「そう言えばこの世界に来てからは本を読んでいなかったかなぁ。何か面白い物語でも無いっすか?」


 俺はそんな事を師匠に尋ねた。他の皆は話し合いの後は各々好きに動いている。遊び疲れと言っていたので今日は各自の部屋でゆっくりとしているのではないだろうか?

 ドラゴンはまあ別だ。アイツは無尽蔵と呼べる体力を持っているだろうから。


「各国の歴史的英雄の活躍を連ねた物が確かあったか。城の書庫にあったはずだ。・・・盗んで来るなよ?」


「いや、流石に無断で持って行こうとは思って無いですよ?断るのなら誰に言えば良いんですか?」


「あそこの本は持ち出し禁止だ。貴重な物が多いからな。その英雄の本も過去にどの様な歴史があったかの参考書の様な物でな。それを持ち出されて無くなっていると知られれば歴史家が大騒ぎだ。・・・早まるなよ?」


 師匠からプスリ、と釘を刺された。こうなれば俺の読書は無理だ。室内で他に何かゆっくりとしながら時間を潰せる事を考える。


「あーそうだった。風呂だ。いや、サウナでも良いのか?どっちも・・・あ、また余計な事考えちゃった。魔石どうしようかなぁ?」


 この世界には魔力と、そして魔石と言った物が存在する。これらを使用すればこの世界でも簡単に風呂に入れるはずだった。


「おい、エンドウ。まさかこの町に風呂を作ると言うのか?流石に薪の消費量がそれでは多くなり過ぎるだろうに・・・んん?魔石?そうか、その手があるか・・・と言うとでも思ったのか?それでも魔石で水を湯に変えるのにどれだけの魔力が必要だと思っている?計算してみたか?」


「え?いや、まだですけど?それをだからどうしようかって話で。あれ?そもそもお湯をそれこそ直接出す魔石にしちゃえば良いんじゃないですかね?」


「だからお前は・・・その思考の仕方は何とかならんのか?」


 師匠から溜息と共にツッコミを入れられた。解せぬ。しかしコレは良いアイデアだと思った。水を出す魔石とソレを熱する為の魔石とで二つ用意しないでも、そもそもお湯を出す魔石にしてしまえば良いのでは?

 だがここでやはり師匠からダメ出しを食らう。


「先ずはその様な紋様を刻める者がおらんだろうに・・・いや、お前なら可能なのか・・・じゃない!その湯を出す魔石にはどれだけの魔力が必要になると思っているんだ。只の水だけならまだマシだ。しかしそこに熱を加える分まで要求されるようならその分の魔力も注入せねばならんだろう?ソレができる魔術師はそうおらん。それこそ水と過熱で二つの魔石を使った方が、遥かに総合的な使用する魔力は少なくて済むだろう。・・・お前、考えているようで何も考えていないな?」


「あ、師匠今更そんな事を俺に言うんですか?だから以前にも俺は「賢者じゃない」って言ってたのに。」


「そもそも、エンドウ、風呂を作るのはいいが、お前は雪解けになればここを出て行くんだろう?その魔石と風呂の管理は誰がやると・・・国か。全く何でお前は直ぐに他人に自分の思い付いた事も技術も丸任せに引き渡してしまうんだ・・・」


「えー?それも今更言うんですか?面倒だからですけど。だって俺はそんなあれもこれもと経営する器が無いですからね。出来る人物に全て任せれば良いんですよ、そんな事は。」


「お前はその思い付き、やりたい事がほぼ済んだら任せた者に後を全て譲っているでは無いか。自身の受けるはずの利益は何ら受け取ろうともせずに。」


「いやいや、利益は受けてますよ?楽しかった、それに尽きますね。」


 俺と師匠の雑談は続く。


「だから別に気にしてないんですよ。この世界がより一層便利になって発展したら、それは俺も利益が得られるって事なんで。」


「全くお前と言うヤツは・・・」


 そんなこんなで食堂のテーブルにて師匠との久々の会話を楽しんでいれば直ぐに昼の時間に。


「師匠、外に食べに行きましょう。美味しいお店がありますよ?」


 こうして俺と師匠は宿を出て昼飯を食べに町の食堂へ。そこで食事を終えて俺たちはまた宿へと戻って来る。

 各自の部屋へと分かれてようやっと一人。しかし窓の外を眺めるだけでは飽きてしまう。


「かれこれ一時間くらいはぼーっとしたかな。暇、だな。これまでアレもコレもと忙しなく動き過ぎた。そのツケがここで来るのかぁ。」


 動き続けていないと死ぬマグロ、とまでは言わないが、それでもこのままジッとしているのもつまらなくなってきてしまった。


「気が変わった。面接しに行こう。地図は貰ってあるから直ぐに行けるだろ。」


 俺はワープゲートで婆さんの家の前に移動した。その後は直ぐに歩き出す。この間に貰った地図のメモを見ながら。

 アッチ、そっち、コッチ、と歩いているとそれほど時間も掛からずに到着する。

 その家は別段何ら変な所は無い。一般的な周囲の家と何も変わらない。


「ごめんくださーい。お話は通ってると思うんですけど。魔法対決とやらをしに来ましたよー?」


 返事が無い。いつでも良いと言われていたのだが。昼は過ぎて人を訪ねるに丁度良い時間だと思ったのだが。


「ごめんくださーい。香草焼きの件で話をしに来たんですけどねー?いらっしゃいませんかー?」


 俺はコレで反応が無ければ魔力ソナーで家の中を調べてみようと思った。

 いきなり来て家の中を丸裸にされる、これほど嫌な事は無いだろう。だから俺はこうして声掛けをしている。

 そこで「ばん!」と勢いよく扉が開いた。


「うるさいわね!ちゃんと聞こえているわ!アンタが私を雇いたいって言う奴ね!ヨロシイ!ならば対決だ!」


 俺はどう反応したら良いのか分からなかった。この登場を一体どう解釈すれば良いのだろうか?と。

 なので目の前の「少女」の頭を撫でて落ち着かせようとする。

 その少女はズボンにシャツ、全く女の子らしくない服装。そしておかっぱ頭。顔はかなり整っている方で。


「お嬢ちゃん、お家の方は御在宅かな?お父さんか、お母さんは?今回大事なお話があって訪ねて来たんだ。」


「子供扱いするなぁァぁァー!」


 手を打ち払われてしまった。結構強い力で。目の前の少女は俺の対応に怒り心頭である。


「この家には私しか住んで無いわよ!御婆様から奇妙な話を持ち込まれたから聞いてみれば!ここ最近になって大人気になった店の二号店の店長をやってみないかと言われてみれば!」


 それこそ「きィィィィ!」と地団太を踏み始めた少女は俺へと人差し指を「びしっ!」と向ける。


「ふざけるんじゃないわよ!私はもう二十を超えてるわ!私を子供扱いした事を後悔させてやる!」


 俺が見るにせいぜい背伸びしても中学生、下手したら小学校、そんな見目をしている目の前の人物。

 ソレが二十歳を越えていると言うのだからちょっと信じられない。なので俺は。


「いや、何処からどう見ても大人の女性には・・・あ、こう言う事は思っていても口に出さない方が良いのか?デリカシーが無いって怒られる案件・・・」


「何をぶつくさと!アンタが私を雇いたいって言う輩なのであれば!私を唸らせる魔法を使って見せなさい!ソレができなきゃ私が今直ぐにアンタを消し炭に変えてやる!」


 随分と気の強い、女性、である。まあ一応は理性を保って当初の通りに「魔法対決」を進めようとしているのは理解できた。


「なあ?君はどれくらいの実力があるんだ?先ずは参考にソレを教えて欲しいんだが?一応は君が「面接相手」だと言うのは呑み込んだけど。お互いを魔法でバンバン攻撃し合う、って言った形の対決では無いんだろ?」


「当たり前でしょ?こんな場所で攻撃魔法を放ったらそこら中が火の海じゃない。私を侮辱したアンタを殺すにしたって、私がファイアーボール一つ放てば家の一つや二つは吹き飛ぶわよ?」


 フンと鼻を鳴らして俺を睨む面接相手。続けて言う。


「私の実力は王宮魔術師よりも上よ!腑抜けて努力もせずに役立たずの奴らなんか私一人で捻り潰せるわ!」


「うーん?自信の程は分かった。王宮魔術師と同等か、それ以上って事ね?じゃあどんな魔法を使えば良いかねー?うーん?と言うか、俺が魔法を使って見せてソレを俺がやったとちゃんと認識して貰えるのか?」


「はぁ?何を言っているのよ?私は魔法に関しては決して嘘も吐かないし、忖度もしないわよ?疑うのかしら?なら私の実力の一端を見せてあげるわ。コレを見て怖気づくが良いわ!」


 そう言って彼女は人差し指を立てる。その指先には小さな「炎の球」が。それが「氷の球」に変化して、今度は「水の球」へ。極めつけに今度は水が消えて短い間だけだが「パチッ」と電気になって消える。


「くふぅゥぅゥ~。どう?私はずっと研鑽を怠らずにここまでできる様になった。お望みならば街の外に出て魔物の一匹くらいは倒して見せても良いわよ?さあ!アンタに私を唸らせる魔法が使えるって言うのならここで見せてみなさい!」


 彼女はデモンストレーションをし終えた後に深い呼吸をしてから胸を張る。そして俺へとドヤ顔である。


「いや、コレは参った。初めて会った時の師匠よりも魔法に深い理解があるみたいだな。何だ?天才って奴か?努力もし続けていたんだろうなぁ。凄い。二十ちょい?でコレでしょ?いや、本当に尊敬できるな。」


 俺が驚愕して褒めた事で彼女は余計にドヤ顔である。そして「さっさとアンタも見せてみなさいよ」と言われる。

 そこで俺は使う魔法を決めた。その前に聞く事があった。


「じゃあちょっと質問。空を飛べる様な魔法は使える?」


「アンタ、何を言っているの?空を飛ぶですって?そんな魔法なんて聞いた事も無いわ。この私でもそんな絵空事、できっこないって分かるわよ?小さい子供でもあるまいし、そんな妄想、夢の話は他所でやって欲しいわね。寝言は寝ている間にしてちょうだい。」


「じゃあ決定。空の散歩にでも行こうか。」


 =====   =======   =======


「くぇrちゅいおp@あsdfghjkl;:zxcvbんm、。・¥!!!!!!」


 声にならない声とはこの事を言うのだろうな、そんな感想を持ってマルマルの街の外周を一回りする。


「このくらいで良いか。じゃあ着陸しまーす。あ、舌は嚙んでない?大丈夫?」


 家の玄関の前に着陸、その瞬間に彼女は力尽きたとでも言いたげな感じで地面に横倒しになる。そして黙ったまま。

 ひーはーひーはー、そんな呼吸音だけがこの場に響いている。


「合格かな?あ!?もしかして魔法には驚かなかったけど、高い所が単純に苦手だったとか?そうなると俺の負けになる?」


 俺のこの言葉は冗談である。どう見たって彼女の顔は驚愕で染まっているからだ。


「あ、あ、あ、アンタ一体何者なのよ・・・こ、こんな事があるはずが・・・」


 まあ空を飛ぶ事に関して寝言は寝ている時にしろとまで言われたのだ。そんな寝言を自身で体感した事を直ぐに彼女が信じられる訳が無い。魔法で空を飛んだなんて。


「まあ別に急いでる訳で無し、時間が無い訳で無し。ゆっくりと納得してくれればいいさ。あ、まだ自己紹介はしてなかったね。俺は遠藤と言う。これからは宜しくね。んじゃ、時間が必要そうだし、一端俺は戻ってるね。じゃあまた。」


 俺は横向きに倒れたままでまだブツクサなにやら呟いている彼女を放置で北の町に戻る事にした。

 本人は二十歳を越えていると言っていたし、このままにしておいても自分で自分の事は何とかできるだろう。

 対決と言う話であったが、物騒な事にならずに済んだな、そんな風に思いながらその場を立ち去った。

 きっと彼女は負けを認めてくれるだろう。そうなれば後は二号店に来て貰い、魔力での処理の仕方を教えるだけで良さそうだ。ついでに総魔力量も上げて貰うために魔力薬を随時提供して飲んで貰う形になるだろう。


「あー、そうなると風呂の湯を沸かす魔石どうしようかな?マンスリの所で買うか?自分の魔力を圧縮して人工的に作ってみるでも良いんだけど。まあお金は世の中に回すべきだな。買いに行こう。」


 久しぶりに俺はサンサンに行ってみる事にした。ついでに魔石工房のロヘドの所に行って顔を見せると言うのも良いかもしれない。

 脇道の人の居ない場所へと入りワープゲートを出す。そして直ぐに俺はサンサンへと到着だ。


「うーん!こっちは全然寒く無いねー。心地良いくらいだ。こうも違うんだなあ。ここまで来たらダンガイドリの様子も見に行ってみるかねぇ。」


 ワープゲートの悪い所は、こうも簡単に遠い地を行ったり来たりできる点だ。いや、コレを悪いなんて言い方はよろしくないのだが。寧ろ利点と言えるけれども。


「あっちもこっちも、なんて自由に行けると気になる事があったらアレもしよう、コレもしよう、って終わりがみえなくなるんだよなぁ。」


 少し伸ばせば手が届く範囲。悩ましい。移動ができなければ遠い地の気になる事へも手出しはできない。

 だけどもこうしてやろうと思うと頻繁に通う事ができてしまうと、気になれば直ぐに手を出せてしまう点は悪い所だ。

 手を広げ過ぎてしまってアソコも、ココも、と言った感じで気持ちの落ち着かせる暇も無くなる。


「俺の性格が悪いのか、そうか、ワープゲートが悪い訳じゃ無いや。」


 マンスリの店の前に歩いて向かい到着する頃には俺自身がそもそも悪いと言う結論に至る。

 しかしそれが自覚して治せるモノであったなら、今きっとこの場には居ないのだろう。一言で言えば「諦めろ」と言う事である。身も蓋も無い。


「こんちわー。魔石買いに来ました。売り場は変わってない?奥?」


 俺は店の中に入る。相変わらず巨大な店である。以前に何度か来ているので魔石売り場が変わっていなければ奥にあるはずだ。

 そうしてそのコーナーは変わっておらず、そこにはマンスリが。


「・・・久しぶりじゃの。ここへ来たと言う事はワシに何か用か?」


「いや、普通に魔石買いに来ただけ。ちゃんと金は持って来てあるから安心してよ。ちょっと大量購入するけど、問題は無い?」


「相変わらずいきなり何を言いだすのか読めん男だ。買ってくれるのなら売らぬ道理は無い。ゆっくり選んでいけ。」


 かなり機嫌の悪そうなマンスリだが、別に俺が買い物するのは止めないと言う。ならば遠慮はしないで良いだろう。


「その中に有る魔石全部で。」


「おい、今、何と言った?ふざけているのか?」


「いや、ふざけてはいないけど?あ、何個かは残しておかないと見栄え悪い?なら一番大きな奴は抜きで後残り全部は?」


「だから何を・・・本気か?」


 俺が別段冗談を言っている訳では無い事を悟ったマンスリはもの凄い睨んだ顔になる。その顔は当然俺に向けられている訳で。


「さっきは客に商品を売らない道理は無いって言ってたじゃん。何で俺が睨まれなくちゃいけないんだよ。」


「お前は信じられん事を言っていると自覚は無いのか?当然の事の様に言いおって。どれだけの金になると思っている?」


「取り敢えず冒険者証から引き落としで良いか?それで先ずは会計を済ませればちゃんとそれだけの資金があるって確認できるだろ?商品の引き渡しはその後でいいよ。」


 増々俺を睨む眼光が増すマンスリ。だが俺のこの申し出にどうやら動き出す。


「そこで待っとれ。今読み取り機を取って来る。」


 こうして五分程待たされてからマンスリが戻って来る。一緒に「読み取り機」を持ってきて。

 その後は直ぐに俺はカードを出す。マンスリに渡してそのまま手続きだ。そして魔石の合計代金がそのカードの中に有る事を確認されてから引き落としされる。


「本当に信じられん・・・何故これほどの金を持っていてウチに魔石を買いに来るのだ?訳が分からん。もういい。全て持って行け。」


「あ、ここの並んでる魔石全部の計算だったのか?まあいいや。じゃあ貰っていくよ。」


 マンスリは魔石を次々に取り出して台の上に並べていく。それを俺はひょいひょいと手に取ってはインベントリに入れていく。

 その行為にマンスリは驚かない。増々眉根を顰めて俺を睨むだけだ。


「じゃあコレで全部?有難う。それじゃまた。」


「これほどに迷惑な客はもう二度と来ては欲しいと思わん。」


「え?それ言い方酷くない?俺別に何もしてないじゃん?え?これだけの高額な買い物した客を迷惑?寧ろ上客とかじゃ無くて?」


 マンスリがどんな気持ちを込めてそんなセリフを俺に吐いたのかわからない。解せぬ。

 しかしもうここには用事は無い。店を俺は出て行く。


「じゃあ次は・・・ダンガイドリに餌やりかな?俺の事覚えてるかな?」


 俺は先ずは漁業ギルドに行って以前と同じ様に「餌」を貰いに行く。そこで一応は迷惑料をギルドに幾ばくか支払う。

 ギルドのおっちゃんには「要らん」と言われたが、半ば無理矢理受け渡して来た。


「卵の時期じゃないからゲットできないだろうけど。なんだか半分ダンガイドリが俺の中でペット扱いなんだよなぁ。」


 などとぼやきながら俺はダンガイドリの巣にワープゲートにて移動する。


「おー、何だか前よりも数が増えて無い?」


 いきなり現れた俺に警戒で大きく鳴き声を上げるダンガイドリたち。しかし直ぐに俺の事を思い出したのかその鳴き声は止んだ。


「結構頭良いんだよね、ダンガイドリ。最初の警戒心が取り除ければ飼育もやり易いと思うんだけどなぁ。」


 俺はそう呟きながら巣へと餌を撒く。そこでマンスリの店で穀物を買ってくるのを忘れていた事に気づく。


「あちゃー、前に持ってきた時にはかなり好評だったんだけどな。まあしょうがない。また今度にしてくれ。すまんな。」


 俺の言葉が通じているのか、いないのか。分からなかったが取り敢えずダンガイドリたちは餌を順番についばみに来る。


「じゃあまた時間ができたら様子を見に来るから。またね。」


 餌にパクつくダンガイドリのその姿にほっこりして俺はワープゲートでその場を去る。


「次は何処に行こうかな。ああ、魔石屋さんは順調に行ってるのかね?魔石を大量購入したし、あれからどうなったか様子見に行ってみるかな。」


 以前にロヘドの所で魔石をいじった時の事を思い出す。あの時は魔石の基礎を教えて貰って楽しかった。


「お久しぶりでーす。ロヘドさん居ますかー?」


「おう!アンタか!さあさあ入ってくれ!今日はどうしたんだ?」


 以前に会った時とキャラ違くない?そんな事を思ったのだが、そこはスルーしておいた。


「別に用事って訳じゃ無いんだけどね。以前に来た時から時間がそこそこ経ってるし、どうしてるかな?と気になって寄っただけなんだけどね。」


「おう、あれからというモノ!燃えに燃えてるぜ!仕事の依頼もバンバン受けてな!評判も上がりに上がった!アンタのおかげで俺はこの仕事を前なんかとは比べ物にならない位に楽しくやらせて貰っているぜ!」


 熱血キャラにでも鞍替えしたのか?と言いたくなるほどに暑苦しさが増している様に思える喋り方だ。

 何が彼をこれほどに燃え上がらせるのだろうか?


「あー、それは良かった。えーと、それで、今回ちょっと聞きたい事ができたんだけどね?水をさ、加熱させる魔石の「紋」はどんなのが在ったりするか教えてくれない?そうだな、規模は公衆浴場何だけどね?」


 俺は壁に魔力プロジェクターで「銭湯」の映像を流す。この突然の事にロヘドは「はい?」と呆けた顔になったのだが、その後は直ぐに俺の質問の内容を理解してジッと映像を見つめ続けた。


「これだけの量の水を湯として沸かすのか?それなら相当な魔力を蓄えられる大きさの魔石が必要になるだろう。刻むのは「火」か「炎」で良いはずだ。水の量が多ければ多い程に沸くまでに抵抗や損失が出る。そこら辺の事は実際にやってみない事には数値を出せんだろうな。」


 この説明を聞いて俺は「王子様、選出宜しく」と心の中だけで呟く。恐らくは魔石に込める魔力の量は相当なものになるであろう。宮廷魔術師が何人必要になるだろうか?

 魔力薬を飲ませ、魔石に魔力を込め、魔力薬を飲ませ、と。コレをどれだけの人数で何回繰り返させる事になるだろう?

 今の生産されている魔力薬は甘くて美味しい。そうなると連日大量に飲めば糖尿病まっしぐらになってしまう可能性が。


「ああ、有難う。助かった。参考にする。それじゃあコレ、助言の代金だと思って受け取ってくれ。」


 俺は握り拳大の魔石を渡そうとインベントリから取り出した。しかしこれにはロヘドが。


「馬鹿野郎!そんなホイホイとこれだけの大きさの魔石を代金として払う奴が居るか!しかも何でこんなに美しい「球」なんだ!」


 怒られた。そう言えば婆さんにも支払い過ぎはイケない、と言われたばかりだった。

 俺は別に魔石にそこまでの価値を見出してはいないので少し、いや、大分雑だ。いざとなったら自分の魔力でも圧縮して魔石は作り出せる。


「金の事なんて気にしないでもいい。寧ろ今俺は金が取れるだろうモノを見せられているんだ。こんな面白い画を見せられてこっちが支払いたいくらいだ。何だよ、この動く「画」は?」


 どうやら俺が見せた「銭湯」の映像をロヘドは面白いと感じてくれたらしい。

 俺はこうしてロヘドの魔石工房を後にした。風呂を沸かす為の魔石の大きさはどれくらいが良いだろうか?と思考しながら。


 しかし次には北の町のどこら辺に浴場を建てるかを悩む。


「うーん?町の中心部が良いのかね?もしくはスキー場の側?だとすると残ってる土地あったっけ?」


 修正をしなければならない点が二つ三つと次々に出て来る。こうなると香草焼き二号店の事もだ。


「あー、氷の家がある場所に浴場を建てるか?その隣に開いてるスペースあったっけ?あ、そうか。浴場の建屋の中に香草焼きの店を作っとけば良いのか一緒に。」


 合体させれば簡単だ。一風呂浴びた客が空いた腹に香草焼きを入れると言う流れがコレでできるはずだ。


「そうなるとそこに地元の食堂の名物料理も一緒に併設・・・あ、香草焼きに絡めて食べるともっと美味いか?」


 妄想が膨らむ、捗る。どうやら休憩と称してぼーっとする時間を取った事がここで頭の回転に余計な勢いを付けさせる要因となっているらしい。


「その前にちゃんと食堂の方も店の移転して貰う話もしなきゃいけないか?店員も何もかも全てセットで?」


 余計な事ばかり思い浮かんで休まらない。別に悪い気分にはならないし、寧ろ楽しんでいるから質が悪い。


「クスイが来るからどうせならこの町に魔力薬製造工場を建てる・・・あぁ、また余計な事を・・・」


 風呂を魔石で沸かす関係上、魔力薬をマルマルから流通させると言った事は経済を回す事に繋がるが、正直に言ってまどろっこしい。

 世界に魔力薬を流通させると言う事も前に口に出していたような気がする。


「この町で雇用が生まれるだろうし、悪い事では無いよな?アレ?思考が変な方にどんどんと倒れていく・・・」


 こうして考えた事は殆ど物理的な土台は俺が作っておいて、後々で中身の充実は他人任せにしてしまう。本当に俺と言う奴は無責任な男である。


「金だけ出すから、後はやっておいて、だもんな。ホント、クズだな?いや、本当のクズってものを俺は知らないな。想像だけはできるし、そんな奴がこの世に何人も居るのかもしれないけど、会った事も無いし?」


 俺はぶらぶらと歩きながら海へと到着した。サンサンの海は青く、夕時の赤い空になるまではまだまだ時間がある。


「えーっと?沖縄時間、だったっけ?ゆっくりと時間を感じる状態をそう呼ぶのかね?そうなると今はサンサン時間?波の音が心地良くてずっと聞いていられるなぁ。」


 そんなふざけた事を思い浮かべながら俺は椅子を取り出して座る。ジッとそのまま動かずに寄せては返す波を見続ける。

 そうすると先程まではアレもコレもと増殖して行っていた思考が止まる。綺麗さっぱりと頭の中は真っ白になり、時間の経過すらも意識は置き去りに。


 そしてハッとしたのは耳に波の音以外が入ってきた時だ。


「あ、コレは俺が以前にやらかした曲・・・まさか誰かが耳コピで?」


 ソレは俺が懐かしさとシチュエーションに動かされて流した「フライ◯イナイトファンタジー」である。しかも完璧だ。


「ああ、やらかしちゃったなあ・・・帰ろう。頭の中もすっきりしたし。」


 こうして俺は北の町へと曲を聞き終えてからワープゲートで戻った。

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