狡い?
で、こうして道を迷わずに三十階層に突入した。途中ゴブリンに、ゴブリンに、ゴブリンに、ゴブリンに幾度も幾度も出くわしたが、それらをあっと言う間に俺の魔法で撃破してここまでノンストップである。
そもそもゴブリンは別に「要らない」かららしい。部位を剥ぎ取る部分もなく、そしてギルドの依頼で狩る訳でも無い。
なので旨い話も無く只の邪魔者であるらしい。ダンジョンの中では。
「それにしたってここまで休憩なしとか・・・きついぞ?」
「ねぇ?脚がパンパンなんだけど?いい加減休みましょ?」
「なあ?エンドウの後に付いて来て、ここまで一切迷うこと無く来たが、コレ、どうなんだ?」
「はぁ、はぁ、はぁ。ワ、私はどのような事が有ろうともエンドウ様について行きまシュ・・・」
俺とラディの位置を入れ替えてここまで来た。何かあれば魔法で対処をすぐにできるからだ。
で、ミッツがどうやら限界っぽかったのでしょうがないから休憩を入れるために俺は三十階層のスタート地点で立ち止まる。
もちろん後、五階層でどうやらヌシの居る場所なので丁度いいだろうと思っての事だ。
ここまでに魔力をダンジョン全てに流して罠は一つ残らず解除しておいた。三十五階層まで、きっちりと。
迷路になっている階層は全部脳内マップで解決した。ゴールまでのルートを赤線で繋げるようにイメージしたらあっと言う間にソレが引かれた。
後はそのナビに従って進むだけ。簡単過ぎて逆に俺の方がうすら寒くなったほどである。
今までのダンジョン内は広い洞窟内と言った感じであったが、二十階層からは床も壁も天井もタイルで綺麗になった階層でしかも視界も良好と大きな変化が現れたのだ。
コレは良くある現象らしく、どうやら一段階、ヌシとやらがパワーアップした証拠と言う事らしい。
「ヤバいわね。こんなに急激に変化を起こすとか、聞いた事無いわよ?ソレが私たちがダンジョンに入ってから起きたとか。ちょっと笑えないわね。」
マーミは床に座り込んでふくらはぎを揉み揉みしながらそう苦い顔をした。
「あのキメラのせいだったのか、あるいはヌシが変化を起こしている異常を判断してキメラがあそこにいたのか。どっちかな?まあ過ぎた事は考えるだけ意味ねぇしな。」
カジウルは大きく一息ついている。そこにラディは付け加えた。
「おそらくだが、ヌシの変化が中心だろう。あれだけの数の魔物が密集するまでは時間が掛かる。ならば俺たちが入って来る前に変化が起きていたはずだ。そこにのこのこと入ってきちまったと言いう事だろう。」
ミッツは黙って水を口に含んで喉を潤していた。でもどうやらその水魔石の中の魔力が少なくなっていたようで言葉に出す。
「もう、水が少ないですよ?予定とは大幅に違う行動を取っているので当たり前ですけど。皆で飲んでいましたからね。ですけどここまでの速度で消費するとは・・・」
ここまで来るのにノンストップだったので四人は水を結構な量消費しつつの突貫だった。
なのでコレも仕方が無いと言った所だろう。
「じゃあさ、教えてくれない?その魔石への魔力の込め方。俺まだ魔力有り余ってるし。」
この言葉に四人から白い目で見られた事には解せない。
しかしミッツはそんな目はしていませんとばかりに即座にその水魔石とやらを取り出して俺に差し出す。
「コレを手に乗せて普通に魔力を出していただければ魔石がソレを吸収します。ですのでコツなどはありません。そもそも魔石と言うのは魔力を吸収する性質を持った特殊な鉱石です。そこに水を発生させる魔法陣を彫り込んでいるのがこれなんです。」
ミッツは魔石と言うモノがどんなモノなのか教えてくれた。
「へえ?じゃあやってみますかね。うーん?魔力を出す、出すねぇ・・・」
魔力を手に集中して少しづつあふれ出るイメージをしてみる。そうするとソレが吸われていく感覚が手に感じられた。
ドンドンと吸収していく魔石。でもある程度ソレが為されたらピタッと止まったしかし、俺の魔力はそのままである。
突然ピタリと止まる物だから俺も流す魔力を止める事ができなかったのだ。
で、次に起きた現象とは。
オーバーフローであった。
俺の手の平から大量の水がバシャバシャと生成されて床を濡らす。それはもう壊れた水道の如くに。
驚きで「うおっ」と言って魔石をミッツへと放った。それを見事にキャッチしてくれる。
「おいおい、ドンダケ魔力吸わせた?ってか、魔石ってよ?こんなに短時間で満タンになるのか?つか、満タンにできたのか?つか、出来んのか?」
カジウルは大分混乱しているようで同じ言葉を繰り返す。
床をビシャビシャにするほどに水浸しでマーミが立ち上がって「やだっもう!」と呟いている。
「魔力・・・込め過ぎでしょ・・・どのくらいの魔力を吸収させたらそうなるのよ・・・」
で、俺は責められている。量を少しづつ手から出すように意識していたと言い訳しても信じて貰えなかった。
「そりゃ密度のせいだろ。ほんの少量とは言え、それでも魔法使いによっては絞る量は変わる。エンドウが少量と思っていた分は魔法使い数人分の全力と同等だと言う事だ。」
何ソレ、と俺は唖然としてしまった。そんな馬鹿な、と。
これでも魔力コントロールは上手く行っていると自覚があるのに。でもそれが自分の保有している魔力量、魔力密度にかんしては考えていない事を意味していた。
そこの部分をこの時点での俺はまだコントロールできていなかったのだから。
「取り合えず水は確保できたので良いとしませんか?それと休憩もしっかりと取れた事ですし。先へと進みましょう。」
ミッツはそう言って休憩の終わりを提案して先に進もうと言ってくれる。
本日の時間はまだまだ残っている。今日中にヌシの居る部屋の前まで行って休息を取り、翌日の朝に突入で予定は決まった。
こうして残りの五階層の突破を余裕で俺の魔法により達成する。
ここまでに魔物と言えば、ものすごく大きいスライムだったり、ものすごく大きい牛人間?ミノタウロス?牛を二足歩行させて巨大なバトルアックスを持たせた醜悪な魔物だったり、鞭の様な枝を操ってこちらにぶつけようとしてくる巨大な木だったりとバリエーションはあった。
それらは何故か広場に一体だけポツンとこちらを待ち構えるようにして存在していて、まあ、全て俺の魔法で一撃で殺してここまで急ぎで着ていた。
目的はこのダンジョンの攻略なので時間を余り使ってしまうのも勿体無いと言うか、そんな時間的余裕も無かったので仕方が無い。
で、どうやってそいつらを倒したかと言えば、スライムは高熱を放って蒸発して貰った。
あのモヒカンを文字通りこの世から「消した」魔法と同じものを。
ミノタウロス、と言って良いのかどうかは分からないが、そいつはどうやら使える部分があると言いう事なのでそいつの眉間目掛けてバキューン!と言った感じで拳銃を放つイメージをした結果、そのイメージ通りに眉間へ風穴があき牛魔物は即お亡くなりになられましたとさ。
で、それもインベントリに放り込んである。部位剥ぎ取りとか時間的にやってはいられないのでそのままブッ込んでおいた。
木の方はと言えば全身が全て木材として凄く優秀らしく、どうにか出来ないかと言われた。
木だし燃やせば良いか?と思ったのだがその話を聞いてどうやってこの魔物の活動を止めればいいのかがわからなかった。
しかしラディはその方法を教えてくれた。
「普通に根元を切ればいいんだがな。しかしそれができるパーティーは専門屋なんだ。トレントを狩る、な。しかもこいつはエルダートレントだろう。その専門家ですら手こずる相手だ。下手すりゃ大怪我じゃ済まされないと聞くぜ。・・・でも、まあ、お前なら何の心配も無いのだろうな・・・」
もはやここまで来る間に俺への心配というモノをしない方向に行っている様子だ。ラディだけでは無く残り三人もその様子。
俺は残念でならない。人から心配されなくなると言うのは確かに信頼という言葉の面でなら非常に頼もしい、良い事なのだろうけれど。
でも、まだ俺は冒険者として駆け出しなのである。そこら辺を忘れて早々に俺への評価が「心配するだけ無駄」な所まで行ってしまったのは凄く悲しい事である。
それはスライム、牛の魔物、と連続で速攻そいつらを片付けてしまったが故なのだが、そこら辺の事を今の俺が自覚していないので自業自得ではあったのだが。
そして俺は脳内で電動木材カッターを想像する。円盤状のノコギリが高速回転である。
もう一つチェーンソーを想像する。一方の電ノコは右から、チェーンソーは左からと両側から同時に切っていくイメージを固める。
ソレを魔力で放った。その何とかトレントに。すると見えないノコギリが凄まじい勢いで根元からギュインギュインと木をエグイくらいに削っていった。
「ぎょえぇエエぇエエエエぇエエーー~!」
と、この世のモノとは思えない断末魔を上げながらもがき苦しみつつ切り倒される木の魔物。
ドスンと倒れた時にはその動きは止まり、既に事切れて?いる様子だった。
周囲には木屑が散乱していた。これらも回収しておいた方が良いのだろうか?そう思ってまあ掃除だと言った感じで風を魔法で作り出し、それらを小さい袋へと吸い込ませるように集める。もちろんイメージはあの有名な掃除機である。
それでこうも想像した通りに木屑が綺麗に集まって袋の中へと自動的に全て集まるのだから呆れると言うモノだ。
で、切り倒された木材もインベントリの中へと放り込み全て終了だ。
四人はコレを見てまたしても白い目を俺に向けてくる。
スライムの時も、牛魔物の時も、同じ視線を向けられた。コレでもうこの様な視線を送られるのも慣れた、かと思わせて納得は行っていない。いや、仕方が無い事だと言うのは理解できているのだ脳内では。しかし感情としては解せぬ。
こればっかりは四人の方が慣れてもらいたいモノである。
こんな感じで31階層、33階層、34階層とその三体しか魔物に出会わなかった。
そして目の前には35階層のヌシの居る部屋の扉前である。
大きな鉄の門が我々の前に立ちはだかっていた。
「で、何でヌシの部屋にだけこんな扉が?今までそんなものは無かったはずでしょ?コレ、どういう事なの?」
俺は不思議でならない。扉なんて今まで一つも立ち塞がっている場所など無かったのに、ヌシの部屋は別と言うこの妙な演出?
「あー、それはな。ヌシが要するに倒されればこのダンジョンはお終いだろ?で、そう言ったモノを守るのは何だ?意識としちゃこう言った重厚な門って言うのはよ、「入って来るな」とか「門前払い」とか、そんな感じな訳よ。」
「そう言った意識が自然と門と言う形になる、って事?不思議だねぇ。」
俺はダンジョンに関して何も知らない。だから不思議としか思えなかった。
「ダンジョンって入り口から最奥まで繋がって無くちゃいけないらしくてね。狭い小部屋に引きこもっているんだったらこんなに広大なダンジョンは必要無いし。だから門で「区切り」を付けているって言う説はあるのよね。」
膨大な魔力でダンジョンはできている。ならば隔離された部屋ではいけないのだろう。ヌシと繋がっている。その事実が無ければここまで大きなダンジョンは維持できないと言った所か。
だからヌシの居る部屋は特別に「繋がっている」しかし「区別されて」いると言った感じなのだろう。
「そういや珍しくも無い話だが、門に鍵がかかっているダンジョンってのはあるな。そう言った場合は何故か隠し部屋なんてモノが存在してそこにはその門の鍵が入っていると言う事らしい。意味不明だよな。」
ラディはそう言った門も存在すると言っている。ヌシは危険を拒絶しているハズなのに門の鍵を外に置いている。
部屋の中に鍵を入れてしまえば門は閉まったままで危険を入り込ませないで済むのにもかかわらず、何故そんな仕様になっているのか謎だ。
寂しがり屋なのか?と言った冗談が俺の頭の中に浮かぶ。
「私たちはそう言ったダンジョンとは出会った事が無いですけどね。では休憩しましょう。」
どうやら門はこちらから開けようとしなければ勝手に開かないそうだ。
ヌシが部屋の前にいる敵対者を感知していきなり開門して奇襲をかけてくる、と言った事は無いらしい。
何とも良く分からないモノである。危険が目の前に迫っている。しかしそれを受け入れているとしか考えられないこのルール?
しかしそう言った事を守らないとダンジョンとは維持できないルールなのかもしれない。
ここで何を考えても答えは出ない。
取り合えず俺はここに繋がる通路を閉じ、換気をする為の穴を天井に造って一度目の時と同じように安全と空気循環を確保する。
魔力を一度目にした時よりも使ったのは多分この階層がより深い所にあるからだろう。
おもに換気口を地上へと繋げるのに少々時間が掛かった。それだけ地下だと言う手応えなのだろう。
こうして安全確保をした後で俺は調理を始める。食事をまともに取らずにほぼノンストップで着ていたので腹がペコペコだ。
しかし未だにそんな俺を白い目で見てくる四人。いや、ミッツだけはもうそう言った目をしてこなくなっている。
だが、次の俺の発言で四人は固まってしまった。
「なあ?あの途中で居たデカイ斧持った魔物。アレは食えるのか?もしそうならここで解体して肉を試食してみたいんだけど?」
マーミから「ひぇ」と短い悲鳴が上がる。
カジウルは「おい、食うなよ」と苦い顔。
でラディからは「売れば幾らになると思って・・・」で。
ミッツは「一生に一度は食べてみたいものですけど・・・」であった。
どうやら食べても大丈夫らしい。でも気になるのでそこら辺はちゃんと聞いておく。
「なあ?もしかして高級食材?マジで?」
四人がウンウンと一斉に頷く。倒した時は何も説明してくれなかったのに。まあ多分呆れる方が優先で説明し損ねたのかもしれないが。
「じゃあ、コレ、そのまま丸ごと売り払った方がいい?」
「ギルドの買取額は確か・・・いくらだマーミ?」
「魔白金二枚・・・行くんじゃない?だって余計な傷一つ無い全身よ?あり得ないわね、普通は。」
「そもそもコレをギルドが買い取るかもわからねえぞ?前例が無い。そのまま有力な商会に持ち込んだ方が高い値が付くだろうな。でも、その分手続きは増えるだろうがな。」
どうやら牛の魔物はお高い値が付く代物であったらしい。コレは確かに食べるのは憚られる。
牛肉と同じ味がするか確かめたかったのだが、どうやらそうもいかないようだ。
「このダンジョンは私たちが攻略しなければ、どうやら冒険者への被害は大きかったかもしれないですね。そもそも出て来た魔物三体。あれらは非常に強力な魔物でしたから。」
ミッツはそう付け加えて顔を俯かせる。
情報無しに階層を下ってそいつらに遭遇。強い魔物への準備が不十分で撤退、あるいは冒険者が怪我、死亡と言う悪い結果へと繋がっていたかもしれないと。
で、牛の魔物はその強力な魔物の中でも有名であるらしい。浅い階層でそのまま俺たちが帰還していた場合、その後に入る冒険者の危険はけた違い、と言った感じになっていただろうと言う。
キメラが居ただけで非常に危険だったのに、その奥に潜ってもコレ。どうやらこのダンジョンはかなり長い年月をかけて成長してきたモノだと言う結論を四人は出していた。
「で、そんなダンジョンのヌシはもっと危険なんじゃ無いのか?」
この俺の言葉に「何言ってんだコイツ」と言う何度目かの呆れ顔をされた。全員に。
「・・・エンドウよ?お前自分の事が分かってねえのか?」
「そうよ?貴方よりもヤバい魔物の話なんて聞いた事ないわ。」
カジウルが俺の事を非難し、マーミは俺を魔物以上に危険だと言ってくる。解せぬ。俺は魔物では無い。比べないでもらいたモノである。
この世界の事を俺は確かに知らない。だからこそこの先に未知の危険が潜んでいる可能性があるのだから、それを警戒して何が悪いと言うのか?
そもそもこの世界の住人、しかも冒険者などと言った職をしている者の言葉とは思えない。
危険と隣り合わせ、いつその危険が自分に振りかかって来るか分からない。そして未知と戦うお仕事である以上は自分の知らない危険と向き合う可能性を否定なんてとてもできない。
なのに俺を事をどうしてそこまで言えるのかと。俺でも対処できない事が発生するかもしれないではないか。ソレを言うと。
「いや、慌てふためくエンドウの姿を想像できないんだが?」
ラディにそう言われ、ミッツからは。
「エンドウ様にできない事などあるはずがありません!」
言いきられた。何処まで俺を盲目な目で見てくるのか?非常にドン引き具合が深まっていく。ミッツに対して。
俺の事などそもそも何も知らないだろうに、その信頼と言うか信用というモノは何処から湧いているのであろうか?
ともあれそんな話をしつつ俺はエコーキーの肉を調理する。
簡単に塩コショウで焼いただけのものだが、シンプルな故に地味に美味い。
こうして食事を終えて睡眠である。ちょっと寝るには早い時間だったが、それでも身体はクタクタだったらしく皆その時は全員でグッスリと眠った。
「よく眠ったわね。あーなんか憂鬱だわ~。」
マーミがそんな風に言いつつ背伸びをグッとして起き上がる。
最後に起きたのはマーミであった。一番最初に起きたのは俺である。
なので朝食の準備をして全員が起きるのを待っていたのだが、丁度マーミが起きた所で完成した。
「じゃあ食べようか。ここを開けばヌシなんだよな。なら早い所中を覗いてみて駄目っぽかったら即撤退にしよう。」
俺はそう言っていい香りのする肉を頬張る。
この俺の言った「即撤退」と言う言葉を聞いてカジウルが呆れた。
「エンドウが対処できないって言っちまったらよ?多分だぜ?国の兵士をいくら投入しても無理なんじゃねーかな?」
「キメラの時もそうだが、ああいった魔物は兵士を百人単位でぶつかってやっとだぞ?ましてや最後の三匹だけどよ。アリャどう見てもそう言った強力な魔物だからな?エンドウがソレをあっさりと倒しちまったから誤解してるかもしれないが。いや、俺たちも錯覚しそうになっちまってるんだよ。こういうのはヤバい傾向だ。」
カジウルに続いてラディも俺に注意をしてくる。遠回りにお前はオカシイと。
でも、自重のせいで嫌な思いをしたり、失敗をしたり、後悔をしたりと言ったモノを受けたくない。起こしたくない。
ましてやここはダンジョン。街のど真ん中では無い。しかも目撃者は四人しか居ないのだから。しかも今は彼らはパーティーの仲間である。
彼らが「抑えろ」とは言ってもここまでの道中は全て彼らは俺に頼っての探索であるのだ。
ならば文句は受け付けない。
「じゃあ俺抜きでヌシとやり合ってくれ。それなら均衡が取れるだろ?」
これにマーミは慌てて止めに入る。
「この馬鹿二人の事は私が謝るから!どうかエンドウが対処してくれない?ホラ!あんたらも謝りなさいよ!ここまで来てエンドウの事を悪く言うとか!あんたら舐めてんの!?」
バツが悪そうに「悪く言ったつもりは・・・」と言い訳している男二人。誰も得をしない。
「あー、分かってる。ここまで来たんだ。国の兵士を呼ぶにしたって時間はかかるし。ましてや俺たちが攻略した場合は何かしらギルドから追加報酬とかが有ったりするんだろ?どうせ。分かってるよ。」
俺は先程の提案を取り下げる。するとミッツが追加報酬の話をしてくれた。
「ダンジョンを攻略した場合はランクが一段階無条件で上がります。それと報酬金も余計に多く受け取る事ができますね。でも今回は攻略した事を報告しても調査が入るでしょうけど。」
どうやら直ぐにもらえると言う訳では無いらしい。その理由として。
見つかって間もないダンジョンだから。
このダンジョンに入った冒険者の数が少なく情報がその分少ないから。
らしい。でもすぐに貰う事の出来る場合もあるそうだ。それは。
ダンジョンのヌシを討伐した証明部分を提出する。
最初から調査員付きでダンジョンに潜ってヌシを討伐した確認を取ってもらう。
と言った方法らしい。コレはどれも今回当てはまらないだろう。
調査員同行の場合はダンジョン内の危険を排除して最後のヌシの討伐だけに絞られた場合の特殊な条件である事。
ヌシがそもそもどのような魔物なのかが情報が無いので、今回倒した場合、その魔物の一部を持って帰って提出しても本当にヌシの討伐部位なのかの証明ができない事、である。
「じゃあ行くとするか!先ずは俺たちが様子見をするから、エンドウは援護を頼むぜ。ここまで俺たち良いトコ無しだったからな。」
カジウルはどうやらゴブリンをブッ倒したあの戦闘だけでは足りないと言っている。
「じゃあ、ちょっと待ってくれないか?やってみたい事が有る。」
カジウルの背中に俺は手を当てて魔力を込めた。ラディも、マーミにも、ミッツにも。
魔石に魔力を補給した時よりももっと魔力を絞って搾って出来得る限り少量を四人の全身に行き渡らせた。
「な、何をされたのですかエンドウ様!?こ、この身体の中から力が湧いてくるかのようなコレは・・・」
「よし、成功かな?じゃあちょっと実験にヌシと戦闘して見てくれ。上手く行けばいいんだけどな。」
俺は早速扉に手を掛けて開けようとしたが後ろから首根っこ掴まれて引き下がらされた。
「おい!何をしやがったんだオメエはよ!説明が先だろうが!先!」
カジウルに怒られてしまった。なのでちょっとだけ説明してみた。
「俺の魔力を全員の身体に行き渡らせたんだよ。力が上がるようにって感じで。」
「おい、お前はなんて事してるんだ・・・それ本当に大丈夫なのか?副作用とか、障害が出ないのか?そもそも他人に魔力を分け与えるだって・・・?」
ラディが震えた声でそう尋ねてくる。
「なあ?魔力って単一的なんだろ?ここまで来る間に遭遇した魔物の魔力を調べてみたけどさ。違う魔物でも魔力なんてのは別に何の違いも感じられんかったんだが?しかもさ、そもそも、俺の持ってる魔力と何ら変わらんのよな。」
「は?あんた何言って・・・まさか、それ本当なの?どう言う事よ?」
マーミが俺の結論に、より詳しい説明を求めて来た。
俺はここまで来るのに脳内マップで調べながら来たのだが、魔物から感じる魔力は全て何も変わらない同じ感覚だった。
そして俺が魔石に魔力を供給した時に初めて自分の魔力と言うモノをまじまじと観察したのだが、全くそれらと同じである感覚しか得られなかった。違いが無い。それは魔力と言うモノは単一的で全ての生命が持つ魔力とはみんな全て根源を同じにしているのでは?という答えだった。
「だからさ。俺がこういった効果を付け加えたいと思った魔力を人に分け与えたら、その効果が分け与えられた存在にも効果を発揮するんじゃないかな、と。で、成功したらしい訳だ。そうすると俺の仮説は正しい可能性がある。だから多分魔力の効果が切れても別に悪いものは残ったりしないと思うんだがな?」
「そ、そ、そ、そ、それは!ソレは今までの魔法学の常識を壊す物です!?もしかして、私の魔力の反応も?エンドウ様と同じ?全く?」
ミッツはそう驚愕の顔をして固まった。
「だって、今ミッツは言っただろ?力が湧いてくるって?で、俺は身体能力の全体的な向上を想像して・・・ああ、何か駄目だったか?」
カジウルはポケーっと魂の抜けたような?
ラディはかなり難しい顔をして黙ってしまっていた。
ミッツは固まった状態から元に戻らない。
「あのね、魔法使いってさ、得意な魔法って言うのがあるって話でね。それは個人個人で持っている魔力の質が、あるいは波長?とか言うのが一人一人違うからだとか言う説があるのよ。それが今世界では常識でさ。実際問題、炎の扱いは上手いけど、風や氷の扱いができないって魔法使いもいるのよ。」
「へー、狭い了見だな。別の可能性を調べてる奴とかは出なかったのか?」
「そもそも・・・あーもう!魔力を感知できても、その感覚?違い?って言うのを判別まで出来るようなモノはこの世にまだ生まれ出ていないみたいよ?コレで分かったでしょ?」
「あーそう。俺が異端って事か。なるほどな。分かったこの件は誰にも話さないでおこう。あ、師匠だけには話していいか?」
「あーもう!勝手にしたら!?」
マーミに呆れられつつ怒られるという器用な御説教をされてしまった。
そんなこんなで時間が過ぎていく。しばらくの間、混乱を極めていた四人はやっと落ち着きヌシの部屋への突入の心の準備をもう一度した。