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冷静になれば気付く

 俺はクスイの姿を探したが、何処にも見当たらない。どうやら馬車の中に居る様だった。

 どうやってコンタクトを取ろうかと悩んでしまう。俺がこのまま馬車の側にいきなり出て行けば不審者だと警戒を持たれてしまうだろう。

 そうなるとその誤解を解くための手間と労力が掛かる。クスイが直ぐに馬車から出て来てくれれば直ぐに解決する事だが、安全の為にそう易々と出てきたりはしないだろう。

 それにそんな事をすると馬車の進行を一時的に止めてしまう事に繋がってしまう。


「まあ会って顔合わせ無いでも俺が勝手に魔法を掛けて置けば良い話か。また今度クスイに会った時にでも事情は説明すれば良いだろ。」


 そんな軽い気持ちで俺は各馬車へと必要だろうと思われる魔法は掛けて置く。それと少しだけ馬車を引く動物に対して身体強化を掛けておいた。


「これくらいで良いか。んじゃ町に戻ろっと。」


 俺は空に浮かんだままでワープゲートを出す。魔法を掛けて負担が減ったクスイ一行はスイスイとその速度を上げて街道を進んでいる。

 ソレを少しだけ見送ってから俺は北の町に移動をした。王子様を迎えに行くのにもまだ時間は余っている。夕方前までは向こうで過ごすつもりだ。


「さて、戻って来たけど・・・一応はざっくりとやりたい事はやり終えてるんだよなぁ。スキーにスノボにスケート。カマクラに雪像作りに。後はメンバー人数が集まらないとできない系のしか無いよな?」


 雪合戦にアイスホッケー、スノーフラッグなど?取り敢えず俺はここで一つ大きめに息を吐いて落ち着く事にした。

 ハイペースで遊び過ぎなのだ。ここで少し癒しが欲しい所だ。


「んぁ~。そうだなあ。綺麗な夜景とか欲しい所だな。町のそこら中に雪灯籠を作ってそこに光の魔法でも灯しておけばよさげ?」


 俺はまた勝手に頭の中が暴走仕掛ける。コレを俺は激し目に頭を左右に振って妄想を振りほどく。

 一度落ち着きを取り戻そうと思って俺は宿の自分の部屋へと入る。


「街道の安全も確保したし、遊びたいと思った事は一通りやった。後は、ゆっくり部屋でお酒をちびちびやりつつ白銀の世界を窓から堪能するか。」


 どうやらどうにも反動がここで訪れたらしく、部屋に入って俺の気持ちは急激に落ち着きを取り戻し始めた。

 しかしここで昼食がまだだったと思って町の食堂の方へと向かう。

 そこでまた同じ料理を注文して食べて腹を満たす。この食事が俺は気に入っていた。


「ムゥフィーグの件はどうなってんのかなー?・・・なんかここに来ていきなり熱が冷めて来た。どう考えてもやり過ぎたよなーコレは。」


 俺の思い付きで一つの町を大胆に改造し過ぎである。魔改造だこれでは。


「やっばい。今になって何か申し訳なくなってきた。あー、どうしよう?逃げようかな?」


 俺がこの町でやる事はもう殆ど無いと言って良い程である。王子様に後の事を全部丸投げをしているのだから当然だ。

 何かあれば「後は頼んだ」「国でなんとかしといて」「お膳立てはしておいたから後は宜しく」でと押し付けてある。

 これ程に無責任な事があろうか?しかしもう遅い。俺が言い出しっぺであり、そしてその言をここまで実現した後である。

 事後のフォローなど全く考えないでここまで一人で突っ走ってしまってもの凄く恥ずかしい。いや、何かあればフォローはする、ちゃんと求められれば。


 今更に冷静になり始めてしまってどうにも居た堪れない気持ちになりかける。


「いや!そうじゃない!俺は別に悪い事した訳じゃ無いんだから堂々と胸を張って・・・張れないな。逆に寧ろ俺がここでドヤ顔していたらマーミから張り倒されるレベルだわ・・・」


 ネガティブに考えていてもしょうがない。なので俺は食事代金を払った後は直ぐに宿の部屋へと戻った。

 こう言った気分は時間をかけてゆっくりと元に戻せば良い。


「カジウルと酒でも一緒に飲もうかな。・・・ん?カジウルは何処に行ってるんだ?宿には、居なさそうだな?」


 ラディはきっとスキーに、マーミはスケートだろう。二人はどうにもそれらがかなりお気に入りらしいので直ぐに予想ができる。

 ドラゴンは何処にでも好きな所で遊び惚けていれば良いだろう。勝手にやっていてくれと言った感じだ。

 師匠は恐らく暇さえあればチェスの事でも考え続けているだろう。定石を見つけるために頭を捻っているに違いない。

 カジウルは、この時間は何処に行っているのかが想像できない。魔力ソナーを町全体に広げてしまえば居る場所なんて直ぐに見つける事が可能なのだが。


「まあそんな野暮な事をするのはつまらんよな。散歩がてらあっちこっち見て探すか。」


 俺はそう決めて部屋から出る事にした。町の中をぶらぶらと歩きながら雪溜まりがあればソレへと魔力を流して雪灯籠にしてしまう。

 俺が歩けば歩く程に町中にあちこちランダムで雪灯籠が乱立する。誰もコレを止める者が居ない。

 こういう時に俺は調子に乗ってるなぁ、と思ってしまうのだが。なんだか町の中に妙に雪の残っている所があると気になってやってしまうのだ。


「さて、どうやら町の中にはカジウルは居ないのかな?街道の方には出ていないだろうし。じゃあ森の方か、山の方か?」


 ラディとクロスカントリースキーをした方面へと俺は向かう。カジウルが居るなら人目の付かない場所だろう。

 邪魔な木々が無い小さい広場に居るのではないかと推測する。まだ俺は魔力ソナーを使っていない。

 王子様を迎えに行く時間までは余裕はたっぷり残っている。別にカジウルを見つけるのは急ぐ要件でも無いし、重要でも無い。

 こうして探し歩きながら今までのやり過ぎていた熱を冷ますのだ。雪で埋もれた光景の中、深呼吸をして冷たい空気を吸い込んで深呼吸をする。


「すぅ~、はぁ~。よしよし、カジウルの持ってきた酒でも一杯飲みつつ今日の夜は静かに過ごそう。」


 俺は当ても無く森の中を暫く歩く。でもカジウルが見つからないのでとうとう魔力ソナーを解禁した。

 そしたら直ぐ目の前、10m程先へと進んだ先にその反応があった。


「何だよ。直近まで来てたのか。おーい、カジウル。」


 俺はそちらへと向かいながら声を掛ける。


「・・・あぁぁん?何だよ、エンドウか。見つかっちまったなぁ。まあ、いいや。今日はこれくらいにしとくかぁ。」


 カジウルはどうやら剣の稽古をしていたようだ。雪がカジウルの踏み込みによりどこも踏み固められている。

 動いていたのだろう範囲だけに雪が無く、その周囲は腰辺りまで雪が積まれていてちょっとした壁になっている。


「なんだ、この場所を確保するのに雪かきでもしたの?」


「秘密の訓練場だよ。お前には見つかっちまったがな。で、何か用なのか?」


「ああ、カジウルと酒を酌み交わしたくなった。一緒に飲もうぜ。」


「それって俺が持ってきた酒だろ?・・・まあ構わねえけどな。」


「何だ、拒否すると思ったけど。良いのか?」


「お前とサシで飲むんだろ?別に悪い事はねぇよ。じゃあ行こうぜ。」


「あ、夜でお願いできるか?夕方前に王子様迎えに行かないといけなくてな。」


「あぁ~、レクトが王子様だったとはなぁ。ホント、俺だけ気付いて無かったのは情け無いと言うか、鈍いと言うか。」


 今はもうカジウルはレクトが王子様だと知っている。部下を大勢連れた王子様を見ているからだ。

 既に皆からはツッコミを貰い、カジウルは散々揶揄われている。


「なあ?カジウルは遊ばないのか?何かしら一つはやって見たりとかは?」


「俺は酒飲んで美味いツマミを食ってりゃ幸せだよ。冒険者としての活動としてはもう大金を手に入れちまって動く気にならねえ。だけどイザと言う時に動け無ぇってのは流石にそうなりたくは無いからこうして剣を振ってるんだ。遊ぶのはもうちょっと今の気持ちが落ち着いてからだな。」


 どうやらカジウルは冒険者活動を休止すると言う事らしい。そして動かねばならない時に「動けない」なんて事が無いようにする為にこうして今も剣を振っていると。


「マーミも俺と多分似た様な心境だと思うぞ。アイツは弓だろ?だけどもそれも手に入れちまった。そしてその後は充分な金も手に入れた。そもそも俺らは名声なんてモノを欲しいと思わねーし、執着も無い。エンドウに出会え無ければきっと冒険者をヒイヒイ言いながらずっと歳とって辞める理由ができるまでやってただろうな。上を目指す事は一時目標だったが、それもより一層金稼ぎの効率を上げる為のモノだったしな。」


「もしかして、引退って事?つむじ風は。」


「いや、活動休止かね?ラディにもこの話は俺からしてある。アイツもヤル気はそこまで高く無いとよ。マーミにもそれとなく言ってある。マクリールにもだ。」


「うーん、そうかぁ。俺が忙しくアレもコレもってやってる内にそんな話が纏まってたのか。仕方が無いなぁ。」


「続きは酒飲みながらにしようや。帰ろうぜ。」


 俺たちは雪の中を会話もしないで歩く。そして宿へと戻った。その後は少し早かったが俺は城に王子様を迎えに行く事にした。

 カジウルからは「また後でな」と送り出される。今日はもうこの後はゆっくりとした時間を堪能するつもりだ。


 俺は王子様の私室にワープゲートで移動した。しかし部屋には誰も居ない。


「まあまだ仕事が終わってないのかね?迎えに来ても時間的にまだ早いからしょうがない。・・・あ、訓練場の方に行かないと駄目か?いや、座って待ってるか。」


 決闘をした馬鹿たちの処分に時間でも取られているのか、もしくは別の案件の処理でもさせられているのか。

 30分程経っても誰も来ない事で少し待つのに飽きて来た。城の中を散歩でもして時間を潰そうかと考えたが、止めておいた。

 またくだらない事で絡まれても面白く無いし、そうなれば余計な仕事をまた増やす事に繋がるだろう。

 なのでここで少しだけ仮眠でも取ってしまおうかと思い目を瞑る。今日の夜はカジウルと酒を飲んで今後のつむじ風の話をする事になるだろう。

 そうなるときっと話も長くなる。夜更かしするだろうきっと。なので俺は静かにこの待ち時間をソファに横になって過ごす事にした。


 そんな時間が一時間、部屋の扉が静かに開く。


「遅くなりましたか?いや、時間的には絶妙かな?さて、一段落したので行きましょう。あ、エンドウ殿は夕食は済ませましたか?私はまだなので一緒に向こうで食べましょう。」


「なあ?思ったんだけど、向こうに王子様が直接行かないでも、もう全部、部下で回るんじゃないの?」


「行きましょう、さあ、行きましょう。城に居ると扱き使おうとして来る者たちが居るので逃げるんですよ。」


 何でもない事の様に王子様は「逃げる」と口に出してきた。誰にも何にも憚る事無く。

 扱き使おうとして来る者と言う事は宰相か、丞相か呼び名はどちらでも良さげだが、王様の片腕、って所か。

 もしくは王様が自分の負担を軽くする為に様々な案件を将来の「王」へと流して処理させようとしているのか。


「まあいいさ。じゃあ行こう。飯は城で食べる料理の方が美味いだろうに。」


「食事の時間中にも仕事を持ち込まれていては美味い食事もつまらなくなるモノですよ。そんな食事よりも何にも気兼ね無く皆で一緒に食べる食事の方が断然美味しく感じますね。」


 俺たちはワープゲートを出してササッと町に戻った。出て来た場所は宿の目の前。

 俺はこの町では少し気が緩んでいる。町民の数が多く無い事で人目などを気にしない事が多くなった。

 俺たちが宿の前にいきなり現れても誰も見ている者はいなかった。しかしコレが目撃されていても所詮はこの町はまだ小さい。

 噂になってもどうにでもできるし、俺の事を利用して悪事に関わらせようと思う者も居ないだろうから安心している。


 こうして戻って来た俺たちは宿で食事を摂った。かなりの日数この宿に宿泊しているので宿の主人はもう慣れてきている。


「アンタだろ?宿の裏をあんなにしちまったのはよ?迷惑、なんて言わねぇが、崩れて流れ落ちてくるって事は無いだろうな?」


 夕食を持って主人はそう言って俺たちに近づいて来た。コレは雪崩の事を指しているんだろう。

 俺はその点に関しては念入りに調整しておいてある。万が一とかはあるかもしれないが、それでもそう言った事故に対して思い付いた安全対策は幾つも施してある。


「大丈夫だと思ってくれていい。傾斜の角度もかなり考えての調整にしたし、他の所からの雪の流入もしない様に周囲の地形も確認してある。それにこの宿が無くなっちゃったら俺たちが泊れる所がなくなっちゃうだろ?」


 俺のこの答えに納得は完全にして貰えていなかったようだが、主人は「それならいいんだ」と言って厨房へと戻って行った。


「まあそれにしたってこの町の改革のほぼ全てをエンドウ殿一人で熟したと言う事実は世界中を探しても誰一人として信じてくれないでしょうけどね。」


 などと言って王子様は俺を揶揄ってきた。まあ俺もそれに同意見だから何も反論はしない。正直に言ってやり過ぎたと自分でも思っているからなおさら。


「この後はどうするんだ?俺はカジウルと酒を一緒に飲むつもりなんだけど?」


「あ、それ私も参加しても良いですか?」


 どうやら王子様も酒を飲みたい気分らしい。これに俺はカジウルが許可を出したら、という条件で了承をした。

 食事を摂り終わってカジウルの部屋へとお邪魔しに行く。そこでは酒とグラスを揃えたカジウルがソファでゆっくりと寛いでいた。


「ん?レクトも飲みに来たのか?まあ別に構わねえよ。少し話してぇ事もあったからな。丁度良い。」


 こうして俺たちも別のソファへと座って一息ついた。カジウルがソレを見てから酒を注ぐ。そして始まりの言葉はどうするか聞いて来た。


「それじゃあ、何に乾杯する?この町の発展か?それとも俺たちの今後か?」


「そのどっちもじゃない?あ、取り敢えず今頃もまだまだ頑張ってるミッツにもかな?」


 俺たちはそれぞれ酒の並々注がれたグラスを持ち掲げる。どうやらカジウルは奮発して高級酒を出してきたらしい。

 王子様が酒の入った入れ物を見て「へぇ」と小さく呟いていた。


「それじゃあ乾杯。」


 こうして静かに男三人の飲み会は始まった。


「なあ?今後のつむじ風の活動はどうするつもりなんだ?」


 俺がカジウルに話を振る。単刀直入だ。こう言った会話はこうしてしっかりと聞きたい事を最初に聞いておいた方が良い。

 後々で酒に酔った状態でする会話程信用ならないモノは無いから。ほろ酔いくらいでする会話に本音が漏れると言った感じだ。

 真面目な話は最初にしておいた方が忘れないで済むと言うのもある。酔っぱらった時には大抵マトモな話なんてしようと思っていた事自体を忘れているものだ。


「んん~。そうだな。俺の今の考えで良いか?他の奴らがどんな風に考えているかは知らんが。」


 カジウルは前置きをしてから自身の考えを語る。


「この町に住むのも良いかと考えてる。ここがその内にデカくなりゃ冒険者ギルドも必要になるだろ?その時に俺たちが居りゃちょっとはやり易くなるんじゃねーかな?・・・ギルド長をやるつもりはねーぞ?」


 最後にカジウルは「お偉い役職は御免だ」と言って締めくくった。カジウルは書類仕事なんて真っ平御免なんだろう。


「そうですね。確かに今はギルドの方はこちらには無い。その内に必要になる時がきっとくる。それまではつむじ風の皆さんに此処に居を構えていて貰っていた方が安心です。ぜひお願いしたいくらいですね。国から支援金も出して構わないかと思います。」


 王子様がそんな追撃を入れてきた。こうなるとカジウルも本格的にこの北の町に腰を下ろして生活していく事を真面目に考える事になるだろう。


「おいおい、ちょっと待て待て。勝手にそんな事を言うのはどうだよ?」


 いきなり国から背中を思いっきり押された形になるカジウルは少しだけ慌てる。しかし、もう遅い。


「では、私から冒険者「つむじ風」の方々に指名依頼を出しましょう。カジウルは確定ですね。」


 王子様は少しだけ意地の悪い顔になってそうカジウルに突き付けた。


「で、マーミとラディは?他にも師匠とドラゴン・・・あ、ドラゴンはいいや。アイツは自由だから縛り付けると言った方法はできないだろ。勝手にいつの間にかどっかに消えてるからな。」


 俺はここでカジウル以外のメンバーの事に言及する。この町に住むのにカジウルだけ、と言うのも何だか寂しいだろう。

 王子様はカジウルをもう既にこの町に住むようにとほぼほぼ命令と言った形で口にしている。

 酒の席で出した言葉とは言え、王子様の目は冗談だとは言っていない。本気である。

 ソレをカジウルは悟って大きな溜息を吐いて酒を一口飲み込んだ。その後は長く「ふぅー」と息を吐いてから口を開く。


「分かった。明日にでも集まって話をすればいいだろ。他の奴らがどう決めるのかは自由だ。一応はつむじ風は「解散」じゃ無く「休止」で。それで話を進めりゃいいさ。レクト、命令とか言って他の奴らを半ば無理矢理この町に引き留めるのは無しだぞ?」


 カジウルは王子様の事を「レクト」と呼ぶ。もう既に相手は王族だと分かっていながら。

 しかしこの呼ばれ方に「不敬」だなどと言わない王子様。どうにもそうやって呼び捨てにされる事は嫌では無いようだ。


「ええ、他の皆さんの意見はちゃんと尊重するつもりです。今はカジウルの考えが聞けたからこそ、少々無理を押しました。この町に留まる気が無いと分かっても引き留めたりはしませんし、命令もしませんよ。」


 ニッコリ笑って王子様はカジウルへと返答をする。これにはカジウルは苦笑いするしかなかった。

 ちょっとだけ自身の考えを表に出すのが早かった、などと思っているんだろう。早まったとはこの事だと。


「俺は冬が終われば他の土地に行ってみるつもりだ。まあ世界漫遊って感じかな。アテは無い。けど、その内にこの町に滞在している間に行きたい場所やらやりたい事も次が見つかるだろ。」


 俺はここで宣言しておいた。この町はもう俺の手を離れていると言っても過言では無い。後の事は国が頑張ってくれることだろう。

 何から何まで無責任、そんな俺が他者から賢者呼ばわりされる事はおかしい、そんな風に思って一口酒を飲む。

 俺のこの宣言にカジウルは。


「まあそう言うと思ってたぜお前はな。活動休止、まあ再開するまでは個人で何処で何をしていようが別に構わねえさ。エンドウなら何処に行っても何かやらかすだろうがな。そんな噂をここで耳にするのはきっと面白いだろうぜ。」


「まあこれ以上は余りにも仕事を増やされると負担が増えるので有難いですね逆に。後は整えるだけと言った形にはして貰えてはいますが。それでも膨大な量の捌かねばならない仕事が山済みですからね。減るのは構わないんですが、増えるのは勘弁願いたい所です。」


 王子様が追撃を入れてくる。容赦無い。まあ言っている事は正論で俺も反論はできない。

 こうして後は町の様々な場所にランダムで建てた雪灯籠に魔法の明かりを俺が灯して、その景色を眺めながら雑談して夜を過ごした。


 翌朝は少し遅めの起床。酒を飲んで楽しく笑ったおかげで気分は相当落ち着きを取り戻している。

 二日酔いなどと言ったレベルで飲酒した訳では無いので頭痛などもしていない。


「さて、皆は今日もそれぞれ別々で遊んでるのかね?」


 俺は宿の食堂に向かう。しかしそこには全員が揃っていた。王子様まで。


「あれ?何で皆そんな集まってどうしたの?」


「どうしたもこうしたも無いわ。休息日よ。」


 マーミが代表でそう答える。どうにも遊び疲れがここに来て出てきているのだと言う。


「夢中になり過ぎてな。身体中に怠さが出て来た。俺たちもはしゃぎ過ぎたって事さ。」


 ラディがそんな事を苦笑いしながら俺に言う。まあ俺もはしゃぎ過ぎていたので何とも言えない。落ち着いたと思えるのはつい昨日だ。


「カジウルが今後のつむじ風の話をしたいと言うのでな。まあ、皆その事に関してはずっと思っていた事がある。今日はいい機会だったと言う事だ。」


 師匠は落ち着いた雰囲気でどうやらずっとこうなる事は予想していたと言った感じである。


「じゃあ、話をするか。エンドウも来たしな。まあさっきまでザっと意見は皆から聞いてるから、もう結論だけで良いだろ。」


 カジウルもどうやら二日酔いはしていないようだ。俺よりも飲酒ペースは速く、その量も多かったと思うのだが。


「つむじ風の皆さんはこの町に腰を据えてくれる事となりました。私はこれに感謝しかありません。」


 王子様がそう言って締めくくる。皆と言う事は師匠もこの町が気に入ったんだろう。宿でチェスしかやってい無かったと思うのだが。


「アレ?ドラゴンは?お前はどうすんの?」


 この場にはドラゴンも同席していた。なので皆と言う言葉にドラゴンは含まれているのか?と確認を取った。


「む?私は別にここにだけ居続ける気は無いぞ?もう人の世の理は大方把握したからな。今後は自由に行きたい所に行って自分のやりたいようにやるつもりだ。エンドウに付いて行くも面白いし、お前の思い付きは突拍子も無くて非常に私を楽しませてくれるが。暫くはここに滞在して遊ぶつもりだ。その後の私は今後、私のやりたいように動こうと思う。そうなればたまに皆の顔を見に現れる事もあろう。ワッハッハッッハッハッハ!」


 最後は豪快に笑って締めくくったドラゴン。まあもうそろそろ俺の手にも余る様になってきたドラゴンだ。

 こう本人が言うのであれば俺が縛れる所など無い。最初からこのドラゴンは自由だったのだ。止められる訳が無い。


「と言う訳なんですエンドウ殿。つむじ風の四名はこの町に滞在しつつも近隣にてダンジョンが発生した場合にその調査や攻略をして貰うと言う形になると思われます。この近辺に強大な魔物が出て来た際にも出動を願う形ですね。この町付きの冒険者と言った感じでしょうか。頼りになります。」


 王子様はもう既にこの四名の「力」は知っている。だから頼らせて貰うとハッキリとここで言葉にした。


「そうか、まあそれも良いだろうな。暫しの別れ、って感じかな?とは言え、春が来て雪が全部溶けるまでは俺もこの町に居る気だけどね。あ、そうだ。クスイがこっちに向かって来てるから近日中に到着すると思うんだ。遅くなったけど報告ね。・・・あ、そうだ。香草焼きの二号店の方も面接まだやってねぇや。どうしようかな?・・・明日でいっか。」


「エンドウ殿?クスイがこちらにって・・・早過ぎませんかね?」


 王子様はまだ受け入れの準備などしていないと言った感じで俺を睨む。けれども来ちゃってるモノはしょうがないし、俺はソレが早まるように、順調にこちらに問題無く向かってこれる様にと魔法を掛けてしまった後だ。


「おい、エンドウ?二号店と言ったな?また私に手伝わせる気か?」


 師匠が二号店の話に食いついて来た。コレはまだ未確定である。


「あ、面接をして相手が受けてくれたら準備を始める感じです。師匠は別に気にしないで良いですよ。その魔術師は相当自分の腕前に自信があるみたいで。何だっけ?魔法対決?みたいな事して俺が勝ったら雇われても良いって言ってるらしいんですよ。」


「エンドウと魔法対決・・・?悪夢しか見えんが?」


「あれ?ソレはちょっと言い過ぎじゃありません?悲しくなってくるんですが?」


 俺はそう抗議したのだが、俺以外の全員が師匠の意見に賛成らしく「うんうん」と二度も三度もその首を頷かせていた。ドラゴンまで。


「おい、ドラゴン、お前も何で首を縦に振るんだよ!俺は手加減ってものを知ってるぞ?お前はできないだろ!」


「むむ?そのくらいもう学習したぞ?小さく絞って込める量は少なくだろう?お前と会っていない間にそれくらいは習得した。この姿になって少しづつ扱いは修練をし続けていた、静かにな。どうだ?気付かなかっただろう?」


「なん・・・だと・・・?」


 ドヤ顔でそうドラゴンが言い切って来た。これに驚愕を隠せない俺。

 そこでドラゴンはその掌の上に小さな小さな光の玉を浮かび上がらせた。それはもの凄く穏やかな光を発して弱弱しく、しかしその存在をハッキリと主張していた。

 コレを見てこの場の全員がドラゴンが手加減、と言うか、魔力の調整ができる様になったのは本当だと確信をした。


「なんて事だ・・・何で俺だけここで白い目で見られる事に・・・」


 俺はガクリとここで床に膝を付いてしまうくらいにショックを受けたのだった。

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