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要らぬ来客

 別に急いで排除をしないでも良さげだ。何せ町への来訪者がこの時期には本来皆無であるから。

 被害は出ないだろう。しかしどうにも落ち着かない。何せその野盗たちがどうにもこちらに少しずつだが近づいてきているからだ。

 野盗の監視もしないといけないと思って魔力ソナーは発動しっぱなし。朝食を食べながらも警戒をしていたのだが。


「まさか町にまで来て悪さをしようって事か?いや、こいつらこの時期に活動するにしたってここの街道に近付いて来ていたのはなんでだ?」


 この近場でそう言った野盗の活動する話はあるのだろうか?王子様に早急に聞いておかねばならない。それと町長にも。

 俺は食事をし終えたらすぐに町長の家に向かった。そして直ぐに町長と面会をして野盗の説明をした。


「・・・本来であればこの時期は完全にこの町周辺、しかもかなりの距離、土地が雪に覆われて移動が非常に困難になります。私の知る限りではこの一帯に野盗が出たと言う記憶は御座いません。しかも今の時期は有り得ないと言っていいですね。」


「では、街道に雪が無かったとして、この近くに野盗が流れてくると言った事も考えにくいと言った感じでしょうか?」


 町長の答えに俺は再び問う。まさかの万が一はあるかと。これにもやはり「考えにくい」という回答を貰った。

 ならば野盗に何らかの理由があってこちらに出現したと見て良い。それが一体何かは分からないが。


「有難うございました。では早速対処してきます。・・・王子様を連れて行った方が良いか?」


 俺は席を立って直ぐに王子様を魔力ソナーで見つける。どうやら俺が昨日作ったカマクラならぬ「氷の家」に居るみたいだ。そこへと今度は移動する。


「で、何してんの?ティーセット一式持ってきて朝のお茶を一杯って?」


「いや、大いに羽を伸ばして休養を満喫しているだけさ。で、また何かあったのかな?」


 俺はこんな場にやって来てまで茶を楽しむ王子様を呆れた目で見つつも説明をする。

 普段しない、見ないモノを前にして気分が上がっているのか、何なのか。王子様がはっちゃけ過ぎていないかと心配になるが、野盗の話になったら目つきが変わった。


「ほう・・・ソレは少し厄介だね。しかもこちらに来ているのか。で、数は?」


「十五、だね。どうする?パッと言ってササッとフン縛って国に突き出す?」


「まだ野盗と決まった訳では無いのではないかな?まあそれでもその可能性が一番高いが。少し情報があってね。お隣の国から悪党がこちらに入って来る可能性があると言う話がチラリと持ち上がっていたんだ。私が城からこちらに来る前にね。」


「まあそいつらの前に行くのは直ぐにできるし。まだ町には到着しないけど。で、その悪党って言うのは誰が確認できるの?王子様は?」


「できないな。お隣の国の役人、しかも凶悪犯罪を担当していた者なら顔検分で直ぐに判別できるだろうが。こちらの国の悪党では無いからね。情報だけ入って人相の方は入って来ていない状況だった。直ぐに判別って事はできないかもね、はぐらかされたりすれば。どうにも向こうじゃちょっとは名の知れた賊だと言う事だけど、どうにも大捕り物が上手く行かずに終わってるらしいと、あちらに向かわせている間者からの報告だからね。こっちに来れば大丈夫だと思ってるか、或いは静かに慎重に潜もうとしているかは分からない。」


 俺と王子様は氷の家の中でうーんとアイデアを捻り出そうとする。そして俺は直ぐにピンと来た。


「じゃあそいつらが悪党だって事だけ分かれば直ぐにしょっ引けるよね?情報だの人相だの気にせずに悪さをする様なら捕まえれば良いだけだし。なら囮を出そう。・・・誰か受けてくれそうなのいるかな?」


「・・・どちらが悪党か分からなくなりそうだな。何故直ぐにそんな発想に辿り着くんだろうね。まあ悪くない案か。そいつらが食いつき易くするなら女性が良いね。三人だと多いか。二人程度で。」


「俺の事悪党呼ばわり?王子様の方が結構危ないんじゃない?直ぐに乗って来るとか。うーん?マーミがこの話飲んでくれれば良いけど。」


「町娘じゃ駄目かい?エンドウ殿が守るのならそれくらい大丈夫だろう?」


「何の免疫も無い娘さんをそんな荒事の中に突っ込ませるとか、王子様外道か?」


「いやいや、エンドウ殿あっての発言だからね?それに時にはそんな外道も呑み込める器が無ければ王は務まらないと思うけどね。清濁併せ呑む、とは簡単に言うけど。私だって余り濁ったモノは吞みたくは無いよ。」


 一応はこの後に町民に協力を求めるのは最終手段としてマーミに話を頷かせるにはどうすればいいかを五分程話し合った。


「じゃあ王子様から国からの要請と言う事で。冒険者は断れないでしょ?それと金額は・・・まあ弾んで悪い事は無いね。お金の事はもう執着と言った事はあんまり無いってマーミは言ってたけど。」


 こうして俺と王子様は氷の家を出る。マーミに話を持って行く為だ。

 マーミはまだ朝食を摂っている様だったのでそのまま俺たちも宿へ入る。

 ゆっくりと朝食を摂っていたマーミを見つけて同じテーブルへ着く。それから王子様から状況の説明をして貰った。


「で、了承して、くれるかな?」


 俺のこの一言にマーミは少しだけ嫌な顔を出す。しかしその前に王子様から直接説明を受けている事で断れない。


「分かったわ。で、街道を行くのにどう言う「囮」にするの?町を出てお使いに行くド素人の娘と言った感じ?それに二人?私一人で良いわよ。その方がより食いつき易くなるでしょ?」


「まあ、マーミの実力があれば別に危ない事も無いだろ。それに俺も見張るつもりだしね。あ、王子様は?」


「私も同行しよう。と言いたい所なんだけどね。部下から報告がいくつか上がっていてソッチの方を片付けたいんだ。エンドウ殿に任せるよ。」


 こうして街道に現れた不審な者たちへの囮調査を開始した。


「で、凄く違和感。あ、ゴメン。普段のマーミでは考えられない姿だからもうコレはしょうがない。」


「一々そんな事言わんで宜しい。ったく、こんな服着るのはどれだけ振りか忘れたくらいだわ。」


 俺とマーミは町長の家に行き今回の事を相談した。そこで町民の中から協力者を求めて服を借りたのだが。

 今まで目にしてきたマーミの姿は何処へやら。着替えて化粧をしたらどこからどう見ても只の田舎娘に変身したマーミ。

 俺は思わずと言った感じで感想が出てしまったが、当たり前にマーミに怒られた。


 こうして俺とマーミは街道に向かう。町の入り口にあった雪像を見てマーミが「やり過ぎ」だと俺に文句を付けてきたが、もう遅い。

 会心の出来栄えになった雪像を俺は壊す気は無い。このまま春になって融けて消えてしまうのが勿体無いと思っているのでその時には石の像にでも変えて設置しておきたい。


 とそんなスタートにはなったが、順調にマーミは街道を行く。俺は魔法で姿を「消して」その後を付いて行っている。

 マーミはそれこそ背中に「荷物」を背負っており、いかにも「隣町」に物を売りに行く所ですと言った姿である。

 もちろん偽装なので何にもその背中のカバンには入っていない。だけどもそんな事など知らない野盗からしてみれば鴨がネギしょって向こうからノコノコやって来たと言った形になる訳で。


「おい、お嬢ちゃん。命が惜しかったらその荷物をこっちに寄こしな。」

「とは言ってもお嬢ちゃんも一緒に攫っちゃうけどね?ぎゃはははっは!」

「おい、逃げられると思うなよ?もうテメエは囲まれてんだ。俺たちの溜まったモンを抜いて貰うぜぇ。」

「こっちに逃げてきて正解だったな。来た時には一面真っ白で苦労するかと思ったもんだが。」

「ここの街道だけは地面が見えてやがる。しかもこんな模様に道を整備するたぁ、相当な金がこの街道に廻ってるって事の証だ。」

「しかも来た早々に女も金目の物も両方たぁ、俺たちに運が向いて来たって事だよなぁ?」


 早くもアウトな発言のオンパレードである事にマーミも眉を顰めざるを得ない。

 聞くに堪えないだみ声と、その内容。マーミでなくとも顔を歪ませる事だろう。俺も今まさに眉根を潜めている所だ。まあ俺だけは姿を隠しているのでその顔を誰も見る事は無いのだが。


 マーミのその表情に悪党どもはどうにもこの娘は理解が足りていない、所詮は頭の悪い田舎者だと決めつけたらしく。


「顔は・・・まあまだマシな方か。楽しめるだろ。」

「痛めつけるのは無しだぞ?この程度だと売る時に傷が少しでも付いてると値を下げちまうからな?」

「ああ、そうだな。コレを売って潜伏している間の金にしねーとならねえからなぁ。世知辛いぜ。」

「なあ?売らずに飼うって言うのはアリか?どうやらこの先に町があるみてーだし、そこをいっちょ襲ってやれば金なんて直ぐにできるだろ?」

「まあちょっとくらいなら良いかもしれんが。派手な事はこっちに来たばかりだからな控えておかねーとよ。」

「なら盗みか?おい、何人こっちに鍵開け出来る奴来てた?」

「殆どやられたか捕まっちまったよ。おめーできるか?」

「いや、俺じゃ無くコイツじゃね?」

「・・・誰もできないみたいだな。なら手早く襲って、素早くトンズラこくか。」


 このなんとも野盗たちの何も隠す気の無い雑談を聞いて無表情になるマーミ。これに俺は自分が立っていた場所から一歩下がった。巻き添えを食いたくないから。


 そう、マーミは怒っていた。こんなくだらない奴らを相手する為に囮なんてやらされたのかと。

 こんなクソみたいな事をさせられた原因をぶっ潰す、マーミは言葉にせずにその表情で心の内を語っているのだ。


 しかしそんな事など露も知らない野盗たち。俺はそこそこに付き合いもあるからそんなマーミの状態を理解できるのだ。

 何も知らない、今会ったばかりのこの馬鹿共にはそんな危険、危機なんて察知できる者が存在する訳が無い。

 だから、この雪の中、真っ赤な真っ赤な血飛沫が辺りの白の中に弾け飛ぶのだ。


 そう、マーミは既に俺が制止する前に、止める言葉を口に出す前に動いていた。周囲に血の雨が降る。野盗たちの汚い悲鳴と共に。


「げろぼッ!?」「ぐべぼは?!」「ぐべちっ!」「もろほうッ!」「みてもへろぉ!?」「ブぺら!」


 六名が一瞬で宙を舞う。顔面をモロにぶん殴られていて口、鼻から血を吹き出しつつだ。

 マーミはそこまで派手に動いていない。それこそそいつらを殴るのに最小限の踏み込みだ。

 しかしその速度は目にも止まらぬ速さである。この野盗たちの目に留まりはしない。

 殴る力は恐らくは瞬間的に、そして一撃だろう。最短距離を最大限の力で打ち抜くのだ。殴られた野盗は意識を断ち斬られて既に動く気配は無い。


「いや、これ死んでない?マーミ、ちょっと抑えろ。・・・聞いてねぇ。」


 俺は魔法を解除して姿を見せてマーミに止まる様に言ったのだが、その時にはもう遅かった。

 これだけではきっと足りなかったんだろう。マーミの怒りは。次にはまたしてもマーミの拳の餌食となって五人が宙を舞う。

 残りが四人となってそこでやっとマーミが止まった。


「な、な、な、な・・・なななななな!何なんだよお前はよおおおおおおお!?」


 生き残りの一人がそう叫ぶのだが、駄目だった。叫んだこの男の命は消える。


「うるさい。」


 その一言がその男の耳に入ったは定かでは無い。その時にはもうそいつは宙を舞っていたからだ。

 こうなってしまうと残りは三人。だけどもここでやはり逃げ出さないのは根性からか、恐怖からか。


「ししししし!死ねやコラァ!」


 剣を抜いて斬り掛かる者一人。大きく振りかぶって自分を大きく見せようとしたのか。威嚇も含めたその構えは魔力で身体強化が出来るマーミにとっては隙だらけである。


「一人か二人残っていればいいでしょ?どうせこんな屑なんて行きつく果ては処刑なんだから。」


 その剣を振りかぶっていた男の頭部は派手に後方に吹っ飛んで前へと戻ってきている。

 そう、正面からマーミに顔面を殴られたせいだ。その首の後方へと仰け反った動きは本来なら行ってはいけない所まで折れており、結果、脊椎がバッキバキに潰れ折れると言う死に方に。

 傷みも感じてはいなかっただろう。いや、自分が死ぬと言う事すらも感じ無かっただろう位に、それは一瞬で終わっている。


「な、なんなんだよぉ・・・何でこんな変哲も無ぇ小娘が俺たちを殺せるんだよぉ・・・」


 仲間が一瞬で殺された。それをどうやら勘良く察した生き残りの内の一人が恐怖と共にそんな言葉を吐き出す。

 もう一人と言えば余りの出来事に理解すら及ばずに呆気に取られて思考を停止していた。

 意識は手放してはいない様子だが、それでもまるで口から魂でも抜けているのではないかと言った表現が当て嵌まりそうである。


「ねえエンドウ?こいつらどうする?お隣の国に引っ張っていくの?それともコッチで裁いて貰うの?」


「あー、まあそうだな。コッチでは何にもまだ罪は犯して無かったはずなんだけどコイツらは。でも今さっきの発言でお隣さんでどんな悪事を働いていたかは大体察しが付いてるし。この結末は・・・まあ、こんな結果は予想はできなかったわ俺は。分かった。俺が王子様と一緒に国に戻って処分しに行ってこようか。」


「じゃあ後は片付け頼むわね。私は戻るわ。」


 そう言って町へと戻っていくマーミ。残された俺と野盗二名。


「あー、そう言う事なんで。抵抗は無駄だから。大人しくしようか。」


 だがそう上手くは行かないモノで。ここで「ふ・・・」と何やら聞こえて。


「ふざけるなあああああああ!てめえは何処の何者だ!いきなり現れて抵抗は無駄だとぉぅ!?あの化物がこの場に居ないなら訳はねぇ!あんな化物がこの先の町に行くなら反対側に逃げりゃ良いだけだ!くそったれめ!何でこうなったクソがぁ!」


 先程のずっと呆気に取られて動かなかった男がいきなり叫び出した。それもマーミが相当遠くまで行った後に。

 マーミを化物呼ばわりしている。そしてここで俺の事を逆に甘く見ている。

 マーミさえ居なくなれば自分たちは逃げ出せる。こんな場所は真っ平御免だと。


「そ、そうだ!こんな所にいつまでも居続けても意味は無ぇ!仲間がこれだけ殺されちまったらどうしようもねぇじゃねーか。どうするよ!?」


 恐怖で震えていた方も同じ意見らしい。この場にいきなり現れた俺の事になど何ら意識を向けては来ずにこの先の心配をし始めた。

 そんな二名の叫びを無視して俺は死体を全てインベントリにしまった。マーミが全力で殴ったであろう事でもれなく全部が死んでいる。手間が省けたと言って良いやら、やり過ぎだと言って良いやら。

 この死体は後に検分で必要だと思って回収した。後で引き渡す為だ。

 一応はお隣の国から来た悪党だと言う事で、引き渡しなどもした方が何かと都合が後々良いだろうと思っての事だ。

 そして俺が片づけをしている事には気付かない二名、しかし一瞬で殺されそこら中にあった仲間の死体が消えている事には気付いた。


「はぁ!?せめて死体から金だけは取っておこうとしたのに何故!何処に行った!?」


「い、い、い、いつの間に!?どう言う事だぁ!?何で、何で、何でなんだ!?」


「一応は生きてる奴がいた方が良いよな。それに尋問の時にも証言合わせとかで必要になるだろうし。仕方が無いからこいつらは生かしておくか。面倒だな。とはいえ、別にそこまでの労力じゃ無いんだけどな、俺にしてみれば。」


 この二名にはもう既に魔力を流して動け無くした。久しぶりの「魔力固め」である。


「くっ!?んだ、こりゃよぉ!?う、動けねえぞぉ!」

「ヒエッ!?じ、自分の身体が自分じゃねーみたいだ!?」


「うるさいから喋れなくしておくか。今俺がこいつらに聞きたい事なんて無いしな。喋りたかったら尋問された時にでも思う存分やってくれ。」


 こうして俺はこの二名を連れて町へと戻る事にした。帰還を終えて王子様の所に行く。どうにもまた氷の家に居たのだが、そこには外の部下たちが3人程集まっていて王子様に報告をしていた。


「エンドウ殿、どうやら終わったようで。そいつら以外はどうなりました?」


「・・・マーミって怒りっぽいのな。止める間もあって声かけたけど、止まってくれなかったよ。」


 俺のこの言い方に察してくれたのか「あー」と言ってどうやら結末を分かってくれたらしい。


「やっちまった事は仕方が無いし、こいつら以外は俺が回収してあるから。一度城に戻ってこれらの問題を片付けに行っちゃうのもアリだけど。時間ある?」


「行きましょうか。その前に、それぞれの道具をここで出して行って貰えないですか?」


 この王子様の求めに何だろうと思ったのだが、素直に俺が作っておいた様々な道具はここで出しておいた。

 スキーにスノボ、スケートに何やかや。種類別にそれぞれを纏めて置いて行く。氷の家の中がどうにも道具置き場と化してしまうくらいに。


「ではコレで後はやっておいてくれ。」


 そう王子様は説明を部下にしていく。その部下たちと言うと、俺がいきなり何も無い場所からこれほどの大量の物を出した事に驚きと呆気に取られて顎が外れんばかりに開いている。

 余り人前でこう言ったインベントリの披露はしない様にと考えていたはずなのにここ最近はそのタガが外れて来ている。気をつけなければならないが、どうしようもない。

 隠すのが少々面倒になってきている。こう言った場面で躊躇いを見せてから出せば少しは言い訳もできるが、すんなりと王子様の言葉通りに出してしまった事が悔やまれる。

 一言くらいは断ってから出せば良かったモノを、ホイホイと簡単にやってしまった。言い訳できない。


「では行こうか。・・・あぁ、大丈夫。彼らは口は堅いよ。場所を移動しないでも大丈夫。」


 どうやらワープゲートもここで出して構わないと言っている王子様。これに俺は乗らなきゃいいのに「あ、そう?」とだけ口にしてワープゲートを出してしまう。

 そうして俺たちは連れて来た二名の野盗の生き残りと共に王子様の私室へと移動した。

 部下たちはまだ仕事があるらしく氷の家の中でまるで立ったまま気絶でもしたのかと思えるように微動だにせずに俺たちを見送っていた。


「じゃあエンドウ殿、一緒に来てくれないか?ああ、そうだ。野盗の死体は出しておく場所が必要だな。訓練場に案内するからそこで待っていてくれるかい?私が戻ってきて求めたら死体を出し並べ始めてくれると助かる。生き残りも一緒に連れて言っておいてくれ。後にこちらで引き取る。協力してくれた分の報酬は帰りに渡すよ。ちゃんとエンドウ殿とマーミ殿それぞれ別で支払いはする。じゃあこっちだ。」


 俺は案内されるままに王子様の後を付いて行く。そしてどうやら城の中からその訓練場へと直接行けるのか、城の雰囲気とは違う通路へと入って行く。

 その後はソレはそれはだだっ広い場所へと出た。どうやらここが訓練場であるらしい。

 ここで待っていてくれと言われてその広場中央に立つ。野盗二名と共に。


 この生き残った二名は運が良いやら、悪いやら。尋問の際にはきっと拷問も受けたりして直ぐ死んだ方がマシだったと言える目に遭うのかもしれない。

 しかしそんな事に考えが及ばないのか、二名の顔は終始口を開いて周囲をキョロキョロと目をしきりに左右に動かして観察を続けている。

 まあ要するに、気が動転していると言う事らしい。いきなり町から城へ、その中を連れ歩かされてこの場所に来たのだ。無理も無いかもしれない。

 彼らの一生にしてみれば有り得ない事がその身に起きていると言って良い。


「ああ、氷の家にも驚いてたな、そう言えば。・・・別にあれくらいは、いや、普通じゃ無いな。向こうでもちょっとした話題になるくらいだしな。」


 観光用に氷でできたホテルとか言ったモノが建てられると言う話は前にTVで放送していたのを見た事がある。

 それで俺も凄いなと素直な感想を漏らした事があった。それを考えればこちらで「氷でできた家」なんてソレはそれは驚きの対象になるのは当たり前だろう。


「さてと、どれくらい待つ事になるんかね?椅子でも出して座ってるか。こいつらは地べたにでも座らせておけばいいか。」


 俺は王子様が来るまで椅子に座って待つ事に。その後15分。


「やあ、すまない。待たせたかな?もうちょっとだけ待ってくれ。」


 王子様が30名程の男たちを連れて来た。その中には文官らしい者は5名である。

 どうやら25名は死体の片付け用に連れて来た兵士である様だ。軽装ではあるが、武装していた。


「殿下、お待ちください。この者が今回の協力者とでもおっしゃるのですか?どう見ても奇術師の類としかお見受けできませんな。この様な者を信用なさるとは、殿下はお疲れなのでは?騙されているのでしょう。我々がこやつの化けの皮を今ここで剥いでご覧に入れますよ。」


 兵士の中から代表だと思われる男がそんな声を上げた。その後には我々などと言った後にその後に九名の兵士がその男の後ろに並ぶ。

 どいつもこいつもにやにや顔してこちらを見ているのだから、まあ、分かり易い。

 正直に言ってこいつら全員「馬鹿」なのである。王族が客として扱い、しかも野盗討伐の協力者だと言う説明は当然しているはずだ王子様が。

 ソレを何ら信じずにすっ飛ばしてここで前に出て偉そうに語るのだ。不敬である。王子様の言葉を根本から信用していないと言っているのである。

 それだけならまだしもだ。今目の前で剣を抜いてその切っ先をこちらに向けて来ている。頭の中身が極まっていると言って良い。


「あー、俺を奇術師呼びするのは構わないんだ。俺もこんな格好だしな。しかしさ?騙されていると言うその根拠は何処だ?見た目だけで人を判断しない事、それをここの兵士は習わないのか?」


 この兵士の代表と見られる男はきっと俺の事なんてこれっぽっちも知らないんだろう。しょうがない。

 だけども王子様の事は少なからずどんな人物なのかは知っているはずだ。そしてそんな自分の仕える王族の俺へと置く信用をこれでもかと馬鹿にしたような口調で化けの皮を剥ぐと言って来ているのは何か勘違いをしているとしか言いようが無い。

 この男は王子様の事を見下している節がある。しかし言葉には全く出さない。態度で示している。これほどに不遜不敬な事があるだろうか?自分の先程言った言葉が真実だと自信満々な表情で俺を見下している。


「ふん!何よりもその様な恰好である事がその証拠では無いか。しかも自身で奇術師呼ばわりを構わぬだのと。余計に自分が詐欺師だと述べておるようなもの。大人しく捕縛され尋問を受けよ。これまでの罪を素直に全て自白すると言うのなら罰を軽くする事を考えてやってもいいぞ?」


「お前は馬鹿か。エンドウ殿、この者たちは下がらせます。どうやら「切り捨て」の中から漏れていたようだ。この者たちは後に降格処分とするので、どうかここは穏便に願えないでしょうか?」


 ここで王子様が取りなそうとして会話に入って来る。しかも部下を即行で馬鹿呼ばわり。俺も同意見なのでこれに俺は何も言わないが。


「まあ別にここで彼らが勝手に盛り上がってるだけだし、こちらに被害が無けりゃ別に構わないよ。・・・それでもこうしてもう既に剣を抜き放ってこちらに向けて来てるから、ちょっとは痛い目見させてやろうかと思ったけど。止めとくよ。それでもこいつらが俺にいきなり斬り掛かって来なけりゃの話だけどね。」


 俺は思い止まったよアピール。この兵士たちも抜いた剣を収めるのならば今のタイミングだろう。

 だけども馬鹿と言うのは何も理解しないからそう言われるのであって。

 既に王族の前で剣を抜いている手前引っ込みがつかないのか、どうなのか。既にこの十名は戦闘態勢に入ろうとしていた。


「どうやら身の程を弁えておらぬ愚か者であったようだな。こちらを甘く見ている、自分が死ぬはずが無いと妄想に浸っているのか?ならばこの場で一度死んでみると良かろう。」


 どうにも俺は切り殺される前提らしい。こいつらはどうあっても王子様の前で俺を殺す気でいたようだ。

 俺の背後にまで兵士は回り込んできていた。どうやら円形に囲って俺を逃がさないつもりらしい。

 この状況に王子様の方をチラリと見たら手で目元を覆っていた。


(もしかしてこの展開は王子様が望んでいた可能性もアリだな。結構腹の中は黒いって、俺はもう知ってるし)


 演技かもしれないな、俺は王子様のリアクションに一瞬そう思うのだった。

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