冬に夢中
俺は牧場主に見せたかった光景を見せ終る。上映は終了だ。もうこれでその後に何もリアクションをくれなかった場合は国が後は何とかするだろう。
王子様は今日スキーを堪能した。どう言った問題があるかはもう把握はしているだろうし、俺の脳内で考えているイメージもこうして何度もその目にしているのでもう充分ムゥフィーグが必要なのは分かっているだろう。
「もう今日はこれくらいで帰りますね。コレを見て貰いましたし、この先に何か思う所があればこれからも訪れるだろう国の御役人様と話し合ってください。では。」
俺と王子様は場を去った。牧場主はと言えば何ら変化は見られない。しかしきっと内心では何か考える所があるだろう、色々と思考していると思ってこれ以上余計な事は言わない。
去っていくこちらには一瞥もせずに仕事を続ける牧場主。今後のこの町の先行きは彼の判断一つでかなり大きく変わる。
ソレを俺はもう気にしない。俺はやるだけの事はやった。後はこの町の住人たちに頑張って貰う。
「それじゃあ王子様は今日は残りどうする?」
「ああ、町長の所に行って何か余計な事が起きていないか確認と経過の話をしてこようと思う。エンドウ殿は?」
「俺はそうだなあ。ちょっと雪像作って来ようかな。街道は作り終えてるから、雪の影響がどこら辺まであるのかの確認と、雪かきをしてそれで先ずはデカイ雪ダルマでも作ろうかな?」
俺の言葉に少しだけ首を横に倒す王子様。どうやら「ユキダルマ」の部分に疑問があるようだ。達磨という言葉がこちらの世界に無いんだろう。
「まあその他にも作るつもりだし、きっと面白い街道になるよ。あ、それが終われば町の中にも作ろう。芸術っていうと何だか御大層になっちゃうけど、写実的な?リアル的な?なんていえば良いかね?女神像でも作ればいいか?あるいはカッコいい戦士の像?」
俺がぼやいている内容を余り分かっていない王子様。しかしここで俺に釘をすかさず刺してくる。
「取り敢えず抑え気味で頼むよ。余り過激なモノは衝撃が大き過ぎるだろう、いきなり町民たちには。」
注意をされてしまった。まあそこら辺は考えなければいけない所だろう。
何せこの町に住む人たちは普段から刺激というモノを受けている生活では無いはずだから。
「取り敢えず分かった。じゃあまた後で。明日は何で遊ぼうかなあ。」
「程々に頼むよ。エンドウ殿の思い付きの数が多過ぎてあれもこれもと付き合っていると体が幾つあっても足りないからね。」
王子様は苦笑いをしながら俺と別れる。こうして俺は街道へと足を運んだ。
到着後はそのまま街道の出来具合を見ながら町から離れる様に歩き続ける。
「とは言っても雪が積もりに積もっててなーんも分からん。見える範囲、全部雪ってアレをしたくなるよね。」
雪に付くのは自分の足跡だけ。そして誰にも汚されていない、そんな真っ白な雪へとそのまま倒れ込む。
そのまま浮き上がるとそこには魚拓ならぬ人拓が。墨汁ででは無く雪の窪みで。
「やるよねーコレは。一生に一度はやっておきたい事ランキング・・・上位には入らないか。でも絶対に多くの人がやると思うんだよコレは。」
綺麗に仕上がったその窪みを見ながら俺はウンウンと頷く。一人で納得している光景は非常に傍から見たら滑稽だろう。
そんな遊びをしてからは真っすぐに俺は飛行して街道の先へと進んだ。雪の途切れている部分まで。
「結構遠くまで来たけど。かなりの距離の雪かきが必要だって事は分かった。コレは本当にムゥフィーグが必要だなあ。」
ここまでの距離を来るのに徒歩では相当な時間も掛かるし、雪かきをしながらだと余計にである。
ムゥフィーグに道具を装備させて歩かせての雪かきが必要だろう。この世界には除雪車は無い。
「あー、勿体無いね。これじゃあせっかくのモザイクが見えないなぁ。しょうがないか、そこは。」
雪を融解する薬剤もこの世界には存在しないので高速道路に撒く的な事もできない。これでは街道に施したモザイク柄が雪で全く見えない。
「さて、それじゃあチャチャと今回は俺が遊ぶためにやりたいようにやりますかね。」
俺は除雪を始める。そして溜まった雪は丸めてしまう。もちろん魔法でだ。一々転がして、などと言った事もやろうと思えばやれるのだが、時間ばかり浪費するだけになり、効率が非常に悪くなる。
なので今回は見送りだ。町の子供達に教えて遊ばせる時には良いだろうが。
「あ、お風呂も作って入れるようにしたい。でも、それは贅沢かー。いっその事大浴場を作ってそこで魔法使いを従事させると言った事も考えると面白いか?」
結構な無茶ぶりをまた王子様に押し付ける形になるだろうが、実現はしたい所だ。
ならばこれも戻ったら話しておかねばならないだろう。出来上がって稼働になれば町の人々の冬場のリフレッシュに、そして客たちにはスノーレジャーで凍えた身体に染みる施設となるだろう。
こんな事を考えながら雪だるまを次々に作っては街道の道横へと並べていく。どれもこれも「顔」と「手」を付けてである。ここはこだわりだ。本当はバケツの帽子も付けたかった所だが、それは止めておいた。
強風でも吹いて飛ばされたりすると残念になってしまうからだ。
雪は相当な量になっており、しかもサラサラなので中々最初の内は固められずにいたが、その内に湿り気を無理矢理俺の手で付け加える事で纏まり易くなった。
とは言え、そんな事も途中で止めたが。何故止めたのかと言えば、魔力で雪を圧縮してしまえば済む事だったから。
ぎゅっと有り得ない圧力で固められた雪はほぼ氷と化している。そこら辺の加減を徐々に創意工夫していきながら雪だるまを作っていったので数も膨大になったし、その形もそれぞれ歪な物からよくできた綺麗な丸の形まで様々になった。
雪だるまに満足いくようになれば今度は雪灯籠だ。これも魔力で雪を固めて作り上げる。
それこそこちらも幾つも、幾つもだ。時にはデザインを変え、高さを変えと、それこそ雪だるまに負けない数を作り上げ並べた。
そしてそれに飽きてきたら今度は雪像だ。しかももうこの時には町の入り口前に来ていたので俺は少しド派手な雪像を作ってみようと調子に乗った。乗ってしまった。
アホである。王子様に注意をされていたのにここまで来る間にテンションが高まっていたのだ。馬鹿である。
街道は既に俺が雪を集めに集めているのでちゃんとモザイク柄が見えている。
雪の中にカラフルに続く真っすぐ続く街道は中々に見ごたえがあった。
「じゃあ大きさはこんな物かな?台座があって、人物はリアルに。大きさも整えて・・・っと!」
町の入り口横に雪像を建てる。正面右には堂々と仁王立ちしたフルアーマーの騎士像。正面左に美女の像と言った感じで作り上げた。
「あー、ここは仁王像とかでも面白かったか?まああんな怖い顔した像があったら逆に町に入り辛くなるから却下か。」
満足の行く出来だったので俺はここで雪像作りは終了した。これで街道の方は大丈夫にはなったが、今年にこの町にやって来る客は居ないだろう。
何せ今年始めたばかりで、しかも今日始まったのである。この町の話など他の土地に広まっている訳でも無く、観光でやって来る者など居るはずも無いのだ。
「とは言え、後でクスイが来るだろうから無駄じゃないけどね。」
予定としてはクスイが後でやって来る予定ではあった。しかしそれ以外でも予定外の御客が来ないとも限らない。
「まあそれはその時になって対処すればいいだろ。じゃあ他にはカマクラ作って、クロスカントリーできるルートを整備して、それからそれから・・・うーん?思い付いた物が多過ぎて何から手を付けて良いやら。」
雪合戦ができる会場も作りたいし、他にはビーチフラッグならぬスノーフラッグでも遊べるだろう。
ちょっと処では無く調子に乗り過ぎである。俺の本性はこんなお調子者なのに他者から賢者などと呼ばれるのは遠慮したい。
こうして俺は今度は町に入り魔力を町中に広げて雪を集めに集めまくる。事前に購入してある広めの空地へとソレをどんどんと集積して行って大きな山と成す。
その光景は自動で雪が波を起こして移動し徐々に勝手に収束していく光景だ。こんな景色は俺も見た事が無い。自分でやっている事なのだが、ちょっとだけポカンとした顔になったのは内緒である。
ソレを丁寧に固めていく。この作業をしっかりしておかないと内部崩壊が起こるので念入りだ。
そしてソレを終えれば中を掘っていく。掘った雪はインベントリに入れていく。
インベントリに入れた雪も再利用だ。取り出した雪は固めてテーブル、椅子、ソファーの形にして中に配置していく。
「うーん、この秘密基地感を誰かと共有したい。けどまあこれもただ単に俺が作りたかっただけだからな。入り口にはご自由にご利用くださいとでも看板を掛けておくか。」
相当な広さのカマクラができた。と言うか、アレだった。雪を固め過ぎて氷の家みたいになっている。でもそれはそれで満足だった。
このカマクラの完成により、町中の雪という雪を回収したせいで町民にはいつもの冬の光景では無くなっている。そう、雪が無い。
普段はこれだけ雪が降り積もれば町民は誰もが家から出ずに中で内職作業、或いはジッとして静かに大人しく冬越しをするだけだっただろう。
でも、今だけは俺が居る。この町に滞在している。今年の冬だけは外を出歩くのに苦労は無い。
「さて、銭湯を作るにしたって候補地の選定と、後はそこで従事する者も雇わないといけないけど。うーん?ここら辺は王子様としっかりと話し合いはしないと駄目だな完全に。あ、あっちはどうなってるのかね?」
あっちとはこの間に婆さんに頼んである話である。良い返事が聞ければいいのだが。
そんな事を考えつつもその後はマーミの様子を見に行くことにした。スケート場の使い勝手の話を聞いてみようと考えて。
「で、何で二人して一緒になって踊ってるのかね?」
まるでアイスダンスである。誰と誰がって?マーミとドラゴンがだ。
「マーミはドラゴンの存在を「よろしくない」と思ってたんじゃないのかね?」
そこら辺の事を今まで余り突っ込んでこなかったが、普段のマーミの態度は確かそんな態度だったはずだと俺は認識していたのだが。
「なあラディ?何でこうなった?」
「いや、俺にも分からん。」
滑らずにベンチに座って踊る二人を眺めていたラディに質問したのだが、返って来る返事はそんな感じだ。
「なあ、ラディはスキーをするつもりだったんだろ?何で居るの此処に?」
「居ちゃいけないか?とは言え、まあ、そうだな。ドラゴンをここに連れてきたらいきなり靴履いて滑り出してな。ああ、滑り出す前にマーミの動きをジッと見ていたな。」
どうにもドラゴンがどう動きだすのかと言った心配で少しだけここに残ったようだ。そして突然滑り出したドラゴンにタイミングを逃してそのまま警戒していたら、と言った感じだろうか。
「で、マーミはマーミで機嫌良く滑っていた所にドラゴンだ。そりゃ不機嫌になった。だけどなぁ。少ししてから様子がおかしくなってな。」
ラディはマーミの様子を語る。
「いきなりドラゴンへと挑発的な視線を送った後になぁ。跳んで、回転して見せたんだよ。そりゃもうキレがあって、三回転半はしていたな。しかも着地も綺麗に、脚も上げて美しく姿勢を保つんだ。これには俺も驚かされたぜ。」
ラディはマーミの行動を説明してくれた。どうやらトリプルアクセル?をマーミが決めたらしい。しかもドラゴンへと見せつける様に。
「いや、おかしいんだ。ソレを今度はドラゴンが真似てな。一発で成功させちまったんだ。ここで止めときゃ良いのにマーミが今度は別の跳び方をしたり、その場で高速回転か?片足でし始めたりとなぁ。次々にそう言った滑りをドラゴンへ見せるもんだからよ、ドラゴンもソレを見て全く同じに滑るんだわ。しかも一回も失敗無しにな。」
どうやら揶揄うつもりだったのか、見せつけるつもりでやったのか、マーミはドラゴンへと挑発を続けたらしい。しかしどれもドラゴンがそつなく熟す、しかも失敗無しにと来たモノだ。
マーミの性格上そう言った「返し」に余計に熱を持つ事に繋がったんだろう。マーミはどうにもこのスケートを気に入っていたようなので心の中のそう言った部分が盛り上がり易くなっていたのかもしれない。
「で、何で、どうして、その後にあんな良い笑顔で二人して一緒に楽しそうに滑って踊る事に繋がるんだよ?」
「いや、どうって言われるとなぁ?」
ラディに続けて説明を求めたら。
「マーミがとうとう先に我慢ならずにドラゴンを両手で突き飛ばしたんだ。そしたらその腕をドラゴンが取ってそのままマーミを引っ張った。んで、あれよあれよとそのまま縺れるのかと思ったら二人してああやって滑り始めて気付いたら、こうなっていた。」
今ではドラゴンがマーミの腰を掴んで「リフト」と呼ばれる技を披露している。
その前は二人そろってシンクロしてトリプルアクセルを綺麗に並んでキメていた。そして鏡合わせにでもしたかのような動きで双方がクルクルと回る、跳ぶ、踊るといった様相だ。
俺はその光景を見て呆れ、驚き、もう勝手に楽しんでいれば良いんじゃないかな?と放置する事に決めた。
そう決めたら氷上の二人は最後にまるで最後のキメポーズを決めていたと言わんばかりに同じ動作でピタッと止まる。
「む?おお!エンドウ!これもまたコレで面白いぞ!」
「あら?・・・何処から見ていたの・・・」
俺が居る事に気付いたドラゴンは爽やかな笑顔でそう口にする。
マーミはマーミで俺に見られた事が嫌だったのか「恥ずかしそうに」では無く、睨み殺さんばかりな視線で俺を睨んできていた。
「もう俺は何も言う気は無いよ。随分と気に入ってくれていて良い事だ。うん。」
もうここには用は無い。俺はこの場を出て行く事にした。ラディも一緒に。
ドラゴンはまだもう少しだけ滑るつもりでいるらしく、氷上から上がってこない。
マーミにこの会場建屋の意見を貰おうと思ったのだが、どうやらそれらを聞ける様な状態では無い。
外に出た俺はこの後の事を考える。先ずはやらねばならない事を優先的にするべきだ。
だけども思い付きが多過ぎて何から手を出せばいいか。人数が多く居ないとできない事柄もそこそこあって今日中には遊ぶ事はできなさそうな物ばかりだ。
「ラディはスキーに行くんだろ?ならちょっとここから滑りながら頂上に行くルートがあるから一緒に行かない?」
「ソレは面白そうだな。行ってみるか。時間が別に迫っている訳じゃ無い。ゆっくりと行こうじゃ無いか。」
俺たちは早速クロスカントリーをする。積もった雪の上、このスケート場からスキー場の天辺までのルートの木々は綺麗に取り除いてある。そこを俺たちはスキーで滑りながら登っていく。
「なかなかに体力を使う物だな、これは。しかも蛇行しているな。僅かに上りでもある事で徐々にきつくなっていくのが何とも。」
真っすぐに繋がる道にしてしまえば斜面の角度が急過ぎて登って行くのは無理になってしまう。
なのでルートは大分遠回りになるような蛇行した道程になってしまうのはしょうがなかった。
その代わりに傾斜はなだらかに上りとなり、登れない事も無いと言った感じだ。しかし長い距離になる事は避けられないのでスキー場天辺に着いた時にはかなりの消耗を強いられていると言った事になる。
「だが、悪く無い。コレは冬場の運動に良い。カジウルの奴にも教えてやろう。こいつはアイツにうってつけだろうからな。」
などとラディは苦笑いをする。少し体力が減り始めたようだ。俺はここで一旦休憩を入れようと言って止まる。
「ここら辺に休憩場所でも作っておいた方が良いか?まだここらへんで三分の一って所だ。」
俺のこの言葉にラディは賛成らしい。一つ頷く。
「良し、じゃあカマクラと内部に椅子、ソファでもっと。」
俺は魔力を周囲に広げて一気に雪へと馴染ませる。そしてそれらを自在に操ってアッと言う間に休憩場所を作成してしまう。
「よし、中の広さは充分。ラディ、休憩しよう。」
その後は五分程休憩をしてからまた上り始める。三分の二の所でまた休憩所を作り、また休む。その後はスキー場の天辺にまで到着した。
「かなり激しく体力を使ったな。ふぅ~。こいつは冬場に活動を停止している冒険者の体力維持にはうってつけだ。遊ぶと同時に体力維持か。面白いモノだ。」
どうやらラディは魔力で身体強化を行わずに上って来ていたようだ。そしてその意見は非常に有難い。
「助かるよラディ。貴重な意見を有難う。それ王子様に伝えておく。さてと、ちょっと休憩したら滑るか?」
ラディは雪の上に大の字になって豪快に倒れている。相当に疲れたようだ。しかしここでも五分程静かに息を整えたら立ち上がった。
「よっしゃ!楽しむぞ。あの跳躍台はもっと増やしたら・・・駄目だな。距離を近くし過ぎるのも駄目か。」
どうやらラディはスキージャンプが気に入ったらしい。しかし俺はここでスノボを出してラディに渡す。
「コレを試してみてくれ。スキーとはまた違った楽しさがあるから。コツは、まぁラディなら直ぐつかめるだろ。」
俺の渡したスノボに片方の眉だけ上げて「ふむ」と小さく唸るラディ。しかし次にはソレを受け取って直ぐに履き替えた。
ソレを終えれば即座にパッと立ち上がって体の向きを右左と軽く跳んで方向転換しただけで斜面へと入ってしまった。
しかしラディはまるで初めから知っていたかのような華麗な滑りでスノボを乗りこなしてしまう。
「ラディも大概だよな。まあ、良いんだけど、なんだか納得しずらい。」
俺はその光景を上から眺めつつその流麗な滑りをしてあっと言う間に遠ざかるラディを眺め続けた。
その後は俺もスキーで滑る下りる。一滑りし終えたら王子様の所に向かうつもりだ。今日の話のまとめを伝えておきたい。
「カマクラも作ったし、クロスカントリーもラディに意見を貰ったし、風呂の事も何かと準備して欲しいしな。」
俺はもう一度滑ると言うラディと分かれて町長の家へと向かった。歩けばすぐだ。到着しドアをノックする。
「こちらに王子様来てますよねー。ちょっと話があってお邪魔しに来ました。」
「はい、エンドウ様、どうぞ中に。」
直ぐに町長が出てきて俺を迎え入れる。そうして王子様が居る部屋へと案内された。俺は王子様の向かいのソファへと座って話し始める。
「おー、経過はどう?順調?」
「また何か持ってきたんですか?ちょっと許容量を超えている様に思うのですがね?」
「まあまあそんなに警戒しないで。色々と話したい事があるんだよ。あ、風呂、真っ先に風呂作りたい。公衆浴場で良いんだ。しかも魔術師を雇って湯の供給はそれで賄うの。」
「いきなり魔術師の話ですか?と言うか、公衆浴場・・・しかも湯は魔力で?はい?」
その後は町中に氷の家を作った事と、ラディから冬場の冒険者の遊興としての呼び込みなども話す。
一気に話し過ぎたせいで少し呑み込むのが遅くなったが、王子様は「まあ、アリですね」と口にだす。
「しかし、風呂の件ですね。水は魔石で、という形になると思いますが、それでも宮廷魔術師でもそこまでの量を出せる魔力は無いですよ?それに湯にする為の熱源が・・・」
「魔力の足りないとか言った件は魔力薬で解決でしょ?あれはもう美味しい飲み物になったんだし最初の内はガンガン飲んで、魔力量を上げる修行だと思ってじゃぶじゃぶ魔石に魔力を注入ってね。それと、まあそうだなあ。熱源に関しては俺が魔石を作っておいた方が良いよね。よさげな大きさの魔石を購入してくるかな?」
「あのですね、そう言ったモノはこちらで用意させて貰え無いですか?エンドウ殿が揃えてしまうと個人資産にデスネ・・・ああもう、良いです。後で国で買い取ります。自由にして頂いて結構。発想のぶっ飛び方に付いていけれませんよ、本当に。」
どうやら王子様は諦めた様子だ。コレはどうしようもない。俺の見ている、知っているビジョンを王子様も持っている訳では無いのだから。
そうなると公衆浴場は「銭湯」になるだろう。俺の脳内に有るのは古き良き時代のあの「銭湯」だ。壁に富士山、黄色い手桶、そうなると個々の身体を洗うための蛇口の方も考えないといけない。
「あ、それとまだ未定なんだけどさ。こっちに香草焼きの二号店を出したいと思ってたんだよね。上手く人員が確保できてれば丁度町民の皆さんが通いやすそうな場所に建てたいと思って。」
「・・・まだヤル気ですか。と言うか、香草焼きですか?大丈夫でしょうか?」
「大丈夫って何が?まあ、ここは打診をしている魔術師が良い返事をくれれば、って所だからもっと後かな。建てるなら。」
俺は大体の今日の伝えたい事は言い終えた。取り敢えず今日はもう残りは宿でゆっくりとするつもりだ。
「じゃあまた明日ね。」
俺はそんな一言だけ告げると家を出た。
さて、何も外であれもこれもと遊ばなくとも、部屋の中、温かい場所で何もしないでいる時間を堪能するのもまた冬の贅沢というモノだ。
しかし宿へと戻ったら師匠がまだ盤面と睨めっこしているでは無いか。
「師匠、良い加減にしておいてくださいね。体調を崩せばそれ所じゃ無くなるんですから。ホドホドにしてください。」
俺はきつめにそう注意をしたのだが。
「うむ、ならばエンドウ、一手願おうか。研究の成果とやらを試したい。」
「じゃあ師匠が負けたら今日と明日はチェスを一切触らない、考えないでください。良いですね?」
「勝ったら今後も私は研究を進めるぞ?では、先攻は私が指す。」
俺はここで脳内フル回転をさせる。魔力で「思考」を滅茶苦茶強化した。師匠は未だにそこ等辺の所まではできる様になってはいない。
なので俺と師匠との間にはかなりの差がある。そう、その差はこの盤面の上にも表れる。
「・・・くッ!?」
「・・・はい。」
「・・・ぬ!?」
「・・・はい。」
一手、また一手と進んで行くうちに師匠の顔は歪んでいく。そうしているうちに早期に決着がついた。
「コレで何処にも逃げられませんね。どうですか?師匠、負けを認めてください。」
「・・・分かった。約束は守ろう。差があり過ぎるな。敵わん。」
師匠は今日はもう大人しく夕食を食べてゆっくりと酒でも飲んで寝ると宣言した。既に時間は夕方になっていた。
ここで丁度ラディもマーミもドラゴンもカジウルも何故か全員一緒に宿へと帰って来ていた。
「おう、皆で食おうぜ。腹減ったぜ。」
「滑り疲れたわ今日は。明日は部屋でゆっくりしようかしら。」
「そうだな。俺も遊び過ぎた。まるで子供に返った気分だった。」
「わはははは!明日は何をして遊ぶのだエンドウよ!」
「皆元気だなまだ。じゃあ明日は町の入り口に俺が建てた雪像でも見に行ってみれば?」
「変な事になって無いでしょうね?」
マーミに睨まれた。俺は別に自身で「変な事」などした覚えは無いのでここで「やって無いよ」と口にする。
こうして全員集まっての夕食を食べ終えれば各自の部屋へと戻ってゆっくりと休むのだった。
そうして翌日。外の気温は非常に低いが、しかし空には太陽が昇り晴天である。だが雪は溶けない。それだけの寒さである。
「うーん・・・さてと。今日の予定は何しようかね。」
婆さんの所に行って魔術師の件。クスイがこちらの町へと来てくれると言うのでその進み具合。銭湯の為に使う熱源用の魔石の購入。
「一応は優先的には魔石が一番かな?街道の方は魔力ソナーを伸ばして様子を見てみる・・・あら?」
俺はどうにもこの時に街道に不審な集団が居る事をキャッチしてしまった。
「・・・まだこの町の事は宣伝していないし、こちらに向かってくる集団なんてクスイの所くらいなはずだ。王子様の用意した国の商売人たちもまだこちらに来る時期じゃないはず。あーあー、面倒臭い。野盗か。」
いつもこの頃の街道は雪で覆われて移動も困難。そこに俺が昨日に雪を除去してしまったからだろう。
本来ならこの時期にこの街道に出るはずの無い野盗が入り込んでしまったようだった。