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プロジェクト始動?

 俺は暗殺組織の婆さんの家にお邪魔している。以前のサレンみたいに魔術師を紹介して貰えないかと言う事で訪ねたのだ。

 婆さんの隣にはサレンが控えている。お茶の用意をサッと終わらせて。


「で、お前さんはまあ突然だねぇ毎度さ。で、二号店かい?そいつはどこら辺に建てる気なんだい。少し興味があるねぇ。」


「北の町なんだけどさ。そっちに派遣できる魔術師、優秀な方が良いな。紹介してくれない?今日中に仕込みができる様にして向こうに連れて行って準備をさせたいんだけど。あ、二人お願い。交代制で店を任せたいんだ。一人だと大変なのはもうテルモで分かってるし。」


 俺の求めに呆れたと言った感じで婆さんが口を開く。


「お前さんは本当に急に無茶を言って来るねえ。出来ない事も無いが、その二人が了承しなければ無理だよ?それでいいなら一応は話はしておいても良いが。今日中は到底無理だね。」


「ああ、それじゃソレで頼むよ。これ、礼金ね。受け取っておいてくれ。」


 俺はインベントリからガシャリと金貨をつかみ取りして引き出す。まるで懐から出したように見せかけて。それはざっと二十枚はあった。


「話をそいつらにするだけでこれだけ支払うって言うのかい?馬鹿なのかい?了承しなければ連れて行けれないって言っただろ?信じられないねぇ。こう言うのは連れて行けれるようになってから支払うモノだよ。そいつを仕舞いな。こっちにだって受け取れる物とそうで無い物って言うのがあるんだよ。不躾な奴だねえ全く。なんでもカンでも、金を払えば誠意が見せられると思っていたら大間違いだよ。こっちにも矜持って言うのがあるんだ。良く覚えときな。簡単に金を見せる奴は時には信用に値しないよ。」


 厳しく叱られてしまった。前回は確か出した金額をすんなりと受け取って貰えたと思うが。今回はどうやら違うらしい。


「じゃあ半分受け取ってくれ。駄目だったら駄目で別に金は返さなくていいし。手間かけさせるし、突然のお願いだし。無茶させてるって言う認識はこっちもあるから。迷惑料?として貰っておいてよ。」


 この俺の言葉に婆さんに溜息をつかれた。


「はぁ~。全く持ってお前さんの頭の中身が読めないよ。長年に渡って人を見て来たつもりだが、トンデモ無い輩と知り合っちまったもんだ。分かった。受け取るよ。あんまり年寄りに負担を持ち込まないで欲しいねえ。」


 婆さんがお金を受け取ってくれたので俺はその内にまた顔を出しに来ると告げて家を出た。


「さて、丁度良い具合になったかね?城へと行ってみるか。もう王子様は話を付けたかね?」


 人気の無い裏路地に入ってワープゲートで王子様の私室に移動する。そこには誰も居なかった。


「うーん、まだ時間が掛かってるのか?ま、別に急いでる訳じゃ無いんだった。少し待てばいい話だな。」


 俺はソファに腰かけて肩の力を抜く。そしてこれからの事に思いをはせる。


(最初はスキー場の整備で、次はスケートリンクと、あ、屋内の方が良いだろうか?んで雪が積もれば雪だるまにカマクラに雪合戦して遊んでも良いな。さて、王子様は上手く説得できてるのかどうか)


 まだ明るいが、もう少ししたら日が傾いてくる頃だ。俺がここに入って30分は経った。まだ王子様も戻って来ないし、メイドや騎士なんかもこの部屋にやって来る気配が無い。


「そもそも俺が来た事を知らせなきゃ王子様も気が付かないのでは?間抜けは俺か?」


 夕方前に迎えにという約束ではあったが、王子様の方がソレを忘れていると言う事も考えられるが。

 もしくはまだ準備が整っていないと言う事もあり得る。


「取り敢えず城の中を探るか?いや、でも止めておくか。面倒事を見つけちゃうと首を突っ込まざるを得なくなりそうだしな。」


 余計な事はしない方が良い。そう思い止まる。その五分後にケリンが部屋へと入って来た。


「居ましたか。来てください。こっちです。案内します。」


 ぶっきらぼう。ケリンは俺を見るなりそう言い放ってスタスタと廊下を奥へと歩いて行く。


「おいおい、いきなりだな。まあ、良いか。別に知らぬ仲で無し。何処に行こうって言うのかね?」


 こうして俺はケリンの案内でどうにも練武場?の様な広い場所に到着する。そこには大勢の人々が居た。

 数えてみると着ている服が文官らしい者、三十。武具を纏った者、二十だった。


「コレ、全員連れて行くの?良くこれだけの数の人を集めたなぁ。あ、王子様、かなり順調に説得は進んだみたいで。」


「コレの倍は本来は連れて行きたかったんだけどね。ここには第一陣の五十名が居る。全員には「契約書」へと署名をさせているからエンドウ殿の事を口外する者はここには居ないよ。一応は契約を破棄したり破ると「呪」が掛かる様にしてあるから万が一にもすら無いと思う。かなり強力な物を使ったからその点は安心していい。と言うか、私が安心したかったんだがね。」


 徐々に、そして少しづつなら、俺の事が噂で広まるのは許容していると言いたいようだ王子様は。

 五十人と言う数に一気に俺の力の事が知れれば、そこから瞬く間に俺と言う強大な存在の事は知れ渡る事になるだろう。それも貴族の間に。いや、もう既に俺と言う存在を知っている者は多いのかもしれない。

 ソレは国的にも王子様的にも抑えつけたいと言った事なんだろう。

 しかし各地で結構やらかしている俺にその様な心配や配慮は今更遅い様にも思えるが。まあそれに突っ込むのは野暮なんだろう。


「ここに集めた全員を移動させて欲しい。お願いするよ。」


「ああ、分かった。少し大きめにして3列くらいで並んでは入れる様にするか。それじゃ指示出しとか命令は王子様お願いしますよ。」


 俺はワープゲートを出す。誰かしら驚く者が居て声を上げるだろうと思っていたが、静かだ。


「なんか言い含めてあるの?これだけ静かだと逆にコワいんだが?」


 王子様に俺はそう聞いてみたのだが、ニッコリと笑顔を返されるだけだった。余計にコワい。

 そしてどうにも五十名の様子はおかしい。真っ青、とまでは行かないが、顔色は優れない。

 何か言いたげな表情を全員がしているのに、その内の誰一人として声を上げないのだから。

 やはり何か王子様が事前に吹き込んでいるに違いなかった。しかしもうここまで来ると今更だ。


「全員その中へと進め。通り抜けたら止まらずにある程度進み続けろ。そのまま後方から入る者たちとぶつからぬ様に。では、出発!」


 王子様が号令をかけると誰一人として何も文句を言わずに歩き出す。しかしその表情は良いモノとは言えない。

 今にも泣き出しそうな者、ビビッて表情を強張らせる者、何か悟りでも開いたのか無表情の者、歯を食いしばって恐怖を抑え込もうとしている者など。

 そんな未知との遭遇に対して誰もが王子様の号令を拒否したりする者が居ない。まるで絶対に逆らえないとでもいう感じだ。


「どんな方法を取ったんだよ・・・コワッ!」


 どんな内容の契約書に署名させたのかは知らないが、これ程に徹底させなくてはいけない事なのだろうかと疑問に思う。

 全員が通過した後に王子様がワープゲートへと入って行く。その後で俺も続く。


「やっぱり移動後も誰も声を上げないんだな。一言も喋らないってもの凄く不自然。」


 教育が行き届いている、と言った表現では足りない。正しく奇妙な光景だ。

 整列をしたままに五十名がその場で全員唖然とした顔で立っているのだ。

 一応ここはスケートリンクを作ったあの開けた場所だ。取り敢えずここであればこの人数を移動させても大丈夫だと判断しての事である。


「良し!皆の者!私に付いて来い。町長の家に着いたら行動開始だ。あ、エンドウ殿はどうなさいますか?」


「あー、俺も一応はお金の準備が出来たから町長の所に一緒に行くよ。」


 こうして城から連れてきた五十名と共に町長の家へと向かう事になるのだが。

 町に着けば住民が慌てだす。それもそうだ。いきなり五十名もの団体がいきなり町へと現れるのだから。

 この町にこれだけの大人数で人が訪れた事など無いんだろう。しかも身なりの良い者ばかりである。

 当然金持ちか或いはお貴族様だと直ぐにバレるはずだ。そしてその先頭に立っているのがつい昨日までは「レクト」としてこの町を見て回って、滞在していた人物である。


 町長の家に到着。そしてその訪ねて来た団体の先頭に立つ者のその正体がこの国の王子様だというのを理解すると、町長は顔を真っ青に変える。そして何を喋って良いのか混乱で判断できずに固まってしまったようだ。


「レクト、いや、王子様?どっち呼びにしたらいい?今はやっぱ王子様で?」


「もうどっちでも良いんじゃないかなエンドウ殿は。今更でしょう。呼び捨てにされても構わない、それくらいに世話になっていますからねエンドウ殿には。あ、先にエンドウ殿の用事を済ませた方が良いですか?」


 俺は王子様にそう言われて先に町長と契約をしてしまう事にした。もちろん宿裏の丘だけでは無く、他の土地の方も購入予定である。

 城から来た五十名は別室を借りてテキパキと資料、及び契約書、計画書などを広げ始めて仕事を開始していた。

 アレを、コレを、ソレを、あっちへ、こっちへ、そっちへなどなど。バタバタとしつつもどんどんと下準備を整えていく。


「さて、俺の方も話を先にさっさと済ませてしまいましょうか。こっちが終われば町長はこの後に王子様と今後のこの町の発展計画を話し合ってください。それじゃあ先ずは俺が購入したい土地の方を提示させて貰いますね。」


 俺はこの町の詳細な地図を取り出す。もちろんこの町を見て回った情報を載せた物を作っておいたのだ事前に。

 こうしておけば何処の、どれくらいを、というのがすぐに摺合せしやすい。

 町長は俺がいつの間にこの様な地図を用意していたのかと一瞬だけギョッとした顔になったが、直ぐに気を取り直した。

 その後は俺が地図へと購入したい土地を指し示すと町長が「大丈夫です」と口にする。

 俺は次々に購入したい土地を示していくのだが、町長は「大丈夫です」と言うばかりで拒否すると言う事が無い。

 俺も事前にこの場所は拒否されるだろう、と言った所は一応は考えて避けていたが、それでもこれ程にすんなりと交渉が上手く行くのにはちょっと戸惑う。

 それでも全ての土地を示し終えた後は支払いだ。俺は何処にお金を出せばいいかと町長に訊ねる。


「・・・何処にその様な大金が?いえ、都会には便利な物があって大金はそれを利用して金銭のやり取りをすると言う話は知っております。ですがこの町にはその様な代物は無いのです。エンドウ様はどう見ても、手ぶらでは?」


「あー、そうだよねぇ。しょうがないかぁ。取り敢えず、持ってる事だけは確かだから。一応は使いやすい様に金貨で支払いを考えてるから、大量になるんだけど。先ずは手付金として幾らか出して見せた方が早いかな?その後に金庫でも用意して貰ってそれに出そうか。」


 この提案に町長は乗って来る。なので俺はテーブルに金貨の山を作っていく。もちろん、懐から取り出したかの様に見せかけて。

 手品かよ!と突っ込まれるだろう程の量を出す。これだけの金貨何処にそれだけしまえてたんだよ!と町長からの突っ込み待ちだ。

 だけども町長は呆気に取られてばかりで何も言って来てくれない。俺は止め所を失ってテーブル一杯一杯まで金貨の山を作り上げてしまった。


「・・・はッ!?こ、こ、こ、これは一体!?」


 町長が気を持ち直した時にはもう既に夕方は過ぎて夜となっていた。

 金貨をしまう場所を何とか確保した町長は次に王子様と会談となる。しかし俺はここでオサラバしようかとしたら町長に引き留められた。一緒に話をして欲しいと。


「で、一応は話が全然始まらないから俺が先に話損ねた事があるからここで言うけど。近日、この町に行商が来ると思うから、土地売買で得たお金でじゃんじゃん物を買うと良いよ。」


「あの、それは一体・・・?」


 町長と王子様が顔を合わせても喋り出さなかったので俺が先にクスイに此処へと行商に来て欲しい事を言ってあるのを教えておいた。

 しかし町長はこれに何の事かと察しが悪い。しかし王子様の方はちょっと苦笑いだ。


「まあそれは仕方が無い。エンドウ殿、そう言うのは事前に私に話しておいて欲しかったが。まあ、クスイの店なら大丈夫か。」


 王子様はきっとそこら辺も準備はしてあったのではないかと思うのだが、まあ良いだろう。苦笑いをして許してくれているのだから。

 国御用達の店に今回の話は通しておいてあるのだろうきっと。しかしそこに俺がクスイにこの件を話してしまったのでそこに予定外が入り込むと言う事だ。


「そこら辺は後で王子様がゴニョゴニョしておいてくれ。別に俺も邪魔したり売り上げを横から掠め取ろうと思ってこの話をクスイにした訳じゃ無いし。」


「分かっているよ。彼はそこら辺をちゃんと解っている人物だ。この計画にも参加して貰うように打診しよう。事後承諾と言った形になるけどね。」


 こうして俺の出した話からドンドンと町長と王子様の計画の詰めの話が進んで行く。

 もう夕食時になっているので軽い食事が町長から出されてそれを食べながらである。

 町長は最初に王族に出すには恥ずかしい田舎料理だと言っていたのだが、王子様が「構わない」との言葉で食事をしながらの話合いとなった。

 出された料理は鍋である。しかもどうやらジビエと言えば良いのか?何かの肉ががっつりと入ったかなり豪快な物だった。

 その肉を取り出して切り分け、スープと共に食すのだ。肉の出汁の旨味を吸った野菜を一緒に食べるとより一層美味い。


 こうして夜が更けていく。俺は途中で宿の方に戻ると言って途中退席させて貰った。明日に整地作業を始めると告げて。

 これに王子様は「ああ、宜しく頼むよ」と。町長は本当にできるのか?と言った感じの顔で見送りだった。


 こうして宿に入って直ぐに俺は就寝した。明日は朝早くから作業を開始しようと思ってである。

 どうにも後もうすぐで雪が降り始めそうだ、そんな勘が働いていたのだ。冷え込みが激しくなってきているのを感じている。


 そして翌朝。俺はベッドから出ると外の様子を観察する。


「まだ今日中は大丈夫そうだな。・・・なんだ?あれは?」


 丁度俺が外に出て遥か上空を見上げている方向から何やらこちらへと接近する影が。

 しかし直ぐにソレの当てが付いた。こんな事ができる奴はたった一人?しかいない。そう、ドラゴンだ。

 どうやら俺の居る場所を特定しているらしい。一直線に俺の所に飛んできて目の前に着地した。音も無く。

 かなりの早さだったのにその着地は何の振動も起こさずにピタッと百点満点である。


「私も混ぜろ!」


「お前いきなり何言ってんだ?」


 俺はいきなりのこのドラゴンのセリフにそうツッコムしかなかった。


「いやー、あの場所はどうにも寝るのにもの凄く具合が良くてなぁ。一度寝てしまったらどうにも以前の時の姿の癖なのか、いつまでもいつまでも寝入ってしまってな。はッはっはっはっは!」


「話がいきなり別の場所に飛んでってるじゃねーか。どっちかにしてくれ。」


 俺はドラゴンが今まで「寝てた」と話し始めるのでツッコミを再度入れる。


「で、ここで何をしようとしているのだ?私も混ぜてくれ。面白そうだ。」


「何にも分かってないのに何で面白そうだとか言えるんだよ。」


 ツッコミしか先程から入れていない。良い加減疲れてくるし、さっさと朝食を摂って宿裏の丘へと向かいたいのだが。


「これからエンドウが何をしようとしているのか食事をしながらでも説明してくれればそれで済むじゃないか。」


「分かったよ。分かったからもう落ち着いてくれ。寝過ぎからの起床で頭の回転がおかしくなってるのかドラゴン?」


 妙なテンションになっているドラゴンと共に俺は宿の食堂へと入る。俺は追加料金を払ってドラゴンの食事も用意して貰った。

 こうして朝食を摂りながら俺はドラゴンへとこれから何をしようとしているのかの説明をした。すると。


「なるほどなあ。人と言うのは無駄で、それでいて面白い事を思いつくものだ。いや、私が知る上でその様な事をしようとした者など一人も知らんなぁ。エンドウ特有というやつか?」


「人を頭のおかしい奴みたいな言い方するなよ。で、これからドラゴンはどうするんだ?」


「何を言うか。私もそれを遊んでみたいぞ。この町に滞在するぞ私も。」


 どのあたりに琴線に触れた部分があるのか知らないが、ドラゴンが妙に食いついて来る。

 そして次には寝ていた時の話だ。ドラゴンの話がまた飛んだ。突然話題を変えられるとこちらが疲れるのだが。


「おおう、そう言えばミッツだ。私が寝ている所に武装した者たちが入ってきてなあ。その時に何者だと叫ばれて起きたのだ。私へと武器を構えて殺気を放って来て何事なのかと思ったのだが、そこにミッツが来てなぁ。」


 その後はどうやらミッツとドラゴンは互いの現状を話し合ったそうで。そこで俺がこの北の町に居る事を知ってどうやらやって来たと言う事らしい。


「エンドウによろしく言っておいてくれと頼まれた。どうにもまだまだ長い時間が必要だそうだ。」


「まあ相当時間が掛かるだろうさ。ミッツのやろうとしている事はなぁ。・・・ああ、そうだ。ミッツとゲードイル伯に話をしてこっちに一人教会関係者を派遣して貰おう。優秀で信用できる人物一人送ってくれたら俺が後はパパッと「底上げ」しちゃえばいいだろ。治療院は絶対に必要だしな。あ、そうなると王子様にここら辺は話を通しておかないといけないな。タイミングはいつにするか?」


 とは言え俺が先に今やらねばならない事は整地である。この計画の大本、根幹となる場所の準備がまだ一向に終わっていない。


「さて、さっさと今日中に全部回って残らず片付けちゃいますかねぇ。」


 俺は食事を終えて宿を出る。ドラゴンも付いて来るのかと思えば。


「私はこの町を散歩してくる。用意が全て整ったら呼んでくれ。」


 ドラゴンは全く手伝う気は無いらしい。少しモヤッとする。まあドラゴンの自由を縛り付ける気は俺には無いので良いのだが。


 こうしてようやっと俺は整地を始められるようになった。一気に方を付けるつもりである。余計な時間をかける気は無い。

 その分、大量の魔力は消費するだろうが、想定内である。しかも今回の事を利用して俺の中に有る魔力の総量がどれくらいかを量る事も考えていた。

 宿の裏手に俺はやって来た。そして地面へと意識を向け足の裏から徐々に薄く魔力を流し始めた。


「いやー。もこもこと全ての切り株が一斉に地面から浮き出てくる光景。珍百景だな。」


 などと俺は現実逃避した。先ずは要らないモノを排除である。平らな地面を作るのにそこら中の切り株は邪魔でしかない。

 まあそれらはインベントリに入れておけば後で何かにリサイクルとして使えるだろうからそれらは回収だ。一つ残らずである。


「あ、今年は良いとして、芝生だなぁ。土が剥き出しって駄目だろうし。あ、冬場以外では此処は使う事は無いだろうからそう言った時期に何かに利用できないかな?うーん?」


 大地に魔力を大量に流して今度は地形を変えていく。必死に記憶から映像を引き出してソレをどんどん自分の魔力に流して。どれくらいの傾斜が必要かをウンウン唸りながら微調整を施してい行く。

 急激に無理矢理こうして地形を変化させるのだ。周囲の土地に後々で妙な反動が来ない様に地下深くまで俺は魔力を流し込んで「基礎」も考えて変動させていく。


「あ、雪解けの春にはここに一面の花畑が、なんてのも良いだろうなぁ。いや、ここを兵士の体力訓練場にするのもアリかな?この坂道を走って一気に登って降りてを繰り返さあせればあっと言う間に即席で体力づくりができるんじゃなかろうか?」


 その他にも食べられる野草などを植えて食の一助とかもアリかも、などと思いながらスキー場の整備は完了した。


「後は雪が降り始めて何日後に遊べる程に積もるかだな。・・・あ!スキー道具一式まだ作ってねぇなぁ。」


 まだまだそれらを作る為の時間は充分に残っているし、材料は切り株を加工したらいいだろう。そこら辺はまだまだ間に合う。

 スキーだけじゃ無く他の案件もまだ多く残っている。なので俺は先ずソレを全て片付けてしまう事を改めて意識する。


 移動して俺は次にスケートリンクを作り上げた。もちろん屋内にする為に屋根付きである。かなりの土地をこれに使っている。だが後悔はしていない。

 会場となる建築物の耐久値などの計算や建築技術などは俺に持ち合わせが無いが、それらは柱を太くしたり、コンクリートを地面から魔力で作り上げたりして骨太構造にして耐えさせている。

 雪が屋根に積もればその重さで倒壊してしまう可能性があるので屋根には傾斜を大きめに付けたモノにした。

 地下へと柱を埋め込みしてあるので強風などで倒れると言った事も無いと思われる。

 そうして出来上がったスケート会場はドデカく、そして無骨、奇妙な形となってしまったが、中の広さはかなりあるし、人の出入りなども充分にスムーズとなるようにしておいたので大丈夫だと思いたい。


 こうして俺は予定していた土地をどんどんと回って「魔改造」を施していった。

 買った土地はもう全て俺の物である。地主の俺がどんな風に扱おうと俺の自由だ。好き放題である。

 そして途中で気が付いた。夢中であっちもこっちもと魔力を使って整地や建築をしていったのであるが、全く自分の中から魔力が減っている感覚が無い。


「俺はいったいどうなっちまったんだ?・・・後でドラゴンに見て貰うか?俺の魔力の事。あー、でもなぁ。聞きたいような、聞きたく無い様な。」


 別に減らないなら減らないでかまわないはずだ。しかし魔法というモノは究極の「御都合主義」だ。便利で、便利で、便利過ぎて依存してしまう怖い代物だ。

 そして魔力が多くある事に都合の悪い事が一切無いのが逆にもっと恐ろしいのだ。

 行きつく所まで行ったその先で、俺が人では無い物に変わってしまっていないだろうか?

 気付いた時にはもう遅い、そんな所まで考えてから震えてしまう。


「おう、ドラゴンにちゃんと聞いておこう。今でも俺はもう「人で無し」なんて言われてもおかしくない状態だった。ドラゴンに「対等」などと言わせちゃったんだからな。自分の事をちゃんともうちょっと知ろう。」


 俺はそう思い直して今度は街道の整備へと向かった。

 デコボコ道を均し、アップダウンを削り、できるだけ水平に保って小石一つ無い状態に整える。


「うーん?何だか味気ないな。小さいタイルを敷き詰めてモザイク模様でも作ってみるか?」


 俺はなけなしのセンスを総動員して魔力を地面へと流していく。平らになっていた街道はどんどんとその見た目を変えていく。

 この時に俺の頭の中に有ったのはとある有名な教会のモザイク窓。カラフルでいて荘厳なソレを再現しようと思って魔力を次々に、何処までも遠くに流し込む。

 この町の名物の一つにでもなれば良いかと思って集中して地平線を見つめる。何処までも何処までも真っすぐに。


「よし、どうやら向こうまで繋がったみたいだな。これで良いだろ。この街道に積もった雪は端に寄せて山にしたら雪灯籠にでもして火を灯せばかなりのインパクトだろうな。ちゃんと雪かきをする人員も確保しないと駄目だよなあ。あ、その搔き集めた雪を運んで雪像づくりの方に回したりしても良いだろうな。うん。」


 俺は一人でそう納得してようやっと全てを終わらせた事に満足する。そして宿へと戻った。


 戻ったら戻ったで宿の前に人だかりだ。何だ何だと思えばその野次馬たちは宿の中を覗いている。

 これには俺も何が何だか分からなかったが、宿にドラゴンが居るのを理解してしまった。


「そう言えばドラゴンは見た目だけなら超絶美形だった。めんどくせぇ。これ全員ドラゴンを一目見ようと集まった町人たちかよ。」


 ドラゴンはこの町を散歩してくると言って別れた。その時にこうなる事を俺は予想しておかねばならなかった。

 こんな「ド」がいくつか付くような辺鄙な田舎町にそんなこの世の者とは思えないような見た目の存在がやって来て町を歩き回ったのだ。

 そりゃ物珍しさで人が集まるのはしょうがない。これでは俺が宿に入れない。


「あーもう、スイマセンが、退いてくれないですかね?俺が中に入れないんだよ。」


 俺が声を掛けて野次馬たちはようやっと自分たちが何をしていたのかを理解したらしく、素直にすごすごと解散していった。

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