雪の中に埋まっている夢とりどり
若い町長だ。まだまだ青年と呼べるだろう年齢の彼がこの町の代表だと言う。
「無駄な世間話も何なのでぶっちゃけて言わせて貰うと、俺の楽しみの為に宿の裏手の丘を俺に任せて貰いたいんです。」
俺のこの求めに一切顔色を変えずに聞き返してくる町長。
「ソレは一体どう言った中身で?任せると言っても何処までの範囲を、どの様にするおつもりですか?その求めはいわゆる森守りになると言う意味ですか?」
森の番人になると言うのか?と町長は質問してくる。だが俺はこの町に残るつもりは無い。
冬場に遊びに来てはスノーレジャーを満喫したいだけだ。気が向いた時に。
「守り人にはなりません。いわゆる土地開発、観光名所作りですね。出来た場所に客を呼び込んで、この町でしか食べられないと言う名物料理を楽しませ、長期滞在をさせる様に仕向ける。外貨をその分だけ落として貰えればこの町は復活しますね。その御金で他所から森の管理人を呼んで永住してもらい、植林をして薪の為の資源確保、町の資金に余裕ができれば暫くは外から薪を仕入れる事も考える事が可能になります。」
「余りにも魅力的過ぎますね。そして、それは絵空事過ぎます。あの丘を見ているみたいなので言ってしまいますが、あそこを開発するにしてどの様にするのかをお考えかは分かりませんが、長年ずっとあそこは手つかずです。何故ならあそこを片付ける為の人員導入がこの町では余裕が無いからです。今は余計にこの時期は家に籠っている為の準備で人を割く時間も余裕もありません。労働力を求めて貴方が賃金を払うと言っても人は集まらないでしょう。寒さ厳しい我が町はそれだけ生きるのに必死なのです。今の時期はお金で動く人たちは居ないでしょうね。」
冬ごもりの準備、それらが終わる頃には雪が降り、もう外に出る事もできなくなり始める。
そして冬が終わればその後は即座に短い春の時期の間に畑仕事、狩りの準備、溶け残った雪の処理などに追われてそれどころでは無い。
その後は収穫の時期を迎えて仕事の忙しさは上がっていき、それが終わる事には収穫物の手続きや処理に追われて、それが終わればまた冬ごもりの準備。廻る季節、短い春。
長い冬と、それを越す為の長い期間を掛けた生きるための様々な仕事を熟していく。そのサイクルの中に俺の求める人員を割くと言ったものは入り込む余地が無いのだと。
「人は要りません。そうですね・・・自分の楽しみの為に整備をしますので、お金の方は寧ろこちらから払うのが筋でしょうか?一応はあの場所を俺が買い取った方が良いんでしょうかね?何も使い道が無く、しかも整える事もできなかった場所ですよね?なら町人たちからしたら在って無い様なモノでしょうし。あそこ一帯を全部買い取らせて頂けません?」
「貴方は一体何を言っているのですか?買う?あそこは町の土地ですから全町民にもこの件を知らせてからでなければ売買はできませんよ?」
「あ、なら早い所お願いできますか?一面真っ白になる前にね。では、今日はこれくらいにしましょうか。一応はここで言っておいた方が良いですね。別に観光客とかぶっちゃけどうでもよくて、俺の思い付きを実現してそれで遊びたいだけなんですよ。あそこを綺麗にして遊技場にするつもりなんですけどね、その後の使い道はこの町に全部丸投げ、一任するつもりなんですよ。人を呼び込むために使うなり、それ以外で使うなり、放置するなり、どの様にその後は使って貰っても良いと思ってます。」
「貴方が余計に何をなされたいのか解りません・・・ですが、今日中にでも町人の代表たちを呼んで話し合いはするようにしましょう。」
こうして話を取り付ける事ができた俺は宿に居る事を伝えてその場を去った。
「いやー、どうやら話が早い町長さんで良かった。この決断の早さは多分この町が相当に切羽詰まってる証拠なんだろうな。」
そう言った弱みに付け込んだみたいになった事にちょっとだけ罪悪感が出たが、それも直ぐに消える。
自分のやりたい事に一歩前進したし、町の為にもなる事だ。それを考えれば別に罪悪感がどうのこうのと横入りしてくる余地は無い。
「後は道具作りにスノーウェア、それと上に行く為のロープウェイ?ゴンドラ?は無理かな。階段だとキツイだろうし、他に何か考えられないかな?古代ローマのコロッセオには既に手動式エレベーターがあったって言うし?」
あの丘をどうにか登るための手段が無いと駄目だ。スキーで滑り落ちるのが楽しいのであって、上るのがきつければその楽しさは半減する。
「ならそこに至るまでの道のりが遠回りで長くなっても楽しめる様に工夫するのが良いか?クロスカントリー?」
斜面に辿り着くまでの道のりにそう言った要素を取り入れればどうにかできないかと考える。
冬と言うのは運動量が減るモノだ。寒くて動かない、外に出て運動をしない、仕事量も減って、などなど。
こうした機会に冬場のそうした体型管理に使えると言った宣伝文句でも良さそうだ。そこに景色の良さを加えれば何とか美しい銀世界をその目に焼き付ける為に遊びに来ると言った目的にもなりそうだ。
「こうした雪の降る土地じゃ無いとソレを見た事が無い、って人も少なからず存在するんじゃないかな?」
などと雪自体を観光の目玉にしてしまうと言った手もある。かまくらを作ってその中で温かい鍋料理。
雪像を作っての美術鑑賞。或いは雪灯籠などに火を焚いて幻想的な夜景を作り出すなどなど。
「北海道はでっかいどう、なんて言ってる場合じゃ無いな。色々とアイデアを出しておいて・・・そうだな。レクトがその最初のお客さんだな。」
こうしたアイデアを評価して貰うのに打って付けの王族がこの場に居るのだ。使わない手は無い。
ついでに王家の保護も約束して貰えればこの町の利権を狙って悪意を持って近付いて来る奴らの牽制にできるだろう。
「まあそれもこれも土地が買い取れたらの話だけど。取らぬ狸の皮算用か。あ、お金用意しておかないと駄目か?ここにはカードの読み取り機は・・・無さそうだ。後で下ろしてこようっと。幾らぐらいなんだろうな?基本的に。この世界の土地の相場はハウマッチ?」
お金だけだと少々味気ないと追加で思い、俺はとある手土産を作って町の人たちに配るつもりになった。
そうして宿へと帰って来てみれば食堂の広いテーブルでレクトと師匠がチェスをしている。
確かマーミか、師匠に預けたままだった。まあ二人が楽しんでいてくれるのならば別に返して貰わなくても良いのだ。
静かに盤面と睨めっこするレクトと師匠。どうやら二人の実力は拮抗しているらしい。
そう言えばこれもこの町の遊戯物として提供しても良いかもしれない。夜にこのチェスで対戦しつつ、酒をちびちびとやりながらツマミを口に放り込む。
外が吹雪いて外に出られないなんて事になれば部屋に閉じ籠っているしかない。そうなると楽しみが断然減ってしまう。
ならばそうした室内遊戯も必要だ。チェスだけで無くてカードもあればより色々と遊びに貢献できる。
こうなると俺のやりたい事がどんどんと増えていくのだが、今の俺はこの観光事業の事を考えるのが凄く楽しくなってきていた。
冬場に遊べるスポーツはスキーだけじゃない。雪合戦もアリだ。レースも良いだろう。雪中レース、そりを引かせて。
エクストリームスポーツ何かも流行らせたい。この世界の人々にソレを見せればきっと度肝を抜かれる事間違い無しだ。
スキージャンプはちょっと危険なので控えておいて、モーグル何かは面白そうだ。スケートもできればやりたい所だが、綺麗な氷面にできずにデコボコだと怪我の元になるので実現をするには少々考えなくちゃいけない部分がある。
それでもそうしたスケートリンクができればアイスフィギュアやスピードスケートなども実現できる。アイスホッケーもできそうだ。
夢が広がる。そしてその実現をさせるのにはここで協力者が必要になる。その一番必要な、そして強力な助っ人は今師匠とチェスを行っている。レクトだ。巻き込まない手は無い。
そして全て現実のモノにしたい。恐らく俺のこの思い付き全てを実現させると一気に文化的な面がドッカンターボで前に進む。
しかし誰もこれについてこれないと根付く事無く消えていく事になる。そこら辺に気を配らないといけない。
「ちょっとづつ小出しでも良いけど。でも、余りにも最初に出すメニューの数が少ないと話題性が無いんだよな。」
目移りするくらいに楽しそうな事が一杯。それでアレもコレもと人を惹き付けてこそ、そう言った遊びが世の中に浸透するというモノだ。
「ちょっと先に現金を下ろしてくるか。マルマルで良いかな?一応ギルド長に相場の相談しに行くか。」
俺はワープゲートを出して移動する。そのまま冒険者ギルドの裏手、人気の無い場所に出る。
直接ギルド長室に出ると誰が他に居るか分からないし、いきなり俺が現れた事にギルド長が小言を口にするかもしれない。
それに単純に俺のカードに入っている金額を引き出しに来たのだから正面からちゃんと正式に入った方が良いだろう。
「こんにちわー。すみません、お金下ろしに来たんですけど。その前にギルド長に相談したいんで面会の許可を貰いたいんです。」
「はい、エンドウ様。お久しぶりです。では少々お待ちください。」
俺の事をどうやら覚えていた受付。正直言ってすまないと思う。俺はその受付の事を覚えていなかった。
受付が奥へと消えてそんなちょっと気まずい気分で待つ事10秒。戻って来て俺へと直ぐにギルド長室へ来て欲しいと言われる。
そのまま俺は一人で慣れた足取りで奥へと進んでギルド長室の扉をノックする。
「遠藤です。入っても?」
「どうぞ。」
短いやり取りだった。そして少しだけ機嫌が悪そうな返しだった。そして俺が入室するなりかけられた言葉は。
「で、今度は何をしでかしたの?」
「いや、何もしてないよ?あ、これからする所だけど別にここのギルドは巻き込まないから安心してください。あ、お金下ろしたいんだけど、幾ら迄可能?それと北の町の土地を買う予定なんだけど、その金で。あっちの土地代って大体相場幾らくらいか知ってたりしない?」
「いきなり頭が痛くなる事をブチ込んでくるの、止めて。情報量が多すぎるわ。」
俺は単刀直入だ。しかしどうやら前準備、事前覚悟というモノが欲しかったらしいミライギルド長は俺へと掌を向けてくる。
「土地を買う?その金を下ろしに来た?幾ら迄なら可能か?それが北の?あの何も無い?・・・嫌な予感しかしないわ。巻き込まないと言っておいて貴方、もう巻き込んでるわよね?コレ完全に?」
俺はソファに座らせて貰ってから説明を始める。そう、俺がこれからしたい事の最初の触りだけを。
「遊技場を作りたいんだよ。冬場限定の。それと、幻想的な風景やら、催し物なんかも開催してあの町を活性化させたい。観光客を呼び込んだり、新しい価値を生み出してあそこを大々的に生まれ変わらせる。」
「貴方が何を言っているのかちょっと理解でき無いんだけど?」
まあ俺の言っている事がすぐに呑み込めないのはしょうがないとしても、別にここでギルド長に協力してくれと言っている訳では無いので理解できなくても関係無い。
「なーに、俺の預けてるお金を全部引き出したいって言うだけで、別に難しい事じゃ無いよ。」
「・・・あのね、貴方の預金が幾ら入っているのか自分で分かっていないの?下手すればその町、買えるわよ?そんな大金がすぐに用意できるはず無いでしょう?」
ああ確かにそうだ、と納得してしまった。現代でだってそんな大金をゲンナマで銀行から引き出すにしたって相当な準備期間というモノが必要になる。
言ったその場で引き出せるはずが無い。企業同士の契約だって数字の増減がされるだけで現金が直接そのままやり取りされる訳では無いのだ。
そう言った手続きや金の動きはあくまでも「銀行預金の中の数字の移動」で行われるものである。
そして俺の預金は下手すればその北の町が買えてしまう金額らしい。市町村の運営予算並みと言う事だろうか?
余り実感が沸かない。こちらに来て少々立つが、それでもまだこちらの世界の金銭感覚が俺には身に付いていないようだ。
「あーウッカリしてた。じゃあさ、先に土地相場って分かったりしない?」
「どのくらいの広さなの?ちょっと頭痛くなりかけて来てるのよ、勘弁してほしいわ。」
俺は言葉で説明するのが面倒になって脳内で「3Dプロジェクションマッピング」を思い浮かべる。
ソレを部屋の壁、装飾が無い真っ白な所へと魔力を流して映像を映し出す。
「ここに映し出した土地は最低でも買う。その他にも買いたい土地はもっと一杯あるな。スケートリンクにしたい場所もあるし、ハーフパイプを作ってエクストリームやりたいし。」
「・・・貴方の言ってる事が何の事かは半分以上分からないけれど、ここを、全部?それも最低でも?」
少し間が空いてからギルド長は「何を考えてるのかさぱっぱりだわ」と素の顔で漏らす。
「・・・今ギルドで出せる最大は魔白金四枚よ。四枚って言ってもあっちの町ではそんな大金じゃ使い勝手が皆無だわ。それと、あっちの土地価値であれば魔白金一枚で御釣りがくるんだけど、そこの土地だけで。」
「いやー、安いね!地方の田舎だから人は居ない、土地は有り余ってるからなのかね?だったらもっといろんな場所が余裕で買えるな!夢が広がる!あ、そうだ!もっともっと金が必要だったらサンネルとクスイに出資して貰うのもアリか?いや、この際だからサンネルに少しだけ肉を卸すか。その時には現金払いにして貰って・・・ゲードイル伯爵にも一枚嚙んで貰うってのもアリだな?」
俺のこの次々に出て来る言葉にギルド長の顔から表情が消える。そして小さく「勘弁して」と呟いているのを俺は聞き逃さなかった。
これ以上ここに居るとギルド長の胃に穴が開いてしまうと思ってお金の準備を進めておいて欲しいと伝えてギルドを出る。
そして次に向かうのは久々にサンネルの所だ。牛肉を二頭、或いは三頭売っても良いだろう。
この肉の価値にいち早く気付いた者がこぞってコレを買うためにバッチバチに心理戦やら何やらを展開するのが予想できる。
今まで俺が持ち込んだ素材でサンネルの名は恐らくはかなり有名になっているに違いない。名が売れればその人物が「目玉商品」などと言って売り出せばきっと天井知らずで値が上がるに違いない。
とは言え、この肉の味を知らぬ者がそこまでの金をいきなり出すなんて事はあまり考えられない。
ならば試食用に余分に出すのが良いだろうか?最高級肉としての評価を得られそうな一部分を出すか、或いは満遍無く全身の味見ができるようにするか?
「よし!ならば一頭丸々を使って部位の食べ比べを有料で出して、それに乗って来た商人だけでの競りとかでやらせてみるのが面白そうだ!」
ここで俺の方針は決まった。歩いてサンネルの倉庫へと俺は向かった。
前回に取引をしてからまだそこまで日が立っていないのでもしかしたらサンネルの方が拒否をして来るかもしれない。準備ができていない、と。
だが一応は聞いてみるだけならタダでできるし、時間もそう掛からない。
毎度の事ながら突然の訪問なのだが、何故かサンネルが入り口で俺をまるで待ち構えていたかのようにそこに居た。
「お久しぶりですな。やはり今回も珍しいモノをお売り頂けるので?」
「何で俺が来る事が分かったの?何かコワい・・・」
事務所へと一緒に歩きつつサンネルから「勘」と言った答えを貰う。俺はそれに「エスパーか?」と余計にコワいと感じた。
部屋に入って即座にお茶と茶菓子が出て来る。お茶だけを一口飲んでから俺は今回買い取って貰いたい物の説明と、それをどうやって売りたいかを話す。
するとサンネルはニヤリと薄く笑った。面白そうだと言って。
「承知致しました。その売り方を試してみましょう。試食会をした後には三日の期間を空けてから競りに出せば値段はかなり上がるかと。」
「なあ?俺の言葉を信じるのか?いや、美味いのは嘘じゃ無いんだけど、サンネルは実際に食べて無いだろ?」
「いえいえ、何をおっしゃいますやら。エンドウ様の御言葉を疑うはずがありませんよ。何せこれまでにお売り頂いた品はどれも高額取引で御座いましたからね。それに、そう言った美食というモノは人を狂わせます。ワタクシは程々の美味い飯と酒で充分なので御座いますよ。試食も今回、致しません。コレがきっかけで底無し沼に嵌るのは勘弁で御座いますからね。」
サンネルがそう言うのであればここは全部任せてしまおうと思う。
そこからいつも通りに俺へと払う額は適当にサンネルが決めて良いと言っておいた。
今すぐにお金が用意できる訳でも無く、そして競りを開始する前の試食会の招待状、商人へと参加不参加の確認などの手間やそれを開催するのに場所確保だのと相当に時間が掛かる。
俺はそこまで急ぎじゃ無くていいと言って試食会用の一頭をいつものように倉庫に出した。すると即座に何処からとも無く解体職人だろう者たちが一斉に倉庫内に入って来た。
そして次々に切り出した肉を傷めない様にと氷が入った箱の中へと詰めていく。
これに俺は肉の品質を落とさないためにと協力して魔法で一気に冷凍をする。チルド保存だ。
余りにも肉の細胞を壊す程に凍らせてしまうと旨味が解凍した時に溶け出てしまう。
(冷蔵庫の進化って凄い事だったんだなぁ。こっちの世界じゃそう言った事は無理だもんな)
こちらの世界にそう言った高い技術での冷凍保存は無い。改めて科学工業と魔法の差をしみじみ思う。そうした作業に協力を終えた後は長居せずに倉庫を出た。
その後は直ぐに俺は北の町に戻る。北の町の周辺を見て回って開発予定地などを決めようと考えたからだ。
まだ時間的に見て町民会議は終わってはいないだろう。それにこちらも金の用意はできていない。
ならば町長との交渉もまだ先になる。だったらこの町をもう一度良く見て回って整備する場所やら、遊び道具
などの用意などをしていた方が有意義だ。
「で、レクト、俺の遊びに付き合ってくれ。トコトンな。お前も言ってただろ?長期療養がしたいって。」
「突然不安になる事を言ってくるのはやめて貰えないですかね?」
宿へと戻ったらどうやら一戦終えたらしいレクトと師匠が居たので俺は声を掛けた。
レクトにいきなりそんな事を言ったので師匠が割って入る。毎度の事突拍子も無い事を言うなと。
「エンドウよ、お前が今度は何をしようとしているのかをちゃんと今ここで説明してくれ。そうでなければ手伝いたくても付いて行けんぞ?」
「あ、師匠手伝ってくれるんですか?なら開発計画を少しだけお話しておいても良いかな?」
「・・・もうちょっと待て。覚悟を決める。」
手伝うと言ってくれたのに師匠は心の準備がまだだと言ってくる。
なので俺はソレを待つ間にレクトへと「恩返ししてくれ」と言う。
「お城の兵士たちとか、或いは酔狂な貴族を呼んでこの町で俺の考えた「遊び」を広めて欲しいんだ。なーに、難しい事は無いよ。レクトが先ずは一番の「お客さん」になって貰って、戻ったらその事を宣伝してくれるだけで良いんだ。」
兵士を呼ぶのは雪中訓練、貴族たちは冬場の幻想的なこの町の風景とスノーレジャーを。
この俺の求めにレクトは疑問をぶつけてくる。
「あの、雪の降る中をこの町に来いと?町に入った後に出るのにも相当な手間が必要でしょう?」
「街道計画も入れないと駄目か。そうなったら雪道を綺麗に雪かき・・・あ、その雪で道中に雪像とか作って客の目を楽しませられればいいな!あ、その場合は芸術家とか彫刻家に頼んで冬場限定なんて言って様々な作品発表会とかも良さげ!」
「駄目だこの人、何言ってるかサッパリ解らないぞ?」
レクトに理解不能と言われてしまった。いや、確かにこれだけだと俺の脳内だけのモノであるので可視化しないと駄目だ。
「ならば手っ取り早くいきますか。俺の脳内の映像を壁にロードショウしなければ。」
俺は手始めにスキーを楽しむ、スノーボードを楽しむ人々を魔力で壁へと映像を流す。
次にはエクストリームスポーツを。次にはアイススケート、アイスダンス、スピードスケート。
お次は幻想的な白銀の世界に灯る雪灯籠。かまくらに鍋、北海道の雪像祭りなどなどを映し出す。
これらを見終わったレクトと師匠は同時に同じ感想を述べる。
「「夢でも見ているのか私は?」」
「いや、実現可能だけど?」
この世界には魔力があり、それを利用した魔法と言う奇跡がある。それらは俺の居た地球には無い代物で。
工事やら重機やらが必要無く、魔力さえ豊富にあればソレを操り工期など無いと言って良いくらいに施設の完成を早める事が可能だ。
想像力と魔力を自在に使える技量が必要な点で行くと芸術肌の魔術師が適任かもしれない。
そうなれば魔法を使える者をこの町に呼び込んで作業させるのが一気に進める為の第一であると思われる。
そうなるとレクトに頼むのが良いかもしれない。彼の鶴の一声で王宮魔術師が駆り出せるとは思えないが、その点も頭の隅に入れておく。
アイスリンクを綺麗に均一に均す為には魔法が使えて氷を自在に操れる者が必要だ。そこら辺の人員は確保しておきたい。
毎年になって俺が出向かないといけないなんて事は避けたい。そうした者たちをこの町専用で確保、呼び込みをせねばならない点も計画に入れな行ければいけないだろう。
考える事がどんどんと多くなっていくが、ここら辺の事業は町長か、或いはレクトまたは国に投げても良いだろう。
「エンドウ、どれ程の年月が掛かると思っているんだ?これ程の大事だよ?十年計画で達成できるかどうかも怪しいじゃないか。」
レクトが俺の見せた映像の感想を述べる。でも、そんなの関係無い。
「一気にやるつもりだよ俺は?あ、それも今やってる町の人々の会議結果が出たらの話。俺の買い取りを受け入れてくれたら先ずは受け皿くらいは完成させないとね。俺が遊びたいからやるんだから、俺が何とかしないと駄目だろ?後の細々とした所は町長とレクトが詰めてくれるとありがたいね。」
「・・・この計画が成功したら確かに国としても嬉しい事だし、この町にとっても有益だから分かりますけど。税金関連も上げる事になるでしょうからソレは数年後に修正で良いとして、あー、もう、何でここまで来て私に仕事を振って来るんですか!」
レクトは療養に来たのだ。この町でゆっくりと心と身体を休めるために。
でも俺が思い付きで考えた事業案に頭を悩ませた辺り、仕事が身に沁みついていると言う事だ。
一言「無茶です」と言って断ってしまっても良いはずなのに、レクトは俺が見せた映像と、そして俺が全部片づけると言った点で成功するビジョンが出来たんだろう。
俺の規格外な魔力をレクトはもう知っている。そして俺の使う魔法の方もなんだかんだ言ってレクトの想像の遥か斜め上にあるのを知っているのだ。
そこから導き出して、あれもこれもと「絵に描いた餅」では無く実現可能だと言うのが理解できてしまっている。
「じゃあ宜しく頼むよ。まあ、大丈夫だ。最初に言ったとおりに最初の「お客さん」はレクトになるだろ?そうなったらきっと楽しんで貰えると思ってるよ俺は。」
「無責任、だと言えない。はぁ~。もうエンドウの実力は知ってますからね。なら全力で私も遊びましょう!自棄ですよ!こうなったらね!」
レクトは小さく叫ぶ。どうやら徹底的に俺の思い付きに付き合ってくれるようだ。
「で、師匠はどうですか?手伝って貰えます?」
「この歳で雪遊びに夢中になってみるのはいささか恥ずかしいと感じるが、まあ、良いだろう。私も付き合おう。」
師匠も了承してくれた。後はラディにも話してみれば面白そうだと乗って来てくれるかもしれない。
マーミは「あほらし」と言って拒否してくる可能性が高い。それはそれで別に良いだろう。
後は町の人々が俺の計画を聞いて、見て、協力を今後していってくれるかどうかだ。
「あ、土地もまだ買えて無いし代金も用意できて無いのに気が早かったか。計画書を製作しておくか。忘れない様に徹底的に書き出して、あー、それを量産して町長と代表の人たちに配って読んで貰って・・・俺のイメージの上映会もしてその目で見て貰わないといけないかな?」
下準備は徹底的にしておかねばならないだろう。それとこの町の周囲と言うか、安全の確保も考えないといけない。
「この土地の周囲って凶悪な動物や魔物とかは生息してるのかね?あ、ダンジョンなんかが埋もれていたりとかしたらヤバいな?」
そんな事も考えて今日の残り時間をそうした調査に当てる事にした。