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突撃だ!

「そう言えばさ?扉に鍵が掛かっていては入れないって、そもそもだよ?その鍵を持ったままヌシは中に居るんだよな?で、扉がこのまま開けられないとなると内側から鍵が掛けられる仕様になってるんだよな当然?」


 当たり前の事を当たり前に聞いている俺。普通に見て間抜けな質問をしている様に見えるだろう。

 だけども大事な事だ。ダンジョン内に鍵が見当たらないのならば、そもそもこのダンジョンはどうやって攻略すればいいと言うのだろうか?

 普通の冒険者には攻略が端から無理だと言う事になるこれでは。開けられない扉、見つからない鍵、ヌシの居る部屋に入れず討伐不可能な状態。


「確定だな。中に居るのは「人」だ。知恵持つ魔物でもこの様な事は不可能だろう。このダンジョンは改造されていると見なしていい。この様な発想をするのは大抵性格最悪の意地の悪い者と相場が決まっている。」


 何だか師匠がかなり恨みを込めた辛辣な事を吐き出している。似た様な事で相当に何かあったんだろう。

 ここで作戦開始、となる前に質問を俺がする。


「ヌシを倒したら即座にダンジョンが消滅し始めるとヤバいから、レクトだけは外に出した方が良いと思うんだけど、どう?」


「ここまで一緒に来させておいてそれですか今更?最後まで見届けさせて貰いますよ。それに、私の事はエンドウが助けてくれるんでしょう?」


 レクトは俺の心配を蹴る。まあ危なくなれば確かに助けるが、それ以前に事が終わった後にヤバい事が待っていると分かっていれば、ソレに事前に近付けない様にした方が良いと考えるのはしょうがないだろう。

 ここまで来るのにレクトが一緒だったのは出会う危険に対して俺が簡単に対処ができるだろう案件ばかりだと判断していたからだ。

 流石にダンジョン消滅があった場合に巻き込まれた時、ぶっつけ本番で俺以外の他人を守れる精神的余裕がその時に残っているかどうかは分からない。

 レクト以外の皆は自力で何とかするかな?と俺は思っている。ダンジョン脱出に関してはまあ俺のワープゲートがあるので危険は少ないとも思えるが。


 どうせならそこら辺の所をもっとドラゴンに教わっておいた方が良かったと今更反省する。独立した自分の魔力で創り出す空間、それを自由自在にできる様になっていればここでそんな心配もせずにいられたのだが。


「じゃあエンドウ、やってみてくれるか?あの呪い戦士をぶっ潰してくれ。」


 一応は押し開けてみようと扉へと手を掛けて力を込めていたカジウルが俺へと声を掛けてくる。

 どうやらやはりダメだったようだ。ウンともスンとも、ビクともしないとばかりにちょっと困ったような顔で肩を上げると言うリアクションを取っている。

 ソレを俺は見てどこぞのアメリカンホームコメディみたいだなと感想を持ちながら、ダンジョンを自身の魔力で変化させ壁をせり出させてゾンビを圧し潰した。

 ゾンビは遥か遠い別の場所に居るのだが、そこまで俺は魔力を伸ばし広げて難無くゾンビを倒す。


「終わったよ。・・・呪いは発動しなかったみたい?まあいいや。皆、警戒して。」


 俺がゾンビをやっつけた事を報告する。そしてヌシがこれにおかしいと思って出て来るかもしれないと言う作戦であるので扉を警戒するように言う。

 そしてそうなってから10分が経過した。未だに扉が開く気配が無い。


「ねえ?もしかして、気付いて無いんじゃないの?ソレかそもそも気付け無い?」


 マーミが可能性を口にする。他の事に夢中になっていて気付いていないか、もしくはヌシの部屋は独立していて外の事に気付けないのか、どちらかでは無いのかと。


「もしくは危険だと判断して籠城、といった事も考えられるな。」


 ラディはヌシが閉じこもってこのまま安全を確保しようとしているかもしれないと意見を述べる。


「扉は絶対に開けられない、なんて風に思っていると言う事か。確かに鍵が無ければ開けられないだろうからな。」


 師匠がそんな風にラディの意見に付け加える。ここでレクトが口を開いた。


「あの、そもそもですよ?この扉が中の魔術師に改造を施されたからこうなっているのであるならば、エンドウにもソレができると言う事では?」


 どうしてそれを考えつかなかったんだろうか?散々俺がこのダンジョンに「穴」を開けてここまで辿り着いたと言うのに。

 そもそもそんな真似ができるのであればこの扉も俺が何とか出来る筈であったのだ。扉もダンジョンの一部だ。


「ああ、そうだな。何でそんな簡単な事を気付け無かったんだろ?・・・ああ、鍵だな。」


 鍵があると言った点で俺はそこで思考を止めていたのだ。以前にも鍵が掛かった扉を蹴破ると言ったアホな事をしていたりするのだ。

 鍵などと言った縛りを受けずとも俺には目の前の障害をどうにだってできる力を最初から持っていた。


「以前にもヌシの扉を蹴破った事があったんだった。別に鍵に拘る必要無かったな。」


「お前今なんつった?」


 カジウルにツッコミを入れられた。白状しろと言われたのでその時の事を説明したのだが。


「馬鹿だ・・・馬鹿が居る・・・信じられない程の馬鹿がここに居る・・・」

「またエンドウは無茶をしてたのね・・・鍵の事で悩んでた私たちは一体何だって言うのよこれじゃあ。」

「まあ、あれじゃないか?騎士団の強制捜査とかでも部屋の扉が開かないときはソレを壊して中に突入する事もある。ダンジョンでも同じって事だろ?」

「相変わらずエンドウには常識が通じんな・・・いや、違うか。私たちの考えの方が少々硬いのだ。」

「いや、騎士団の強制捜査でも扉が開かない場合に破壊するのは最終手段か緊急措置ですよ?」


 カジウル、マーミ、ラディ、師匠、レクトの順である。

 ラディは俺を擁護してくれるような発言、師匠は思考の柔軟さの事を述べ、レクトは「流石にソレは無い」とツッコミである。

 カジウルとマーミは俺を馬鹿呼ばわりである。脳筋みたいだと言われているようでちょっと嫌だ。


「・・・有り余る魔力でゴリ押ししてここまで来てるし、否定できないのがなー?」


 俺は別に「筋力で全て解決!」と言った事をしている訳では無いが「魔法で全部解決!」といった事はしているのでその中身の「本質」とやらは違わないのだ。馬鹿にされても否定ができない。


「どうする?もうちょっと待ってから突撃するか?」


 カジウルがそう言ってこれからどうするかの意見を皆に訊ねる。もう俺がこの扉を開けられる前提で話しを進めている。


「奇襲と言って良いのかどうかわからんが、早い所潰してしまった方が良いだろう。流石にこれ以上待ち続けていても出て来るとは思えんしな。」


 師匠がそう言うと全員が頷く。同じ意見だと言う事なんだろう。ならば次にやる事と言えば、俺の出番である。


「じゃあやってみるか。・・・で、普通に鍵を開ける?ここまで来たみたいに穴を開けるのか?それとも蹴破る?」


 出した三択に全員が呆れた顔でこちらを見て来るので俺は「何だよ?」と、言いたい事があればしっかりと伝えてくれと言う。


「お前は何で蹴破るのを選択肢に入れてんだ?」

「あのさ?普通に開けるんじゃ駄目なのかしら?」

「と言うか、このデカイ扉を蹴破れるか?・・・いや、お前ならできるか。」

「意表を突くと言う事であれば一番は蹴破るのが良いと思うが・・・」

「あの、普通で行きませんか?」


 カジウル、マーミ、ラディ、師匠、レクトの順で意見をぶつけられた。これに俺は何だか理不尽だと思ってしまい多少の怒りが湧いて来る。


「分かった。俺の自由で良いんだな?なら蹴破ろうか。」


 俺も俺でこんなデカイ扉を蹴破るとか言った案を出したのは確かにおかしいとも思うが。それでも呆れた顔を向けられるのはちょっと違うと思ったのだ。

 俺は扉を以前に蹴破った事があるとちゃんと説明してある。それなのに皆の態度はあんまりじゃ無いだろうか?

 とは言え別に本気で怒っている訳でも無い。ちょっといじけているだけだ。俺も子供じみているとは感じるが、今まで俺と一緒に居て出会った時と変わらないこの俺へのつむじ風の対応はどうなの?とも思ってしまう。


(まあコレが慣れ合いと言う事なんだろうけど)


 そんな風に思いながら扉から距離を取る。


「おい、エンドウ・・・何やらかす気だ?」

「ねえ?そこはかとなく不安になるんだけど?何でそんなに離れてるの?」

「俺たちに被害を出さない様にしてくれよ?何を始めようとしてるのかは分からんが。」

「エンドウ、蹴破るのは構わんが、加減は考えろ。中がどうなっているのかは分からんのだぞ?」

「僕はそちらの細い通路に入って避難しておきますので。」


 カジウルとマーミは不安を口にする。ラディはもう俺を止められないと理解してか心配を言葉にする。

 師匠は加減とヌシの部屋の中がどうなっているか分からないから慎重にやれと言う。

 レクトは素直に「もう駄目だ」と諦めて自分の身の安全の為に細い通路へと逃げ込んだ。


 まあ次の瞬間には俺は扉へと足の裏を叩き付けているのだが。

 そう、勢いをつけて扉を飛び蹴りしてやったのだ。その時の音?はワンテンポ、ズレて訪れた。

 何と言うか、大きな大きな、それこそ見上げる程の大きな「銅鑼」を強力な鉄球で勢い良く叩き付けた様な?音では無く衝撃波が一瞬で扉の前に広がった。

 その後は爆風を伴って扉は拉げてヌシの部屋へとぶっ飛んで行き、奥の奥まで真っすぐに飛んでその奥の壁へとめり込んだ。


「死んでるね、コレは。一応はダンジョン消滅に備えてワープゲート作っとくから、皆こっちに集まって。」


 俺はそう言ってワープゲートを展開する。このままは入れば外に即座に脱出ができる。

 しかしつむじ風の全員は床に倒れていた。レクトだけは衝撃波を免れたらしく細い通路から顔だけを覗かせてこちらを見て言う。


「加減・・・考えました?これ、死んでるんじゃないですか?」


 俺がそもそも「死んでるね」と言ったのはヌシの部屋に居た人物の事だ。どうやらブッ飛ばした扉が衝突したらしく上半身が「無い」。

 残りの下半身は扉がぶっ飛んで行った風圧で倒れてすっ飛び床に転がっているのだ。これで生きていたら正真正銘、化物だと思う。


 レクトが言ったのは倒れているつむじ風の皆の状態を見てだ。だが大丈夫。誰も死んでいない。それ所か気絶もしていない。

 衝撃波と爆風で体勢を崩されただけだ。直ぐに上半身を起こしてこちらを全員同時に睨んできた。


「・・・おい?一回殴らせろお前の顔面。今ここで。」

「カジウル、奇遇ね?私も同じ意見だわ。」

「ああ、そうだな。俺も思いきり殴ってやりたい気分だ。」

「師匠として言っておかねばならん事がある。・・・一発殴らせろ。」


「あの、そんな事言ってる場合じゃ無いんだけど?」


 俺はヌシの部屋の奥を指さした。そこには青い壁があったはずなのだが、黒い渦に変わっている。コレは恐らくだが消滅の兆しだ。

 そんなモノ見えていないとばかりにカジウルは怒りの表情、マーミは非常に深く眉間に皺を寄せている。

 ラディも殴りたいと言葉にし、師匠も言っておかないといけないと言って神妙な顔をしておいてその中身は「殴らせろ」である。


 そんな今もヌシの部屋はどんどんと黒い渦に吸い込まれている。ヌシをちゃんと殺せている証拠である。そうなると本当にこのダンジョンヌシはそこの死んでいる「人」がそうだったと言う証明だ。

 取り敢えずダンジョン攻略はこれで一件落着である。それを以て俺は一番この場で冷静そうなレクトへと声を掛ける。


「レクト、先に入って外に出るんだ。結構な速さで消滅して行ってる。ホラ皆も早く!」


「おい!ちゃんと後で殴らせろよ!」

「もう良いわ、私は。」

「今回は流石に死ぬかと思ったぜ。これは一つ貸しだぞ?」

「後で説教だな。」

「これ、私、避難して無かったら確実に重傷でしたよね?」


 最後のレクトの言葉が今の俺には一番響く。確かにそうだ。いや、レクトには一応は俺の魔力を纏わせてバリアーにしてあるので大丈夫だったと思うが。


(今回はやり過ぎたかもしれないけど、皆の俺への態度がそうさせたんだから、と言ってやりたい)


 ちゃんと普通に鍵を開けようぜ、とか、ここまで来たみたいに扉に穴を開ければ良いだろう、とか。

 そんな風に言ってくれれば俺だってそのどちらかを選んでいた。蹴破るという選択肢をあんな風に追及しないでも良かったじゃないか、そう思ってしまう。


 そうこうしている内にレクトはもうワープゲートを慣れた感じで通って外に出た。

 その後で腰を重たそうに立ち上がる四人。カジウルが先ず通り、ラディが次に。マーミはヌシの部屋を一瞥して「ヤバい研究してるのが一目で分かるわ」と嫌そうな顔をして通っていく。

 確かに改めて消滅を続けているヌシの部屋を見ると、そこかしこ、あちらこちらに「グロ」なモノが視界に入る。

 ここでまだワープゲートを通らずにいる師匠が。


「ふむ、以前に世界で指名手配されていた魔術師がいたんだが・・・まさかな。」


 とだけ漏らしてからワープゲートを通って行った。


「それも、もう確かめる事もできないな、これじゃあ。」


 俺はヌシの部屋をもう一度しっかりと見てそうぼやく。

 もしかしたらその指名手配犯がここで死んだと分かればきっと世界中の人たちにとって朗報だ。

 だけどもうダンジョン消滅の黒い渦に飲み込まれてその死体の検分、確かめる事は不可能である。あの渦の中にそんな確認のために飛び込もうとは思えない。

 後はもうこのダンジョンが消滅をした事をギルドに報告するだけだ。

 最後に残った俺はワープゲートを通る。外に出て直ぐに俺はワープゲートを閉じた。


 そうして全員が外に出た後に今後の事を会議、しようと思ったら声を掛けられた。


「あ、アンタら一体どこから現れたんだ?いきなり何が出てきたと思えばダンジョンの中で会った奴らじゃ無いか。」


 彼らは二階層を逃走中だった冒険者たちだ。そのリーダーだろう男が俺たちに話しかけてきた。


「どうやら無事だったみたいだな。とは言え、どうだったんだ?中の様子は?」


 彼らは分かれた後の俺たちの行動を知らない。なので今のこのダンジョンの現状を先ず聞いて来た。

 この言葉の中には、あの後にゴーレムに会わなかったのか、とか、魔物はどんなのが居たとか、罠はどうだったとか、色々と聞きたいと言うのが内包されている。

 そもそも俺たちがどうやってここに出て来たのかも聞きたいに違いない。

 これにカジウルが手短に答える。


「ダンジョンは攻略してきた。その内にここの入り口も消滅するだろ。もう一度中に入ったりしない方が良い。一緒に吞み込まれたくなけりゃな。」


「おいおい・・・冗談だろ?まだ俺たちは何も稼ぎは出せてないってのに?」


 どうやらこの冒険者パーティは運良く何ら問題も起きずに階層を降りて行っていたらしい。魔物にも出くわさず、どうにも目ぼしいモノも得られなかったと言う。


「どうするカジウル?ダンジョンを攻略したしギルドに報告すればランク上がるけど。」


 俺はそう聞いた。俺としては正直に言って冒険者のランクは上がらないでも良い。

 そしてどうやらカジウルも同じ意見だったようで。


「あー、俺も別にもうランクは上げなくてイイなぁ。皆はどうだ?」


 そんな言葉を俺たちに問いかけて来た。


「そうね。もうどうでもいい、って言えば、良いわね。」

「上げておいて損は無いが、指名依頼などが発生したらソレはそれで鬱陶しいかもな。」

「私も別段上位に上げる気は無いな。もう私たちはこれ以上目立たない方が良いだろう。」


 つむじ風の皆は全員一致でランクは上げなくて良いと口に出す。師匠の「目立たない方が良い」という意見に全員でウンウンと頷いた。


「あんたらにダンジョン攻略の手柄をやってもいい。俺たちの事を秘密にしておいてくれるならな。どうだ?」


 その後に突然に出されたこのカジウルの提案に冒険者たちはポカーンとしてしまい返事が来ない。


「ああ、討伐証明とか必要か。そうだなぁ。うーん?あ!?エンドウ、アレを出せよ。マーミが仕留めたアレの残骸で良いだろ。どっか一部だけ引き渡せば。」


 彼ら冒険者はゴーレムと対峙している。ならばソレを出せば良いんじゃないかとカジウルが案を出すが。


「いや、それは駄目じゃないか?俺が助けたパーティも遭遇しているし。ヌシとして誤魔化すとかはできないだろ。」


 俺はソレを否定した。コレがヌシでしたと言ってギルドに証明として出す為のモノとしては適当では無いと。

 ダンジョン内を徘徊していたこのゴーレムは、もう一組の冒険者パーティが接触、戦闘を行っているのだ。直ぐにソレがヌシでは無いとバレてしまうはずだ。


「あー、そうかぁ。そうなるともうアレしかないんじゃないか?」


 アレと言うのはワニの事だろう。確かに巨体だし、これなら見た目が凶悪な魔物だと思われるので説得力が生まれるはずだ。

 二組の冒険者両方がこのワニとは遭遇していない。


「しょうがないから一体出してこれで俺たちの代わりに攻略したって嘘ついてもらうしか無いね。」


 そう言って俺はインベントリから比較的小さな個体を取り出そうと思ったのだが、ここで慌てたように疑問をぶつけられる。


「おいおいおいおい!ちょっと待ってくれ!話を勝手に進めないでくれよ!・・・あんたら、本当にこのダンジョンを攻略したの・・・か?本当に?しかもそれを譲る?一体何を言ってるのかサッパリ分からねーよ!?」


 この言葉に俺たちは皆の顔を見る。そして何だか考えている事が全員に通じる。


「説明が面倒くせーな?」

「そうね。どうせ信じられないだろうし?」

「ああ、ここで時間と労力の無駄は控えたいな。」

「逸脱し過ぎているな、話が。普通から懸け離れてしまっていた。」

「あの、もう正直に言って何が何だか分からないんですけど?」


 最後だけレクトが「話に付いて行けない」と絞り出した。そしてカジウルが代表して口を開いた。


「あー、何だかよ?強くなったし、大金も得られた。それでなぁ?ギルドがどうのこうの、って言うのがどうでも良くなってるんだよ俺たちはさ。あとそれと、ギルドに攻略の件で暫く拘束されたりするのが面倒だ。」


 これに続けてマーミが。


「そうなのよねえ。以前はランクを上げるのって確かに目指していたんだけど。もう今更なのよねえ?名声も別段要らないわねぇ。」


 じろりと俺を見てマーミがそう言う。これにラディも。


「ランクを上げれば金回りの良い仕事をもっと受けられると思ってたんだ。強くなった証でもあるしな。だが、まあ、そんな考えがどうでも良くなっちまう存在が間近に居ると、なぁ?」


 ラディも俺の事を見てそんな事を言ってきた。これにウンウンと頷いて師匠が。


「エンドウと一緒に居ると私たちの常識は何だったのかと考えさせられる。良い意味でも、悪い意味でもな。世間をもう一度しっかりと見つめる、自分を見つめ直すきっかけになっているな。」


「あー、それは良くわかりますね。」


 レクトが最後に師匠の言葉に同意した。


「何でも俺のせいにするのやめない?」


 それくらいしか言い返せない。俺もやらかしてきていると言った自覚は持っているから。

 だけども今の皆の言い方だと全部俺が悪いみたいな感じになっているので反論はしておきたかったのだが、上手い言葉が思いつかない。


「あーもう、良いよ。それで、彼らは俺たちの事情なんてこれっぽっちも今の言葉で読み取れてないけど。どうすんのコレ?」


 冒険者たちは先程からのやり取りを見ても、聞いても、俺たちが攻略した手柄を譲る理由など理解できていない。


「詐欺か何かか?どう考えてもあんたらの言っている意味が俺たちには理解でき無いんだが・・・」


「ああ、できなくてもいいさ。で、手柄は欲しいか?要らないか?どっちかだけ言ってくれりゃいいさ。」


 未だ名も知らぬ冒険者へとカジウルがもう一度問いかけた所でダンジョンの入り口、地面に在ったその扉がシュルリと黒い渦に吸われて消えた。

 大分早い消滅速度だった。ヌシを倒してから完全消滅までがかなり早い。もしダンジョン内に誰かしら残っていたら消滅に巻き込まれていた可能性は高い。


 ダンジョンが消滅した事で攻略が事実だとやっと理解した冒険者たちはギョッとした目をして固まっている。


「さて、どうする?要らないって言うなら俺たちはこのままギルドに戻らずにこのまま行くんだが?」


 行くとは言っても辺りはもう暗くなりかけて来ている。時間が大分過ぎた。今日はここで野営をするのが良いだろう。

 もしくはワープゲートを使って戻って宿を取って翌日にまた出発でもいい。どちらでも構わない正直言って。


 こうして答えを聞けないままに俺たちは食事の準備を始める。俺はインベントリから必要な物を次々取り出していく。

 皆で手分けしてテキパキと動いたのであっと言う間に全ては完了した。


 そんな俺たちの様子を信じられない物でも見るかのような顔で微動だにしない冒険者たち。

 この時はもう俺は彼らにインベントリを隠す気は無かったので遠慮無くテントもテーブルも椅子も調理器具も取り出していた。

 彼らが答えを出すにしても相当に時間が必要だろう。彼らにとっては俺たちは得体の知れない危ない奴らと映っているに違いないから。

 どちらを選ぶにせよこれ以上はもう関わらない方が良いとさえ思っているかもしれない。


 そうして食事も終わり俺たちは各々で自由時間を取ってゆっくりとした。夜空には雲一つ無く星が瞬いている。俺はソレを眺めながら眠る事にした。


 そうして翌朝。俺はレクトに起こされた。


「エンドウ、エンドウ、起きてくれ。どうやら証明を貰いたいらしい。」


 どうやら答えは決まったようであった。ヌシを倒した証明として魔物の一部を欲しいと言う事である。


「んぁ~?あ、そう?じゃあ朝食の後に出すよ。」


 俺は一度背伸びをして起き上がる。辺りは既に明るさを取り戻している。爽やかな朝である。


「彼らは既にもっと前に起きて出発の準備をしている。それと既に彼らは食事も済ませてあるんだ。先に出してあげてくれ。」


 レクトから説明をその後も受けたが、どうやらもう師匠が既に冒険者たちと打ち合わせをして「約束事」を決めたと言う。

 俺の役目は魔物の首を一つ出すだけ。とは言え、その首が巨大なのでどうやって運ぶつもりだと思ったら師匠が練習用に簡単な構造の荷車を作り出していると言う。

 木々もあるし、地面から土もと言う事で材料は幾らでもある。俺が魔力で色んなモノを作り出しているのを師匠は見ているのでソレを真似たらしい。

 充分な強度を持って完成をさせたようで街までの道のりに関しては問題無いだろうと言う事だった。


「それで、ここに乗っければいい?あとそれから迎えが来るとか言うのは無いの?」


 初めて俺が入ったダンジョンの時は一定の期間でこちらに迎えの馬車が来ると言った手続きをしていたが。

 どうやら今回の件でも迎えの馬車が来る予定である様だが、それはまだまだ後四日は来ないと言う事らしい。

 大分長い期間のダンジョン探索だったようで、しかしこうして早期に攻略が終わってしまい徒歩で歩いて帰った方早いと言う事である様だ。


 俺は荷車に一応は一番デカかったワニの首を乗せる。インベントリからいきなり出した事にも驚かれたが、それ以上にワニのその凶悪な顔を見てそれだけで冒険者たちは腰を抜かして尻餅をついていた。


「お前さんたち・・・こんなバケモノを倒したって言うのか?ありえねーよ、マジで。」


 巨大と言う迫力も追加で冒険者たちは絶句した。倒した数は一体だけじゃ無いし、全部カジウルが片づけたと知れば余計に唖然とさせる時間が増えるだろう。

 そうなれば面倒なので余計な説明はしないでおく。たっぷり5秒程かけて気を取り直した冒険者たちは立ち上がって「じゃあ、行く」と荷車を引き出した。


 えっちらおっちら、ワニの首だけでも相当な重量なので全員が荷車を押して引いてと全力で道を行く。

 どうやら重さ以外では別段他に問題は無さそうなので俺たちは朝食を摂り始めた。

 俺以外はもう全員起きていて食事の用意はしてくれていた。


「おっし、それじゃ俺たちは飯食ったら当初の予定通りにこのまま北に行くぞ。」


 カジウルがこれからの予定を口にする。ダンジョンの件やレクトの件も重なって何かとゴチャゴチャ仕掛けてはいたが、これでようやっと本来の目的地へと向かう事になった。

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[気になる点] 開鍵って技をしらないの? なんか足りなさ過ぎる。
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