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油断をしてもこの程度

 一応はゴーレムがちゃんと動かなくなったかを確かめるために全員で移動した。

 そして行ってみればあら不思議、頭が無い、胸部のド真ん中には直径20cm程度の貫通した穴、右太ももが半分削り取られているゴーレムが。


「私もこれくらいはできる様になったのよ。まあエンドウがやった馬鹿みたいに爆発するのはまだできないけど。って言うか、できる様になりたくない、ってのが正直な所ね。」


 どうやらマーミも隠れて特訓して魔力の扱いが上達していると言う事らしい。これほどまで見事にこのゴーレムを打ち抜いていると言う事は、威力の減衰も無く矢がそのまま後方へと突き抜けていると言う事である。

 既に瓦礫と化しているゴーレムを叩いてみると「ガンガン」と言った金属の様な音が鳴る。

 これだけの硬さがある物を簡単に矢で打ち抜けるようになったマーミ。取り敢えず今言える事と言うと「過剰戦力」と言った感想が浮かぶ。

 カジウルの動きと剣、そこにマーミの遠距離狙撃。軍隊を相手にしても負けないのではないかと思えてしまう。


「しかも勘でとか。あ、でもこれだけの巨体なら真っすぐに飛べば当たる・・・?」


「え?一応は狙ったわよ?あー、勘で、とか言った後だし、狙ったって言うのはちょっと違うわね。」


 マーミはしっかりと当てを付けて矢を放ったのだと言う。そうなるとだ、もしかしてゴーレムの巨体でなくともゴブリン程度の体格であっても当たった可能性が否定できない。


 こうして俺たちはゴーレムを仕留めた事を確認。その後は俺の開けた道を進む。

 ここでレクトが黙ったままになった。どうやら俺に聞きたい事があるようだが、それを質問するのを躊躇っている様子だ。


 そうして歩き続ければ三階層に入る。ここでラディが警告を出した。


「前方から何か迫って来る。三体だな。・・・音からして武装してるな。どうやら多少頭の働く人型の魔物らしいぞ。」


 その内にガシャガシャと音を立てながら派手な金ぴかの鎧を着たゾンビが現れた。

 ゾンビと言っても俺がイメージするゾンビと顔つきが違う。ゾンビと言えば身体が腐り果てていて、口は開きっぱなしで動きも鈍く、手をだらりとさせつつも前に突き出している、そんなイメージだ。


 しかしこのゾンビ、どうにも腐っていると言った点は同じらしいのだが、顎はキリリと引いて凛々しい。眼窩には眼球は無いのだが、替わりに怪しく赤い光が灯っていた。立ち姿も背筋が伸びていてキッチリしている。

 そして凡庸な感覚しか持たないはずの俺でも分かる、こちらへと向けて来ている剥き出しの冷たい雰囲気。取り敢えずコレが殺気というモノなんだろうとハッキリと分かる体の底から冷える感覚。


「来るぞ、気を引き締めろ。」


 カジウルが剣を抜いた。そして静かに構える。ゾンビは三体ともお揃いの金の全身鎧である。

 しかし手に持っている武器はそれぞれ違った。剣、槍、手斧である。それをスムーズな動きで振りかぶるとカジウルめがけて三体が一斉に襲い掛かる。


 その速度は速い。早いと言ってもカジウルにとっては遅過ぎるモノではある。

 一般的な冒険者だったらここでこのゾンビに押しに圧されて撤退していてもおかしくは無いだろうと言った攻撃速度。

 だけどももうその場にはカジウルはいない。ゾンビの攻撃が当たる寸前に高速移動でソレを避けている。


「なかなか剣筋が良い。連携も充分に取れてる。無駄な動きも無いし、手応えが無い事に直ぐに反応して直ぐに態勢を整えるのもスゲエな。ゾンビか?本当に?」


 カジウルが素直な感想を述べていた。ここに師匠が。


「ここで余計な時間を取られるものどうかと思うのだが?どうするのだ?」


「え?何がですか?このままカジウルが痩せるための相手として戦わせるんじゃないんですか?」


「うるせぇ!エンドウ、余計なお世話だ!」


 師匠の言葉に疑問を挟んだ後にカジウルからツッコミが来た。この間もゾンビはじりじりとカジウルへと迫る。


「つか、こいつら何で俺だけ狙って来てるんだよ?なんか条件でもあるのかぁ?・・・おっと!」


 またしてもゾンビたちは連携を取りカジウルへと攻撃を仕掛ける。剣で攻撃し、躱された所へ槍が突き出され、それも避けられるとそこに手斧が振り落とされる。

 それらを全部躱すカジウルを見て俺は納得した。なぜカジウルだけが狙われているのかを。


「戦闘態勢に入ってるの、カジウルだけだからじゃね?」


 俺も、マーミもラディも、師匠もレクトも、誰も皆武器を構えていないのだ。

 カジウルだけが剣を抜き、そしてゾンビたちへと対峙した。だからじゃないかと俺は推測を口にする。


「・・・ダンジョンの敵がそんな事で攻撃対象を分けたりとかするのか?」


 カジウルは俺の推測を聞いて流石にソレは無いんじゃないのか?と言ってくる。しかしそれが事実であると言いたげにまたもやゾンビはカジウルへと襲い掛かる。

 どうやらこのダンジョンは階層を降りた直ぐの場所はそこそこの広場となっているらしく、大立ち回りをしても余裕が有るくらいだ。


「で、どうするのだ?と聞いたのだが。」


「カジウル、さっさと倒しちゃってよ。何遊んでんのよ?さっさとそいつら倒して鎧を剥ぎ取りましょ。」


 師匠が再び問う。そしてマーミが答えを出した。そう、このゾンビを早くぶっ倒してその「金」をゲットしようと言う事らしい。


「そう言うならマーミがやれば良いだろうが!」


 カジウルからそんな言葉が返って来る。これに俺は何だか違和感を覚えた。

 これくらいのゾンビの動きならさっさとカジウルは反撃をして倒す事くらいは簡単なはずだ。なのにカジウルは何故か攻撃しないでずっと最初からゾンビの攻撃を避けるばかりだ。


「カジウル、何かあるのか?どうしたんだ?」


 俺が手短に聞いてみた。これにカジウルは苦い顔で答える。


「なんだか嫌な感じがずっとするんだよこいつらから。それが何だか邪魔して斬り掛かる気になれねえんだ。」


「何よそれ?おかしな事言うのね。別に何とも感じ無いわよ?」


 マーミは別にこのゾンビ三体から何ら感じ取るモノは無いと言う。ラディも師匠も同じらしい。レクトはずっと黙っていて空気みたいな状態だ。


「では私も様子見をしてみようか。これほどにカジウルが躊躇うのだ。何かしらがあると見た方が良だろう。」


 師匠がゾンビへと掌を向けて魔力を溜め始めた。これに即座にゾンビが反応して師匠の方へとその腐り落ちかけている顔を向ける。

 その目の赤い光はより一層深みを増していた。


「む?カジウル、離れろ。そのゾンビから一撃でも食らってはいかん!それと攻撃もするな!」


 師匠が緊迫した声でそう警告を発する。


「皆、一時撤退だ。こいつらの認識範囲外まで一旦逃げるぞ。説明はその後にする。」


 師匠が追加で「撤退」を指示した。これにすぐさま全員が頷いて来た道を走って戻る。


 ゾンビの追いかけてくる速度はそこまでじゃない。なので俺たちは容易にゾンビたちから距離を取る事ができた。

 師匠がずっと先頭を走り続ける。第二階層のスタート地点までずっと。そこでようやっと停止した。


「おい、エンドウ。お前は今あのゾンビを魔力で調べたりはしていなかったな。しかしカジウルの様子がおかしいと思ったんだな?」


「師匠、何があったんですか?カジウルなら余裕だと思ったんだけど、動きも対応も変だったから直感で聞いたんですよ。何かあるのかって。」


 全員が師匠の説明を待って口を閉じる。少しだけ静かな間が空いた後に師匠が話をし出した。


「あれはかなり強力な「呪い」が掛かっている。斬っても、斬られても駄目だ。その呪いの効果がどの様なモノかは分からなかったが、アレにいつまでも構っていては危ないと感じた。だから一時撤退と言ったんだ。」


「斬っても斬られても?じゃあ魔法で仕留めては駄目だったのか?」


 師匠の説明にラディは魔法では駄目だったのかを問う。


「いや、試してみなければ分からないな。しかしあの三体を倒せても、その呪いがどの様な発動をするかは分からん。そもそも接触が厳禁だな。魔法攻撃で呪いが発動すればこちらにどの様な被害が出るかも分からん。」


 分からない尽くしだ。俺は解除方法が無いのかと聞いてみる。


「呪いを解いたりは?掛かっても解呪?できないとか?」


「いや、そうだな。掛かった際にある程度の時間的猶予があれば即座に解呪もできるかもしれん。しかしそれが即座に相手の命を奪う様な呪いだった場合は・・・どうにもならんぞ?」


 どうにも呪いと言うのは特殊なモノの様で、師匠はかなりの警戒心を込めつつ説明を続ける。


「こんな遠くまで逃げて来たのも、あいつらが一度でも認識した敵を何処までも追いかけてくる可能性を考えてだ。時間稼ぎだな。これで逃げ切れたと思いたいのだが。もしかしたら向こうは向こうで我々を探し出す方法があるかもしれない。追跡を切ると言う意味で、それを考えると一度ダンジョンを出てみると言った方法も取らねば安全は確保できんぞ?」


 今のこの状態はまだ安心とは言えないと師匠は伝えたいらしい。どうやら師匠は呪いと言うのをかなり危険視しているようだ。


「ならば即刻このダンジョンを攻略してしまえば良いんじゃないのか?」


 ラディは単純な答えを出す。それもそうだ。あのゾンビ三体は速度が無い。俺たちを追いかけて来るにしたって遅い。

 このまま俺が別の方向からまたダンジョンに「穴」をあけて下の階層に移動してしまえばあのゾンビに追いつかれると言った事は起きないはずだ。

 それに周囲への警戒はラディも師匠もやっている。近づいてきたとしても別に恐ろしい相手ではない様にも思える。


「ふ、普通じゃない・・・つむじ風は一体どうしてこうなったんだ・・・?エンドウ殿、教えてください・・・」


 小声でレクトが今更にそんな事を聞いて来る。これに今答えてやっても良いのだが、後回しにするつもりで俺は別方向へとダンジョンの壁に魔力を通して「穴」を開ける。


「別の方向から最下層を目指そうか。別に俺の魔力はまだまだ大量に残ってるし。行こう。いつまでも一つの事に拘っててもしょうがない。別の視点から物事を見ようぜ。」


 そう言って師匠の思考を切り変えさせるためにもそんな事を俺は言いながら新たに開けた「穴」を通る。

 これにマーミとラディが俺の後に続く。次にはレクトとカジウルが。最後に師匠が歩き出す。


 こうして俺たちはゾンビを無視して別ルートから最下層へと向かう事にする。

 このダンジョンはいくつかのルートが存在し、最終的に何処もヌシの部屋の扉前に繋がっているのだ。

 一つに拘る必要は無く、そして今は俺と言う存在が居るので一々またこの迷路をあっちこっちに歩き回らないで済む。

 俺の魔力量で無理矢理にこのダンジョンに道を開ける事ができるので楽ちんである。また第三階層へと一直線に通じる穴を開ければ直ぐに到着だ。


「この第三階層も「穴」を開けてさっさと通り抜けよう。大分時間を使ってる。正直に言って・・・もう面倒臭くなってきた。」


 俺は雪遊びを早くしたくて堪らなかったのでここでちょっとだけ愚痴ってみた。

 ここでレクトが俺のこの発言に質問をしてきた。さっきは殿を付けて「素」に戻っていたが、今は冒険者のレクトとして。


「エンドウ・・・雪遊びとはいったい何の事?そう言えば何処へ行くかはまだちゃんと聞いていなかった。」


「ん?誰か説明して無いの?まあ、いいや。このダンジョンを攻略した後は北の町に行ってゆっくりのんびりする予定だよ。」


「北の町に?ああ、あそこは確かに何も無いからゆっくりノンビリ・・・するには確かに良いかもしれないが。」


 レクトはそう言ってまだ納得はしていない様子だ。しかし別に俺はこれに何ら追加説明はしない。

 取り敢えずレクトも連れて行ってスノーレジャーを体験させればいいだけだ。百聞よりも一見だ。

 そうしているうちに第四階層に入った。


「あ、そうそう、ここで遭難した冒険者を助けたんだ。本来だったらここにあのデカブツが巡っていたみたい。それがあんな場所で出て来るって言うのは迷子だったのか?」


「どう言う事よソレ。流石に迷子なんてのは無いでしょうよ。」


 俺の思い出しにマーミがツッコミだ。そこにラディは。


「こちらの動きを感知していたんじゃないのか?それでこちらに移動してきたとか。」


 あるかもしれない。確かにあのゴーレムはしっかりとこちらを捕捉していたような感じがする。だがもう今更だ。倒してしまった後である。

 あの動かなくなったゴーレムは俺のインベントリに入っている。取り敢えず持ち帰って師匠が研究したいと言ったので。


「ヌシがもしかすると操っていたと言う可能性もあるな。どうもこのダンジョンは特殊な雰囲気を感じる。」


 師匠がここでどうにも妙な感覚をこのダンジョンに覚えている事を告白する。


「ああ?そんなものか?俺は何も感じねえけどな?」


 カジウルは別にどうって事無いと述べる。そうしているうちにも俺がダンジョンに開けた穴は真っすぐに次の階層へと延びている。

 そこを俺たちは何ら問題無く通っていく。こうして第四階層は何事も無く通過した。


「第五階層にヌシが居んのか?エンドウ、そこら辺どうなんだ?」


 第五階層に到着後に直ぐそうしてカジウルから質問が飛んできた。


「休憩しない?結構歩いたし、小腹もすいてるでしょ?休みながらそこら辺は話すよ。」


 そうして俺たちは周囲を警戒しつつ小休止を入れる事に。


「あー、それで、だ。ヌシはこの階層に居るけど、鍵が必要みたいだ。だけど俺が見た所で鍵らしき物がありそうな隠し部屋は見当たらなかったし、ゴブリンのダンジョンの事があったから外に有ったりしないか確認もしたけど。見つけられて無いんだよなぁ。」


 事細かにそこら辺全てを俺は調べてあった。どんなに小さな物でも感知し損ねない様に注意も払った。

 けれども見つかっていない。ヌシの部屋の扉にはちゃんと俺が調べた限りで鍵穴が存在する事は分かっているのだ。それでも鍵は見つけられてない。


「まさかここまで来て引き返すの?だったらここのダンジョンの魔物全部狩り取ってから帰るとしましょうか。」


 マーミは別にここまで来てヌシの部屋に入れないと言う事に怒っている様子は無い。代わりに腹いせとばかりにこのダンジョンを「空っぽ」にしていこうと言う。


「いやいや、ここのダンジョンは得体が知れない。ヌシの攻略はしておいた方が世の為だ。安全を確保するにしても魔物の殲滅だけでは足りんな。」


 師匠がそう言ってここはちゃんと攻略するべきだと主張する。ここでラディも口を開いた。


「しかしエンドウに見つけられなかったとなれば俺たちで見つけるのは至難だ。一度ギルドに戻って報告をするべきだと思うが。」


 手堅く行こう、そう言った意見をラディは述べる。ここまででレクトは黙ってこのやり取りを見守っているだけ。

 ここでカジウルが師匠に訊ねる。


「マクリールが得体が知れないって言ってるのはあの金の鎧を着た死体の奴の事をさしてるのか?呪いって言う事だったよな?」


「そうだ。あのような存在は人工的に生み出されたものだ。自然の魔物が住み着いたと言った事とは全く違う。ここのヌシがこのダンジョンの守りとして置いたという可能性がある。そうなるとだ。どうにも嫌な事になる。」


 渋面になって師匠は可能性を述べる。このダンジョンのヌシは相当厄介だと。

 呪いなんて言うモノをくっつけたゾンビ戦士をダンジョンに徘徊させて守りとする。確かにそう考えると相当に手ごわい相手になりそうだ。


「最初はこのダンジョンに満ちる魔力で死体が動き出したモノだと見ていたが、少し調べただけで相当にヤバい代物だと言うのは直ぐに分かった。動きが相当に練られたものだったのも懸念材料だ。もしかしたら高度な死霊操作を得意としている者がこのダンジョンのヌシかもしれん。」


 どうも師匠の言葉は「人」をさしている様だ。魔物がこのダンジョンのヌシでは無く、人が、しかも死霊などと言った物を扱うのに長けた魔術師が相手になるだろうと。


 しかしここでカジウルがおかしいだろと否定する。


「おいおい、ダンジョンのヌシが?人であるとか?ありか?そんなの?」


「あー、ドラゴンが確か言ってたな。ダンジョンのヌシの立場を乗っ取るんだったか?ここに居た本来の魔物をぶっ倒したか何かしてヌシの座を奪ったって言うのはありなんじゃないか?」


 俺はカジウルの疑問に答えを与える。そう、ドラゴンが前に言っていた事だ。

 そしてこれにラディが感想を口にする。


「そうであれば、その「今」のヌシは相当頭がイカレてる。余計に関わらない方が良さそうだ。」


「だけどさー?それってこのまま放置しても良いモノなの?その頭がヤバい奴をほっといたら後々で余計に滅茶苦茶にならない?」


 マーミの懸念はもっともだ。ラディの言う「イカレ」具合がどれぐらいかとか、そもそもそいつの目的が何なのかとか。

 色々とあるが放っておいて人畜無害か、そうでないかを確認してみないといけない。

 もしこのまま放置して後程に余計に問題が膨れ上がってしまったとなれば目も当てられない。あの時片付けておけば良かった、と。


「さて、レクト、どう判断する?お前の意見を聞かせてくれ。」


 カジウルがここでずっと黙っていたレクトに意見を求めた。注目がレクトに集まる。


「・・・ここでヌシを倒してダンジョン消滅が一番望ましいです。しかしそれができない場合は国に要請を出して軍を派遣、鍵のかかった扉を無理矢理にでもこじ開けてヌシを討伐。」


 どうにも王子様としての視点で語るレクト。だがこれにカジウルが俺たちの行動を決める。


「良し!それじゃあ先ずは扉の前まで行ってやれそうな事があればやってみようぜ。それでも駄目なら魔物狩りながら出よう。そんでもってギルドに帰って事情説明して国でも何でも要請して片づけをして貰おうか。」


 カジウルは冒険者としてやるだけやって駄目ならそれまで、といった答えを出した。

 単純に考えれば済む話だった。俺たちがやれるだけの事をやって、それで駄目だったらしょうがない。責任なんてそこには無い。

 難しく考えないでも俺たちの目的はそもそもこのダンジョンの攻略だったはずだ。ならばここに来て悩む事も無かった。

 ここで師匠が追加で意見を述べる。


「あの呪いの死体戦士を先ずはどうにか倒してヌシの動向を探っておきたい所だ。あれらが破壊されたり、動きを封じ込められたりすれば何らかの動きをヌシがしに来ると思うのだが。」


 そうすればその時にヌシの部屋の扉は内側から開くだろうと言う事である。

 鍵が見当たらず外から開けないのなら内側から開けて貰えば良い、そんな作戦である。


「でも、呪われるんでしょ?どうやって倒すって言うのよ?」


 マーミはここで疑問を上げる。それもそうだ。斬られてもダメ、攻撃してもダメだと言っていたはずだ師匠は。


「エンドウ、今どの様な動きをしているか分かるか?」


 師匠が俺へと聞いて来る。あのゾンビが今はどの様な移動経路を取っているかを。


「んー?とととと?どうやら俺たちの事を追いかけてる、なんて事は無いみたい。見失った時点で認識を切れる様だよ。」


「なら少しだけ良いか?あれらは恐らくだが、敵と認識した相手にだけ呪いが発動するのではないかと思う。呪いと言うのは複雑で特殊だ。発動条件には何かしらの引き金が必要で、しかもある程度の段階を踏む必要性がある。強力な呪い程、その段階を踏む回数が増える傾向だ。」


 それはあのゾンビに仕込まれている呪いが先ずは戦闘状態に入らない事には発動条件を満たさないと言う事。

 発動条件を満たしていない状態でゾンビを倒せば呪いには掛から無いと言う事。


「じゃあどうしましょうか?ヌシの部屋の扉の前で待機しておいて、そこで仕留めます?」


「あー、エンドウなら簡単にやっつけられるよなー。それで行こうか。」


 俺は自由にダンジョンを変化させる事が可能だ。だから全くあのゾンビにこちらを認識させる事無く潰す事が可能である。

 カジウルが全体のまとめだと言った感じでまた俺に問題を丸投げする。まあ今の場合は俺にしかできない事ではあるだろうし仕方が無いが。

 マーミの遠距離での弓矢での狙撃はもしかすれば呪いの発動条件に引っ掛かる可能性が出る。

 ならばここは俺しかいないと言う事である。


「なあ?出て来た奴がもし本当に「人」で、それで居て魔術師だった場合はどうするんだ?」


 上手く行って扉が開いた時の事をラディが質問してくる。


「そもそもあの死体は何処から用意した物なんでしょうか?それこそ、金の鎧、ですよ?呪いなんて使って悪辣で、趣味が悪い。」


 レクトがここで眉根を潜めてそう口を開く。ここでマーミがその点に思う所を話す。


「まあ、どこかで野垂れ死んだ奴か、或いはここのダンジョンに「不正」に潜って死んだ冒険者を使ったのかしらね。もしくは殺して、って所ね。金なのはきっと目が眩んだ馬鹿が呪いに高確率で掛かるからじゃない?」


 ダンジョンを見つけたらギルドにまず報告しなければいけない。探索、攻略はそれから。

 しかしそれらを守らなかった冒険者が勝手に入って返り討ち、といった感じだろうか?

 鎧が金なのも、それを見て金目のモノに目が眩んで、ゾンビを倒して奪おうとして、といった流れか。そこで呪いが掛かってこの世からオサラバ。なかなかに人の心理を突いたやり口だ。

 趣味が悪いと言うよりも、良く考えてあると言う方が良い。そうなれば逆にヌシのその性質が余計に厄介であると言うのに繋がるのだが。


「呪いはそもそも厳重に取り締まられている。それを使っているのだからその時点で「死罪」だな。遠慮は要らんだろう。出て来た所で即刻殺してしまって構わん対象だ。寧ろ口を開かせない方が良い。どの様な事をしてくるか分かったモノでは無い。聞くに堪えん口上を述べ始める前にやってしまった方が後悔はしないと思う。聞けば耳が腐るような事を平気でこう言った者たちは口にする。それこそ自分は正気だと言い放ちながらな。ダンジョンを乗っ取った、そんな真似までしてここで一体何をしていたのかは後で調べれば良いだろう。ロクでも無い研究なのは確実だ。」


 師匠は溜息と共にそう言い切った。昔に似た様な存在と関わった事でもあるんだろう。その言葉の隅々に疲れまで滲ませて説得力が凄い。


「じゃあ、行こうか。休憩はもういいだろ。さっさとヌシを仕留めるぞ。」


 カジウルがそう言って先頭を歩き始める。既にもう壁には穴を俺が開けている。後はここを真っすぐに進むだけだ。

 暫く行けばそこにはヌシの扉の前の広場に出る。どうやらここのダンジョンの「元の」ヌシは相当強力な魔物だったのか、扉がもの凄く巨大だった。


「ここの元々のヌシを一人で倒したのかしら?そうなると相当な実力者って事よね?」


「もしかしたら一人では無い可能性もあるな。二人か、或いは三人か?」


 マーミがこの巨大さに警戒心を高めた。ラディは可能性として複数人であるかもしれないと口にする。

 そこにつけ加えて、ヌシだった魔物からこのダンジョンを奪い取る、そう言った事を偶然成したのか、或いはできると知っていてソレをやったのかでも、相手の手強さが大きく変わるだろう。


「鍵の場所があんな高い所に?・・・でもよ?ダンジョンのヌシの強さはそもそも釣り合わない場合も多いだろ?」


 カジウルは扉を見上げつつもそう言った今までの事案を持ち出して「そうとは限らない」と。


「だがこの扉の威容から察するに、どうにも格が高い魔物であった可能性は高いがな。」


 師匠が扉に彫り込まれている複雑な紋様を見てそう漏らす。しかしコレにレクトが。


「この紋様は見た事がありますね・・・いずれも王宮魔術師が暗号として使っていた物と似ています・・・」


 これに師匠が「ああ、なるほど」と頷いた。


「言われてみれば確かにな。どれどれ・・・ああ、下らんな。只単に「関係者以外立ち入り禁止」とかかれているだけだ。それとどうにも、なぁ?」


 何だか最後は歯切れが悪い。これに師匠にまだ何かあるのかといった視線を送る。これに応えて続きを師匠は口にした。


「ここは「死霊、死体総合研究所」と書かれている。追加で「暗黒呪術研究所」ともな。それと「不老不死研究所」も追加だ。何とも頭の悪い・・・」


「ふーん、なら何の気兼ねも無く殺せるな。」


 カジウルは「問題無し」と口に出す。これに反対意見は出ない。全員の意見は一致した。

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