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コレが普通なんだよ

「冒険者の受ける危険とは、これは予想していた以上のモノでした。」


 レクトは心落ち着いた後に歩きながらそうつぶやく。先程の魔物はどうやら今はこの周囲には居ないらしく先へと進んでいるのだ。


「いやー、それにしてもさ?二組の先に入った冒険者たちは運が良かった感じなのかね、これは。」


 俺は疑問を口にする。おそらくだが俺が助けた冒険者パーティが先程の魔物と対峙していた場合、皆殺しにされていただろうと感じる。


「まあ運も実力ってヤツかな。俺たちもそう言った場面を経験してきた事は何度もあるしな。これだけ広いダンジョンだとそう言う事もあるだろ。お?分かれ道だ。どっちに行く?」


 カジウルが軽い感じで自分にもこうした経験はあったと語る。そして目の前には分かれ道だ。

 既に俺がこのダンジョンは隅々まで調べてある。魔力ソナー全開で。しかしそれを頼りにせずに今は「冒険」をしようと言う事でこうして探索を続けている。

 レクトが居るので一応は体験をさせるためだ。何を体験させるのかと言えば、冒険者としての活動を体験させるのだ。

 俺が何でもカンでもやってしまうとそれで全て「はい、お終い」であるから。


「右には・・・どうやら罠があるが、別に通れないって訳じゃ無さそうだ。敢えてそっちに行くか?」


 ラディが斥候として先に両方の道へと入り、さっと調べて戻って来る。その報告をする。


「罠?怪しいと言えば怪しいわよね。とは言え、ここまで来る間に無かった訳じゃ無いんだけど。」


 マーミはこの罠があると言うのに対して何かしらの勘が働いたらしい。


「どんな罠か分かるかラディよ。・・・なに?分からない?」


 師匠が対策を取れるかとラディに聞くのだが、どうにもラディは苦い顔をする。


「そっちの道を通る為には必ず「踏む」罠の様だ。床の所々に同じ物だと推測される突起が見える。起動させた所でどうなるかはちょっと分からんな。」


 今回は俺がなるべく手出ししない様にと言う事になっている。

 ソレは何故かと言うと、やはりここで俺が手を出してしまうと「冒険」に全くならない為である。

 そもそもダンジョンを探索するのに今までほぼ全て「力技」での突破である。

 俺に対して未だにつむじ風の皆は「ちゃんとした冒険者としての活動」と言うのを見せられていないのだ。

 なので今回の機会に俺にもちゃんと冒険をしている所を見せようと言う事でこうして手間をかけている。


(俺たちはこのダンジョンをさっさと攻略するんじゃなかったのか?)


 師匠が言うにはこのダンジョンを攻略するのに冒険者たちの力量が足りていないと言う事で、俺たちが自ら出張って攻略していこうと言う話だったはずだ。しかも北の町へと移動のついでに。

 しかし今は結構どころか、かなり呑気な事をしている。これで良いのだろうか?と言った疑問が俺の頭の中に浮かぶ。


「安全を取る。左に行く。反対は?」


 カジウルが決定を下した。無理矢理決めるのでは無くてちゃんと反対があるかを確認して。


「よし、無いな。エンドウが居るから右に行きたくなるんだが、普通の冒険者はこうした危険は大抵回避するもんだ。罠にワザと掛かるにしても、罠の種類が見極められなければ受ける被害がデカくなるし、それこそ罠の発動でこっちが全滅する様なものだった場合はそこで即座に死ぬからな。」


 罠はここに来るまでの通路にも結構な数があった。それらは一応は回避できている。ラディのおかげで。

 でもこの分かれ道、右の通路だけはラディもどうにも解除ができそうにないと言う事で左に俺たちは進む。

 右の罠をワザと動かして安全を確保できるのなら右へと行ってみる選択肢もあったが、そうでないなら安全最優先と言う事だ。

 冒険者は危険な選択でも敢えてそちらを取ると言う事も、時と場合によってはあるそうで。しかしそれも受ける危険よりもソレを越えた後の利益が多大な時である。

 勝ちの確率が高い賭けで、かつある程度の安全が担保に入っている時くらいと言う事である。

 もしくは非常事態、回避しようにもできない状況と言った感じか。


「なあ?こっちの道は先行してダンジョンに入った冒険者が通って無い道なのか?ラディ、そこら辺は分かるか?」


「そうだな・・・ここまで注意深く見て来ているが、俺たち以外がこちらの通路を通った形跡は見つけられていないな。」


 カジウルがラディへと質問を飛ばし、そして答えが返る。どうやら三者三様、先に入った冒険者たち2パーティは別のルートでどうにも下の階へと辿り着いたらしい。


「皆、止まれ。この先にどうやら多くの魔物がいる様だ。結構な数がひしめき合っている。」


 ラディは突然止まって俺たちへと警告を発してきた。


「おう、暴れる時間か?とは言え、普通はここで様子見だな。今の俺たちなら突っ込んで適当に立ち回ってもぶっ倒せちまうだろうからな。」


 今の強さの皆なら別にここで何も考えずに突っ込んで先手を取って魔物を攻撃すれば簡単に殲滅は可能だと思われる。

 しかし今は「普通」の冒険者としての行動をレクトに教えると言う事で冷静に対処する事に。


「レクト、ラディと一緒に見に行ってみろ。これも経験だぜ。今の俺たちで片付けられそうか、そうでないか考えつつ見るんだぞ?」


 カジウルはレクトにそう言って魔物ひしめくその場所を目にして来いと言う。

 ラディはこれに「おいおい」と止めようとしたが、それよりも早くレクトが「はい」と答えてしまった。


「エンドウ、万が一もあるから付いて来てくれ。カジウルめ、簡単に言ってくれる。」


「おう、分かった。じゃあ行ってくる。」


 俺とラディ、そしてレクトの三人で先へと進んでその魔物ひしめく広場の角まで来る。

 そこからなるべく顔を出さない様にして覗き込む。


「おーおー、居る居る。こいつらも見た事が無い種だな。やめておいた方が無難だ。前の俺たちの強さだったら即座に逃げ帰ってるな。」


 ラディがそうつぶやいた。レクトは魔物の数の多さだけでなく、その凶悪な見た目に硬直している。


「ワニ、ワニ、ワニ。ワニワニパニック・・・しかもその巨大さがヤバいな、これは。」


 大体の身体の大きさは俺の首くらいまである、そして複眼、そんなワニの様な魔物がひしめいているのだ。

 この場の広さはなかなかで、奥までびっしりその魔物で埋め尽くされていると言ってもいい。それだけの数がここに一同に集まっている。


「ワニなのに毛皮なんだよなあ。しかも真っ白で綺麗なのはどうにも言えん。」


 身体のシルエットと言えば良いか体型と言えば良いか、それは俺の知るワニなのだが。その巨体には毛である。しかも真っ白。

 このダンジョンの中は少し暗め、だがそんなの関係無いとばかりにその毛は光をあちこち反射してこの場所だけ眩しいくらいだ。


「戻るぞ。レクトには良い勉強になっただろ。それにしても、ここは初見の魔物ばかりだな。」


 静かに物音をさせない様にして俺たちは引き返す。そして合流した後にすぐこの事を報告する。


「見た事無い魔物、か。一匹でも仕留めておいて売り飛ばしたい所よねぇ。」


 マーミは一応サンプルを取りたいと言う。


「マーミよ、それは「以前」であれば口にした言葉か?」


 師匠はこの発言を深く掘り下げようとマーミへと質問をした。


「いや、無いわね。即座にギルドに戻ってこの情報を売ってお終いだったと思うわ。」


「安全も確保しなきゃなんないのが辛いトコだぜ。まあ、冒険者なんて命あっての物種だ。コレが当たり前なんだよな。」


 カジウルはそう言って締めくくる。ここでレクトが感想を述べた。


「見て来た魔物がどれ程に危険な存在かは俺でもすぐにわかりましたよ。冒険者への手当ては少しでも増やしておきたい所ですね。」


 レクトは冒険者の実態を知って少しでも「危険手当」を出してあげたいと思ったようだ。


「良し!短い間だったが、既にレクトはもう冒険に関しての危険は心に刻んだみたいだから「普通」はここまでだ。俺たち「つむじ風」の今のやり方で行くぞ。で、一丁やってくれや、エンドウ。」


「そこでまた俺に全部丸投げかよ。・・・最近カジウル、腹回りがヤバいんじゃなかったのか?」


 俺の指摘にカジウルが止まる。どうやら最近は怠け癖でも付いてきたのか、腹回りに駄肉が付いて来ているのを俺は知っている。そこを突いてやった。


「くっそう!分かった分かった!俺が一人でやる。あ、でも危なかったら助けてくれよ?」


 レクトがこのカジウルの言葉に「へ?」と驚いている。自分で見て来た魔物を思い出しながら。


「いや、幾ら何でも一人で?いや、駄目でしょう。危険すぎる所か無理があり過ぎ・・・」


「いや、やらせとけば良いんだよ。カジウルは日ごろ隠れて鍛錬をしてたけど、最近はサボってる回数が多いからな。」


 レクトは無理があると言って止めようとしたが、ラディがソレを抑えた。


「ちくしょう!ラディお前も知ってたんかい!」


 カジウルが叫ぶ。しかしマーミも師匠も口にする。


「お酒ばっか飲んで二日酔いしてたわよね。」


「酒のつまみの量を抑えるんだな。」


 カジウルはこの攻撃にぐさりと深く刺さる所があるらしく、膝を床に着いた。


「ぐ・・・ぐふっ!?もの凄くイタイ、自身でも解っているから余計にツライ・・・」


 5秒程の時間を置いてから立ち直ったカジウルは立ち上がってやっと魔物の居る場所へと歩き始めた。

 魔物がひしめくその内部へと入る前にカジウルが深呼吸を一つする。


「ふうううう、はあああああ。よっし!いつでも行けるぜ!全開で行ってやる!」


 そう言うや否や、カジウルは全速力、そして全力で一体のワニの首横に飛び込む。そして一閃。

 ワニの首に光の筋が通ったと思えたらずるりとその巨体が崩れていく。そう、その一撃で完全に首を落としたのだ。

 しかし既にその場所にはカジウルは居ない。もう次のワニの首めがけて移動している。いや、既に到着していた。

 二頭目の首にも一閃、そしてまた次、また次へとカジウルは残像を残してワニの首を落としては即座に移動を続ける。

 一頭目が地に倒れた振動で他のワニがやっと異変に気付いて警戒をし始めたのだが、その頃にはもうカジウルは十体以上のワニの首を斬り落としていた。

 しかもワニの死角に入る様にその死体の陰に隠れつつも移動したりしているので生きている他のワニへと容易に接近する。

 複眼を持つこの魔物の視界範囲は広いはずなのに、それでもカジウルの動きを捉えるのに苦戦している。

 ソレはカジウルの移動速度が高速だからだ。そして瞬発力もかなりのモノで一瞬で方向転換もする。

 ワニは密集していたので余計に体の向きを変えると言った事もできない。ひしめき合ってしまっていて体の向きを変えるにも一苦労だ。それもカジウルを捉えられない一因になっていた。

 しかもこのワニ、動きはそこまで早くないらしい。だからこその死角を補う複眼だったのだろうと思われる。

 そして時間が経てば経つ程にワニの死体は増えていく。地面はこの魔物の血で池を作り始め、それを踏みつけ移動するカジウルの足音がそこかしこ中で響いていた。

 移動が頻繁で一つ所に留まらないのでカジウルのその踏み込みの音はあっちこっちから忙しなく聞こえ続ける。

 ピチャピチャピチャ、パシャパシャパシャ、バシャバシャバシャと段々と魔物の死体が増えていく度に水しぶきが激しい音に変わっていくのがこちらの耳に届く。

 そうしているうちにワニの数はどんどんと減っていく。カジウルの姿もそれに合わせてワニの複眼に捕らえられるくらいには視界が良好になって行った。


「よっしゃ!最後の一匹だな。真正面から切り伏せる!」


 それでもワニは抵抗と言える抵抗も見せられずに一刀の下にカジウルに斬って捨てられていた。

 そうして最後の一体。そいつはこのワニの中で一番大きい体躯をしている個体だった。

 その一頭は真正面からその大きな口を全開まで開いてカジウルを嚙み砕こうと踏み込んだ。だがここでカジウルに変化が起きる。

 その持っていた剣に青白い光の刀身を纏い、そしてそれが伸びたのだ。しかもその長さはざっと3m程。

 長い、もの凄く長い。それを大上段に振り上げてさも軽く振り下ろすカジウル。

 その結果はと言えば、ワニの身体を半ばまで真正面から真っ二つにしてしまうと言う余りにも豪快なフィニッシュだ。


「おおっと!血飛沫が掛かっちまう。直ぐに離れるか。」


 軽い感じでそう言った後にカジウルは俺たちの居る通路に戻って来た。


「カジウル、この血の処理どうする気よ?あの魔物の毛がべったり吸い取ってるじゃない。あれだけ綺麗な白だったのに、なんて事してくれるの?」


 マーミの冷たいツッコミがカジウルを襲う。しかしカジウルはコレを避けられない。


「えぇ?何で俺は責められなきゃならないんだよ!?」


「結局は俺がお掃除しなきゃいかんのね。分かった分かった。マーミ、落ち着けよ。」


 俺はそう言ってインベントリを広げに広げて魔物の死体を回収する。

 余りにもデカイ体躯なのでインベントリに一体いれるのにも結構な大きさに広げなければならない。

 そして試しにその入れた一体をもう一度引き出してみる。条件付きで。


「おぉ?できちゃったなあ・・・できるとは半ば思っていなかったんだが。」


 出したその死体に血は一滴も付着していない。もちろん毛にも付いていない。びちゃびちゃだったはずなのに、である。


「どうやらインベントリから出す時に血を拒絶しながら出せばこう言った事もできるみたいだな。」


 便利過ぎる。こうなるとインベントリに入っているであろう血はどう言った事になるのかと思ってインベントリを再び開いて今度は「血」だけを出すと言うイメージを流し込む。すると。


 バシャリと先程の魔物の血だけが中空に広げたインベントリからこぼれだした。


「いやぁー、便利過ぎてある意味では困るな、これは。」


 これで増々インベントリの事を他の誰かに知られる事は避けねばならなくなった。


「エンドウのソレは魔力で創り出した異空間と呼んで差し支えないだろうな。いわゆるそれもダンジョンの一つだ。自在にその異空間を操る事ができるのは当たり前だな。」


「なんだか師匠、俺を化物呼ばわりしていませんか?まあ今さらですけどね。それじゃあ回収、回収っと。」


 レクトがあんぐりと口を開いたままで硬直しているのだが、気にしないでお片付けである。

 次々に俺は魔物の死体をインベントリへと入れていく。一体ずつ入れていくのが面倒だったので一気にインベントリの広さをこの空間全体に広げてみる。

 すると一瞬で目の前は綺麗に何も無くなった。そんな静寂の中で俺の背後からマーミの溜息が聞こえてくる。


「はぁ、ホントにアンタって非常識よねぇ。私たちの普通とアンタの普通はホント、隔絶してるわ。」


「なんだかあんまりな評価を受けている。ツライ。」


 マーミはいつもこんなだが、今回は余計に何だか辛辣に聞こえてくる。


 次へ進む、そんな風に気持ちを切り替えて奥に続いている通路を見やるのだが、レクトが動かない。


「おーい、レクト!次に進むぞ!ほれ!シャキッとしろ!」


 カジウルがそう言ってレクトの背中をパシッと軽く叩く。そこでようやくレクトが気を取り戻す。


「ふ、普通じゃない・・・どう言う事ですか!?カジウルさん!?」


 レクトが何を聞きたいのかが分かった。カジウルが魔物を倒せた事が驚きなんだろう。それも一人で全部片づけた事が。


「ああ?それもこれも全部エンドウのせいだ。後でエンドウにそこ等辺を聞きな。ほれ、先に進むぞ。今のつむじ風、俺たちは普通からもう逸脱してるんだよ。エンドウのおかげでな。」


「カジウル、そう言う言い方は無いんじゃないか?俺が悪者みたいな言い方は止してくれ。」


 以前にレクトは俺の事を賢者などと言った。なので俺が俺で何しようと驚きはそこまで大きくはならない。そう言う存在だと認識しているから。

 だけどもこのつむじ風の事はまだレクトはどんな冒険者パーティなのかを把握していない。だからだろう。カジウルがこの魔物の数を一人で全滅させた事が信じられないのだ。

 魔物の首を一撃で、しかもあんな太い首をだ。剣の長さから考えたら不可能なのに、それをやったカジウル。しかも一体も仕留め損ねる事無くだ。

 そして最後の一体を仕留めた際のあの一撃。レクトの頭の中の「普通」とか「常識」とかではきっと計り知れないのだろう。

 あれは魔力だ。魔力刃と言えば良いだろうか?カジウルはアレを出来る様になるだけの特訓をずっと隠れてしていたんだろう。

 今日が大々的にソレをお披露目する良い機会だったと言う事だ。しかしコレにマーミもラディも師匠も驚いていない。

 その事を少しだけラディに俺は聞いてみた。すると。


「ん?ああ、これくらいの事はやってのけても驚きはしないさ。俺もマーミもちょっとした特訓はしてる。魔力を伸ばすくらいはできる様になってる。まあ、さっきのカジウルの様に馬鹿みたいに長くはできないけどな。」


 どうやら二人は自分の今の力を使いこなせるようにするために隠れて特訓はしていたと言う。


「なるほどなあ。だからカジウルも別にドヤ顔しないのね。納得いった。」


 これまでのカジウルなら最後の一体を倒した時点でドヤ顔をしていてもおかしくは無かったように思っていた。

 だが、カジウルもマーミとラディが特訓をして魔力刃を自在に使えるようになっていたのは把握していたようだ。


「よし、それでは先に進むか。いや、引き返してあの罠の通路の先を見に行ってみると言うのも面白いかもしれんな。」


 師匠がここで再び提案を出す。今なら「普通」はもう止めたのだからあの罠の通路へと踏み入ってみるのも良いのではないかと言ってきた。


「ラディ、そこら辺どうなんだ?この奥はどれくらいまで分かってる?」


 カジウルはここで再確認をした。これにラディは先へとこのまま進む事を提案する。


「このダンジョンは相当広い。この先もかなり長く繋がってる。俺の今の探れる最大を越えているな。行ってみない事には分からん。」


 俺は既にこの先に何があるかは分かっている。もう既に一度魔力ソナーでこのダンジョンは調べ尽くしてあるから。


「エンドウよ。もう良いだろう。教えてくれ。取り敢えずこのまま進んでも大丈夫か?」


 師匠から「解禁」だと言った話が振られる。俺はコレを目線だけカジウルに向けて許可を仰ぐ。


「よし、さっきも言ったが、もうここからは今の俺たちのやり方で行くんだ。エンドウ、このまま進んで大丈夫か?」


「あー、残念な事に、こっちの道はどれだけ奥まで行っても何処にも下へと続く道は繋がって無いんだな、コレが。行き止まりってやつだ。」


 正解の道はあの罠があった方である。ここからまた道を戻るのは非常に面倒だ。


「ならもう良いじゃない。やっちゃいなさいよ、エンドウ。」


 マーミが俺へとゴーサインを出す。要するにコレは。


「じゃあ「開ける」からちょっと待って。じゃあそっちにできた道を真っすぐに行こうか。」


 俺は魔力を壁に流す。下の階へと降りる通路がある方へと。

 そうするとグネグネとまるで生き物の様に壁が蠢いてぽっかりと巨大な穴が開く。

 これにマーミから「うげっ!?気持ち悪!」という御言葉を貰う。まあこれは仕方が無い。


「こうも勝手にあちこちダンジョンをいじくられたら、きっとここのヌシも何かしら感じていたりするかもね。」


 俺はそんな事を口にして開けた通路の方へと歩き出す。これに皆が付いて来る。

 しかしレクトだけは茫然と立ち尽くしていて一向に歩き出さない。おそらくは脳の情報処理が追い付いていなくて体を動かす方へと意識が全く行かないんだろう。

 ラディがレクトの背中を軽く押す。そうしてレクトはやっと歩き出した。その速度は非常に遅いし、その視点も定まっていなのだが。

 取り敢えず俺が開けた通路は一直線にしてあるのでレクトが迷子になったりはしないだろうから安心だが。


 こうして第二階層へと繋がる斜めに下る通路を見つける。俺たちはそのままの歩みで第二階層へと入って行く。


「別にどうって事無いな。と言うか、まだエンドウが開けた穴が残ってら。」


 カジウルが早速そう言って進む。このまま行こうと言う意味だ。

 俺が開けた穴がまだ閉じずに残っていたのだ。もうこのまま寄り道せずに真っすぐヌシの所まで行くという判断だろう。


 しかしここで待ったをかける様にこの穴の奥からダッシュでこちらに走って来る者たちが居た。

 ソレはこのダンジョンを潜っていたもう一組の冒険者パーティ。


「おーい!お前ら!逃げろ!こんな奴に敵いっこねえ!」


 彼らはどうやら無傷であるようなのだが、しかし必死の形相でこちらへと来た。

 第二階層に入ったこの場所は大分ひらけた場所で彼らが俺たちと合流しても充分な広さがまだまだ残っているくらいだ。


「俺たちは即座に外に出る!お前らも一緒に来た方が良い。奴が来る!」


 俺は何が来るのかをもう知っている。あのゴーレムが来るのだろう。この冒険者たちはいち早く自分たちには荷が重いと判断して逃走を試みたんだろう。

 そしてソレは俺が開けた穴によって成功をした訳だ。被害無く逃げ出す事に。


「お前らは逃げてくれていい。俺たちはまだここに入ったばかりでな。まだ充分探索したとは言えねーんだ。」


 カジウルはそう返事をした。これに彼らは。


「忠告はした。俺たちはもう行く。せいぜい死なない様にな。それと、奴を見つけたらすぐに逃げろよ。」


 そう言って冒険者たちは一階層へと上っていく。「奴」というのがどんな存在なのかの説明をしていかないで。


「一応は俺たちも事情を知っているからそのまま行かせたが。普通はここで引き留めてあいつらが逃げ出さなけりゃいけなくなったその元凶の情報を吐かせるんだけどな。」


 ラディはそんな事をぼやく。でも既に彼らは去った後である。


「さて、どうやらその「奴」というのが徐々に近づいてきているみたいだぞこちらに。」


 師匠はこちらに向かって来ているゴーレムをどうやら自前の魔力ソナーで捉えたようだ。

 俺の開けた穴はあのゴーレムの大きさだと通れない。だが、この場に通じる他の通路はと言うと、そのゴーレムが通れるほどの広さ、そして高さがある。きっとそちらからやって来ているんだろう。

 俺は今魔力ソナーを広げていない。広げなくてもマップは脳内にあるし、索敵も俺がやらないでもラディも居れば師匠もこの場に居る。

 俺がやれば良いのはレクトの守りだけだろう今の所は。


「面倒だし、そいつを放っておいて先に行きましょ?そうじゃ無いと時間ばかり取られるわ。」


 マーミが接近してきている敵を無視しようと言ってきた。まあ確かにこれもアリだろう。


「うーん、確かにな。さっさとこの穴を抜けて最下層まで行っちまおうか。」


 マーミをの意見を「採用」と言ってカジウルは一歩前に踏み込んだのだが。


「グウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオ!」


 どうやらそうはさせてくれないらしい。ダンジョン内に響く雄たけびと、そしてズシンズシンと地面が揺れる。どうやらゴーレムが走っているようだ。

 先程迄はゆっくりとした歩みだったようでこれほどの振動はこちらには来ていなかった。

 しかしここに来てゴーレムはどうやら俺たちを捕捉したようで、どうやら本気モードらしい。


「あーもう、鬱陶しいし!煩いし!」


 マーミがちょっとだけキレた。キレると同時に弓を構える。どうやら戦闘態勢に入ったようだ。

 マーミは流麗と言える美しい動きで矢を三本連続で素早く打ち放つ。ゴーレムの迫ってきているだろう通路を「ひゅ」と風を切る音が三連で響いた。

 と思ったら次には地響きが消えた。おそらくだがゴーレムがこのマーミの放った三本の矢で撃沈したのだと思われる。


「どうやら片付いたな。んじゃ改めて先に進もうぜ。」


 カジウルはこれに先へ行こうぜと促す。だが先程と変わってマーミが。


「倒したんだから何かしら良いモノ取れないかしら?と言うか、仕留めた獲物がどう言う姿形してるのか分からないまま狩ったんだけど。一目だけでも見ておきたいわ。」


 この中でゴーレムを直接見ているのはこの中で俺だけだ。マーミは俺が助けた冒険者たちの話を聞いただけで実物は見ていない。


「実物見ていないのに矢を放つとか?しかも大分まだ遠くにいたでしょ?良く当てられたね。と言うか、あのゴーレムを矢の三本で仕留めるって、どう言う事?」


 改めて考えればあの巨体で堅さがあるだろうゴーレムが、あんな細い矢の三本で沈むとか。一体何処をどう狙ったと言うのだろうか?

 矢を放った時はゴーレムの姿はまだまだ通路の奥で真っ暗、微かな輪郭さえ見えていない状態だったのだ。それをマーミは撃ち抜いたと言う事になる。


「ああ、それ?勘。」

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