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次の一手はどうなさいますか?

 辺境伯は天井をぼーっと眺める様にしてソファーに座っている。その対面には冒険者たちに座らせた。

 俺とミッツは別のテーブルへと着席し、その様子を見守っている。


「君たちも今自分の身に何が起きているのかは分かっていないだろうが、私もだ。さて、事情を聴こう。最初から、そうだな、話してくれるか?」


 辺境伯はやっとと言った感じで顔を冒険者たちに向けてから説明を求めた。

 執事がどうやら冒険者たちの証言の書き写しをするらしい。別の所で紙を広げてペンを手にしている。


「あの、その、えー?俺たちは、助かった、で、良いんですかね?」


 冒険者たちはまだ自分たちが命の危機に瀕している、と言う感覚があるようだ。ずっと挙動不審でいる。

 これにしっかりと辺境伯は安心させるように話す。


「我がゲードイルの名において、君たちの保護を約束しよう。君たちはもう大丈夫だ。心配は要らん。教会の不正を暴くための証言者、生き証人として協力はして貰う事になるが、安心したまえ。悪いようにはせんよ。」


 やっとこの言葉で冒険者たちは安堵をしたのか、二名ほどが顔を手で覆って涙をダバダバと流し始めた。どうやら相当な恐怖をずっと感じていた緊張感の反動での事の様だ。


「お、俺たちは、一年前、ダンジョン都市で活動していました。高難度へと挑戦すると言うギルドの作戦に参加して、それで、深い傷を負って撤退したんです。そこからは・・・」


 どうやらダンジョン都市での被害者だったようだ。貴族に売るだけじゃ無く、こうして大司教の間でも「奴隷」の件が横に広がっていたようだ。

 そこからは彼らがずっと牢に入れられていてまるで罪人扱いの様な待遇で閉じ込められていたらしい。

 深手の傷を治す為に教会の本拠地に行くと言った感じで騙されて全員がこちらに引き渡されたそうで。

 傷は治されたが、牢に入れられ、鎖でつながれ、自分たちがどうやら冒険者ギルドと教会に騙された事をようやっとそれで理解したようだ。

 しかしその内容が冒険者たちには分かっておらず、どの様な犯罪なのかはイマイチ思いつかないと言った感じか。


「それで今日になって牢から出されたらあの場所に目隠しで連れていかれていきなり「戦え」と。」


「分かった。有難う。君たちが生きていた事は喜ばしい事だ。間に合って良かったと思うよ。それでは、これからは我が屋敷に暫くは滞在していてもらう。自由を奪う様な真似はしない。好きにしていてくれていい。被害者を匿うという形になる。ゆっくりと体と心を休めてくれ。」


 辺境伯は優しい言葉を冒険者たちにかけた。それと屋敷での保護もちゃんと伝える。これに先程滝のように涙を流していた冒険者二名がまたしても安心からか涙を再びダバダバ流す。

 執事が冒険者たちを連れて案内の為に部屋を出て行く。静かになる辺境伯の執務室。


 そもそもコチラへと戻って来た時は屋敷の庭に繋げたのだが、屋敷が大騒ぎになった。辺境伯が攫われたとでも執事が思っていたんだろう。

 心配すんな、と言っておいたのだが、やはりダメだったようだ。辺境伯の姿を庭に確認して即座に屋敷から使用人たちが大勢飛び出してきて「御無事ですか!?」の大合唱。正直、うるさかった。

 辺境伯がこれに一言静かに「騒ぐな」と言っただけで治まったのは正直驚いたが。どうやら部下たちにかなり慕われ、敬われているようだ。


「で、説明が欲しいのだが、聞いて、良いかね?」


 どうにも辺境伯は俺の事を今更「何者なのか?」と言った事を聞きたいらしい。


「辺境伯様が体験した事の全てが、既にその答えかと。」


 ミッツが落ち着いた声でそう辺境伯へと答える。で、やはりここでこの世界に生きる人々が出す答えが。


「なるほど、賢者も賢者、大賢者と言った所か。コレをどう城に説明をすればいいのだ?」


「あ、もうアッチは俺の事ちゃんと知ってますから。別に辺境伯がソレをアレソレ心配しないでも良いかと。」


 俺はサラッとそう教えておく。王子様とはかなり顔を合わせてアレコレとやっている。なので今更だ。

 これに辺境伯は顔を両手で押さえてニューッと伸ばす。緊張感で固まった表情筋をほぐす様に。縦と横で二回。


「分かった。今の私は目の前の問題に向き合っていればいいと言う事だな?正直に言って、私はもうついていけん。後の事は二人に任せても良いか?」


 俺はインベントリから今回集めた証拠をバサバサと取り出す。金と人形は出すとこの場がカオスになるのでソレは出さないでおいた。


「じゃあこっちはこっちで色々と飛び回って集めた物を屋敷に持ってきますね。・・・この量だとどうします?他の所のは明日にしますか?」


 今日と言う日の時間はまだあるが、今持ってきた証拠の精査やら裏付けなどを考えれば膨大であるので他の大司教の所の証拠を今日中に集めて持ってきて「はいどうぞ」はキツイだろう。

 なのでもうちょっと時間を置くかと問いかけたのだが。


「いや、できるだけ早めに頼む。大司教共が互いに手を取り合っていると言う証拠も欲しい。それらを繋げるにしても数あれば捜査の情報もより正確になるし後の仕事が楽にできるだろう。・・・もう自棄だ。今回の事で大司教共の息の根を全て止めてやろう。同時にな。」


 フンスとヤル気に満ちた気合を入れた辺境伯は整理し始めるために次々に証拠へと目を通し始めた。


「じゃあミッツ、行こうか。残っている大司教の屋敷を教えてくれ。」


 こうして俺たちは続きをする為にワープゲートを通ってまたあの地下空間へと移動した。


「で、あの三馬鹿はどうしたらいいと思う?」


「そうですね。エンドウ様の御負担で無いのであればあのまま「止めた」ままで放置で構わないかと。」


 結構冷たいミッツの言葉。しかしそれが一番妥当だろう。俺にはこいつらを拘束している事に何ら負担は起きていない。

 こいつらが自身の魔力で「魔力固め」を解除できていたのなら、今ここに同じ態勢で固まってはいなかったのだから。


 こうして地下から出てきて俺たちは次の大司教の屋敷へと向かう。三馬鹿は放置に決定した。

 これからする事も別にどこかしら変える所は無い。同じ方法で屋敷を探って証拠を得たら次々に別の大司教の屋敷へと移動するのを繰り返す。この都市にどうやら大司教の住む屋敷が集中しているそうで。

 最終的には夕方前にこの都市での証拠集めは滞り無く全て終了した。少し早めに終わったのは別段イレギュラーが起きたりしなかったからである。

 俺とミッツの見込みが「夜」を考えていたのは何らかのトラブルがあるだろう、と言った予想を含めていたと言う事もある。実際にマイレリム大司教だったか?の屋敷には広大な地下空間での件があった訳で。


「では戻りましょうエンドウ様。時間が早く終るのは別に悪い事ではありませんから。これらを辺境伯へと早めに引き渡しましょう。きっとお待ちになられています。」


「じゃあ今日はもう帰るか。あ、ミッツはどうするんだ?辺境伯の屋敷に御厄介になるのか?」


 一応は宿を取ってある。こうして電光石火に動いてしまったのは完全に成り行きだが、もうちょっと時間をジックリかける予定ではあったのだ。


「そうですね。宿の解約はもう無理でしょうし。辺境伯様のお手伝いもしたいです。」


 このミッツの言葉を受けてワープゲートを辺境伯の屋敷へと繋げた。


「帰ったか。で、首尾はどうだ?」


 その一言を口にしつつも辺境伯は机に並べられた資料と睨めっこしたまま。幾つも並べられた証拠資料を並べ替えては一まとめにして、それの目録を書いている。

 分かり易くするためにそうしているんだろう。膨大な数が有るのでこれらを全部目を通すのにも一苦労だ。

 仕事を止めている訳にはいかない。しかし休息も入れなければ仕事の能率が落ちるという物だ。

 今はまだ辺境伯は次々に目に通す犯罪履歴にどうやら怒りのモチベーションで立ち向かっているようだが、それも時間がある程度過ぎれば落ち着いて来る。その時にドッと疲れが押し寄せて来るだろう。


「休憩を入れません?キリの良い所でお茶でも飲みましょう。」


 俺のこの提案に辺境伯はチラリとこちらへと視線を向けてから深く溜息を吐く。おそらく辺境伯もこの今の状態が長くは続かないと言う事は分かっていたようだ。素直に仕事を中断した。


「分かった。ちょっと待っていてくれ。」


 その一言で執事が動く。お茶の準備だろう。この執務室で辺境伯の仕事の資料整理の手伝いをしていた手を止めて部屋を出て行った。

 もう既にその執事は俺たちの事を警戒はしてない。どうやら俺たちが居ない間に辺境伯もこの執事にちゃんと事情は説明していたようだ。

 辺境伯がソファへと座って背もたれに体を預ける。その後に一言。


「持ち帰って来た証拠品や資料はそちらの端にでも置いておいてくれ。後程検分する。」


 俺はこの求めに対して少しだけ協力しようと思った。それぞれにファイルを作って関連するモノを挟んで纏めておいておこうと。

 一応はインベントリにそのファイルを作れる分だけの材料になりそうな物は色々は入っていた。木材の余りもあるし、魔物の素材も入っている。

 俺は中身を確認するために少しづつインベントリから集めた証拠資料をペラペラと見ては、インベントリから材料も一緒に出して魔力を流してパパッとファイルバインダーを作り出しそこに関連するモノを仕分けしていく。

 大体一時間位だろうか。それらの仕事は今の魔法が使える俺にとっては何ら負担になりえない簡単なお仕事だった。

 あれよあれよと回収してきた証拠書類は次々に纏め上げて、一つ一つに何の犯罪のファイルバインダーかの名前も一緒に付けておく。直ぐに欲しい資料が判断しやすいように。


 壁際には既にみっしりと俺の熟した仕事の山が。どれだけの年月、大司教たちは犯罪を積み重ねてきたと言うのか?稀に見る悪党集団だと言う事である。

 神の名を騙っての大規模犯罪集団。しかも人々を大々的に騙しての詐欺とその裏での凶悪犯罪。

 これで教会が潰れたとしても、もう誰も文句は言わない、と言って良いくらいの犯罪の山、山、山である。犯罪の見本市と言うくらいには様々な悪行の数々。口に出すのもうんざり、憚られる程である。


「・・・何をどうやったらそれだけの仕事がこれほどの短時間で済ませられるのか。流石は賢者、とでも言えば良いのか?何はともあれ、有難いが。」


 辺境伯は俺の作ったファイルバインダーの一つをペラペラと中を見て俺へと何だか複雑な声音で礼を言ってきた。


「神子様はこの事を知らないのでしょうか?それとも、知っていて放置をしていたのでしょうか?どちらでも構いませんが、もうお終いですね・・・」


 ミッツはコレを見て教会をハッキリと「終わり」だと述べた。俺もそう思う。完全解体だろう。幾ら市民の治療を受け持っていた重要な組織だったとは言え、これ程の犯罪の数だ。余りにも根底からキレイさっぱりと片付けなければ意味は無い。

 今の「教会」と言う組織の消滅はこの世界でかなりの混乱をもたらすだろう。だけどもそれをしなければきっと市民は不信感を拭い去れない。中途半端な処置ではきっとずっと教会へと不満を疑心を募らせるだけになるはずだ。

 恐らくは国が大々的に介入して最小限に混乱を抑えようとするだろうが、人の口に戸は立てられぬ、といった具合になるだろう。その内に教会の、大司教たちの悪行の数々、その情報は洩れる。


「じゃあ明日はその神子様の所に行こう。もうここまで来ると俺も首を完全に突っ込む事にするよ。こんな組織になった責任はちゃんと一番上がとらないとな。知らなかったじゃ、済まされねーよ。」


 俺も証拠の中身を見てしまっている。筆舌に尽くしがたい怒りはある。どれだけの被害者が居たかと思いを馳せれば、全く関係無い俺でも多少胸が苦しくなる程だ。胸糞悪い、非常に。


「あ、とった宿には俺が行って説明はして来る。あ、料金はもう前払いはしてあるんだよな?なら揉めたりはしないだろ。じゃ、少し出てくる。」


 俺はミッツがとった宿に一言断りを入れるために部屋から出る。もちろんワープゲートで。

 その時に辺境伯の声で「絶対に敵に回したく無い」と聞こえたが、それを俺は聞こえなかったフリをした。


 俺はミッツがとった宿へと入り、その主人に説明をする。事情があって借りた本人は戻ってこないと。

 ここに泊まる気は無かった俺は部屋を取っていない。しかしミッツと一緒にやって来た所は宿の主人は見ているのでこの説明を納得してくれた。

 料金はもう先払いで済んでいたので何ら問題無く宿を出る俺。


「さて、戻る前に一つその顔でも拝ませてもらいに行って見るか。」


 既に周囲は暗くなっている。辺境伯の屋敷に戻ってもう寝てしまっても良いのだが。

 しかし俺はここで興味を優先する。そう「神子様」とやらを見に行くのだ。


「明日ミッツと一緒に行くのも良いんだが。やっぱり気になるよなー。」


 俺はワープゲートを繋いで教会都市へと移動した。そして魔法で空を飛んで向かうのは。


「滅茶苦茶デカいぜ。どれだけの金がかかってるのかね?歴史的な価値とかもあるんだろうけど。結局は悪事の象徴みたいにしか見えないわ今は。」


 大司教たちが長年やってきた犯罪のラインナップを目にしてしまった後では、この荘厳な空気を纏う建物を見ても感動はできなくなる。

 そう、大司教の一人残らずが犯罪をしていた。しかも全員が仲良く手を繋いで、である。これには流石に俺も眩暈が仕掛けたくらいだ。


「その頂点に居る存在は、さてはて。どんな人物なのかねぇ?」


 敢えて俺は魔力ソナーを広げずにその総本山の中へと入り込む。入り口からして静謐な空気が充満している。

 一歩教会の中へと入り込めばそこは世界遺産か、重要文化財かと言わんばかりの天使?の像がそこら中にある。

 壁の至る所に精緻な彫刻が施されていて、見る者を圧倒する。


「どうやらよく宗教にあるあるの「天地創造」とか「人とは神が自身に似せて生み出した」とかの話をモチーフにしてんのか。物語で聞かせ、こうした芸術で目で印象付けて、ってか?」


 俺は今姿を消さないでこの教会内を歩いている。足音だって消してはいない。

 こつ、こつ、と静かで暗い空間に俺の歩く音は響いている。しかし、俺を止める者は一切現れる気配が無い。


「人が居ても良いはずなのに、何故誰も俺に気付かない?いや、もう今の時間は皆寝てるのか。」


 だからと言っても警備の者が見回りをしない、何て事は無いはずだ。しかし。


「広過ぎて人の数が足りないのかよ。こんなデカイ教会建てる金はあったのに、人を雇う金が無いとか?アンバランス過ぎるな。」


 どうやらこの教会総本山には金をかけていないらしい。金がかかっているのはその巨大さと外観、そしてその中身まで。

 内部と言える部分への人員的な部分には何故か人を配していないようだ。


「神子様の身の回りだけに最低限の金を使って、後の部分には全く管理をしていないのか。」


 大司教たちはどうやらこの本部と言える場所への執着やらこだわりなどは一切無いらしい。

 そうなると「神子様」とはいったい何なのかが気になって来る。


「崇め奉るべきその神子様とやらを大司教たちは何ら問題視していないって事だよな。」


 俺は歩き続けてどうやら「祈りを捧げる間」の最奥に辿り着いたようだ。

 その真正面には巨大な窓があり、そこから月明かりが差し込んでその場所だけが幻想的な雰囲気を出している。


「コレが神様の像?とは言っても、何処かで見たようなデザイン。・・・あー、アテナ?」


 槍と盾を持ち、兜をかぶって、そして美女。白い大理石?であろう材料で彫られたその像は月の明かりを優しく反射してボウッと輝いていた。


「本当に神様なんて存在してるのかね?まあ、居たとしても、だ。これじゃあ居ないのも同然だ。」


 俺のこの発言を信者が聞いたら「神の御前で何て事を!」とか「天罰が下りますよ!?」と怒られそうだ。

 しかしそんな神様なら大司教たちが今までしてきた犯罪の数々はどうしてくれると言うのだろう?

 被害者を救いもせず、犯罪を止めもせず、只々放置し続けている事はどういった事だろうか?


「まあ、皮肉も批判もこれくらいにして、もっと奥に行って見るか。」


 その像の背後には先へと続く扉があった。この教会のデカさだとその扉の奥が行き止まり、何て事も無いだろう。

 俺はその扉を開いてみる。その先に続く何処までも続く廊下を見て唖然とした。


「何処までも無駄に一直線だな?この先に居るのかね?その神子様ってのは?」


 さて、俺が今魔法で姿を隠していない理由は別に御大層な事では無い。

 俺はここに犯罪をしに来た訳でも無いし、見つかっても別に構わないと思ったからだ。

 見つかった所で面倒な騒ぎにはならないだろう。夜分遅くに観光しに来た、とでも言えば。

 それこそ、この教会、こんな夜中に門を閉めずに開きっぱなしだった。

 どうにも夜分に礼拝でもしに来る者が居るのかと思ったのだが、俺以外に人を見かけていない。


「開いているんだから入っても良いんだろ?だからこうして堂々と中に入らせて貰ったんだがな?」


 何処の扉にも鍵は掛かっておらず、ここまですんなりと入って来れてしまったのは防犯上どうなの?とも思わなくは無いが。

 コレがこの教会の普通なのだと言うのならソレを俺が変だと今更否定しても意味は無い。


「罠にでもハメる気なのかね?俺を?入って来た不審者を?それにしてもこうも反応が無いと不気味だな。」


 何かの罠かと思いつつも、しかし未だに何の変化も見られない。あからさまにこの教会はおかしいと思った。

 そこでこの長い一直線の廊下は終わりが見えてくる。またしても扉だ。


「この奥に何かあればソレはそれでいいんだけどな。美しい彫刻もこうもずっと延々とあると食傷気味だ。」


 この長い廊下にはずっと自然の花々を彫った壁が続いていた。確かに美しいものではあったのだが、良い加減に飽きて来ていた所だった。


「さて、吉が出るか、凶が出るか。」


 俺は今、教会の中を散歩気分、観光をしている。魔力ソナーで隅々まで調べていない。

 神子様とやらを一目見ておこうとの思い付きで、ついでに教会の見学をしようと言った軽い気持ちである。

 そんな事で魔力ソナーを使って全てを「フルオープン」にしてしまったらつまらない。偶には俺も多少のドキドキワクワクは欲しいのだ。


「で、これは、何だ?」


 俺はその扉を開いた先に見えた光景に驚いた。外に出た。一面が花畑。そしてその面積はかなりの広さだった。


「そして手入れは・・・されてない。これはもうしょうがないな。」


 俺は魔力ソナーを全力で広げた。余りにもここは異質過ぎる。そしてそこから導き出された答えは。


「人は居る。だけど各自の部屋で寝てるな。司教見習いか?あるいは掃除夫?この教会の管理をしている事はしているのか。」


 ある程度の人員が配置されているのが判明はしたが、どうにもそれにしたっておかしい所ばかりだ。


「この場所までの道のりは何処も鍵が掛かって無い。しかしどうにも管理人たちの居る住居区になるのか?そこにまで行くのにはどうやら色々と警備員が配置されてはいる。どう言う事だ?」


 俺は魔力ソナーで調べた情報を丹念に頭の中で処理していく。しかしこの中に何処にも「神子」らしき人物だと思える存在が居ない。

 特別な存在のはずだから他とは違う扱いを受けているはずだと思ったのだが、どれもこれも皆同じだ。


「神子は、そもそも、居ない?大司教は顔合わせするんじゃないのか?」


 木を隠すには森とでも言うのだろうか?大切なものだから隠す、と言った具合に「普通」の中に紛れ込ませてその存在を分かりにくくしている可能性も考える。


「儀式くらいはするだろう?その時にちゃんとした正式な衣装が何処かに・・・何処にも無いな?」


 幾ら魔力ソナーで得られた情報を脳内で精査してもそれらしき道具すら見つからないのはどう言った事かと困惑させられる。


「別の場所に仕舞われていてこの教会の中には無いとか?・・・ソレはありえねーだろ。」


 そこでふとこの花畑の中心に何かがある事に今更に気付いた。


「あ?何でこんな所にこんなのが?いや、そもそも教会の中心にこれだけの花畑ってのもおかしいんだがな?しかも手入れもされずにそのままの状態だぞ、コレ?」


 俺はそこにあるものを自分の目で見るために花畑の中心へと向かい歩き出す。サクサクと花々が踏みつぶされる音が静寂の中に響く。

 そしてそこにあった物をこの目で見て再び考える。まさかなぁ?と。


「祈る少女の彫像。しかもどうやら年月が大分経って朽ちてる。そこら中がボロボロだ。管理されてなかったのか。雨曝しでどれだけ放置されてたんだろうな?」


 だからと言ってもこの像、重いだろうから持ち運んだりは難しそうだった。

 ならば屋根やら何やらを作って囲い風雨に当たらない様にしておけばいいはずだ。

 だけどもこの時にソレをしなかったのは何故なのかが分かった。


「はー、なるほど。月明かりが、ね。」


 どうやら月の明かりがこの教会の壁の幾つもの場所から反射してこの像に一点集中されるように計算されていたらしい。俺がこの場にやって来て直ぐに像には何処からともなく儚げな光が降り注ぐ。

 淡い光がこの像へと降り注ぎ続けてソレはそれは幻想的な光景を作り出していた。


「でも、な。俺以外にここには誰も居ない。寂しもんだ。それにこれだけ朽ちた像だと、な?」


 ソレはきっと朽ちていない状態であればさぞ美しい光景だったと思うのだが。こうして潰れた顔の少女の像ではこれに逆に不気味に感じてしまう。


「・・・コレが神子様、何て、言わないよな?」


 この疑問に答える者はここには誰も居ない。そこで閃いた。知っている奴がいるではないかと。

 俺は早速ワープゲートを繋げてその知っているだろう者が三人も居る所へと移動する。それはあの三馬鹿の事である。


「やあ、ちょっと良いかな?聞きたい事が色々とあってね?」


 そこには未だに俺の「魔力固め」から脱出できずにいる大司教三名。息ができるだけにしてあったので俺のこの言葉を聞いても彼らは微動だにできない。


「質問そのイチ。神子様とアンタらは会ってるはずだよな?で、神子様ってどう言った人なの?」


 俺は先ずマイレリム?大司教の口が動かせるように魔力固めを緩める。すると。


「貴様は一体なにも!」


 俺はこの時に彼の口を再び固めた。質問に答えてくれなかったからだ。そして次にゲイリット?大司教の口を緩めると。


「我らにこの様な事をしてどうに!」


 また固める。どうやらこの二人は俺の質問に答えてくれる気はサラサラ無いようであるみたいだった。

 時間が大分経っているので少しは落ち着いて話ができるかと思ったのだが、どうやらこの二名は頭が大分悪いらしい。自分の今置かれている状況が全く理解できていない。


 次はカマベル?大司教の口を緩めた。すると。


「あ、あ、あ、会っているぞ!確かに!だが何故その様な事が知りたいのだ!?そもそも我らが動けずにいるのはお前の仕業なのか!?」


 どうやらカマベル大司教は多少は頭の回転がこの二人よりは良いらしい。でも、多少だ。


「どう言った人物なのか教えてくれない?教会に行ってみたんだけどさ。それらしい人を調べられなかったんだよ。」


 俺が理由を述べるのだが、ここで俺はカマベル大司教に笑われる。


「当たり前だ。人物?そんな奴が居るはず無かろう。神子様だと?笑わせてくれるわ!」


 もう半ば自棄なんだろうと思われる引きつった表情でカマベル大司教は吠える。

 このカマベル大司教の態度で俺の中の「まさか」の気持ちに答えが浮かび上がってくる。


「あの汚い朽ちた像が「神子様」だと言われた時にはどういうつもりだと叫んださ!騙されているのかとすら思った。馬鹿馬鹿し過ぎて呆れたくらいだ。大司教になった者に連綿と受け継がれてきた神子の世話と言うモノが、この像の掃除だと言われた時には大笑いしたわ!私と同じ気持ちになった歴代の大司教たちは同じ行動をしていたんだろう。放置だよ!あんな物の為に私は必死になって大司教になったんじゃァ無い!」


 そうやって悪心を持つ者が大司教になって幾星霜。神子の存在というのは隠し秘されて、実際には放置と言う形にされたんだろう。

 所詮はこの大司教たちは悪党だ。只の像の掃除などをする気は無いのだ。居ない者を「居る」と偽り広め、そしてその陰に隠れて自分たちは様々な悪行に手を染める。

 自らの快楽と欲望を満たす為に大司教と言う権力を陰で振りかざして犯罪を積み重ねる。


「コリャひでぇや。」


 俺の口からはそんな感想しか出てこなかった。

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