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暴いて、晒して、問い詰めて?

 相元締めになる存在はどうなのかと俺は問う。それこそ頂点がぐずぐずに腐っているともう全てを解体しなければならない。


「神子様は・・・分からないのです。そもそも動かれると言った事をなさりません。総本山の奥にいらっしゃると聞きますが。私はまだ一度もその御姿を拝見した事はありません。毎日神へと祈り、決められた神事を行う特殊な役職で、それこそ大司教も神子様のお言葉が下れば誰にもその言葉に逆らう事はできないと言いますが・・・それこそ、その存在自体が疑われているくらいですね。どうやら大司教となればその際の祝いとして一度目通りすると言う事なのですが。」


「ふーん。まあ、その人物に会ってみるのもいいかもね。その神子様とやらが腐っていようが、いまいが、とりあえずは今から出発しよう。善は急げだ。ミッツ、そっちの窓開けて。んで、どっち方面に飛べばいい?あ、それと執事の人、御当主をお借りしていきます。安全は保障するので、これから目にする事は誰にも言いふらさない様に。それじゃ。」


 俺の言葉でササッと動くミッツ。執事はどうやら訓練を受けているようで、俺が怪しい動きをするのだと察知して懐からナイフを取り出して厳戒態勢。

 辺境伯はどっしりとソファに座ったままで「何をする気だ?」と俺を睨む。


「体験した方が早いし、証拠の見分なんかも辺境伯が居た方が早く済みそうだし。言いましたよね?自らが出向かねばならないって。なので、今から行きますんで。驚いて舌噛まない様に注意してください。」


 俺は魔力を発してミッツと辺境伯を包む。そのまま開け放たれた窓から音もさせずに「ヒューッ」と出て行く。

 執事の顔がこの時チラッと見えたが、驚きの余りにいつでも動かせるようにしていた態勢を思いきり固まらせていた。


「で、実際に空を飛んだ感想・・・はどうやら聞けないみたいだな。」


 辺境伯は目をグルグルと回している。自分の身に何が起きたかを即座に把握でもしようとしたんだろう。自身の目で受ける情報をより多く得ようと、自分の今置かれた状況をいち早く理解しようとして目を実際にグルングルンと回している。気絶している訳じゃ無い。

 その呼吸、鼻息も相当荒く、目から受ける情報の処理を早めようとして酸素を求めて過呼吸になりかけている。


「落ち着いてくださいゲードイル辺境伯様。」


 ミッツがそう言った所でどうやら気付いたのか、辺境伯は目を大きく見開いて声のした方を向いた。


「ミッツ!これはどう言う事だ!?私の身に何をした!?何が起きている!?私を・・・何処へ連れて行く気だ!?」


 誘拐されたみたいな言い方は勘弁してほしいのだが、これに俺はもう一度言う。


「これからクレビレス?って言う奴の屋敷にそいつの持っている不正の証拠を取りに行くんですよ。それが終わったらミッツ、次の悪党の場所に案内してくれ。今日中に五つくらいは回れるか?」


「そうですね。夜も動けば八つは固いかと。そこまで行けば翌日に残り二つと言った所だと思います。エンドウ様にはお手間を取らせてしまって申し訳ありません。」


 俺たちの会話についてこれない辺境伯。ポケッとした表情になってあの厳しい顔はどこへやらだ。


「なるほど?これは・・・夢でも見ているのだな?はははは!ならば楽しめばよいか。ふむ、空を飛ぶ夢とは?これ程に爽快で心地の良いモノか。」


 変な方向に開き直っている辺境伯。そして胆力も変にこじらせた方向へ行っている。

 暴れたりうるさくされるよりかはよっぽどいいので、俺はコレを放置する事にした。その内にコレが現実だと言うのはイヤでも実感する事だろう。


 空の旅は快適に進む。ミッツは時折飛ぶ方向を修正して指示をくれるので俺はそれに合わせ軌道を変えるだけだ。

 そしてとうとう見えて来たその総本山とやらは巨大な円形の都市だった。

 中央にはシンボルとなる教会。しかしその規模は超級と呼べる。俺たちが空から、しかも遠くから見てもそう言った感想が出るくらいの巨大さなのだ。

 その中心から蜘蛛の巣状に広がっている家々は白を基調としたもので、都市全体が光を反射して眩しく輝く。


「これはこれは、神々しいね。でもそこに所属する偉い奴らの腹の中も頭の中も真っ黒けっけ、ってか?」


 そのままミッツの誘導通りにこれまた広い屋敷の庭を目指して俺たちは飛ぶ。そしてその屋敷の庭に着陸した。

 当然俺たちの姿は魔力で覆って周囲の景色に溶け込む光学迷彩を施してある。だからそう易々とはバレる事は無い。


「いきなり屋敷の庭になど入り込む奴があるか?おぉ、そうだった?私はまだ夢の中だと言う事だな?」


 辺境伯はどうやらまだ夢の中から出て来れてはいないようだった。一度ハマるとなかなか抜け出せない性格をしているのだろうか?

 それはさておき、俺は広大な敷地、屋敷内部も全部調べるために魔力ソナーを広げに広げる。


「怪しい隠し部屋は三か所あるけど、一番近い所から中に入ってみようか。」


 俺はスタスタと歩き出す。ミッツはこれにすぐさま付いてきたが、辺境伯はボヤッとしてフラフラとしたまま。

 それに気が付いたミッツが辺境伯の背中を押して歩かせると言う奇妙な事になっていた。

 俺は辺境伯の歩く速さを気にしつつ、そのまま屋敷の一角、何ら変哲も無い壁の前に立つ。


 俺は「ここだな」とだけ口にしてその壁へと「通り抜け」の穴を作り出す。ミッツへと合図して素早く辺境伯を中へと押し込ませて俺も内部へと侵入する。

 すぐさま穴を塞げばあっと言う間に隠し部屋の中だ。目撃者はゼロである。完全犯罪したい放題だ。

 そんな事はさておき、ここはどうやら金を貯め込んでいる金庫であるようだった。

 資料の様な物は一切見当たらず、魔金貨、金貨、銀貨、白金貨、魔白金が山と積まれた箱が所狭しと置かれている。

 中には竜金貨らしき物も見える。どうやら相当に貯め込んでいるらしい。言うなれば「過剰」である。


「どうやらお金を貯め込むのが趣味らしいな。えーっと?何だっけ?クビレビレス?」


「クレビレス、ですね。ここはどうやら帳簿とか契約書などの類を置いている場所では無い、ですね完全に。」


 ミッツも少しだけこの金の山を見渡したが、一切のそう言った書類は無いと判断したらしい。


「うーん?そこの何ら変哲も無い壁があるでしょ?そこはどうやら専用の鍵を挿しこんで回すと機構が動いて隠し扉が開く、みたいな?完全にまともじゃ無いよな?これは。」


 普通の思考ならばこれだけの金だ。預けると言った形か、或いは投資などを考える。隠すようにして部屋にこれでもかと言うくらいに貯めたりはしないだろう。


「バレたらいけない金、って事か。辺境伯、ここのクレビレスってヤツはどんな犯罪を犯していたかって言うのは掴めてますか?怪しい、ってくらいでも良いです。どうですか?」


 未だに辺境伯は戻って来れていない。いきなり壁に穴が開いて、そして中に入り、目の前の金の山、そして穴が塞がって。

 恐らくは次々に目にする現実が許容量を尽くに超えていて意識を戻す事が困難なのだろう。

 だが俺のこの質問にはフワフワとしながら辺境伯は答えてくれた。


「信者からの不正な徴収、或いは「患者」からの裏献金、他にも賄賂、犯罪者を使った強盗に殺人、その犯罪を隠滅するために使ったゴロツキどもを消すなどか。しかしあらゆる所に奴の影があるのに、未だにハッキリとその証拠が見つかった事は無い。これだけの金があれば、はは、それらも容易く証拠などもみ消せよう。」


 乾いた笑いと共に辺境伯は怒りを吐き出す。ようやっとエンジンがかかって来てちゃんと現実を見る事ができるようになったみたいだ。


「じゃあこれらの金はクレビレス司教の潔白が証明されるまでは俺が預かっておきましょうか。全て。嫌がらせに、ね。辺境伯は何も知らない、何も見ていない、って事で一つ、宜しく。」


 俺は久々にインベントリを展開する。辺境伯は俺が何をしようとしているのかをこの時、理解できていない。


「その様な盗人の真似をすると言うのか?しかも全てと言ったか?ふむ、冗談は止せ。どれだけあると思っているのだ?この部屋に。」


 と言った後には一枚残らず全ての金はインベントリの中だ。部屋が広く感じる。スッキリした。


「じゃあ次はこの上だな。そこもどうやら同じ構造をしている部屋らしい。二か所目に行こう。」


 部屋の中が空っぽになった事で辺境伯がまたしても夢の中へと旅立ってしまう。目を覚まさせるのは後にして俺は天井に穴を開ける。そしてその穴から上階の部屋へと宙を浮いて入り込み侵入に成功する。


「お?どうやらここは当たりかな?どう、ミッツ?」


 底は本棚が四方の壁にあり、そこには多くの羊皮紙?クルクルと巻かれたそれらが積まれていた。


「辺境伯、中身を確認してください。おそらくは全部コレ、不正の証拠です。・・・辺境伯?」


 夢遊病でも発症したのかな?と思えるくらいに辺境伯の表情は「無」であった。


「はっはっは!そうか、これは夢なのだな。うん、私はまだ寝ている、ベッドの上だ。そうか、これは私の願望が見せている夢だな?ならばここはその流れに身を任せるか。起きた時にはがっかりするかもしれないが、今だけは、溜め込んで来た鬱憤を夢の中とは言え晴らそうではないか。」


 別の方へと達してしまった辺境伯は証拠書類を次々に手に取り開いては中を見て「うむ」と頷く。


「これらは全て持ち帰りたいのだが、どうだね?エンドウと言ったか?先程の様にできるかね?・・・おお!おお!証拠としてはありえない位の量だ。この内の一つでもあればクレビレスの糞を捻り潰せるのに、こんなにか!ははは!いやー、長年の怒りが報われるわ。」


 やっぱり何処か変な所へと意識が覚醒してしまっている辺境伯。それを元には戻さない方が良いとばかりにミッツは横に首を振る。

 もうこの状態で連れ回した方が何かと話が早く済むだろう。正気に戻すと言った手間を省いて俺たちはこのまま辺境伯を連れ回す事にした。


「次は最後の部屋ですね。一旦外に出て屋根から入った方が良いかな。」


 俺は壁に魔力で穴を開ける。そこから浮いたままで外に出て屋根へ着地する。俺たちが出た後の穴は即座に塞がって目撃者も無しだ。


「さて、最後は何の部屋だ?これは楽しみだ。」


 辺境伯はそう言ってニコニコだ。未だに夢だと思っている様子である。

 そうして屋根裏部屋と言って良いだろう。その部屋へ侵入する。やはり魔力で屋根に「通り抜け」の穴を魔力で作ってだ。


「これは・・・随分と趣味の悪い事だな、クレビレスめ。」


 辺境伯は部屋の中に有った物を睨む。嫌悪と共に。そこには人形。しかも、随分と「そっくり」の。


「美人美女の等身大の、それこそ「そっくり」に作らせた代物かよ。しかも、何故全員が裸?」


「どうやって作らせるんでしょうか?お抱えの職人?制作場所があるのでしょうか?この数は・・・異様です。」


 ミッツ、ドン引きである。見ようによっては「芸術」と言えるのかもしれないが、どれもこれも生々しいと言っていい代物だ。

 何体もの人形が様々なポーズで飾られていた。その人形の顔はどれも違う。モデルが居るように見えるが。


「秘密の趣味、と言った所か。高そうだな、どれもこれも。この様な趣味がクレビレスにあったとは知らなかった。この事を使うだけで奴を良い様に転がせられそうな程だな?」


 辺境伯はクレビレスをこのネタを使って脅しに掛かろうとしているようだ。しかしこれも面倒である。全部回収で良いだろう。


「最初に魔力ソナーで部屋の位置だけ探さないで、中まで確認した方が良いな。気分悪いわ。」


 さっと終わらせて次に、などと考えていたので屋敷の構造のおかしい所だけを調べていた。その部屋に何があるかまでは考えていない。

 俺はインベントリを開いてこれらの人形を全て仕舞う。


「エンドウ様、もうここは宜しいかと。次に参りましょう。」


 ミッツは既に次の大司教に気を向けている。この速度で証拠集めなどしていれば悪党どもは容易く一網打尽にできる。

 気が逸っているんだろう。もう我慢はしないでも良いのだと。神を利用して悪事を働き私腹を肥やす悪党集団を一掃できる機会なのだ。


 辺境伯も夢だとまだ思ってはいても、悪逆無道を成敗できる証拠を順調に集められて気分が良くなっているのか「良し!次だ次!」と言ってワハハと笑う。


(殆どの仕事は俺がやっている、って言うのは、まあ、言ったら野暮なんだろうよ)


 二人の気分に水を差さないでおこうと俺は思っておく。ここで気分を損ねる事を言った所で何も利益は無い。


「良し。じゃあミッツ、次の場所も案内してくれるか?」


 こうして俺たちはこのクレビレスの屋敷から去る。次のターゲットはと言うと。


「では、次はマイレリム大司教の屋敷ですね。」


 俺はそう言ったミッツの指示通りに空を飛んでまたもや広い敷地の屋敷の庭に到着した。そして同じ様に魔力ソナーを広げる。すると。


「・・・なあ?どうやら地下にかなり広い空間があるが?しかもどうやらそこで・・・」


 俺はそこで信じられない事が行われているのを二人に告げた。コレを聞いて辺境伯は一気に正気に戻った。

 ミッツは「何て事を」などと言って顔を不快だと歪める。


「一応は今俺が全部「止めた」けど、どうする?先にそっちに行くか?屋敷の方はどうやらやっぱり隠し部屋があるみたいだ。そっちの部屋は紙が大量にしまってあるようだぞ?証拠だろ、たぶんこれ。」


 俺はどっちに先に行くかを問う。しかしここで意見が二つに分かれる。


「地下だ!当然だろう!マイレリムの外道を切り刻んでくれる!」


「いえ、エンドウ様が「止めた」と言うのであれば後に回しても宜しいかと。先に証拠集めをしてしまった方が良いですね。」


 ミッツのこの意見に流石に辺境伯も「んん!?」と勢いを殺される。


「どう言う事だミッツ!先に地下だろう!?」


「いえ、エンドウ様の言葉を信頼してください。優先順位は「証拠集め」です。もちろんその後で地下に向かうのは当然です。今行って冷静に話をしようにも聞く耳は持たないでしょうし後回しで。」


 嫌になるくらいに冷静なミッツを見て辺境伯は気を抜かれる。


「じゃあ屋敷の中に行きましょう。取り敢えず中央部の地下ですね。」


 そう言って俺はそのまま屋敷へと歩き出す。もうお構いなしだ。そのまま屋敷の壁には魔力を通して通行路を作る。

 そのまま否応無しにその地下部屋の真上に到着。そのまま床に穴を開けて降りる。正規の手続きを踏んでギミックを稼働させるなんて一々面倒な事などしない。

 俺たちはその部屋の中に入る。辺境伯はまだ地下の方に気をやっているが、しかし動きは証拠書類を確認、その手際も素早い。


「こいつめ・・・人の命を何だと思っている!八つ裂きにするだけでは生温い!」


 怒りで顔真っ赤である辺境伯。流石にミッツも証拠資料のいくつかを見て溜息を吐いた。


「これは酷いですね・・・教会が、いえ、人としてここまで腐っていたとは。人身売買ですか。確かにこれらに見合った罰を与えるにしても、どれだけの「死」を与えればいいか・・・」


 赤く燃える怒りの辺境伯。逆に静かに、しかし高温で青く、白く燃えるミッツ。

 二つの怒りは今同じ方向を向いている。どうやって悪党が犯してきた罪に相応しい罰を与えるか、である。


「じゃあこれらも全部仕舞っちゃいますね。じゃあ地下に行きましょうか。」


 俺のこの言葉に二人からの全く返事が全く無い事が怖ろしい。二人して今何を考えているのかは知ろうとしない方が良いと俺はこれに判断する。

 黙って部屋を出てその場所へ俺は向かう。その後ろにはボウボウと燃え盛る炎を宿した二人。


 その広い地下空間で何が行われていたかと言うと。


「この外道めが・・・行方不明とした冒険者をこのように使っていたとはな。最低最悪とはこの事よ。」


 辺境伯はぎりぎりと怒りで歯を食いしばっている。目の前の光景はそれだけ許せ無いモノである様だ。


「強力な魔物と冒険者を戦わせるのを見世物として楽しむ。しかも、冒険者が勝てない、絶対に。そんな戦いが好みとは何処までも見下げ果てた趣味です。」


 そこは地下とは言え大分広くて頑強な作りになっていた。観覧席にはどうやら見物人を守るための魔道具が設置されているようだ。

 そこで大司教「たち」は安全にこの殺戮ショーを眺めて悦に浸るという仕様らしい。そう、「たち」である。

 マイレリムと言う奴はどうやらこのショーに「客」を呼んでいたらしい。


「貴様らも一緒か、この屑共め。ゲイリット大司教に、カマベル大司教。雁首揃えて良いご身分じゃないか?ええ?」


 辺境伯は観覧席に居た者たちを睨む。そこには太った者、痩せた者、頭頂部が禿げた者の三者と、それをそれぞれ護衛する者たちが一人づつ、合計で六名が存在した。

 護衛達はいかにも悪人面で、さも「俺たちも楽しんでます」と言った顔のまま固まっている。

 そう、俺はこの広い地下空間を調べた際にこいつらを固めておいたのだ。久しぶりの「魔力固め」である。

 こいつらだけでは無い。魔物も固めてあるし、ついでに冒険者も固めてある。余計な真似をして貰いたくなかったので。


 魔物は相当に強力な奴らしい。先ず体格がデカイ。地球上で確か地上に生きる動物で最大の身体を持つのは象だったか?

 しかしこいつはその二倍か三倍?は大きい。そんな相手をさせられているのが冒険者五名である。

 別段その冒険者たちの装備は劣悪な物ではないようだが、目の前にしている魔物には通用しないと即座に理解できる。


「ワニの顔に象みたいな体?だけどその足の爪はネコ科だし。背中にラクダのコブみたいなのもあるな。尻尾は鋭く先端が尖ってる。身体中にはどうにも細かい棘が生えてるし。全身を覆う鱗も頑丈そうだ。ヘンテコな姿だなぁ。」


 何て俺は呑気な感想を述べる。この魔物はどうやらずっとここで「飼われて」いたらしい。

 餌は偶に与えられる「冒険者」或いは別の何かだったのだろう。じっと冒険者たちへその顔を向けたまま固まっている。

 まだ殺してはいない。しかしどうにも直ぐにでも「殺処分」をしなくちゃいけなくなるだろう。こいつは未だにその性分を発露したままだ。

 殺す、自分をこのように動けなくさせたふざけた奴を嬲り殺してやる。そんな意志がこの魔物から発せられているのを「魔力固め」の魔力から感じるのだ。

 冒険者たちをもうこの魔物は無視している。自分が今動けない事も棚に上げて怒りで一杯なのだ。


(きっと自らよりも強力な魔物と対峙してきた事が無いんだろう。ぬくぬくと温室育ち、って所か)


 恐怖を知らない、自分よりも上を知らない。怯える事も、命の危機も危険も体験した事など無いんだろう。

 生存本能のアラームが鳴っていても聞こえないのか、或いはマヒしていて聞いちゃいないのか、どうなのか。

 最初からそう言った自らの命に係わる信号が壊れているといった可能性もあるかもしれない。


「おい!黙って無いで何とか言ったらどうだ!?」


 辺境伯がヒートアップする。今の俺たちは姿を消していない。だから今、観客席から真正面に見える入り口が視界に入っているので俺たちを大司教たちが認識できていないと言う事も無い。


「辺境伯様、だから言ったでは無いですか。エンドウ様が「止めた」と。多分、口すら開く事ができなくさせられていますよ、あれは。」


 ミッツが冷静に辺境伯に水を掛ける。まあ落ち着け、と。だから言っただろ?と。


「・・・どういう、事だ?ん?んん?よく見れば、は?何だ?動いていない?」


 どうやらここでやっと辺境伯は俺が言った「止めた」の意味を理解し始めたようだった。


「さっきから身じろぎ一つしていない?魔物も?冒険者も、か?」


 俺の魔力固めは強力だ。動きたくても動けないだろう。息だけはできるようにしてはいるが、それ以外は全て制限している。


「じゃあ取り敢えず、何からしますか?ここでの証拠は全部確保しましたし、冒険者だけ引っ張り出して生存者?被害者?証言者?何でも良いので保護する事もできますが。」


 別に内部の様子は俺にはここに来る前に分かっていた。だが辺境伯もミッツも中を見てみない事にはどう言った状況だったのか理解するのは難しかっただろう。

 こうして一部始終を確認したなら、ここはもう終わりにして別の大司教の屋敷へ移動でも良いはずだ。


 辺境伯が一緒に居れば何かしらトラブルがあった場合に権力があると何かと話が楽になると思っていたが、証拠集めだけなら俺とミッツだけで全部やれたのだ。

 証拠内容などの厳選をしたり確認等をして貰うために辺境伯を連行してきたが、今の所は全部証拠をマルっとインベントリに突っ込んでいるので、選別は後回しでも良かったのだ。いわゆる、辺境伯要らなかった、と。


「・・・先ずは魔物の処理が必要だろう。この様な凶悪な存在がこの地下にずっと居たのだと考えると、運が良かったのか、悪かったのか。」


 辺境伯はそう漏らす。この教会総本山のある都市でこの魔物がもし暴れたりでもしていたら、それこそ大惨事だったと言いたいんだろう。

 逃げ出したりしていればどうなっていた事か。それが今日の今日までこうしてこの地下から出てこずに大人しくしていたのは「運」だろう、と。


「じゃあ片付けますか。しかし、この魔物、高く売れますかね?うーん?俺、今回協力してますけど、ただ働きはイヤですから、コイツ貰っても良いですか?」


 報酬の話をしていないと俺は主張した。ミッツは自分の為として今回動いている。辺境伯は以前から教会の腐った部分を徹底的に潰したいと願っていた。

 そしてそれに協力をすると俺はミッツには言っていたが、別にタダで、とも言ってはいない。なのでここで俺はこの魔物を欲しいと願い出た。


「宜しいと思います。」


 ミッツはハッキリとそう言う。辺境伯をニッコリと見ながら。どうやら俺の求めを「すんなりと呑め」とミッツは辺境伯へと言いたいらしい。

 これに辺境伯は頬を引くつかせる。どうやら俺がこの魔物を始末できると思っていないようだ。しかしミッツがサラリとそんな事を言ってのけたのでどうやら驚いているらしい。

 だけども魔物が動かないのは俺の仕業だと、その点はどうやら「理解はできないが理解した」みたいな感じであるようだ。


「分かった。出来る事ならやってくれ。もう正直に言って私には何が何だか分からん。これまでの事が夢では無いともうハッキリと分かった。エンドウと言ったか。ここまでの事は全て君の力なのだな?ならば今後の事も全部任せる。」


 辺境伯からそう言質を貰う。ならばさっさと終わらせてしまおう。


「じゃあ魔物をサクッとやったら冒険者を一度辺境伯の屋敷に移動させて保護しましょうか。あ、そこの三馬鹿はふんじばって牢屋にでもぶち込んでしまいましょう。」


 その宣言と同時に魔物の全身は凍結した。もちろん心の臓も止めている。これ以上この魔物が他者の命を奪う事はもう無い。

 そのまま床に広がって行くインベントリの大穴の中へと「ストン」と落ちてその魔物はこの地下から消える。


「じゃあちょっと一度休憩しましょうか。冒険者に辺境伯から事情説明と口止めお願いしますね。一度屋敷へ戻りましょう。」


 俺はワープゲートを開く。冒険者たちは俺が「魔力固め」のまま魔力を動かして操ってワープゲートを潜らせる。

 辺境伯はこの光景に言葉が出ないようで目を見開いて固まっていた。その辺境伯の背中をミッツが押してワープゲートを潜らせる。


「あの三馬鹿はまだそのままでいいよな?うーん?どうする?お城の地下牢とかに突っ込んでおいてもらえるかな?王子様に相談か?いや、駄目だな。確か貴族たちに金をバラ撒いていたとかだっけ?」


 牢に入れてもその貴族たちにナンヤカヤ、牢から出るための手続きなどをされて出て行かれたら面倒だ。

 今はまだしばらくはこのままでいいだろう。

 大司教三人の意識はここにまだ残っていた俺に注がれているが、それを完全に俺は無視してワープゲートを通った。


「まだしばらくは面倒な時間が続きそうだなあ。」


 俺はそんな事をぼやくのだった。

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