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興味のある場所

 さて、罠は俺が解除したので安心して進む事ができる。通路のそこら中に残骸が転がっている事に三人は流石に俺のやった事が現実であると言う事を認識したようだ。

 三人と言ったのはミッツが別段驚いたりしていなかったからだが。


 それでもラディは他に残ってしまっている罠が無いか確認を怠らない様にして先頭を進んでいた。


「魔物に出くわさないな・・・エコーキーくらいは出てきてもおかしくないはずなんだが・・・」


 その魔物と言うのは説明を聞いただけだと俺のイメージでは巨大な蝙蝠と言う事だった。

 でもここまで罠が発動していれば異変を察知して逃げ出したのではないだろうか?

 しかしこの考えを否定する現実をラディは口にする。


「ここまで大量の罠が即、発動したんだろ?この場にいたかもしれないエコーキーが巻き込まれているはず。でもそれらしい残骸やら形跡は無い。すると・・・」


 ビッグブスと同じような事がエコーキーにも起きている可能性があると指摘する。


「どうやら異変が起きていた、って言うのは確実性が高くなったな。余計に下層に入らなけりゃいけない理由が大きくなったな。」


 カジウルがそうポリポリと後頭部を掻いて呟く。マーミはこれに付け加える。


「確か、地図にはこの先に同じような広場があったわよね。・・・おそらく、そこに集まっているんじゃないかしら?」


 マーミの推測は当たっている。俺の脳内マップには百近い赤点がそこに密集しているからだ。

 低階層にはビッグブスとエコーキーと言う魔物が居ると言う事だったので、多分あっているだろう。

 より正確に赤点の様子を捉えるには俺が直接その魔物を見ないと駄目である。

 話に聞いただけでもある程度は識別ができるのだが、しっかりと百パーセントでの情報は自分で体験してみる事でしかマップに表示されない。


「マーミの言った事は合ってるみたいだ。この先の先程と同じくらいの広場にザっと数えて百はいる。どうする?先に進む?」


「・・・おい、何でそんな事が分かる?俺の役目が・・・なんて言ってる場合じゃ無いな。信じるぜ。で、カジウル、どうするんだ?」


 ラディは俺に文句をつけるのを止めてカジウルに話を振った。

 カジウルもマーミもラディも顔に皺を寄せてこの先をどうするか悩んでいるようだ。

 ミッツだけは別段表情を崩さずに静かである。


「最初に決めた行ける所まで調査、ってヤツだな。んで、エンドウ、すまないが・・・まあ、あれだ。お前だけに頼らなければならん今の現状は少々心苦しいが・・・」


「あー、やるよ。別に気にする事じゃない。俺たちはパーティーなんだろ?だったら力を頼られても別に悪い気にはならないから。むしろ、頼り頼られ、自分の役目を全うするのがパーティーって奴だろ?」


 俺はこれに気にするなと言っておく。


「でもさ、今日は連携も確かめたかったのよねぇ。エンドウの力がこんな「常識外れ」だとは思わなかったのよ。あーあ、ホント、私たち何してんだろね?」


 マーミはどうやら見込み違い、しかも遥か斜め上どころじゃない結果にお手上げだと言いたいようだ。


「いいえ、私たちは今伝説を目の前にしているのです。この目で、耳で、身体中で感じているのです。コレを幸運として何を幸運と呼ぶのでしょうか!?」


 ミッツは何か危ない宗教にでも入信しているのかと言いたくなるくらいに俺を見てくる。ハッキリと言おう、コワイ。


「じゃあ、行こうか。取り合えずその魔物は何処を残せばいい?」


 何処の部位が有用な素材なのか、その場所に着くまでに聞いておいた。

 どうやらその巨大な翼膜が素材として高値らしい。肉は食べられないことも無いらしいのだが、それ自体は別に一匹から取れる量が少なく、そして美味しいモノではないらしい。いわゆる価値が無いそうだ。

 俺は逆にそこに興味が湧いた。美味しくないのであれば美味しくできないか?と。

 大体そういった肉と言うのは調理次第、香辛料次第で美味しく食べられるように化けると言う印象がある。

 なのでその部位も一応取っておきたいから食べられる肉の部分をついでに聞いておいた。


 こうしてそのエコーキーと言う魔物がいる部屋の目の前で止まる。

 ラディに俺に部屋を覗くようにと指で合図を受ける。それは要するに様子を見ろと言っているのだ。


「あー、完全にこうもりだな、巨大な蝙蝠。ふーん、で太腿の部分が肉厚で、それ以外の部分は骨ばっかりと。」


 このエコーキーとやらは攻撃が脚での引っ搔き、そして噛みつきであるそうだ。

 逆さで天井につり下がっている。まさに蝙蝠である。その天井のどこに足の爪を引っかける部分が?と言いたいのだけれどそこに突っ込むのを止めた。

 天井はツルツルで何処にも引っかけて身体を支えられそうな所は無いのに逆さ吊りなのに驚きはしたが、この世界には魔法が在るのだ。そう言った事も可能なのだろう。そう納得した。


 で、確かにその脚は太く、鈎爪は鋭い。それが身体に食い込めば裂創になる事間違いなし。

 それが一斉に百もかかってこられたら確かにこちらには為す術も無い。

 身体中が掻き切られてしまい、最悪ソレだけで死ねるだろう。そうじゃなくとも時間と共に攻撃を受け続ければ失血死しかねない程の数である。

 空を飛ぶ存在はソレだけで厄介であり、倒し辛い。まともに正面から行くのは馬鹿である。

 こいつらへの対処も流石に四人はしてきただろうが数が数である。対応が不可能なのだ。

 だからここで俺の出番である。


「全てやってしまって構わないんだろ?」


 この一言にカジウルが「やっちまってくれ」とゴーサインを出したので俺はビッグブスをやった時と同じ方法で片を付ける事にした。


 で、結果も同じである。あっと言う間に天井に氷が広がり、エコーキーの脚まで凍らせ、そこからやっぱり胴を貫く氷の槍が刺さる。しかも今回は脳天まで貫通させた。

 で奴らは逆さ吊りである。血抜きは簡単だ。そのまま放置である。

 暫くもしない内に一匹残らずビッグブスと同じ道を辿ってエコーキーは全て死亡した。

 流れ出た血の処理も血臭も同じように処置をする。こうしてその広場の安全を確保した状態で俺たちはその中に入った。


「ねぇ?どうするの剥ぎ取り?これじゃあ手も足も出ないけど?」


 天井は高い。五メートル程の高さ。エコーキーは体長一メートル程。どうあがいても剥ぎ取りはできない。そのままでは。

 しかし俺が魔力を込めれば簡単だ。パキリと音が鳴ったかと思えばマーミの途方に暮れるその顔の前に獲物はばさりと落ちてくる。


「ちょっと、びっくりするじゃない!落とすなら落とすって言ってよ。」


「あー、コレ全部一気に落とさない方が良いよな?順番に落としていくから随時剥ぎ取り宜しく。」


 俺はこうして四人それぞれの目の前にエコーキーが落ちるように氷を割る事に気を配って凍った天井へと魔力を流していく。


「よし、じゃあ剥ぎ取りタイムと行きますか!これだけの素材の数だ。やっぱり一気に売るのは・・・マズイな。」


 カジウルがそう言って翼膜を傷つけないように丁寧に剥ぎ取っていく。

 他の三人も同じように翼膜を時間を掛けて専用ナイフで切り落とす。

 全てが終わるのに時間が掛かった。流石に百は居たのでソレだけでかなりの時間を費やされた。

 それと同時に俺は翼膜を剥ぎ取られた個体の太腿を魔力を流して分離させてインベントリに放り込んでいた。

 もちろん剥ぎ取った翼膜も同時に入れて行っていたが、それでも大分時間のかかる作業だった。


「ようやっと終わりね。ふぅ、コレで最後っと。あー、腕も腰も痛いわ。ねえ、今時間は?」


 これにラディが懐から懐中時計らしきものを取り出した。そして時間が夜だと言う事を告げる。


「今、二十の刻だ。ここで休息にしよう。続きは明日だな。じゃあ飯にするか。」


 これにミッツがカバンの中から携帯食料を取り出す。干し肉のようだ。それとちょっと大きめの水筒の様なモノを取り出した。


「お水は大体三日分くらいでしょうか?この先どれくらい潜るかは少々計算をしなおさ無ければいけないですけど。どうします?」


 どう考えてもこの人数で三日も持つであろう量が入っているとは思えない水筒である。

 それを疑問に思って水筒を凝視しているとミッツが説明をしてくれた。


「エンドウ様はコレを知らないご様子。ならば私が説明を致しましょう。こちらは冒険者必須の水魔石入りの水筒です。あらかじめこちらの中に入っている専用の魔石に魔力を込めておけば水を一定量づつ精製する代物で、こうして何日もダンジョンに籠る事をする冒険者には必須の道具です。まあ少しお高いのですが。」


 これでどうやら謎が解けた。この説明の通りなのだろう。水の確保に何か仕掛けがあるのかと思っていたが魔石などと言う物が存在する事を初めて知った。

 人の一日の必要水分量はかなりのものだ。それを補うのに荷物が少ないと思っていたらこう言う事だったのである。種を知ってしまえばどうと言う事も無かった。

 しかし滑稽である。この世界で賢者などと言う存在がどういったモノかは知らないが、そんな存在が魔石を知らないとなれば笑い話である。

 しかし、知らない物は知らないし、俺はそもそも冒険者の事を知らないのだからおかしなことでも無いのだろうが。


「それって魔力を込め直せるのか?だったら水の心配はしなくてイイのでは?」


 俺が疑問に思った事を口に出すとラディが否定を述べる。


「いつどんな時に魔力が必要な場面が出るか分からんからな。それが生死の判断を分ける事もある。水の分の魔力を補填したせいで、いざという時に魔法が使えないなんて事になれば死活問題だからな。予定通りの水分で計画を立て、無くなる前に撤退だ。それが基本だ。無理をすれば死ぬ。それが冒険者だぜ。まあ、お前さんには関係無いか。」


「ああ、そうだな。確かにそうだ。」


 俺はそう答えながら料理の準備をする。その行動に四人が「ぇ?」と俺を見つめてくるのだが、はてどうしたものだろうか?


 俺は魔力をダンジョン内へ足から流し、床からシステムキッチンを創造する。蛇口完備、もちろん出てくる水は魔法でだ。

 もちろん調理するのは蝙蝠の太腿である。あんまり美味しくないと言う事なので、あの森の家の周囲で取れた香草を一緒に調理をしてみる事にした。

 最初に肉に魔力を流し表面の皮を剥ぐ。そしてさっと水で表面を洗い良く水けを飛ばしておく。

 次には香草をみじん切りにして香りを出し、それを下拵えした肉へと擦り込む。

 それを良くなじむように魔力で程よく圧縮し、肉の繊維も柔らかくなるように魔力を流す。まるで筋繊維がプチプチと細かくちぎれるイメージを流すのだ。コレで硬くて食えぬ、と言った事は起きないだろう。

 塩コショウを塗し、フライパンで焼く。もちろんこのフライパンもダンジョンの床から生成した。

 キッチンは森の家にある物と同じにしておいた。なのでガスでの調理だ。以前一度作り出した物ではある。二度目は簡単に生成できた。

 魔法で風の流れを作り熱を逃がすと同時に空気の流れを作って換気に注意する。


 こうして充分に焼けて火の通ったエコーキーの太腿香草焼きはスパイシーな香りをさせて完成した。

 五人前である。四人の分も作っておいた。何せこれが不味かったら俺が責任をもって処理しなければならないのだから道連れは多くなくては。

 とまあこうして俺が料理をしている間、四人はソレを見ているだけで手伝ってくれるとか、皿を準備してくれていたりとかしないで、ただ唖然と俺の行動を眺めているだけだった。

 これには料理が出来上がって気が付いた。


「やり過ぎだったか・・・師匠に何も言えねえな。俺も大概だ。でも後悔はしていない。これからもコレで俺は行く。」


 皿も作り出し、ソレの上に一切れづつ肉を乗せて全員に行き渡らせる。

 正直、俺はこの香りに腹が減りまくっていたので早速肉に齧り付いた。四人が俺の事を見つめる視線をものともせずに。


「・・・美味い!いやはや、結構ありきたりなアイデアだったけど、やっぱり臭みを香草で潰すのは鉄板だな。筋繊維を潰して柔らかくしておいたのも正解だった。コレは今後ともやっていこう。あ、もう食い終わちまった。もう一枚焼くか。」


 こうして二枚目を焼こうとしている俺にようやっとカジウルが肉を一齧りして驚愕に目を見開いていた。


「嘘だろ・・・なんであんな「食べられないことも無い」肉がこんなにも「美味くて仕方が無い」に変わるんだよ・・・うま!うま!美味!」


 この毒見を見てからマーミが肉を齧る。


「驚く以外に何も言えないわね。こんなの食べた事無いわ。美味し過ぎでしょ。どうなってんのよ・・・」


 静かに、しかし一口づつ味わって食べ始めるマーミ。ラディもそれに続く。


「これ、商売にできるぞ。エコーキーなんて幾らでもいるしな。安上がりで肉を仕入れて、高く売れるぞ?手間も要らない。元も掛からんこれなら。・・・しかし、普通の調理人じゃ再現は・・・不可能か。」


 一口齧りついてその美味さにラディは商売を思いついているが、どうやら再現できないと判断して断念するようだ。

 ミッツはと言えば。


「美味しいです。まさかダンジョン内でこんなに温かくて美味しい肉料理が食べられるなんて夢でも見ているようです!さすが賢者様!」


 もうミッツは俺の事を賢者扱いだ。賢者の何が凄いのかの中身がイマイチ俺は理解できていないので、ミッツのこの感動がどれだけの大きさなのかは察する事ができない。

 この様な反応をこれからもされると思うと逆に引く。


 こうして夕食を終えた俺たちは今度は見張りの役の順番を決める会議になった。


「はぁ~食った食った。アリャもう忘れられない味になっちまったぜ。今度また作ってくれないか?明日の朝も俺はアレで良いぜ。」


 カジウルは余程あの香草焼きが気に入ったようだ。マーミは別の事を言う。


「もっといろいろと別の料理もできそうよね・・・何かいい案ある?他のも食べてみたいわ。」


 肉の感想を口にしてばかりで順番決めが先に進まない。

 なのでもうメンドクサイので俺が入り口側と出口側を壁で塞いでやった。

 空気の循環をさせないといけないので洞窟の天井に換気扇を作り出しておく。もちろんここは地下なので換気口を地上までつなげるのに相当な距離がある。魔力を結構使う事になったがそれ位どうって事無いと言えるくらいに魔力の余裕はある。


(そう言えばどれくらい俺の用量はあるのか?数値でハッキリと確認してないからなぁ。師匠に止められたし)


「おい、お前はどういう了見で出入り口を塞いだんだ!これじゃあ窒息しちまう・・・オイ、何だアレは?天井に何か・・・」


 ラディは俺に文句をつけてきたが、天井に回る換気扇に気付いたようで絶句する。

 換気扇は二つだ。一つは排気、もう一つは吸気である。循環しやすいように入り口側には吸気、出口は排気と距離を開けて作っておいたのだ。


「コレは・・・どこまで続いているのですか?まさか・・・」


 風の流れを感じてミッツが気付いた。しかしその後の言葉を閉じる。


「これで外敵からの心配は無くなって換気もできて皆で眠れる。さあ、もう睡眠を取ろうか。」


 俺はもう自分が規格外だと言う事を気付いている。師匠やクスイの反応だけでは何となく、と言った具合だったが。

 こうしてサンプルになる他人の反応の数が多くなれば普通に自覚する。

 それを俺が気にするつもりが無いと言った結果は付いているが。四人の唖然とした顔を気にしないで俺は休息を取ろうと口に出す。


(便利なんだからこれくらいは良いだろう。まだまだ「人で無し」と言われる限界値まではゲージは振り切っていないはずだ)


 そう言った他から拒絶される事は俺は望まないので本当に「ヤバい」と思われる行動は慎んでいるつもりだ。

 そう、このダンジョンの最下層まで俺の魔力で満たしてしまうとか。そのままの勢いでダンジョンのヌシを討伐してしまうとか。

 でも、もうソレは遅かったらしい。既に四人の中では俺は「人外」扱いである事を俺はこの時は知らなかった。

 ソレもそうだろう。この世界の魔法使いと言うものを俺はよく知らない。だから、このようなマネを魔法使いの誰ができると言うのか?と言った感想を四人が持った事が俺には想像できなかった。

 辛うじて師匠ができそうとも思えるのだが、宮廷魔法使いでも無理だ、という感想が四人の心の中に浮かんでいる事も俺は知らない。


 せっせと床にシーツを敷き、そこに俺は横になった。もう俺は満腹で眠気に逆らう事ができないでいたのだ。

 だから見張り順を決める時間も惜しかったのでこのようなマネをしてしまった。まるで子供の我が儘であるが、眠気には勝てないと言う物だ。後悔は無い。

 こうして俺は何の警戒心も心配も無く眠った。


 翌日である。とはいってもラディに起こされた事で目が覚めたので俺には今何時と言うのが分かっていないのだが。

 この世界は二十四時間である。何処までもそこら辺が俺にとって都合がいい。

 ならばそこら辺を今更気にする必要なんてない。とっつきやすいのだからこの世界の法則に。


「今何時?そうね大体ねー、ん。五の刻ね。」


 寝起きで真っ先に時間を聞いた俺にマーミは答えてくれた。

 どうやら俺が最後に起こされたらしい。そして見張りの件なのだが、どうやら俺が寝入った後に決めたそうだ。

 しかも俺に順番を回さないと言う形で。


「何で俺の事を?起こしてくれりゃやったのに。皆もその分睡眠時間は取れただろ?つうか、入り口出口共に塞いだんだから侵入者なんて現れる訳無かったんだし、寝ちゃえば良かったんじゃね全員?」


「ああ、その点は警戒しないで見張りができる事はスゲー助かった。しかしな、異常が起きた場合の対処の為にゃ誰か一人は最低でも見張りに立てにゃならん。それは分かるだろ?」


 コレは確かに俺の危機意識が低いと言わざるを得ない発言だった。


「あーなんか、ごめんな。そこら辺は考えて無かった。確かに、ここはダンジョンで、いきなり何だ?変動って奴が起こり得るんだったか。すまない。」


「良いのよ。だってこうして気楽に見張り番ができるってだけでもかなり精神的負担が減るからね。」


 マーミは慰めてくれる。ラディはそれに続いて言う。


「エンドウには活躍して貰ったからな。正直、お前がいなけりゃ何もできなかったしな。まあ最初からお前をパーティーに入れる事になったからこのダンジョンに今俺たちは居る事になっているんだけどよ。」


「今回の収入は全てエンドウ様がいたからこそですから。これくらいの事は私たちが担当するのは当たり前です。」


 ミッツが付け加えてそう言ってくれた。


「ならこの後も何かあったら俺が全部対処するよ。正直、睡眠はしっかりと取りたい派なんだよね。」


 俺は冗談交じりでそう答えた。ぶっちゃけそんな事は無いのだが、ここで真面目に落ち込んだり慰められて持ち直したりとする様な馬鹿真面目な部分はあいにくと俺の中には無い。

 だからアメリカのホームドラマコメディ調でそう言葉を返したのだが。


「そうか、分かった。この先も俺たちの手に負えない事が起こる可能性しかない。頼らせてもらうとしよう。」


 カジウルがクソ真面目に俺の言葉を受け取っている。


「朝食にしよう。腹が減ってちゃいざという時に力が出せないからな。」


 ラディは飯にしようと口にする。


「賢者様が居られればどのような困難も打ち砕かれてその絶望は姿形さえ消滅するでしょう!」


 ミッツがまた何か叫んでいる。もう正直彼女に近寄りたくない。


「さ、準備しましょ。っていうか、エンドウ?コレ、どうするつもり?」


 これとはシステムキッチンである。この広場に出現させたのはあくまでも昨日のエコーキーの調理のためである。ならば朝食を作って後は用無しだ。その事にマーミが言及してきた。


「え?これ別に置いて行っても構わないけど?別にいつでも作り出せるし。」


「しまえないの?あのほら、エンドウの例のアレに。」


 ここでマーミはインベントリの事を振ってくる。別にソレに入れて持って歩くほどの物では無いだけだ。俺にとってコレは。

 だからどうしてそんなことを聞いてくるのか俺には分からなかっただけで。

 四人にとってはこの機能的なデザインがどうやら価値のある物として映っていたらしい。なのでここで放って置かずに持ち帰りたいらしいのだ。


「別に何の負担にもならないから持って行っても良いけど?」


 こうして昨日と同じ香草焼きを作って朝食を終わらせてダンジョン探索の続きを再開した。


 とは言え、一階層、二階層、と続く通路で魔物と遭遇する事は無かった。

 あれだけの数を一日目で片付けてしまったので仕方が無いと言えばそうなのだが。

 そもそもあんな広場に一種類の魔物が詰めている事がそもそも異常を知った切っ掛けだったので、こうしてその大本を探すのに余計な戦闘で疲労を重ねないで済む事はある意味幸運だ。


「まあ、出入り口を塞いだんだから逆も当然出来るって訳だよなぁ。」


 カジウルはそう言って己の剣を見つめる。あの広場を出るために俺が出現させた壁を剣で叩き割ろうとしたのだ。

 しかしその前に俺が魔力を流して壁を消した。消したと言うよりも元に戻したと言えばいいか?

 ダンジョンの床から生成したので、それの逆をしただけである。

 ここはダンジョン。ヌシと呼ばれる最奥にいる魔物の魔力が満ちている場所だ。

 そこへ俺が直接魔力を流して横入りした形になるだろうか?壁を作った際にちょっとだけ抵抗を感じたのだが、ホンの少し魔力を流す量を増やしたらあっと言う間に通ってしまったのだ。

 多分アレがそのヌシの魔力だったのだろう。壁を元に戻すときは何も感じなかったが。


「とりあえずは、五階層までは魔物は出ないと思うわよ?目撃情報も、狩猟した魔物も五階層まではビッグブスとエコーキーしか無かったはずだし。」


 マーミはそう調べた情報を教えてくれた。


「それでも警戒は怠るなよ?・・・とは言え、もう既にエンドウは何がダンジョンで起こっているのか把握済み・・・なのだろ?」


 ラディはそう言って俺へと視線を向けてくる。先頭に立って残った罠が無いかどうか警戒をしながら。器用である。


「ああ、えーと?六階層へと続く階段?前に一頭デカい奴がいるな。たぶんそいつが、じゃないか?」


「その魔物の詳細は分かったりしませんか賢者様。」


 ミッツが俺の事を賢者様呼ばわりで固定していくつもりらしい。正直勘弁なのでそこを変更してくれと俺は頼んだ。


「なあ?俺を賢者なんて呼ばないでくれ。エンドウでいい。俺は冒険者のイロハを知らない。そんな俺なんだ。賢者なんてご大層な言われ方をされるような歳でも無いよ。世間知らずなお子様さ。まだ俺は。」


 この俺の言葉にミッツは闇?病み?発言で返してきた。


「そのような事はできません!賢者様の素晴らしさはもう幾度も幾度も本で読みました!ソレはもう本がボロボロのぐっちゃぐちゃになる程に!そんな素晴らしい賢者様をどうして呼び捨てになんて出来るでしょうか!いいえ!他の誰かが許しても!例え賢者様ご本人がそう願っても!私は絶対に!あぁ・・・賢者様!」


 これには俺以外の三人も足を止めてドン引きである。その感情に直接さらされている俺はもっとドン引きどころの騒ぎではない。


「あー、賢者呼ばわりは、目立つよね?で、そう言った目立つ事はより危険に巻き込まれる可能性を秘めている。分かる?悪事に俺を利用とする者が近寄って来たり、あるいは俺を害そうとしてくる者が出て来たりと言った具合だ。そんな面倒事を俺に背負わせるつもりなのかい?そんな事を俺は望んでいなんだけど、そんな嫌な気分を味あわせるために賢者呼ばわりするつもりなのかな?」


 この俺の攻め込みに「むぐっ?!」と言葉を詰まらせたミッツ。

 どうやら直ぐに賢者様呼ばわりは俺への迷惑になると理解してくれたらしい。

 ここで俺はもう一押しする。


「そういった「賢者」なんて言う存在は密かに存在しているからこそだろう?世の中がそう俺を呼ぶようになれば俺は動きを制限される。注目の的だ。そう簡単に俺のやりたい事ができなくなる。俺を世の中に縛り付けて何もさせないために賢者様呼ばわりをするつもりなのかな?」


 ミッツはここでまたしても言葉に詰まり「ぅぐ!」と短く呻いた。

 そこまで賢者様呼びしたいのかよ・・・とツッコミを入れたくなる所は飲み込んで俺はミッツへ止めを刺す。


「これから先もまだ賢者様と呼ぶのなら俺はこのパーティーから抜けさせてもらうよ。短い間だったが、勉強になった。ありがとう。」


 そうニッコリと笑顔を向けるとミッツは陥落した。


「・・・せ、せめて、エンドウ様と呼ばせては頂けないでしょうか・・・」


 小さく消え入るような声でそう絞り出したミッツは土下座状態。

 何を以てして彼女はここまで俺の事を様付けで呼びたいのかが理解できないし、理解もしたくない。

 土下座までするミッツに今までこの四人でやって来たであろうはずのカジウル、マーミ、ラディはドン引きを通り越して何か悟りを開いたかのような顔になっていた。


 仕方が無いので様付けは許したが、今後一切俺の事を賢者呼ばわりしない様にと釘を刺しておく事も忘れない。

 これには「ぅぐう・・・ひどいでしゅ賢者様・・・」と、俺に聞こえないようにミッツは小さい泣き声で呟いていた。


 俺はソレがしっかりと耳に入っていたのだが、あえてスルーした。

 そう今の問題はミッツの機嫌の事では無く、六階層に続く階段前広場に居る魔物の事である。

 その魔物の事を俺は知らないので「一度見てみないと分からんな」と言ってそのまま先に進む事を口にした。

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