お次は教会問題をピックアップ!
腹に深い刺し傷。それを俺はパッと塞いでしまう。当然魔力を被害者へと流して傷回りの細胞を癒着させるのだ。
多少内臓の方も刃が食い込んでいたらしいのでそちらもしっかりと治療を施しておく。
そうなればもう終わりだ。失った血はちょっとだけ多いかもしれないが、安静にしていれば回復は早いだろう。
「顔は出したくなかったが、まあ、誰も何もしていないのに、いきなり逆再生みたいに勝手に刺し傷が塞がって行ったりするよりかはいいだろ。はい、お終い。」
俺は被害者の傷の上に手をかざして治療をしている「風」に見せた。いや、実際に治療をしているし、その様なアクションは起こさずとも良いのだが。これは周りで見ている野次馬にも分かりやすくしておくためだ。
いや、野次馬に分かりやすく、何て事はしないでもいいはずだったが、ついそんな事を思ってしまう。
「あんたスゲエな!さぞ高名な神官様なんだろ?こんな深い傷を一瞬で治しちまうなんて!」
被害者を介抱していた一人がそう俺に声を掛けてくる。
「いや、俺は神官じゃ無いよ。・・・ここの教会は治療を行ってくれないなんて命を何だと思っているのかな?時間?人の命に係わる事に時間も何も無いだろうに。寧ろ命に係わるならば時間は掛けない方が良いはずなんだがな?」
俺はワザとらしくそう大声で言う。コレはまたしても教会への嫌がらせだ。そしてミッツの将来やりたいと言っている「治療院」の為の布石でもある。
まあ布石だなんて偉そうな事を言っても、コレが役に立つのか、立たないのかはその時になって見なければ分からないが。
そう、俺はここで神官じゃないと言った。神官、神の奇跡を受けずして治療ができる。人は神へと祈らずして人体の神秘に触れる事ができると、命をこうして助ける事ができると大っぴらにした。
だが俺が神官などでは無いと言ったにもかかわらず、周りに集まる野次馬はソレを信じた様子は無い。
(まあこれも別に今!って程の急ぎでも無いしな。ゆっくり行くべきだな)
ミッツにはまだ早いと言っておきながらこうした大胆な事をしてしまっていては説得力が無くなる。今日はここまでだろう。
今は逆に寧ろ教会が「命を蔑ろにしている」と言った不満が野次馬たちの中に広がっていた。
「神様ってのは時間で人の命を平気で奪うんだな。診療をする時間がもう過ぎたから絶対にどんな人物も診ない?命が危うい者にも救いの手を差し伸べない?ソレはそれは意地の悪くて狭量で傲慢な神官様だな?」
俺の煽り文句は野次馬たちの中に余計に油を注ぐ。最初は小さな不満が爆発してヒソヒソとした小声での文句だったのだが。
ソレは俺が入れた油によってどんどんと燃え広がって行く。広範囲に。さて、教会はどれだけ今まで住民たちに不満を溜めさせていたのだろうか?
教会が治療行為に何ら壁などを作らずに親切丁寧に真摯に患者と向き合っていたならばこの様な燃え広がり方はしなかったと思うのだが。
どんな世界にも医療問題と言うのは存在するのだな。そんな感想を俺は持った。命と向き合う、それはどんな時でも難しい。
(教会への嫌がらせはこれくらいにしようか。後は皆さんで考えてください)
無責任、これだけ住民たちを焚きつけておいてそれ以降はフォローもしない。教会なんかよりもよほどタチが悪いこれでは。
でもそれだけこの都市の住民たちを爆発させる程の不満を溜めさせていた教会が悪い。因果応報か、自業自得か。
この時点で俺は魔法で姿を消して気配も消してその場を立ち去る。人込みの丁度反対側に裏路地にでも繋がるのだろう人気の無い道があったからそちらへ進む。
きっとこの道を通って犯人は逃げ出そうとしたんだろう。しかしその前に勇敢な者に捕縛された。良い事である。
もし犯人が捕まっていなかったら、追加でソレを捕まえるというのを俺がやる事になっていたに違いない。
(余計な仕事が増えなくて有難いよ。今日はもう飯を食って寝たい)
俺はワープゲートで城下街の方へと移動してさっさと宿へ入る。手続きをさっと済ませて夕食を頼み、そこで食事を摂ってその後は部屋のベッドに飛び込んで直ぐに眠った。
そして翌朝。今日の予定はマルマルの冒険者ギルドにて録音をダビングしたモノを受け取って王子様の所に行く日だ。
昨日と同じ宿を取っているので今日の朝食は、スペシャルなアレでは無い。普通のモノを頼んでおいた。
スープにパンにサラダに肉。至って普通、滅茶苦茶普通。コレにホッと息を吐き出した時に食堂へとマーミが現れた。
「あら、エンドウ、おはよ。んん~!良く寝たわ。」
「上機嫌そうだけど、どうしたの?」
珍しくマーミは朝からニコニコしている。それが不思議で聞いてみたら。
「あら、この間アンタが出してくれたアレあるでしょ?マクリールにずっと勝てなかったんだけどね、やっと昨日一勝したのよ。もうやんなっちゃうわ。」
嫌になると言っておきながらマーミはやっともぎ取った一勝が随分と嬉しいようだ。
「それって手心を加えられたとかじゃ無く?師匠の本気に勝ったのか?」
師匠がしつこいマーミに対してワザと負けたんじゃないかと思って俺はツッコむ。
「アンタ・・・嫌な事言うわね。気分いい所に水を差すような事言わないでくれない?あー、気になってきちゃうじゃない。・・・もう一戦しておこうかしら?」
マーミはそう言いつつ運ばれてきた自分の分の朝食を食べる。
「今日も俺はあちこち回って来るよ。また暫くはダンジョン都市で用事が出来たからそっちに行ってるけど、皆はどうするの?」
「んー?それぞれ個人でよろしくやってるわよ。エンドウはエンドウで自由にしたらいいんじゃない?って言うか、何よ?用事って?」
俺はマーミにそう聞かれたのでダンジョン都市での教会の事を話す。すると。
「いつもいつも厄介で面倒な事に相変わらず首を突っ込むのね、アンタは。まあ、知っちゃったら放って置けない、って言うのは解るけどね。ホドホドにしときなさいよ?いつもいつもエンドウはやり過ぎるんだから。・・・まさか昨日も何か過ぎた事をしてきたんじゃないでしょうね?」
マーミから鋭い突っ込みを入れられた。じろりと俺を睨むマーミのその眼力に負けて俺は昨日の事をゲロる。
そう、最後に俺が治療したあの強盗に致命傷を受けた被害者の件を。そうするとやはりマーミから突っ込みを頂く。
「アンタは・・・あのねぇ?確かに見捨てられないだろうから、それは良いけれど、もうちょっとやり様があったんじゃないの?アンタの力があればさー。まあ、その場に私は居なかったから何とも言えないけどねこれ以上は。」
「いや、まあ、おっしゃる通り。でも、緊急事態だったからさ。教会の対応の方も許せ無い事ばっかで、その点で少し頭に血が上ってたのかも。うん、ちょっと反省。」
こうして朝食を食べ終えた俺は先に宿を出てマルマルの冒険者ギルドへと向かう。いつものように人気の無い場所からワープゲートで即、移動である。
ギルド内へと入って受付へと要件を伝えると直ぐにギルド長室へと案内を受けた。受付はどうやら俺が来たら直ぐに案内をしておくようにと言われていたようだ。
ギルド内は冒険者が多く見られた。それなのに俺の用事を最優先と言った感じである。訝し気な目で冒険者たちが俺を見て来る。
そんな視線を後ろに俺は部屋へと案内されて直ぐに中へと入る。
「来たわね。準備はできているわ。取り敢えずもう一度確認の打ち合わせをしておきたいのだけれど。」
ミライギルド長はそう言って書類との睨めっこから顔を上げて俺を見る。
「はいはい、分かりました。えーっと、確かギルドの方で粗方やってくれるんでしたっけ?」
俺とミライギルド長はソファーに向かい合って座る。
「冒険者ギルドの方はこちらで全部やるわ。それから・・・貴族の方は国がやる。それで良いのよね?貴方がもう殿下へこの内容は聞かせてあると言うし、任せるわよ?それで、教会の方はそっち持ちにしてくれないかしら?」
「おや?冒険者ギルドの方で何とかできないですか?どうにもダンジョンから帰還した怪我をした冒険者をちょろまかして奴隷として処理してるって事だし、そっちで何とか食い込めないんですか?」
「できる事はできるけどね。教会関係者から直接この録音内容を告発として出した方が効果が高いわね。つむじ風に居るでしょう?ミッツが、ね。彼女に教会本部へとコレを大々的にぶち込んだ方がより大打撃になるわよ。あっちも大分「腐ってる」ってのは良く聞く話よ?」
どうやら教会にも大規模な「メス」を入れるのに良い機会、良い切っ掛けとなると言う事らしい。
「それならそれ用の分は複製して貰ってあります?ミッツに後で渡しておきます。」
どうやらソレは用意はされていたようだ。テーブルにギルド長が三つの黒いキューブを並べた。
「こちらから申し出た事だしね。もう用意はしておいたわ。後は・・・時間との戦いかしら?」
「あ、それならもう向こうは粗方終わってるって言って良いかもしれないですね。多分ダンジョン都市の方のギルド長は捕まってますよ、昨日に。」
「はぁ?」
俺は昨日あった事を説明する。するとミライギルド長は大きな溜息を吐いた。
「それならそこまで急がないでもいいわね。そうなれば・・・向こうの件は代官との調整が必要って事くらいかしら?・・・急がなくても良くはなったけれど、それの話し合いの調整に時間が取られるわね。あー、もう、アレが片付けば次はコレ、お次はソレって・・・体が持たないわよ。」
うんざり、多分そんな心境なんだろう。だけどもここが踏ん張る所だと言うのをちゃんと分かっている。ミライギルド長は大きく息を吸って立ち上がる。
「それじゃあ俺もコレ持って行っちゃいますね。また何かあったら連絡します。」
俺もソファーから腰を上げる。そしてテーブルに並んでいるキューブを手にしてさっさと部屋を出て行く。
いや、出て行かない。ワープゲートを出して直接このまま王子様の所に向かう。
「冒険者たちの目が鬱陶しかったんでこのまま出て行きますね。」
俺のこの行動にギルド長は疲れた感じで苦笑いをして手を振って見送りをした。
そして王子様の私室だ。そこでは朝食を摂り終わってお茶をゆっくりと楽しんでいた王子様がソファーでくつろいでいた。
「早いですね。それじゃあ、仕事と行きましょうか。」
「いやー、なんだか迷惑かけてるんだか、助けてるんだか、ちょっと分からなくなってきたねぇ。」
俺はそんなボヤキを口にする。この問題はそもそも俺が動かなければこうして表層に現れなかった犯罪だ。
国としてはこうして出て来た問題を知って対応しない訳にはいかないので動く。それを俺は手助けしている形になっているはずだ。
しかし心労や、もしくは仕事を増やしたという面で言うと、迷惑を掛けていると言ってもいい。
「それじゃこれ二つ、渡す分ね。それと、聞きたいんだけど。そっちから教会への圧力とかは掛けれたりするのか?こんな事があった訳だし、国がしっかりと教会を抑え付けるとかは?」
俺は王子様がこれからどのように動くかを聞く。しかしちょっと王子様は自棄気味に言う。
「国王陛下と他の高位貴族共にそこ等辺は丸投げするよ。この音声を大々的に発表した時にはもう既に犯罪に関わった貴族たちは捕縛されている、って所までやっておいて私はその後消える事にした。もう大分働き詰めでねアレからずっと。もうそろそろ休息が本気で欲しかった所なんだ。事後処理に関しては全部私以外の者がやってくれるだろうさ。もう知らない。」
王子様はどうやら本気らしい。消えるなんて表現を使う所が逆に余計にビシビシと真剣さを伝えてくる。
「その時にはエンドウ殿に頼みたいんだが、構わないかな?なーに、私を何処か見知らぬ土地に連れて行ってくれるだけでいいんだ。」
「簡単に言いますね・・・まあ、良いですよ。その時はちゃんと周りには「休養を取って来る」って伝えておいてくださいね?誘拐事件になんてされた日にゃ恨みますよ?面倒臭い事は止めて欲しいんで。」
俺はそんな返事をしておく。このまま王子様を放って置けば城でどの様に「爆発」するか分かったモノでは無い。そんな事を感じてしまうくらいには王子様の目は据わっている。
「それじゃ俺はコレで退出しますね。こう見えて忙しい身なんで。」
そうして俺はワープゲートをダンジョン都市へと繋げる。そして今日も教会だ。
(また今日も一日ずっとか?待合室は薄暗いから気が滅入るんだよ)
ここで俺は気付いた。無理に待合室に俺が居る必要は無い。外の何処か開けている場所で座っていても魔力ソナーで診察室の様子も会話も、患者の患部も観察できる。
そして診察を終えて出て来る患者への治療なんてチョチョイのチョイで簡単に俺ならできてしまうのだ。
「なら屋台でいくつかお弁当用に食い物買って日向ぼっこでもしながらやるか。」
俺は直ぐに移動して屋台通りへと向かう。そこは朝から仕事へ向かう人々が屋台飯を朝食として買い食いをしつつ歩いていた。
俺もそのいくつかの良い匂いをさせる屋台から串肉や、お好み焼きみたいな物、焼きそば?みたいな物などを購入してインベントリへと入れておく。
そして教会の待合室の外で地べたに座って中の様子を先日と同じ様に探る。
「おー、おー。今日も満員だな?これならまあ随分と荒稼ぎできるだろうねぇ。」
そんな事を呟いて俺はミッツの事を考える。
(さて、コレをそのまま渡して良いモノだろうか?確かにミッツは冒険者でもあり、教会関係者でもあるけど。ミッツがコレを本部とやらに持って行って提出して、まさか握り潰されるとかは・・・流石に無いよな?)
妙な所で不安が残る。流石に関係各所処じゃ無く、国にもこの音声は提出しているし、冒険者ギルドの方にも出回るのだ。教会だけが握り潰しても意味は無い。
俺がこの録音の複製をずっとこのまま持っていても仕方が無い。なので今日の終わりにでも渡せばそこからはミッツが独自に動くだろう。
「今の所は来る患者の治療に集中しようか。」
何処までやったらゴールなのか?そこら辺がイマイチ見えてこない。しかしどんな事柄も「後は流れに任せる」なんて言ったモノは付き物だろう。
この問題は俺がここで深く考えても答えが出せる物じゃ無い。ならば自分が今やれる事をやっておけばいい。
「こんな俺の事を何で賢者呼ばわり・・・ああ、それは前にも同じ事考えてるな。俺の思う「賢者」とこの世界の「賢者像」は全く別物なんだよな。」
何て事を考えながら次々と増えては減る、減っては増えると言った終わりの見えてこない患者の治療を教会の診療時間終了が来るまでずっと続けた。
そして夕方前である。今日も一日良く働いたと思う。買った昼用の屋台飯がどれも美味かったのが良かったのか、そこまで気持ち疲れはしていない。
俺の場合は体力的な面での減りはそう無い。疲れと言うと、寧ろ心の方に疲弊が出る。
「じゃあ今日もこのまま城下街の方の宿に戻ろうかな・・・その前にペリオンにこの録音聞かせておいた方が良いかな?」
早い内に情報を仕入れておけば後々で仕事の後片付けも早く終らせられるだろう。ならば今日は少しだけペリオンの所に顔を出していこうと俺は思った。
「で、何故、私の居場所は秘密にしてあったのに見つけられたんですかね?」
「ソレは秘密で。で、コレを聞いた感想は?」
「最悪ですね。この証拠があればこの都市の教会も冒険者ギルドも両方同時に裁けますよ。しかも私の独自の権限で今すぐね。とは言え、やりませんけど。やりませんけど。」
ペリオンの居る宿にあの後で直行して俺は彼が宿泊している部屋へとためらわず突撃している。
そして半ば無理矢理中へと入ってまるで押し付けるように録音内容を聞かせていた。
一々「なんで?」とか「どうして?」とかのやり取りが面倒そうだったので単刀直入だ。
「はぁ~、いきなり入って来たと思えばこんなモノを聞かせて何をアナタは考えてるんです?・・・え?もう城の方には既にこれと同じ物を引き渡してある?何をしてくれてるんですかアナタは。・・・は?教会も潰す気でいる?何を言ってるんですか?先ずは手始めに?ここの教会を?・・・勘弁して欲しいのですが?」
ペリオンは「やりません」と二度言葉に出している。多分大事な所だから二度言ったんだろう。
しかし俺がこの録音を既に王子様に聞かせてあって同じ物を既に渡してあると言うのを聞いて顔から胡散臭い笑顔が消えて無表情になった。
「今はまだこの事は教会には漏れて無いだろうから、そっちも動くなら即座に動いてね?まあ、城からの伝令がその内来るだろうけど。」
俺がそんな事を言ったらどうやらその連絡が来たようで部屋をノックする音がする。
「いや、まさかね。テレビドラマでもあるまいに。それに城からここまでの高速連絡が取れる手段があってもまだ早いだろ。」
タイミングがこれではバッチリ過ぎると、自分の考えを咄嗟に否定したのだが、しかしどうやら「現実は小説よりも奇なり」である様だ。
ペリオンが開いたドアの隙間から女性が見える。その手から手紙らしき物をペリオンへと渡している。
そして受け取ったペリオンはソレを即座に開いて内容を素早く確認していた。
女性はその後は直ぐに立ち去っており、ペリオンは直ぐにドアを閉じる。
「どうやら国の方も本気で教会を潰す気でいるようです。まあ、ここの、という限定でですがね。」
恐らくソレは命令か、国が決定した教会への対応の報連相でも書かれていたんだろう。ペリオンはそれに合わせて動くと言う事だ。
そしてこの国はこうした遠距離に即座に情報のやり取りを出来る手段があると言うのが判明した。
「なんだかこれって俺が動かないでも良かったんじゃね?まあ、良いか。やらないよりかはやるナントカっていうしな。あ、コレは別の意味か?」
とぼけた事を俺は口にしつつも教会関連で俺が今日してきた事をペリオンへと話す。
国が教会を、このダンジョン都市の、と言った限定だとは言え潰すと言うのだ。俺もコレに協力した方がスムーズにいくだろう。
「信じたくはありませんが、信じて動いた方が良さそうですね。とは言え、アナタの言っている事が本当に可能かどうかは怪しい所です。患者を完全に治療?神官でも無いアナタが?」
ペリオンからジト目を食らう。教会が患者の治療を手抜きして、かつコントロール。金を荒稼ぎしている事を説明したら「信じたくない」と返されてしまった。
しかも俺が昨日今日でその患者たちを教会にバレずに完全に治していると教えたら、それは「胡散臭い」「怪しい」などと疑われてしまった。
「まあ、信じたくないなら信じないで良いけど。動くのは明日から?それに合わせてじゃあこっちはミッツを連れてくればいいかな?」
俺がここの教会の代わりに患者たちを治療するよりも、ミッツがやった方が良いだろう。
明日いきなり潰すのはどうかとも思うが、そのフォローをするなら少しでも教会関係者がやらねばなるまい。
「じゃあ俺はコレで。お邪魔しました。さて、帰ってミッツに話をしておかないとな。」
こうして俺は部屋を出る。そのまま出た廊下に人気が何処にも無い事を確認して城下街の方へとワープゲートを繋げて移動した。
そのまま何処にも寄り道をせずに皆が泊まっている宿へ直行だ。魔力ソナーでミッツが既に部屋でくつろいでいるのは確認済みである。
俺は宿泊の手続きをしてからミッツの部屋の前へ行く。そしてノックをして声を掛ける。
「ミッツ、話したい事がある。時間をくれ。」
手短にそう伝えるとドアが開く。
「はい、エンドウ様。どの様なお話でしょうか?」
ミッツは俺を部屋へと入れるとお茶の用意をし始めた。俺はテーブルに着いて出されたお茶を一口飲んでミッツが着席してから話を始めた。
「証拠の会話」をミッツが自由に扱って良い事を説明して録音の複製を渡す。一応は教会本部へと提出するのが妥当だろうと添えて。
しかしこれには何故かミッツは眉根を少しだけ顰めてしまう。しかし直ぐにもとに戻した。
次に明日にペリオンがダンジョン都市の教会へゲリラ監査に入って実質潰す事を説明しておく。
「それでまあ、尻拭いをさせるようで悪いけど、ミッツに残りの患者の後始末をして欲しいんだ。一応は教会関係者でもあるミッツが治療をすれば角が立たないだろうし、目立ちにくいだろ?」
俺は教会の治療行為がどの様な「やり口」だったのかの説明と、俺が居た間の患者は全て治療をしておいた事を告げる。
「エンドウ様、有難うございました。患者さんたちがこれからは無駄に苦しまずに済みます。それとこの様な教会の見苦しい部分を見せてしまい、申し訳ありません。さぞ嫌な気分になられたかと。」
ミッツがそう感謝と謝罪をして来る。まあ、確かに機嫌も悪くしたし、余計な時間も取らされたと言えるが、全部俺がやりたくてやった事だ。放っておけなくて勝手にやった事だ。
「いいよ。もう済んだ事だしね。取り敢えずはミッツ、明日は大丈夫?今回は徹底的にやってしまおう。一時的に教会は治療行為を行えなくなる。新たに本部?からの派遣が来るまでは機能停止するだろうからね。それまでの時間稼ぎのために「被害者」は明日一人残らず集めて治療をしてしまおう。俺も手伝うからさ。」
このダンジョン都市教会の「被害者」である。医療詐欺と言えるだろうこのやり口は。
一時的に患者の痛みを抑えて放流、そして暫くしたらまた痛みが再発。そして教会に来るしかない様に仕向けるのだから。
「本部からまともな方がやって来てくれればよいのですが・・・ソレはここで考えても仕方が無いですね。うーん?いっその事こちらに来た神官を洗の・・・」
ちょっと恐ろしい単語が聞こえて来たように思ったが、空耳だろう。ミッツが何やらぶつぶつ言っているが、教会の事はミッツに全て任せて良さそうだ。
まだミッツは教会を今すぐに改革しようとまでは考えていないはずだ。しかしやはり将来は一気に覆らせるために仕込みはしておかねばならないだろうから、それに頭を悩ませているんだろうきっと。
「エンドウ様。明日の件を終わらせた後に私はつむじ風とは暫くの間、別行動をしたいと考えます。とある場所まで送って頂きたいのですが、受けて頂けないでしょうか?」
「ん?送るのは構わないけど、他の皆にはそれ説明してある?全員とは言わないけど、ちゃんと了承を取ってからじゃ無いと色々不味いだろ?もちろん俺は別に反対はしないけど。」
「ではこれから全員を集めて話をしたいのですが。」
ミッツがこう言うので俺はソレを受け入れて各自の部屋を二人でばらけて回ってメンバーを全員呼び出す。そして再びミッツの部屋へと戻って来る。
「で、話って何だ?結構重要な事みたいじゃないか。」
「そうねえ。ミッツがいつに無く真剣な顔してるからちょっと身構えちゃうわ。」
「あー、もしかして、この間の話か?一応は俺は先にちょっとだけならもう聞いてる。」
「ふむ、教会関係の事だな?改まってこのように私たちを集めたと言う事は余程の事か。」
カジウルはいつもの妙な所に働く勘で。マーミはミッツの只ならぬ雰囲気に。ラディはこの間の付き添いでどうやら話は軽くされていたようだ。
師匠は改まって集まったのがミッツからの話と言う事で何かしらを察した様子だ。
ここにはドラゴンも呼び出して一緒に居る。しかしドラゴンは何ら言葉を発しない。ソファに座って優雅に一人だけお茶を楽しんで余裕にしている。
「私は一時的につむじ風から離れようと考えています。冒険者の活動を一旦停止、教会の方へ力を入れて行きたいんです。今までは二つの事をそれぞれ均等にやってきたつもりなのですが、こうして教会の結構な犯罪を知り、目にした事で放ってはおけないと強く思いました。どうか私の我儘を皆に受け入れて欲しいんです。」
ミッツは最後の方は少しづつ言葉の強さが下がって行った。どうやらこの事を「自分の我儘」だと受け止めているようだ。
しかしコレは別に我儘などでは無い。ミッツの立場からすれば当たり前の気持ちだ。今まで二足の草鞋をはいていたミッツが本気で教会へのメスを入れる為に動くのは今、と強く感じただけである。
ソレを否定したり受け入れなかったり批判したり拒絶する様な奴はこの中には居ない。そんな事が今のミッツには見えていないみたいだった。
教会のゴタゴタをその目にして心に疲れが出ていたんだろう。もしかしたら駄目だと言われるのではないか?と怯えてしまっているように見えた。